自分を雇いたいと言ってきたガゼフに対して、アインズは原作とは異なり、その場で確かな信用を得る為とはいえ、かなり思い切った判断をしました。
「私を雇いたい?」
「そうです。できれば貴方の力を貸して頂きたい」
「……それは私が人間ではなくても構わない、かな?」
「……何?」
おもむろにアインズが仮面を外し、その素顔を見たガゼフは驚愕した。
それは彼だけでなく、彼の部下、そしてその場に居合わせた村人全員も同じ様な反応をした。
「あ、アンデッド……?!」
「驚かせて申し訳ない。だが仮面を外して正体を教えたのは私なりの誠意の表れだと思って欲しい。ガゼフ殿、こんな私でも、人間ではない異形の者でも私を信じて雇いたいと思いますか?」
「……」
ガゼフは流石に直ぐには反応ができなかった。
アインズが凄まじい力を持つマジックキャスターとは思っていたが、まさか彼が人外であったという事までは予想していなかった。
ガゼフは部下を見た。
皆アインズの正体を知って驚き慄いているが、その表情にはアンデッドであるアインズに対する不信感が明確に浮かんでいた。
対してアインズに救われた村人達は部下ほどではないが、驚き戸惑っているようだった。
流石に彼らはアインズに命を救われただけあって、彼をアンデッドだからといって直ぐに掌を返して冷淡な態度を取る事はできないようだ。
「ガゼフ殿?」
「……っ」
(そうだ。アンデッドだから敵意や嫌悪感を人間が自然と持ってしまうのは仕方のない事だ。だからこそ今俺がそれとは別に感じている違和感をしっかりと正面から見据えるべきなんだ)
アインズの声で深い思慮から我に返ったガゼフはアインズを正面から見つめて己の答えを導き出す事にした。
(アンデッドとは生者に反する性質から自然と憎しみや敵意を持っているというのは常識だ。だが彼からはそういったモノは全く感じない。だが流石に親しみ易さも全く感じさせないところを見ると、単に人間に対しては敵意がないというだけで、それ以上に興味が薄いのだろう。だがそれだけでも彼はアンデッドとしては異質だ。つまり少なくともこちらの話が通じる可能性は有る)
考えをまとめたガゼフは小さく咳払いをして居住まいを正すと、真剣な表情をしてアインズに言った。
「すまない、失礼をした。少し自分の中で考えをまとめていた」
「そうですか。しかしそれも無理はありません。しかし考えをまとめるにしてはやや時間が短く思えましたが、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です」
「では答えを聞かせてもらいましょう」
「答えは変わりません。私は貴方がアンデッドだとしても、信用できる人物だと断定した上で、やはり力をお貸し頂きたいと思う」
ガゼフの背後で部下達が不安が混じった動揺した声を漏らすのが聴こえた。
ガゼフはそれを耳にした瞬間に踵を返して部下達の方を振り向くと、大声で、しかし固い意思を感じさせる声で言った。
「鎮まれ! 皆が動揺するのは当然だし解る。だが、ここは私の直感を信じて欲しい! このリ・エスティーゼ王国の戦士長を! このガゼフ・ストロノーフを!」
アインズを信じろという根拠の大部分を自分の人望に掛けるという愚かとも言える行動だったにも関わらず、部下達はその一言で満場一致で彼に従う意を固めたようだった。
未だに不安げな表情をした者は数人いたものの、それでも最早、彼に対して意見するものは一人も出ず、皆目だけは篤い信頼が籠もった瞳でガゼフを見つめていた。
ガゼフはそんな部下達に黙って一度だけ頭を下げて謝意を示すと、再びアインズの方に向き直って言った。
「申し訳ない。だが、これで貴方の助力を給わりたいというのは私達の総意となった。……受けて、貰えるだろうか?」
「……」
アインズはそう言うガゼフとその後ろに控える戦士団を眺めて心の中で思った。
(大した人望と判断力だな。とても現実の俺じゃこうはいかないだろうな。それに初対面だというのに誠意と信用をここまで感じさせるのも凄い。こんな人、現実でも見た事ないなぁ……)
ガゼフの人としての誠実さを本来の人格である鈴木悟の残滓で感じ取っていたアインズは、その人柄にお世辞抜きで感心していた。
そしてそれと同時に彼という人間を人材としてとても貴重な存在と捉えるようになっていた。
故に然程悩むこともなくアインズもガゼフ同様に間を置かずに答える事ができた。
「承知した、ガゼフ・ストロノーフ殿。私の力をお貸ししよう。そしてそれに対する報酬だが、今回はアンデッドであるにも関わらず私を信用してくれた貴方に対する感謝の気持ちという事で無償で構わない」
「なんと、それは……。いや、流石にそれでは申し訳……」
予想外の友好的な展開に驚き、そして素直に恐縮するガゼフを見てアインズは心から笑って言った。
「ははは、大丈夫、構いません。だが、一つ要望させて貰えるならガゼフ殿、これを機に貴方と誼を通じ、できれば当たり障りのない関係を築けていけたらと思う。それで、今回はどうだろうか?」
「アインズ殿……」
アンデッドとしてはあまりにも意外な、友好的で柔らかい態度にガゼフはしどろもどろになりながらも最終的にはその顔にはっきりと笑みを称えて応えた。
「分かりましたアインズ殿。ではよろしく頼む」
「こちらこそストロノーフ殿。そして有難う」
ガゼフが差し出してきた手を、実はちゃんと密かに魔法とナザリックにいるニグレドからの報告で安全を確認していたアインズは躊躇うことなくしっかりと握り返した。
そしてアインズ様はガゼフ達を村に残してアルベドと二人でニグンたちを迎え討ちます。
ガゼフと相まみえることなくいきなりアインズに蹂躙される事になるニグンさんですが、そのお陰もあって早々に心が折れて命乞いをしたようです。