「……おい法水」
「……不思議だ」
おっかしいな。何故だろうか。煤だらけの消防服を脱ぎ捨てる。今回は普通に運転していただけのはずなのに、消防車がひっくり返り自販機の群れに突っ込んだ。マンホールを使って『窓のないビル』に突っ込んだバチが当たったのか、何故かマンホールのなくなっていた穴に車輪が突っ込み吹っ飛んだ。遠くで赤い消防車が爆発する音を背に聞きながら、素早く路地の奥へと身を滑らせて先を急ぐ。
「……孫ちゃんにハンドルを握らせない方が良さそうだってのは分かったけどよ」
「俺が悪いんじゃない。学園都市が悪いんだ」
「……どんな言い訳だよそれ」
なんにせよ、『窓のないビル』周辺から脱出はできた。盗んだ消防車も焼失。やるべきは『グレムリン』とオッレルス勢力の双方を罠にかける事。そして学園都市勢力への牽制。やるべき事はてんこ盛りだ。その為に必要なものがあるため、我らが学び舎に足を踏み入れる。本来なら一端覧祭準備の為に今夜は泊まり。俺と上条が居るのがバレれば色々な意味で終わる。
「あれー? 上条ちゃんと法水ちゃんはまだ戻っていないのですかー?」
校門から敷地内へ。足を踏み出した途端に聞き慣れた担任の声が飛んでくる。上条と二人吹き出しながら、慌てて木陰へと飛び込む。
「泊まりで作業するはずだったのに、どさくさに紛れて有耶無耶にされているし! ほんっとにあいつらは戦力外として扱った方が良さそうですよね!!」
戦場では引っ張りだこでも、日常からは戦力外通告。みるみる俺と上条の肩が落ちる。ぐうの音も出ないとはまさにこれだ。
「……おい、おいトール!! ていうか何ボケッと突っ立ってんの! 早くこっち来い、とりあえず隠れろ!!」
「え、何でだよ? 理由が分かんねえ」
「……そもそも上条さんの名誉が貶められてんのはテメェがいきなりケンカを売ってきたからだろうが!!」
「安心しろ上条、俺にも上条にも貶められるべき名誉なんてほとんど残ってないらしいぞ。空き瓶のようにすっからかん。名誉の隣に並んだ不名誉の方が多いくらいだ」
「全く嬉しくない事実をありがとう‼︎」
俺より尚、正論で武装した日常の恐ろしさを知らないらしい、ぼけっと突っ立ったトールを上条と共に木陰へと引き摺り込み、正面から飛び込むには絶対無敵の門番二人がいるようなので、裏手の出入り口から学校内へと侵入する。夜であっても一端覧祭まで一歩手前。本番まで時間がないからか、月明かり以外の灯りが教室達を照らし、廊下にも多くの工具や制作途中の物で溢れている。その裏で人知れず動くというのも、世界から取り残されているようで少し寂しい。日常を彩る多くの必死とは隣合えない。ただ文化祭を友人と楽しむ。そんな最高の一瞬も甘美であろうが、それが壊れてしまわぬ為に今はあると思えばそれも悪い事ではない。
「良いね良いね、悪くない。スプレー持ってくりゃ良かったな。そこらじゅうの壁に落書きしたい気分だ」
「俺も時たまやったな。で、後ですっげえ怒られる。ガスパルさんにバランスが悪いとか、ロイ姐さんにもっとデカく描けとか」
「……それ怒られるポイント違くないか? それよりも準備は良いんだよな?」
「アンタの右手に一度破壊されたからな。手持ちの資材で霊装を修復してみたが、まあ一回こっきりが限界だろ。それで何とかなると思うが」
「なら良い。……ん? 一回こっきり???」
「どうした上条、別にトールの女装ショーなんて何度も拝みたくないぞ」
一日に何度女装すれば気が済むのか知らないが、女装趣味の奴はよく分からんと目を送ればトールが口端を下げて本気で苦い顔をする。上条にも女装趣味でもあるのか、首を大きく傾げる友人は放っておき、情報実習室への道を急ぐ。軍服なら流石に目立ってしまうが、学生服なら問題ない。トールも服が民族的なため、演劇の衣装を着てる学生に見えなくもないだろう。
「あれ何? 何でジャージの女達が風呂桶持ってる訳?」
「部活用のシャワー室でも使ったんだろ。髪が濡れてたし」
「……良いねえ平和で。俺もそっちに交じりてえよ」
「俺は本来そっちの人間なんだがな! お前みたいなのがいつもいつも押し寄せてくるからそろそろ留年のピンチだよ!!」
「それな。マジでヤベエよ。『時の鐘、留年』とか。世界中から笑われそう。ライトちゃんにデータ改竄してもらおうかな」
「ま、まあでもさ、落ちる時は二人だし」
「ほらまた不名誉が並ぶ……」
赤信号、一緒に渡ればみたいに上条と二人並んで留年なんて絵面が酷い。授業料が問題なのではない。プライドの問題だ。ただこの留年に関しては暴力でどうにもならない。暴力を使えば留年ではなく退学だ。
目的の情報実習室に着けば、鍵さえ掛かっておらず電気もつけっぱなし。ポスターやチラシの印刷の為に、今も稼働中であるらしい。周りに人が居ないのを確認し、入り口の扉を閉めて頷けば、頷き返したトールの姿が、俺の指輪を持ったまま居なくなってしまった指輪泥棒の魔術師の姿に変わる。服も髪色も。装飾品の類まで。
「ちょっと待って、それ今のマリアンさん? なんでマリアンさんの左の薬指に俺の指輪が嵌ってんの?」
トールは何も言わずに俺の肩に優しく手を置き、にやけた口を隠すこともなく首をゆっくり左右に振った。
「動いたぞ」
「よし、捕らえるぞ」
駅前広場周辺のデパートの喫茶店で、マリアンさんとの通話を終えたトールに頷き立ち上がろうとすれば、トールに頭を叩かれる。俺の指輪が……。マリアンさんとベルシ先生に取られた……。これが正しい使い方みたいな見本を見るために買った訳じゃないのに……。俺の代わりに自分は幸せいっぱいですって? ふざけんなよ、どうせならプロポーズのシーンを見せろ。
情報実習室でマリアンさんに化けたトールを使っての偽の手配書。それをトールがマリアンさんを呼び付けた駅に貼り、マリアンさんに見せる事で危機感を煽る。上手い手ではあるだろうが、喫茶店から駅を見下ろした先、やばい状況のはずなのに、どこか嬉しそうな空気を滲ませているマリアンさんが癪に触る。その左手に光る輪っかの所為だ。
おのれ魔術師。
「マリアンが不自然な動きをすれば、多分オッレルス側もその『変化』を訝しんで偵察しようとするはずだ。二つ目の罠を張るならここしかない」
「本当に予定通りにやるのかよ?」
「俺が一人で行くのがそんなに心配か? オッレルス達を惑わすための罠を張るんだ。『グレムリン』とすれ違うように。そこにお前が出てきちまったら、その時点でオッレルス達は全力で戦おうとする。それじゃ本末転倒だろ。それに法水には学園都市側を牽制してもらわなきゃならないんだしな」
窓に張り付くように歯軋りする俺に呆れた目を向けながら上条は言い切り、俺も椅子に座りなおして頼んでいたブラックコーヒーを掻っ込む。『グレムリン』の誘導はトールが、オッレルス勢力には上条が、学園都市側には俺が一手打つと。これで三つの動きを一時的に止める。時の鐘の傭兵としての一番の得意技。目立つ事で目を引き付ける。圧倒的な苦情を覚悟で、時の鐘の狙撃音を轟かす。マリアン=スリンゲナイヤーを餌として動かす事により、時の鐘も動いている事を教えてやる訳だ。何より上条について行った場合戦力過多だ。俺が居るだけで戦力に対抗しようと事態が大きくなり過ぎる。
「……ただいいのか上条、正直俺は賛成しかねる。お前も一般人ではあるんだぞ。一言言ってくれれば俺が」
「それは
「……そりゃ買い被りだ」
そう言われてしまったら、そんな風に言われてしまったら、俺は何も言えなくなる。並んだ? いいや並んでいない。上条はいつも俺の先を行く。魔神を前にしても、大天使を前にしても、俺より先にきっと一歩を踏む。その時に俺は並んでいたいのだ。バンカークラスターが落ちてきた時も、上条が立っていなければ立っていたか分からない。正しい事のために脅威に向かう上条だからこそ、上条が壊れる前にその脅威を穿ってやりたい。そうでなければ、友人としても、時の鐘としても、俺が思う俺自身の存在意義が消えてなくなる。
「俺自身、全部が全部正しい事をしてると思っちゃいない。味方より敵を作る仕事をしてるし、俺に死んで欲しいと思ってる人間の方が世界には多いだろう」
「それは……」
「だから上条、お前の必死の邪魔はしないさ。
「電話が来るまでか?」
「電話が来るまでだ」
苦笑する上条に笑い返す。ただ、例え電話が来たとしても、上条が正しい事の為に動いているうちは、誰を敵に回しても、せめて俺ぐらいは味方をしてやる。信じるなと言っても信じると言うなら、その必死に見合うだけの想いは返したい。傭兵仲間でもなくできた初めての親友だ。俺は裏切らない。そう決めている。優しい想いすら裏切るような者にはなれない。誰の力でもなく俺の力で。自分を自分と言えるものを積み重ねて俺は並ぶ。そうでなければ最高じゃないから。駅から離れるマリアンを追って、オッレルス勢力を探す為に動く上条より早く席を立つ。俺は俺の居場所へ行く。二人から離れる手前で、トールに肩を叩かれ足を止めた。
「いいな友達って、妬けるぜ」
「お前友達いなそうだもんな」
「ひでえな孫ちゃん、俺達だって友達じゃねえの?」
「さてね。それは終わった後にでも聞いてくれ。行ってくる」
「おう、頼むぜ『シグナル』」
二人に手を振り、デパートのエレベーターを使って屋上へと上がる。誰もが学園祭の準備に忙しいからか、デパートの屋上に人影はなく、夜の街並みの輝きを見下ろしながら
仕事でもなくここまで深く動いたのは初めてだ。不思議と悪い気分ではない。好き勝手に動いているからなのかもしれないが、上条も、トールも、ずっとこんな気分で動いていたのか。自分の見たい景色にだけ向かって足を進める。しがらみも利益も関係なく。それがどうにも……底で燻る影が蠢く。一度でも気付いてしまったら目を離せない。行き着く切符を切ろうが切るまいが、絶えず顔を覗かせる機会を伺うように、心という檻を小突いている。それを曝け出してしまったら、多くの者により嫌われるかもしれないが、上条ならそんな事はないとでも言うのだろうか。
吸いかけの煙草を床に落とし、踏み消しながらボルトハンドルを引く。弾丸を込めて天に向ける。一端覧祭の開始を告げる鐘の音を打ち上げるように、強く指を押し込んだ。
────ゴゥンッ!!!!
時の鐘の音が夜の学園都市に響き渡る。道を歩く通行人達は空を一度見上げるが、すぐに首を傾げて歩いて行った。静かな夜で何人が気付いたか、『シグナル』が動いた。アレイスター=クロウリーの私兵部隊が。そう考えて足を止める者もいれば、逆にどういう事か目を光らせる者もいるだろう。電話が掛かって来る事を覚悟して狙撃銃で肩を叩きながら新たな煙草に火を点けるが、一分、二分、全く電話は掛かって来ない。ただ別で仕事をしているとでも思われたのか、少し焦りながらインカムを小突く。
「ライトちゃん、メールぐらい来たか?」
「
この瞬間にも、トールは動き、上条もまたオッレルス勢力と接触しているはず。二度三度引き金を引いた方がいいのかもしれないが、撃ち過ぎれば焦っている事がバレる。時の鐘が動き何かを穿った。いつも通り一発で。そう思って貰った方が都合はいい。撃つか撃たないか。二択のどちらを選ぶか考え込んでいると、その迷いを振り解くように待ち人が来る。
電話は鳴らない。
ただ、デパートの屋上の扉が開いた。
「…………おいおいおい、こりゃあまた。どエライいのが釣り針に掛かった訳か……暗部に出戻りでもしたかい?」
狙撃銃で肩を叩きながら振り返った先で茶色い髪が小さく風に揺れた。学生服を着た男。その傍にドレスを着た少女を伴って。社交界から飛び出してきたような男女二人組に肩を竦めていると、ドレスの少女が両手を上げて首を小さく横に振る。
「待ってくれる? 別に争いになんて来てないわ。暗部に戻った訳でもないし、地雷持ちと殺り合うような趣味も持ってないもの。私はただ引き摺って来ただけよ。困った事に頼れそうなのが貴方しかいないのよ。今も暗部で顔が利きそうなのが貴方ぐらいしか居なかったから。居場所が分かって良かったわ」
「引き摺ってきた?」
ドレスの少女に首を傾げれば、横に立っていた学園都市第二位、垣根帝督が膝をつく。暗闇で見えづらかったが、顔色が頗る悪い。どころか、呼吸も荒く汗もやばい。いや、待て……。
「……なんだこれ」
揺らぐ波紋が、垣根の体を千切るかのように削っている。AIM拡散力場だろう波が、引っ張られているかのようにおかしな動きを繰り返している。垣根帝督の存在を吸い込んでいるかのように。床に崩れそうになる垣根をなんとか引っ張り起こそうとドレスの少女は垣根の腕を引くが、力なく崩れる垣根の重さを支えきれないのか、その場で一緒に床に倒れた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫な訳ないでしょう。カッコつけて一人で立とうとなんてするからよ」
「垣根さんが何故そんなボロボロなんだ。 何があった?」
「理由は単純よ。貴方も関わっているんじゃないの? 学園都市が動いたわ」
そう言ってドレスの少女は垣根を引き起こすのを諦めると、ドレスの埃を手で払い立ち上がる。暗部を辞めてまで連んでいるというのも驚きだが、一緒に統括理事長への直接交渉権を手にする為に協力していたあたり、何か二人にしか分からない事があるのかもしれない。それよりも、学園都市が動いたとドレスの少女は言った。それで何故垣根が満身創痍になる?
「学園都市が動いたのは分かってる。『四枚羽』が突っ込んで来たしな。それと垣根さんがボロボロになっている共通点は?」
「私も詳しくは知らないけどね、貴方も知っているでしょう? 学園都市は
「垣根さんの与り知らないところでか?」
「そういう事よ」
そういう事ってどういう事だよ。ドレスの少女は興味無さげに軽く言うが、それはもう肉体操作や
「貴方達大分ヤバイのを追ってるみたいね。だから学園都市側も同じく危険な手を打った。生み出された
待て待て待て。それは能力が人間一人丸々作っちゃったという事か? なんだそれは。フィギュア一個組み立てるように人間を作るとかそんなのありか?
「不死身の相手は不死身に任せるって? おいおい、いつから不死身ってのはそんな安っぽくなったんだ。下手したら不死身どうしだぞ、学園都市が滅んでも戦いが終わらないんじゃないか? だいたい能力が自我を持つって垣根さんがいるだろうが」
「だからこそ、今正に喰い合ってるのよ」
「
能力が元になった人間に牙を剥くってなんだよ⁉︎ 飼い犬に手を噛まれるってレベルじゃねえぞ‼︎ 能力が勝手に動き回り、AIM拡散力場を食い荒らしている現状がこれか‼︎ 何故こうなるまで気付かなかった? そう考えれば思い当たるのは一つだけ。フロイライン=クロイトゥーネの存在を完全に隠していたビルがある。全てを弾くあのビルなら、同じように他の不死身も隠していたはず。だからそこから
「クソッ!」
フロイライン=クロイトゥーネを助けようが、それで垣根が要らぬ被害を被っていれば世話ない。善意が裏目に? 上条やトールの知らぬところで、人知れず誰かが不幸になりましたなどと。そうならない為に動いたはずが、寝覚めが悪いなんてレベルを超えている。
「……つまりなんだ? その
「多分ね」
「それだけ聞ければいい」
悩んだり後悔している時間さえ惜しい。どうせ学園都市側の動きを押し留めるのが俺の役目。それに遠慮なく穿っていいなら、気を使う必要もない。寧ろ学園都市側の戦力が分かって大助かりだ。待ち惚けする時間も終わり。ようやく俺も動き出せる。
「……待てよ」
ただ、出そうとした足が掴まれた。他でもない、学園都市第二位、垣根帝督に。
「……テメェも、ベラベラと勝手に喋りやがって……この俺が、自分の能力に好き勝手やられましたで終わらせてんじゃねえ! ……法水、ここに来たのはテメェにケツを拭いて貰う為じゃねえんだよ」
「いや、だが」
「だが、も、もしも、も必要ねえ。俺を常識で測ってんじゃねえぞ」
気怠げに手をデパート屋上の地面について垣根は一人で立ち上がる。ふらふらで、今にも倒れそうだが、それでも立った。息荒く、鋭く細められた瞳が俺を見据える。
「……法水、
「いや、必要ない」
ゲルニカから
「学園都市が既に手を打ったのなら、俺に連絡が来ないのも納得だ。学園都市側が放ったのが
自分を超える瞬間を。その結末を俺も知りたい。暴走した力を叩き伏せられるのか否か。結局向かう先は同じだ。フロイライン=クロイトゥーネを助ける為、
「俺と組むってのか?」
「それが一番早いらしい。どうにも俺も無関係ではないからな。行き先は?」
「俺の能力だぞ。分からねえ訳がねえ」
少し雲行きがおかしくはなったが、垣根が協力してくれるのであればお釣りがくる。能力を操る垣根と、暴走した能力。どちらが上かなど垣根に聞けば殴られるだろう。上条とトールの動きは別にして、今正に俺の動きは決まった。そうして垣根と共に一歩を踏み出し、そのまま垣根は前のめりに倒れる。
「おぉい⁉︎」
「だからカッコつけて動くから。まったく……もう第二位は貴方に任せるわよ? 私も一端覧祭で忙しいんだから」
「そんな普通の理由を投げつけてくるな‼︎ え⁉︎ マジで帰るの⁉︎ 俺にどうしろってんだ⁉︎」
「しばらく休ませてあげたら? 高く飛ぶにも休息は必要でしょ? ようやっと太陽に近づけるかもしれないんだしね」
「……それは」
垣根が直接交渉権を求めて学園都市に挑んだ理由。どうにもならないと言っていた垣根にそれを穿つ手が生まれたという事か? これがそうなのか? 能力の暴走が? 人体細胞を構築できるという技術がか? それが本当なのだとしたらそれは。
「────。貴方も業が深いわね」
ドレスの少女に零された呟きに思わず顔を向ける。木原円周と同じ。俺の底を掬い取ったような言葉に目を見開く。垣根は意識を手放しているのか聞こえなかったようであり、苦虫を噛み潰したような顔を向ければ、ドレスの少女に大きく肩を竦められた。これだから精神系の能力者って奴は。
「そこまで深く踏み込んでないわ。踏み込んだら私が壊れそうだもの。貴方前に会った時よりも恐くなったわね」
それだけ言って、マジでドレスの少女はデパートの屋上から身を翻した。薄情なのか、情に厚いのか分からない奴だ。残されたのは俺と垣根の二人だけ。少しの間待ってみるも、一向に垣根は起きる気配なく、仕方がないので垣根を背負いデパートの屋上を後にした。
フロイライン=クロイトゥーネを巡っての争奪戦。俺の相手はどうにも学園都市で決まりらしい。