どうしよう……。上条にヘッドロックをして遊んでいるオティヌスは放っておき、雪に埋もれた大地の先を見つめてインカムを小突く。
現在はかつてヴァイキングの玉座が設けられていたと言うイエリングの少し下、最終目的地はクヴェンドロップ近郊にあるイーエスコウ城と。現在位置がデンマーク最北端の島であるヴェンシュセルチュー島であり、イーエスコウ城があるのはデンマーク中央に位置するフュン島。距離にして三〇〇から四〇〇キロ。徒歩で行くとすると死ねる。
ヴェンシュセルチュー島とフュン半島を渡る為には、間にあるユトランド半島を通らねばならず、いずれにしても陸路なら島から島へ橋を通らなければならない。デンマークの地理が分からず、オティヌスがしてくれた説明を適当に聞き流していた上条はご覧の有様だ。スイス人で良かった。ハムがフィンランド出身なおかげで北欧にはそこそこ来たしな。
乳繰り合っている上条とオティヌスはガン無視して思考をまとめる。あの二人だけが分かっているらしい狭い世界を気にしていても仕方がない。俺を雇ったということは、連合軍に対しての動きの提案とかそういった方面での頭脳担当といった側面が強いのだろうし、大手を振るって全速力で迫り来ている死から逃れる為には、頭を休ませている暇はない。頭が沸騰し掛かってもこれだけ気温が低いなら勝手に冷ましてくれそうだし。
とはいえ単純な物量差で既に負けている現状、打てる手なんてほとんどないのが実情だ。合衆国に露西亞。軍事面から見ても馬鹿みたいな数の軍事衛星を掻い潜る事は不可能であり、全世界、二〇億人の信徒を要するローマ正教の人海戦術には隙が少ない。そして学園都市までなぜか率先して敵に回っているとなると……はい、詰んだと。
魔術、科学、アナログチックな技術に至るまで、穴がなさすぎて笑えてくる。なんだこの無理ゲーは。警戒して進むにしたってどうにも限界がある。上条の右手が異能に対して有用でも、それ以外となると対抗する手段が少な過ぎる。だからこそ、考えるべきはいつどこで誰が襲撃してくるかだ。
襲撃されないなんて事はまずあり得ない。だがそれを一々相手にしていては時間が足りないだろう。誰が向かって来てどう受け流し前に進むか。オティヌスの現状を説明して納得してくれるような相手だと助かるが、それは希望的観測だ。不殺を掲げてどこまで進めるか。俺を囮にするとしても、その手は使えておそらく一度きり。額に滲む嫌な汗を拭っていると、遊びを終えたらしい上条とオティヌスが隣に並ぶ。
「ウォーミングアップは済んだかお二人さん。どれだけ時間があるかも分からない時間切れに背筋が凍る思いだよ。なにせ此方の手がなさ過ぎる。同じように相手の情報もない。文明レベルの違う相手が敵みたいなものだ。まあ発想と技術と経験でそれは埋めるしかないんだろうがな。方針は固まったか?」
「取り敢えず徒歩で南下しながら、車を見かけたらその都度ヒッチハイクしてみるのがいいかなって」
「上条お得意の手か。この雪景色、タイヤ痕がほとんどないのを見るに期待薄だがな。取り敢えず歩くとしようか。足を出さなきゃ辿り着けないのだし」
ざくざく音を立てて再び南下を開始する。これだけ周りに何もなければ、逆に何か変化があれば目につくというものであるが、別の言い方をするなら目立ってしまうという事でもある。背にする狙撃銃を背負い直し、凍てつく風が肌を撫ぜる感触に触覚を這わせて波の世界を見つめるが静かなものだ。今だけを見れば世界相手に逃げているなどとは信じられない。とは言え所詮それも嵐の前の静けさなのであろうが。
五分歩き、十分歩き、やはり車が通り掛かる事はなく、カチカチ、カチカチと小さな波紋が波に世界の傍で蠢く。目を向ければ寒さからか歯をカチ鳴らしている青白い顔の上条が。心拍数でも無理矢理引き上げて体温を上げればいいのではないかと思いつつも、「できるか⁉︎」と文句を言われそうなのでそれは言わない。
「なんだよ上条、そんな青い顔をして。不安ならあれだ。戦力差とか、食料問題とか、挙げればキリがない問題ごとを考えていれば馬鹿らしくなってきて不安さえ考える暇がなくなるぞ」
「それはただ感覚が麻痺してるだけだろ! 逆に不安になるだけだって! く、くそ、まずい。寒さで歯の根が合わなくなってきた。な、なあ、フランダースの犬ってどこの国の話だったっけ? まさに本場のヤツを喰らっていそうな気がするんだけど……」
「心配するな。あれの舞台はベルギーだ。デンマークはマッチ売りの少女の聖地だよ」
「やばい、悲惨度で言えば五〇歩一〇〇歩だ!!」
「おいおい、アンデルセンなら裸の王様も書いてるぞ」
「だから⁉︎ それもある意味悲惨だろ‼︎」
これでは『バカ者には見えないコート』がここにあると言っても信じてくれそうにない。まあないんだけど。確かに一面真っ白な果てしない大地を見ていると、旅の行く末を暗示しているようで気分はあまり宜しくない。
「食料が欲しければその辺の洞穴でも探すと良い。こいつは雪国のサガなんだが、この国もまた熊は身近な動物だ」
「やば────い!! 静かに死ぬタイプだけじゃなさそうだぞ!!」
「なんだ熊か、よし、最後の晩餐になるかもしれんし狩ってこよう。これで食料問題はどうにかなるぞ」
「熊よりヤベエ奴がここにいる⁉︎」
取り敢えず熊狩りでもして気分を落ち着けようとオティヌスが目を向けたその辺の穴に向けてざくざくと雪を踏み締め足を出した途端。オティヌスが帽子を手で押さえ空を見上げた。
チカッと空で白い光が瞬く。
足を止めて顔を上げ、目を見開いて踵を返し空を見上げて立ち尽くしている上条とオティヌスの襟首を引っ掴む。二人が何か叫ぼうとしているのにも気に留めず、熊がいるかもしれないらしい穴へと全速力で足を伸ばす。やばい。やばいやばいッ!
大陸間弾道ミサイル────ではないッ。空に尾を引く雲がないッ。それに未だ芯にすら響かぬ波の形。余程の遠方、そして速度。あの輝きが大気圏突入による空力加熱の輝きなのだとすれば、それだけで速度は学園都市製の超音速旅客機のおよそ三倍。一体何を放ってくれちゃっているのかッ。米国か露西亞の攻撃衛星なのか? ただそれにしたって『
雪に埋もれていた洞穴に上条とオティヌスを抱えて飛び込んだのと同時。大地と何かが衝突したことによって生まれた波が、波の世界を押し潰し蹂躙する。あまりの衝撃に感覚が一時噛み千切られた。着弾点を中心に広がる津波のような円形の衝撃波。地表を舐めるように走るそれに波の世界から放り出され、洞穴の中で目を閉じ静かに口を手で塞ぐ。
衝撃波の範囲がどれほどなのか分かったものではないが、少なくとも被害は想像よりも低いはずだ。デンマークを破壊し尽くすような攻撃であれば、オティヌスよりも先にそんな手札を切った方が非難される。オティヌスに世界を揺るがす危険性があったとして、先に世界を壊すような攻撃を放っては馬鹿だ。
戻って来始めた波の世界の知覚。誰の骨も折れていないあたり不幸中の幸いか。魔力の波は感じない。つまり物理的な攻撃。条約を無視して速攻でそれをぶっ放し、ある程度被害を最小限にできると確信しているような相手がいるとすれば、何より科学に精通している学園都市以外にありえない。国にそれを向けても、いや大丈夫だってデータがありますからと数字を押し付け無理矢理にでも納得させられそうなのは学園都市だけだ。
空間の揺れがある程度静まったのを感じ、瞼を上げて息を吸い込む。熱に関しては凍てつくデンマークの大地がどうにかしてくれたらしい。降り掛かって来た土砂を押しのけるように身を起こして洞穴から這い出た先では、大地が一面ガラスに覆われていた。落ちて来た物体が激突した際の衝撃と摩擦熱によって砂や土が変質しただけ。雪の姿が消えた新たな銀世界の登場に目を瞬き、歪んだ大気に目を滑らせ空を見上げる。
「……いやいや、第三次世界大戦は核戦争になるなんて昔はよく言われてたがな。実際の第三次世界大戦中にそれを見ずに、今その象徴の一つだろう
天に伸びる死の大樹。死の灰を振り撒く筈のそれを見上げれば口端が落ちる。誰もが『使ってはならない』と知ってはいる核兵器を、ただ、今ここでわざわざ使ったりなどしない。オティヌスの危険性を世界中の人々が正確に知らないのであればこそ、いくら何でも、それでは使った方が非難の的だ。『一人の少女を殺すために核兵器を落としました』などと大真面目に言っては、言った方が馬鹿を見る。世界の大多数を占める一般人は少なくとも『魔神』の存在など知らないのだから。
「大丈夫だ。きのこ雲の発生条件は核だけとは限らない。一定以上の爆発力があれば特異気象条件は成立する。大型の燃料気化爆弾やサーモバリック爆弾でも似たような事はできたはずだ。だから」
「そんなの知ってる。俺はそっちサイドの人間だぞ。科学サイド寄りであっても、区分としては軍事サイドとでも言うべきか。何の罪もない一般人を巻き込みかねない攻撃で、そもそも俺達を殺そうなんて思ってはいない筈だ。それほどの威力を持っていたとしても、決定的に安心を得るなら視認して死体を確認するのがベスト。生死不明、行方不明なんぞにしてはくれないさ。そうであるなら、仏国で学園都市が取った手と同じだ。なぁ上条?」
安心させるためであろうオティヌスの言葉を否定する。きのこ雲が咲いて喜んでいるような場合ではない。言ってしまえばこれはただの開始を告げるゴングだ。オティヌスを背に、一歩足を前へと出した上条が俺の隣に並んだ。
「分かってる! 学園都市の本気はこんなものじゃない‼︎
大きく傘を広げ続けていた雲が、急に吹き荒れた突風によって掻き消された。大樹の幹の中から大木をへし折るように渦を巻いて、雪より白い髪がゆっくりと大地で頭を揺らす。その風貌と波の世界を揺らす波紋の形。学園都市から送られた刺客。大地に立つのはたったの一人。そしてそのたった一人で十分過ぎた。俺も上条も知る相手。
学園都市が誇る
第一位の背後に突き刺さっている五メートル程の楕円状の金属塊。一見宇宙船にも見えるそれに乗って来たらしいとか、そんな事はどうだっていい。口端が思わず上がってしまう。
「……よりにもよって、一番最初が、お前かよ……ッ!!」
隣で叫ぶ上条の言葉が全て。一手で王手。それぐらい最悪の手札を切られた。他の
で、あれば。
耳のインカムへと手を伸ばし、その手を止めて舌を打ち、オティヌスを後ろ蹴りで背後に転がす。
その直後。
────ゴンッ!!!!
緩く動かされた
……あるにはある。
ライトちゃんやクロシュと繋がっている現状、
ただでさえ連合軍と此方の情報の取捨選択を任せているのに、それでは並べた建前さえも崩壊しかねない。最低限力を借りなければどうにもならない状況とはいえ、最低限でなければ、いざ
そうであるならッ! 俺の積み上げたものを使う以外にできることなどありはしない。背負っていた狙撃銃を手に掴み、
「法水!」
「法水はオティヌスを頼む!
「なに⁉︎」
「今回は俺が引き金を引くって言っただろ! 脅威を前にお前だけを立たせない! お前が隣にいるように、今は俺が隣にいる!」
「ちょっ⁉︎」
そんな事言ってたっけ? ああくそッ、そういうこと言われると笑えてくるが、空を蹴り一直線で上条へと肉迫する
ジッ‼︎ と音を立てて首を捻った視界の先を振られた足が通り過ぎ、赤い癖毛が数本宙に舞った。風圧で体を転がされ、転がり勢いを殺して顔を上げたところで、上条が
それでも倒れることなく、
ズズッ。と擦り合い空間が軋むような音。
上条の元いた場所へと空気の塊が落とされた。轟音が響く中狙撃銃を構え、ジロリと目を向けて来た
息を吸って息を吐く。息を吸って……息を吐き出した。すぐに
「……おい法水、なにやってンだァ、オマエ」
「……仕事」
「変わらねェなオマエは」
自分を気にせず殴れる上条の方が面倒故に先に潰すと判断したのか……いや、そう判断したという事にしただけか。俺へと振り返る事もなく、拳を握る上条の誘いに乗るように、上条へと向き直る
「おい傭兵」
「……
「……つまりなにが言いたい?」
「いや……この先は強く言葉にしない方がいいだろう」
なんにせよ、
「……俺に観客になってろって? 困った必死を見せるなよ」
学園都市が俺達にとって最悪の手札を切ったのでなく、
「……ライトちゃん、ここから先は少しOFFで頼む」
『
「
「……これもあいつの積み重ねか」
「それは間違いない」
仕事でもなく、使命でもない。上条が右拳を振るった結果、壊れずに積み上げられてきたもの。世界を敵に回しても、全てがその鋭い牙を意気揚々と突き立ててくる事はない。もしこれが上条以外であったならこうはなっていないだろう。
「……学園都市が敵として動いている今。この第一手で俺達の居場所が相手側に完全にバレている事が分かった。ただこの派手な一撃、誰もが知るような軍事的な手が、これ以降より目につく事を考えれば、一般人でも理解できるような派手な手はしばらく取られないだろう。日本からここまでほぼ時間を掛けずに急遽やって来た時間を加味して、相手の戦力が集結するまでどれだけの時間がいるのか……、そこまで長くはないだろうが、短くもないな」
「なぜそう思う?」
「お前がいるからだよ『魔神』」
『魔神』が人になる為に力を捨てる旅。これがそれだと情報を発信したところで、まるっと信じる者がどれだけいるのか。連合軍が信じないように、『グレムリン』も信じないか。いや、急におかしな動きを取ったと誰もが思っているあたり、なんにせよ疑問は持つはずだ。そうでないにしてもどちらでもいい。『魔神』がここにいるという事が重要だ。
「世界を敵に回すと上条も言っていたが、実際に全世界をくまなく敵に回している訳ではない。この一手で知るべき者には俺達の位置がバレた。それが重要だ。『グレムリン』以外にだって『魔神』に価値を見る奴はいるんじゃないか? そしてその『魔神』がピンチらしいとくれば、恩でも売っておこうと動く者がいてもおかしくはない」
オティヌスを狩る為に連合軍は動いているが、国とか世界とかどうだっていいと思っている者も少なからずいるはずだ。そんな者達にとってしてもこれは好機。水面下でオティヌス争奪戦が始まっていてもおかしくはない。そういった第三者の動きがあるのだとすれば、それこそが連合軍の足を緩ませる。デンマークよりも、おそらくその周囲こそがおそらく苛烈。そういった流れが少なからず形成されるはず。
「そしてこれは『善』の行いであると連合軍は信じ動いている。いくら『魔神』を倒す為とはいえ、できる限り被害を抑えたいはずだ。そういった第三者の動きを見過ごすか? それはないな。ここまで来たら、ここで『終わり』にしたいと間違いなく思っている。新たな芽が伸びるかもしれない可能性も摘み取って、尚且つ『魔神』を狩るならば、まず大戦力をいきなり流れ込ませるような事はないだろう」
誰がそこにいるのか分からなくなるし、数を増やし過ぎればそれだけ誰が紛れ込むのか分かったものではないからな。だから相手も戦力は小出しにするしかない。東京でも結局オティヌスに辿り着いたのは俺達だけだったように。ならば問題はここから先。
「所謂検問を張り、新たな芽が俺達に接触する機会を奪いつつ網を張り入って来るのを待つ方が確実だ。戦力を小出しにしながらな。人が生きるのに食い物や寝る場所が必要なことを思えばこそ、街に立ち寄らないなんてまずあり得ないし。戦う為の準備もしたいだろう。なにせ魔神に上条が相手だ。準備をし過ぎるに越した事はないし、ここから先、絶対通る位置にまず敵がいるのは確実」
「オールボーか」
「間違いない。勘とかでもなくな」
こっちとしても時間の勝負。相手にも移動時間が必要で、さらに準備も必要で、思惑も分からない第三者も抑制できる位置。ヴェンシュセルチュー島からユトランド半島へと渡った所にある玄関口。オールボー、及びその周辺にまず間違いなく敵が控えている。わざわざヴェンシュセルチュー島の西端まで移動するような遠回りをするメリットは、移動速度を考えても存在しない。
「そうなるとだ。さて誰が来るか……。条例無視してぶっ込んで来た学園都市が、続けてそんなまどろっこしい手までは打たないだろう。だったら最初からその手でハメ殺せばいいんだからな。他の連合軍の主戦力も各々世界各地で『グレムリン』と戦闘をしていたのであれば、移動時間も準備もいるだろうが、唯一世界のどこにいても一定の戦力を持っている奴らがいる」
「ローマ正教だな」
「仰る通り。全世界信徒二〇億人は伊達じゃない。戦力を送る為、国を渡る為に必要な国境での諸々も、信徒同士を通して簡略化できるだろうし、世界を守ったという功績の為に、既に動いているローマ正教をぶっちぎって学園都市が動いたのだとすれば、この強引な一手にもより説明がつく。オールボーにいる相手は、ローマ正教の線が濃厚だ。問題はどんな手を隠しているかなんだが」
そこまで言えばオティヌスに呆れたように首を振られる。響く上条と一方通行の戦闘音をBGMに、オティヌスの言葉が静かに混じった。
「敵が既にいるだろうと分かり、異能を打ち消す右手と……まあお前もいる。取れる手はあるだろう?」
「なくはないが、問題は一々敵を全滅させる暇はないという事だ。何より最短でイーエスコウ城を目指すのならば、それこそオールボーは此方も必ず通らなければならない。何より相手の被害を下手に大きくすれば、それこそ相手もなりふり構わなくなる。できるだけ穏便に、できるだけ波風立てずにオールボーを通過できるのが一番いい。こんな状況で矛盾してるが、戦わずに通過できるのが最も効率いいんだよ。矛盾してるがな」
「敢えて此方の位置をある程度バラして広域殲滅の手は取らせず、尚且つ戦わずに済ませるなど無理難題だな。できるのか?」
「俺が交渉人とかに見えるか?」
つまりそういう事だ。戦闘は避けられない。だがお互い被害は最小限に。ふざけた仕事だマジで。一生分の仕事がまとめてやって来たみたいに隙間がなさ過ぎる。ちくしょう、辿り着くまでの過程の道が膨大過ぎて追おうにも追い切れない。オールボーを通過できたとしてもその先はどうする? そもそもオールボーにいるだろう戦力がどれだけかも分かっていない。そもそもこの予測も色々なしがらみを考慮しての予測であって、全部めんどくせえやと動く奴がいればそれだけで破綻する。
「────よし」
頭を一度叩き見方を変える。
「オールボーを通過した。その結果が欲しい。その前とその先にある無数の過程は取り敢えず無視だ。目にする事に全力を注ごう。目に見えていないものにどれだけ思考を割いても答えは出ない。うん、俺は時の鐘で、お前はただのオティヌスで、あれは上条、あれは白い男と。よし」
「なんだその気味悪い自己暗示は……」
「今を整理しただけだ。さてと」
ゴドンッ‼︎ と重い音が響き、
「……おい傭兵、上条当麻は別にしても、お前も本気で勝つ気なのか? 連合軍を相手に。なにも知らないのに?」
「知らないと駄目なのか? 俺はここにいる。それが全てだ。いてもいなくても変わらなかろうが、いると決めたからには、俺にできる事はするさ。
「……お前はなぜそうなんだ?」
「お前がオティヌスで、あいつが上条だからさ」
荒く息を吐き出し、小さな笑みを此方に見せる上条に向けて足を出す。こんなものを見せられて、足取りが軽くならないはずがない。
その不器用な優しい輝きにこそ、置いていかれたくはない。だから俺も必ず、オティヌスと上条を届けてやる。この瞳に映る道が間違いではないと信じるから。