「もう一回確認、襲撃者は能力者。
「ハムぅぅ、何でお前が通信相手なんだよ。スイスじゃなくて
「聞いてるね。ただ細かな襲撃時間も相手の目的も分かんないから、気の長い仕事になりそーではあるけど、そっちの様子はどー?」
無視された。
様子はどうかと言われても、夏の夜にビルの上にいても別に涼しくないっていうか。指定された施設を見下ろす。襲撃者がやって来るとは思えない程静かなものだ。
「だいたい襲撃者から施設を防衛するのは襲撃者が敷地に入った時に限るってなんだよこれ。防衛させる気ないだろ。しかも施設の電気切ってるのか暗すぎてよく見えんし」
「泣き言言わない。仕事。これまでにも理不尽なものはあった」
「そうかもしれないけどさ、襲撃者の特徴一つ教えてくれないせいで、施設に何かあるまで動けんぞ」
文句を言っても「仕事」としか返ってこない。
ハム=レントネン、俺と同い年である『時の鐘』の天才は、ストイックというか可愛げのないというか、こんな時ロイ姐さんだったら仕事を始めるまでスイスや仕事先であった面白い話の一つでもしてくれるというのに残念だ。
通り魔事件から一日が経ち、能力者ではなく
だが時期がよくない。
今は夏休み、実家に帰省している者は寧ろ安全だからいいとして、夏休みに浮かれて学園都市に残っている学生に、路地は危険だから一切通るなと言ったところでさして効果があるとは思えない。しかも殺されているのが能力者だけなことから、たったの一日で過激な反能力者思想を持つ学生達からは英雄として祭り上げられる始末。悪戯も含めて目撃情報が十件以上も入って来たと初春さんから昼に連絡があったが、結局どれも偽情報であったらしい。あれだけ目立つ容姿でありながら数ヶ月で一度しか目撃者が出なかった相手だ。そう簡単に尻尾を掴めるとは思えない。
路地の裏で拾った容器は木山先生に預けた。部屋に帰ってから色々試してみた結果、結局容器を開けることは叶わず。爆薬を使ってこじ開けてみようかとも思ったが、木山先生に「やめた方がいい」とやんわり
そんな考え事をしながら夜になってもう三時間。一向に襲撃者は訪れず退屈な夜を過ごしている。こちらが黙っているとハムは何にも喋らないし、無言の空間は親友のドライヴィーとなら慣れているから気にしないのだが。通信設備の前でどうせいつものぶっきらぼうな顔をして姿勢正しく座っているハムの顔を思い浮かべながらインカムに手を伸ばす。
「それで? ハムはいつ
「夏休みなら寧ろ行くわけない。仕事の方が大事」
「いやこれも仕事……」
そう言ってみても無視される。これが仲間にする態度か?
ハムがあまり学園都市に来たくないことは分かってはいる。スイスから離れるということは、ヨーロッパから離れるということ。ハムは復讐のために時の鐘に入った。親を殺した殺し屋を殺し返すため。その力を得るために。だからその殺し屋がいる可能性が高いヨーロッパを離れたくはないのだろう。学園都市に来れば何年学園都市にいることになるか分からない。
「まあいいけどさ、
「それが一番問題」
「まあまあ、ほらハムが
「ステーキ」
会話が続かねえ!
これならまだしりとりでもしていた方がマシな気がする。施設に目を落としても、全く変わらず静かなまま。
……待て。
今確かに何かが崩れる音が聞こえなかったか? いや聞こえた。施設の防音性の高さの所為で大きな音ではないが、それでも少し離れたところにいる俺の耳にまで届いている。
「どーしたの?」
「いや今」
そこまでしか言えなかった。その先を俺は言っていたかもしれないが、急に夜空に炎の花が一輪咲き、目に飛び込んで来た真っ赤な光と、骨を震わす轟音に包まれてこれまでの音が飲み込まれてしまったからだ。
爆発。
これまで襲撃者の侵入に気付かず好き勝手やられていたという話だったが、どこがだ。こんな派手な登場をするなんて聞いてない。
「おいでなすった」
「聞こえてた。襲撃者を制圧して」
「了解」
花が散った元をスコープで覗く。
真っ黒い煙は急速にその姿を消していき、暗闇が舞い戻るよりも早く二回目の爆発。不意打ちならまだしも、来るかもしれないと分かっている離れた場所の爆発などもう慣れてしまってただの光源と同じだ。赤い光に照らされて生まれる黒い人影を追ってみれば、帽子を被った女の子と思われる影。背丈からして高校生か中学生かそんなところか。
これだから学園都市は。
「見つけた……、中学生くらいのお嬢さんが襲撃者だ」
「そー、短い人生だったね。まさか躊躇してる?」
「まあ」
「仕事」
そう仕事だ。これまでも老若男女違いはなく、仕事ならば撃ってきた。だが、それは自分で自分の道を決めた者に対してのみ。仕事だろうと何だろうと、ただの一般人相手なら絶対に引き金など引かない。だが襲撃者が何であれ、時の鐘は問題ないとこの仕事を引き受けた。ただの一般人なら別だが、彼女は犯罪者。
ならば、理由が何であろうと、俺は引き金を引こう。彼女が自分で自分の道を決めた悪であることを祈って。
スコープを覗き、息を整える。
ただ少し遠い。距離にして700メートルくらいか?
全力疾走している襲撃者に当たるかどうか、俺の腕では半々だろう。止まってくれれば外しはしない。その瞬間を待つのがいいか。だがちょっと待て。襲撃者の走る先、建物の奥ではない。
なぜそんなところを走る?
向かう先に何がある?
スコープを少し動かし襲撃者の向かう先を見てみる。あれは……鉄骨階段を登る金髪の少女? 金髪のお嬢さんは手に持つペンのようなものを壁に擦り付けると、火花が地面を走り、鉄骨階段はバラバラになった。追っていた襲撃者はそれに巻き込まれ落ちると思ったのだが、バラバラになった鉄骨階段は磁石のように互いに引っ付き、襲撃者は問題なく駆け登っていく。
これは
しかし、襲撃者に追われている少女。明らかに研究員という感じではない。戦闘員がいるなんて話は聞いていない。考えられることは。
「おいハム。至急仕事の内容を再確認してくれ」
「何で?」
「襲撃者が何者かと闘っている。見たところ爆発を起こしているのは襲撃者じゃなくその闘っている相手だ。それも施設内にいくつも罠を張り巡らせている。ダブルブッキング。おそらく別のルートで依頼を受けた何者か。そんな話は聞いていない。報酬はどうなる?」
「了解。……少し安心してない?」
してる。
俺も幼い頃から戦場にいたが、幼い者が死ぬのは味方だろうと敵だろうと嫌な気分になる。どれだけ悪であろうと、自分の
ハムの返答を待ちながら、取り出した煙草に火を点ける。普段仕事中に吸う事は滅多にないのだが、今は少し気分を落ち着けたい。煙草が半分灰になったところでインカムにノイズが走った。
「分かった。確かに依頼が重複してた。よって襲撃者を倒した方が報酬の総取りだって」
「はい? おいおい
「それは分かるけど、少し頑張って。一応一度は仕事を受けた。確かにこれは仕事を了承したボスのミスだけど、それをボスに言う?」
この野郎、俺にボスの話を出せば渋るの分かってて言ってやがる。ボスに俺がミスしましたねなんて言えるか。ボスには返しきれない恩がある。煙草を消すのも面倒なためビルの上から投げ捨てる。
すごい乗り気じゃない。乗り気じゃないが、渋々相棒を構える。
丁度襲撃者は金髪の少女を追って施設内に入るところだ。今撃たなければ面倒なことになる。幸い襲撃者と金髪の少女は何かを話しているのか襲撃者の足が止まった。クソ。
引き金を引く。
引いてしまった。
もう後戻りはできない。
俺の撃った弾丸は道を外れることもなく襲撃者のお嬢さんの頭に吸い込まれるように突き進む。こちらを向いていない襲撃者の背後から飛来する弾丸に襲撃者は気づくこともなく呆気なく仕事は終わる。
そう思っていたのに、
弾は襲撃者に当たる寸前に止まってしまった。目に見えぬ手に掴まれるように空中で。
「嘘だろ……」
「どーしたの?」
ハムに答える暇はないので続いて引き金を引く。戦車すら撃ち抜く相棒の弾丸をピタリと宙に止める程のパワー。それほどの
いや考えるな。
弾が宙に止まっているなら、そのケツに銃弾を当てて押し込めばいい。そう思い飛んで行く二つ目の銃弾は、急に降りてきた分厚い鉄の隔壁によって阻まれる。その瞬間襲撃者と目が合った気がした。
その顔は──。
「あー、あーあーそうかい。なんであんたなのかねえ、御坂さん」
「ちょっとイチ、状況報告」
「襲撃者は施設内に侵入、ここからじゃ狙えない。相棒の弾丸を空中で受け止めるほどの
その凄まじさは先日もう体験している。学園都市で仕事をしている以上どこかで相見えることもあるかもしれない。そう思ってはいた。いたがこんなに早く来るか? 悪いがダブルブッキングを理由に降ろさせて欲しい。正式な仕事だというならなんとか頑張ってみるが、こりゃ厳しい。
「イチ」
「なんだよ」
「仕事」
「なら代わってくれよ! 俺もうやだよこんなの! 仕事ってったって許容範囲があんの! 微妙な内容で殺る相手も微妙、それにもし成功したとして、おそらくかなり面倒なことになる! 相手は学園都市に七人しかいない
それに初春さんや白井さんに絶対殺される。仕事なら仕方ない。仕方ないがこんな仕事は御免だ。だいたいこんな仕事を持って来た依頼人に問題がある。何がなんでも施設を守りたいのか知らないが、だったらうちだけに仕事を任せるべきだった。御坂さんよりも依頼人の方に弾丸をプレゼントしたい気分だ。
「イチ、それでもやらなきゃ時の鐘が舐められる」
「もう舐められてるだろ。依頼人の方をぶっ殺してやりてえ」
「それはきっとドライヴィーが送られるから安心したら?」
「え? ドライヴィー来んの? それは嬉しいけど……それとこれとは」
「イチ、お願い」
あー、あーもう本当にッ‼︎
俺より強いくせに俺にお願いなんかするなよ。復讐第一の復讐者のくせに律儀というか真面目というか。大きなため息を零して一応スコープを覗く。隔壁に阻まれ施設の中が一体どうなっているのか分からない。もし襲撃者を殺るなら、ここで待つよりビルから降りて追うしかない。絶対労力に見合わない仕事だ。金髪の少女に御坂さんが負けるとは思えないし、どうしたものか。
そう思い悩んでいると、ふと施設の端で何かが光った。
「うっそだろぉ⁉︎」
光の本流がビルを舐め取る。
一瞬。
一瞬動くのが遅れていたら俺の体は消え去っていた。それを証明するように、先程まで俺のいたビルの縁が綺麗に丸く穴が空いている。御坂さんの能力ではない。
「おいハム! ダブルブッキングなのかトリプルブッキングなのか知らないが撃たれたぞ! それとも襲撃者の仲間なのか、どちらにしたってこりゃもう無理だ!」
「お願いって言った」
おい。
「あのハムさん?」
「お願いって言った」
この野郎、絶対譲らない気だ。超能力者の御坂さん。謎のレーザーを撃った相手。いや死ねる。そこに飛び込めって? マジかよ。クソ。そんなの。
そんなのちょっと楽しくなって来ちゃうじゃないか。
俺一人ではどうしようもないのは俺が一番よく分かっている。絶対手が届かないと分かっていながらも、あまりの眩しさについ手を伸ばしてしまうこの感じ。……すごく良い。
理由も過程も一切合切どうだってよくなってくる。俺の望み、最高の一瞬がそこにある。あるかもしれない。それならば。
「ハム、悪いが死んだら墓は豪華にしてくれ」
「うん。花火も上げてあげる」
いやそんなお祝いみたいにされると傷付くぞ。だがまあ死んだ後のことなどどうでもいい。考えたって無意味だ。歪む口元を隠す気もない。俺はビルから再び飛び降りた。
***
おぉう。
何度目かも分からない振動に、俺は顔を緩めながら施設内を歩いている。施設内はスポンジのように穴だらけであり、およそ人の立ち入る場所とは思えない。ここだけまさに魔境。一般人なら一度足を踏み込んだだけで帰ろうと思うだろう。だが俺は進んでいる。場所は分かる。施設を揺らす振動と、普通に生きていればまず耳にすることはない異様な破壊音。それを追って足を進める。
一歩踏み出すごとに死地に突き進んでいるようなこの感覚。俺のこれまでの経験から来る勘が、死ぬから引き返せと全身のあらゆる機関が警告を発しているが、それを引き千切るように足を出す。ざわざわする。ふわふわする。背骨を突き破るようなこの痺れ。俺だけが感じている至高の衝撃。この先にはきっとそれ以上が転がっているんだろう。
そう思うと自然と足取りが重くなる。俺はドMでもなければ自殺志願者でもないが、これは辞められない。
俺の、俺だけの、俺のためだけの一瞬。
「逃げんな売女ァ‼︎ 弾が尽きた途端にケツ振りやがってぇ! 第三位の名が泣くぞぉッ‼︎」
ほら向こうも呼んでいる、でもなんか怖いんだけど……。
女性の出していい声ではない。時の鐘にもボスやハムを入れて六人ばかり女性がいるが、ここまで口が悪い女性には会った事がない。ボスなら淡々と毒を吐き、ハムなら無視して何も言わない。それをこうも罵るか。だが言葉が聞き取れるということはもうすぐ近くにいるという事。通路を抜けて開けた場所に出てみれば、探し物はすぐに見つかった。
「ぎゃははははははは‼︎」
何あれ。
長い茶髪の大変スタイルのいい女性が馬鹿笑いしながら光線を撃ちまくっている。宇宙戦艦を擬人化したようなというか怪獣というか……。まともじゃない。
御坂さんは大変アクロバティックに避けているが、明らかに追い詰められている。学園都市はよくもまあこんなのを野放しにしているな。しかも見た通り御坂さんの仲間ではなく同業者の商売敵のようだ。
施設内の石油パイプ並みに太いパイプの上を滑りながら、御坂さんと宇宙戦艦が降りて行く。どこぞの特殊部隊よりも人並み外れた動きだ。追いつけない、普通なら。ただ俺も険しい山の中を七年間転がり回った男だ。フリーランニングは慣れている。パイプの上に飛び乗って後を追う。そろそろ混ぜてくれないと終わってしまいそうだ。
「オラッ! もっと私を楽しませろ‼︎ 現代アート風味の面白オブジェになりたくねえならなァッ‼︎」
一足先に空中通路に降りていた御坂さんに、宇宙戦艦が追撃の光線を見舞う。御坂さんもそれを弾くが、威力に負けて後ろに転がった。ふむ、御坂さんのパワーなら完全に弾けそうなものだが、俺が来るまでの間に能力の使用限界でも来たのか。俺の相手も御坂さんだが、同業者にくれてやるのは癪だ。御坂さんが着地し、宇宙戦艦が距離を詰めようと歩くその中間に、パイプを降りながら相棒の引き金を引く。
銃弾は空中通路にめり込むどころか貫通し、鉄と空気を混ぜて破裂させたような安い音を上げた。注意を引くには十分。御坂さんと宇宙戦艦が見上げる中、鉄に反響する鐘を打ったような相棒の銃声を踏みつけるように俺はその間に降り立つ。
「あ、アンタ⁉︎」
「はあ? 誰だよテメエ」
「分かっていたことだけど歓迎されないな。襲撃者に同業者さん、俺はスイス特殊山岳射撃部隊『時の鐘』一番隊所属、法水孫市。お返しだ宇宙戦艦」
宇宙戦艦に向けて引き金を引く。
この距離で相棒の弾丸を避けることは普通の人間では不可能、普通の人間なら。宇宙戦艦の周りに浮かぶ光球が、弾丸と宇宙戦艦の間に生成されると、そこに飛び込んだ弾丸はあっという間に蒸発して姿を消した。衝撃だけが僅かに残り宇宙戦艦の長い茶髪を揺らす。
なにそれズルイ。
「アンタどうして⁉︎」
「悪いな御坂さん。俺の仕事はこの施設の防衛。要は向こうの宇宙戦艦と同じ立場なわけだが、さてどうするか」
「どうするか? 出会い頭にブッパしてくれて何言ってんだ早漏野郎が‼︎ てめえだなビルの上でコソコソしてたゴキブリは、第三位と一緒に消し炭にしてやるよぉッ‼︎」
怖いよ。それに先にブッパなしたのはそっちだ。
「やばいなぶっ飛んでやがる。戦場でもここまでの奴は早々いねえぞ」
「そんなこと言ってる場合⁉︎ どうすんのよ一体! ていうかアンタここの防衛が仕事って」
「本当なら御坂さんに宇宙戦艦纏めて相手しなきゃいけないなと思ってたんだけど、ハム」
「状況が状況。同業者にしても酷すぎる。先に襲撃者を殺して離脱したら?」
ハムの言葉に御坂さんを見る。通信が聞こえていたのか口を歪めて俺を見る顔は戦場でよく見た絶望の顔。力が万全でない御坂さんになら銃弾を止められることもなく撃ち抜けるだろうが、それは面白くない。
「俺は一般人を撃たん。能力をまともに使えない
「……なによ、手を組もうって言うの?」
「手は組まない、見逃すだけだ。この仕事も乗り気じゃないことだし、同業者はおっかないし、白井さんや初春さんに怒られたくないし……ッと⁉︎」
転がりながら御坂さんを抱えて襲い掛かって来た光線を避ける。床にいくつも穴が開き、こちらに飛んで来た光線は御坂さんが手を伸ばして逸らして見せた。盾になるだけの力は残っているようだ。額に青筋浮かべた宇宙戦艦は、構わず俺に向けて光線を撃ち続けるが、うむ、思ったより俺と宇宙戦艦の相性はいいみたいだ。
「クソがッ‼︎ 下手なダンスで避けやがって!」
「何を、こちとら呼ばれた社交界に出れるくらいには踊れるよ」
「ちょっとそんなこと言ってる場合⁉︎」
御坂さんはそう言うが、避ける分にはこれくらいなら問題ない。直線の動きなら銃弾を避けるので慣れている。それに宇宙戦艦の光線は、放たれる前に溜めがあるおかげで避け易い。寧ろ銃の方が厳しい。ただこちらの攻撃も直線なので消されるのと、近付けばやられる。あの光球に触れただけで俺の上半身と下半身は泣き別れるだろう。
「終わりが見えんな。離脱するにも一苦労しそうだし、仕方ない。御坂さんちょっと下ろすぞ、自分の身は自分で守ってくれ」
「それはいいけど、アンタどうするつもり? 初春さんと黒子に聞いたけどあんた
「んー、超能力よりも原初の人の力を使うのさ」
御坂さんを下ろして相棒から銃身を外す。二メートル近い相棒の銃身を使っての棒術。時の鐘が誇る軍隊格闘技、中国北部の雪深い山奥で生み出されたと言われる酔拳を元に構築された異様な技。
足取りは揺らめき、体の力を抜く。
「はあ? なんだそれ、テメエふざけてんのか?」
俺の顔に穴を開けようと放たれる光槍。それを倒れるように避け、地面を転がりながら距離を詰める。ブレイクダンスの要領で足を回し、両腕で抱えるように銃身を取り回しながら、遠心力を使って銃身を宇宙戦艦の足に打ち付けた。
「痛ッ!」
「
脚をへし折るつもりだったのに宇宙戦艦の足を弾くだけで終わった。信じられん。立ち上がりながら銃身を掬い上げるが身を横にされ避けられる。そのまま流れるように打ち下ろし、宇宙戦艦の肩口に降りた辺りで横薙ぎに。一度怪我をしたのか血の流れた宇宙戦艦の頭部に命中、赤い血を鉄の滑らかな通路に撒き散らす。
宇宙戦艦の体がブレる。体を落とし足を思い切り空中通路に踏み込んだ。メコリと凹む鉄の通路の感触をそのまま宇宙戦艦に伝えるように、腕の中で滑らした銃身を螺旋状に回しながら宇宙戦艦の腹へと突き出せば、宇宙戦艦の薄い装甲を突き破り肋骨を折り内臓を貫く。そうなるはずだったのに感触がおかしい。まるで霞を殴ったような。
「殺す」
「マジ?」
光球を体の周りに浮かべる宇宙戦艦。引き戻した銃身を見てみれば長さが半分くらいになっている。溶けたように先は消失し、嫌な匂いを立ち上らせた。
あ、相棒が……。嘘だろ。これだから超能力者は。
目の前で内に抱え切れなくなった力を吐き出すように無数の光球が膨らんでいく。夜空を貫く光線が俺を蜂の巣にしようと手を伸ばす。流星群のように暗闇を彩る力の流れを止める術は俺にはない。
──ズガンッ‼︎
しかし、急に何かが俺と宇宙戦艦の間に落ちて、俺が星屑になるのを遮った。御坂さんが落ちて来たのか。ブレる視界の中で弾ける紫電がその正体を予想させる。だが、慣れて来た目に映ったものはもっと巨大な黒い塊。
大きさは二メートルを超え、名工が作ったと言われれば納得してしまう重厚で堂々とした肢体。しかしそれは日本刀のような鋭さと儚さも併せ持ち、顔から溢れる四つの光が、宇宙戦艦と御坂さんを見比べた。最後にそれは俺の方へと顔を落とす。口のない鉄仮面は、しかしハッキリと笑みを作っていると分かるように体を大きく震わせて、宇宙戦艦に向かって指を突き出す。
『
能力者の闘争がコレを呼び寄せたのかは分からない。しかし、状況がより一層悪いものになったのは確かだ。