阿鼻叫喚。死屍累々。
惨状を表す言葉は数多くあれど、目にする現実に当て嵌まる言葉が見当たらない。戦場の中で恐怖や哀愁を感じる事が俺にもあるが、『可哀想』といった言葉が思い浮かぶ事は稀だ。なぜなら誰もが同じものを携えて同じ場所にいるはずだから。この戦場も結局はそう。『
「弱い者いじめは趣味じゃないか……」
いつかトールが言っていた言葉を改めて思い返す。一方的な勝利というものを俺も幾度か経験してはいるが、莫大な力で押し潰す、といった形には、俺はならないしできない。どれだけ鍛えたところで俺が十全に振るえるのは腕や足、弾丸であって、どれだけ技術を収めても手からビームなど出ず、ビルを千切って投げはできないのである。
目に見える誰にも使える暴力と技術でボコボコにする。俺が一方的に与えられる結果とはそれに尽き、だからこそ、それ以上の結果が目の前に転がると羨ましく、恐ろしく、自分の手のひらに乗る以上のものであるだけに、一瞬思考が馬鹿らしいに傾く。
渦。破壊と暴力の渦。地震に雷、多くの災害を竜巻の中に閉じ込めたような大流が『避雷針』前の広場で逆巻き、その見た目からくる単純なエネルギーの強大さ以上に目を引くのは、敵を屠りながらも能力を手足のように動かし、激しい砂嵐の砂粒を柔らかく受け止め落とすように力を振るう
「飾利さん、左に少しズレろ。『
『分かりました。でもこれは……』
「言うな。考えるだけ無駄だ。馬鹿らしくてもやる事は変わらない。手を抜いて抜けられでもしたら間抜けよ」
簡単過ぎる喧嘩は経験値にならない。場を見れば、トールが言い憂いた意味も分かる。力があるからこうなるのか、相手に力がなさ過ぎるだけか。
だが、それで疎外感が拭える訳ではない。それを埋めてくれるのは、きっと己とは別の強者だ。強者の世界。似たような者が集まり、一種の基準が引かれた世界が目の前に描かれたからこそ、今はそれがよく分かる。
順位が設けられていたとしても、実際は横並び。『強さ』という点において差があろうが、誰もが別の世界の頂点に座している。違いがあったとしても、それは鳥は空を飛べ、魚は水中を泳げるのとそう変わらない。力に流される有象無象と波長を合わせたところで道端の小石に並ぶだけ。そうでありたくないのならばこそ、合わせるなら、引かれた基準線を超えた先にいる者達。
腕の一振りで力の向きを変え、百人単位で空へと舞い上げる第一位。
指で稲妻の閃光を弾き、人類に栄華を齎したエネルギーで数多を引き千切る第三位。
破壊に突出した光の爪であらゆる全てを蒸発させる第四位。
リモコンに指を押し込む。ただそれだけで思考を乱す第五位。
誰にでもなれ、誰にも備わる肉体から外れた挙動を繰り返す第六位。
拳、蹴り。咆哮。他と変わらぬ同じはずの動作が必殺とさえなる第七位。
俺は誰と同じにもなれず、ならばできることがあるとするならなんであるか。学園都市の中で特異点と化す程に乱れ重なる波を吸い込んだところで、俺の器では抱え切れずに、魔神オティヌスの波紋を掴んだ時のように己にヒビが入るだけだ。だから向き合うのは自分。その底の底の底。頭でどれだけ考えても、『
俺はどうしたい?
「さて、行くぞ」
心の底に波紋が立つ。前に進めと巨大な魚影が悠々と地を這う姿を幻視して、それを追うように足を出す。一歩。一歩。追う影と己を重ねるように。全能神を見せつけたトールに向けて歩いたように。例えどんな相手と相対しようが、並ぶべき道は存在する。
お前を見るから俺を見ろ。
必死の匂いを嗅ぎ分けて、向けられる必死に必死を返す。暴力の渦の中へと自ら踏み込み、自らの体から溢れる波紋とぶつかり合う波達の反響から安全地帯を逆算して足を出す。雷撃が背後を走り抜け、空気の塊が目の前を泳ぐ。わざわざ周りを拾い込もうと両手をいっぱいに広げなくても、己をより強固に確固とし、自分が分かっていれば結果周りを知る事に繋がる。
そういうことか。そういうことだ。
渦の中で吹き飛ばされず、未だ立つ幾人かのヒーロー達。どうしようもなく相性というものが存在する中で、辛うじて超能力者の力に抗い立つ者にこそ牙を向ける。俺には勝てない者がいる。例えそうだとしても、他の者が勝てない者を俺が穿てばいい。暴力の嵐の中を歩く俺に幾人かのヒーローの視線が突き刺さるのを感じながら、手に持つ狙撃銃を握り締める。
「……ようやく使い方が分かってきた。まだそれが一端だろうが、今はそれでいい。お前達の心の底を俺に突き立てろ。それが俺の糧なんだ。ここから先は細かな理性は必要ない。だから喰い散らかしても怒るなよ」
フレメア=セイヴェルンを己が法則で救い出す。それを未だ諦めない者の心を噛み砕く。それで俺に並べるようなら並んでくれ。そうでないなら────
「出直せ。本物の必死を抱いてから」
捲れ上がった大地の破片が頬を擦るのも気に留めず、立つヒーローに向かって歩き続ける。拳を握り振り被るヒーローを前に、理性を削ぎ落として本能で合わせる。突き出される拳の軌跡。似たようなものなら何度も見た。だからそれに並ぶ方法は既に知っている。体を振るい突き出される拳を掻い潜りながら、ヒーローの顔に拳を埋める。崩れたヒーローには目もくれずに次へ。ヒーローからの電撃。
「俺に並びたかったらもっと絞れ、俺より先にいるのなら、俺は必ず並んでやるぞ。お前達とは違う方法で。俺だけの方法で」
「それでお前は誰かを救えるのか⁉︎」
「そんなのおまけだろ。自分も救えない奴が誰かを救えるかよ。だからまずは自分の底を掬うのさ」
同じ独善であろうとも、俺はただ俺の為に。それが『悪』と呼ばれるものであったとしても、その使い方をもう俺は知っている。平穏を守る『正義』があれば、平穏を守る『悪』がある。ヒーローなどと呼ばれなくても、ヒーロー以外にできることもあり、ヒーローにしかできない事はない。それで例えはみ出したところで、その場所が一人のものでないことも知っている。
背後で蠢くヒーローの影に顔を向ける事もない。ゴゥンッ! 鐘の音が鳴り響き背後の影が転がる。視界の端で踊るアッシュブロンドの髪を見つめて足を止めれば、背に絶えず追い続けた鼓動がぶつかった。
「いいんですかボス? 狙撃手が飛び込んで来てしまって」
「見えたからよ、狩りは一人でするものではないわよ孫市。分かるでしょう貴方なら。それを教えたのは私だもの。見えるかしら光の流れが」
「波の畝りなら見えますよ。ボスにとっては猟でも、俺にとっては漁のようだ。でもいいでしょう? 見えるものが違くても」
「立つ場所は同じね。あの獲物達追い込んでちょうだい」
「喰い荒らしても怒らないなら」
「あら、躾のなってない猟犬ね。誰が育てたのかしら?」
「姉さんだよ」
「大きな光は強大な獲物。それを狩ってこそ狩人でしょう? 譲りなさいよ孫市」
「あっちから俺の口に飛び込むのが悪い。ただ柔らかくて噛みごたえないですね。ああほら、あれとか口端から零れ落ちましたよ」
ゴム弾に弾かれ後方に吹き飛ぶ男に巻き込まれないように身を捩り避けた少女を顎で差すが、ボスは目も向けず、別方向から飛び掛かってくる者を蹴り飛ばしゴム弾をついでとばかりに放つ。
「お零れ拾ってどうするのよ。死にたいのかしら? あんなくすんだ光取っても掲げようがないじゃない。アレは獲物ではなく観賞用の小動物と言うのだから。手負いの獣は恐ろしいと言うけれど、それはまだ手にもしていない勝利に浸って阿呆面してる者にとって意味あるだけ」
「テメェら好き勝手ッ」
「危ないぞ」「危ないわよ」
注告した途端、
単純な火力では
「それより『学舎の園』で見た子達はどうしたのかしら? ここにはいないようだけど。アレが貴方の時の鐘でしょう?」
「黒幕の本拠地に送りました。ここまで好き勝手されたなら、敵の全てを奪ってやらなければ。学園都市でなかろうが、こんなことする奴必要ないでしょう?」
「扇動者の行き着く先ね。騒ぎを起こすならそれ相応の対価を支払って然るべしではあるけれど、
多くの者を躍らせる事に成功したならば、指向性など付ける事もなく、広域に展開させてただ暴れされた方が圧倒的に時間は稼げる。
「それとも
「でしょうね……相手の本命が何かは分かりませんが、分かっていそうな上条を取り敢えず先に行かせましたから最悪時間は稼げるでしょうけど」
「そう……孫市、獲物を確実に仕留めるなら相手の退路を完全に断ちなさい。小狡い奴に限って最後の手を隠しているものだもの。ただ最後の一噛みが厄介だけれど、その牙をへし折ってこそ」
「傭兵ですか。……首謀者は分かってます。無法地帯だろうが、一応は用意はされている法に則って表から叩き潰せる手はきっと黒子が見つけるでしょうが」
その首謀者が何処にいるのやら。わざわざ不特定多数が出入りする可能性があり、怪我人が送り込まれ続けているだろう大学付属病院に籠城するような相手ならば、その違和感に黒子達なら気付き逆に相手の居場所を特定するだろう。だがそうでないなら何処にいるのか。社会的に潰せても、肉体的に無事であるなら確実に仕留めたとは言えない。土御門と会った上条がここに来たという事は、フレメアさんが鍵であることに変わりはなく、それが今もそのままならば、敵もそれを確保する為に動くはずだ。ならば終着点は結局変わらない。
「ねえボス、一人の少女を執拗に追いかけ回す奴ってなんて言うんですかね?」
「児童愛好者かしら?」
「そうはなりたくないですね。ならやはり」
救うのではなく挫く。フレメアさんを救う者は既にいる。敵となる者の思惑を挫いてこそ傭兵。結果は同じでも向かうべき方向性はまるで違う。磨いた技術は壊す技。それが最も得意であるからこその時の鐘。数が減り、道端に転がり重なったヒーロー達の意思なき姿に目を這わせる。
「力の流れを抑える役はもういいでしょう。ヒーロー達を抑え切っても事態が終わる訳でもない。表は黒子達が、ヒーロー達は
「裏の流儀はこっちで済ませた方がいいわね。ある程度事態はこっちでも当たっているけれど、土御門元春には瑞西も私達も借りがある。この事態で一番最初に目に見えて動いたのは彼よ。この事態の引き金を引いた一人に見えなくもない。表で気にされなくても裏では違う。なんらかの動きはあるでしょうけど、その鎮静化はこっちでやりましょう。ただ目が向くのは貴方達になるでしょうけどね」
「そんな今更、ただでさえ『
学舎の園に俺と上条を誰が送ったのか。おそらくそこからずるずるとボス達は情報を引き出したはずだ。土御門の道程。それを追い転がっていた事件事故は元
「ただ統括理事会の一人を叩き落とすとなると、これまで以上に目に付くでしょうね。一方通行のおかげで暗部が大幅に減って動き易くはなりましたけど、所謂『闇』と呼ばれるやつは消えはしない」
「ならやるべき事は一つじゃない。孫市。貴方は時の鐘の学園都市支部支部長として、平時は学園都市にいる事を決めたのでしょう? なら『闇』を掌握できる立場に立てばいい。無法地帯を縛る為に」
不審な空気に口端が引き攣る。その先を聞きたくなくても耳を塞いだところで振動を拾う俺の体には意味もなく。
「いいように使われ振り回されるのが嫌ならば、貴方は統括理事会を目指しなさい」
ボスの言葉に堪らず噎せた。
「ぶッ⁉︎ しょ、正気ですか? ただでさえ最近世界に目を付けられ出していて仕方ないのに、目立つのが仕事でもありますけど、そこまでは」
「下手に中に居て危険なら、中央近くに居座ってしまえばいいのよ。貴方がこれまでやって来た仕事を思い返してみなさい。この件も含めて、場末でも『候補』に入るぐらいには名前が売れているでしょう? 貴方が時の鐘の一番隊を目指した時と何も変わらない。暴力として学園都市の一部に君臨なさいな。学園都市はもう誰も無視できない立ち位置にいる。その中枢に時の鐘が一人いる。そうなれば、私達にとってもメリットは計り知れない」
「でも俺は能力者でなければ科学者でもない。それに俺は別に偉くなりたい訳じゃ……」
「そうでも、この街の学生が能力者を目指す理由が貴方にはよく分かるはずよ。それに偉いどうこうは関係ないわ。使えるものを使うだけよ。掴める位置にいる事が大事だわ。より良いものを手にする為にはできることを増やすしかないのだから。これは、これまで学園都市で積み重ねてきた貴方にしかできない事よ」
形が違うだけで変わらない。能力者が
「……茨の道ですね。何年掛かるかも分かりませんよ。その為に学園都市支部を使うというのも俺は気に入らないですし、円周も、釣鐘も、そんな事の為に誘った訳じゃない。学園都市は好きですけど、それは友人達がいるからであって、俺はねボス、そんな奴らがいるからここにいるだけの男です。そうでなければ瑞西の復興の為に瑞西にいる。学園都市の外から一歩出れば、日本に思い入れなんてそんなにない」
「でしょうね。でも分かっているはずよ。ヒーローなんてその時の為だけに見繕われた存在が頑張ったところで、些細な流れが変わるだけで大きな流れは変わらない。一撃で大流を変えたいのなら、良い位置で狙撃をしなければならない。学園都市に暴力の使い方を貴方が教えてあげなさい。『闇』が消える事がないのなら、貴方が『闇』になればいい。居心地の良さそうな『闇』にね。自分の巣ぐらい整えなさいな。ここに根を張ると決めたのなら」
「全力で上を目指せるだけ目指せって? 厳しいなぁ、俺の平穏はいつ来るんです?」
「いつ来るか分からないなら作るしかないでしょう?」
その通りではある。泳ぎづらいなら、自分で場を押し広げるしかない。それにそれをやるのなら、誰かに任せていては駄目だ。自分の力で掴み取らなければ、張りぼてを手にしたところで得られるものなど何もない。時の鐘を学園都市に根付かせながら、統括理事会入りも目指すと。
「……そうだとしてもオマケでですね。俺は俺のやり方を変える気はないですし、それで統括理事会になったのだとしたら、その方がいい。やり方や生き方を変えてまで俺は上に行く気はないですよ。なるのだとしても、そこに『必死』があるのなら。そうでないならそんな席、捨てる事はあっても拾う事はない。浜面、釣鐘、円周、垣根、鞠亜、クロシュ、木山先生。俺は誰も零さない。それでもいいなら」
「それでいいのよ」
微笑むボスにため息を吐いて頭を掻く。統括理事会を目指すなどと馬鹿げている。無茶だし無謀だ。誰に目を付けられるかも分からない。それは今も変わらないが、虚空を泳ぎ、いつトカゲの尻尾にならないか恐れるくらいなら行けるところまで行って自分の世界を確固とする以外に道はないのも事実。学園都市に来て半年以上。良いも悪いも関わり過ぎた。
体を蟲が這い回るような言いようのない想いが湧き出てくるも、今もなお横たわっている他の大きな問題をこそ、それならそれで先にどうにかしなければならない。そう考えつつ、戻って来てしまった理性を引き剥がすように波の世界に目を向ければ、小さな波が何やら右手の甲に蠢いている。
二つの瞳に映るのは白い蟲。マジで体に蟲が這い回っているとか。手の甲に張り付くゾウムシのような蟲を叩き落とそうと手を伸ばせば、ゾウムシは慌てたように羽を震わせ見知った波を撒き散らす。学園都市第二位、
『待ってください法水! まったく油断も隙もない。至急報告したい事があって来ました!』
「お前カブか? どうした小さくなっちまって」
『私の本体は別です! これは通信機みたいなものだとでも思ってください! フレメア=セイヴェルンがピンチです! 助けにやって来てくれたフレンダ=セイヴェルンと上条当麻だけでは些か厳しい』
「何でお前が一足早くそこにいるんだ? 普段事務所にいない時どこにいんの? いや、今はそれはいい、よく分からんから簡潔に事実だけ伝えろ」
『恋査と呼ばれる特殊なサイボーグから襲撃を受けています。第七位を除いた
「またそんな手合いかよ、まあいいや、呆れるのは後でいくらでもできるからな。それはあれか? ヒーローなのか? 自分がフレメアさんを助けるってさ」
『違います』
「……そうか」
踊らされているヒーロー達と違い、周りに流される事なく己が意思で平穏を砕こうと動く者。黒幕の隠していた刃。即ち脅威。上条が追っていたのもそれなのか、ようやっと狙い撃つべき的が出て来た。出て来てくれた。ボスと目配せし合い、狙撃銃の中のゴム弾を吐き出す。穿つべき脅威が姿を現したならば相対するのみ。例え仕事でなかろうとも、今日ばかりは自分勝手に理不尽を押し付けるだけの理由を持っている。土御門に浜面、
助ける? 救う? 俺にできるのは遠く弾丸を吐き出すだけ。
「案内しろカブ。上条に追いつくとしよう。この状況で別の動きを見せるそれが薬味久子の本命だろう。それを穿ち薬味久子の幕を引く」
「飾利さん、『
『あんまり無茶はしないでくださいよ?』
「無茶するな? その注文は厳しいな。カブを行動不能にするような相手だぞ。それに無茶するぐらいが丁度いいさ。じゃなきゃ」
一方的に殴ったとしても殴り足りない。向かうべきものが脅威であるなら、躊躇も、遠慮も、手加減も、油断も必要ない。ただ牙を突き立て噛み砕き粉砕するのみ。豆腐のように柔らかさは必要としない。叩き、潰し、噛み締めても崩れないような相手でなければ、そんな者に土御門に浜面も垣根もやられたのかとただ苛つく。だからどうか歯応えあってくれ。全力を出していい相手であってくれ。俺が『必死』を絞り出せる脅威で。でなければ己が内で渦巻く波の行き場に困ってしまう。
身を振るい歩き破壊の渦から出たところで、微妙な顔の
「おい法水」
「……なんだ
「クソみてェな目標だが、そォ言う野郎が座った方がまだマシだとは思うがなァ……殴る理由のある奴を止めはしねェ、いつも通り好き勝手やってろ傭兵。気に入らねェならプチッと潰すだけだ」
「おぉ怖、じゃあ潰されないように気を付けよう。
「あるかよ、何言ってもオマエは突っ込むだけだろ鉄砲玉」
「……皮肉に優しさもない」
「助けてえ傭兵さぁん!」
投げられた叫びは食蜂さんのもの。何だと振り向いた先で青い顔をした食蜂さんの後ろを虎だのライオンだのが追いかけている。アレもヒーローなのか、それとも能力者に操られているのか。すっ転ぶ食蜂さんを通り越して飛び込んで来る虎の首を抱えるように腕を伸ばし、勢いを受け止める事なく後方に投げ捨てる。その間に
「ぷは、ひどいと思わなぁい? 御坂さんたら全然助けてくれないのよぉ?」
「……食蜂さん、御坂さんに能力でヒーロー
「あれぇ? そうだったかしらぁ?」
「随分都合のいい頭してるわねアンタ!」
ってか食蜂さんは動物は操れないのか、へぇ。
投げ捨てた虎が体を起こし、
見つめる先で、時間を置かずに猫のような鳴き声を上げて虎は踵を返した。俺じゃあない。虎が恐れた相手。上から降ってくる強烈な本能の揺らぎに目を向ければ、骨の仮面を被ったような怪物の巨躯が大地に足を落とし揺らす。第六位。人間という生物の野生を剝きだす姿は、人の内側に燻る何かの姿なのか。
「性悪説を信じる俺としては目に痛いな。どうする? 骨と筋肉のお化けも殴りに行くか?」
「いやぁ、折角女の子に群がられてるのに手放すのもなぁ? だからそっちは孫っちに任せるわ。助ける役目はボクゥにも孫っちにも似合わんやろから、ボクゥの分も殴って来てくれへん?」
「そうしよう……ってか、群がられてるというより引かれてね?」
「言わんでええやろそれは! ボクゥがかっこよすぎて打ち震えているだけや!」
そう言い唸り胸を張る青髮ピアスの姿に、見事にヒーローの少女達は顔を青くして生唾を飲み後退っている。視覚的に最も恐怖感を煽るのは青髮ピアスで間違いなく、歓喜の声とは種類の違う声ではあるが、確かにきゃあきゃあ、いや、ギャアギャア騒がれてはいる。そんな中から閃光の槍が伸び、骨の頭を叩いた閃光は外れて『避雷針』の壁に穴を開ける。怖い。
「何サボってやがる第六位! さっさと私の壁になれ! その無駄に丈夫でデカイ体の使いどころだろうが!」
「……えぇぇ、だって麦野ちゃんボクゥごと焼き払おうとするんやもん。受け止める身にもなって欲しいわ。麦野ちゃんからのダメージが一番ヤバイんやけども」
「平気なんだからいいでしょうが。絹旗、滝壺、道を開けなさい。筋肉ダルマが通るから。……法水、私の代わりにまだフレメア連れて戻って来ないフレンダの野郎を小突いてきて。お前は得意だろそういうの」
「俺は詐欺師や
麦野さんに鼻で笑い飛ばされ、突っ込む青髮ピアスの背後から遠慮なく閃光を吐き出す宇宙戦艦の暴虐無人さに口端を引き攣らせて青髮ピアスの冥福を祈る。
俺がいようがいなかろうがここは変わらない。
「目にしたら最後、逃げ切れると思うなよ黒幕がッ」