とあるビルの一室、窓辺に寄りかかるようにして手に持つ双眼鏡を覗く。煙を上げている第三学区の個人サロン。
「……相性わっるぅ」
少し前まで個人サロンに群がっていた『
大分前に第三学区の国際展示場で行われた『迎撃兵器ショー』へ取材に行っていたジャーナリストである母、
清掃ロボや警備ロボが発する電波の傍受や、通信網の傍受が可能である『ビーランチャー』を相手とするのは分が悪い。狙撃すれば機械の目で追われて居場所がバレるし、土御門と下手にインカムを使って会話する訳にもいかない。お陰で『
だからこそ必要とされるのはアナログな目と耳と足。壁に耳あり障子に目あり、古来より必要とされて来た斥候。矛を向けるべき先を見定める為に必要な情報の収集役。遠巻きから戦場全体を見回す役は俺ができるが、懐に飛び入り情報を掻っ払う事まで同時にはできない。人手もまた戦力。口に咥えた煙草に火を付けて上る紫煙を、下から音もなく駆け上がって来た影が揺らして窓辺に座る音を聞きながら煙を吐く。
「あー、いけないんスよー、未成年なのに喫煙は」
「スイスでは十六から喫煙も飲酒も……それはいい、どうだった?」
「どうもこうも、第一位がおっかなかったっス。嫌っスね
「誰が
「またまたぁ」と笑う甲賀忍者、
どれだけ鍛えてもできない事をやってしまうなどと軽々しく言っているが、ビルの壁を走るように上ってくる忍者に言われたくない。どう鍛えればそうなるの? 俺も山登りは慣れている為、ビルをロッククライミングのようによじ登る事はできる。ただ駆け上がるとなると話は違う。極東の傭兵怖い。鍛える方向性の違いではあるが、いつか土御門が俺に言った、魔術師や能力者よりも怖いという言葉がよく分かる。
暴力の違い。超遠距離から一方的に叩きのめす『
「それが第二位と第四位を相手にした『シグナル』の言う事っスか? 話を聞いた時爆笑したっスよ、『シグナル』の名前を一気に暗部に広めたあの事件。私達の時も出てくるのかなーって話してたのに微塵も動く気配なかったっスけどね」
「俺はその時病院のベッドの上だったんだよ。自慢気に自分の悪行を語るんじゃない。俺の仕事を増やそうとするな」
「でも
「誰それ」
俺に率先して会いたいなんて言う奴はどうせまともな奴ではない。忍者の癖に口が軽い釣鐘に肩を落とす。それが助けたい仲間なのか知らないが、少しだけ助けたくなくなってきた。呆れたように息を吐き出し、「そんな事より」と無駄話に花を咲かせたいらしいくノ一の言葉を切る。仲良くおしゃべりは後で幾らでもできる。今必要なのは別のもの。
「相手の目的は分かったのか?」
「まあおおよそは。こんな物を取ってきたっス。第一位が放り投げてたし、もういらないんだろうなと思って」
そう言って手渡されたのは、少しは焦げた一枚の写真。写っているのは金髪の幼い少女。全く見た事ないのだが、その写真と共に書かれていた名前を見て眉を寄せる。
「……フレメア=セイヴェルン?」
……やばい。なんか見た事あるファミリーネームだ。そう思えばなんか見た事ある風貌でもある。北欧の空気を感じる容姿。もしかしなくてもこれはあれだ。姉妹だ。あの鯖キチの姉妹だ。なんで? なんで今こんなのが出てくるんだ? わざわざ『新入生』とやらが追っているのがフレンダさんの姉妹? WHY? 頭痛くなってきた……それに苛ついてきた。
「……この子が追われている訳は? 暗部にいた姉を狙ってか? それとも稀有な能力者だったりするのか?」
「いえ、
釣鐘の言葉に動きを止める。駒場利徳。俺は会った事はないが、確かスキルアウトのグループの一つの元リーダーだったか? 浜面がそんな事を言っていた気がする。浜面が飛び出したのはそれが理由か。何よりフレンダさんの妹だ。『アイテム』を大事に思っている浜面が見て見ぬフリする訳もない。『
「……能力者としてではなく狙ったのなら、その理由は何だろうな? 『アイテム』と交渉でもしたいのか、スキルアウトを煽るにしては行動が大袈裟過ぎる。だいたい
「おーかっこいいっスねー、正義の味方のつもりっスか?」
「茶化すな。それは
間違っても正義の味方などではない。そんな事を言ったら本物の正義の使者に鼻で笑われる。ただだからこそ投げられ引き受けた仕事はきっちり熟す。フレメア=セイヴェルンに非がないのであれば、『新入生』とやらはただの暴漢。それも下手なところに手を伸ばそうとしている馬鹿者だ。第三次世界大戦で何も学ばなかったのか。よほど戦いがお好きらしい。
「それで貴方は? 追わないんすか? 『
「追いはするさ。ただ狙撃ね。ゲルニカならまだ別なんだが。高速で動く物体を使い慣れていない銃で穿つのは骨が折れる。大々的にバレる訳にもいかないし、ビルの上を移動して近づこう」
「近くってどこまで?」
「三〇〇〇メートルもあればいい」
「えぇ……」
なんか引かれた。仕方ないだろうに。いくら振動を掴めるようになったお陰で俺の射程が伸びたとはいえ、ゲルニカ程の超遠距離を狙撃可能な狙撃銃となると希少だ。俺の開いた知覚から、使い慣れていない学園都市の狙撃銃を差し引いて考えるとこのくらい。それ以上開くと精密狙撃は不可能だろう。できないにも、やった事がないから無理と、マジでできないの二つがある。これは後者だ。
「ゲルニカなら五〇〇〇メートルでもいける。今はもっと離れていてもいけそうだがな。三〇〇〇メートルで心許ないのは分かるが仕方ない。悪かったな微妙な腕で。ボス程狙撃は得意じゃないんだ」
「それマジで言ってるんスか? 頭おかしいんスか? 心許ないって……西洋の傭兵って皆そうなんスか? うわぁ近江様が聞いたらどんな顔するっスかね……化物?」
「お前には言われたくないぞ。壁や天井跳ね回って壁駆け上がって来るとかお前は無重力世界の住人か? 釣鐘の仲間も、忍者って皆そうなのかよ」
価値観の違い。能力者として学園都市で育った科学の子とも違う、信じる技術の違いである。狙撃手と忍者。技術を信じていてもそれもまた別。壁を駆け上がるなんて当たり前と言うような釣鐘からすれば、それができない者の方が異端であるのか。その感覚のズレに口が緩む。技術の世界も奥が深い。波を掴めるのが俺にとってもっと当たり前になった時こそ、きっと何かがカチリと嵌る。
「仲間っスかぁ、私以外にも勿論忍者はいるっスけど、私裏切ったっスからね。抜け忍を粛清する為の追っ手が来るかと思えば全然来てくれないっスし……、私には殺す程の価値もないのか、はぁ」
釣鐘のため息に小さく肩が跳ねた。裏切り。その言葉が重く肩にのし掛かる。俺は裏切る事などないと心に決めてはいるものの、全員がそうでない事は第三次世界大戦が証明してくれた。
「……釣鐘は、そのなんだ、自分の価値を知るために裏切ったのか?」
「私の価値? まさかっスね、そんなどうでもいい理由で裏切ったりしないっスよ」
「じゃあなんだ。なんで裏切ったんだ? 追っ手が来るのは分かってたんだろう?」
「分かってたからっス。きっと近江様が抜け忍を粛清に来る。貴方も戦場に生きるなら分かるでしょう? 美しい程に凄まじい技巧。ゴミクズのように千切り飛ばされた野犬と同じようにきっと私も殺して貰える。願わくは、切り離された自分の胴体を眺めながら逝きたいと思ってたんスけどね。人間生まれ方は選べない分、生き方には
恍惚とした表情で首元を撫でる釣鐘にガチで引く。死に方に拘りたいというのは分からなくもないが、それで仲間を裏切って殺されたいとは思いたくない。ボスの瞳が俺を射抜き、それと同じように弾丸が額にめり込む瞬間を迎えるなど御免だ。もしそんな風になったら、俺はボスの顔をきっと見られない。どんな顔で引き金を引くかなど知りたくない。それは俺の必死の真逆に位置する。それにしたって思ったよりやべえの勧誘しちまったな……。
「だから感謝はしてるっスよ。あんな檻の中で寿命をすり減らすのは退屈っスからね。私の望む最後を手にできるチャンスを貰えたようなものっスし」
「……そんな感謝ならあんまり欲しくはないな。他人の生き方にあまり口は出したくないが、俺の仲間になったならできれば裏切らないで欲しいもんだ」
「まあ裏切る理由そんなにないっスしね。もう近江様にとって私は敵っスし、近江様に出会えるまでは働くっスよ。学校に行けなければ住む場所もないんスし」
「……その近江様とやらが誰かは知らないがご愁傷様だな。俺だったら……いや、いいか」
「それじゃあ張り切っていきましょうっス! 私も鈍ってる体を解したいっスし、大丈夫っスよ、どうしようもなく貴方に殺されたいとでも思わない限りは裏切らないっスから」
なんか不吉な事を言っているが、裏切りなどと一々頭に置いていては動けなくなるだけだ。ある程度の信頼がなければ連携も取れない。裏切りなんて俺はもうこりごりなのだが、裏切り者と相対し穿つ機会は永遠に失われた。黒子に青髮ピアス、土御門に浜面達がその機会を奪ってくれた。どこかホッとしている自分がいる。やらなければならないと分かっていても、やり切れない時はある。
「……釣鐘、もし裏切りたくなったら真っ先に俺に言えよ、その時はきっちり俺が相手をしてやる」
ただどうしてもその時が来たのならば、誰かにあげたりはしない。取られるならまだしも、目の間に立たれたなら。壁に立て掛けられていた学園都市製のメタルイーターM5を手に取り、必要な弾倉の詰まったリュックを背負う。
「んー……手裏剣とかないっスか? ナイフはそこそこ揃ってるっスけど、銃ってあんまり好きじゃないんスよね。発煙弾はいただきっス!」
「手裏剣とかそんなゲテモノ兵器取り揃えてる訳ないだろう。今は万全に装備を整えられない。だからお前を勧誘したんだ。『
「大した自信スけど、それは私も今回で見定めさせて貰うっスよ。世界最高峰の傭兵の実力ってやつを」
柔らかく笑う釣鐘だが、さっきの望みを聞いた後だと、向けられる笑顔が少し怖い。忍者って奴は全員そうなのか? そんな事もないと思うが、そんな事がないからこそ、折角引けた有能ではあるらしいカードの毒が目に付く。そもそも完璧超人であったなら、少年院にぶち込まれていないだろうから当然ではあるのかもしれないが。
扉を開けて屋上へ急ぐ。土御門が指定し武器を用意してくれていた廃ビルの屋上。ロシア程ではないが、冬に程近い寒さの風が肌を撫でる中で、口から漏れ出た紫煙が風に攫われる様を見つめて風の流れを読む。双眼鏡を時折眺めながらビルの上からビルの上へ。軽々と飛び移る釣鐘と比べると、俺の動きは重々しく思える。着地の違いか。それを眺めて立ち上がると、釣鐘はスカートの裾を抑えた。
「……どこ見てるんスか?」
「邪推はよせ。お前の動きだ。よくもまあそんなスルスル飛び回れるなと。風に舞う羽の如しか?」
「それを言うなら貴方だって。スピードはなくてもその分頑丈みたいっスし。顎を蹴り上げた時もそんなに効いてなさそうだったスし、時の鐘は人型の軽戦車っスか?」
言い得て妙だな。ロイ姐さんなんかは正にそんな感じだ。ただ軽戦車と言うよりは重戦車な気もするが。それなら確かに俺なんかは軽戦車なのだろう。振動感知機搭載の。俺の名が刻まれた白銀の砲身を持つ軽戦車を思い浮かべて馬鹿らしいと手で振り払う。そんな緊張感に欠ける頭を、不意に空を揺るがす爆音が引き締めた。
「……ッ、おいおい」
さっきまで出て行った
「……ありゃなんだ?」
形状は単車。ただ単車と言うにはあまりにも無骨で、叩き出している速度が尋常じゃない。ジェットエンジンの爆炎の尾を引き地を飛ぶように走る姿は、『
「どうしたんスか急に笑って? あんなの当てられる訳ねえやの諦めっスか?」
失礼な奴だな。まあゲルニカや『
「『
魔術でもなく、超能力でもなく、世界から浮いたような科学技術を使う事を躊躇わない男こそ、『
鼻を鳴らして双眼鏡を覗く釣鐘を横目に、メタルイーターM5を握る手に力が入る。あんな姿を見せられて燃えない筈はない。浜面も新たなものを積み上げている。ただ見ているだけなど勿体ない。笑う俺を気味悪いものを見るような目で見つめてくる釣鐘の脇を抜けて、メタルイーターM5の肌に手を添えた。
「ここで撃つんスか? なんかトンネルに入ってっちゃったっスけど、あの速度で飛び出されると当たらないでしょ流石に」
「いや、もう少し走ろうか。だが浜面が行った、きっと止めるよ。釣鐘は知らないだろうがな、あいつは届けると言いベルンからチューリヒまできっちり俺達を届けた。浜面の過去など俺はよく知らん。だから俺にとって浜面仕上という男は、過程がかっこ悪かろうが必ずやると言ったことを遂行する男だ」
「……信頼っスか」
「知ってるだけさ、見てきたからな自分の目で」
自分の目で見たものこそを信じる。スキルアウトのハリボテリーダーだの、誰でもない
『孫っち、浜面が『新入生』の一人を倒した。
「俺も土御門から通信を貰えて助かったよ。後は任せろ」
通信を切り第一九学区へ足を向ける。いい加減眺めているだけは我慢できない。多少気の逸る心を揺らしながら、ビルの屋上から跳び出した。
第一九学区。
他の学区と違い再開発に失敗したと言われる学区。それでいいのか学園都市と言いたい気もするが。どれもこれも最新を揃える必要はない。スイスのベルンにも旧市街地区があるように、今が大事であろうとも、切り離せない『これまで』がある。それを目に見えるように置いておくというのは、過去を思い返すのに大事な存在であるのは確かだ。何より第一九学区は、真空管や蒸気機関など『すでに市場から見放された技術』をもう一度研究し直す事で、最先端技術の開発に繫がるのではないかという考えの元、わざと学区の一つを寂れさせ、古い技術の実験場にさせているといった噂もある。
未来ではなく
わらわらとデパートに群がろうと動く
「さぁ、釣鐘や土御門のおかげでここまで来れたんだ。そろそろ俺も働かなければただの観客だ。それは嫌だ。土御門にも帰って来た事を教えてやれと言われたからな。久しく使っていないボルトハンドルじゃない銃なだけに手荒く派手に使ってやろう」
「いや……使ってやろうってそれ対戦車仕様のフルオートライフルっスよね? 立ったまま撃ったら吹っ飛ぶっスよ?」
「誰に言ってる? アバランチシリーズだの、ゲルニカや『
足を振り上げ屋上の床に突き落とす。コンクリートの床を踏み抜き埋まった俺の足を見て釣鐘は大きく口端を下げた。衝撃を骨で感じて可視化する事が可能な今の俺なら、受ける衝撃を体に流しその衝撃を使って固定する事もできるはずだ。試しに一度引き金を引き、衝撃の具合を確かめる。デパートの外壁に張り付いていた
──ッッドンッ!!!!
「だぁめだ、調整が難しいな。後もう十回程試してみれば取り敢えず連射はできるかな? フルオートで撃つとなるともう少し試したいところだが」
「……あぁ、そっスか、普通に当るんスね」
「距離にして今は約二七〇〇、当たるさ」
狙うのはカメラや関節、硬い装甲を叩きまくっても効果は薄い。足一つ折るだけでも、
ふーんと唸りながらニヤケている釣鐘は視界に入れないようにして、弾倉の一つを吐き出し終え、マガジンを捨てて新しいのを寄越せと釣鐘に手招きする。投げ渡されるマガジンを受け取り装填。その最中に響く銃声。デパートの内側から吹き飛ぶように出て来た
「誰だ? 音からして同じメタルイーターM5。悪くない腕だな。浜面の知り合いに面白いのがいるらしい」
「時の鐘っスか?」
「いや、俺の知ってるボスや兄さん姐さんなら、もっとえげつない。銃撃のリズムを聞けば分かる。そろそろやるぞ」
──ドドッ! ドドッ! ドドドドッ‼︎
引き金を押し込み続け、疎らに連射し蜂の巣にする。フルオートライフルは便利ではあるのだが、どうにも弾丸に心を詰め込みづらい。弾丸に想いを詰めて何が変わるという訳でもないが、不思議とその方が精密な狙撃ができる。心技体が武の基本とするのなら、狙撃であろうとも通じている部分があるという事だろうか。空になったマガジンを捨て、投げ渡されるマガジンを装填。息を吸って息を吐く。
乾いた唇を舐め、鼻を擽る硝煙の香りを軽く息を吐き出し散らす。ガラガラと大地に転がる
「なんスか、あれ」
「なんだろうね、ただ、前側の脚のカバーに書かれてるぞ」
────
大覇星祭に時にも見た、全長五メートル程の
『FIVE_Over. Modelcase_"RAILGUN"』
ご丁寧に教えてくれている。
──ヒュッ!!!! ッッッッッ!!!!
息の詰まったような鋭い音が、銃声や他の
「相変わらず、無茶苦茶っスね学園都市は」
「全くだ。見ろよあれを。気付いてるのか気付いてないのか、俺達など脅威ではないと言うように完全無視だ。考えれば、フレメアさんの人脈を狙っての動きなのだとしたらば、浜面も浜面で相当だしな。『アイテム』に『
「……法水さん?」
それを積み上げた技術は素晴らしいだろう。ただ容易く、第三位を、あの
「単純な火力ならなるほど、御坂さんより上かもなぁ。だがそもそも御坂さんの使う
「……あ、あのぉ、ちょっと? 聞いてるっスか?」
懐から取り出した
なるほど、羽の超音波の振動で渦のような気流を生み出し、それに乗って浮いていられる訳か。目に見えない緩やかな竜巻を纏っているようなもの。ただ漠然と撃ってもそれに弾かれ当たらない。ただ流動的なだけに必ず穴が生まれる。
ガチリッ!
相変わらず宙に浮き全く俺を警戒しないのは、積み込まれているAIの所為だろう。他の
────ッッッドンッ‼︎
「よし」
連射でもなく一発なら、嫌という程撃ってきた。今は放った弾丸に目が付いているかのように動きも掴める。five overに向かって足を進める弾丸は、蟷螂を覆う緩やかな風のカーテンの内側へと身を突っ込むと、その風に乗るように加速して羽の付け根に突き刺さる。
ガガッ!
と、身を硬ばらせるように動きを止めたfive overは、その重さを支え切れなくなり地に堕ちる。身に纏っていた風に逆に体を掻き混ぜられ、不自然な形でコンクリートの大地に突っ込んだ機械の体。精密であればある程に、何かがズレれば動けなくなる。人間が重要な骨が一本ズレるだけで動けなくなってしまうように。死に掛けの蟲のように足をヒクつかせるfive overを軽く見つめ、スコープから顔を外して
「ダルマさんが転んだだ。一生転んでろ。常識の一線を越えられるのは機械だけじゃないんだよ。人間を、
「えぇ…………」
釣鐘の「まじっスか……」と零した笑い声はすぐに風に攫われてしまい、俺は煙草に火を点けた。
釣鐘茶寮さんとドライヴィーは多分同じタイプの人間。そんなドライヴィーと孫市は親友。つまりそういう事です。旧約は孫市にとってのスイスに重きを置いた話だったので、新約は孫市にとっての日本に重きを置いた話になると思います。