支配下に入るか入らないか。
交渉の余地はないとばかりに単純明確な二択を迫られたクアゴアの王ペ・リユロは、内心困惑しながらも知性のあるモンスターには見えない外観に似つかわしくない優秀な頭脳で高速で思考した。
彼は先ず相手の話を飲むことを前提として、その判断材料になる現在判っていることを一つ一つ思い浮かべた。
苦しい条件を飲んで敵の討伐の為に派遣してもらったドラゴンはどうやらそれに失敗した。
しかも敵の傘下に入ったようだ。
それを確信するに至る光景こそ実際に目の当たりにしたわけではないが、現に今敵の勢力と思われる相手は無傷で自分と相対している。
それに二人から感じる余裕。
最後の一つが一番リユロは気になった。
もし無傷の様子がドラゴンとの戦いで負った傷を癒やし、身なりを取り繕ったものであるなら、余程の役者か強固な意志を持った者であることだろう。
だが二人からはそれは感じない気がリユロはした。
完全な勘であったが、人間より優れた身体能力を持つ亜人であるリユロの感覚は鋭く、それは直感のような第六感にまで及んでいた。
それはクアゴアという原始的な種族をここまで導いた稀代の英雄であるリユロだからこそ持ち得たとも言える彼が最後に頼みとしている自分の力。
もし氏族王たる自分の最後の頼みが勘だと誰かが知れば、その者はきっと呆れたり失望したりするかもしれない。
しかし最後に頼りになるのが自分自身だとすれば、そんな不確定なものでも自信を持てるほどの力にまで昇華させる。
それもまたリユロの優秀なところであった。
故に彼は努めて冷静に利口に慎重に『誰でも』解るように言葉を紡いでいった。
「……一つ、この質問に答えていただければ即そちらの支配に入るか否かをお答えさせて頂くが宜しいか?」
クワゴアの静かで落ち着いた言葉に小さい方と赤い鎧の方は顔を見合わせ、小さい方が小さく頷くと赤い鎧の方が口を開いた。
「宜しい。では一つだけ許しんす」
「ありがとうございます。……では、今私の前には貴方がたお二人だけなのですが、ご覧の通り私達の方が圧倒的に数が多い。つまりをれは『数』を戦力の優劣の判断材料とするならこちらに分があるということです。それを踏まえた上でお訊きします。貴方がたお二人にとってはその一つの事実など意味が無いとする程のお力をお持ち、ということで宜しいでしょうか……?」
「その通りでありんす。わたし達にとって、おんしらの『数』などは意味のないことでありんす」
リユロの問いに考える様子もなく赤い鎧の方はそう即答した。
それに対して小さい方は少し考える素振りを見せたが、しかしその様子は口元に指を当てて視線を上に向け、ちょっとした考え事をしているような軽い態度だった。
「まぁ結構数はいるけど、私達二人なら……えっと、勧告を受け入れなかった場合は1万だから……オスメス4千ずつと子供2千まで減らすのに1分もかからないんじゃない?」
「でありんすね。でもそうなった場合はわたし一人でやるつもりでありんすから。……まぁそれでも大体5分くらい?」
「うん、そんなもんかもね」
「……」
目の前の二人は、先程数の理を即否定した二人は、何やらかなり物騒な話を軽い調子でしていた。
リユロはその光景に言葉で表しようがない悪寒と寒気を同時に感じて思わず言葉を失って茫然と立ち竦んでしまっていた。
ドワーフのように毛が多くないので表情は判り難かったが、二人の声の調子からはまるで日常会話をするような気安い雰囲気であることは容易に理解できた。
そこには弱者が強者から感じるような奢りや余裕、侮りといった優越感のようなものは一切なく、本当にただの何気ない会話、歩いている時に小石の欠片を知らずに蹴っても仕方ないよねといった自分たちに対する明確な無関心さがあった。
そんな事実から来る不快感にリユロが未だに茫然自失としていると、赤い鎧の方が彼に目を向けて話しかけてきた。
「それで? 質問には答えんした。支配下に入りんすか?」
「ぁ……」
何時の間にか口腔がカラカラに渇いてしまっていたのでリユロは直ぐに言葉を発することができなかった。
しかしそれでも彼の中では既に答えは決まっていた。
直感がもう判断材料としては十分だ、支配を受け入れるのが正解だと強く自分に語りかけていた。
だがそれでも彼は王、多くの者を束ねる統率者故に敵と戦わずして支配下に入ることを自分に付き従ってきた者たちに納得させることができなかった。
ではどうするか、リユロはギリギリまで考えながら弱々しい声で綱渡りのように言葉を紡いだ。
「し、支配下に入ります。あ……ただ……」
「質問は一つだと言いんしたよね?」
「……!!」
短い言葉だったが赤い鎧から得も言えぬ凄まじい威圧感をリユロは感じた。
しかしそれは自分の勘は正しかったと確信した瞬間でもあった。
彼は咄嗟に頭を下げ頭上に感じる圧力になんとか耐えながら、苦しそうに言った。
「い、いえ質問ではありません。た、ただ……」
「ただ?」
「支配下に入ることを私が部下たちに納得させるために一撃だけで構いませんので、貴方の力を我が軍に示して頂けませんか?」
「ああ、そういう……」
正直リユロの話を聞くまではシャルティアは、それが質問ではなくたとえ嘆願だったとしても絶対者として躾の理由からも聞き入れるつもりはなかった。
だが運が良かったのか悪かったのか、彼の願いは良い感じに簡単でかつシャルティアの加虐嗜好とマッチしてい為、愉悦に目を光らせた彼女に受け入れられた。
程なくしてリユロはこの時の願いに対して他に良い案があったのではと後悔することになるが、後に親友となるストレスから来る脱毛に悩むとある皇帝の苦労話を聞いて自分の悩みなどまだ小さい方だったと少し持ち直したという。
久しぶりで……え、4年ぶりくらい
この作品の最後の投稿そんなに前だったのか……(吃驚)