「やっほう、ライバル」
「お帰りはあちらです」
「ちょっと待とうぜ」
ちょっと待とうじゃないお前が待て。
とある昼下り。病室の扉が開き、いつものように
俺や上条と比べれば、無傷と言っていいだろう程に怪我薄く、ただ冷やかしに来ただけにしか見えない。包帯塗れの俺と上条を見比べて噴き出すトールに手近にあった缶コーヒーを投げ付けるが、普通にキャッチされ蓋を開けられ飲み干された。「ごちそうさん」じゃない。一三〇円払え。
「なんだよ折角お見舞いに来てやったのに孫ちゃんひどいぜ。上条ちゃんもそう思わないか?」
「いや何でお前が普通にいるんだよトール! 流石の上条さんも法水と同意見だわ! まさかお前ッ」
「邪推するなよ。オティヌスの事は別にもう良いさ。終わった喧嘩にぐだぐだ文句言う程腐っちゃいねえよ」
「じゃあお帰りはあちらです」
「いやお話しようぜって、てか孫ちゃん指差してるの窓じゃね? 俺をどこから帰らせる気なんだよ」
勿論窓の外にダイブしてってくれって事だよ。戦争代理人とさえ呼ばれるトールに病院なんかに居てもらっては、何がどうなるか分かったものではない。魔術師が侵入して来たと学園都市暗部の特殊部隊にでも突っ込まれれば平穏な入院生活とはおさらばだ。トールは帰る気配を微塵も見せずに病院に備え付けられた椅子を引っ張ってくると座り、背もたれを前にしてその上に肘を置く。居座ってんじゃあねえ。
「だいたいお話ってお前と何を話す事があるんだよ。『グレムリン』も壊滅して話す事ないだろ。だいたい何でお前捕まってもないんだよ」
「ただの軍隊なんかに捕まる俺じゃねえよ。だいたいさ、『グレムリン』壊滅させたの誰だと思ってんだ? 貰っちゃったんだよね恩赦ってやつ。そもそも俺はハワイにもバゲージシティにも関わってない訳で」
「マジか……マジかお前ッ。それで許されるもんなのッ⁉︎ いや、ただ、まあッ、『グレムリン』の戦力とそれに見合う戦力との衝突による被害や、人件費、その他諸々の費用を考えれば……ッ。えぇぇ……」
「なんだ傭兵、こっちを見るな」
こっちを見るなじゃねえよ。上条の肩に座るちっこいオティヌスに目を向けるも、鼻で笑い飛ばされるだけ。いいのこれ? お前一応元トップじゃん。まあオティヌスがある種の『許し』を受け取っているだけあって、『グレムリン』の残存戦力を確かに叩き潰したトールを許さないというのもおかしな話。ただ戦争代理人をただ野放しにしておくはずもないだろうが。
「ほら、マリアンとベルシ、『
「ちょっと待とうか」
トールに手のひらを向け、痛む頭をもう片方の手で抑える。上条とオティヌスの視線が突き刺さる。待って、待とう。マリアンさんとは同盟を結んだ。マリアンさんの良い人であるベルシ先生も一緒なのはまあ良しとしよう当然だ。今どこにいるのかは分からないが、便りがないのは無事な証のはず。それはそれとして、だから俺もってなんだよ。一度
「いやな、カレンちゃんとはもう話したんだけどさ」
「カレンちゃん⁉︎ ……くくっ、ば、ばか急に笑わせるな腹が痛ぇ。てかアレと話したってなんだよそれはッ。俺なんも聞いてないんだけどッ! ライトちゃん!」
服を収納する棚の上、置かれている新調された相棒の一人の名を呼びインカムを耳に付けてカレンに通話を繋げてもらおうとするが、あの野郎出やがらねえッ。すぐに病院送りとなってろくに連絡できなかったのが悪かったのか。口を引き結んでいると、通話が繋がる代わりに一通のメールが来た事をライトちゃんが教えてくれる。空間に浮かべたメールの差出人はカレンから。ただ一言、『死ね』と。
「『
「
「ああそれは良かったッ! マリアンさん以外の
「自業自得だろ」
「お前に言われるのは釈然としねえ!」
実際に
「それで俺も気付いた訳だ。あれ? 俺って実は凄い傭兵向いてんじゃねえか? って。『グレムリン』も壊滅したしな。マリアン達がいるなら俺も多少気が楽だし、それにこんなお墨付きもある」
「……なんだよ」
トールが手渡してくる一枚の手紙。ロベルト=カッツェ大統領と英国女王などの名が添えられたそれには、長ったらしい社交辞令と共に、いくつかの小言などが書かれていた。全体に目を通し要約するなら、『トール一度ぶっ飛ばしたのお前だろ? そいつの扱いに困っている。いざという時は任せた』的な投げっぱなしの文言。トールが無闇矢鱈と暴れたらもう一度アレをやれと? 並ぶとは言ったが正直勝てる気しないんだよ。一発ぶっ飛ばせても負けてんだよ。同じ事そう何度もできるかッ。ていのいい厄介払いじゃねえかッ。手紙を破り捨てた先にトールの笑顔が待ち受け、中指を立てれば笑われる。
「ははっ、そんな訳でよろしくな孫ちゃん。ちなみに俺の後ろについてくれたのはカレンちゃんだぜ? クーデターの一件もあったし、いざという時、『時の鐘』が裏切りでもすれば相手をするのは俺って訳だ。英国や露西亞、仏国、米国に俺がついちまうと戦力の秤が大きく傾いちまうし、中立国で傭兵としても動けるスイスはうってつけだったってね。良い子だよなカレンちゃん。俺は気に入った」
「……あぁ、そう。もう好き勝手やっててくれ。これまでの分、世界の為にでも働けボケッ」
「なんだよもうちょっと喜べよな。もし何かあれば俺と孫ちゃんとカレンちゃんの傭兵トリオで動けるぜ? そうなったら俺としては結構テンション上がる」
「俺達三人が揃い踏みするような状況ってなに? 第四次世界大戦か何か? 末恐ろしい話だ。御免被る」
第三次世界大戦が終わって半年も経たずに次に起こるかもしれない戦争についてなど頭を回したくはない。カレンとトールと隣り合うなど、それはまあ俺としてもテンション上がるが、そんな状況にならない方がずっと良い。話を横から聞いて苦い顔をして顔を背けている上条と鼻を鳴らすオティヌスは相手をしてくれず、仕方なく治りかけの体を起こし、開いている窓辺へと寄り掛かり煙草を咥えた。トールの指先に火花が散り、煙草に火が点く。御坂さんよりよっぽどお上手だ。
「まぁ、良いんじゃないか? 国がなんであれ、平穏を壊す為に動くよりも。なあトール」
「誰かがいれば退屈はしないさ。じゃあな孫ちゃんに上条ちゃん。お大事に。また戦場で会おうぜ」
再会の場所はそこしかないと言うような笑みを浮かべて、椅子から立ち上がると病室を出て行く。どうやってやって来たのか知らないが、勝手にやって来たなら無事に出られる算段でもあるのだろう。窓の外に向かって紫煙を吐けば、音を立てて開く病室のドア。トールが忘れ物でもしたのかと目を向けた先で風に揺れるツインテール。慌て咥えていた煙草を手に取り両手を上げるが。
「……孫市さん?」
「ちょっと待って黒子ッ‼︎ これは所謂不可抗力……って待てよこの波紋お前トールだろうが! 火を点けといて俺で遊んでんじゃねえぞ!」
「って本人は言ってるけどどうよ」
黒子の姿を剥ぎ捨てたトールの背後からひょっこりと
「なにを死んだ目をしてるのさ法水。折角お見舞いに来てあげたってのにさ」
そんな黒子と
「フレイヤを運んで来たついでだ。この病院に移ってね。私達はしばらく学園都市にいる」
「その挨拶も兼ねて来たんだけど。なんでかトールもいるし、オティヌスもいやがるし、なんなんだよこの同窓会。それより法水! アンタ私が折角作ったクロスボウ駄目にしたって早過ぎでしょ! 時間が足りなかったとしても、これじゃあ私の腕がしょぼいみたいになるでしょうが! アンタの狙撃銃の話、私も一枚噛ませて貰うから。
「……あぁ、そっすか」
パタリとベッドの上に倒れて狸寝入りを決め込む。今は現実から逃げ出したい。だいたい病室の入り口でチラチラ蛍光イエローのメイド服が見え隠れしてんだよ! 隠すなら隠せ! 東京で別れて鞠亜とも顔合わせづらいし、上条は
そう言えばライトちゃんに友達が増えたらしい。誰かは言わずもがな。ペン型の携帯電話とドラム缶のようなものが会話をしている姿はえらくシュールだったよ。
「で? どうだったぁ〜?」
道路に脇に並ぶ街頭の明かりが肌の上を走る。それを見つめながら、コーラ=マープルは抱き枕を抱え込み、後部座席の真ん中で仰向けに寝転がっていた。ストレッチャーの置いてあった場所を占領して零される気怠い言葉に
「つまらねえ相手共だった。弱かったしなァ。一人十分も保ちやがらなかったぞ。もう少し足腰鍛えてから出直せって感じィ? まあそれはそれでスナック感覚だと思えば悪くはねェんだが、こう質的な問題が」
「いや、その報告はいらないんだけどぉ〜? メイヴィスってさぁ〜、一人だけエロ漫画の住人って感じだよねぇ〜」
「オメーそれは最大の侮辱と受け取った。表に出ろ。殴り合おうぜ」
ブレーキを踏もうとするメイヴィスの前で指を鳴らし、頭を痛めながら海美は人差し指を前に向ける。メイヴィスとコーラの仲は見たまま良くない。演技でもなくマジで悪い。強過ぎる本能の反発故。利害が一致しているからこそ共に動いているが、それさえ関係ないならば、海美が止めなかった場合マジで殴り合う。結果を見なかろうとコーラが死体袋に行き着くのは誰の目にも明らか。結果の決まっている殴り合いを鑑賞する趣味など海美にはなく、ステーションワゴンの端で膝を抱えて
「それでぇ〜?」
「黒幕は不明ね。そこを探ろうすると相手がバグってしまってね。精神的な首輪。能力者なのは間違いなさそうだけれど、まあある程度はこちらで予想して絞れたわ」
「常盤台に近しい誰かでしょぉ〜?」
コーラの言葉に僅かに食蜂は顔を上げ、コーラの言葉を肯定するように海美は肩を竦めた。見つめてくる食蜂を見返し、コーラは車の揺れに気分悪そうに身動ぎながら、気怠そうに口を動かした。食蜂の疑問に答えるように。
「問題は『ストロビラ』がいつ付けられたのかだけどぉ〜、街中で急に攫われてとかは難しいよねぇ〜。操祈ちゃんは
「全校集会を開いて丸ごと操祈ちゃんの能力に沈めちゃうとか」と物騒な言葉を続けて一度考えるようにコーラは口を閉じる。理事長でも食蜂が操り強引に全校集会を開けば可能な手ではあるが、それには時間が掛かるし、不良生徒で出て来なければ意味もない。メイヴィスと海美が逸早く勝手に動き出した暗部を籠絡させ、ステーションワゴンを奪ったからこそ今がある。既に動いている相手。大きな手を打つ時間は既にない。『ストロビラ』の外れた食蜂を追って、誰かはもう動いている。
「で? 問題の『ストロビラ』の中身は分かったかね? 流石のわたちでもそこまでは予測できなくてさぁ〜」
「良く言うわ。どうせ二、三予測は立てているのでしょうに。まあ知らない内は予測の域を出ないのでしょうけれど」
「あぁ傑作だったぜ。よがりながらも奴らが口から搾り出した答えが拍子抜けだったもんで何度か聞き返したから間違いねえ。人ってのは肌を重ねてると口が軽くなるもんだ。繋がりが境界線を曖昧にさせるのか、秘密の紐が緩むのさ。それを解く快感は格別だぜェ? ひひひっ、なあお姫様。ほらこっちを向きなよ。聞き逃すのはもったいないぜ? そうじゃなァい?」
「貴方は前を向きなさいよ」
手にした成果は譲ってやるからと言葉にはせずに、後部座席を覗き込むように顔を向けるメイヴィスの肩を海美は小突き前を向けさせる。それでもメイヴィスの笑みは崩れる事なく、噛み砕いた秘密の果実の甘汁を口端から滴らせるように言葉を吐いた。女王の瞳が己に向く、その独占の光景を思い浮かべて熱っぽい吐息を吐きながら。
「お姫様に使われた『ストロビラ』には
「……………………は?」
勢いよく食蜂は顔を上げ、口から漏れ出た間抜けな女王の言葉を舐めとるようにメイヴィスは唇を舌で舐めた。後部座席から運転席へとしがみつくように飛び込んで来る食蜂の気配を察し、受け止め抱き締めたい衝動をハンドルを握り込む事でメイヴィスへ抑える。運転席を隔てて背後で打ち鳴る食蜂のはやる鼓動に笑みを深め、その熱に指を這わせるようにメイヴィスは瞳の奥の炎を瞬かせる。
「ち、ちょっと待って、待ちなさい! それはどういう事なの? どうして『ストロビラ』の中にはデータが入っていないのよぉ!?」
「んん〜? そう熱くなるなよお姫様。うちまで熱くなっちまうぜ。本当なら耳元でゆっくり囁いてやりてえんだが、それは次の機会に期待しようか。オメーが孤独の住人なら、気付く機会も薄いだろうがそうじゃァない。大きく記憶を弄れば、それだけ周りの目から見て角が目に付くしなァ。何よりお姫様は精神系能力者の頂点だ。例え機械相手でも気付けば真実に躙り寄れる。でもじゃァその真実がそもそもなかったならどうだァ? 灯台下暗しってやつじゃなァい?」
「……私に『偽物の記憶』と思わせた記憶を私自身に消去させるのが目的?」
「だろうぜ。気に入らねえ話だ。想う誰かの記憶を消させるなんざ、例え一夜でも肌を重ねた相手を忘れるなんて事はねェ。想う相手なら尚更な。で? どうするよお姫様」
「どう、するって……」
よたよたと食蜂は後ろに下がり、寝転がるコーラの足につまづくと尻餅をついて車の内壁に体をもたれた。どうするもなにも決まっている。偽りは偽りではなく本物だった。食蜂操祈の思い出はちゃんと食蜂操祈だけのもの。その真実が離れていかないように食蜂操祈は己が体を抱き締め震える。熱の昂りにメイヴィスは鼻歌を口遊みながらハンドルを指で叩き、海美は調子の良いメイヴィスに手を振って窓の外へと目を向ける。
後部座席ではメイヴィスの鼻歌に乗ってゴロゴロと食蜂が転がりコーラの隣に寝転がり、最初は小さく、ただ段々と強く大きな笑い声を響かせる。
「ふふ☆ あはは! あははははははははははッ!!!!」
車を震わせるような少女の絶笑に誰も耳を塞ぐ事なく頬を緩め、食蜂操祈は細いリボンを使って首に掛けている銀色の防災ホイッスルを胸元から取り出し天上に掲げた。
「果報を寝て待った甲斐はあったぁ〜?」
「寝てはいないけどねぇ。でも不思議だわぁ、なんであなたは私に協力してくれるのかしらぁ? その親切力は不気味だゾ」
笑顔で頬を突っついてくる食蜂の手を差し押さえる事もなく、されるまま「快適の為」とコーラは言葉を絞り出す。
「快適が嫌な子なんていないでしょぉ〜? わたちはずっと快適でいたいの。だらけてゴロゴロして微睡んでいたい。だから世界は平和でないと困るんだよぉ〜。世界中の誰もがゴロゴロしてるだけならこんな事しなくてもいいんだけどねぇ〜。操祈ちゃんに何かがあれば、学園都市は何かが変わるでしょ? 快適からは遠去かる。小さな歪みが大きな歪みに。それは快適とは程遠い。だからわたちはここにいる」
「それは……」
快適の為と言いながら、快適の為に労力を割いていればそれは結局『怠惰』の真逆にあるものではないのか。『怠惰』の為に『怠惰』から遠去かるが、それは結局『怠惰』の為。なんとも言い難い矛盾を指摘する事なく、食蜂は口を引き結ぶ、一度強くコーラの柔らかな頬に指を押し込んだ。
「それにどうせ動くなら、操祈ちゃんと友達になりたいじゃない。例え利害の為であっても、友達になっちゃいけない理由なんてないでしょ〜? どうだねぇ〜わたちは。オススメだよぉ〜?」
「……別にオススメされなくたって、友達にくらいなってあげるわぁ。ねぇ? 怠惰な小人さん?」
「えぇー、うちだって今回働いたんだぜェ? なんでオメーらばっかり手を繋いでるんだよ。少しくらいうちにも分けろよ。なぁいいだろう? お姫様。退屈な夜なんて過ごさせないぜ?」
「いいわよぉ別に。ただ私と私の大事な人達に手を出さないのが条件なんだゾ」
「さ、最悪だッ。そんなのありか? 目の前に並ぶご馳走に手を出すなってそれはないじゃなァい⁉︎ でも高嶺の花はそれはそれで燃えるんだよなァ。ひひっ、うちに追えって? 手の届かない相手が一番燃えるぜ。暑くなってきちまった。服を脱ごう」
「勘弁しなさいよ真っ裸痴女。下着まで脱いだら通報するわよ?」
車のパワーウィンドウを海美とメイヴィスは押し下げて、メイヴィスは掴み脱ぎ去った白衣の上を窓の外へと投げ捨てる。熱くほてる体は冬の冷気を受けても冷めることなく肌を赤らめ、その熱に浮かせるように車の速度が僅かに上がる。
(これで一先ず操祈ちゃんは納得したねぇ〜。ただ問題は、相手が常盤台なんかの学生だったとして、学生だけでこれだけの規模を動かせるはずないんだよねぇ〜。裏にも表にも大きな顔のない、組織に所属している訳でもない子にはまず無理だ。有名ならそもそもわたちは知ってるし、そうでなくても尻尾くらいは掴めるはず。だとするならぁ〜。
隣で携帯電話を取り出す食蜂を横目に、コーラは身を起こすと前部座席に這い寄り海美の隣に首を伸ばす。相手を殴り倒す腕力がないからこそ、絶えずただ頭を回す。思考を重ねて必要な答えを削り出し、海美の耳元に答えを置いた。
「海美ちゃんさぁ〜、少し離れたところから見ててくれるぅ〜? 多分操祈ちゃんを追ってる者達の中には幾つか流れがあるはずなんだけどぉ〜、その主流以外を追って。それで相手の勢力が特定できたら、敵の敵に情報を売ろうか。足りない腕力は、足りてるところにどうにかしてもらっちゃおぉ〜」
「……いいけれど、貴女達はどうするの?」
「わたち達は操祈ちゃんについてるよ。そろそろさぁ〜、『憤怒』に立場を明確に示さないと統括理事長に強く目を付けられそうだからねぇ〜。こっちは敵じゃぁないよって白旗目一杯に振っておくから、任せてくれたまえよ」
「なんとも情けない手を打つのね。それでいいのかしら『
「良いんだよ。わたち達は戦う事が目的じゃないんだし。他の『原罪』達みたいに腕力に自信なんてないからねぇ〜。全ては快適の為に。わたちの自堕落な人生の為に。誰であろうとそれを脅かす者は許さない。海美ちゃん、危なくなったら逃げちゃって良いからね? 貴女が快適じゃないとわたちは快適じゃないの」
「それも良いかもね。でも貴女の側は悪くもないのよ。もう少し自分で動いてくれればより良いのだけれど」
「それは少し難しいねぇ〜」
「なにが難しいのか今度ゆっくりお話しましょうか?」
苦い顔をして顔を引っ込めるコーラに笑みを返し、一度大きく海美は息を吐き出した。誰かの隣に立ち、心の距離を測る少女。そんな少女に気味の悪い目を向けず、側を離れない者は限られる。一人、二人と離れて行き、大きな別れも含めて遠く遠くに離れているといつしか辿り着いたのは暗部。ただその場所が、第二位が翼を広げた内側は、どうにも居心地は悪くはなかった。そんな場所がもう一つ。誰にも近寄れ遠去かれる少女だからこそ、自分の居場所くらいは自分で決める。
車が止まり、四つの影が車から降りた。
一つはすぐに建物の影へと滑り消え、三つの影が残り立ち並ぶ。
常盤台の女王、『
娼館の主、『
世界の恋人、『
思い出の為であり、快適の為であり、恋人の為。それぞれが結局は己の為。だからこそ出す足に迷いはない。向かう先は第二一学区、地殻熱発電所。真円の人造湖。グラウンド=ジオ向けて足を出す……前に、食蜂操祈の『派閥』の面々が揃うまで待ち呆けた。
「……来ないねぇ〜」
「……ちょっと集め過ぎたのかしらぁ? 自分に向けられる敬愛力が怖いわぁ」
「おいそこのぼーやとお嬢ちゃん、ちょいとうちと暇を潰さねえか?」
「「やめろ売女」」
上半身下着一枚で幼気な不良少年少女に襲い掛かろうと手を伸ばすメイヴィスを止める為にコーラと食蜂はメイヴィスに張り付くが、腕力が足りずに引き摺られ、三人揃って足を絡めてすっ転ぶ。下着姿の女性を下敷きに転がる女王の姿を逸早く辿り着いた帆風潤子は目にし、見なかった事にして顔を背けた。が、昂り食蜂に跳び掛かるメイヴィスの気配を察し、髪を跳ね上げ慌て駆け寄り、踊り狂う痴女を蹴り飛ばす。