「ぎゃおーっ!! ふー、ふーっ!!」
「痛い!! 痛ててててててっ!! 何で目が覚めた途端に手負いの猫みたいになっているんだこの子!? 助けてカルロフ⁉︎」
「助けてもいいがへし折んぜマッチ棒、オレが手を出す時は奪う時だぜ? それが嫌ならいるかも知らねぇ神にでも祈ってみろよ。その右手で祈れるもんならなぁ? ナハハハハッ!」
「この筋肉達磨!」
「あん? ほぅれ、奪ったぞ」
何を怒っているのやら。爪を立て
標的を変えて立てられる爪に鼻歌交じりにカルロフは受けるだけで不動。巨木で爪研ぎをする如し、パトリシア=バードウェイの怒り虚しく、エルキュール=カルロフの肌を傷付ける事すらできない。肌を撫でているのと変わらない。
エルキュール=カルロフがご機嫌に鼻歌を奏でパトリシア=バードウェイにマッサージを受けている中、第七学区にあるボロアパートの一室、四畳半風呂トイレなしの上里勢力の一時的な拠点の扉が開いた。鍵は掛けてあったが、十秒掛からずに施錠を外される。浜面仕上がもし居れば遅いと鼻で笑うのかは知らないが、それを成したのはぶかぶかの白衣を引きずる礼服の少女。
少女はパトリシア=バードウェイと戯れているカルロフの事などそっちのけで、上里の体のあちこちに刻まれた引っ掻き傷を見ると苦笑した。
「ややわあ、目が覚めたらいきなり見知らぬ男のアパートにご招待でしょ? そりゃアンタが悪いに決まっとります」
「善意が反故にされる相互不信の時代だよまったく!!」
「絶賛マッサージされ中のオレは無視かぁ? 相変わらずのハレムなこって」
「アンタが死のうがどうでもええわ」
少女、
「ナハハハハッ、冷てえ事だ。オレを前にそう言える奴はそうはいねえ」
「あんなぁゴリラ、警備態勢無視して親分が勝手に突出するのはよくあることやから仕方ないとして、あの戦い方をどう説明する気やの? アンタが一緒で上里はんが怪我でもしとったら」
「あぁ? それがオレに関係あんのか? ねえよなぁ? 手も伸ばさずに指咥えてただけの野郎がオレに偉そうに講釈垂れんじゃあねえ。上里が怪我でもしたらぁ? テメェはモンスターペアレントかよ! なぁ上里笑えるぜ! 好きに動いたのは上里でオレも好きに動いただけだ」
「アンタッ」
「絵恋」
嗜めるような上里の声に絵恋は唇を尖らせる。上里がカルロフを庇ったように見えたのが面白くないのか、少女の内情を見透かしたように笑うカルロフを絵恋は睨み付け、舌を打つと共に顔を逸らす。
「はいはいどうもはいどうも! ほな嫌がらせはこの辺にしておきますえ。ったく、この恩知らずの情報が
「まずいな……。傷隠しとかしておいた方が良いかな」
「まあ引っかき傷の
「一夫多妻はお辛えなぁ。えぇ上里? オレが女の
「カルロフ……本気で勘弁してくれ」
築かれるだろう地獄絵図を思い浮かべて上里が頭を抱える。その時だ。床にへたり込んでいたパトリシアの纏う空気が変わる。金髪の少女の頬に亀裂が走る。そこから泡立つ極彩色の目玉や爪を浮かべては消す黒いヘドロ。
それを口笛を吹きながらカルロフは見つめた。カルロフが『嫉妬』とサンドバック宜しくボコボコに扱った黒いヘドロと赤いボロ布。パトリシア=バードウェイこそが黒いヘドロの中身。絵恋の顔を穿つように放たれる鋭い槍のような黒い弾丸。
それを眺めるだけでカルロフは動かない。テメェの持ち物はテメェでどうにかしろと言わんばかり。
「おっと」
それに応えるかのように、上里が横からひょいっと手を伸ばした。上里の右手に掴まれた瞬間黒い槍が抉れる。それを目にした黒いヘドロは慌ててパトリシアの中へと再び引っ込んだ。頬に走った亀裂は姿を消し、親指大の何かが肉を押し除ける気色の悪い音を響かせて、少女の頬から首筋へと移動する。
「面白え玩具だな」
「カルロフ」
誰より早く楽しそうに笑う『強欲』を今度は上里は名を呼び諫め、上里の横でいい気味だと笑う絵恋に何も言わず、上里の諫める声も気にすることなく、寝そべっていた上半身をカルロフは起こした。それだけで部屋の中の空気が緩やかに逆巻く。地平線から急に山が上ってきたような巨体。怒りで脳が茹っていた時とは違い、冷静になった今でこそパトリシアは息を呑む。
首筋を通り抜けて少女の胸まで移動すると歪な鼓動を脈打って、少女の身の内に分散し気配を消す様をカルロフは面白そうに観察し、少女の顔へと獰猛な笑みを向ける。
「なんだそりゃ、教えろオレに」
「……もう少し聞き方があると思うんだけど? それじゃあ恐喝にしか見えないよ」
カルロフの笑顔を前に顔を青くしている少女を見て上里は呆れため息を吐くが、そんなものをわざわざ拾う事もなく、カルロフは僅かに少女から顔を下げて指を鳴らした。そんな助言は必要ないと言うように。
「さっき奪ったと言ったろうが。オレがオレのものに口聞いて何が悪い? 嫌ならオレから奪ってみろ。そん時は闘争の始まりだがなぁ。話せ嬢ちゃん。嘘でも真実でも好きにしていいから話せよ。疑問を持つならこういうこった。オレが話せと言ってるからだ。テメェをぶちのめしたオレと上里には聞く権利ってのがあんじゃねえか? 話さなくてもいいぜ口を割らせるだけだからなぁ力尽くで」
「本当にただの恐喝だよそれじゃあ……」
「結果が同じなら一緒だろうが。優しさとやらが欲しいなら先に見せるもんがあるだろうがよ? 誠意ってやつだ」
「きみに最も似合わない言葉だ」
肩を竦める上里と、変わらぬ笑みを浮かべて今は何もする気はないとばかりに両手を上げるカルロフを見比べて、パトリシアは口を開き、やっぱり閉じ、首を振って顔を上げ、やっぱり俯く。そんな少女の顎にカルロフの太い指が添わされて、強引に顔を上げさせられた。優しく添わされた指は鋼鉄のように動かない。パトリシアが俯く事を許さない。
「オレは話せと言ってるぜ? 余計な事は考えんな。優しさとやらから話さねえという気ならぶん殴る。嘘でも構わねえと言ってるんだぜオレはなぁ?」
顔を俯くこともできず、パトリシアはモゴモゴ口を動かすが諦めて口を開いた。
「ごめんなさい」
「何に対する謝罪かにもよるね」
「まったくだ。腕がなるぜ」
「カルロフ」
パトリシアの顎から手を引き拳を握るカルロフの肩を上里が小突けば、お返しのデコピンを肩に受けて上里は床の上を転がった。突き刺さる絵恋からの鋭い視線もどこ吹く風。そんな一幕を茫然と眺め、歪めた口で言葉を続ける。謝罪は決して喋らない事を決めたからではない。
「……話せば巻き込むと分かっていても、でも、話しておかないと不安で潰れそうになる弱い心に流されそうになっている事に、です」
上里は笑って応じた。
「だったら謝る必要はないさ」
カルロフも嘲笑で応じた。
「んだぁ、そんな理由かつまらねえ」
「カルロフきみさぁ……」
笑顔をすぐに崩して呆れ顔を浮かべる上里とまるで気にせず腕を組むカルロフの取り合わせに、ほんの僅かばかりパトリシアは小さく笑う。
「『これ』の正体は私にも分かりません。『極地』の氷の変動に伴う太平洋、大西洋、インド洋などの大規模な海流の変移を調べるため、大学側からの客員研究員として私も参加した、あの南極調査活動。その最中に見つけてしまった、新種の寄生生命体。私達のチームでは暫定的に『サンプル=ショゴス』と呼称していましたが」
「南極ねぇ、前に一度行ったぜ? 南極熊と闘り合いに」
「な、南極熊?それより気にするところ違くないかな?」
「あ、あはは。実質、大きな意味はないのかも。『これ』を何とかするために様々な医療機関をたらい回しにされていく内に、いつしか学園都市まで辿り着いてしまった、というだけですから」
「で、治療中のきみがどうして表をほっつき歩いているのかな?」
「寄生生命体とは言っても、『これ』は無秩序に感染を広げていく訳ではありません。まあ、でも、完全に迷惑をおかけしない……とも断言できないのですが」
「現にさっきもうちを襲いはりましたしなあ」
「絵恋」
「うちは被害者!!」
「どうでもいいぜ、んな事ぁ」
自分に勝てそうもないなら小事と言わんばかりにつまらなそうな吐息を吐くカルロフを絵恋は睨み、怒りを撒き散らそうとする絵恋の唇に上里は指を当てて口を塞ぐ。イチャコラしている二人を鬱陶しそうに手で虚空を払い、カルロフはパトリシアから目を外さない。先を話せと目で告げる。
「学園都市の技術でも、やはり安全に『これ』を取り除くのは望み薄のようでした。とはいえ、それは別に構わない。問題なのは、私のお姉さんなんです」
「お姉さん???」
首に手を当てて疑問符を浮かべる上里を尻目に、カルロフは少しの間口を引き結ぶと口端を上げて鼻を鳴らす。「赤」と続けたパトリシアの一言に確信したように口端を吊り上げると、思考を巡らす。持ち帰ったパトリシアとは別、置いて来た赤いボロ布を誰が持ち帰ったか。思い浮かべた予想が望んでいるものであろうと当たりを付けたからこそ、カルロフは笑う。
その含み笑いにパトリシアは言葉を止めるが、カルロフを気にする事はないと上里は続きを促した。事実カルロフにはもうパトリシアの話の続きは必要ではない。
「お姉さんはお姉さんなりの方法で私を助ける手立てを探してくれているようなんですけど、それに甘える訳にはいかない。絶対に、あんな方法は認められない。だから座して待っているだけじゃダメなんです。お姉さんを止めて、『あんな方法』は今すぐ破棄しないと」
から始まり、
「でもその方法を使った場合、お姉さんは死亡のリスクを負う。それが分かっていて自分の身を差し出そうとしているからこそ、絶対に破棄しなくちゃいけないんです」
で締め括られた上里とパトリシアの会話を思う存分にカルロフは聞き流す。
ぶっちゃけ『サンプル=ショゴス』の正体などどうだってよく、救う方法云々もどうでもいい。必要なのは、奪ったパトリシアがどう使えるか。その使い方を察したからこそ、カルロフにもうパトリシアの話は必要ではない。
「ナハハハハッ、なるほどなるほどなるほどなぁ。残念手遅れだな。だぁから言ったじゃねえか? 『嫉妬』を敵に回したくなきゃさっさと雇っておけとな。
「……嬉しそうだねカルロフ」
「まぁな。テメェとつるんでる理由と同じだぜ?」
薄暗いパトリシアの話を笑い飛ばして、大きな手で大変いいお土産を持って来てくれた金髪の少女の肩をカルロフは小突く。起き抜けに目にしてから豪快さ変わらない男にパトリシアは戸惑うが、カルロフは全く気にもせず、睨んでくる絵恋も気にしない。
「オレにとって闘争はだいたい勝って当たり前だ。当たり前を嬉々として楽しむ馬鹿がどこにいる。手を出して来る馬鹿はぶん殴るが、そうでもねえ奴をぶん殴っても面白くはねぇ。暇潰しなら、得意でもねえ事で勝った方が暇を潰せる。奪いがいがある。上里、テメェをぶん殴り潰すのも一興かもしれねえが、それはちと面白くねえ。テメェは放って置いた方が面白えのが寄って来るからな。オレに靡かねえテメェの取り巻きを奪った方が面白いだろうぜ? 勿論力じゃなくてなぁ?」
「筋肉ゴリラに靡く女なんているわけないですえ」
「これだぜ。笑える。これでもそこそこモテるんだがな。テメェはオレが奪った戦利品だ。奴らはどうでもいいが近くに居な。そっちの方が面白えだろうぜ」
「あ、あの、私の話聞いてました?」
「聞いてたがなんだ? オレが気にすんのはいつテメェを奪ったオレ達を狙って窓から弾丸が降って来るかだ。オレと闘争の形になる野郎がいつ来るか。愉快だぜ」
胸に手を当てて佇むパトリシアを摘み上げ、カルロフは己が隣に置く。脅威を遊び相手くらいにしか見ていないカルロフにとっては、『サンプル=ショゴス』もペット感覚。肌を切られようがどうせ骨には届かないと高を括っている。骨に届くようなら逆に嬉々として拳を握るだけだ。パトリシアの心配さえも片手間に奪いながら、縮こまる金髪の少女の肩を、バシバシとカルロフは叩く。決して壊してしまわぬように。
カルロフに肩を叩かれた衝撃に、パトリシアの中で歪な鼓動が湧き起こり、再び肌に黒い『何か』が浮かび上がる。微笑を携えてそれに手を伸ばすカルロフの手の甲をパトリシアは慌てて叩き落……そうとするが微塵も動かない。カルロフは手を止めて鼻で笑う。
「テメェはテメェの心配だけしてな。姉だか知らねえがそっちの心配はしなくてもいいだろうぜ。
「……あなたも?」
「あぁん? テメェの目は節穴か? どこぞのボランティア精神溢れる奴らと一緒にすんじゃねえ。何も持ってねえ奴を助けてオレになんの得がある? 自己満足なんて元々自分の中にあるもので満足はしたくねえ性分でな。わざわざ助けるなら見返りがあって当然だろうが」
「じゃあ私は」
「だからテメェはそこにいろ。今はテメェがオレの隣に突っ立ってりゃそれで見返りだぜ」
得体の知れないものに恐怖の色を微塵も見せないカルロフに、パトリシアは何度も目を瞬く。パトリシアの中に潜む何かについて詳しくも聞かず、カルロフの身から滲む揺るがぬ自信。何故そこまでの自信を持てるのかがパトリシアには分からない。未知とは恐怖だ。その未知をカルロフは恐れていない。寧ろ求めている。
「損な性格だよねきみって」
「テメェには言われたくねえな」
お互いに上里とカルロフが呆れ合えば、それに合わせたかのように何者かの来訪を告げるドアブザーが鳴った。馬鹿正直にドアブザーを鳴らしやって来たという事実につまらなそうにカルロフは息を吐き、上里や絵恋にも緊張は見られない。
「誰だろうね?」
「上里はんのご贔屓は分かっているだけで一〇〇人くらいいるからサッパリ見えませんわ。一度、オトした女の子の名簿をきちんと作った方がええんと違いますえ。顔認識で照合して、名前とプロフを勝手に検索してくれるような上里アプリとか」
「いいじゃねえか、顔認識で闘れる奴が分かるアプリ作ってくれよ」
「そのカルロフアプリは一体誰が欲しがるんだい?」
「オレ以外にいるか?」
どこぞの全能神なら大変喜びそうだが、少なくともこの場にはカルロフ以外に欲しがる者はいない。戦闘狂名簿を欲しがるカルロフと、絵恋の冗談に上里が小さく息を吐けば、それを手繰るように二人の少女が部屋の中に入って来る。
長い茶髪を乱雑に切り、白いセーターと赤く長いスカートを身に纏った、変色した十円玉を詰めたペットボトルを手に持つのは
分厚い眼鏡を掛けて黒い長髪を二つに縛り、白いワンピースを身に纏った、側頭部から巨大な花を垂れされているのは
金髪の少女に誰も紹介などしてくれず、部屋に入って来た少女二人は部屋を見回すと、その中に居座る巨大な異物を一目見ると舌を打つ。カルロフに気にした様子はなく、その代わりとばかりに上里は首に手を置きため息を吐いた。
「へえ、これが新しい拠点って訳? ひでーなんてもんじゃねえ最悪だ。主にゴリラがいる所為で。ここって動物園だっけ? 前の部室占拠事件の方がまだしも便利グッズが溢れていたんじゃない。ここパソコンも電子レンジもなさそうだし」
「……でも獲冴、四畳一間って逆にレアでちょっとだけわくわくしません? ああ、貧しいながらも幸せな二人が、肩を寄せ合って温め合って互いの愛を確認するとか、きゃっ☆」
「なぁ暮亞、それ多分コロンビアの刑務所収監ツアーとかタイの軍隊式拷問体験ツアーとおんなじわくわく感だぜ? お金を払ってわざわざ不自由を楽しむっつーか。なにせ筋肉ゴリラまでいるからな」
「やめてくださいよっ! 見ないようにしてるのに! 私の頭の中に広がっていた昭和ソング的理想郷が首輪とか手錠とか梁から縄で吊るしてギシギシとかとんでもないビジュアルに侵蝕されていくんですけどっ!!」
「意外と詳細にイメージできるのな。やっぱこの優等生ハラん中はむっつりスケ───」
「えいっ☆」
「……すごく嫌われてるんですね」
「笑えるだろう? オレに容易く喧嘩売りやがる。勝てねえと分かってるくせによ。でぇ? もう一人はどこ行った?」
向けられる罵詈雑言を聞き流し、苦笑するパトリシアに肩を
長い癖の入った黒髪を横に振り、どこにでもあるようなセーラー服の肩に日本刀を背負った少女。
「ナハハ、テメェの兄貴悪くなかったぜ?」
「……貴方様風情が金角兄様を倒せたとでも?」
「そっちじゃねえよ」
その一言に八重は素早く顔を上げると、一瞬浮かべた笑みを引き結んでくるくると指先で黒髪の毛先を弄る。喜びの感情を誤魔化すように。
「ま、まぁ? 私様のお兄様なのですから当然ですよ。そうですかお兄様まで……ふくくくくっ、上里様? 今どうなってるのか教えていただいても?」
「こ、こいつ後から来た癖に抜け駆けをっ」
「いや、驚かないで聞いてほしいんだけど……今ちょっと軽く脅されたトコ。私はとんでもない秘密を持っていて、これ以上関わるとあなたも酷い事件に巻き込まれますって」
「「ああー……」」と、
「つか、血気盛んな男の子にそれ言って後ろに下がると思ってんのか? むしろどうぞどうぞの流れみたいに大将が喰いついてくるのを待ってんじゃねえの???」
「そういう自覚がないから上里さんは釣られてしまうんですよ。ほら、ねえ、いつもの通りに」
「そうだな、暮亞の時なんか酷いもんだった。表だぜ、外だぜ? 何だって曲がり角で大将とごっつんこした時にアンタ全裸だった訳? あざとい、今思い出してもあざといクイーンだわ」
「あっ、あなたに言われたくありません! 今時突然の出会いが空から降ってくるって何次元から飛来してきたんですかあなたはっ!! ものの見事に上里さんの顔面に着陸していましたけど、はいてなかったのは別次元にショーツ置いてきたからですか!?」
「防御はしてたよ! 大きめの絆創膏だったけど!!」
「……しょうもないですねー」
「なんつった八重‼︎ 兄妹同士で斬り合ってたアンタにだけは言われたくないんだけど‼︎ リアル時代劇かよ! だいたいまだ終わってもねえだろアンタのは‼︎」
牙を剥く
「「「またまたぁ」」」
と、お決まりのような少女達の合いの手が挟まれたからこそ。
「ちょいと『本線』から流れが逸れるかもしれないけど、どうせ上里はんの事よって、絶対放っておかへん。そうしろって言うても一人で勝手に動いて裏から世界を救ってはりますわ。だったらうちらもサポートに回って迅速にケリつけて『本線』に戻した方が手っ取り早いどすえ。基本方針はオーケー?」
「ういっす」
「構いませんよ。猫に鈴をつけて放し飼いにするんじゃなくて、犬のリードを引いて一緒にお散歩しましょうっていう話でしょう? 私としてもそちらの方が不安が少ないというか、好みに合いますし」
「……そのセンス。お前やっぱり相当特殊なムッツ───」
「えいっ!! えいっえいっ!!」
急にやって来たと思えば、上里も他の者もそっちのけで少女達が話を進めてゆく。置いてきぼりの上里と、おろおろするパトリシア。八重はつまらなそうに茶番を見つめて口を引き結び、その結果起こるだろう喜劇にカルロフは笑う。
「気にするな。いつもこんな感じなんだ」
「えっ、あ」
「馬鹿言えや。少しは気にしろ。勝手に話を進めんのは構わねえが、その結果死んだら大笑いだ。散歩ならまだしも闘争だぜこれは。
ふわふわした会話が鬱陶しいとカルロフは言葉で殴り付けるが、ふわふわ少女達は躱すだけ。「上里がいる」「誰が相手でもどうせ一人で救うだろう」未だ結果が出ていないにも関わらず、少女達の中では既に問題は解決したも同じらしい。返される言葉は中身変わらず。
「そう思ってんなら、何の為にアンタがいると思ってんの?」
上里の付属品のようにカルロフを扱う
「悪いねカルロフ」
「まともな奴は少ねえらしいぜ。テメェの頭もお花畑ならさっさと潰して終いにすんだが、この危うさは悪くはねぇ。その分オレが暴れても気にされねえしなぁ」
「一番の異常者コンビが常識人なんか気取ってやがる」
「多数決の結果だろうそりゃ? つまらねえこと言うんじゃねえよペットボトル女」
「筋肉ゴリラに言われたくないんだけど⁉︎」
笑うカルロフと睨む
「ほなまずはお風呂になりますえー。でもこのボロアパートトイレ共同でお風呂ナシなんですやろ。他の住人達はどこでどうまかなっているんでしょうなあ」
「クソみてえな話だ。オレは寝る。終わったら起こせ」
「カルロフ、頼むからぼくを一人にしないでくれ」