第64話 天界からの使者、紫藤イリナ!
◇駒王学園、イッセーのクラス
夏休みが終わり数日が経った頃、イッセーは自分の席に座って天井を見上げて呆けていた。
「今思えば夏休みは散々だったよな…」
天井を見上げながらイッセーは呟いた、確かに禁手に至り上級相手に戦える程の力は身についた、それは嬉しい事なんだが…クラスメイトの野郎どもを見てると非常に頭に来るぜ、どいつもこいつも皆あか抜けてる奴が増えているからである!男なら美容室で髪をバッチリ仕立て上げ、女子は今時風のイメチェンをしている。どいつもこいつもやり遂げた感を出しやがって!こっちは二体のドラゴンに追いかけ回されてたんだぜ⁉︎俺だってあか抜けたかったわ‼︎髪を染めたりチャラい格好をしたり…一度くらいやってみようかなって気も少しはあった、何よりそう言う格好をすれば女の子にモテそうだってのが大きい!
「そして童貞卒業か…ハァ〜」
イッセーの言葉に隣の席に座っていた元浜がうんうんと頷いていた、元浜…お前も同じか…二人で溜め息を吐いていると隣のクラスに行っていた松田が駆け込んできた。
「イッセー!元浜!確認が取れたぞ!やっぱ隣のクラスの吉田の奴夏に決めやがった!しかも相手は三年のお姉様らしいぞ!」
『くそったれ〜‼︎』
イッセーと元浜は吐き捨てる様に毒を吐いた。くそっ吉田め!二学期に入ってから急にチャラくなったと思ったらそういうことか!さらに松田が同じクラスの大場も一年生が相手だと言う情報を報告した。
「マジかよ!大場もか⁉︎」
大場の方を向くとまるで木場みたいな爽やかな笑顔で手を振っていた!ちくしょおおおおおおっ!!非童貞めぇぇぇぇぇっ!!あの非童貞が俺たちに向ける蔑んだ目が羨ましい!『あぁ、こいつまだ女を知らないんだ』って目がムカつくんだよぉぉぉ!!
「なぁ?ところでイッセー知ってるか?三年の不良グループが全員入院したって?」
「えっ?あの生徒会も手を焼いてるって言う荒くれ集団か?全員入院って何かあったのか?」
イッセーは驚いた、その不良グループはこの学園でも有名で学園の規則は平気で破り警察騒ぎを何度も起こしている、ソーナ会長も以前から悩んでいたと言う、悪魔の力を使えば簡単に解決できるが流石にそれはできないからなぁ、だとしたら一体誰が…?そう思っていたその時、少し離れた席に座っていた片瀬と村山が小声で話しているのに気づいた、盗み聞きするつもりはないが悪魔の聴力を使って内容を聞いた。
『ねぇ片瀬、今松田が言ってた不良ってティアさんに倒された奴らよね?』ひそひそ
『だよね、でもあの不良達が勝手に絡んできただけだからティアさん何も悪くないよね?』ひそひそ
『そうよ、ティアさん何も悪くないよ!私たちを守ってくれただけだもん!ティアさんは私たちにとってお姉さんみたいなものよ』
『うん!もし警察が来たら私たちが証人になろう!』
…なるほど、不良グループを病院行きにしたのはティアさんだったのか、殺さなかったにしてもティアさん何してんすか⁉︎すると同じく悪魔の聴力で聞いていたのだろうアーシアとゼノヴィアが近づいて来た。
「ティアさん…逮捕されなきゃいいですけど」
「うむ…しかし正当防衛とはいえ病院送り程度で済んでその不良どもは運が良かったと私は思うぞ?あっ…しかし、気の毒な事もあったな」
「えっ?何だよ気の毒な事って?」
「ま、まさかティアさんが取り返しのつかないことを?」
ゼノヴィアが眉を潜めて腕を組んだのでイッセーは気になり聞いた。
「あぁ、私が別の生徒から聞いた話だが、一番重傷なのはリーダー格の男子らしくて、なんでも…その……タマが…潰れかけてたらしい」
「タマ…??」
アーシアはきょとんとしていたがイッセーと話を聞いていた松田と元浜は顔を青くして開いた口が塞がらなくなっていた。
「可哀想に…その不良男子はもう子作りは出来んだろうな…タマは子作りの重要な要!それを潰されたとなるとショックは大きいだろう」
ゼノヴィアはまるでご冥福を祈る様に不良男子に同情した…ティアさん何もそこまでしなくても…
「おいみんな!大変だ!」
突然クラスメイトの男子が慌てた表情で教室に駆け込んで来た!何だ?一体どうした?男子は深呼吸して気持ちを落ち着かせると全員に聞こえる様に告げた。
「このクラスに転校生が来るらしいぞ!しかも女子だ!」
次の瞬間、クラス内に絶叫が響き渡った!
「えー、このような時期に珍しいと思いますが、このクラスに新しい仲間が増えます、じゃあ入って来て」
担任の声に促され教室のドアが開いた、男子のテンションは明らかに高まっている!そりゃそうだだって女子だからな!自然とテンションも上がるさ!女子も興味津々だ!緊張が高まる中教室に入ってきたのは…
『おおおおおおおおおおおおっ!!』
教室内に歓喜の声が響く!入室したのが長い栗毛のツインテールのかなりの美少女だったからだ!しかしイッセーは喜びより驚きの方が上回っていた!見ればアーシアも同様でゼノヴィアに至っては口を開けて固まっていた。そりゃそうだ!この娘がこんな現れ方したら関係を持った者達は驚きもするさ!
「紫藤イリナです。皆さんどうぞよろしくお願いします!」
頭を下げると床に着きそうになるツインテール、にこやかな笑顔、首から下げた光る十字架…そう、夏前にゼノヴィアと共にエクスカリバー事件で来日した紫藤イリナその人だった!
◇デビルメイクライ
放課後、部室で軽く挨拶を済ませるとイッセー達はデビルメイクライにイリナを連れて帰って来た。イリナを見たティアと黒歌は少し警戒していたがイリナは明るい笑顔で挨拶した。
「紫藤イリナさん、改めて貴女の来訪を歓迎するわ」
広いリビングルームにダンテ達、グレモリー眷属、アザゼルとミッテルトが集まりイリナを迎え入れていた。
「はい!ありがとうございます!皆さん!はじめまして…の方もいらっしゃれば、再びお会いした方の方が多いですね。紫藤イリナと申します!天界からの使者として駒王町に馳せ参じました!」
イリナの挨拶が終わりイッセー達は拍手を送った。イリナの話では天界からの支援として派遣されてきたらしい、確かに思えばここには悪魔と堕天使しかいなくて天使はいないしな。
イリナは主への感謝〜とかミカエル様は偉大な〜などの蘊蓄を始めたが全員苦笑いして聞いていた、相変わらず信仰心が強い娘だ、ダンテはあくびをしていた。
「ダンテさん、改めましてエクスカリバー騒動の時はご迷惑をお掛けしました」
「あぁ、もういいぜ気にしてねぇよ。それよりお前の方こそ大丈夫だったのか?」
ダンテは逆にイリナに聞き返したが、すぐにアザゼルがイリナに尋ねた。
「お前さん、聖書に記された神の死は知っているんだろう?」
アザゼルの唐突な質問にイッセーが慌てて突っ込んだが、ここに派遣された以上ある程度の知識を持って足を踏み込んだって事だろう。
「もちろんです、堕天使の総督様、私は主の消滅を認識しています」
「その割にはずいぶん冷静だな?お前程の信仰心の奴ならショックを受けてると思ったけどな」
「確かに意外にタフだね、信仰心の塊の様なイリナが何のショックも受けずにいたとはね」
ダンテとゼノヴィアの言葉を聞いた後イリナはにこやかな笑顔から一変し両眼から大粒の涙を流して絶叫し出した!
「グスン!ショックに決まってるじゃなぁぁぁぁい!!心の支え!世界の中心!あらゆるものの父が死んでいたのよぉぉぉぉっ!?それはそれは大ショックでミカエル様から真実を知らされた時、あまりの衝撃で七日七晩寝込んでしまって体重も落ちてしまったわぁぁぁぁっ!!あああああああ!主よ!!」
叫び倒したイリナはふらふらとソファに着くとテーブルに伏して大号泣してしまった!まぁ、こいつ程の信者にとっちゃ神の死は衝撃どころじゃ済まないだろうな。
「わかります」
「わかるよ」
アーシアとゼノヴィアがうんうんと頷きながら優しくイリナに同情し抱き合った。イリナはかつてアーシアを魔女と呼んだことを謝り、ゼノヴィアも破れかぶれで悪魔に転生したことを謝り三人は改めて和解した。
するとダンテはイリナからある力を感じ取った。
「ん?おいイリナ?お前から感じる力はもしかして…」
「あっ、わかっちゃいました?流石ダンテさんですね」
イリナは立ち上がると祈りのポーズをした、するとイリナの体から眩い光が発生し頭に天使の輪、背中からバサッと白い翼が生えた!まるで天使だ、と言うより天使になったのか?驚く中アザゼルは顎に手を当てイリナに訊いた。
「ほぉ、お前さん天使化したのか?」
「天使化?」
「はい、ミカエル様の祝福を受けて私は転生天使となりました!セラフの方々が悪魔や堕天使の技術を転用してそれを可能にしたと聞きました」
天使は神の消滅で誕生できなくなったと聞いたから転生天使とはいえこれで天使は増やすことができるだろうな。それにイリナが天使ということはこれでここには悪魔、堕天使、天使が勢揃いしたってことか。イリナはさらに続ける。
「四大セラフ、他のセラフメンバーを合わせた十名の方々はそれぞれA(エース)からクイーンのトランプに倣った配置で『御使い(ブレイブセイント)』と称した配下十二名を作ることにしたのです。カードで言うキングの役目が主となる天使様となります」
「なるほどな、悪魔の駒の天使バージョンってとこか、そのシステムだと裏でジョーカーなんて呼ばれてる強い奴もいそうだな?で?イリナはどの札なんだ?」
ダンテの問いにイリナは怪しく笑うと胸を張って自慢げに宣言した。
「ふふふ…よくぞ聞いてくれましたダンテさん…私はAよ!ミカエル様のエース天使という光栄な配置をいただいたの!もう死んでもいいわ!ミカエル様のエースとして生きていけるだけで十分なのよぉぉぉっ!!」☆☆
ハッ!目が爛々と輝いてるぜ!イリナの左手の甲にAの文字が浮かんだ。イッセー達も笑顔でイリナを祝福していた。
「さらにミカエル様は悪魔のレーティングゲームに異種戦として悪魔の駒と御使いのゲームも将来的に考えています。今はまだセラフのみの力ですが、いずれはセラフ以外の上位天使様達にもこのシステムを与え、悪魔のレーティングゲーム同様競い合って高めていきたいとおっしゃっていましたよ!」
「へぇ、面白そうじゃねぇか、なぁアザゼル?」
「確かに…天使や悪魔の中には上の決定に異を唱える奴がいるしな。長い間争い合ってきた仲だ、突然手を取り合えと言えば不満も出るさ。ミカエルの奴も考えたな。そういう代理的な戦争を用意することで互いの鬱憤を競技として発散させる、人間界で言うワールドカップやオリンピックみたいなもんだな」
不満を持った奴の鬱憤晴らしか…そりゃいいぜ。
「じゃあいつか俺達グレモリー眷属と天使のシステムが戦うこともあるんですか?」
「将来的にはそうなるだろうな、でも少なくとも十年…二十年後だ、まぁその頃にはお前らも新人悪魔として良い時期だろうし楽しめるだろうさ」
二十年後か…人間にとっては長いが俺達にとっては案外すぐかもな。
「楽しめそうね」
リアスも乗り気な笑みを浮かべていた、眷属達も笑みを浮かべて話し合っていた、ギャスパーだけは怖がっていたが…
「悪魔の皆さん!私、今まで敵視してきましたし滅してもきました!けれどミカエル様が『これからは仲良くですよ?』とおっしゃられたので、私も皆さんと仲良くしていきたいと思います!本音を言いますと個人的にも仲良くしたかったんです!天界代表として頑張ります!よろしくお願い致します!それからダンテさん!新たな住人としてよろしくお願いします!」
複雑な経緯もあるが紫藤イリナが新たな住人となった、ま、しょうがないか。
「イリナ 天使? 新たな住人?」
「…あ、あなたがミカエル様がおっしゃてた龍神様…?は、はじめまして…」
…忘れていたがずっとオーフィスがダンテに肩車で乗っていた。一応天界にもオーフィスのことは伝わっていたがイリナはオーフィスをまじまじと見つめて緊張気味に挨拶していた。
▽
イリナの挨拶が終わり夜に歓迎パーティーを開くことになったのでイッセーとアーシアは街に買い出しに行っていた。
「ふぅ、ちょっと買い過ぎたかな?でも小猫ちゃんがいっぱい食べるって考えればちょうどいいか」
「そうですね、部長さんも張り切ってましたし私もパーティーが楽しみです」
朱乃さんと黒歌さんも腕によりをかけて料理を作ると張り切っていたし今夜は楽しいパーティーになりそうだ!イリナはゼノヴィア達に事務所内の案内や自分の部屋に荷物を運んだりしていたから忙しそうだった、本人も私物が多くて大変と嘆いていた。
事務所に向かって歩いているとイッセーが靴屋のショーウィンドウの前で止まった。
「そういえばそろそろ体育祭が近いな」
「体育祭?」
体育祭を知らないアーシアは首をかしげた。
「学年対抗のスポーツ大会だよ、そうか、アーシアは体育祭は初めてだったな?」
「はい、なのでわくわくします」
「いろんな競技があるから帰ったら教えてやるよ、多分近い内に学園でも説明が始まると思うけど。さ、アーシア早く帰ろうぜ」
「はい…きゃっ⁉︎」
アーシアは道に落ちていた石を踏み付けバランスを崩して後ろに転びそうになった!
「大丈夫かい?」スッ
しかしアーシアは後ろから受け止めた人物に支えられ無事だった。
「アーシア!大丈夫か?」
「はい大丈夫です、このお方のおかげで転ばずに済みました、ありがとうございました!…あっ」
「あっ、あんたは…」
イッセーとアーシアは助けた人物を見て驚いた。
「やぁアーシア、また会いに来ましたよ」
その人物は若手悪魔の一人で現ベルゼブブからの出のアスタロト家次期当主ディオドラ・アスタロトであった。
「あんたはあの時の…」
「僕を忘れてしまったのかな?僕たちは一度会っている筈だよ?」
場所を公園に移し噴水広場の前に着くとディオドラは上着の胸元を開いた、そこには痛々しそうな大きな傷跡があった、かなり深い傷だ。それを見たアーシアはハッとしてディオドラを見た。
「そ、その傷は…もしかして…」
「思い出してくれたかい?そう、僕はあの時キミに命を救われた悪魔だよ」
アーシアの過去は聞いている。アーシアはシスターだった頃に偶然一人の傷ついた悪魔を助けて魔女の烙印を押された…そう、つまりこいつはアーシアが教会を追放される切っ掛けになった悪魔だ!
…その様子を同じく買い出しに出ていたダンテとティアが気配と魔力を消して見ていた。
「常に笑顔の奴だから警戒はしていたがアーシアが追放される切っ掛けの奴とはな?」ひそ…
「美しい花には棘があるとはよく言ったものだ。どうするダンテ?早い内に手を打っておくか?」ひそ…
ティアはベルトからルーチェ&オンブラを抜くといつでも攻撃出来る状態にした。
「まぁ待て、もう少し様子を見ようぜ」
ディオドラは服を元に戻すと笑みを浮かべたままアーシアの前に跪きアーシアの手を取った、イッセーが文句を言っていたがディオドラは無視して続けた。
「アーシア、僕はキミを迎えに来たんだ。会合の時はちゃんと挨拶が出来なかった、でも僕はキミとの出会いは運命だったと思っているよ」チュ
そう言いディオドラはアーシアの手の甲にキスをした、流石のイッセーもその行為にキレた!
「ッ!てめぇ!アーシアになんてことを‼︎」
「僕の妻になってほしい、僕はキミを愛しているんだ」
ディオドラはイッセーの目の前でアーシアに求婚したのだった。
様子を見ていたダンテとティアはディオドラの行為に出ようか迷っていた、誘拐でもしたら出ようと思っていたがまさか求婚とは…迷っている内にディオドラは笑みを浮かべると転移して帰ってしまった。
「これは…どうするダンテ?」
「あぁ…とりあえずリアスに報告しておくか」
「求婚? めでたい?」
オーフィスだけ祝福?していた。
次回もお楽しみに!