「才能や力って悲劇だよね」
ぽつりとハム=レントネンは呟き、遠く地に転がる
体調や状況、武器の有無、武器の差、要因は数多く転がっているのだろうが、極めれば極める程剥き出しになってしまうのが才能の差。才能と一言で言っても才能にも多くの種類がある。勉学や職業、趣味にそれぞれ沿った才能があり、単純に殴る才能、刃物を扱う才能、走る才能と、無限の種類が存在する。ただ、大きな枠に当てはめて、傭兵が何より欲する才能は『戦闘の才能』以外にない。
もう少し具体的に言葉にするなら、自分は死なず、相手を殺し切れる才能だ。何かを壊すため、守るため、そのためなら、どんな才能であろうとも、『戦闘の才能』に当て嵌めて、無理矢理咀嚼し形にする。
オーバード=シェリーなら、才能は狙撃。
ロイ=G=マクリシアンなら、才能は筋力。
クリス=ボスマンなら、才能は騎乗。
ガラ=スピトルなら、才能は早撃ち。
ドライヴィーなら、才能は暗殺。
ゴッソ=パールマンなら、才能は記憶。
ラペル=ボロウスなら、才能は拷問。
ハム=レントネンなら、才能は模倣。
多くの『戦闘の才能』がありはするが、多くの者が集まれば自然と優劣がつけられる。誰が上で誰が下か。世界各国からあらゆる才能が集まるが、そこで知るのだ。
上には上がいる。
どれだけ才能を磨いても追いつけない壁。強大な才能を持っていながら、宝の持ち腐れにせず鍛えているからこそではあるが、磨けど磨けど届かない。あの戦闘の天才には、
「なんだオマエ、才能に絶望でもしたって話なら聞く価値もねェ」
「そーじゃないよ、ひょろひょろ」
くだらないと床に杖を落とし硬い音を響かせる
戦いの中では、何より才能以外に経験が大事だ。同じ相手と一万回。ないよりはいい。ただ、地獄のような戦場を絶えず駆け回る事と比べればどうか。経験によって磨かれた戦闘の才能は宝石となったか。
「わたしはできることがまた一つ増えた」
首を傾げ緩やかに目の前に突き出されたハムの左拳。「確かに見せたぞ」と口遊んだ杉谷の言葉が
だが、見せたからなんだ。
ただ一度見ただけでその技を手中に収める事ができるような、木原数多の『反射』破りは、そんなファーストフード地味たお手軽技術ではない。だが、練習相手がいない中で、杉谷も『擬き』を一発でやって見せている。
ならそれを見たハムは? 杉谷が己の正義を託した才能。
できるかできないか。この際できないなどと楽観的に考える程、
そんな
「ィ……ガ……ッ⁉︎」
パシッと軽い音が爆ぜた。
軽い衝撃が
「──そもそも、わたしがひょろひょろを殴れると判断したなら、この距離までわたしを近付けたのがもう間違い。わたしが近付く前に片をつけるべきだった。よーいどんで殺し合いが始まるわけでもないんだし。つまり──」
お互いが見え手の届く距離。ベクトルを『制御』する複雑な計算式を組んでから能力を発現する
だが、今は手が出せる。
目を細める一方通行に二度三度突き刺さる軽い拳。
顎に突き刺さった一撃が、
「そのままサンドバッグになってて、慣れてきたら一撃で頭を砕いてあげる」
「こ、の、やろォ……がッ‼︎」
振られる素人然とした
その音に紛れて舌が打たれる。
「何してやがる第一位。テメェそれでも悪党か? いいように殴られて盾に使われやがって。高みの見物してようかと思ったが、寧ろ邪魔だぜ、引っ込んでろ」
「そっちもね。邪魔だよメルヘン。第二位も居るって分かってて、なんの準備もしてないと思う?」
──ガチャリッ。
キャリーケースが開かれる。アルプスの遠吠えを詰め込んだ決戦用の狙撃銃が。敵を穿つ白銀の槍が。
「テメェッ⁉︎」
「なにか分かった? 悪党には『
それはクリケット板の持ち手を長く伸ばし逆さにしたような形状だった。平たい長方形の箱から長い銃身が伸びている。馬鹿でかいチャッカマン。既存の銃ではP90が最も近いかもしれない。ただ銃身が三メートル近い事を除けばだが。
『
スイス特殊山岳射撃部隊『
『
オーバード=シェリーの『
ハム=レントネンが、スイスでの混乱に乗じ苦労して持ち出した『
「『薔薇』って本数によって花言葉が変わるの知ってる? 色でも部位でもそー。メルヘンは何発まで耐えられる? せいぜい赤い花を咲かせてよ」
「うおおおおッ!!!!」
ドゴゴゴゴゴゥン──ッ‼︎
やたらめったら鐘を撞木で突いたように、振動の花が咲き乱れる。ジャラジャラ薬莢を落としながら、降り注ぐ振動の雨粒。一発一発がスイスの叡智特殊振動弾。その振動さえ加速させる『
中心に居座る対象を、不定形の振動の檻が押し潰すように固められる。擦れ合う空間は水蒸気を上げ、蜃気楼のように空間が歪んで見える程。銃弾を吐き出し尽くし、銃身の口が白煙しか吐かなくなっても、未だ空間は歪んだまま。空間の中に別の空間が生まれたように、垣根をその中に閉じ込める。
「『
ガシャリと空になった薄い長方形の下部に収まっっていたマガジンを落とし、キャリーケースの中のマガジンを装填しながら、ふらりと向き直る
ぺたん。と、尻餅をつく第一位を、持ち直した『
拳が当たる。そんな当たり前の事さえ出来れば、学園都市最強の能力者でさえ。大地に崩れる。
この世に存在しなかろうが粒子は粒子。多重振動の檻さえ作れれば、イーカロスを叩き落とせる。
それがハムにはできる。できるようになってしまった。必要なものを揃えられれば第一位や第二位が相手でも戦える。それができると知ってしまった。
才能や力は悲劇だ。
例え今どれだけ強大なそれを手にしていても、本当に必要な時に持っていなければ意味はない。失くなって欲しくなかったものが失くなってからでは遅過ぎる。後悔と怒りと恨みに任せて原石を磨き、後でこんな才能や力があったと知っても虚しいだけだ。寧ろ力などなかった方が、無力感に沈む事が出来た。仕方ないと零すことができたのに。
「この世に『絶対』なんてない。大事な人はスーパーヒーローでスーパーヒロインだと思っていても、絶対死なないなんて事はない。ふとした時に消えるもの。どれだけ強くて才能あっても消える時は消えてしまう」
今でさえ上には上がいる。上は限りなく続いている。自分の越えられない上にもまだ上がいて終わりがない。強さの種類はバラバラで、求める答えなど存在しない。目の前で核爆弾が弾けても
「だからここで二人はおしまい。わたしは上に行く。あの日できなかった事をするために」
床に手を付き立ち上がろうとしている
軋み歪む空間の中心で、垣根帝督は一度強く舌を打つ。
「……ムカつくな」
檻の中に押し込められた事ではない。その中から抜け出せないと決め付けられている事と、何より復讐者の冷めた目に。誰が相手でも眼中になく、所詮踏み台と言うような目に。
誰よりそれを知っているから。大事なものを失くした者の目。復讐者の瞳。望むもの以外塵芥に等しく、望むものすら欲しいものなのか分からない。アレイスターとの直接交渉権を望み動いていた自分の姿がこんなものなのかと思えばこそ、口が勝手に自嘲の笑みの形を取る。
どれだけの力を持っていても、できない事はある。どれほど優れた頭脳を持っていても救えない者がいる。それを他でもない垣根自身が知っている。だがそれでも、垣根のように分かっていながら、せめて自分が信じるものだけは救おうと足掻く者がいる事も知ってしまった。
他でもない第一位が、くそったれな狙撃手が、女好きの鉄仮面が、ここが限界と一度は諦めたにも関わらず、諦めを諦め不毛な前進をそれでも止めない。
何故やめない? 何故進む? 一度ならず地獄を見た事くらいあるだろうに、それでもそこから這い上がる事を止めない者達。
何がその者達を進めさせるのか。何故己が悪と分かっていながら善に寄れる。光を羨む想いは分からなくもないが、進むか止まるかは己次第。進む者は、止まっている者を馬鹿を見るような目で流し見るのだ。決して見つめたりしない。泥の中に水たまりを踏まないように位置を確認するため目を落とすのに近い。
それがムカつく。垣根帝督は腹が立つ。
付いている足は何のためにあるのかというような、それだけの力があるのに勿体ないと言うような、力の強弱すら関係なく、才能の有無すら関係なく進む者がいる中で、力も弱くなく才能もある癖に、止まる事しかできないのかと嘲るような目がそこはかとなくムカつく。
「──俺にできないと思ってやがるのか? 無理だと高を括ってやがんのか?」
底で燻り引っ張り上げてくれる者もいない。同じ悪だと思っていた者は、いつの間にか前に進んでいる。前に進むには、前に進む意志が必要不可欠だ。ほんの僅かでも、砂糖一粒に満たなかろうと、ちっぽけな意志がなければ前に進む事などできない。
ただそれがあれば。
優しさ、恨み、怒り、羨望、何でもいい。一歩、とにかく一歩前に足を出せたなら、後は勢いに任せて進むだけだ。明るい方へ。自分の望む輝かしい明日へ。
繭のように閉じていた六枚の翼が、歪む世界を外側へ押し広げ弾くように。振動で脆くなった翼が世界に削られ白い飛沫を撒き散らす。勢いに任せて開いた翼が千切れ砕けた。僅かに生まれた風を
「……痛そ、待ってれば無傷で出れたのに、そこまでして出る理由ないでしょ? そんなに第一位を助けたかったの?」
「俺がそいつを? 寝言は寝て言え。俺はただ余裕ぶってるテメェの面が気に食わなかっただけだ。お互い答えも知らねえ分からねえ同士、もう少し遊んでくれよ。なあ?」
ぼたり、と地に垂れる大粒の朱い水滴を踏みつけにし、大きく裂けた制服を揺らす。自ら満身創痍になって何がしたいのかと呆れながら『
何も気付かない、足を止めている馬鹿者を嘲笑うように。
「それによお、助けを必要としてねえ野郎を助けるなんざ御免だぜ。俺は慈善事業家じゃあねえんだ。例え求められてもそんな奴助けねえがな」
「なにを言って──」
ざっと床を擦る気怠い足の音。背後へと振り返ったハムの目の前で揺れる白い髪。床に崩れて休んでいればいいのに、遠去かりもせず、拳の届く距離のまま
「……好き勝手、殴り、やがってよォ、殴れれば勝てる? 自分は天才ですってかァ? ……結局オマエも、逃げ続けてる臆病者だろ。ンな奴に殴られたところで、止まらねェ。……微塵も、効かねェ」
ズズッ! と、
「ぐッ⁉︎」
ゴキリと鳴る骨同士のかち合う音。威力に抵抗せず、床を転がり勢いを殺し地を削りながら立ち上がったハムは目を見開く。
殴られた。その事実に驚いた訳ではない。
触れた瞬間能力を使えば人間を潰れたザクロのように変貌させてしまえたはずなのに。首の骨ぐらい容易く折れたはずなのに。
ただ殴られただけ。まるで不良の喧嘩、稚拙な殴り合い、技術もへったくれもない素人の拳をただ打ち込まれただけ。
「殴ってやったぜ? だからどうした? こンなンで終わる程安かねェんだよ。なにも求めてねェ奴に、殺られる訳がねェ。舐めてンじゃねェぞ三下ァッ!」
『
そんな悪の一線さえ投げ捨てた拳に倒れるような体を
才能や力は一体何の為にある? 己のため? もしそうでないとしたら、使い方はもう知っている。何のために振るうのか分かっている。大事な小さく淡い輝きが壊れないように。諦めたそれを今度は諦めない為に。なにを敵に回しても、守りたいものを守るため。
「オマエら時の鐘ってのは殺されても文句ねェンだろゥが。悪同士、もう気を使う必要もねェよなァ?」
「気を? 使う? 舐めてるのはどっち? 自分で最大のチャンス投げ捨てて、まだわたしを殺せる気でいるの? 善だの悪だのどーでもいい。どーでもいいんだよ。悪人ならどうして……善人だったらなんで……意地なんて張ってないでさっさと死んで第一位ッ!」
ズルリと床に崩れたハムが、その勢いを蹴り出す足に乗せ変えて
軽くでもない重い一撃。
「そっちもね」
殴り抜いた勢いに任せて『
振動に崩され翼が千切れる。身を捻り込む間に骨さえ揺さぶられ、意識もはっきりしてくれない。だが、それでも足は止めない。能力がなくても翼がなくても前には進める。例え間違った道でも正しい道でも、進む以外に垣根に残されたものはない。どこかに転がる答えを知るため。押し付けられる無理や不可能、貼られる値札を千切るように。
「俺にテメェの常識を貼るんじゃねえッ‼︎」
「おまえ、も──ッ⁉︎」
身から溢れる血液を宙に引き、銃口の内へと足を踏み込む。演算もままならぬ頭のまま、垣根は全力で拳を振り切った。垣根にカチ上げられた顔を歯を食い縛る事で耐え、戻された二つの眼光が男を捉えた。返しの拳で垣根を殴り転がし、銃口を向けた先で間に揺れる紅い瞳。
さっきより強く殴られたにも関わらず。頬を青く腫らした第一位が変わらず握った拳を伸ばし、その手から逃れるように、ハムは慌てて銃を引き戻す。
殴る時間は既になく、ハムは舌を打ちながら、
何度も殴られた
ふらつく足で一歩を踏み出し、輝きの灯った瞳を開けて。
「……それで悪だって言うんなら、どーしてわたしがぐちゃぐちゃにしたい悪は見つからないの? 善人は姿すら現さないくせに、中途半端な悪だけがいつも前に居る。本当に殺したい奴はいつまで経っても見つからないのにッ!」
「だから、殺してもいい奴に八つ当たりってかァ? オマエはただのクソ餓鬼だ」
「あーあ、これが自分と同じだと思うと吐き気がするぜ。中途半端はどっちだってな。そりゃアイツに勝てねえ訳だ」
欲しいそれは分かっているはずなのに、いつの間にかすり替わっている。垣根が直接交渉権を欲し他の何でもない者を狙ったように。向かうべき場所は知っているはずなのに、目的に飛ぶ事を止め逸れた弾丸が欲しいものに届くはずもない。我儘を貫き通すなら、それに見合った意志の強さが必要なのだ。それは才能や力などでは決してない。ただ自分を自分足らしめる源が。
「なぜまだ立つの! 自らの才能も力も万全でない癖にッ‼︎」
「オマエは俺を誰だと思ってやがる?」
「テメエは俺を誰だと思ってやがる?」
学園都市第一位『
誰より能力の才能に秀でた学園都市の怪物二人。能力こそが二人をその位置足らしめているはずなのに、自らの才能さえ満足に振るえない中で、それでもにじり寄ってくる。その源こそが二人を学園都市の頂点足らしめていると言うように。
「必要なそれがないなら諦めてよッ。なぜ進むのを止めないの? 何でアイツも止めないの? なにを一番隊まで上がって来てるの? 才能がないなら、力がないなら、原石を磨いてもただの石ころだって分かったなら、なのにッ!」
「オマエ……ッ⁉︎」
床を凹ませ姿の消えたハムの拳が
地を転がり、それでも立とうと蠢く二つの影を睨みつけ、ハムは強く拳を握り締める。
才能がなくても立ち向かえるなら、力がなくても勝てるのなら、両親が殺されたその日にタンスの奥に身を潜めていた自分は何なのか。無力さを噛み締め己を守るように丸まっていたあの日は何なのか。それが悪だと言うのなら、なぜ今一度前に現れない。そんな時でもやって来なかった善人のなにを信じればいいというのか。力があると分かった今が何よりままならず、力はないと分かっていながらにじり寄ってくる者が気持ち悪い。
振り返ればいつもいつの間にか隣にいる。赤い癖毛を靡かせて、垂れた目を困ったように細めて立つ必死を追い止めぬ馬鹿が一人。誰より『戦闘の才能』がなかった癖に、よたつきながらも前に進み続ける折れぬ愚者。そんな者が居るせいで、自分はもっとできると分かってしまう。そんな者が居るせいで、あの日に違う行動ができたはずだと知ってしまう。
才能も力も善も悪も悲劇でしかない。だからそれを否定できる理由が欲しい。
「これでまだ立てるなら立てばいいッ! それで立っても何度でも! 立てず折れる姿を見てあげる!」
一度強く殴ったから、二度目はより完璧に。本気で握り込まれたハムの拳が、
迫る拳を暗い火の灯った瞳で
ドテッ。
床に倒れる人の音。
視界が大きく反転する。
通路に響きあっという間に消え失せてしまう軽い音を聞きながら、第一位と第二位は靡くツインテールを目で追った。
床に倒れたハムが慌てて身を起こした先には
振り返ったハムの目の先で、ぽすっと音を立て床に落ちる
「ハム=レントネン。貴女には黙秘権がありますの、なお、ここでの発言は、法廷で貴女に不利な証拠として用いられる事がありますわ。貴女には弁護士の立会いを求める権利があり、もしご自分で弁護士に依頼する経済力がなければ、公選弁護人を付けてもらう権利がありますわよ? ……なんて、言う必要もないですわよね? 傭兵さん」
ツインテールを指で掻き上げ、常盤台中学の制服に身を包んだ正義の味方。細く息を吐き出しながら、深緑の軍服を横目で捉え、血に塗れた第一位と第二位へと目を流す。
「……オマエ、何しに来やがった」
「風紀を取り締まる以外にないですの。銃刀法違反、器物破損、それに学園都市への不法侵入に傷害罪、殺人未遂もでしょうかね? ここからはわたくしの領域。引っ込んでいてくださらない?」
「テメェ状況分かって言ってんのか? お呼びじゃねえんだよ」
表の善人が何の用だ、さっさと帰れと言いたげな薄暗い四つの瞳を向けられる中、目をそらす事もなく、正義の味方は第一位と第二位を睨み付ける。肌を撫ぜる殺意の気配をくだらないと言うように鼻で笑い、そんな気配慣れたものだと軽く手で払って。
「
右腕に巻かれた緑の腕章を引っ張り上げ、学園都市第一位と第二位の前に惜し気もなく掲げる。気に入らない相手、叩けば埃が舞うような悪党。分かってはいる。分かってはいるが、何者をも取り零さない為にこそ
「だいたい貴方達は『ドラゴン』とやらを追っているのでしょう? なら相手が違うでしょうに」
「オマエどこで知りやがった」
「あまり
言いながら黒子は耳に付けているインカムを小突く。混乱の中ピーチクパーチクくっちゃべり、学園都市を駆け巡る情報を掴み取る
「貴女もですわよハム=レントネン。諦めて投降なさい。さもなければ、力尽くで逮捕しますの。その狙撃銃、弾切れじゃなかったかしら?」
「……それではいそーですかって降参すると思うくろこ? だから警察って嫌い。必要のない時にしか来ない。捕まえる相手が違うんだって。そんなに死にたいの? イチとおんなじ、馬鹿みたい。場違いだって、自らの必死を追うのがそんなに楽しい?」
「場違い? いいえ、本来はこの場こそわたくし達の場所。脅威を防ぎ、悲劇を取り締まる為にこそ。必要のない時にしか来ない? 誰のことですの? わたくしは来ましてよ。だいたいこんなこと楽しい訳がないでしょう。でも、楽しくないからこそわたくしがいる」
ハムの嫌いな瞳が突きつけられる。大きな輝きを知っている強い瞳が。正義を知り正義を成す正しき者の目。どんな状況でも折れる事のない光の灯った精神の輝き。相手を殺す気のない相手。平和に身を浸しているはずの者。それでも傭兵の前に立っている。
気負わず、気取らず、迷わず、躊躇せず、死の気配を目の前にしても身動ぎ一つせずに立ち塞がる。才能も力も、善も悪も関係ない、目にした悲劇を救うため、都合のいい夢物語のような未来を掴むため、誰にでもなんでもない日常を送るため。
『
「知りませんの? わたくし、『
「ならそれも今日で最後。死に際の一言考えてくろこ」
『
奪う者と救う者。対極に立つ二つの影が、お互いの願いを塗り潰す為に静かに一歩を踏み出した。