「どうした藍花悦? 女学生が来てくれるってのに、嬉しくなさそうだにゃー?」
「どうにも、ボクゥ麦野ちゃんが苦手でなぁ。この前もうちのパン屋来て何も買わずに帰りよるし。なんでやろ?」
店内を歩き回ってただ出て行った第四位。あらまぁ、とニコニコ笑っていた誘波の姿が訳分からず、マネキンのように青髮ピアスは突っ立っていただけ。最早超能力者がたまに立ち寄るパン屋として、青髮ピアスからすれば戦々恐々だ。そんなことを思い出しぼやく青髮ピアスに、
「あの女が苦手じゃねえ奴とかいねえだろ。それよりアレをどうするかだろうが」
ここにいない者の事など考えても疲れるだけだと『アイテム』の件はほっぽり捨て、垣根は膨れてアスファルトの上にタリと座っているスゥに目を向けた。再び意識を戻してから、大変不機嫌であるという態度を隠そうともせず、駄々っ子のように足をバタつかせる二十一歳。垣根も
「第二位と第六位はなんでここにいるのよ。第二位は『ドラゴン』を追ってでしょうけど、第六位は?」
「時の鐘に狙われたからだぜい。んで、そっちのはその情報を聞くために連れてきて貰った訳なんだが」
「ふん! 土御門! 第六位! 孫から気持ち悪いけど頼りにはなると聞いていたのにまさかオマエ達までそっち側とは! 見損なったぞ!」
「孫っちは仲間に何を言っとんのや……」
時の鐘での評判がものすごい微妙になっているらしい事実に青髮ピアスは肩を落とし、今一度スゥを見て美人なのを確認すると、より強く肩を落とした。今度会ったら孫市を一発殴っておこうと心に決めながら、盛大に勘違いしているらしいスゥに顔を向けて土御門はサングラスを指で押し上げる。
「それはそっちの思い違いだにゃー。今世界を歪めてるのは『神の右席』って奴らが元凶だ。スイスの件は分からないが、学園都市はそんなに関係ないはずだぜい」
「なッ⁉︎ そ、そうだったのかぁッ‼︎ くっそー、紛らわしいッ!」
「……貴女はそれでいいのかしら?」
疑いもせずに天啓を得たと雷に打たれたかのように目を見開くスゥを見て、結標も呆れるしかできない。馬鹿の相手はしたくないと
「……これも時の鐘なのよね? しかも最強の一番隊? どうなってるのよ一体……貴女これまで何を聞いてたの?」
「む、何故か皆ワタシに大事な話をしてくれなくてな。仕事の話も最小限で、後は突っ込めばよろしといつもそんな感じだ!」
純粋が故に難しい話は必要なしと判断されたからか、裏切ったのか裏切ってないのかも定かではないようなスゥを味方につけようとは、スイスの裏で手を引いていた者も考えなかった訳はこれである。聞いたままを聞いたまま信じるスゥの能天気さに、
「それで、なぜ彼女を連れて来たの? 情報を聞こうにもアテにはできなさそうだけど?」
「そうみたいだにゃー、予想が外れたみたいだ」
「好き勝手言ってくれるな。
パサリッ、と紐の落ちる音に一斉に目が向き、縄抜けを終えたスゥがその中で大きく伸びをする。銃身を渡せと手を伸ばすスゥに向けて、
「……テメェ本当に分かってんのか? だいたいどうやって縄抜けやがった」
「体の関節くらい毎日柔軟をしていれば外せるだろう。生物の意志が最も宿るのは目だ。視線が刺さるなどと言う通り、見られれば分かる。師父は凄いぞ! 目で人を殺せそうな程だ!」
「……それが誰かは知らねェが、馬鹿は馬鹿でもただの馬鹿じゃねェみてェだなオマエ」
ただ戦闘にこそ全てが向いてしまっているだけ。体の一部のように鉄の棒を回すスゥの動作の滑らかさに、結標も青髮ピアスも目を細める。強い事。それが傭兵に必要な最低条件。例え頭が多少緩かろうが、強ければ全てが許される。アラン&アルド、ハム、ドライヴィー。その中に知っている名を聞いて、青髮ピアスは難しく顔を歪めて空を見つめた。
「……ハムちゃん裏切ったんか、なんでやろなぁ」
「考えるだけ無駄だ。理由を考えるくらいならぶっ叩いた方が速い。悩んだ挙句死んでしまってはなぜここにいるのかと言う話になる。最悪そんな事は終わった後に考えればよい。ワタシはいつもそうしてる」
「なるほど、確かにテメェも時の鐘だ。にしても見られてるっつったか? 潮岸の野郎時の鐘を雇いやがったのか?」
また面倒が無駄に増えると怠そうに垣根が舌を打つ先で、イヤ、と土御門は小さく首を振った。
「雇ったんじゃなく一時的に協力してるだけだろうな。そもそもスイスが窮地の今、本来なら時の鐘は仕事をしていられるような状況じゃあない。オレ達が来ると分かり場を借りたってとこだろう」
「お互い俺達を殺してェからってか? まあ狙撃なんて俺には関係ねェが」
「貴方はよくても私達は別でしょ。どうするの? 狙いが
能力さえ使えるなら、
「必要なのは『ドラゴン』の情報だ。だが、やって来ちまってる『
「つっちーと一緒やろ? 別にええよ」
了承を得て、ならもう話す事はないと、再度土御門は手を叩く。ファミレスで仲良く顔を突き合わせてくっちゃべるような間柄の者達というわけでもない。暗部から抜け出すため、必要なものを掴むため。そのためにほとんどの者がここにいる。潮岸の居座るシェルターに向けて、全員の足並みが揃った。
「ここで迎え撃つ」
杉谷と話しなにかを決めたらしい潮岸の声を聞き流しながら、ハム=レントネンは気怠げに息を吐く。
壁に背を付け座っている、未だ一人超遠距離用の双眼鏡を手にしたドライヴィーへと軽く目をやり、ハムは抱いているゲルニカM-003の肌を撫ぜた。普段寡黙なドライヴィーが、薄っすらと口端を上げている姿が不吉である。ただその時を待つように座るハムの肩が小突かれ、髪の分け方が違う同じ顔が二つ並び呆れたようにハムの顔を覗き込んだ。
「「そんな顔するんじゃないわよ。仕方ないでしょ、今丁度狙われてて軍需部門のお偉いさんなんて好物件彼しかいないんだから。
「……なんでかイチがいない。そんな話聞いてない。なんか変」
「「逸早くスイスにでも向かって入れ違いになっただけじゃない? いないのは確かに不気味だけど、だいたい分かってるでしょ? 孫市はなにがあっても裏切らないわよ」」
誰が見ても絶対に『
「「今更後には引けないわ。もう弓は引いてしまったんだから。私達は欲しいものがあって引き金を引いた。後はもう飛んで行くだけ。でしょう? ドライヴィー?」」
「……すぅが来た。うける」
「「ハァ⁉︎ あのカンフー娘が⁉︎ 最悪……あれと近接戦とか死んでも御免だわ。貴方達じゃなきゃやりあえないでしょ。なんで来てんのよあの馬鹿は」」
オーバード=シェリーさえ除けば、ロイさえ抜いて時の鐘近接戦最強であろう中華娘。少しばかり頭が残念である事にさえ目を瞑れば、これほどやり難い相手も少ない。大きく肩を落とすアラン&アルドを見てハムとドライヴィーは完全にスルーし、時の鐘の若い三人衆のうち天才の二人の粗雑さに「「可愛くない……」」とアラン&アルドは零した。
「「なんにしたって、最悪こっちは
「──おれがやる」
「「あら珍しい」」
双眼鏡の中に映る青い髪と金髪を見たのを最後にドライヴィーは双眼鏡をほっぽり捨て、氷柱のようなナイフである、ゲルニカM-004とも違うヴェロキラプトルの爪のようなナイフを二本取り出す。
クランビット。
トラの爪から考えられたと民間伝承では言われる元は農業用具であったナイフ。それが歴史の中で武器化されるに至り、より大きく、まさに爪のように刃が湾曲した。王宮などの剣技と違い、市民の中で広まった武器であったために、その歴史は古く幅広い。
刺すというよりも切り裂く事にこそ重点が置かれ、肘や膝などの関節部を極め裂くこのナイフは、正にナイフというよりも生物の爪に近いだろう。黒豹のように体をしならせ立ち上がるドライヴィーの獰猛な笑みにアラン&アルドは大きく引き、ハムはつまらなそうに鼻で笑った。
「勝算は?」
「ドクイトグモ」
「えげつな」
「「貴方達よくそんなつまらない会話できるわね。だいたい問題は第二位でしょうが。どうするのよ。受け取った報告の限りかなり面倒よ」」
「
「「でもそれじゃあ振動の影響を受けないなんていうありえない粒子を生み出されたら終わりじゃない?」」
「そーかもね? でもそれって自殺的」
この世は波でできている。世界を構成している大事な物の一つ。声も空気の振動であり、色を感じるのも光の振れ幅の違いによって。熱を生むのも振動だ。もしこの世から振動を奪ったら、それは無音で暗黒で冷たい世界だ。何より垣根は狙ってそういった物質を作れる訳ではない。望む
懐から出した特殊振動弾をお手玉するハムにアラン&アルドはハムがそれを持っている事にも驚くが、結局は無理であると結論付ける。
「「よく持ち出せたわね貴女……それで戦えたとしてもダメね。撃ち出せる銃が存在しないもの。特殊振動弾が撃てるのは時の鐘の決戦用狙撃銃だけよ。あの馬鹿でかい箱を持って来てないでしょうが」」
「問題ない。『
「「なんで今アルプスの山の名前が出るのよ?」」
「お気楽でいーね、知らないって幸せ」
「「ちょっとッ⁉︎」」
時の鐘でも一握りしか知らない新型決戦用狙撃銃。六つしかない最強の牙。アルプスの遠吠え。傍に置いた横に長い大きなキャリーケースに肘を置き、怒り心頭の二つ揃った顔から視線を切り、ハムは話が終わったらしい杉谷へと目を向けてつまらなそうな口調で言葉を紡ぐ。
「ねー、ミスタースーツ。第一位を殴れる方法があるってほんと?」
「……あったらどうする?」
「一度やって見せて、見れたらわたしがより完璧にやるから。第一位と第二位はわたしがやってあげる。感謝してくれていーよ?」
「勝算があるのか?」
「能力同士での戦いならまず勝てない。能力なくても武術の達人なら話は違うけど。でも能力さえ抜けば
希望的観測ではなくただの事実。能力もない、魔術もない、どんな人間でも振るえる力、『当たり前』の粗野な土俵の上なら『
「……第一位を殴ろうと思うなら、インパクトの直前に拳を引く事で『反射』の壁を破れるそうだ。一度はやって見せはしよう。だが出来ると言い切れるのか?」
「だってわたし天才だもん。ドライヴィーもやってみる?」
「……殴り合えない奴と殴り合ってもつまらねぇ」
「だって。話は終わり?」
「いや、まだだ」
「「まだなにかあるわけ? 始めるならさっさと始めたいんだけど?」」
「『グループ』どころか、『アイテム』までもが別方向から迫って来ているらしい。仕事を振っても動かなかった『アイテム』を不審に思った連絡係から連絡が入った。よほど『ドラゴン』の情報が欲しいらしい。どいつもこいつもガキ一人制御できないとはね」
「「その竜だかなんだか知らないけど私達にベラベラ話さないでくれる? 後で私達も潰す気なら、今日が貴方の命日ね」」
「協力者に多少の情報を与えているだけだ。親愛の証だとでも思ってくれたまえ。向かってくるのは第四位だ。君達の標的でもあるはずだが?」
よく言うわぁ。と、面倒な相手を丸投げしてくるいい気な統括理事会の一人にアラン&アルドは眉を顰める。親愛の証だなどと思ってもいない事を吐き出す臆病者から目を離し、ハムへと二人は目を落とすが、「二人に任せた」と味方にまで丸投げされた。
「「私達に第四位含めた四人丸ごと相手しろって? ラペルはどうしたのよ、あの拷問官は。ゴッソ拷問して情報吐かせてから行くって言ってたのに連絡ないし」」
「返り討ちにあったんじゃない?」
「「そんなの相手に私達二人? 言っとくけど自殺は御免よ」」
「魔術師に第六位、第一位と第二位引き受けるわたし達にそれ言う? ……第二学区って確か水流や水圧の実験施設があるって言ってたよね? そこへおびき寄せるぐらい出来るでしょ鎧男。水の中でも同じこと言うの航海士?」
ハムの言葉に潮岸は唸り、アラン&アルドは破顔する。時の鐘唯一の海上、水中の専門家。水を得た魚のように、自分達の土俵に立てるのなら話は変わってくる。
「話は終わり。これ以上話してても何も変わらない。他の二番隊と三番隊の奴らは好きにばらければいいでしょ? 居ても居なくても変わらないし」
「「冷たいわぁ、嫌われるタイプね」」
「弱者はただ喰われるだけだ。自分の心配だけしていればそれでいい。ここが死に場所ならそれが
指に絡めたクランビットを軽く回し、歩いて出て行くドライヴィーの足音を追うように足音が増える。己の欲しいものを掴むため。ただ自分だけのため。深緑の軍服を着た死神の行列の背を潮岸と杉谷はただ見送った。お互いを利用し合う臆病者と裏切り者の足並みもまた揃う。
「──来るぞ」
「結標‼︎」
「ッ⁉︎」
スゥの短い呟きと同時。親船最中と
歩いて来る一つの足音。「手合わせ願おうか」と
「時の鐘に第一位に第二位とは豪華だな。できればあれこれと長話をしたいところだが、その時間はないらしい」
煙草を取り出し咥える杉谷の豪胆さに呆れて垣根と
「それほどまでに『ドラゴン』の情報が欲しいのか」
「オマエは知ってるのか?」
「あれはな──」
パシュッ! と、気の抜けた音に杉谷の言葉は消され、次の瞬間には結標が声を出す暇もなく床に崩れた。ライターに偽装した麻酔銃。その役目を終えたライターと煙草を投げ捨てて、多少なりとも気の逸れた
ゴキィッ‼︎ と耳痛い音を上げて
「……木原数多のインパクトの直前に拳を引く事で『反射』の壁を破る技術。なるほど、私ではそう上手くいかないものだ──だが、確かに見せたぞ」
「……なんだァ、そりゃ」
本当ならもう少し話をしてもよかった。そう杉谷も思っていた。ただ相手は第一位に第二位に時の鐘。出来ることは限られている。三人同時に相手をし、それでも勝てると言い切れるほど杉谷は若くもない。だがそれでも己の信じる正義のため。少しでも勝率が上がるのなら、その為の布石に喜んでなろうと杉谷は笑った。
「ここからが私の正念場だな。お前の正義と私の正義、ここで比べさせてもらおうか」
「そこそこの腕を持っていても、実行できるのは腹黒ジジィの命令に従うだけがオマエの正義か」
「グダグダ正義だなんだうざってえな。テメェの常識を押し付けんじゃねえ」
ずるりと空間に垣根の背から花開く六枚の白い翼、それを目に留め、杉谷はポケットに手を突っ込む。少なくともこの場で
「それで武人とは片腹痛しッ」
分かっていたように脇の下に滑り込んだスゥの鉄棒が杉谷の腕を掬い上げ、装置のスイッチを遠くに飛ばす。舌を打ちながら拳を叩き込もうと身を落とした杉谷の肩へと振り上げられていた鉄棒が叩き落とされ、杉谷の体をその場に張り付けにする。硬直する杉谷の前へとずるりと身を落としたスゥの言葉が杉谷の鼓膜をくすぐった。
「小細工に手を伸ばしたところで何が変わるわけでもない。どうせそれに手を出すなら、極める勢いで手を伸ばすべきだったな。中途半端だぞオマエ」
「なるほど……お前も『
流れるように急所を叩く五連撃。仕事でないし殺す気はないと手加減されはしたものの、骨がズレ完全に杉谷は崩れ落ちる。どうだ! と一方通行と垣根に向かって胸を張り、Vサインを突き付けるスゥに二人揃って呆れていると、再び響いて来た足音に、驚くこともなくスゥは振り返る。
「……ハムッ」
「わざわざ追って来たなんてスゥは健気。来ても意味なんてないのに」
時の鐘の深緑の軍服に身を包み、ゲルニカM-003の代わりに大きなキャリーケースを手に持った軍人。ストロベリーブロンドのツインテールを振って、ハム=レントネンは首を傾げた。
「よくも裏切ったな! ハム!
ゆるりと薙ぎ払われる鉄棒。僅かに体を下げて目の前を通り過ぎる銃身の先端を見送りながら、ハムは面倒くさそうにため息吐く。
「……動きづらい」
「ッ⁉︎」
真っ直ぐなはずの鉄の棒が、静止しないスゥの動きに乗せられてぬるりと捻じ曲がる。生物のように滑らかに噛み付こうと迫る銃身の先端を、おかしな挙動で避けるハムに目を見開き、足元に落とされた一撃を、飛ぶ事でハムは避ける。
「ふ──ッ‼︎」
吐き出す吐息を火薬とするように、床で跳ねた銃身の切っ先が、弾丸のようにハムの眉間へ飛来した。舌を打ち首を傾げたハムの頬を軽く裂き背後へ抜けた切っ先が、スゥに無理矢理体重を乗せられて落とされ、ハムの体を地に叩きつける。
ごろりと床を転がり勢いを殺し、キャリーケースを振った勢いを利用して立ち上がるハムに迫る追撃の牙。キィィィィンッ、と床を擦り空気を削ぐ連撃の中で、スゥは徐々に目を細めた。
ハムの見た目と動きが合致しない。動き引っ張られた服の上からハムが包帯のようなものを体に巻いていることくらいスゥにも分かる。負傷したのかサポーターか。ハムの動きの予測の円を大きくし技を振るっているのに、見た目以上の機動性に僅かに芯を外される。
ハムの可動域をスゥが感覚で修正していく最中、「こんな感じか」とハムは呟き、怪訝な色を目に浮かべたスゥの顔をハムはつまらなそうに静かに見つめた。
「分かってるくせに……私が時の鐘にいる理由考えればどんな答えも出るはず。それに武人武人って、忘れたのスゥ。武人どころかわたし達は傭兵だって」
「なにを──」
目を細めたハムにスゥが身構えた瞬間、ハムの姿が掻き消える。
ズッ‼︎ と、床が蹴られた鈍い音が響く中、気配だけを追いスゥが腕を下げたと同時、振り切られたハムの脚に脇腹を蹴り抜かれ、スゥの体が壁に跳ねる。床に転がる銃身の音が跳ね回り、肺から空気を絞り出し血を吐き出すスゥを見下ろして、怠そうに足を下ろしたハムを
「──
「うん、まだちょっと調子を確かめないとダメ。無理矢理体に新しい筋肉張り付けたみたい」
「ハ、ム、オマエ……、そこまでして……ッ」
「当然」
鍛え続けられた傭兵の肉体と
「スイス特殊山岳射撃部隊『
「つっちー‼︎」
強く土御門の肩を引き、飛んで来た狙撃の銃弾を避ける。弾ける大地を見送って、青髮ピアスの名を呼び土御門に投げられた鉄の欠片を蹴りで弾き出し、五〇〇メートル離れた位置で銃を構える狙撃手の腹にぶち込むと、動かなくなったのを確認し、青髮ピアスは肩を竦めた。
「……なあつっちー、英国や瑞西はここより酷いんかな?」
「……だろうな」
クーデターに次ぐクーデター。学園都市とローマ正教の対立から始まった世界の歪みが、友人達に関わる大事な場所さえ歪ませている。
血と鉄と硝煙の匂いに包まれた虚しく不毛な世界。
そこを住処とする傭兵と、そことはかけ離れたところにいる一般人。法水孫市と上条当麻。対極に住む二人のはずが、同じ場所へと、最も危険な場所へと足を着けている。生き方もこれまでも違うはずが、同じ場所にいる二人。日も落ちかけた薄暗い空の下で、青髮ピアスと土御門は同じ先を見る。
「ボクらに出来ることって何かないんか? 学園都市で帰りを待つなんて、ヒロインやないんやから」
「そうだにゃー……いつも無理を押し付けて、いざとなったら見てるだけってのも、友達甲斐がなさ過ぎか?」
「そりゃあ……そうやろ」
他でもない大事な義妹のため、前に進みたい誰かの背を押すため。いつも裏で走り回り、人知れず誰かの力になり世界を守っている。だが、そんな中で気にせず表も裏も走っている友人が二人。誰かのため、己のため、その為だけに誰が相手でも気にも留めず。自分にも力があるにも関わらず、土御門も青髮ピアスもそんな背を何度も見送っている。
世界がこれだけ切羽詰まっていても、未だ学園都市に二人。土御門にとっては義妹を守るために必要なこと。青髮ピアスにとっては、学校に手を出してきた不埒な輩に拳骨を落とすため。だが、もしそれが終わったら。まだ帰らない二人をただ待つのか。英国と瑞西がどうなっているのか、そんな事は分かっている。だがそれでも──。
「──なら先に彼岸で待てばいい」
ポツリッ、と足音のように落とされた感情の薄い声。気配を極限まで削り落とし、張られた感覚の網をすり抜けるように。青髮ピアスと土御門と肩を組むかのように腕を回され、二人の首元に鋭い爪が添えられる。影と重なるような黒い体を深緑の軍服で包んだ暗殺者。黒の中、口元に浮かぶ白い三日月を横目で見つめ、驚きもせず、騒ぎもせず、蹴り出された二つの後ろ蹴りが虚空を貫く。
影のようにゆらゆらと、いつの間にか音もなく距離を取った軍服の男と『シグナル』の二人が睨み合う。戦友と戦友。親友と親友。異なる場所にいながら同じ称号を持つ三人が。
「スイス特殊山岳射撃部隊『