磁性制御モニターを使ってのリアルタイムでの軍事迷彩技術を用いて当該学校の任意の人物と入れ替わり、上里翔流へと変装した上で接近し『右手』を切除。
調整を加えたサンプル=ショゴスを用いて、腕の切断と縫合、血管や神経の接続などを行い、接続した上里翔流の『右手』に宿る『力』が接続者を拒む可能性があるため、その認証を誤魔化す為に弱毒性のサンジェルマンウィルスを使用する。
垣根帝督にサンプル=ショゴスを培養していたグリフォンドライバーなる物を破壊されるまでに唯一さんが描いていた『計画』がそれらしい。
「
「いっぱいあります」
「ええ、では次ですが」
「まず聞く気がないのに聞くふりするのやめて貰っていいですか?」
円周を寮に送り届け、唯一さんの持つ研究室の一つへと足を寄せてから幾数十分。唯一さんの『計画』を聞くが中々にぶっ飛んでいる。『右手』の切断だのサンジェルマンウィルスだの諸々物騒ではあるが、一番の困り事は別。潜入は別にいい、鮮度の良い生の情報を仕入れるには一番の手だ。が──────。
「うちの学校の大移動ってなにこれは…………」
僧正によってぶっ壊された我が母校。学校での授業は不可能、よって、近くにある他の学校の校舎を間借りする予定になっているらしい。数日後とかではなく最早『今日』からである。諸々の手続きとかどうなってんのとか口から出る以前に、間借りすると決めたとしても判断含め決定が早過ぎやしないか? 昨日の今日だぞ? 元々決まっていたのではないかと疑ってしまう。なによりも。
「よりにもよってなぜ上里何某の高校なのか問うても? 恐れ知らずですか唯一さんは?」
「では次ですが」
「聞いてます? 寝不足ですか?」
「はぁ……上里翔流は上条当麻を一等気にしているのは確認済みです。潜入がバレる可能性を低減するために別に思考を割かせるのは当然の理。『
「分かりますよ? 分かりはしますけれど……」
馬鹿を見るような目を向けてくる唯一さんのそれはもう諦めるとして、壊れた学校の生徒の移動先まで決められるのもいいとして、上条どころか俺に土御門に青髪ピアスまでおまけでいるんですけど?
「上里勢力側がどんなアクションを見せるのかは別として、『シグナル』まで上里勢力にぶつける気ですか? クラスメイト達が一緒にいる以上、こちら側が学校で大きなアクションを取るのは不可能に近い。日常世界の友人に身バレするのが嫌だというのもないと言えば嘘になりますが、それはそれとして、『暗部』とはいえ表での身分を失うのはかなりの痛手ですからね。なにより、表では一般人として振る舞っているだろう上里何某に不用意に此方側から仕掛ければ、加害者としてのレッテルを貼られかねない」
そう言えば、もう何度目かも分からない馬鹿を見るような目で唯一さんに見られる。俺の中では最早『呆れ顔』が唯一さんのデフォルトになりつつある。特に俺は唯一さんに何をした訳でもないと思うのだが、やたら当たりが強いのはなんだ。
「はぁ、これは『復讐』ですよ、私の『復讐』。シグナル? 何も知らないどこぞの誰かが上里を撃破した、させたところで私の気が晴れるとでも? それらは所詮デコイというだけ、あのクソ野郎に手をくだすのは私です」
「……その答えに『否』を口にするような事はしませんが、クラスメイトや上条達を巻き込むのは気乗りしませんね」
「そうですか、ならば別案の一つでも捻り出してくださいよ。あなたも分かっているはず、寧ろ被害を出さない為にはこの手こそが最善だとね。計画の為にも、周囲の為にも上条当麻は上里翔流の近くに置くのがベストだと」
「戦闘領域を限定する為にですか」
言ってはアレだがこの案には強く反論できる手札がない。青髪ピアスや土御門は別にして、小萌先生や吹寄さんが心配ではあるが、そもそも上里何某は此方側から出向かずとも向こうからやって来た。間借りする学校を別の学校にすることもできるだろうが、だとしても昨日と同様に上里側から襲撃される恐れがある。
だとするならもう上里側の日常へと肉薄し、常に近くに上条を置いた方が行動を制限できる。上条も上里も『日常』に重きを置く存在であればこそ。できるなら上条だけを転入させたいところではあるが、それは明らかに行動として浮き過ぎているからこそ難しい。上里側から警戒される。学校単位での移動は、ある意味で小萌先生や吹寄さん達を敢えて混ぜる事でそちら側に必要のない警戒を向けられないため。
『ロマン』の為だか知らないが、冷徹に見えて唯一さんはかなりシビアなバランスで気は遣っている。かなりギリギリではあるが。
「ただ、俺側の戦力を俺しか使わないとしても土御門達はどうする気ですか? 敵を騙す為にはまず味方から、潜入バレのリスクを下げる為に敢えて伝えないとしても、土御門や第六位にはバレる恐れが高い」
「問題ありません。そもそも潜入等にそこまで時間を掛けるつもりはありませんからね。土御門元春は現状別行動中、数日はろくに動けないでしょう。第六位が十全に能力を使用できないことも確認済みです。使用する迷彩技術も精度からして、本気で『見る』事に能力でもしようされない限り見破られはしないでしょう。嗅覚に対しても、第六位が本物の化粧院明日香と接触する前に入れ替わり私が接触すれば誤魔化すことも可能です。あなたにおいても適当な仕事を投げて忙殺する予定でしたので」
潜入作戦もかなりの綱渡りだが、忙殺されなくて良かったよほんと……。どんな仕事を投げられる予定だったのか気にはなるが。
「なら、一つ助言できることがあるとすれば、女生徒に変装する以上は第六位の前で転んだりしないことですね。スカートの中でも覗こうとされて一発で変装がバレますよ?」
「馬鹿なんですか? そんな生産性のなさそうな事に第六位が現状不完全となっている能力を本気で使うと?」
「間違いなく」
「馬鹿なんですか?」
二回も言われたッ。だって絶対使うもんあいつッ! 青髪ピアスが女好きという情報は握っていそうなはずが、そこまでするはずないとでも思っているなら間違いだ。そこまでするよあいつは。そんな理由で潜入バレたら流石に笑い転げるぞ俺も。
「第六位はそれとして‼︎ 俺達が間借りするにしてもまだ問題がありますよ。時の鐘の二人はどうします?」
「クリス=ボスマンとガスパル=サボーですか。私が面と向かう機会はそれほど多くないとは思いますが、時の鐘同士それはあなたに任せます」
ぶん投げられた……。まぁそうか、一応漠然とした仕事の内容だけはメールで送っておこう。上里勢力の情報も伝えれば、少なくとも小萌先生達はクリスさん達の方でどうにかしてくれるはず。
まあいい、兎に角、唯一さんが潜入するのは決まりだ。科学者として自分の目で確認した方が間違いないという理由もあるのだろうが、『復讐』だとしても率先して自分を計画の要に置く考えは好感が持てる。俺達の学校が上里何某が在籍する学校への間借りと、唯一さんの潜入は納得した。次の消化すべき疑問としては。
「……ちなみに、唯一さん潜入中の俺の動きは?」
「上里勢力側がどこに潜伏しているか全てを此方で把握するのは面倒なので、潜入期間中あなたには適宜遠方から監視をしていただきます」
「ん…………ん?」
「あなたには適宜遠方から監視をしていただきます」
「え? それってちょっと」
「あなたには適宜」
「聞こえてますよ! 遠方から監視? あれ? 学校……」
「狙撃手を手近に置くメリットが分かりません。格闘戦ができるのだとしても、超遠方からの精密狙撃を可能とする人材の能力を使わない馬鹿がどこに居ます?」
そうだけども……ッ! 正論過ぎてなにも言えねえッ‼︎ 留年……ッ、留年が……ッ! 留年の足音が聞こえる……ッ! 学校に行かずに学校を遠くから監視する仕事ってなに? 青髪ピアスとかにバレないようになるべく遠くに居よう、そうしよう。
「了解です、それはね。唯一さんの潜入も、ただ、『
「なにを言うかと思えば、殺すまで、以外にありますか? 宿敵の能力を奪って無双三昧なんていかにもロマンでしょう? まぁサンプル=ショゴスが失われた今、腕の再接続に対する外科手術的条件を素早くクリアする手が残されていないのでその点は変更が必要ですが」
「……ロマンですか」
「なにか?」
鋭く目を細めた唯一さんと数瞬見合い、座るソファーの上に座り直す。
「いえ、ロマンが主観に重きを置く以上個人の好みの差でしょうけど、相手の能力を奪う事に個人的にロマンをそう感じないだけですとも。どれだけ理不尽な力であっても、自分の磨いた力で穿ってこそ、俺にとってのロマンはそれですので」
「非効率的ですね。既に形となっているそれを手にした方がよっぽど手早く済むでしょうに。先生に向けた力を向けられる、その時どんな顔を浮かべるのか今から楽しみでしょうがない」
「ロマンに効率を求めるのは間違いでしょうよ。如何に相手の力を奪い使うのかに労力を割くより、自分の足を前に進めたいものですね。別に俺は『復讐』を否定はしない。でも『復讐』のその先は? 唯一さんが
「『復讐』の為に動くのに『復讐』する前からその先を考える奴がどこにいると? なにより、
確かにまあ、
上里も『魔神』の被害者なのは間違いないのかもしれないが、力を放棄しようと動いたオティヌスや、一応は一般人でしかない上条までもを狙うのであれば、如何せんその動きは看過できない。上里自体何をするのか分からない。
上里の動きもある意味『復讐』の為であり、それに撃破されたらしい唯一さんも『復讐』の為。
とんだ『復讐』のイタチごっこだ。
復讐の不毛さが浮き彫りになっているようでなんとも言い難い。相手が分かりやすい外道であるならば殺すことも吝かではないのだが。そうでないなら上里を討っても新たな復讐者が出て来る可能性の方が高い。復讐をするにしてもやはり問題はやり方か。
これは、俺としても問題だ。時の鐘にも復讐者はいる。いざハムの力になる時が来たとして、ただイエスマンとして側にいるだけでは力になれたとは思えない。『復讐』が精神的な戦いであるのであればこそ、その為には。
「俺も上里がどんな人間か詳しくは知らない以上、一時的にでも『右手』を切断する事は是としますが、やはり奪ったところで
「…………なぜ?」
「仮に、唯一さんが
「これは唯一さんの復讐でしょう? 相手が
冗談で勝てないだのなんだのと言うのとは訳が違う。完全に心をへし折れたなら次はない。種類は違うが、俺がボスに狙撃で挑まないのと同じこと。全体の勝敗は別としても、狙撃という分野において、今でもボスに全く勝てる気がしない。だから勝利を目指すなら、勝負の中で狙撃同士がカチ合う状況を選ぶ事はないだろう。
簡単な話、その枠を大きく広げ、勝負という分野において木原唯一には勝てないと上里及び勢力の面々にもし思わせる事ができたのであれば、それこそこの一連の騒動の先であろうが、最早唯一さんに上里勢力側が強く出ることはまずないだろう。
「…………一考の余地はあるかもしれませんが、具体的な方法は?」
「時の鐘が何よりも戦場で恐れられているのは、唯一さんの言う通り超遠距離からの精密射撃。その確固たる技術こそ恐れられ、戦場で嫌われていようとも、平時に喧嘩を好んで売ってくる輩は少ない。結局名前や兵器よりも、人が恐れられるとしたら『技術』にですよ」
軍人も、魔術師も、能力者もそれは変わらない。魔術も能力も似たようなモノは多くある。だからこそ、それを扱う者こそがフォーカスされるのは当然で、学園都市第三位の御坂さんが『
「『時の鐘』と『木原』に共通点があるとすれば、個々人に確固たる己が磨いた『技術』があること。その点に関して言えば俺は『木原』を尊敬しています。あるんでしょう唯一さんにも? 磨いた自分の技術が。円周から聞きましたよ『木原』の戦闘術。力の流れを読んで、その隙を突くでしたか?」
「……それは所詮基礎、打点を複数設ける事で体内に伝播する衝撃同士をかち合わせ、血管内を移動する血液中に気泡を与えるぐらいの応用はできますよ」
「エグいですね、塞栓症を引き起こす肉体的防御無効の技ですか」
「お世辞はいりません。あなた達時の鐘なら打点をズラすことくらい容易でしょう? その程度の小手調べぐらいにしか使えませんよ、だから笑ってんじゃねえ」
「いや別に馬鹿にしてる訳では……」
急に言葉を荒げるんじゃない怖い。流暢に荒んだ言葉を口にするあたり素はそっちか? 無意識に持ち上がっていた口端を撫ぜ落とす。
小手調べにしか使えないなどと言うが、小手調べの基準値が高過ぎやしないか? 打撃を用いて体内で衝撃をカチ合わせるなど、うちのボスやスゥならできるだろうが……ハムやドライヴィーも練習すればできそうではあるか……波の世界見つめながらなら俺も練習すればできるかな? 円周も形はできるだろうし、
「と、兎に角それを磨いては? 『木原』は独自の理論を描いてそれを形にするのが得意でしょう? それを聞く限り唯一さんは防御無視の打撃が得意そうですし、それこそ戦闘技術なら俺から教えることもできますよ」
「必要ありません。あなたの戦い方ならいくらでも映像で確認していますので。あの気色悪い動きを覚える気はないですし、そもそも精密な狙撃も人よりも機械を使った方が簡単に済みますしね。サンドバッグとしてなら使ってあげてもいいですが?」
「それ撲殺する気満々でしょ……、ただ近接戦闘の術を練り上げるのは悪くないと思いますよ。下手な術や兵器より、殴り合いの喧嘩で勝った方が勝敗は分かりやすいですし、『木原』の戦闘術としても、上里に接近し情報を収集する時間を作る以上唯一さんに分があるかと。俺としても今回の仕事は準備できる時間が貰えるのであればこそ、唯一さんの『技術』と『力』による勝利を復讐の前提として推します。援護に関しては俺に全て任せてくれていいですよ。それはそれとして、ここまでは質問や提案でしたが、力を貸す上で条件があります」
そう言えば、鋭く唯一さんの目が細められる。が、この先の条件を譲歩する訳にはいかないので口を開く。
「上里及び上里勢力の相手をするのは構いませんが、それ以外の面々への手出しは原則禁止で。民間人に理由もなく銃口を向けるのは傭兵の掟に背きます。別口から襲われたりした分には対応しますが、そこは傭兵としての矜持です。俺の力を貸す以上、その線引きだけは守ってください。その線を超えるようであればそれまで。守っていただけるなら、円周の代わりにある程度無茶な注文も聞きますよ。俺は唯一さんを絶対に裏切りはしない」
「こちらとしても無駄な被害を出すつもりはありませんよ」
言いながら唯一さんは座っていた椅子から立ち上がる。「ただ」と一度言葉を挟み、俺に向けて一歩二歩と足音をわざと奏でながら距離を詰める。不安を煽るかのように態とらしい微笑を携えて。
「その言葉をどこまで信じたものでしょうね。でしょう? 例えばの話、上里翔流を狙うに当たって、上条当麻が敵になったらどうします? ありえない話じゃない。敵だったはずの『魔神』とやらのメスのために一度世界を敵に回した男です。それに一枚噛んでいたあなただからこそ分かるはず。お節介にも首を突っ込んで来た時は? 上条当麻に限らず、
「舐めるなよ、力を貸すと決めた以上、唯一さんが道を外れない限り俺から手を切る事はない。その道に間違いがないのであれば、神様だろうが天使であろうが、友人であっても俺は向かい合おう。唯一さんが
「どの程度のレベルで言っているのですかね。間違い? もし友人を殺さなければ目的が達成できなかったら? 多数の被害を出す事で最良の結果を引けたなら? どの程度まであなたは引き金を引ける?」
「それを言葉にするのは難しい。時と場合によって変わるからだ。俺の仕事場は戦場で、そもそも俺たちが頼られる段階というのは、ほとんどの場合命の駆け引きが含まれる。行動の選択肢に『殺し』の選択肢は勿論ある。が、最初から最悪を目指す馬鹿はいない。多数の被害を出す事で最良の結果? 被害を出さずに最良の結果を出せるよう考えるのが当然だろうがよ。ギリギリまで必死に積み上げてそれでもどうしようもないのなら、泥は俺が被ってやる。その為の傭兵だ。外道や最悪を目指すロマンがあるのか? ロマンとは、格好良いとはそういうことだろ? それが唯一さんの必死なんだろ?」
時の鐘は傭兵部隊で軍隊である。どう綺麗に言い繕うが、偽善を掲げているのも理解している。が、掲げ続けられないならば偽善である意味がない。多種多様な思想が蔓延る世界の中で、『時の鐘』だけが力になれる瞬間もあると知っているからこそ。そんな必死を実現する為に、その景色を見る為に
ソファーから立ち上がり、唯一さんと目を合わせる。必死を追う。それが俺の絶対の道。その道を行くのに嘘も葛藤も抱える衝動も何も理由は必要ない。俺は追いたいからそれを追う。
「ロマンを追う唯一さんにはそもそもそんな問いはいらないはずだ。『なぜならその方が格好良いから』、そんな言葉があれば他にはいらんでしょう?」
軽く眉を顰める唯一さんの前に、部屋に来てすぐに渡された簡易的な資料を掲げる。「だからこそ」と言葉を挟んで。
「唯一さんが入れ替わる予定の化生院明日香。どのようにして入れ替わるつもりで? そこだけが後は気掛かりだ。これから誘拐でもしますか?」
聞けば、小さな息を一つ唯一さんは零し身を翻す。「次のページを見てください」と言いながら。ページを捲った先に記載されていたのは、物騒な内容ではなかった。が、なかったからこそ首を傾げる。
「……七〇〇〇万人に一人の割合でくっつくレア度マックスSSR級の寄生虫って何なんですか? BAOHとか声帯虫とか? 軍事関係の都市伝説でそんなの聞いたことはありますけれど……そんな理由で隔離できると?」
「もう既に隔離できていますよ。健康診断の結果で異常が見つかった、新薬投与の謝礼も払うと送ったら、強制入院も快く引き受けてくれたので問題はありません。潜入の準備は既に整っています」
「えぇぇ…………?」
普通疑うだろそんなメールだの手紙だの貰っても……。大丈夫なのか化生院明日香? 疑うということを知らないのか、それとも謝礼に目でも眩んだのか。連絡受けて強制入院を即決する度胸もある意味すごい。
「学園都市の凡夫な学生には適当に頭良さそうなことを言っておけば大体通用しますので」
それは凡夫な学生に失礼なのではないか? 凡夫の基準が低過ぎやしないか? 化生院明日香も少し心配だが、それでいけると確信しているような唯一さんも少し心配だ。実際いけてしまっている訳だが……。
なんとも言えず微妙な顔を浮かべていれば、「もう質問はありませんね?」と聞かれるので、最後の懸念を一つ。
「諸々納得はしましたけど、潜入は大丈夫なんですよね? 見た目の話ではなく、唯一さんて演技とか得意なんですか? 演技が下手過ぎて即バレしたなんて状況になったら流石に援護もクソもないんですけれど」
唯一さんは大きなため息を一つ落とし、俺の方へと振り向いた。少しの間を開けて唯一さんが口を開く。
「ぴいっ!! あうあうあっ! あっ、私は化生院明日香と申します!」
俺は我慢できず噴き出した。
俺は絶対悪くない、悪くないのに唯一さんに殴られたのは納得いかない。だってズルいじゃんッ! 無表情で可愛こぶった台詞を並べんじゃねえッ! てかその声どう出したッ⁉︎ 声帯模写なんて隠し芸を急に披露しだす唯一さんの方が絶対悪い。間違いないッ‼︎