魔法探偵夕映 R《リターン》   作:遁甲法

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ふぅ………ガンドルフィーニ難しいわ。
今度から出番は著しく減らしてやるんだからねっ! ふん!


と、いうわけでいってみよぅ


夕映、教師になる

 

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴっと妙な迫力を出して高畑が夕映の答えを待っていた。

そんな力んでする事ではないと言うのに、高畑の目は真剣そのものだった。

 

「どうだい、夕映君?」

 

「断るです」

 

「ありがとう、受けてくれるんだね!」

 

「こーとーわーるーでーすー!」

 

 夕映が全力で断っているが、高畑は一切無視して話を進めようとしている。

 

「お姉さん、先生になるの?」

「なりません!」

 

 横で聞いていた和美が夕映に聞くが、夕映はそれにも全力で否定した。

 

「何故だい!? バイトするよりはずっといいはずだよ?」

 

「それはそうですが……。私に教師なんて出来ないです!」

 

 学生時代にはそれなりに勉強していたが、今は勉強から遠ざかって随分立つ。そんな者が勉強を教えるなぞ冗談ではないと夕映は思っていた。

 

「むむむ、これは部外者が居てはいけませんね! 私はこれで失礼しますよっ! 高畑先生、ご馳走様です。お姉さん、学校で会いましょう!」

 

 うひょひょスクープだぁ。などと勝手な事を言って、和美は走って帰っていった。ちゃっかり注文していたケーキはテイクアウトして。

 

「………なりませんというのに」

 

「夕映君、どうしてもダメかい?」

 

「とりあえず、説明して下さい。こんな強引なやり方、いつもの貴方ではないです」

 

 夕映の知っている高畑は、常に落ち着いていて、そうそう慌てて行動するような人物ではなかったはず。とりあえず話を聞いて、それから判断しようと夕映は考えた。

 

「……そうだね、すまなかった。……夕映君、認識阻害の魔法を使ってくれないか?」

 

 そう小声で言う高畑の言葉を聞いて、夕映は指をパチンと鳴らして自分達の周囲に認識阻害の魔法をかけた。これで周囲には話の内容は分からず、ただ楽しげに談笑してるようにしか見えなくなる。

 

「………見事なものだね」

 

「ありがとうございます。それで何をそんなに焦っているのです?」

 

「あぁ、実はさっき学園長室に一部の魔法先生達が集まってきてね………」

 

 高畑はそう言って事の顛末を話始めた。夕映の予想通り正体不明の魔法使いを野放しにしている事が気に入らない者たちが学園長に抗議しに来たのだとか。高畑はとっさに庇ったのだが納得して貰えず、そんな時にエヴァンジェリンが直接会ってみれば危険かどうか分かるだろうと言いだし、ならばと高畑が探しに来たのだった。

 

「あのエヴァンジェリンさんがねぇ。言い争っている所をニヤニヤしながら見てる所しか想像できないですが」

 

「いつもはそうだね。今回は、彼女達にとって正体不明なはずの君を僕が庇ったせいか興味を持ってしまったようでね。まぁ、ほぼ間違いなく君を見てみたいだけだろうよ」

 

 エヴァンジェリンが麻帆良の事を考えて行動したとは思えず、ただ面白いかもと言う想いからの言葉だと高畑は感じていた。夕映もエヴァンジェリンのある意味快楽主義と言える一面を知っているので、高畑の意見には全面的に賛成だった。

 

「エヴァンジェリンさんの退屈しのぎに呼ばれたと言うのは分かったですが、それでどうして私を教師にしようと思ったです?」

 

「簡単な事さ。正体不明だから皆が神経質になるんだ。未来から来たと言う事だけは伏せて、他はある程度公表すれば少なくとも正体不明ではなくなる。そして、教師にする事で常に目のある所に君を置いて悪さしないよう監視していると言えば、皆も納得するんじゃないかと思ったんだよ」

 

「………まぁ、どこかに監禁すると言われるよりはマシですが」

 

「だろう?」

 

 高畑は、夕映がようやく納得してくれたので安心して一息ついた。

 

「よし、なら早速学園長の所に行こうか」

「待つです」

 

「ど、どうしたんだい?」

 

 さぁ、さっそく行こうと席を立ちかけた高畑を、夕映が鋭い声で止めた。一体何事かと高畑は夕映の方を見ると、彼女はフォークを振りながらこう言った。

 

「まだ、ケーキを食べてません。あと10分待って下さい」

 

「……あ、あぁ、そうかい」

 

 真剣な目で言う夕映に、今度は深くため息をつく高畑だった。

 

 

 

 認識阻害の影響で、高畑達が仲睦まじくデートしているように見えてしまい、それを目撃した者達が昼に続いて大騒ぎしている頃、エヴァンジェリンは高畑達がなかなか来ない事に焦れていた。

 

「おい、ジジイ。タカミチは一体いつになったらその女を連れてくるんだ?」

 

「さっき電話があったじゃろ? あと数分くらい待てんのか」

 

「蕎麦屋じゃないんだから、もうすぐもうすぐで通ると思っているのか?」

 

「最近の蕎麦屋は、もっとちゃんとしとるわい。いいから大人しく待っとれ。ほれ、羊羹あるぞ?」

 

「そんな羊羹ばっかり食えるかっ!! さっきから何個食ってると思ってるんだ!!」

 

 待っている間に出された羊羹、その数全部で13本。栗入りや抹茶味など変わり種もあったが、それでも羊羹ばかり食べていたエヴァンジェリンはいい加減小豆の味に飽きていた。

 

「マスター、お抹茶です」

 

「うむ! んっ、んっ、んっ、ぷはぁ……。あぁー、苦味と言うのはこんなにも気持ちいいのか……」

 

「おいおい、茶道部。なんちゅー飲み方をしとるんだ」

 

 疲れたサラリーマンがビールを飲むかのような飲み方に近右衛門が呆れて注意したが、エヴァンジェリンはどこ吹く風。無視して二杯目を自身の従者、絡繰茶々丸に要求していた。

 

「やかましい。羊羹のせいで口の中が甘ったるいんだ。こうでもしなきゃ甘味で死んでしまうわ!」

 

「甘くて死ぬとか、不死の吸血鬼のプライドはどこ行ったんじゃ」

 

「そんなプライド、丸めてポイだ。なんの得にもならん」

 

 またも抹茶を一気飲みするエヴァンジェリン。部活で抹茶を点てる時は楚々とした仕草でこなす彼女だが、今は居酒屋にいるオヤジのように豪快だ。見た目は西洋人形のように可愛らしいと言うのに、なんとも勿体無い。

 

 高畑からの電話では、件の女性を見つけたので連れて行くと言っていたが、その電話から既に20分は経過している。最初に聞いた居場所からして、もう到着してもいい頃なのだが。近右衛門は壁に掛けられた時計を見て、何をしてるんじゃ。と心の中で文句を言った。あまりに遅いので、夕映に出そうと思っていた1番上等な羊羹も、この傍若無人な600歳児に食べられてしまっている。これ以上遅くなると、自分で食べようと思っていた秘蔵の豆大福も食べられてしまうかもしれない。

 

(急いどくれ高畑君。儂のオヤツが風前の灯火じゃ)

 

 近右衛門の目の前では、三杯目にしてようやく茶道部に相応しい仕草で抹茶を楽しむエヴァンジェリンが居た。彼女の前には飽きたと言って下げさせたはずの煎餅が舞い戻っており、甘い物のあとの塩気を楽しむ気なのは明確だ。そしてそれに飽きた時、また甘い物をねだるだろう。それも羊羹以外を。

 

(頼むぞ、高畑君………)

 

 自分の片腕たる青年が、今すぐにでも、未来から舞い戻った孫のクラスメイトを連れて来てくれるよう、神に向かって祈る近右衛門であった。

 

 

「あむ。ムグムグ………しかし、遅いな。どこかでしけこんでるんじゃなかろうな?」

 

「下品じゃぞ、600歳児。まぁ、もしそうなら面白いんじゃがなぁ」

 

「くびり殺すぞ、ジジイ。で、なぜ面白いんだ? そんな抱けない程ブサイクなのか?」

 

 煎餅をバリボリしつつ聞くエヴァンジェリンに、近右衛門はその理由を教えた。

 

「酷い事を言うのぅ、おぬしは。彼女はなかなか美人じゃよ。ボリュームはちーーと物足りんがのぅ」

 

「そこはもういい。面白い要素はどこにあると言うんだ」

 

「いやなに、あの高畑君が女性に興味を持てるだけの余裕が出たって事じゃろ? その上、女子の事でアタフタしておる彼が見られるなら、そんな面白い事はなかろうて」

 

 本当は未来の元教え子に手を出すと言う状態の方が面白いと思った近右衛門だが、それをエヴァンジェリンに言う訳にはいかず、少し誤魔化してみた。いや、この事自体もそうであったら面白いとは思うが。

 

「……ふん。まぁ、あのタカミチが女の事で右往左往してると思うと笑えるがな」

 

 クツクツ笑いながら最後の煎餅を食べきったエヴァンジェリンは、何かを探すように部屋を見渡した。とうとう儂の豆大福にも魔の手が! と、近右衛門が戦々恐々としていると、この部屋の扉が少し乱暴にノックされた。

 

「ん? ようやく来たか?」

 

「かもしれん。開いとるよー」

 

「失礼します」

 

 果たして扉を開けて入って来たのは、件の高畑と侵入者ではなく、黒い肌とたらこ唇が特長の魔法先生、ガンドルフィーニ率いる魔法先生数人だった。

 

「学園長、高畑先生はいつに………何をしてらっしゃるのですか?」

 

 ようやく来たかオヤツの救世主! などとバカな事を考えながら出迎えようとしていた近右衛門は、入って来た者が、期待していた人物と違ったせいでつんのめり、椅子から転げ落ちそうになっていた。

 

「い、いや、高畑君が来たのかと思ったんじゃ」

 

「それは失礼。ということはまだ彼は来ていないと? まさか、あの侵入者の罠にでもハマったのか!?」

 

「だから、そんな事をする様な子ではないと言っとるのに」

 

 何度も説明しているのに一向に分かろうとしないガンドルフィーニに、近右衛門は深くため息をついた。麻帆良を守ろうと言う気概はあるのだが、そのせいか全く融通が利かない。清濁合わせ持つ事ができない代表格と言った所か。

 

(もう少し頭が柔らかくなってくれるといいんじゃがのぅ………)

 

 融通の利かない部下の今後を憂いていると、またも扉が叩かれた。

 

「学園長、僕です。遅くなりました」

 

「おぉ! やっと来たか! さぁ、早く入っとくれ!」

 

「失礼します」

「失礼するです」

 

 首を長くして待っていた高畑達がようやくやって来た。学園長室に居た他の面々も、待ちに待った相手が来たと、一斉に扉に向き直る。

 

「お待たせしました学園長。少々事情がありまして。と、これはさっきエヴァに頼まれたケーキだ」

 

 そう言って高畑はエヴァンジェリンの前に先ほど電話した時に頼まれたケーキを置いた。

 

「おぉ! ようやく羊羹以外が食える! 茶々丸、紅茶を淹れてくれ。やはり洋菓子には紅茶だ」

 

「了解しました、マスター」

 

 エヴァンジェリンは子供のようにはしゃぎながらケーキの箱を開け始めた。封をする為に貼られたシールがうまく剥がせず、悪戦苦闘の末、蓋の部分を引きちぎってしまう。

 

「おっと……まぁいいか。どうせ後で捨てるんだし。クックックッ、まずはこいつだ! あむっ! んー………んぬ? セロファン取り忘れた。ぺっ」

 

「これ! 少しは落ち着かんか。儂の何倍も生きとる癖に、全く。ご苦労じゃったな高畑君。……君も何度も呼び出してすまんのぅ」

 

「いえ。事情は高畑先生から粗方聞きましたので」

 

 まるで本物の子供のように落ち着きの無いエヴァンジェリンを注意をしてから、近右衛門は本日二度目の訪問となった夕映に詫びの言葉をかけた。彼女は軽く許したが、自分がしっかり説得出来ていれば今頃のんびりしていただろうにと、申し訳ない気持ちになった。

 

「さて、これで全員揃った訳じゃが、さっそく始めるとしようかの。まず、彼女が今日の昼頃にビルごと麻帆良に転移してきた魔法使いじゃ」

 

 全員が揃ったのを確認した近右衛門は、まず騒動の発端となった夕映を紹介した。その言葉にこの場に居た全員が夕映に注目すると、彼女はそのむず痒い視線に耐えながらも居住まいを正して軽く会釈をする。

 

「そうなった原因は、彼女の事務所に送りつけられた差出人不明の小包。その中に入っていたマジックアイテムじゃった。彼女が何故こんな物が送られてきたのかと調べようとした矢先、マジックアイテムが発動し麻帆良へと転移させられた。……っと、これで間違いないかの?」

 

「はい。私が調べ始めたら急に光だし、それが治まった時にはすでにこの地に転移させられていたようです。私自身は、そのアイテムが光っただけに思えたのですが、その後すぐに高畑先生が私の事務所を訪ねて来まして、そこで初めてこの麻帆良に転移した事に気付いたです」

 

 近右衛門の説明に夕映も補足として自分が体験した転移時の事を話した。こちらに落ち度はなく、あくまで偶然だという事を強調する為でもあった。

 

「そのマジックアイテムとはどんな物だったんだね? 正直アイテム一つでビルを転移させられるとは思えないのだが」

 

「えぇ、私もそう思うですが……見た目はただの懐中時計だったです。変わった所と言えば光った後ポンと破裂したくらいですね。その時はまた時限爆弾じゃなくて良かったと思っただけでしたが」

 

 夕映の言葉を聞いていた全員が驚いた。また、と言う事は以前にもそんな事があったと言う事なのだから。予想以上にハードな生活をしていた夕映に、高畑は驚きつつもその事について聞いてみた。

 

「時限爆弾が送られて来た事があったのかい?」

 

「えぇ。魔法式、物理式、その両方を合わせた物などが何度か。以前関わってうっかり壊滅させてしまったヤクザ屋さんの人が報復に送ってきたようでして。どこから魔法式の爆弾なんて手に入れたのでしょうね?」

 

「………さぁ?」

 

 うっかり壊滅とは、一体どんな状況なんだ。高畑は自分の教え子の将来にこうも不安にさせられるとは、昨日まで考えもしなかった。ガンドルフィーニをはじめとした夕映を危険視していた者達も、彼女の話に頬を引きつらせていた。

 

 なんとも微妙な空気になった学園長室にクックックと堪えきれずに漏れてきたような笑い声が響いてきた。声の出処を見ると、テーブルに突っ伏してプルプル震えている少女がいた。お腹をおさえ、目に涙を浮かべて震えるエヴァンジェリンはたまらないと言った様子で笑い続ける。

 

「………エヴァンジェリン、何がそんなに面白いんだい?」

 

「クププ……。ガキ共はどうにかそいつを危険人物にしたいようだが、私にはお前らが空回りしてるようにしか見えないぞ?」

 

「なんだと!?」

 

 エヴァンジェリンは笑いを堪えながらガンドルフィーニ達にそう言うと、ゲンナリしていた彼らはキッとエヴァンジェリンを睨みつけた。

 

「自分達でも分かっているのだろう? そいつはこれまで麻帆良に侵入してきた連中とはまるで違う。立ち振る舞いや話す内容からしてまるで緊張感が無い。そもそも、こんな所まで来る侵入者など居る訳ないだろう」

 

「ぐぬ……」

 

 そう、この学園長室と言う最奥部に来ている時点で、普通の侵入者は詰みなのだ。たとえそれ相応の力量があったとしても、近右衛門と高畑を一緒に相手にして無事に済む訳がない。何か目的があったとしても、ここから帰れなければ来る意味がないのだから。

 

「タカミチが変に拘るから連れて来させたが、思いの外面白い奴だな、えぇ? 一体どうやって引っ掛けたんだ?」

 

「引っ掛けた……って、何か勘違いしてるだろ? エヴァンジェリン」

 

 エヴァンジェリンのニヤニヤした顔を微妙な表情で見返す高畑だが、彼女はそんな高畑を無視して夕映の方に話しかけた。

 

「おい、貴様。名はなんて言うんだ? 特別に覚えてやるぞ?」

 

 実に尊大な物言いだが、この少女にはとても似合っている。さすがは600歳児、長く生きてきた者特有の威厳を醸し出している。

 

「私の名前は綾瀬(ゆえ)と言うです」

 

「あやせゆえ、か。なんかどっかで聞いた様な名前だな。……まぁ、覚えたぞ。あやせゆえ。クックックッ、羊羹に飽きて帰らなくて正解だったな!」

 

 彼女は自分が在籍しているクラスに同じ名前の女生徒が居る事をすっかり忘れていた。

 

「ジジイ、どうするんだ? こいつを地下牢に繋いで嬲るもよし、そこらに野放しにするもよし、私はどちらでも構わんぞ?」

 

「儂は最初から問題ないと言っとるんじゃが………。ガンドルフィーニ君達はどうじゃ? 何か彼女に質問でもしてみるかの?」

 

 近右衛門そう言われて、ガンドルフィーニ達は互いに顔を見合わせた。最初は西からの刺客ではと思っていたのだがどうにも違いそうだ。どちらかと言うと嫌がらせを受けたように思える。

 

「あー……、君はあれだ。西の刺客とかではないのだね?」

「そんな事聞いて、はいそうです。なんて言う奴がいるのか?」

「うるさい! ただの確認だ!」

 

 いろいろ反対していた手前何か聞かないと、と思ったガンドルフィーニは迷ったあげくわざわざ聞かないような事を聞いた。エヴァンジェリンに突っ込まれて顔をまっかにするガンドルフィーニ。自分でもちょっとどうかと思っていただけに、その恥ずかしさはハンパではないようだ。

 

「ん、んんっ! あー、そうだ! 君はこれからどうするのだね? 転移した所に帰るつもりはないのか?」

 

「誤魔化すつもりだな」

「やかましい! ……それでどうするつもりだ?」

 

 ガンドルフィーニは突っ込むエヴァンジェリンに怒鳴り返し、改めて夕映に質問した。

 

「あ、はい。いえ、帰るにもあのビルを転移させる方法を考えなければならないので、しばらくは麻帆良でバイトでもと思ってたですが」

 

「そんなに遠いのかね?」

 

「いえ、私の家はあのビルしかないので、このまま帰っても住む所がないんです」

 

 実際には建っている場所は変わらないのでカシオペアさえ直れば自分だけでも帰ればいいのだが、そんなに詳しく説明する必要はないので単純に住む場所がないと言う事にした。

 

「なるほど、それで高畑君はあんな提案をしてきたんじゃな」

 

 夕映の話を聞いて、近右衛門は合点がいったと言うように手を打った。

 

「なんだ、ジジイ? その提案と言うのは」

 

「うむ。実はさっきの電話で言われたんじゃが、夕映君を麻帆良の教師として雇ってはどうかと言われての」

 

 それを聞いたガンドルフィーニは驚いて高畑の方に目を向けた。注目された高畑は、一歩前に出て何故夕映を教師にしようと言ったのかを説明した。

 

「ここに来る前に彼女から話を聞いたんですが、彼女の家でもあるあのビルは、無理矢理転移させられたせいで電気やガス、水道などが使えない状態になっているらしいです。その上彼女の所持金はそれほど多くない。先ほど彼女はバイトでもすると言っていましたが、それならいっそ教師にして我々の目の届く所に居てもらおうと思ったんです」

 

「な、何故そんな事を? 境遇は同情するが、まだ彼女が危険人物ではないとはっきり証明出来た訳ではないんですよ? そんな人物を教師になど……」

 

「だからですよ。僕は彼女をよく知っているので心配はしてないのですが、よく知らない人にとっては不審人物でしかない彼女が、自分達の目の届かない所にいるのは心配でしょう。なら自分達の目の届く、テリトリーの中に居てもらう方が安心だ」

 

「なるほど、そのテリトリーというのがこの麻帆良学園で、その学園中に居させるなら教師が1番と言う事か」

 

 高畑の話を聞いて室内に居る者たちが納得と言った様子で頷いた。

 

「しかし、いきなり教師などできるのですか? それに生徒達にはどう説明すれば」

 

「教育実習生だと説明しようかと。それなら慣れていないのも当然ですし、教員免許が無くとも大丈夫でしょう。続けるならその時に取って貰えばいいし、帰れるようになった時は実習が終わったと言えば自然に帰れます」

 

 説明を聞いた者たちは、それならば大丈夫かもと納得していた。自然に教師として入れ、帰る時も自然に帰れる。魔法などを使わずに出来ると言うとこがすばらしい。

 

「ふむ。君はそれでいいかの? 夕映君」

 

「はい。地下牢に繋がれるよりはよっぽどマシですし」

 

 どちらも嫌と言えば嫌だが、監禁よりはよっぽどマシなのは確か。夕映は仕方ないと言った表情で近右衛門に答えた。それを聞いた近右衛門は早速書類を用意し始め、ガンドルフィーニ達は納得しつつも本当に大丈夫かと首を捻る。

 

「本当に大丈夫かね?」

 

「なんとかやって見ます。それとも、鎖で繋ぎますか?」

 

「いいや。でも、もし生徒達に危害を加えたりすれば、そう言う対処も辞さない」

 

 そう言って夕映を見つめるガンドルフィーニに、夕映はニコリと、本人はしたつもりだが実際は微笑を浮かべる。

 

「……その時は大人しく繋がれましょう」

 

 夕映の顔をじっと見ていたガンドルフィーニは、ふっと笑った後彼女の肩を叩き学園長室を出て行った。

 

「頑張れって事だよ、夕映君」

 

「………まぁ、頑張ってみますか」

 

 これからどうなるか分からないが、かつての師匠と同じ道を進む事になった夕映は、おかしな事になる前に帰れるようにと祈るのだった。

 

 

「学園長、私の事務所のライフラインどうにかしてくれませんか?」

 

「まぁ、手配しておくが。早くても2,3日掛かるぞぃ」

 

「………んー……、その間どうしましょう? ホテルに泊まれるほどお金はないですし」

 

「高畑君の部屋にでも置いて貰えばいいんじゃないかの?」

 

 近右衛門のセリフに夕映は戸惑った。別に高畑が自分に何かするとは思ってもいないが、一応自分も年頃の女な訳で、独身男性の部屋に泊まると言うのは抵抗がある。さてどうしたものかと考えていると、近右衛門は更に妙な事を言い出した。

 

「なら、女子寮にでも泊まるかの? 2,3日くらいなら空き部屋に入っても大丈夫じゃし」

 

「女子寮……ですか?」

 

「そうじゃ。中等部の生徒が入っておる寮にいくつか空き部屋があるし……あったよの?」

「いえ、知りませんよ……」

 

 近右衛門が確認の為に棚から書類を引っ張り出しているのを見ながら、どうなる事かと不安になる夕映であった。

 

 

 

 






………どうしても変な話の流れです。無理矢理教師にしようとした代償ですかね。
エヴァの家に下宿させた方が良かったかしら……?

次は夕映が寮で暴れる事に。ようやくダブル夕映の下地が出来たかなぁ……

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