誰が為に。誰かの為。麗しい言葉だ。俺の知る英雄達はそれを抱えてひた走る。自分を置き去りに進み続けるその背中が眩く、雄大で目が離せず、物語として完成されている一冊の本ではない、今まさに描いているからこそ未完成である輝きに溢れ俺の目を引き付けてやまない。
誰かを追っているようでも、俺は自分を捨てきれない。日差しに当てられ足元から伸びる影のように引き離せず、自分の視点が絶えず背中にへばりついている。
羨ましい。あぁ羨ましい。羨ましい。
言葉にせずとも心の底からぷくぷくと浮き上がって来る
それともこのどうしようもない欲求は、生まれ出ると共に結び付いていた『業』と言うべきものであり、どんな人生を送ったとしても剥がれない源泉であるのだろうか。それなりに積み重ねた人生の中で積もり積もった理性が上手く隠していただけで、落ち葉を掻き分けるように捲った先にあるものはどれも同じ。
そうであるなら、俺が追い続ける者と同じようになる事など出来ず、やはり俺は俺として並ぶ以外にできる事などない。誰の真似をしたところで上手くいかず、誰とも違うものを作り上げる以外、俺が俺であり続ける道はない。だから羨む。俺とは違うものを見つめ、自分を見つめ直す為。自分だけの何かを掴む為。
息を吸って息を吐く。
ヒーロー。己が道を貫く者達の波を吸い込み咀嚼し、その違いに身を焦がしながら、相手のリズムを外すように、突っ込んで来る輝きを掠め取るように拳を振り抜く。拳と頭蓋がぶつかり軋み、地を転がる相手に一瞥もくれずに狙撃銃に弾丸を込める。地を転がって行った相手は歯を食いしばり意識を手放さずに体を跳ね起こし、僅かに目を横へと滑らせた先で炎が瞬いた。目眩しと
「ズアッ!!!!」
「あぁ……」
それでも体を崩れ落とす事なく拳を伸ばすヒーローの一撃を首を捻り避け顔に拳を落とし潰す。諦めない。思考を止めない。そんなのはそもそもスタートライン。諦めたら追い付けない。考える事を諦めればそこには死が待っている。ただ生きる為に暴力の蔓延る戦場では、諦めた者から死んでいく。
誰かを助けるその為に。そんな余裕を持てぬ程に長らく戦場を駆けずり回った。最初はただ生きる為に。そんな中で自分の欲望を少しずつ出せるようになったのも少し前。戦場を知らぬまま戦場に飛び込み望む何かを掴める者など一握りもいない。
すでに終わった過去のたらればを繰り返し考えたところで答えなどなく、今しか見えないものを追い続けて短い人生の中で俺も知っている事はある。
「俺の邪魔をするな!」
「貴方こそ私の邪魔を!」
「脇目を振るなよ。さあこっちだヒーロー」
狙撃銃からゴム弾を吐き出し、ぶつかり合うヒーロー達を弾き飛ばす。吹き飛び立ち上がろうと体を起こすその頭目掛けて更に一発。意識を手放し動かなくなった少年少女から目を外し、すぐに横へと狙撃銃を向け直して引き金を引く。地に跳ね上がった跳弾が瓦礫の影から飛び込もうとして来た男の足を跳ね上げ体制を崩し、突っ込んで来ようとしていた男は俺の手前で動きを止める。空間を蹴るように宙を飛び振り上げられた男の足が振り落とされる。
「獲ったぞッ!」
「そうなのか?」
頭に落とされる蹴りの勢いを殺さずに、ぶち当てられた波に体全体をくねらせて揺らし、振り子のように体を振って捌きながら身を起こすと同時に膝蹴りを男の腹部に叩き込む。
「お前達は何だ? 戦いに来たのか? それとも助けに来たのか? 教えてくれよヒーロー」
拳を振られれば殴り返す。蹴りを放たれれば蹴り返す。能力を向けられれば引き金を引き、突っ込んでくる者に向けて突っ込み返す。
「目的意識も明確でない力なんて刺さるかよ。フレメアさんを助けるって? ご立派だ。素晴らしい。で? 今お前達がやっている事を続ければ助かるのか? 自分だけが救えるなんてそれは驕りと言うんだよ。方法も、理由も、そんなのは無数に存在する。俺は俺にはできない事があるのを知っている。何のために傭兵がいると思っている。理不尽は理不尽でしかなく、どうしようもないそんな理不尽に向かわねばならない者が必要な時に傭兵は必要とされる」
「だからお前が助けるって?」
「それがお門違いだと言うんだ馬鹿野郎が!」
稲妻の腕が伸び、それに拳を突き出し穿ちヒーローの襟首を掴んで引き寄せる。痙攣する腕に無理矢理力を込めて、額に額を強く打ちつける。白目を剥くヒーローを放り捨てて飾利さんの名を呼べば、『
「容態は?」
『命に別状はありません! でも!』
「フレメアさんを助ける。だから他のは知った事ではありませんとそう言うわけだ。身近で助けを求める声さえ無視する輩をヒーローなどと呼びたくはないな。平穏をただ壊す。それは暴徒と言うのであって、他の呼び名など存在しない。『シグナル』として、『時の鐘』として、学園都市の防衛が仕事だ。悪者上等。お前達が自分はヒーローだと宣うのならだが」
「だから邪魔をすると言うんですか?」
「そうだとも、仕事で動く俺達が邪魔か?」
「邪魔です!」
「あっそう」
振られる鉄パイプに
「肉体強化能力者だ。飾利さん」
『ちょっと痛みますからね!』
『
「動きが少し遅いな」
『実戦は初めてなんです! うー、指が攣りそうですよ! 法水さんもう少しこっちに合わせてください!』
「俺はちゃんと飾利さんに合わせてるつもりだ。今は黒子と同じように扱ってるつもりなんだけど」
そう言えば唸る飾利さんに小さな笑みを向けて、屠っても数が減ったようには見えないヒーロー達に顔を向けて煙草を咥えた。飾利さんの才能は、俺の追っていたものとは違うだけに底が見えない。俺が持たない本物の才能。多少強引に振り回したところでそれがなくなる事はなく、後は慣れの問題だ。経験を積んでいけばそれも変わる。身を振る『
「仕事がお気に召さないなら、そうでない理由も勿論ある。お前達に好き勝手されると本物のヒーローが可哀想だ」
「本物のヒーロー? 誰だよそれは!」
「お前達が知らないから『本物』だと言うのさ」
フレメアさんが、少女が助けを求めているのかなど知った事でもなく、誰も気づかなかったそれに逸早く気付いて動いた悪友。結果は失敗だっただろう。届かなかった。対応をひょっとしたら間違えたのかもしれない。最初追いやられた俺も上条もあの腐れ陰陽師を前にしたら殴る自信しかないが、それでも、また人知れずに平穏を守る為に動いていた男がいる。『ヒーロー』なんて呼ばれる事はないのかもしれないが、本物である事に間違いはない。
「それが意味なかったと言われるのは腹が立つ。気付けなかった俺にもな。だから俺は言ってやる。お前が動いたから俺も動いた。俺は穿つ事しかできないから、それが嫌なら俺を穿って見せろ。そこまで恩の押し売りしたいならな」
「なんなんだお前! 一体何のために!」
「そんなの勿論俺の為だ」
俺の答えに対する罵りを聞き流し、息を吸って息を吐く。格闘戦では分が悪いと踏んだのか、それとも『
「今知れ」
引き金を引く。引き金を引く。一番にはなれずとも、得意な項目に『狙撃』と書けるくらいには長年引き金を引いてきた。時の鐘の音が響く。吹き飛び、時に能力で弾かれ、そんな相手は跳弾で刺し、肉体の強固な相手は連射で潰す。
「飾利さん、弾」
減って来た弾丸に指先を擦り合わせ、『
「纏まったぞ」
『
「さてここは終わりだな。次に移る。フレメアさんの行き先は?」
『ちょっと待ってくださいね……カメラの映像を追った限りだと『避雷針』と呼ばれるビルに逃げ込んだみたいです』
「ならヒーロー達もそこを目指すはずだな。飾利さん、飛んで急行するぞ。そこを拠点としてヒーロー達を撃退した方が楽そうだ」
『それはいいんですけど、フレメアさんを助けるんですか?』
「助ける? 俺が? そこまで俺は面の皮厚くないぞ。報酬も貰ってないのに一般人から一般人を守れって?」
前足を翼として展開する『
「小さなお嬢様を追いかけ回すのは気に入らないがな、俺以上に怒ってる奴がいるだろうに、俺が先に手を出せるかよ」
『怒ってる人ですか?』
「フレメアさんにとって、妹にとってのヒーローなんて決まってるだろう? それを差し置いてヒーローを名乗るってんだから、誰も役が違う事に気付いてないみたいだ」
口ではなんと言おうとも、友達の為に無茶を通す少女がいる事を知っている。暗部だろうが関係なく、妹の為にきっと誰より走っているはずだ。ヒーローなんて称号さえ霞む程の輝きを背負ってきっと今も走っている。フレメアさんが狙われていると知った時、不思議とそこまで危機感を感じなかったのは、浜面が近くにいるだろう事もそうだが、何よりも情に厚い少女がいるだろうから。
「見てたのなら助けろと怒られそうだからな。俺が助けるとしたらそれだ。望まれてもいない救いを振り撒ける程俺は善人じゃなくてね。飾利さんだってそうだろう?」
『
「飾利さんも黒子もそういうとこ素直だよなぁ、言っとくが俺はもう始末書手伝わないぞ」
『いいじゃないですかちょっとくらい』
「……飾利さんできれば一定の速度で飛んでくれない?」
『何でですか?』
「狙撃ができねえ」
「
「内戦と変わらんなここまで来ると。誰も彼も殺人万歳じゃないのが唯一の救いか。これじゃあ二次災害の方が酷そうだ」
『
「ヒーローにとって『邪魔』にさえなれば目は引けるんだがな。
『そうやって人員を割かせて白井さん達が動きやすいように隙も作るということですね。やってみます。ただ病院がパンクしてしまっては意味がないですから、他の病院にも協力要請を出しておきましょう』
「頼んだ」
そういった面の動きに関しては飾利さんに任せてしまった方が早い。『
「よお、見た事ある影だと思ったら何やってんだ? あの距離当てるとか相変わらず根性あるな」
空を踏み締める音が聞こえた。『
「……まぁた人命救助か軍覇? 相変わらずそうやって飛び回ってるのかお前はよ。悪いがこの行き先はヒーロー達の群れの中だぞ。それと俺のは根性じゃなくて技だ技」
「何を鍛えるにも根性は必須だろ? にしてもヒーローの群れって何やってんだよ法水」
「ん? 悪者ごっこ」
「はっは! 悪者か! そりゃまた根性いることやってんな!」
「そうか?」
「どんなヒーローに何度やられても立ち向かわなきゃならないのが悪者だろ? 根性あるオマエが悪者には見えねえけど……付き合うぜ?」
学園都市第七位の笑顔に肩が落ちる。相変わらず根性根性と。削板軍覇の基準はよう分からん。根性とは、ギャルが使っているマジ卍並みの便利言葉なのかは知らないが、細かい事も聞かずにどう頭を働かせると付いて行こうなんて選択肢が出るのかも分からない。俺と『
「俺がやってるのは少女を助ける為とかいう大義を掲げて動いてる奴らの邪魔者だぞ? 目立って引き付け潰すのが仕事。それでもかよ」
「あー、あの根性ねえ奴らのか。任せろ! 目立つのは俺も得意だ!」
「いや、そういう事ではなく」
「根性がありゃ大抵はどうにかなるもんだ!」
「話聞いてる?」
『あのー……法水さん?』
「うおっ! オマエ日本語喋れるようになったのか! 根性あるな!」
「聞いてねえな話」
「中に誰か居やがるな」と呟き『
「飾利さん、『避雷針』の壁を砕く勢いで突っ込み大地に降りろ」
『それだと穴が空いちゃいますよ⁉︎ 『避雷針』のセキュリティは低くないようです! 壁はそのままにしておいた方が!』
「逆だ。目に見える穴を作ってやればそこにヒーロー達は殺到するだろう。此方で流れを作ってやればいい。一人も通さなきゃ穴があろうがなかろうが同じだからな。まあそれこそ根性いるだろうが」
「ならなんの問題もねえな!」
「そういう事だ」
『えー⁉︎ 本当にその人も一緒に行くんですか⁉︎ 何がなんだか⁉︎ もう法水さん任せましたからね!』
急降下する『
「さあ悪者見参だ。待ってただろうヒーロー共」
「ここを通りたきゃ根性ある奴からかかって来い! ただ俺はそんなヤワじゃねえぞ!」
第七位の拳が掲げられ、白銀の槍を天に掲げる。背後で翼を折り畳み吼える『
『いやいや、間に合ってよかったよ。流石私だね! とミサカは賛美!』
「なんだ
『まあまあ、ほら来るよ法水君、とミサカは進言』
眉を顰めた先で、空いた穴を目にヒーロー達が行き先を決めたかのように一歩を踏んだ。が、その音を稲妻の鳴き声が塗り潰す。空を裂く一筋の閃光が地を抉り、見慣れた波の形に堪らず噴き出す。
「あ、アンタその後ろのってッ⁉︎ 何でアンタがここにいるのよ! あの馬鹿はどこ!」
「お前俺やり過ぎんなって言ったよな! また呼んだのか⁉︎」
『いやぁ、近くに居たみたいだからね。こう、丁度いいかなって』
「何が⁉︎ しかもこれはッ⁉︎」
「あらぁ、また会ったわね。今日はよく会うわね傭兵さん」
見慣れた波は二つ。少し前に別れたというのに、何故また食蜂さんの顔を見なければならないのか。リモコンを手にニコニコ笑う食蜂さんの笑顔に一歩足を下げていると、
軍覇。御坂さん、食蜂さん。その三つに負けない程の強固な世界の振動に当てられ、心の奥に潜む巨大な魚影が浮上する。己にない輝きに大口を開け鋭い歯を沿わせるように、第三の瞳が波を捉える。波長の違う大きな三つの波を。
「フレメアのヤツはどこ行った? ったく、浜面の野郎も連絡入れんならもうちっとマシな情報を用意しろっていうんだ」
ズバッ‼︎ と極光が走る。小さな能力の波を撃ち崩し宇宙戦艦が人波を割る。三人の少女を従えて散歩でもするかのように軽い足取りで歩く破壊の女帝。学園都市第四位。麦野沈利の眼光にヒーローの輝きも関係なく、目の前に立つ有象無象は膝を折る。
「ボクゥの偽物湧きすぎやない? 第六位の使い方を教えてあげなあかんよね。ただでさえボクゥも今日はムシの居所悪いんや」
生命が弾ける。純粋な生命の爆発が能力ごとヒーロー達を生命の奔流に引き摺り込んだ。収縮する腕の運河の中央から角が伸び、人外の膂力を誇る怪物がゆっくりとその姿を世界に落とす。学園都市第六位。青髮ピアスの咆哮にヒーロー達の血の気が失せた。
「とンだバーゲンセールだな。俺が見過ごすと思ったのか? くだらねェ『闇』が勝手してンじゃねェ」
最強が飛来した。無数のヒーロー達を薙ぎ払いながら空から降って来た学園都市第一位の手加減。その域にさえヒーローと名乗る者達は届かない。強度さえ関係なく学園都市が誇る最強の襲来は終わりと同義。固まるヒーロー達以上に唖然としてしまう。
集まり過ぎじゃね?
誰も彼も見知った顔だが、仲良しこよしというわけでは勿論ない。
「……なぁ、孫っち」
「舞夏さんなら大丈夫だ。土御門は確かに守ってみせたよ」
「ならええわ、うん、で、なんの集まりなんこれ?」
「そりゃこっちの台詞なんだよ! なんで居やがるお喋り仮面!」
「ボクゥだけ⁉︎ 麦野ちゃんそりゃひどいわ! 孫っちとかいっちーもおるやろ⁉︎」
「その呼び方やめろっつったよなァ、学習能力ねェのかオマエは、ちッ、なンで第三位まで居やがンだ」
「こっちの台詞よどいつもこいつも! 暇なのアンタら?」
「必要力ゼロな人多いんじゃないかしらぁ? そこの人とか関係ないと思うんだけどぉ?」
「誰のことだ?」
「いや、多分お前に言ってるぞ軍覇、だいたいここまで来たら関係あるなし、それこそ関係ないだろうよ。いや、一人にとっては違うかな?」
麦野さんに目を向ければ、その背後からフレンダさんが顔を出す。テンパる事もなく、笑顔さえ見せず、口を引き結んで麦野さんを通り越して歩いてくるフレンダさんの顔を見つめ、その肩を軽く小突く。周囲に目を走らせて誰も何も言うことはない。
「……法水、アンタなら」
「分かってる。行けよお姉ちゃん。有象無象はこっちに任せろ。ここから先にヒーロー共は通さない」
そう言えば、小さく笑みを浮かべて一旦周囲をフレンダさんは見回すと、大きく頭を下げて振り返る事なく『避雷針』に開いた穴へと走って行った。誰かの為。誰かを助けるのに理由はいらない。そうなのかもしれないが、助ける理由がある者には及ばない。フレメアさんはフレンダさんの妹で、フレンダさんはフレメアさんのこの世に一人しかいない姉なのだ。それを差し置いて俺が助けるなどと吐けるものか。金色の髪が視界から消え、もう憂いもなくなった。
「あの子一人で大丈夫なの? どうせならアンタ達も」
「喧しいわよ小娘。フレンダにもちゃんとあるんだよ意地ってやつは」
「麦野ちゃんの言う通りや、ボクゥらには抱けないフレンダちゃんだけの必死ってな。なあ孫っち?」
「まあそんなところだ……で? 俺達はいいとして、あそこのはどうする?」
幾人かが首を傾げて俺の視線の先へと顔を向け、ヒーロー達に混ざって揉みくちゃにされている黒いツンツン頭の姿に大きなため息が幾人かの口から零れ落ちた。食蜂さんがリモコンを叩き道を開け、軍覇の拳が道を広げ、走り易くなった道に足を伸ばす上条に殺到しようとするヒーロー達を、学園都市の頂点たる能力の砲撃達が紙くずのように散らす。能力が衝突する余波で俺達の前に転がり出てきた上条は苦い顔を上げ、俺と青髮ピアスの顔を見比べて眉を顰めた。
「……青ピ、法水……土御門がッ、それに浜面と黒夜も怪我しちまって……」
「知ってる。って事は会ったんだな土御門に。それでここに来たのなら、フレメアさん以外にも何かあるのか? あぁいい、詳しくは聞かん。……にしても浜面もか……フレメアさんが一人で逃げていたあたり薄っすら考えはしたがよ……どうしようか青ピ?」
「うん? それは自分らの鈍感さをどないするかって話? 第六位に時の鐘が揃いも揃って雁首揃えてここにいるのはおかしいなぁ。普段友達面してる癖に、秘密主義も大概にせんと、終わってからじゃ愚痴しか言えんわ。類は友を呼ぶ言うんかな? ボクら全員同じ穴の狢やね。なあカミやん?」
「ああ、でもまだ終わってねえ。終わらせなくちゃ駄目だ」
「「ならお前は先に行け」」
「おぉいッ⁉︎」
青髮ピアスと共に上条を穴の方へと放り投げ、顔を歪める上条に青髮ピアスと共に笑みを送る。
「土御門に会ったのはお前だけだ。フレメアさんはフレンダさんが助けるさ。だが、それ以外があるのなら、変わらず走れよ上条」
「残念やけどボクら体は一つしかないからなぁ。ツッチーの為や。こっちはボクらが相手するから、そっちは任せたわ。こっちは終わらせとくから、ボクらが追い付く前に終わらせてもええよ?」
「戦局的な話がしたいなら、他の敵がいるのなら、このままアレらを放っておいたら挟み討ちだ。それはよくない」
「それにカミやん集団戦苦手やろ? まあうだうだ理由並べてもしゃあないわ。兎に角行きぃ、じゃないとうっかり本気も出せん」
「ああ……分かった! 任せたぞ!」
走って行く上条に青髮ピアスと二人手を掲げ、青髮ピアスは拳を握り、俺は狙撃銃に弾丸を込める。牙を剥き目を光らせるヒーロー達と相対し、一歩を踏み出そうとした横で、不貞腐れたように頬を小さく膨らませた食蜂さんにリモコンで肩を小突かれる。なんだいったい。
「もう、御坂さんと先に辿り着いた方が好きにするって賭けてたのに、何で貴方が一番最初に見つけているのかしらぁ? 狙撃力の使い方を間違えてるんじゃないのぅ?」
「わざわざ間を外して言う事それか⁉︎ 知るかそんなの⁉︎」
「大きな貸しよぅ?」
「これで⁉︎ おい! 同じ常盤台だろ! 御坂さんからも何とか」
「ちょっと! その子の中に入ってるの初春さん⁉︎ どういうことよ!」
『えぇっと、これはその、法水さんとですね』
「今それはいいだろう⁉︎ だいたい『
「……オマエらここに遊びに来たのか?」
ほら
────ゴゥンッ!!!!
目覚ましにような鐘の音が響く。骨身に染みる聞き慣れた音。
「……オイ法水、時の鐘は休止中じゃなかったのか?」
「……戦場なんか作るからこうなる。休止中だろうが戦場があるところに俺達はいる。平穏に脅威が向いた先に。それでも単純な数の戦力差ならパッと見でも百倍以上のようなんだが……どうする?」
答えは誰も言わずに向くべき方向が一様に揃った。ヒーロー。輝かしい存在も戦場では主役ではない。己である為にヒーローなどという称号は必要なく、突き進み続ける者にヒーローなどという呼称は追い付けない。誰かが既に終わった結果を見てそれを口にするのであって、過程の中で、『必死』の中で、それが自らの口から出る余裕があるのなら、それは絶対などではない。ヒーローなんてただ一人に冠せられる呼び名ではないのだから。ただ一つ、自分を自分と分かっていれば他のはいらない。