時の鐘   作:生崎

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載舟覆舟 ③

 一歩で力任せに距離を潰して来るエルキュール=カルロフの影から、上条を上里の前へと届ける為に俺も足を強く踏み込む。幻想殺し(イマジンブレイカー)理想送り(ワールドリジェクター)、お互いが幻想を砕くような反則技であったとしても、幻想を振るわない俺達にはおよそ関係なく、エルキュール=カルロフこそが上条に対するスペードの三。無遠慮に振るわれる拳を前に軍楽器(リコーダー)を叩き付け────ッ。

 

 

「どれ、へし折れねえか試してみよう」

 

 

 軍楽器(リコーダー)の振動がエルキュール=カルロフの芯まで届かねえ‼︎

 

 『神の力の一端』によって作られている聖人を嘲笑(あざわら)うかのような、純粋な筋肉の塊。放たれる一撃は腕だけでは受け切れず、受ければ間違いなくへし折れる。軍楽器(リコーダー)を弾き迫る拳を前に、衝突と同時に全身で無限の字を描く事で身の内に威力を逃し流し切る。ただ、宙を飛びながら。

 

 

 ────ドゴンッ‼︎

 

 

 世界が流転し背を襲う衝撃。ビルの壁に強引に叩き付けられた。技でもなく、魔術でもなく、能力でもないただの圧倒的なまでの純然たる膂力。肺から空気が絞り出され、緩く壁に埋まっていた背が剥がれた。ビルの外壁の破片と共に、重力に引っ張られるまま地に落ちる。

 

「ナハハハハッ‼︎ 曲芸かよ喇叭吹き‼︎ 技で一撃保ちやがったな面白えが気に食わねえ! さあここまで泳いで来いやぁ」

「テメッ、ふざけんなよマジでッ、上里何某だけならまだしもッ、()()もお前達の奥の手か?」

 

 切れた口内を満たす血の味を地に吐き出しながら立ち上がる。クソ、一発で骨が軋みやがる。上里翔流だけならまだしも、『強欲』、それに加えて、エルキュール=カルロフの背後に立つ、一瞬交差したかと思えば向き合っている上条達の周囲を取り囲む二色のヘドロ。

 

 どこから急に湧き出しやがったッ。

 

 片方は黒、重油を煮込んだような体に膨らんだ泡は目玉のようで、夜光塗料地味た妖しい輝きを明滅させている。形なき油田が生きているかのような有様だ。

 

 もう片方は赤。無数の手足を生やした赤いボロ布のような姿形の奥に潜む叢生(そうせい)な牙と、長い舌。神秘の奥底を覗く者を警告するかのように舌と牙を振るわせている。

 

 ただ何よりも気に掛かるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一度ならず確かにどこかで見た。はずであるが、不定形な二色が不純物として折り混ざっているからか、確定できない。ただ言えるのは、上条と上里から零れる波紋を見るに、二色のヘドロは誰の味方でもない第三者。軍楽器(リコーダー)の切っ先で大地を小突き、『剛力の魔王(マンモーン)』と向かい合う。

 

「どうやら部外者大歓迎らしいな今日はッ、お前が誰かなんて詳しい事は知らないが、お仲間を見ろ、今はその時じゃないらしいぞ」

「はぁ? ツレねえ事言うなよ喇叭吹き‼︎ オス二匹向かい合ったら力比べするのは自然界の常だろうがぁ? 外野気にしてる暇あんのかあ? オレ達はそうじゃあねえだろう? 振り絞れよオレに、テメェの羨望をオレに寄越せ!」

「承認欲求……ではなさそうだな強欲か……。世界はお前の為にあるって?」

「違うな。大地に蔓延(はびこ)る虫や畜生とオレ達ぁ何が違う? オレがいるから世界があるのさ。生が一瞬の夢幻ならよぉ、好きな物に手を伸ばして何が悪い‼︎ それで死んでも夢の中、夢の中でぐらい好きにさせろやぁ」

「それがお前の必死かよ、現実と夢の区別くらいつけろ。だが……嫌いじゃあない。夢を、輝きを追ってこそ人生。これは喧嘩か?」

「いいや、闘争だ。オレをなんだと思ってやがる?」

「戦闘狂のただの人間以外に何がいる?」

「百点だ‼︎ 気に入ったぜ法水孫市‼︎ テメェとは気が合いそうだ‼︎」

 

 少なくとも気が合いそうな奴に向ける笑みではない。信じる物は世界に立つ己が肉体か。上里や上条と違い、エルキュール=カルロフには微塵も闘争を止める気などないらしい。

 

 身を僅かに落とし踏み込む足でアスファルトを砕く『強欲』を目に、身の底の衝動が浮上する。必死には必死を。エルキュール=カルロフは俺しか目にしていない。ならばいいだろう? 何より他でもない。俺の衝動を叩き付けたところで、誰もそれは気にもしない。他でもない『強欲』がそれを望んでいる。

 

 今はただ、その剛力の隣に並ぶ。

 

 身を振り、その動きを前進の力に変えるように地を滑りながらエルキュール=カルロフと真正面から激突する。組み合えば敗北は必須、単純にして絶対な怪力でねじ伏せられ、踏ん張ろうとも弾かれるのは間違いない。

 

 だから、激突と同時にエルキュール=カルロフの巨体の屈めた背の上を転がり、身を削るような衝撃を、後ろ手に持った軍楽器(リコーダー)をエルキュール=カルロフの首へと引っ掛ける事で強引に逃がす。

 

 歯を食い縛る。軍楽器(リコーダー)を手放すなッ。

 

 首に掛かった衝撃に、僅かにエルキュール=カルロフは背後に身を逸らし、その勢いを殺してしまわぬように、身を無限の字に(ねじ)りながらぶん投げる。巨躯の転がる先は上条と上里の中心地。笑い手で掴むアスファルトを砕きながら勢いを殺して起き上がる『強欲』を見上げ、上里も上条も数歩足を下げた。上里も上条も目に入っていないかのように周囲に目を向けないエルキュールから。

 

「カルロフ、近くで暴れないで貰えるかな? きみの拳に巻き込まれたら流石にぼくも死ねる」

「法水! 今はそれどころじゃない! 一先ずここを抜けないと」

「うるせえなッ!それでもオスか? 戦う気の失せた奴が闘争の場に情けねえ声を掛けんじゃねえ!拳を握る今こそが全て! オレの楽しみを奪うなら奪われても文句言うんじゃねえぞッ‼︎」

「お前は俺よりトールと気が合いそうだなクソッ! 上条お前は離脱するなら離脱しろ! 悪いがヘドロ二体も気にしてはいられん!」

「技と力の比べ合いだ‼︎ 原石も魔術師も能力者も邪魔すんなぁッ‼︎ テメェらも勝手に近くで暴れる気なら轢き潰されても上等だろう?」

 

 不定形のヘドロが(ねじ)れ、爪を、牙を尖らせてぶつかり合おうと(うごめ)く刹那、大地を抉るように振るわれる『強欲』の豪腕が、アスファルトの破片を散弾銃のように放ち黒いヘドロを後方に弾く。

 

 それを追い、黒いヘドロに飛び掛かろうと動く赤いヘドロを振り回す腕で払い除け、牙に肌を切られるのも(いと)わず、俺に向けて突っ込んで来る。二色のヘドロなど所詮は道端に立つオブジェと変わらないとでも言うように。

 

 迫る巨体を目に体勢をより低く、スライディングするように身を滑らせた。軍楽器(リコーダー)をエルキュール=カルロフの太い脚に絡み付ける。そのまま両足を振り回し、体を回転させながら(ねじ)るようにエルキュールを転ばせるが、振り落とされる踵落としが大地を砕き、体が宙に浮く。そのまま身を反転させてエルキュール=カルロフの顔に突き立てる軍楽器(リコーダー)の切っ先が響く音。

 

 

 ガチリッ、と。

 

 

 噛み合わされる大きな歯に軍楽器(リコーダー)の前進を阻まれた。握る手を(ねじ)り突き出そうとする俺の手を、エルキュールの無造作に振られた手が俺を弾く事で強引に断ち切る。

 

 

「────ッ⁉︎」

 

 

 背後で身を起こしていた赤いヘドロと衝突し、背中に無数の牙が刺さる。その感触に顔を歪め、背に伸ばされる無数の手足を引き剥がすように身を回転させて、学ランごと赤いヘドロをアスファルトに叩き付けた。学ランのポケットから飛び出すペン型の携帯を引っ掴み、ワイシャツのポケットに捩込む。

 

 バズンッ‼︎ 人ではないものが硬い地面を叩く音。それを追うように赤いヘドロ目掛けて向かって来る黒いヘドロを横目に見れば、その間に人影が滑り込む。見慣れぬブレザーを纏った男の影が。

 

()()()()()()()()()?」

「「そんなのはいらねえッ‼︎」

「いや……きみ達には聞いてないんだけどッ⁉︎」

 

 突っ立つ上里を通り越し、無限の字を描くように身を捻り、軍楽器(リコーダー)で黒いヘドロを掬い上げ、そのままエルキュールに向かって叩き付ける。が、同じように身を大きく捻った『強欲』の豪腕の風圧に去なされ、黒いヘドロは大地にへばり付く。

 

 それを見送りエルキュールの体目掛けて落ち、アスファルトの地面と挟むように踏み付けるも骨の感触まで届かないッ。その足が大きな手に掴まれそうになるのを危うく避ければ、振られる腕にぶっ飛ばされた。大地を転がりながらなんとか起きる。

 

「……あのさ、せめてもう少し離れてやってくれないかな? 幻想殺し(イマジンブレイカー)は離脱したよ? じゃないと二匹の怪物がどれを指してるのか側から見る分だと分からなそうだし、ぼくもおちおち右手を振ってられないって……聞いてないね二人とも」

 

 突っ立っているだけの案山子など気にしていられない。エルキュール=カルロフと向かい合うだけで精一杯。どころか、去なしているばかりで、相対しているとも言い難い。相手の動きを鈍らせているばかりで、有効打が一つも入らない。

 

 己が身の内の衝動の波紋を叩き付けられれば、法則をバグらせられるなどとコーラ=マープルは言っていたが、そもそも初めから特大にバグっていると思われる俺やエルキュール=カルロフにそれは効くのか? おそらく効かない。そうなると純粋な肉体同士のぶつかり合い。原始の戦いとはよく言ったものだ。

 

 深く息を吸って息を吐く。息を吸って息を吐く。余計な思考は削り落とせ。今は勝ちだけを見つめなければ、生存するのも難しい。深く、深く、衝動に埋没する。振るう技術は骨身に染みている体が覚えてくれている。だから必要なのは一握りの理性。

 

 技を振るえ。エルキュール=カルロフが己が肉体に絶対の自信を持っていると言うのなら、数多の戦場を渡り削り出し、磨き、積み重ねた己が技術こそが俺の必死。不変の自信。それを違えるようであれば、何よりその技術を育んでくれた先生や友人の想いに隣り合えなくなる。そんな俺は必要ない。俺だけの技術を研ぎ澄ませろ。羨望の大牙が覗く口を開け。

 

 息を吸って、息を吐く。浅く、鋭く、波間に揺れろ。

 

「……お兄ちゃん(brother)?」

「……渦に呑まれたくなきゃあ離れな上里、大鮫が浮上する。遠巻きにぶんぶん右腕でも振って邪魔な水溜り二つ追いやってな。オレの晩餐に手を出すなよ? 出しても千切られるだけだろうがなぁ。この現実こそが理想郷だぜ?」

「はぁ、そんなこと言うのきみくらいだよ」

 

 赤っぽい瞳を星のように(またた)かせ、エルキュール=カルロフの肉体が隆起する。『剛力の魔王(マンモーン)』の赤い双眸に映り込む俺の瞳も同様に赤く染まり、揺れ動く軍楽器(リコーダー)は白銀の背鰭(せびれ)の如し。俺を挟んで突っ込んで来る二つの波と、エルキュール=カルロフの瞳に映る俺を挟み迫る二色のヘドロ。揺れ動きながら、二色を掻き混ぜるように身を捻り、遠心分離器の如く二色を反対側へと放り捨てる。

 

 動きを止めるな。漂う波のように。遠回りこそが最短の道。身を滑らせ弧を描くように、エルキュール=カルロフ目掛けて足を踏み切る。外へ外へと押し流されそうな体を深く倒し、勢いのまま駆け上るビルの壁を踏み抜き、軍楽器(リコーダー)の先端で削る地面に三日月を描く。

 

螂ェ縺医k縺ェ繧牙ェ(奪えるなら)縺」縺ヲ縺ソ縺ェ繧亥シキ谺イ(奪ってみなよ強欲)》。 莨ク縺ー縺励◆謇九r(伸ばした手を)蝟ー縺??エ縺」縺ヲ繧?k縺九i繧医♀(喰い破ってやるからよお)‼︎」

 

縺昴s縺ェ雋ァ逶ク縺ェ迚吶〒螳溽黄縺?縺(そんな貧相な牙で見ものだぜ) 莉頑律縺ッ(今日は)魍カ魏ュ縺ョ繧ケ繝シ繝励□縺懊↑縺(フカヒレのスープだぜなあ)‼︎」

 

 空気の層をぶち破って伸ばされる腕を前に舌舐めずりし、弧を描き走った勢いのまま腕に絡みつき、勢いを殺さずに身を捻る。振られる腕の勢いさえも吸い込むように渦に巻き込み、迫る二色のヘドロに向けて『強欲』の巨体を叩き付けた。アスファルトの大地に大きなヒビが走る。地にめり込んだまま動きを止めず、大地を抉りながら俺の右足を掴み、二色のヘドロごと大地に叩きつけられ骨が軋んだ。

 

 足を握り潰そうと手に力を込めるエルキュールの筋肉の締まる波紋を見つめ、上半身を捻りながら、無理矢理万力から足を引き抜く。学ランのズボンの脚先が破け、指の先に擦った肌が裂ける。

 

邱ゥ縺?s縺?繧育セィ縺セ縺励¥繧ゅ?縺(緩いんだよ羨ましくもねえ)ッ‼︎」

 

 身を(ひるがえ)し、連結された八つの軍楽器(リコーダー)を上から下に撫でるように捻り回す。振るう鉄笛が奏でるのは空気の振動。芯まで届かぬのであれば、表面を振るわれるのみ。空気の牙がエルキュール=カルロフの服を裂き、肌を裂いて朱血が舞う。顔に降り注ぐ朱滴を舐め取り、足元で(うごめ)く二色のヘドロを鉄笛の切っ先で掬い上げ、伸びる牙や爪をエルキュール=カルロフの脇腹に叩き付けた。

 

 筋肉の閉まる音が響く。流血はすぐに失せ、突き刺さったまま筋肉の咬合に二色のヘドロの牙と爪がへし折れる。ヘドロを片手で掻っ攫い、後方の上里へと無造作に叩き付けながら、エルキュール=カルロフは首に手を当て骨を鳴らした。

 

縺昴≧謦ォ縺ァ繧薙↑蟆丞愛魄ォ(そう撫でんな小判鮫) 隗ヲ繧薙↑繧牙・ェ繧上○繧(触んなら奪わせろ)ッ‼︎」

 

 背後に逸らされた上半身と右拳。これから殴ると言わんばかりのその形。圧縮された力を前に、その必死から逃れる事を衝動が止め、口から垂れる吐息を追って舌先が泳ぐ。

 

荳ヲ繧薙〒繧?k繧医?繝ウ繧ッ繝ゥ(並んでやるよボンクラ)ッ。 貍√?霑ス繧上↑縺阪c蟋九∪繧峨?縺(漁は追わなきゃ始まらねえ)ッ」

 

 

 ──────ドゥンッ!!!!

 

 

 空気を歪ませる拳圧の歪な音が鼓膜を揺らし、身を押し潰すような壁の衝撃に意識が揺らぐ。体を捻り続け無限の字を描きながら見つめる視界の中を学園都市の街灯りが光線となって視界を彩る。周囲の波が歪む。空を舞っている。空気を淀ませながら空駆ける回転体と化し、現在地を把握する前に体が何かを突き破った。散らばる硝子。もう一つ壁を突き破る。何処ぞのオフィスビルの一室の中に置かれた椅子やパソコンを掻き混ぜ破壊しながら、ゴロゴロ仰向けに転がり勢いが止まる。

 

 

「……何やってんだろ俺」

 

 

 エルキュール=カルロフの波紋が遠去かり、静かな世界の中で急激に頭が冷えていく。全身が軋み痛い。ゆっくり身を起こせば垂れ下がった右肩。外れた右肩を無理矢理嵌め込み、口の中に転がる異物を吐き出せば、床に転がるへし折れた奥歯。豪腕の一撃を前に受ける意味などあったのか? 下手すりゃ死んでた。突き刺さったのがビルではなく尖ったものだったらもう終わりだ。何より気分が悪くない事に肝が冷える。

 

お兄ちゃん(brother)‼︎」

「あぁ……ライトちゃん悪いな、無事でよかった。現在位置とか分かったりする?」

 

 胸元のポケットに居座るライトちゃんに聞いた場所は、元いた場所からそこそこ離れたビルの中。歩くのも気怠く、軍楽器(リコーダー)を杖代わりに歩きながら、ビルにあるエレベーターを迷いなく使わせて貰う。腹が減った。喉も渇いた。急激に疲れた。一日分のエネルギーを一瞬で吐き出せてしまったかのようだ。エレベーターの壁に背をついて、大きく深いため息を吐く。千切れたズボンの先、脚先の裂かれた傷を軽く撫ぜる。

 

大丈夫なの(Are you all right)?」

「いや、あぁ、黒子には見せられんなこれは……。衝動同士が強くぶつかり合うとこうなるのか? 教えとけよ情報屋共め、おちおち喧嘩もできんぞあいつらとッ。理性がほとんど食い潰されたッ」

 

 感情に振り回されての破滅。コーラも口にしていたが、ようやく少し実感できた。輝きを喰い漁る事に微塵も疑問を抱かず、死が待っているかもしれない道を前に笑みを深める。それが悪くないと感じてしまう事が少しばかり怖い。勝負や闘争などでは断じてない激情の押し付け合い。魔神相手でさえあそこまで突っ込む事もなかったのに、エルキュール=カルロフに遠くぶっ飛ばされなければ、行くところまで行っていた可能性が高い。

 

「血みどろの必死は目に悪いな……、誰に相談すればいいんだこれ? 上条も、魔神も察してはいるらしいが、底は誰も知らないんじゃないのか? あぁいや、多分自分でどうにかするしかないんだろうな。でなきゃ外装がそう頻繁に入れ替わるものかよ。何もコンタクトがない以上、きっとガラ爺ちゃんにもどうしようもないんだろうな。じゃなきゃコーラが動く前に俺に接触があるのが普通だもんなあ? 何かのきっかけで魔王の衝動同士振り切れるなら、そりゃ一緒にいない方がいい」

お兄ちゃん(brother)本当に平気(Is it really ok)お姉様を頼ってみたら(If you ask our sister)?」

「提案はありがたいがそれは困る……。電波塔(タワー)だろうが、御坂さんだろうが、この問題は二人の秘密だ。とりあえず。黒子には絶対言わないでくれ。ただでさえ魔神関係で心配掛けてるのに、これ以上心配はさせたくない。僧正がやって来てからあんま良いことないなぁ」

 

 あの魔神マジで疫病神だな。上里に加えて『ストレンジの帝王』だと? どこで知り合ったんだマジで。他にも協力者がいるのであれば厄介。ストレンジ関係なら浜面でも頼ってみるか? 情報収集マニアの垣根でもいいかもしれないが、僧正がやって来て一日も経たず動いて貰うのは嫌だなぁ。あっちはあっちで崩れた学園都市の中で何かやってるかもしれないし。

 

 そうなると今動かせる人員は事務所にいる連中だけという話になるのだが、円周の形ない弾丸ならワクチン的な使い方ができたりしないだろうか? 身の内の衝動の大きさ的にあまり効きそうにないけれども。口からため息しか出て行かない。

 

 エレベーターが一階に到着した事を知らせる音が響き、開かれたドアから外に這いずり出る。長く伸びている夜の道を見つめてまたため息を吐く。元の場所に戻るの超怠いんだけど。それでも一応相手の足取りを多少なりとも確認した方がいいかとヨタヨタ足を動かす事十数分。アスファルトの地面が幾つも凹み、ヒビの走っている場所に戻って来る。

 

 ただそこには誰の影もなく、無惨に引き裂かれた赤いヘドロの飛沫が残されているだけだった。黒いヘドロがどこに行ったのやら、上里がやったのか、エルキュールがやったのかも定かでない。僅かに残された痙攣する赤いヘドロの飛沫に目を(しか)めていれば、見知った影が一つ立っている。

 

「よぉ上条、無事っぽいな」

「法水! 良かった無事……ぽくはねえな⁉︎ 何があったんだ⁉︎ 竜巻が通り過ぎた後みたいになってるぞ⁉︎」

「筋肉モリモリのマッチョマンと殴り合った結果がコレ」

「上里は?」

「知らね」

 

 だってアレ突っ立ってただけだもん。力の一端すら見せて貰えなかった。ってか見る余裕もなかったけど。上条の肩の上で大変呆れた顔をしているオティヌスに鼻を鳴らし、上条の横に並び立てば、目の前に転がっている少し大きめの赤い飛沫。何かに覆い被さっているような赤いボロ布を上条達は見ていたらしい。そんな赤いボロ布を(めく)ろうと伸ばされた上条の右手が、幻想の飛沫を掻き消し中のモノを露にする。

 

「これが…………『赤』の、本体???」

 

 上条の呟く先、気を失っている少女が一人。肩にまで伸びる金髪。月明かりを照り返す白い肌。シックな小洒落た服を纏う少女は大変見覚えのある顔で、お陰で血の気が一気に引く。

 

 やべえよ……俺めっちゃ地面とかに叩き付けたわ。そりゃ見覚えのある波紋だわ。ジリジリと足を下げる横で、上条が少女の名を小さく呼ぶ。

 

「……バード、ウェイ?」

 

 赤いヘドロの本体らしい少女は、『明け色の陽射し』のボス、レイヴィニア=バードウェイさんである。もしあの赤いヘドロの状態で意識があったのなら、レイヴィニアさんの意識が戻った後、俺の命がヤバイ。蹴られるだけじゃ済みそうにない。寮に戻ったら一旦事務所に引き籠ろう。そう心に決めてこの日一番のため息を吐いた。

 

 

 

 

 

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