時の鐘   作:生崎

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幼女サイボーグ ⑦

 雷の塊は質量を持って鉄の床に大穴を開けた。轟く雷鳴と視界を横断する極大のジグザグが縦横無尽に飛び交う。

 

 俺の意識が一瞬飛び、背中に感じた大きな衝撃が意識を戻した。ただ落ちて来ただけでこれ程の衝撃。宇宙戦艦と闘った鉄人の比ではない。画質が下がったような荒い視界の中、光る六つの目が空いた穴からせり上がって来る。

 

 ──ゴゥンッ! 

 

 引き金を引けば鐘を打ったような銃声を上げて、変わらず相棒は弾丸を吐き出してくれる。『雷神(インドラ)』に向かって突き進む弾丸は、しかし『雷神(インドラ)』に近付くと狂ったように進路を変えて、床に勢いよくめり込んだ。

 磁力だ。

 二度目に『電波塔(タワー)』を狙った時や御坂さんに弾丸を放った時と同様、雷撃で撃ち落とされるわけでもなく、見えない力で捻じ曲げられる。

 

「ふざけてやがる! 銃は通用しないし近づけば丸焼きになっちまわい‼︎ ドライヴィー‼︎」

「……右」

 

 俺と同じく壁まで吹き飛んでいたドライヴィーがそう言いながら右の壁を指差した。壁に取り付いている高さ二メートル程の長方形の凹み。扉で間違いない。距離は二十メートルくらいか。穴の縁に大きな手を掛けて身を上げる『雷神(インドラ)』を避けて辿り着けるとは思えない。その奥で余裕そうに座る『電波塔(タワー)』の笑顔が最高にウザい。銃弾を放ってみたが、弾丸は『雷神(インドラ)』に吸い寄せられるように軌道を変えて稲妻に溶かされてしまった。

 

「捨て身で走るか」

「……パイナポー」

「手榴弾! 持って来てたのか! でも効くかな」

 

 四つの手榴弾を取り出すドライヴィー。

 あまり効果があるとは思えないが、目くらましにはなるかもしれない。手榴弾を二つ受け取り、ドライヴィーと目配せしてピンを抜くと四つの手榴弾を『雷神(インドラ)』へと思い切り放り投げた。野球のピッチャーが投げるような豪速手榴弾は、『雷神(インドラ)』の手前でピタリと止まると、『雷神(インドラ)』は物珍しそうに手榴弾を覗き込んだ。『雷神(インドラ)』が六つの目を近付かせた瞬間、四つの手榴弾は音を立てて破裂し、黒鉄の肌に炎の手を伸ばす。

 

 炎の晴れた先、黒鉄の肌に薄っすらススを貼り付けるだけで装甲は傷付いていないらしい。だが、『雷神(インドラ)』を驚かせるには十分だったようで、手を離して顔を覆ったお陰で『雷神(インドラ)』は穴へと僅かに落ちる。

 

「何やってんだあれ」

「……チャンス」

「ああ今なら行けるな! 手榴弾は!」

 

 ドライヴィーからまた一つ手榴弾を渡してくれたが、それで首を横に振った。ドライヴィーが手に持つ一つと俺が受け取った一つで最後。走りながらもう一度『雷神(インドラ)』に向かって手榴弾を見舞う。もう一度同じようになれば扉まで辿り着くには十分。しかし、『雷神(インドラ)』に向かった手榴弾は、今度は受け止められる事はなく、『雷神(インドラ)』の手前で反対側に折れ曲り俺達の方へと真っ直ぐに飛んで来た。

 

「おわあ⁉︎ マジかよ⁉︎」

 

 ドライヴィーが軍服の上着を脱いで手榴弾へと放り投げる。防寒、防刃、防弾、防爆。あらゆるものに耐性を持つ時の鐘の軍服だが、爆発の衝撃を受け止め切る事は出来ず、衝撃波によって俺とドライヴィーを扉に向かって押し出した。

 

「ラッキ、いッ⁉︎」

 

 扉の手前で止まるわけもなく、俺とドライヴィーの体重を爆風と共に受けた扉は簡単にへし折れ、その先へと俺達を放り出す。残った衝撃は鉄の壁に体を受け止められ、硬い床へと転がせられた。上に向いた視界に映るのは、終わりの見えない鉄骨の螺旋階段。

 

「走れるか!」

「……問題ねえ」

 

 頭を振ってなんとか立つ。

 壁にぶち当たったお陰で肩が外れてしまったが、それは急いで壁に肩を打ち付けて自分で嵌め込む。

 今は逃げるが勝ちだ。

 脳裏を過る『電波塔(タワー)』の笑顔に舌を打ちつつ、鉄骨階段を上っていく。少なくとも地下十数階分の階段。どれだけ上れば終わりが来るのか。

 

「こらこら、折角来たのにもうお帰りかい? とミサカは落胆」

 

 階段内のスピーカーから耳障りな声が聞こえてくる。それに合わせて下から轟音が響き、下を見れば六つの光が俺達を見上げている。それがゆっくりと手を伸ばし、壁を抉りながら上って来る。触手のように蠢く雷が、長い筒状の階段内を駆け巡った。

 

「いぃいぃい、痺れれ」

「……でたたらめめ」

 

 鉄の階段を通って俺達の体を稲妻が打つ。皮膚を裂いて血が滴れ、右手の傷もこじ開けられた。ただ零れ落ちた余剰の電撃でこれだ。よく下を見てみると、『雷神(インドラ)』に近い階段や壁は電圧に負けて鉛色の泡を吹いている。これはマズイ。本当に近づいただけで死んでしまいそうだ。

 

「おぉい、ドライヴィー! まだだ他にに何かないないないのか?」

「……炸裂弾なら持って来て来て来ていなかったたかか?」

「そそそうだったたた」

 

 震える手でポケットの中を探る。赤い弾頭の弾丸をなんとか取り出す。銃の中に残っていた銃弾を吐き出させ新しく炸裂弾を装填しようとするが、走りながらなのと身体中を駆け巡る痺れのせいで上手く装填することができない。

 

「だっしゃ‼︎」と気合を入れて弾を押し込めば、なんとか弾を装填できた。ボルトハンドルを引き、下へと狙いを定めて引き金を引く。どうせ当たらないのならば兎に角撃つに限る。

 

 下へと落ちる弾丸は、当然『雷神(インドラ)』に当たる事はなく壁の方へと逸れていく。壁にぶち当たった炸裂弾は、弾けて『雷神(インドラ)』が手を掛けていた壁の表層を吹き飛ばし『雷神(インドラ)』の身を下に落とした。

 

「今だ‼︎ 今上り切らなきゃ死ぬぞ‼︎」

「……ごーごー」

 

 後ろを振り向かずに全力疾走する。『雷神(インドラ)』のおかげで螺旋階段は崩壊一歩寸前だ。一歩足を踏み出すごとに軋む階段を気にしている余裕はない。息も絶え絶えに上へとすっ飛んで行き、数分もせずに階段を上り切った。扉の先は最初に乗ったエレベーターの対面。どうやら上手く隠されていたらしい。

 

「行くぞ‼︎」

 

 下から響いて来る破壊音を置き去りにするように出口へと走る。この廃墟にはもう用はない。黒幕も分かった。しかも最悪の追っ手が追って来ている。ドライヴィーが先に走って行き、ポケットから鍵を取り出した。先に車のエンジンをかけておいてくれるつもりだろう。一際大きな音を立てて、背後の床をぶち破り黒鉄の塊が姿を現わす。

 

「待ちたまえよ、とミサカは追撃」

 

 しかも肩に『電波塔(タワー)』を乗せての登場だ。これまで姿を隠していた癖に急にアクティブになりやがって。鬱陶しい顔を見続けなければならないとは最悪だ。それに『雷神(インドラ)』のあれほど近くにいて電撃を受けないとはズルい。彼女にとっては可愛いベイビーなのかもしれないが、随分厳つい赤ん坊だ。

 

「ドライヴィー! 出せ!」

 

 研究所のガラスの窓をぶち破り、車の助手席へと飛び込み叫ぶ。助手席のドアを閉めている暇もなく、急発進した車は、助手席のドアを壁に擦って引き千切り、研究所の姿を小さくしていく。『雷神(インドラ)』は稲光りを空に吐き出しながら研究所を吹き飛ばし、黒い巨体が大地に立つ。大きな咆哮を上げたと思えば、足を動かすこともなく黒い弾丸となって『雷神(インドラ)』は地を滑る。大きな四角い足の裏にローラーでも仕込んでいるのだろう。

 

「追って来る気だ。ふざけんなよ、最悪のストーカーだ。あんなの戦場でも相手した事ねえぞ」

 

 少女を肩に乗せて追って来る黒鉄の巨人。車から何発か撃ってみるが全く当たる気配はない。逸れた弾丸は両脇に並び立つ施設の壁や窓に穴を開けるだけで終わってしまう。

 

「どこへ行くんだね、私を捕まえるのだろう? ふふふ、しかし鬼ごっこは初めてだ。この子も喜んでいるよ。とミサカは愉快」

「俺は不愉快だよ‼︎」

 

 スピーカーでも使っているのか、よく響く『電波塔(タワー)』の声にそう吐き捨てる。車のエンジン音で『電波塔(タワー)』には届いていないんじゃないかとも思ったが、少女のニヤついた顔を見るにしっかり届いているようだ。

 

 どうするべきか……、このまま逃げていてもラチがあかない。いずれは追い詰められてしまう。身を乗り出していた体を助手席に落とすと、途端にポケットの携帯が振動し始めた。歯を噛み合わせて唸る俺の助けになるのか、こんな状況を打開してくれる事を祈ってすぐに耳に当てる。

 

「もしもぉし‼︎ 何だ‼︎ こっちは取り込み中だ‼︎」

「あ……法み…………さん。聞こえ……」

「なに⁉︎ よく聞こえないぞ⁉︎」

 

 一度携帯を耳から離して画面を見る。表示されている文字は初春飾利。初春さんからの電話らしいが、『雷神(インドラ)』の影響かよく聞こえない。

 

「初春さん聞こえないぞ! どうにかしてくれ!」

「ちょ……ま、今…………調……」

 

 初春さんの声を搔き消すように、急に隣の大地が大きく抉れた。サイドミラーを見てみれば、『雷神(インドラ)』の肩口が一度光ると、黒い鉄杭のような物が頭を覗かせ、光の軌跡を宙に残し隣の研究所の外壁が吹き飛んだ。

 

 まじかよ……。

 

「何でもありかよあいつは⁉︎ 命中精度は良くないみたいだが当たったら一発でアウトだぞ‼︎ ドライヴィー! 大丈夫だよなぁ!」

「……きびい」

「厳しいじゃねえ! っておわあ⁉︎」

 

 一つ二つ三つ四つ。地面や研究所に突き刺さる黒い杭。細かなアスファルトを空に舞い上げ、パラパラとフロントガラスを叩く。跳ねる車はガシャリとボディを凹ませて、黒い杭が車の天井を削り取り、暑い陽射しが降り注ぐ。

 

 まるで歩く天災。人の少ない第十七学区だからこそこれで済んでいるが、もし第七学区にでも『雷神(インドラ)』が降り立てばその雷で幾数万人を貫くだろう。

 

「法水さん! ようやっとちゃんと繋がりました!」

「初春さん! 一体何の用事か知らないがさっさとしてくれ! いつ切れるかも分からん!」

 

 杭が打ち込まれる衝突音を縫ってようやく初春さんの声がちゃんと聞こえた。何をやったのか知らないが、機械に関しては初春さんの力は凄まじい。初春さんの返事を期待して身構えていたが、俺の言葉に返って来た声はまた聞き覚えのある女性の声。

 

「法水君! すまない、昨夜は時間がなくて連絡が遅くなってしまった」

「法水さーん! 知りませんでした! 法水さんって凄い傭兵だったんですね!」

「木山先生と、その声は佐天さん⁉︎ 何やってんの⁉︎」

 

 初春さんだけならいざ知らず姿を見なかった木山先生に佐天さんまで、思った通りあっちはあっちで面倒ごとに巻き込まれているらしい。が、こっちはこっちで洒落にならない。飛び込んで来た杭が車の前方、アスファルトの大地を捲り、車が宙に大きく跳ねた。なんとか着地には成功したが、車のボンネットが飛んで行く。

 

「ポルターガイストの正体は木山先生が教え子さん達を起こそうとして起きたRSPK症候群が正体だったんです! それに目をつけたテレスティーナ=木原=ライフラインに教え子さん達を攫われてしまいまして、今それを追っているんです! テレスティーナ=木原=ライフラインは、教え子さん達を絶対能力者(レベル6)を生み出すために利用するつもりなんですよ! 法水さん力を貸してください!」

 

 なんでそんなことになってんの⁉︎ 全く初春さんも木山先生も切羽詰まった時だけ連絡を寄越すんだから。それにまた絶対能力者(レベル6)か⁉︎ 絶対能力者(レベル6)とはそんなに偉いものなのか。しかし、すぐに助けに駆け付けられるそんな状況には俺もいない。

 

「力を貸したいのは山々だがな! こっちも例の通り魔と十七学区で鬼ごっこ中でそんな余裕はない‼︎ 離れた場所の防犯カメラで確認してみろ! すぐに分かる!」

「通り魔って……それは良かったかもしれません。こちらも今十七学区に向かっています! 白井さんも御坂さんも一緒ですから! ……って、なんですかコレ⁉︎」

「『雷神(インドラ)』だとさ! 超能力者(レベル5)並みの怪物だよ‼︎」

 

 細かな説明をしている余裕もないので、通り魔の名前だけを叫び返す。『電波塔(タワー)』の名前を言おうか迷ったが、御坂さんとの約束の手前言わない方がいいだろう。しかし、初春さんからの電話は助けになった。木山先生が一緒というのはとても大きい。初春さん達が第十七学区に向かっているというのはあまり良くない情報だが、引き返せと言っている場合ではない。

 

「木山先生‼︎ あのバッテリーをつけた怪物をどうにかする手立てはないか! 操っている黒幕は見つけた! だが雷撃が凄過ぎて手が出せん!」

「そうか、あのバッテリーを完全に無力化できるのは御坂君だけだ。一緒に来ている御坂君にこちらから協力を頼もう。それとバッテリーだが、おそらく取り付いているどれか一つにでも外から衝撃を与えて破壊すれば連鎖的に活動を停止するだろう。あのバッテリーのAIM拡散力場は、単純な作りになっている。だからこそ一つへの影響が共に活動しているものへと簡単に影響を及ぼすはずだ。それかその操り主を倒すかだな。超能力者(レベル5)並みの出力のモノを操るとなるとそこまで細かな操作はできないはず、それの行動に指向性をつけるだけでいっぱいいっぱいだろうからな。それでいいか? 初春君の端末情報によれば後五分程でこちらと交差する。その時が」

「決着の時か。分かった‼︎」

 

 携帯を繋ぎっぱなしにしてダッシュボードへ放り投げる。

 木山先生のおかげではっきりした。『雷神(インドラ)』の鉄杭の命中精度が悪いのも、『雷神(インドラ)』は電撃を溢すだけで攻撃に使わず、磁力を用いて俺達の車を引き寄せないのも能力を御坂さんのように完全に扱えていないから。だが、そうすると手榴弾を投げた時に興味深そうにそれを覗き込んだ『雷神(インドラ)』の動きはなんだったのか。

 

電波塔(タワー)』が動かしたとは思えない。ではモノを考えないと利用されている胎児が起こした行動か?

 

 思い当たる節があるとすると『幻想猛獣(AIMバースト)』の一件か。一万人の能力者が生んだ一つの怪物。それと違い同じAIM拡散力場が五十以上も共鳴した事で一つの人格を形成した? 科学者ではない俺がどれだけ考えたところで答えが出るはずもない。やるかやられるか。仕事で得られる結果としてはそれだけ分かれば俺はいい。

 

「ドライヴィー、とばせ。ただしアレから離れ過ぎないようにだ」

 

 黒鉄の巨人を引き連れて、高速道路を激走する。

雷神(インドラ)』は俺達を追うことだけに全力を出し、目の前に転がる障害物を轢き潰しながら向かってくる。宙を弾ける稲妻の音と、工場の中にいるような機械音。垂れたコードが空を叩き、アスファルトの地面を削って行く。

 

「おうい! 『電波塔(タワー)』よ! お前それに指向性を与えてるだけで操れてないんだって? 騙されたよくそったれ!」

「私は強能力者(レベル3)電撃使い(エレクトロマスター)だ。同じAIM拡散力場だからこそ干渉できるが、超能力者(レベル5)並みの出力のモノを手足のように操ることはできないんだよねえ。でもそれが分かったと言って法水君にどうにかする手立てはあるのかな? とミサカは質問」

 

 後ろに叫べば、ちゃんと返事が返ってくる。

 お喋りが好きなのか尋ねれば律儀に答えを返してくれる。あまり彼女は企み事に向いていない性格なのだろう。これまであんな施設に引き篭もっていたせいで人が恋しいのかもしれない。それとも研究者らしく自分の研究を自慢したいのか。どっちにしても会話してくれるなら時間稼ぎはできる。

 

「さてな! だが気になることがある! それはモノも考えぬと言ったな! ならなぜ手榴弾に興味を示した! お前が興味を持ったわけではないだろう!」

「それは……」

「少し前に『幻想御手(レベルアッパー)』事件があった! そこで生まれた数多のAIM拡散力場を束ねた怪物『幻想猛獣(AIMバースト)』。その『雷神(インドラ)』には実はちゃんと意思があって、お前はそれを分かっているんじゃないか?」

 

 返って来たのは沈黙だった。

 肯定でも否定でもない。

 つまりそれが答えである。

 

「なあ教えてくれよ! 多くの胎児の想いを唯一汲み取る『電波塔(タワー)』さん! お前はそんな中で何を考えてそいつを動かしているのかを!」

「うるさい……うるさい‼︎」

 

 少女が叫び『雷神(インドラ)』が跳ぶ。大きな影が車を覆い、地を走った雷撃が車のボディを裂いた。車はまだ辛うじて走ってくれているが、余剰電気でダッシュボードに置いていた携帯が煙を上げて弾け飛ぶ。地面に落ちた巨人の衝撃に車は大きく一度跳ね、巨人の肩口に乗った少女の歪んだ顔まで持ち上げた。

 

 笑みは崩れ、殺気を込めた目を鋭く細め、少女は俺の顔を正面から射抜く。

 

「お前は殺す。とミサカは決意」

「ったく煽り耐性ないんだからもう」

「……来た」

 

 ドライヴィーの言葉に前を向けば、見覚えのある青い車が全速力で突っ込んでくる。その後ろを走るパワードスーツはなんなのか。アレが初春さん達を追っているらしく。お互いロボットみたいなのに追われているとは笑えてくる。車の上には御坂さんと白井さんの姿。

 

 準備は整った。

 

 初春さん達を追うパワードスーツがアームを振り上げ、俺の背後からは『雷神(インドラ)』の腕の影がアスファルトの上に伸びる。背後は気にせず俺が狙うはパワードスーツの太いアーム。電撃や磁力で邪魔をされなければ、戦車も撃ち抜く相棒の弾丸を止める事は出来はしない。引き金を引くのと同時に青い車と交差して、二台の車が円を描くように大地を滑り停車する。空に舞ったパワードスーツのアームへと白井さんは跳んで行き、俺の目の前には雷が落ちた『雷神(インドラ)』の姿。雷に打たれる雷神とはなんとも間抜けだ。ぎこちなく動く『雷神(インドラ)』の肩に見える容器に向かって、俺は躊躇する事なく再び引き金を引く。

 

 ──ゴゥンッ! 

 

 弾丸が容器を突き破り、鐘のなるような音を響かせた。『雷神(インドラ)』は身体中から稲妻を走らせ、自分の身を焼いていく。放った弾丸から相棒を通り、俺の身体に突き抜けた電流。それが徐々に消えていく中、

 

『あ』

 

『そ』

 

『ぼ』

 

 背後から響く超電磁砲の残響に混じってそんな声が聞こえた気がした。

 

 

 ***

 

 

「憎悪だ。憎悪こそが人を前に強く進める。そう私は刷り込まれた。だから私を生みこんな事に従事させる木原幻生の絶対能力者(レベル6)に至る計画を与えられた私の計画で潰そうと思ったんだけどねえ、潰されたのは私だったわけだ。とミサカは観念」

「まあ見事にな」

 

雷神(インドラ)』は崩れ去り通り魔事件も終わるだろう。初春さん達を追っていた者も御坂さんの超電磁砲(レールガン)に吹き飛ばされ、全員木山先生の教え子の元に向かうといいと送り俺は残って『雷神(インドラ)』に体の半分を押し潰されている『電波塔(タワー)』を見下ろしている。ドライヴィーには木山先生達について行ってもらったので、何かあっても大丈夫だろう。

 

 木山先生達は木山先生達で切羽詰まっていたようなので『電波塔(タワー)』を見られなかったのはいい事だろう。警備員(アンチスキル)もまだ姿を見せず、酷く壊れた高速道路の上には、俺と『電波塔(タワー)』しかいない。

 

 下半身は押し潰され、口から血を吐く少女は見れば分かる。俺がどうしたって助ける事はできはしない。

 

 もう少女の命が消えるまで、秒読みに入ってしまったかのようにどんどん少女の顔から血の気が失せていく。

 

「私は教えられた通り憎悪を持って事に当たっていたのに、あの子達にはそんなものは関係なく、どこまでもただ純粋だった。遊びたかったのさ。薄々あの子達は分かっていたんだ。強力な力を振るう自分達と対等に遊べる者は能力者しかいないとね」

「それで能力者殺しになったわけか」

「ああ、そうじゃないとあの子達はやる気を出さなくてね。だから君を殺そうにもあの子達がやる気を出さなくて困ったよ。能力者じゃないなら満足に遊べない。でも結局あの子達を倒したのは君だったわけだ。ははは」

 

 笑いながら『電波塔(タワー)』は血を吐き出す。哀れ。『幻想猛獣(AIMバースト)』も『禁書目録』も、勝手な人の思惑で勝手に壊れていってしまう。俺がやっている事はそれの後押しでしかなく、当の原因である本人は何も痛まず何も感じない。闇の奥底でこちらに目を向ける事などせずに、ただ結果だけ聞いて笑うのだ。

 

「『電波塔(タワー)』さんよ、なんなら仕事受けようか?」

 

 だから言ってくれ。

 

 たったの一言でいい。

 

 木原幻生を撃ち殺せと一言言ってくれるだけで、俺は木原幻生を必ず追い詰め額に大きな穴を開ける。もう時間はあんまりない。だから早く。

 

 口を動かせ。たったの一言を絞り出せ。

 

 そう思って見た『電波塔(タワー)』の顔は安らかで、ゆっくりと首を横に振った。

 

「やめておこう。なんにせよ、私は私で楽しかったからねえ。『妹達(シスターズ)』と違って、私は死ぬ為でなく何かを生み出すために生きることができた。それに、法水君の思惑通りに事が運ぶなんていうのは癪じゃないかい? だから言わない。ふふふ、お姉様とも遊びたかったけど、最後に法水君のそんな顔を見れた事だしよしとしよう。とミサカは満足」

 

 そんな顔ってどんな顔だ?

 鏡はいらない。見たくはない。

 俺は自分が分からない。

 笑っているのか、それとも彼女に同情し泣いていたりするのだろうか。頬に手を伸ばしてみても指を潤すものは何もなく、誤魔化すために煙草を口元に運んでみても震えて上手く咥えられない。

 

「人とは面白いねえ。特に君は、矛盾している。両極端にブレブレだ。悪人のフリに善人のフリ。できればもう少し君とは話したかったなあ。そうすれば人間というものが少しは分かったかもしれない。まあなんにせよだ。負けっぱなしは趣味じゃないし、これで今回は私の勝ちかねえ? とミサカは」

「おい⁉︎」

 

電波塔(タワー)』の指先から紫電が走る。地面に転がった『雷神(インドラ)』はその稲妻の輝きを増していき、俺の目前で強く弾けた。音と光に包まれて、最後に見えたのは、『電波塔(タワー)』のくそったれな笑顔だけだ。

 

 

 ***

 

 

『先日第十七学区で起きた大規模な爆発騒ぎに関してですが、どうなんでしょうか』

『さあ、噂では能力者同士の争いだとか研究所の事故と言われていますがはっきりした事は未だに分かっていません』

『噂だとポルターガイストを起こしていた幽霊がやったんだなんてものまであるみたいですが』

『そんな非科学的な、ここは学園都市ですよう?』

 

 テレビがうるさい。俺はもう一週間以上も病院のベッドの上だ。最初運び込まれた時はそりゃあもう酷かったらしい。全身火傷に加えて両耳の鼓膜が破裂。手足は折れるし右手はよりボロボロに。折角新しく来た相棒は一日で大破し、医者からは生きてるのが奇跡だと言われた。

 

 しかし、そこは学園都市。医療技術が凄まじい。上条の腕をあっさりくっつけたように、俺もこの十日間ほどですっかり体の包帯は取れた。ただ────、

 

「何してんの」

「お前もな」

 

 隣のベッドにいる男。凄い見覚えがある。というか先日退院したと聞いたのになぜか俺の同室でベッドの上に寝転がっている。

 

「なあ、上条さん少し前に退院したよな。右手がくっついたあ! とか喜んでたのにまた入院? もうここに引っ越したら?」

「うるせえなあ! アレだから! 入院日数的には上条さんより法水の方が上だからね! お前の方こそ引っ越したらいいんじゃないんですか!」

「俺はまだ初犯みたいなもんだからね! 上条さんは夏休み三回目だろうが! アレだ。きっと後少なくとも一回は入院する事になるね!」

「ならねえから! 夏休みだぞ! なんで四回も入院しなきゃなんねえんだよ!」

 

 お互い言いたい事を言ってため息を吐く。不毛だ。お互い包帯に巻かれた情けない格好でベッドの上で騒ぐもんじゃない。また看護師さんや医者に怒られる。

 

「それで」

 

 テレビを眺めたまま上条が口を開いた。

 

「お前の仕事は終わったのかよ」

「まあね。この怪我で終わってなかったら死んでも死にきれん。そっちは」

「第一位と喧嘩した」

「第一位⁉︎」

 

 またなんて奴とやり合っているんだ。超電磁砲(レールガン)と宇宙戦艦だけでどれだけやばいと思ってるんだよ。それが第一位と。それも上条の怪我の具合を見る限りおそらく勝っている。馬鹿馬鹿しくてベッドの上に身を投げた。痛覚がほとんど死んでいるおかげで痛みがあまり返ってこない体が今は便利だ。

 

「よく勝ったな」

「法水もな。なんかお見舞いに来た御坂に聞いたけど、十七学区の爆発騒ぎに関わってんだろ? 白井とか初春さんとか佐天さんとか、後春上さんだの枝先さんだの木山先生だのがお見舞いに……ってなんでお前こんなに女の子ばっかりお見舞いに来てんだよ! この野郎⁉︎」

「知るかあ⁉︎ ってか春上さんに枝先さんて誰だあ⁉︎ 俺知らんぞ!」

「知らない? 知らないってなんだコラ! 知らない女の子もお見舞いに来ますってか自慢野郎が⁉︎」

「上条さんに言われたくないわあ! あの姫神さんて誰ですかあ? どこで引っ掛けたんですかあ?」

「引っ掛けてねえわ! 姫神は前に言ったアウレオルス=イザードの件で!」

「引っ掛けたんでしょう?」

「だから違うっつうの‼︎」

「じゃあアレは?」

 

 そう言って病室の入り口を指差してやる。それに追随して振り向いた上条の動きが固まった。

 

 短い茶髪に、常盤台中学の制服。額に掛けられたゴーグルには何の意味があるのだろうか。

 

 そしてそんな少女の顔は、俺がここ数日悪夢で見た顔と同じ。ただその顔は無表情もいいところで、御坂さんや『電波塔(タワー)』とは似ても似つかない。

 

「み、み、みみ、御坂妹⁉︎ いや法水さんこの子はですね」

「御坂さんの妹だろう? 知ってる」

 

 そう言ってやると眉を(しか)めて上条は俺の顔を見る。なぜこのお嬢さんがここに訪ねて来たのか。第一位と喧嘩したらしい上条。相変わらず誰かの為に闘ったらしい。

 

「法水お前」

「お二人共元気そうで何よりです。とミサカは男同士の醜い争いにドン引きします」

「おぉい!」

 

 手に口を当てて「うわあ」と言うような仕草をする『妹達(シスターズ)』に向かって上条はすぐにツッコミを入れる。俺はというと、急な『妹達』の登場になんらかの感情が沸き起こるかと思ったがそんなこともなく、逆になんか冷めてしまった。上条と『妹達(シスターズ)』が仲良くやっているのを見るとなんかどうだってよくなって来た。

 

 しばらく上条と『妹達(シスターズ)』の漫才を眺めていたが、上条が虐められ終えたところでスッと『妹達(シスターズ)』が俺の前にやってくる。

 

「俺に何か用ですか?」

「はい、私はミサカ10032号と言います。とミサカは簡単な自己紹介をします」

「それはどうも御坂さんの妹さん。それで?」

「はい、ミサカは伝言を預かって来ました。とミサカはさっさと用事を済ませる為に答えます」

「伝言?」

 

 そう言うと『妹達(シスターズ)』は大きく息を吸って、ふと見覚えのある顔に変わった気がした。

 

「また遊ぼう、次は完全に勝つからねえ。とミサカは宣言」

 

 にっこりとした笑顔で『妹達(シスターズ)』はそれだけ言うと元の無表情に戻って病室を出て行ってしまう。残されたのは口の閉じない俺と、不思議な顔で俺を見る上条。

 

 え、アレで死んでないの? どうやって? てかこれ仕事失敗? あれ? あれれ? 

 

「おい法水、お前なんで笑ってんの?」

「ぐ、う、あ……、不幸だあああああああ‼︎」

「俺のセリフぅ⁉︎」




幼女サイボーグ編、終わり。ここまで読んで頂きありがとうございました。え? 幼女が出てない? 気のせい気のせい。
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