時の鐘   作:生崎

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サンジェルマン ⑩

 サンジェルマンの攻撃は多岐に渡る。炭素を操る魔術を基に、石油やアルコールを精製してからの引火。人工ダイヤの粉末を超高速で打ち出すダイヤモンドカッター。炭素粉末を大量に撒き散らしての粉塵爆発。炭素の槍を伸ばし、また撃ち出す。

 

 多様な攻撃を纏う猛獣を乗り換え変質させながら繰り返すサンジェルマンを前に、多様な人材が持ち得る己が技で迎撃する。第四位の閃光、幻想殺し(イマジンブレイカー)窒素装甲(オフェンスアーマー)、それらを一人で抑え込んでいるサンジェルマンを褒めるべきか、それともサンジェルマンと拮抗している者を褒めるべきか。少し遠巻きに戦場を眺めながら、孫市は狙撃銃の引き金を押し込んだ。

 

 前線でサンジェルマンと激突している強大な能力者達の取りこぼしが、後方で解析に専念しているインデックスやオティヌスの方へと流れてしまわぬように。

 

「どうりゃああああ‼︎」

 

 傍でフレンダが三角形をした小型爆弾を力いっぱいに放り投げ、炭素の怪物の足元に転がったところで孫市がそれを撃ち抜く。人外の機動力さえ削いでしまえば、後は麦野と絹旗が強大な一撃でなんとかしてくれる。のを待たずに、ステファニーの撃った銃弾が壁に跳ね、動きの止まった炭素の怪物から生えているサンジェルマンの一人の顳顬を穿ち、脳震盪によって崩れ落ちた。

 

「上手いこと跳弾を使うものだな。学園都市製の模擬弾か? 警備員(アンチスキル)にも優れた銃士がいるらしい。あまり仕事で会いたくないなぁ」

「……針の穴を通すような狙撃を繰り返してる人に言われたくないって言うか、そんなマニュアルチックな大型の狙撃銃でよく連射できますね。『時の鐘(ツィットグロッゲ)』は苦手ですマジで。できるなら二度と戦場では会いたくなかったのにッ」

「どっかで会ったっけ?」

「貴方以外の化け物二匹とね! あぁもぅッ!」

 

 孫市から逃げるように身を移しPDWでの銃撃を繰り返すステファニーを見送って、フレンダは心の中でご愁傷様と小さく祈った。『時の鐘(ツィットグロッゲ)』の拷問官、ラペル=ボロウスにメタメタにされて、『時の鐘(ツィットグロッゲ)』に良い感情を抱けと言う方に無理がある。首を傾げる孫市を見上げてフレンダは一言。

 

「よくそんな無害そうな顔できるわねアンタ。アンタ達漏れなく怪物でしょうが」

「誰にでもできる技しか使ってないのに? フレンダさんにも教えようか?」

「私がアンタの技使ったら全身骨折する気しかしないわよ! そもそも同じように銃を握っててもアンタの方がおかしいでしょ!」

 

 縦横無尽に動き回って銃撃を繰り返すステファニーとは違い、孫市はインデックスやオティヌス、滝壺の間に壁のように立ち塞がり、その場を動こうとしない。動けなければそれだけサンジェルマンからの攻撃に身を晒す羽目になるはずであるが、前線は上条達が抑えるだろうからと、外に回ろうとするサンジェルマンを率先して先に出を潰し、遠距離から完全に抑え込んでいた。第三の瞳で戦場全体を俯瞰できるが故。そんな砲台の気味悪さにフレンダは牙を剥くのだが。

 

「そりゃ上条達が防衛ラインになってくれてるからさ。俺一人じゃ無理だ。それに」

「それに?」

「動かない方が相手の会話も盗み拾えるのだし」

 

 孫市が狙撃銃の銃身で床を小突き、フレンダは苦い顔を返した。あっちに爆弾を投げろと顎で指す孫市から視線を切り、雑に小型爆弾を放り投げるフレンダを視界の端で捉えながら、孫市は狙撃銃を構えたまま爆弾を撃ち抜き、小さく目を細める。戦場の中、上条とサンジェルマンの会話によって揺らぐ波。それを捉えて背後にいるオティヌスを僅かに一瞥(いちべつ)する。

 

『君の方こそ気づいているのか。地獄の蓋は開いたぞ。すでに実存世界へ『魔神』達は輩出されている。そして彼らが真っ先に何を欲するかを』

(……()()()ねぇ)

 

 サンジェルマンの言っている事が正しいのか否か、同じ『魔神』であるオティヌスになら判別できる事なのかもしれないが、オティヌスには聞こえておらず、わざわざ今聞く状況にもない。

 

『剣が王を求めたように、『魔神』達は上条当麻という存在を渇望している。……故にこそ、彼らは自儘に動くオティヌスに嫉妬した。くくっ、そうだよ、そうだ、嫉妬したんだ!! 一人で『グレムリン』を名乗った事ではない、実存世界を好き放題に捻じ曲げた事でもない! 彼らはただ!! 上条当麻という存在を独占された事に腹を立てたのさ!!』

「……法水?」

「うん? あぁ、気にするな」

 

 肩眉傾げるフレンダに向き合う事もなく、孫市は引き金に添えた人差し指を押し込む。急に湧いて来たサンジェルマンが何を求めて動いているのか。狙う本命が上条であったとして、その先にあるものは。少し答えが見え隠れして来たが、それを全て見終えるまで待っていては、全てが終わってしまう。余計な雑念を掻き消すように銃声を吐き出す。

 

「……詐欺師の話を手放しに信じる事ほど間抜けな話もないか」

 

 サンジェルマンの感情の畝りに嘘はないのだが、今目の前にいないものに対して思考を割くのは無駄である。魔神がオティヌス以外にもいたとして、それは今気にするべき事ではない。好奇心は猫をも殺す。好奇心を刺激してあらぬ方向に視線を誘導しようというサンジェルマンの甘言を頭の中から削ぎ落とし、引き金を引いてまた一人孫市はサンジェルマンを床に転がした。

 

「さて、サンジェルマンの数も大分減ってきてはいるが、フレンダさん、今のうちに天井の人工重力制御装置を解体できたりしないか? 手を加えた張本人ならできない事もないだろう?」

「こ、この状況で⁉︎ そんな事したら狙い撃ちされるっていうか即起爆待ったなしって訳よ⁉︎」

「それはない。寧ろ解体するなら今しかチャンスはないぞ」

「どこから来てるのその自信は‼︎」

 

 叫ぶフレンダの顔に顔を寄せて孫市は呟く。顎でサンジェルマンと上条達が激突している前線を指しながら。

 

「見られるかもしれない己が描いた結果を見るより早く俺達を吹き飛ばす事はないだろう。無論それは最終手段だろうが、だからこそ円周が決めるより早くこれだけはおさらばしておきたい。上条達がサンジェルマンを抑え、禁書目録(インデックス)のお嬢さん達がサンジェルマンを解析し、円周と釣鐘が弾丸を削り出している今、自由に動けるのは俺達だけだ。爆発物の処理には特殊な技量が必要とされるからな。生憎と俺は得意じゃない」

「……なら誰がやるってのよ」

 

 苦い顔をするフレンダの顔を孫市は見つめる。目を瞬きフレンダは背後へ一度振り返るが、孫市の視線の先にはフレンダしかおらず、フレンダは孫市へと顔を戻すと、生気ない笑みを浮かべて激しく顔を左右に振った。

 

「むりむりむりむりむりッ。爆弾仕掛けるのと解体じゃ必要とされる技術はまるで違うし、いくら元は私が弄ったからってこんな騒がしい中で解体とか、殉職待ったなしだから!」

「だがフレンダさんにしか無理だぞ。ここにいる爆発物のスペシャリストはフレンダさんだけだ」

 

 麦野沈利なら破壊光線(メルトダウナー)で跡形もなく消す事もできるだろうし、絹旗最愛ならば力任せに引き千切る事もできるかもしれない。ただ安全にその後のダイヤノイドの挙動も統制し解体するには、フレンダ=セイヴェルンが必要だ。

 

「なんらかの手順を踏めば誰でもサンジェルマンみたいにはいかない。今ここではフレンダさんが必要なんだ。必要なら俺が守ってやる。暗部の仕事の為かは知らないが、磨いた技術に嘘はない」

「で、でも失敗したら?」

「その時は一緒に海の藻屑だ」

「簡単に言ってくれちゃって、これだから嫌なのよ死ぬのが怖くない奴ってのは」

 

 別に孫市も死ぬのが怖くない訳ではない。今は死にたくない理由がある。ニンマリと浮かべられた傭兵の笑みと額から垂れる一筋の汗を目に、フレンダは苦笑するとほっと息を吐き出して天井を見上げた。

 

「……報酬は?」

「サバ缶」

「ならよし。料理はアンタがしなさいよ。涙子の手も借りていいから。最低でも起爆回路の切り離しが目標ね。私が暗部を離れてから多少弄られてる可能性もあるし、X線透視装置なんかが本当なら欲しいんだけど」

「俺がその代わりをしよう。他に必要なものは?」

「いっぱいあるけど贅沢言ってられないでしょ! もうこうなったらさっさとやって終わらせるって訳!」

「ほいきた」

「ちょっとまだ心の準備がぁぁぁぁッ⁉︎」

 

 フレンダを抱えて力いっぱいに身を捻り孫市は天井へと少女をぶん投げる。腹部の痛みに孫市が軽く呻くのを他所に、ドーナツ状の重力装置にびたんと張り付き危なっかしくフレンダがよじ登ったところで、フレンダの叫びを聞きつけて全員の視線が一瞬上へと向いた。

 

「なかなか嫌な手を打つじゃないかね傭兵。転んでもただでは起きないか? こうなってはもう起爆してしまうのが手っ取り早いかね?」

「ちょっと何がチャンスは今しかないよ⁉︎ 結局無駄死にって訳⁉︎ 恨んでやるわよ法水!」

 

 サンジェルマンのうちの一人の言葉を聞き流しながら、笑みを浮かべて狙撃銃の引き金に指を添えたまま孫市は動かない。不動の時の鐘にサンジェルマンは眉を顰めるが、最初に言葉を投げたサンジェルマンはステファニーに穿たれ床に転がり、別のサンジェルマンが笑みを浮かべて言葉を引き継ぐ。

 

「そう私に手札を切らせて起爆装置を持つサンジェルマンが手に起爆装置を取り出した瞬間狙撃するのが狙いかな? 君の方が速い自信があるのかね?」

「試してみればいい」

「言ってくれる」

 

 その手札を切るのが今ではない限り、試すだけ不利益を被るのはサンジェルマン。実際に撃ち抜けるかどうかは問題ではない。サンジェルマンという名前同様、世界最高峰の狙撃部隊の名を冠する『時の鐘(ツィットグロッゲ)』の名が邪魔をする。名前を盾にしたブラフの張り合い。乱戦の様相を見せる前線に、満足に体を動かせない孫市の弾丸が数多くいるサンジェルマンの動きを把握して取り出された起爆装置を撃ち抜ける確率は如何程か。

 

 その可能性は現状決して高いとは言えないが、積み上げた実績が目には見えない枷となる。『ひょっとしたら』、『もしかしたら』。そう考えてしまった瞬間に手は鈍る。孫市の内で燻る本能からくる第三の瞳が余計に枷を重くし、サンジェルマンの笑みが僅かに歪んだ。

 

「私相手に読み合いで勝負をするかね喇叭吹き(トランペッター)

「心理戦は詐欺師だけの十八番じゃないんだよ。さあフレンダさん、じゃんじゃん解体してくれ」

「私はただの餌って訳⁉︎」

「下手な煽りはやめたまえよ、起爆しなかったとしても、これから我々に集中して狙われる彼女が冷静に解体できると思うかい?」

「数の減ったお前にそんな余裕はあるのかな? 炭素の槍を伸ばすにしても俺ならその出どころも分かる」

「その隙に起爆くらいできそうだね」

「そんな事を言っている内にまた数が減っているようだが?」

 

 切り札を持っている以外、サンジェルマンが何より優位でいれたのは数の差が大きい。だからこそ、麦野や絹旗、ステファニー達がサンジェルマンの数をある程度把握できる数へと減らすまで孫市は待った。このタイミングでフレンダに重力爆弾を解体して欲しいのも嘘ではない。が、それだけが狙いでもない。王手飛車取り。起爆させればはいおしまいの状況から、読み合いの勝負まで引きずり落とすのが本命。お互いに時間稼ぎが目的であっても、相手だけが圧倒的に有利では意味もない。

 

 だが、そんな事はサンジェルマンにも分かっている。

 

「まだ終わらない。まだ私は終わらないぞ」

 

 サンジェルマンが指をパチリと鳴らす。それを合図とするように、柱に取り付けられている様々な薄型モニタに光が点く。

 

「この意味が君になら分かるだろう喇叭吹き(トランペッター)

「……円周」

「サンジェルマンは同期して感染し、拡張する。結晶化のための刺激を与えてやれば私はどこまでも肥大する。高濃度の食塩水に電気を通すように。おあつらえ向きに、ダイヤノイドの中層にはテレビオービットの放送局が丸ごと詰まっていたはずだよなあ!? 私がいつまでも彼女達に好き勝手やらせていると思うかね⁉︎」

 

 放送局には木原円周と釣鐘茶寮がいるはずだ。それでいて繰り返される連続性を失った景色や古文書の映像。理解不能な奇怪な映像の連続は、サンジェルマンが放送局を制圧した証。垂れ流される映像に誰もが一瞬足を止め、映像のパターン分析を試みた『アネリ』はエラーを吐き出し、浜面が呻く。

 

「何だ、おい……何だありゃ!? まさか全館にあの変な映像流してんのか! あれを見た人間は片っ端からサンジェルマンになるとかいう話じゃねえだろうな!?」

「何でそんなスケールの小さな話をするのかね? 言っただろう。ダイヤノイドには放送局が丸ごと詰まっている、と」

 

 サンジェルマンは薄く微笑む。ダイヤノイドだけではない。狙いは学園都市全域。浜面は思わず外に繋がるダイヤノイドの壁へと目を向け、孫市は薄っすらと目を細めた。ただサンジェルマンの挙動を見逃さぬように。この瞬間にも起爆装置を取り出されたら穿てるように。

 

 静かに、気色の悪いノイズ音が響く中、サンジェルマンの笑い声だけが混じって聞こえる。ただそんな不快な音の中で、サンジェルマンの笑い声を残してノイズ音がぴたりと止まる。

 

『『木原』に科学で勝ろうなんて甘いんじゃないかなっておじさん』

 

 映像が切り替わり映し出されるのは一人の少女。

 

 纏う深緑の学生服のような軍服はボロボロで、所々肌も擦り切れ血が滲んでいる。その奥には倒れている幾人かのサンジェルマン。それでも無垢な笑顔を浮かべる木原円周を視界の端に捉えて孫市は口の端を小さく持ち上げ、サンジェルマンは口元を手で覆った。

 

『お待たせ孫市お兄ちゃん!』

「別に待ってないさ。来るって分かっていたからな」

『うん、孫市お兄ちゃんならそう言うんだよね! だから私も言うの! 私がこの物語に終止符(ピリオド)を穿つよ!』

「お嬢さんにできるのかな? 何者でもない君に」

『心配いらないよおじさん、私はもう、私を得たから!』

 

 カチリッ、とキーを押し込む音がした。軽い音と共に映像が切り替わり、先程のノイズの代わりに紡がれる異様な抑揚の電子音。

 

 赤、青、黄、黒、緑、紫、白、緩やかに波打ち色を変えて繰り返される映像が形なき望郷を誘い、無貌(むぼう)の故郷へと見る者を誘う。原始的な感情を揺り起こす感情の明滅は、これまで木原円周が掬い上げてきた無数の人生の軌跡。円周自身の人生で折り重なり混ざり心の奥底へと足を寄せる。

 

 

 鋭く儚い感情の弾丸(インパルスショット)

 

 

 その瞬きに孫市は笑みを深め、サンジェルマンは口を横に大きく引き裂いた。

 

「ふはッ! 素晴らしい! これが鳥籠を破る真の爆弾だ!」

「な、にッ?」

 

 破顔したサンジェルマンの笑い声に浜面は顔を歪めて振り返る。『アネリ』が解析する心に忍び寄るような感情の波。堅牢な檻の鍵へと滑り込むような儚い弾丸の爪痕に眉を畝らせる浜面と、身構える上条の相手をする事なく、サンジェルマンは感情の揺らぎを歓迎し喝采するように両腕を天へと伸ばす。

 

「原罪たる魔王を引き摺り出すのは容易ではない。人一人では絞り出せない感情の揺らぎこそが魔王を叩き起こす目覚まし時計となる。蠱毒である学園都市に果たしてどれだけの悪魔と呼べる本能が眠っているのか。この産声は上条当麻、君の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』でも止めようがないのだよ! ほら、殻が破れ中身が溢れるぞ。人の身さえ脱ぎ捨てて! あの幾千億の地獄で君は見た事があっただろう? 『羨望の魔王(リヴァイアサン)』を!」

「の、り……みず?」

 

 サンジェルマンの視線を追って上条当麻は振り返る。狙撃銃を握ったまま動かない法水孫市を視界に捉える。ポタリと床に垂れる赤い雫。孫市の足元に垂れ落ちた朱滴を目に、上条は孫市に走り寄るとその肩に右手を置いた。それでもポタリと垂れる赤い雫は止まらない。

 

「おい法水しっかりしろ! お前まさか本当にッ」

「おやおや、そんなに近付かない方がいいぞ少年。魔王が表に出れば最早規格が人とは異なる。嫉妬のままに食い荒らされるぞ。何よりも、ダイヤノイドどころか学園都市にもう安全な場所などなくなるのだから」

 

 サンジェルマンが手を叩き、その度に悪魔の名を告げる。

 

 

 『羨望の魔王(リヴァイアサン)

 『思考の魔王(ベルフェゴル)

 『情熱の魔王(アスモダイオス)

 『剛力の魔王(マンモーン)

 『弾指の魔王(サーターン)

 『悪食の魔王(ベールゼブブ)

 『無二の魔王(ルーキフェル)

 

 

 七つの原初の感情を統べる七体の本能。それだけに留まらず、名を付けられた本能を振りかざす悪魔が顔を出す。感情で法則を、理屈を食い荒らし破滅する救いなき本能が。人間、超能力者、魔術師、魔神、誰もが持ち得る感情の大渦が。一度蜷局を巻き出せば、誰にも止めようなく振り回される理不尽な感情。

 

「法水ッ!!!!」

 

 上条が孫市の肩を掴んでいる右手に力を込め。

 

「痛ってえ」

 

 雑に手で孫市に上条は右腕を払われた。

 

「は?」

「痛いわ、肩がミシミシ鳴ってて腹に響く。上条、お前の相手はあっち。サンジェルマン」

「馬鹿な! 感情の爆弾は確かに落とされたはずだ! なぜ普通にッ!」

「あぁお前用のな。感情豊かになってて小物臭くなってるぞ。俺はただ円周の感情の弾丸の軌跡に見惚れてただけだ。さっきは楽感情、今は怒りか? 次はなんだ? その撃ち込まれた極端な感情群をお前は統制できてるのか?」

「な、に? これ、は?」

 

 サンジェルマンの視界の色が次々と塗り変わる。喜び、悲しみ、怒り、感情の大河に押し流されて、情緒が脆く崩れてゆく。何を持って拳を握るのか、足を進めるのか不確かで、サンジェルマン達の体の動きが針に縫い止められるかのようにぎこちなく止まる。感情の色と音に満たされた揺り籠の中で、円周の声がスピーカーから零れ落ちた。

 

『これまでの私だったら、理論を組めれば後はどうなろうとそのまま垂れ流すだけだったけど、私はもう『時の鐘(ツィットグロッゲ)』なんだよ。ここが私の居場所だって決めたから、だから私は言うんだよね』

 

 脅威に向き合う脅威であれ。己が為に引き金を引くが、その為の首輪は自分で嵌める。嘘で他者を自分さえも唆し、見下し扇動する者をサンジェルマンと言うのであれば、時の鐘にも時の鐘でいる為の理が存在する。一般人を巻き込みかねない大量破壊兵器など使うはずもなし。それでは弾丸たり得ない。できるならしたくない事はもうしない。悪目立ちし、戦場の嫌われ者であろうとも、積み上げた技術に嘘はない。

 

 木原円周は『時の鐘(ツィットグロッゲ)』なのだから。

 

 

『一度引き金を引いたなら、引くと決めたなら、『時の鐘(ツィットグロッゲ)』は外さない』

 

 

 木原円周の狙撃がサンジェルマンの感情を穿つ。

 

 

 

 

 

 

 

幕間アンケート

  • BADENDルート『魔王覚醒』
  • 『暴食』の探偵事務所
  • 時の鐘学園都市支部にボスの視察

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