「皆さん慌てずに! 全員必ず外に送って差し上げますから騒がず整然と並んでくださいな! 横から入ったり押し除けたりするような方は最後尾の方に跳ばしますからそのおつもりで!」
手を叩き、声を張り上げて白井黒子は告げる。ダイヤノイドに踏み入った際に最初に降り立ち、幾人かの
「……黒子お姉さん。少し休んだ方が」
「そんな暇はありませんの。黒幕が顔を見せた以上、このダイヤノイドから一人でも多くの方を外へ出さなければ。いざ何かあった時寝覚めが悪いですからね」
「……でも」
炭素の槍に腕や足を削られ、簡単に包帯を巻いただけ。僅かに包帯に血を滲ませて、黒子は先程からずっと一人で学生達をダイヤノイドの外に跳ばしている。
汗を滴らせる黒子に避難している者達は気付かないのか、
「……黒子、本当ならイチの方に行きたいんじゃないの?
「
「……でも」
「でももへちまもないですの! 座ってぐちぐち言う元気があるのなら、貴女達も列の整理を手伝いなさい! 貴女も
「……でも私、私っ」
黒子が右腕に巻かれた緑色の腕章を引っ張り上げるのを見つめ、木原那由他も己が腕に巻かれた腕章を弱々しく引っ張り上げる。感謝が欲しい訳ではない。悪態を吐かれることもある。ただ淡々と自分が振るえる力を示し、黒子は一人でも多くの学生達を外へと逃がす。よろよろと立ち上がる那由他を横目に座り続けるハムにため息を吐き出し、側に立つ他の
「……ちょっと黒子」
「今は人手が足りませんの。わたくしが孫市さんを追いたいと分かっていると言うのなら、全員を外に逃すまで手を貸しなさい。どうせ
「……わたし『
「時の鐘本隊は休止中でしょう。シェリーさんもゴリラ女も教師をやっているんですし、一人くらい
顎でさっさと立てと促すツインテールの鬼教官に小さく笑みを零してハムは腕に
「それじゃーせんぱい、後ろでゴタついてる奴らはわたしが蹴飛ばしてきてあげる」
「私も行く……任せて、黒子お姉様」
「はいはい、分かりましたからさっさと……はいぃ? 今なんて言いまして?」
『お姉様』と言葉を残して走り去って行く木原那由他の背を見送り、ゾワゾワと言いようのない感触に黒子は身悶えた。自分が敬愛する相手に向ける分にはいいが、他人から差し向けられるのは別。一人奇妙な踊りを踊るかのように悶える黒子から避難を待つ学生達は足を退げる。
『壁の中にでも
流石にその心配は杞憂に終わった。
銃撃の音が通路の中を跳ね回る。背後から、時に足元や壁から伸びて来る炭素の槍を穿ち、避け、前に進む。目指すのはダイヤノイド中層。休まず走り続け、射撃に反動で腹部から血が垂れ出るのも気にせずに孫市は再び引き金を引く。
「走れ! ただサンジェルマン共は殺すなよ! 精神系の魔術はこれだから面倒だ! どういう理屈で操っているんだかな……エレベーターは使うなよ! 最悪詰む! エスカレーターか階段を通るぞ!」
「分かってるっスけど、どうもこう相手からの攻撃が散発的っスね。あの槍みたいなのしか伸ばしませんし、これ相手に追い込まれてるってことないっスか?」
「どこにだ? 確かに攻撃はまばらだが」
「曲がり角を曲がった時や、上の階に移った直後は特にまばらで狙いも荒いよね? そこに答えがあるんじゃない?」
曲がり角と上階への移動。どちらも共通するのは、サンジェルマン達の視界から孫市達が外れた時。そこまで頭を回し至り、孫市と釣鐘は顔を見合わせると、お手柄だと円周に向けて二人はぐっと親指を立てる。
「ダイヤノイドを巡る魔力を使い俺達の位置を察してるんじゃない訳か。五感の共有……なるほどな。つまり視覚さえ潰せれば撒ける? ……よし、俺は来たばかりでダイヤノイドの細かな構造や経路は分からないが、お前達は大丈夫だな?」
「……お兄ちゃん?」
「奴らの視界を一度奪った後、俺が後ろの集団を引き付ける。そうすれば数が一気に減るはずだ。このままゾロゾロ引き連れてテレビ局がはちゃめちゃに壊されては元も子もない」
「一人で大丈夫なんすか? だったら私も、法水さん一人にして今度こそ死んじゃったじゃ怒るっスよ? 法水さんには私と殺し合うような組み手をし続ける約束があるんすからね」
「そんな理由で怒られたくねえな……大丈夫だ。耳を澄ませ。聞こえるだろう?」
首を傾げる円周の横で、釣鐘は目を鋭く細める。建物を揺らす元。人工ダイヤの壁を焼き切るような音が薄っすらとだが釣鐘の耳に届く。ダイヤノイドにいるのは『
「はっきり言って今の俺じゃ長時間の戦闘は厳しい。動ける内に後ろの奴らを引き連れて漂流してる宇宙戦艦の下に引き付ける。あっちからしたら迷惑な話だろうが、使えるものは使わせて貰おう。狙いが俺でもあると言うなら囮として使えるはずだしな」
「で、でも孫市お兄ちゃん! 私だけじゃ!」
「円周、お前が何を思いついたのかは分からないが、それはお前だけの技だ。お前自身が磨いた技術だ。木原円周が、誰かのじゃない。お前自身のものなんだ。羨ましいぜ、きっとそれは悪いものじゃない。それこそがお前の人生の軌跡だ。だから行けるところまで行ってみろ。釣鐘!」
「三つしか持ってないんすけど、二つあげるっスから無駄遣いしちゃ駄目っスよ」
懐から二つ取り出した煙玉を釣鐘から投げ渡され、孫市は笑みを浮かべてその内の一つを曲がり角を曲がったと同時に早速背後に向けて叩き付ける。煙幕の前で足を止め、振り向く円周と釣鐘に手を振ってボルトハンドルを引きながら孫市は煙の海の中へと身を沈めた。
────ゴゥンッ!
円周達の背後で鐘の音が響く。撃ち出されるゴム弾が標的を貫けぬ事はないと信じて円周と釣鐘は走り続けた。離れていても遠くで鐘の音が鳴っている。変わらずそこにいると示してくれる。だから先へと進む事に迷いはない。
「フレンダの隠れ家があるんですよね? じゃあそこに行った方が超安全かもしれないじゃないですか」
「ダメダメダメ! ずぇぇぇぇっっっったいダメって訳よ! だいたい私の隠れ家上層だしぃ? 結局向かっても意味ないって訳よ!」
「うざってえぞフレンダ。よし行くか」
「あぁぁぁッ! 急にお腹が! 痛たたたた! これは隠れ家なんかより救護室に向かうべきじゃないかなーって」
「脱落者は超ほっときましょう」
「ちょっと絹旗⁉︎ 結局こいつら血も涙もないんだけど⁉︎」
「大丈夫、例えフレンダの隠れ家に何が隠してあっても、私はそんなフレンダを応援してあげる」
「応援するぐらいなら私を手伝いなさいよ滝壺ぉッ!」
ゴロゴロと滑らかな床を駄々っ子のように転がり、床から伸びる槍を目に
(相手の能力が炭素を操る能力なのは分かりましたし、ダイヤノイドの中にいる以上フレンダの隠れ家に行く必要は安全な訳もないし超必要ないんですけどね。フレンダが超面白いのでそこは放っておくとして……)
なかなか酷いことを絹旗は考えながら、未だ床を転がっているフレンダに目を落とす。秘匿性の高い金庫代わりに使われているダイヤノイド上層にあるフレンダの隠れ家が、まともだとは誰も思っていない。爆弾大好きフレンダの爆薬庫になっている可能性が十二分にある。そんなところに突っ込んで全てに着火した場合大事故だ……実際は四桁に乗るフレンダの友人達への誕生日プレゼント保管庫という秘密がある訳だが、そんな事はフレンダ以外知る由もない。
(あの部屋を見られたら死ねる! 実は麦野や絹旗や滝壺達を喜ばせる為に一人いそいそと誕生日プレゼントを仕込んでましたーとかッ! 私は乙女か⁉︎ ぐわわわわ‼︎ 結局なぜ自爆装置を仕込まなかった私⁉︎ あー! あー! あぁぁぁぁッ‼︎ のわああああぁぁぁぁッ‼︎)
ビッタンビッタン床の上で跳ね、絶賛黒歴史が生まれるかもしれない未来に打ちのめされているフレンダを無視して
「チッ、やっぱ面倒臭せえな。適当なトコで数減らさねえか?」
「言葉遣い。あと前線に出てきているのは基本的に超『表』の人達かもしれない可能性っての忘れないでほしいんですけど」
「それにしては」
「まあ、確かに不可解な部分があるのは超事実なんですけど」
『窒素』を操る能力を絹旗は有しているだけに、サンジェルマンが『炭素』を操る事にはとっくに気付いている。だからこそ、炭素物質だらけのダイヤノイドの中にあり、床や壁を変質させて槍を生み出す事しかしてこない単純さが疑問として頭の中を泳いだ。それこそ孫市達が言うように壁で押し潰したりもっとエゲツない使い方をすればいいものを。
「ハナから残機は超使い捨てだから研磨を忘れているか」
「勝つ事そのものを目的に設定してない。くそっ、何の時間稼ぎをしてやがるんだ、面倒臭せえな!!」
サンジェルマンの個々に扱える能力に差異はあっても、地の利だけはサンジェルマンにある。とは言え時間稼ぎに徹する不良品に負けるような絹旗や麦野ではなく、着々とサンジェルマンの数は減っている。殺す事ができない以上、肉薄して殴り意識を奪うという原始的な方法ではあるが。ただそれよりも、一人勝手に倒れて行くサンジェルマンの方が多い。能力者が魔術を扱う副作用。死にこそしないが、体の内から身を裂かれ、血を撒き散らす少年少女達。
「潰したのは……せいぜい半分くらいだったよな?」
「残りは超後ろに下がったようですけど」
「結局まともにやれたのは不良品ばかりってか。ふざけやがって、足元見てやがるな。フレンダ。いい加減に立て。一人休憩してんじゃねえ」
「いや、私だけじゃなくて滝壺だって何もしてなくない⁉︎ 麦野達はフレンダちゃんの扱いがとっても良くないかなって────なに?」
床に寝転がっていたからか、喋る内に建物を揺らす振動が直にフレンダの腹部を揺らした。建物自体が揺れているというよりも、局地的な超振動。それもフレンダが寝転がっている真横の壁から。振動空間に揺さぶられ、熱によって赤く変色した壁が揺れ溶け崩され弾ける。
「ちょ、ちょっとぉぉぉぉッ⁉︎」
転がり弾けた壁の破片から逃げるフレンダを追うように、フレンダの前へと足が伸びた。ガシャリッ! とボルトハンドルを引く音と共に、特殊振動弾からゴム弾へと換装し、通路の奥で見つめているサンジェルマンの意識を穿ち床に転がす。ゆっくりとあわあわ口を波打たせるフレンダから麦野達へと目を流し、法水孫市は肩の力を抜くと意気揚々と手を挙げた。
「いやぁ、ようやっと見つけたぞ。助かった助かった。そろそろ限界近かったんだよマジで。ようフレンダさん。何を寝転がってるんだ? こんなところで寝るなんて肝が座っているな。流石元暗部」
「法水⁉︎ なんでアンタがいるのよ⁉︎ あぁヤバイ‼︎ アンタが関わってるとか絶対に面倒事じゃないの‼︎ それ以上こっちに来ないでさっさと向こうに行きなさいよ‼︎」
「そういう訳にもいかないんだなぁこれが。困った時はお互い様だろう?」
「あの、それより助かったってなんですか? 超嫌な予感が」
出て来た壁の穴から逃げるように足を動かす孫市を追い、穴からゾロゾロと新たなサンジェルマン達が顔を出す。噴き出し逃げる為に張り付いてくるフレンダを孫市は引き連れて麦野達の横に並び、狙撃銃での銃身で床を小突く。
「腐れスナイパーが! ゾロゾロ引き連れて来てんじゃねえぞッ! ハーメルンの笛吹かテメェは! 自分でどうにかしやがれ!」
「そうしたいのはやまやまなんだがいかんせん手が足りない」
「手が足りないって法水アンタね…………なに? 法水怪我してるの?」
血の匂いを嗅ぎ付け、張り付いていた孫市からフレンダは離れると、手のひらについた血に目を落とす。普段とそこまで変わりないが、孫市の顔色は良くはない。軍服の内側から、ポタポタと僅かに血の滴が垂れている。怪我の場所をフレンダ達が察する事がないように腹部を手で摩る事はなく、構えた狙撃銃の引き金を引き、また一人サンジェルマンを意識を奪う。
「あ」
そう滝壺が呟くが、目を向けるのは孫市ではなく装飾用の薄型モニタ。怪訝な顔を浮かべるフレンダの意識をそちらへと外すように孫市も目を向け、フレンダ達もそちらへと目を向ける。写されているのはダイヤノイドの模式図。最下層に赤い光点が打たれており、補足とばかりに情報的な省略記号が添えられている。孫市はまったくさっぱりであったが、麦野と絹旗は違う。アルファベットの並びを見ただけですぐに気付く。
「どう思います?」
「グラビトン式の免震構造とかマジか……。悪用すりゃこの星が握り拳サイズに圧縮されちまうかもしれねえぞ」
危険な情報の開示。それもわざわざ誰もが見えるところに。少しばかり視線を外せば、別の薄型モニタにも同じ映像が流れている。
「来るなら来てみろって訳か」
「『私達に』かどうかは超分かりませんけどね。けどまあ、私達が介入しちゃいけないって理由にもならないと思いますけど。ねえ傭兵」
「うん? ……まあね」
適当な相槌を打って孫市が目を細めた先で薄型モニタの映像が消えた。少しばかりのサービスタイム……という訳ではなく。
(円周達がテレビ局の中枢に辿り着いたか。ダイヤノイド中層のほとんどを占めるテレビ局の構造なら、ダイヤノイドの電子機器類はほとんど掌握できるはず。流石に構造部分は無理だろうが……それにしたって)
わざわざ最下層へのダイヤノイドに残っているだろう戦力の誘導。危険過ぎる兵器をチラつかせ、いかにもそれが本命であると言わんばかりであるが、それ以前にサンジェルマンと顔を合わせたからこそ、明らかな違和感に孫市は眉を潜める。
(保険? にしては、やり過ぎだな。平和を憂いているとか訳分からん事を宣ってた奴が打つ手じゃねえ。まず間違いなくブラフだな。本命は絶対別だ。そもそもあの野郎は本当は何がしたいんだ? 個人が狙いなのか学園都市が狙いなのかもさっぱりだ。ただ放っておいて実際に使われても困ると……誘いに乗れば円周が打っている手の時間稼ぎにはなるか? サンジェルマン、とんだ愉快犯だ。お前の必死はどこにある?)
「……おい、傭兵! 気付け! 傭兵! ああくそッ! おぉい!」
「ん?」
なんとも小さく傭兵の名を呼ぶ声が聞こえ、孫市が軽く足を動かせば叫び声に変わる。声の波を追って孫市が目を落とせば、足元に金髪の美少女フィギュアみたいなのが引っ付いていた。摘み上げて顔の前へと持ち上げれば小さな魔神。息荒く肩で呼吸をしながら下せと喚くオティヌスを床に置こうとすれば、そっちじゃないと怒られる。
「……分かった分かった。お前まで居たのか。上条も来ているらしいし当然なのか? 小ちゃくなった所為で波紋まで小ちゃくなってるもんだから全然気付かなかったぞ」
胸ポケットへと小さな魔神を放り込み、顔を出したオティヌスが両腕を振り上げる。不思議をもう少なくない数見ている孫市であるが、どうにもフィギュアサイズの魔神は慣れない。オティヌスの横では挨拶するようにライトちゃんが点滅していた。なんともシュールだ。
「えぇいうるさい! 私の事情を知っているお前と合流できたのは幸いだ。上条当麻とははぐれてしまったが、傭兵、事情をどこまで察している?」
「自称サンジェルマンで自称魔神とか言う野郎が暗躍している。以上」
そう孫市が言えば、ガックリとオティヌスは肩を落とすが、『
「いいか傭兵、サンジェルマンは魔神ではなく特異な魔術師の領分だ。全てを同期、並列化した結晶。脳波に頼らない並列演算ネットワークであるが故に、個々の遺伝配列を無視して誰とでも無限に繫がれる拡張存在。となれば、まずは件の魔道書図書館と接触し、ヤツの魔術を解き明かす態勢を固めなくてはならない。純度九九・九%のダイヤの性質を決定する、〇・一%未満の不純物。ヤツ自身のコントローラや設定ファイル。それを見つけ、サンジェルマンの性能を暴く事に越した事はないからな」
「なるほどな。全然分からん」
「おい」
「ただ
「……なに?」
「テレビ局を使って映像か音で直接サンジェルマン達に感情の情報を打ち込む的な事を言っていたな。精神のバランスを崩すだの」
「精神のバランス……? おい傭兵、お前、それは……それはサンジェルマンだけを選別して行えるようなものなのか?」
「そこまで便利かは分からないが、円周も今日見つけ気付いて磨き始めた技術のようだし」
「ま、さか……いや、どっちだ? 偶然なのか? くそッ、やり直しのきかない世界は面倒だな!」
「おい?」
「迷っている時間はない! 兎に角サンジェルマンを逸早く撃破できれば全て終わりだ! 傭兵! 最下層に急ぐぞ!」
オティヌスに急かされ訳も分からないまま孫市は『アイテム』と共に最下層に向けて足を伸ばす。一人とんがり帽子のツバを強く引きながらオティヌスは奥歯を噛み締めた。
(それが狙いなのかサンジェルマンッ。精神のバランスを崩す。他の者達ならまだしも、強大過ぎる本能を持つ者達は別だ。精神の均衡が崩れ、本能が完全に表面化してしまえばどうなるか……。悪魔を世に解き放つ気なのか? 今まさに気付いた技術だと? 『
不確かな情報を追っていては間に合わず、ただし疑惑が頭を過ぎる。何を信じて信じないか。それは自分にしか決められない。善性が疑惑の邪魔をする。円周を信じる孫市と、ある意味で円周を信じるサンジェルマン。答えを示せるのは木原円周ただ一人。
「円周まだっスか‼︎」
「もうちょっと待って! 漏れがないように映像と音を流せないと、一人でも残ってたらどうなるか分からないからね!」
ダイヤノイド中層、テレビ局の中枢。制御盤を叩きながら、その機能を円周は掌握してゆく。目の前に並ぶいくつもの大型モニタにダイヤノイド中の映像を流し、孫市達の姿を追いながら指を動かし続ける。テレビ局を目指しやって来るサンジェルマン達を出入り口で釣鐘が撃退しているがジリ貧。場を動けないだけに、釣鐘の方が早く削れてゆく。
『何をしようとしているのかは知らないが意味のない事だ。ダイヤノイドの中にしか私がいないと思っているのなら勘違い甚だしい。既に私は学園都市中にいる。ダイヤノイドの中の私を駆逐したところでサンジェルマンは止まらんよ』
他のサンジェルマンの視界から円周達の居場所を察しているのか、最下層に居座るサンジェルマンを写す防犯カメラの映像から、円周に語り掛けるようにサンジェルマンの声が流れる。その声を耳に防犯カメラの映像へとほんの少し目を向けて、すぐに目の前の制御盤へと円周は目を戻した。
「残念だねおじさん。ここは学園都市のテレビ局だよ? だったら学園都市中に映像や音をばら撒ける。例え耳や目を塞いでも、スピーカーからの振動で触覚から情報を打ち込めるんだよね!」
『果たしてそう上手くいくのかな? これまでを思い返してみたまえよ』
円周の言葉が届いているのかいないのか、画面の中のサンジェルマンは変わらぬ様子で口を動かす。柱を背に余裕な態度を崩さずに、嘲笑うかのようにサンジェルマンは指折り数えた。
『一度ならず、同じ相手に二度の敗北。付け焼き刃の技術では相手を一時的に止める事はできても、勝つ事はできないと君はもう知っているはずだ。『
「なら前より強力な感情を叩き付ければいい! 私を怒らせて冷静さを失わせるのが目的だとしたらそれは悪手だよ! 私はもう自分を掴める! 私は私を届けられる!」
『そうかな? 私にはそうは思えない』
「おじさんの意見は聞いてない!」
追い、並ぶ。己になる。
『傲慢』、『憤怒』、『強欲』、『嫉妬』、『怠惰』、『色欲』、『暴食』。七つの原罪を超えて、より多くの感情を、煽るサンジェルマンの言葉によって浮き上がる己が想いを、そのまま電気的なパターンとして映像や音で届ける為に円周の指先が形作ってゆく。学園都市中に情報をばら撒ける機会など早々ない。最下層で蠢く重力爆弾の事を思えばこそ、チャンスはおよそ一度きり。釣鐘の体力的にもそうだろう。焦りが新たな感情を生み、それさえも円周は制御盤へと打ち込んでゆく。
その時はもうすぐ目の前に迫っている。