「な、なんっ、なんなんなんなん何なんだ今のっ!? サイボーグの亜種か何かか!?」
「敵側に強い恐怖と高い治療費を与えるために、敢えて生かしたまま肉体を壊して捨て置く戦略がある。片足だけを吹き飛ばす対人地雷をばら撒くとか。あれも多分その一種! 死体を加工するのとはまた違った思想で運用しているはず!!」
「そんなデジタルなもんかね!? 趣味と娯楽ですって思いっきり顔に書いてあったように思えるけど!?」
「あれはダメなヤツだ、あれはダメなヤツだ、戦闘狂やシリアルキラーなら俺も慣れてる。が、アレは別の世界の住人だ間違いない。スプラッタの相手はいいが、ホラーの相手は畑違いだッ‼︎ 殲滅白書を呼んでこいッ‼︎」
「君はもう何を言っているのか分からないぞッ‼︎」
ただ莫大な力があるような相手ならこれまで何度も見てきたが、胎児のバッテリーを量産して使っていた
「いやー駄目駄目。つーかね、言ったじゃん。切り札のシギンの事を聞かれちゃったら口を封じるしかないでしょもー」
「言ってたっけッ⁉︎ おいあの女自分から切り札バラしながら追って来るぞッ! どんな頭してんだいったいッ⁉︎」
「マトモじゃないのは確かだろうさ! 知らないとでも言えばいいんじゃないのかね!」
「シギンなんて知らねえよッ!」
「ヤダなー、シギンて言ってんじゃん」
「お前の所為だよッ⁉︎」
────ギャリギャリギャリンッ‼︎
少女が追ってくる。
「なんだ……こ、れッ、マズイッ⁉︎」
「な……ッ⁉︎」
壁が突如隆起する。慌ててメイドの肩を掴み引き寄せれば、メイドの元いた位置に壁から伸びた四角い柱が突っ込んだ。鼓動を感じる四角い柱。壁を鋸で擦ったのがコレの合図だったのか、無数の鼓動が廊下内から湧き上がる。質感、色、見た目、どれも通路の壁と同じでも、伸びる四角い柱はどれも元人間。
鼓動のおかげで場所は分かる。場所は分かるが────。
「ふざけろッ!」
動きが読めないッ‼︎
呼吸、骨や筋肉の軋み、鼓動、多くの波を掬い取り相手のリズムを知る事ができようが、それは相手の形が人であるから。形の決まった機械であるから。木山先生は経験から無意識に予測を弾き出しているのだろうと教えてくれたそれは、柱の形に加工されている人間相手に働くものでもない。四角い柱型の人間の相手など初めてだ。
どっちだ⁉︎ 学園都市の兵隊か? バゲージシティの兵隊か? それとも……ッ‼︎
関係ないナチュラルセレクターの参加選手であったならば、そう考えてしまうだけに
「その状態で『生かして』おくのって大変なんだぜ? だって四角いし。いつでも戦えるように、あっちこっちに置いておいたんだ。でもって感覚器官は宝の持ち腐れだから、センサーとして兼用させていたんだけど……やっぱり使い回しは良くないか。さっきも『木原』とかいう車椅子にすり抜けられたし。目や耳は生きているはずなんだけど、情報を処理する自我の方が『正しい今の自分』を見る事を拒否っちゃってんのかね」
閉じられた鳥籠を俺達は破らない。そう判断したからなのか、魔術師の少女はにやけた口を隠すこともなく追っていた足を緩めて此方に歩いて来る。ゆっくりゆっくり一歩ずつ。俺達の置かれた状況を教え込むように言葉を並べながら。
「出ていくんなら障害物を壊せば良いと思うよ。まーそれってつまり生きている人間の胴体を真っ二つにする事と同じだから、ちょっとばかし苦労すると思うけどね。多分、スーパーで売ってる包丁ぐらいじゃ刃こぼれすると思うなあ、背骨の辺りで。まず鈍器で骨を砕いてから切断にかかるべきだろうけど、それにしたってぬめった脂肪が絡み付くと切れ味も鈍るしね」
「そうかい、で? どっちだ?」
「どっちって何が?」
首を傾げた少女へと振り返り、拳で軽く壁を小突く。
「この壁の素材は学園都市の部隊の連中なのか、それとも別なのかさ」
「学園都市の連中って言ったらどうする気?」
「問答無用でブチ破る。殺しにやって来てるんだ。殺されたって文句あるまい? 刃物なんて気の利いたものはないが、元が人体なら爆薬でも使って吹き飛ばせばいい」
「罪悪感とかないのかね?」
「それは死んだ後の俺に任せる」
「なるほどそれがアンタかい。一目散に逃げたと思えば、トールが気にしてただけはあるのかな? 業が深いねアンタも」
「お前にだけは言われたくないな、業が深いって俺よりよっぽどだろうよ。それに……」
トール。雷神トール。ふらりとやって来て『グレムリン』の名を告げた男。その名を口にすると言う事は、この魔術師もおそらく同じ魔術結社の一人。何人の『グレムリン』がここに居るのか知らないし、何をやっているのかも分からないが、立ちはだかるのならばやる事はいつもと変わらない。脅威が俺に向かって立っている。なら脅威に向かうだけ。勝算の低い戦闘などできれば御免被るが、逃げ場もないなら腹を決めるしかない。
「で? 答えは?」
「言ったらアンタ迷わなそうだしね。言うと思う?」
「だろうな。ただ俺もやるからには手を抜かない」
「ヤダヤダ、私は戦闘向きじゃないってのにさ。やると決めた途端目の色変えるようなのとやりたくないってね。アンタの対策は『グレムリン』だって考えてる。それにトールは乗り気じゃなかったけど、いない奴の事気にしても仕方ないじゃん?」
少女はただくるくると鋸を手の内で回して寄って来ない。一歩足を前に出せば一歩下がり、二歩足を出せば二歩下がる。絶対に一定の距離を崩さぬように付かず離れず、距離を潰せないならと狙撃銃に手を伸ばそうとしたところで、魔術師は金槌で壁を小突き、壁から飛び出した骨の弾丸が俺の手を擦り止めさせた。
「逃げようが突っ込もうがアンタは合わせてくる。だから一定の距離を保ってダラダラやってやればいい。下手に必死になると並んで来ようと躍起になるからね。呼吸を制限するようなものさ。切れた息じゃ
「……あぁそう、一対一ならそれでもいいかもしれないけどな。生憎こっちには三人いる。お前のやる気がないのなら、回れ右して返ってくれ。そうでないなら……」
「仕方ないから私が並ぼう。異能相手なら私の方が慣れているのだしね」
園芸用スコップ型のクナイを構えて苦い顔で僅かに足を下げる近江さんの気配を感じながら、メイドと二人で並び立つ。別に魔術師に合わせる事もない。隣に立つ者と呼吸を合わせればいい。メイドが気を引いてくれるなら、狙撃銃を使う時間が作れる。息を吸って息を吐く。メイドとリズムを合わせるように。
「見たところ奴の武器は一撃決殺。掠っただけでどうなるか分からないぞ。本来なら超長距離から一方的に仕留めたいような奴だ。が、どうやらそれをさせてくれそうにない」
「その分君に気を割いているってとこだろうけどね。人体内部に潜り込むナノデバイス……いや違う。細胞の浸透圧を利用して、外部から触れただけで人体の奥深くまで細胞単位での連鎖改造を施すハイテク医療器具かな?」
「大ハズレだよこの野郎。そもそもこいつは人体専門じゃなくて、工具の一機能を使って人体をいじっているに過ぎない。でもまー理論がハズレているのに結果が正しいってのも一つの才能か?」
それが本当なら、かなりギリギリの打撃戦を展開する羽目になる。攻撃に当たらず当てればいい。言うだけなら簡単だが、最悪相手は捨て身で一撃でも掠らせればいい訳だ。引き起こされる効果は違かろうが、要は毒使いと戦うようなもの。毒ならドライヴィーがよく使っていたが、毒入りナイフなど常套手段の一つではある。俺が飛び込み離れるなら、どこに誘導されるか分からず、動かなければ人骨発射台から動く事はないだろう。
「消極策だね。私の工具から逃れるには距離を取るのが一番だろうけど……リーチを確保しつつの一撃で完璧に敵を沈めるって難しくない? ただ困った事にそれができる相手が一人居るけどさ、魔術師でも能力者でもないのに、そういうのがある意味一番邪魔だよね。でもその一人をこっちは気にすればいい。……ここから先は言わなくたって分かるよね?」
メイドに飛び込んで来いと言っている。できるなら魔術師の少女はここで俺達三人を潰しておきたいのだろう。それができる自信があるのか。妖しい微笑を浮かべる魔術師の少女の姿が鼻に付く。ただそれを気にせずに、メイドが一歩足を出す。
「大丈夫。こんなのはただの詰将棋だ。私に任せておきたまえ」
微笑みを残してメイドが身を倒し加速する。それと同時、金槌で魔術師の少女が壁を叩き、壁から生えた四角い柱が俺を押し潰そうと隆起した。僅かに身を捻りメイドの背を追おうと顔を向けた先で、黄金の瞬きが視界の中で踊り、慌てて首を捻った目の先を黄金の鋸が横切った。背後の四角い柱が作った壁に突き刺さり、再構成された柱が弾け俺の身に向けて次々に伸びる。
あの野郎ッ! 一手損して武器一つ捨ててまで俺の足止めを優先するかよッ‼︎
異能に怯えたような近江さんは無視。逆立ちするように両手で立つメイドの回し蹴りが、魔術師の顎を刎ね上げる。その姿を最後に目の前を四角い柱が通過し、舌を打ちながら肩を擦るように伸びる柱を転がるように後ろに避け、横に滑って次々伸びる柱から逃げた。
「腱にダメージぐらいは入ったかね?」
「たかが、二腕二脚の『未分類』が……ッ!!」
くそッ、破壊音の中でメイドと魔術師の声だけが響く。伸びた柱が初め投げられた鋸を魔術師の方に向けて弾き、戻って行く鋸に合わせてメイドの名を叫び横から伸びた柱を身を仰け反らせ避けた。
一手でどんな設定したんだあの野郎ッ! 柱の嵐が過ぎ去った後、閉じられていた通路は開いたものの、床に静かに人の身が落ちる音がする。頭から血を流し倒れているのは
「ったく、手痛い出費だったけど、これでチェックメイト。これがアンタの弱点の二つ目だよね? 動いたらこの子殺しちゃうよ? 一般人を見殺しにする気? それが嫌ならゆっくりこっちに歩いておいで。テーブルや椅子じゃもったいないよねー? 懐中時計にしてあげようか。肌身離さず持っててあげるよ」
「お、前ッ‼︎」
「お優しいよね。傭兵だとか言ってもアンタは絶対にその一線を超えない。私を殺す? でもその代わり何があろうとも私はこの子は殺す。そのくらいは私にもできる。詰みだよ傭兵。後悔してる?」
奥歯を噛む。噛み締める。メイドを気にさえしなければ、魔術師を殺れる。それは間違いない。間違いないが、代わりに確実にメイドが死ぬ。他の手はッ? 他の手はッ……ない、な。
……後悔。考えても考えても、湧き上がってくるのは後悔ではない。ただ冷たくなった吐息が口から漏れた。
終幕……か。
「……するかよ。あぁ、しない。……そんな事もある。ただ俺が足りなかっただけだろう。後悔するとしたら……あぁそれだよ。俺の積み上げが足りなかっただけさ。その一線だけは……超えちゃならない。超えちゃならないんだ。俺が俺でいる為にな。……最後なら、お前の名前くらい教えてくれてもいいだろう?」
「マリアン=スリンゲナイヤー」
「そうか……ただ約束しろマリアン。俺が寄ったらメイドは見逃せ。必ずだ。それだけ約束してくれるなら……俺は行くよ」
「思ったよりさっぱりしてるね。……ふーん、トールに自慢しちゃお」
ニヤける魔術師へと肩を落として足を出す。不思議と足は重くない。想像よりも終わりが呆気ないからか? それとも必要な道だけは外れなかったからか? いずれにせよ……こつりッ、と出した足がふと重くなって目を落とす。胸ポケットに手を伸ばす。ライトちゃんではなくその奥に、名前を呼んでくれるライトちゃんに微笑み、二つの指輪を取り出して手の中で軽く転がした。
「……『グレムリン』、お前ならここから抜け出すのも容易いだろう? この指輪を学園都市にいる白井黒子って子に渡してくれないか?」
「何それ、立場分かってる?」
「分かってるよ。だからこれは……ただのお願いだ」
「捨てるかもよ?」
「……それなら……それでもいいさ」
ただ一番の可能性に賭ける。これだけは最後に届いて欲しい。浜面に釣鐘を引っ張っておいてほっぽったままとは、非道い支部長だとも思うが、これだけは、踏み外せない。
投げた指輪をマリアンが手で掴むのを見届け、
「……はぁ、やっぱり無茶はしないで分は弁えるべきだったかね。面倒なのは時の鐘だけだと思ったのに、一般人と思って油断した。シギン、さっさと出ろ、ちくしょう。あいつの『助言』なしで『木原』とかいうのにかち合ったら面倒だっての」
目は俺から逸らさずに、唇を尖らせるマリアンに向けて足を出す先で視界が傾く。
「ちょっと! なに……やって?」
傾いた中で首を傾げたマリアンの目が、メイドでもなく俺でもない、別の方向へと向いた。その目を追えば、へたり込んでいる近江さん。細かく口を動かしている近江さんに向いている。中途半端でない一級の異能を前に近江さんの頭は考える事を止めたのか?
「……マリアンちゃん……そこから…………逃げるの。ひとまず逃げて。雲川鞠亜達が単独で動いているという保証はないんだし。仮に増援がある場合、あなたの右足はかなりの弱点になるよ。だからひとまずは現場から離れ、テーピングなどで右足を補強するところから……」
「シ、ギン……? 何だ? 何でアンタがそんな口真似を……」
シギン。マリアンが口にした切り札の名を、今一度マリアンは口にする。それが何故今出る? 近江さんはずっと俺と一緒に居た。シギン何某とやらには会っていない。それを知る機会があるとするなら、初めから知っていたか、他の生き残っていた甲賀が捕らえたのか。
いつ? どこで? どうやって?
重く
「駄目だな。この程度の異能の力なら、甲賀の一部として組み込む意義は薄そうだ」
怯えは消え、恐怖も消える。首の骨を鳴らしながら、近江さんはポケットから不出来なティーパックのようなものを取り出し床へと捨てた。水っぽい音を床に立てるそれから漂う匂いには覚えがある。アルコール。それも相当に純度が高い。
「度数は七〇度前後。ただし一口にエチルアルコールと言っても、蒸留の仕方で性質は大きく変わる。これは悪酔いのエキスパートといった所だ。まともにグラスで吞んだら象でも倒れる。元々は追跡用の犬を撒くための忍具だけど」
そうずっと。
ずっと近江手裏のリズムは変わらない。
釣鐘と同じ。表情や態度をコロコロ百面相のように変えようとも、その内側は絶えず凪いだ水面のように静かで鏡のように滑らかだ。
忍者の技術。耐え忍ぶ事。
振るう技術も素晴らしいが、それより尚、身の内に沈めた精神性こそが忍者の技術。そもそも釣鐘がとても及ばないと言ったような技術を誇る近江さんが弱い訳がない。それは分かっていたつもりだったが、俺の想像よりもずっと上。だいたい俺より戦場の経験の長い近江さんが、空想の忍術を本物にすると言い切った近江さんが、あぁくそッ、騙されていたのは俺もかよ。
「甘いな法水、日本人なのに忍者のなんたるかを知らないらしい。それを私が教えてやる。だからそれ以外を教えてくれ。……それに、その甘さは嫌いじゃないよ。余計に気に入ったよアンタのこと」
「近江、さん……俺……まだ……言ってない…………事……釣……が」
「何かは知らないがそれは後でゆっくり聞いてやる。そのメイドはお前に任せたぞ。私は仕事だ。なぁマリアンとやら、もっと見せて。甲賀がその内側へ組み込むに相応しいと思えるような異能の力を」
近江さんが一歩を踏む。マリアンが覚束ない手で鋸を壁へと振るうが、四角い柱はもう出ない。そうか、元が人であるからこそ、俺やマリアンのように四角い柱も酔って言う事を聞かないのか。そうか……絶対に勝ちを確信するまで動かない。耐え忍び、情けない弱者の姿も全て演技。強者、脅威に対する脅威として振る舞う時の鐘とは真逆。
これが
「それができないなら……用済みって判断するぞ」
近江さんの姿が搔き消える。床を蹴る音だけを残して。マリアン=スリンゲナイヤーを極東の傭兵が嬲るように追撃する。忍者怖い。帰ったら釣鐘にもうちょっと優しくしよう。獲物と狩人が逆転した。今の近江さんを止められる者は誰もいない。揺らめく意識を頭を叩いてなんとか正し、床に倒れたメイドの肩を担いで移動する。どうにも頭が上手く回らない。マリアンをどうにかできたところで、今襲われたら完全にアウトだ。
どこを歩いているのか分からずふらふらと、
「うっそ、君時の鐘? やっぱり無事だったか、流石瑞西の悪魔って言っとくべき? って、ちょっと大丈夫?」
サフリー=オープンデイズ。ナチュラルセレクターの選手の一人。敵か味方か。マジで心配そうに顔を覗き込んでくるあたり、少なくとも敵ではないらしい。そんな女性の顔にふと腕の力が緩んでしまい、メイドを差し出すようにサフリー=オープンデイズの前へと押し出す。
「おっとっと、この子頭怪我してる。取り敢えず医務室に運ぼうか。君も来る?」
口を開くのが怠いので小さく頷きメイドを担いだサフリーさんの後を追う。取り敢えず、ごちゃついた頭で思う事はただの一つ。
マリアン=スリンゲナイヤーに投げ預けたまま指輪持ってかれちまった……返して……。
くそッ。
思い返す度に重たい感情が渦を巻くように体の内側でのたうち回る。
医務室。サフリーさんに連れられてやって来た部屋には、サフリーさん以外にミストレイ=フレイクヘルムと言うお嬢さんと、オーサッド=フレイクヘルムと言うアンテナ塗れの大男が共に居た。
メイドの様子を伺うサフリーさん達とは少し離れた医務室の壁の前で腰を下ろし、
弱点。一般人を殺せない事が弱点だと。
「……うるせぇ」
それだけは超えないと誓った。仕事でないからこそ明確に。傭兵を始めた頃よりもずっと強固に。御坂さんに止められて、多くの友人ができたからこそ。その一線だけは裏切れない。例え俺の命が天秤に乗せられようが、それだけは何にも増して重い。一般人を殺すという事は、黒子や飾利さん、木山先生、上条に銃口を向けているのと同じこと。
それを許せないのなら、積み上げ続けるしかない。そもそもそんな事態にならないように、強くなる以外ありえない。今回はたまたま運が良かっただけだ。これまでだってそう。いつ同じように誰の命に刃が添えられるか分からない。それが悔しい。それなら友人を作らない方がいいのか? 学園都市に来る前のように。今更それもありえない。見て知ったから。その輝きを。それでも戦場に立つからこそ。
積み上げ積み上げ積み上げ積み上げ積み上げて。
────ガシャンッ!!!!
ボルトハンドルを引き弾丸を込める。息を吸って息を吐く。構える。呼吸のリズムを一定に、余計な思考を頭から削ぐ。息を吸う。息を吐く。息を吸う。止める。
「ちょ、ちょっと」
「……撃たないよ、リズムを整えてるだけだ。乱れたリズムを」
サフリーさんの戸惑った声に応え、今一度狙撃銃を膝の上に置く。誰に合わせられないのなら自分に合わせる。まだ上があるのなら俺は並ぶ。他でもない俺が望む俺に。理想の俺に。完璧の俺に。言い訳の及ばない場所に俺は立つ。魔術でも超能力でもない技術で。
他でもない近江さんも、ボスも、他の時の鐘も、『木原』とやらも技術側の人間だ。科学サイドや魔術サイド、どちらかに寄っていようとも、振るう技術に嘘はない。
これまで別に考えなかった。
学園都市の最強や、魔術師の中での最強。あらゆる分野に頂点が居ても、別に『強い』という枠組みにいれば、『最強』など必要ないと思っていた。狙撃手や魔術師、能力者として俺は最強にはなれないだろう。ただ、何かしらの『最強』であると言い切りたい。『強さ』に言い訳が欲しくない。俺の技術、振動と波紋の狭い世界の中でならきっと────。
「痛っつつ……」
メイドが頭を抑えながら身を起こす。それに声をかけるサフリーさんの声を聞きながら、息を吸い、吐き、止め、狙撃銃を構える。それを繰り返す。ただ静かに、自分のリズムと合わせるように。でもそれで合わせられるのはこれまでだ。必要なのはきっともっと深く。もっとずっと奥底の。もっともっとずっとずっと。
「……君に借りができたかな? 途中まで引っ張ってくれたのだろう?」
「……俺達を助けたのは近江さんだ。俺は何もしていない。何もできなかった。お礼は近江さんとサフリーさんに言ってくれ。悪かったな、俺は弱かった」
「でもここまで来れた。君達が居てくれなきゃ何度死んでたか。プライド折れそうだよ。私はこんなに弱かったかってね」
「ならお互い様か? 弱さを知ったなら、それをそのまんまにはしておけない。今からでも少しずつ強くならなきゃ、一秒前の俺よりも。雲川さん、次はきっと穿つさ。時の鐘は外す訳にはいかないんだ」
「初めて普通に私の名前を呼んだね、雇ってくれる気になった?」
「それとこれとは話が別だ蛍光メイド。少しだけほっといてくれ、この医務室を出る頃には、余計なものは削っておく」
肩を竦めて離れていくメイドとサフリーさんの会話を聞き流しながら、息を吸って息を吐く、止め構える。それを何度も繰り返す。
俺は並ぶ。並んでみせる。
これまでのように追い続け、積み上げ削り研ぎ澄ませ、どれだけ時間が掛かろうと完璧な俺に。
いや、別に本編とは関係ないんですけどね、とある科学の超電磁砲とアストラルバディ見て思ったんだけど、黒子の相手にやたら忍者が多いんだけどなんなんだろうほんと。一人だけ忍法帖みたいなことやってる。最早黒子が忍者だよ。だから時の鐘の新約で忍者の仲間が増えるのはきっとおかしなことじゃないなと思いましたまる。