暇だ。すこぶる暇だ。
監視していただけでもう一日が終わりそうな勢いだ。
授業中に特別問題が起きる訳もなく、休憩時間中も見た限りは上条と上里が毒にも薬にもならないような会話をするくらいで問題が起きるはずもなく放課後。
これ俺一日無駄にしてね? どころか、『絶滅犯』だのケルトの魔術師の目撃情報だの厄介事が増えている気しかしない。
最早滅亡へのカウントダウンが点滅しているだろう『留年』への一日を消費してまでの特に収穫なし。仕事上大きな問題が起こらなくてよかったとも言えるが、代わりに日常に迫っている危機が一歩前進しやがった。
上条との会話も恙無く終え、演技力バッチしな唯一さんは下校しながら生徒会の面々、プラス化粧院明日香の妹分、プラス上里&なぜか途中から混じった上条とクレーンゲームにまで行じる有様。
何を見せられているんだ俺は?
唯一さんが化粧院明日香の部屋へと帰宅するのを見送り、指定されていた唯一さんの研究室へと一足早く到着してからおよそ十五分後。研究室の扉が開き、見慣れた少女が入ってくる。
「どうでしたか?」
「ぶふッ!」
「は? 笑い茸でも食べたので? 急に笑って気色悪い」
「格好! 唯一さん格好が化粧院明日香のままです!」
ワザとなのかうっかりなのか、まぁ唯一さんが化粧院明日香の部屋から出て行く姿を誰に見られても誤魔化せるようにだろうが、生返事をしながら、ズルリと化粧院明日香の姿が歪み中から白衣を纏ったリクルートスーツ姿の唯一さんが顔を出す。崩れる細かな磁性制御モニターの波紋が心地悪い。
が、それはそれとして、中身は変わらないはずなのに、『ぴゃあ!』なんて叫び声を本気で出せるのだからクソ面白い。唯一さんが本気になればアカデミー主演女優賞取れる気がする。まあそんな話をしたところで馬鹿を見る目しか返されないだろうが。
質問はしたぞとばかりに唯一さんの視線が冷めていくのを感じ、慌てて口を開く。
「四人に加えて新しく上里勢力の三人の名前が分かりましたよ。それ以外の収穫は特にありません。まぁその分かった内の一人が面倒くさそうな手合いなんですが。『絶滅犯』だそうですよあの」
「噂の大量殺人鬼ですか。それになにか問題が?」
「『絶滅犯』の異名と噂以外今のところ何も分からないのが問題ですかね」
「なら何も問題はないでしょう? 世界最高峰の傭兵がたかが殺人鬼に遅れをとると?」
そうは言わんけども、皮肉が凄い。唯一さんにとって問題は上里であって、上里勢力は完全に俺に丸投げする気なのかは知らないが、そっちに唯一さんはリソースを割く気はないらしい。ソファーに座るとノートパソコンを開き叩き始める。それ以外、特別口を開くこともない。仕事のことしか話す気がないのか、なんとも微妙な居心地だ。
「そう言えばゴミ捨て場で上条と何を話していたので? いい収穫でもありました?」
「餌を撒いていただけですよ。渡した資料に記載していたはずですが?」
身バレの進行度合いを現在使用中止中の焼却炉をデコイとして使用し測るというアレか。使用されていない焼却炉への警戒を強めることで、化粧院明日香が本物ではないと疑惑が出た際に本物が焼却炉に監禁されているかもしれないと思わせる的なことが書かれていたはず。俺なんかには全く通用しない囮だが、上条や上里には別らしい。実際は中身空っぽのただの焼却炉だ。
「大きく計画を変更しなければならないような収穫はありませんでしたし、敢えて言うならあの学校のアシスト制度がクソ面倒くさいくらいのものですかね。秋川未絵という者と化粧院明日香は随分とべったりだったようで」
言いながら、唯一さんが現状持っている化粧院明日香の携帯がメールが来た事を知らせる着信音を鳴らす。素早く手に取り眉を顰めながらも指を高速で動かす唯一さんは、きっと顔に似合わない可愛らしい文面のメールを送り返しているんだろう。
「高等部の者が中等部の子の家庭教師役として付き面倒を見る的なやつでしたっけ?」
「化粧院明日香の学業の成績が平均を下回っているお陰で、周囲にその点を期待する者がいないことが数少ない利点でしょうかね。低脳に蔑まれるのは気に入りませんが」
そりゃ唯一さんからすれば普通の高校の授業とか怠い以外の何物でもなさそうだが。寧ろ授業中何を考えているかの方が気になる。手にした携帯を唯一さんがテーブルの上にほっぽれば、それを合図とするように再びメールの着信音が響き唯一さんは舌を鳴らす。
アシスト制度などという強制的な繋がりが生まれる関係の中で、仲が悪いよりは良いことに越した事はないだろうが、それが今は問題か。メールの文面を確認し眉間に皺を刻む唯一さんの目が俺を見上げる。
「面倒ですね。あなたが返しておいてくれませんか?」
「嫌ですよ、俺に唯一さんのような演技力を求められても困りますし、女子高生のフリして女子中学生とメールとかできるわけないでしょ」
「使えませんね、いったいなにならできるんですか?」
「今日一日監視してたでしょうが! 『絶滅犯』だけじゃなく上里勢力かは分かりませんけど『向こう』側の手合いも一人侵入して来てるみたいですけど!」
「知りません。そんなのは残りの者達でどうにかするのでは? 邪魔ならそちらで排除してください。標的はあのクソ野郎です。必要なら支部の面々を動かしては?」
「こう言っちゃあれですけど唯一さんの方が保有戦力多いでしょ実際」
が、それは全く動かす気がないらしい。準備のためにはいくらでも人員は割くが、やるのはあくまで自分自身。持ち得る地位は高く、取れる手も多いだろうにそういった性分は好みで困る。気怠げに指分かった動かしメールを返信する唯一さんに肩を落としながら、俺もメールボックスを開く。
昼間に送ったメールの返信。流石俺よりも詳しいだけあり、海神マナナン=マクリルに関する情報がずらずらと。ただアンジェレネさんとカレンのメールの拙さよ。ところどころスペルが間違っている。
「それに『絶滅犯』は上里の義理の妹らしいですよ? 学園都市の権力使って戸籍とか人間関係調べたりできませんか?」
「へぇ? 一応は学園都市の学生、表向き転校という形を取って来た以上、調べられただけのデータはありますけれど」
「あるんじゃないですか……」
パソコンを操作し送られて来た唯一さんからのメールを開く。転校の際に提出されたらしい書類や簡易的な調査データ。書類などのデータは上里側が改竄していたり偽りである可能性が高い以上信用できないが、調査データの方は信用できる。幾らか目を通した中の欄に記載されているのは失踪中。
「これかな? 大分前に失踪届が出されてる奴が一人いる。ってか名前なにこれ……さ、きょ、さる……国語の成績そこまでよくなくて」
「
「『ロ』はどこから来たんだ……テストに出ても解ける気しねえ」
これが日本で流行のキラキラした名前というやつか? 初見で呼べない名前とかあるから難しい。にしても、上里も学園都市に来る以上は足跡や軌跡をなにかしらの方法で隠してはいるのだろうが相手が悪いとでも言うべきか。日本の一都市でありながら大国に劣らぬ戦力を誇る学園都市の上層部を敵に回したのが運の尽き。科学力、技術力の差で一度でも社会に身を置けば経歴などを誤魔化すのは不可能に近い。
鼻歌を口遊みながらキーボードを叩く唯一さんへと目を移す。
「楽しそうですね。言っておきますけど、報道関係煽って『絶滅犯』関連のネタを放映するのはなしで頼みますよ? 相手の居場所も人間性もよく分からん今は。時間もないのなら逆に動きが読めなくなる」
「そっちはあなたに任せますよ、信用しろと言ったのはあなたなのですから、
始める前から圧を掛けるんじゃない。皮肉が凄い。これで上里勢力どうにもならないっすとか言おうものならミサイルの一つでも落とされそうだ。相変わらずの口の悪さとは裏腹に、唯一さんの楽しそうな表情は崩れない。カタカタとリズミカルなタイピングの音。
「……なにか?」
「いや、今日は随分とご機嫌だなと思いまして」
「計画が好調ではなくとも順調ではありますからね。相手の首に手を掛けて、ゆっくりと締められているのに気付かない。それこそ愉快だとは思いませんか? 気づいた時には遅いというのに、上里翔流も上条当麻に思っていたより夢中なようですし、その時を迎えるのが楽しみで仕方ない」
「どうするのか決めたので?」
その問いに、唯一さんはパソコンの画面から顔を上げる。少しばかり口端を下げるも微笑は変わらず。実験を前になにが起こるか結果を楽しみに待つ科学者のように目を細めて、唯一さんは口を開く。
「あのクソ野郎の右手の切断即接続が現状不可能な以上は、私自身の手でやる以外ないでしょう。あなたの案に乗った訳ではありませんよ。銃や兵器群を保持するのは対象の身近に潜伏している以上、不自然を買うことを思えば難しいですし、対象の右手を切断する事をスタートの合図に想定している以上、その場で手を出す方が早い。銃を握るよりも拳の方が命を握っている感じがして気分良いですし、合理的でしょう。だからニヤけてんじゃねぇ」
慌てて口端を撫ぜ落とす。
「すいませんね、無意識で」
「どの映像でもそうでしたが、危険地帯でニヤニヤして、頭は大丈夫なんですかね? 観測班から中枢神経系に異常があるのではないか? といった多数のレポートが」
「あんのッ⁉︎」
誰だそのレポート書いてる奴はッ!
「そんなレポート破り捨てましょう!」
「データを物理的に掴めるのなら試してみては? それに異常者でも構わないですよ、分かってますよね? 切断したアレの右手を使用できない以上は、戦闘になればアレ以外の敵対者は全てあなたに丸投げする形になる訳です。ほら、私なりの信用ですよ」
どこがだ怖えよッ。にっこり微笑む唯一さんに笑みを返す。
ここまで用意周到な唯一さんだ。いざという時の手が二つや三つあってもおかしくないし、用事が済んだ円周からすぐに興味を失くしたように、最悪諸々上手くいかなければ諸共自爆してもおかしくないかもしれない。事実戦場ではそんな手合いもいるし。
なかなかに厳しい。
信用の代償は超難易度の護衛といった具合か。ただでさえ今分かっているだけでも七人。その内の二人は『絶滅犯』に『強欲』などという厄ネタだ。必要でない被害は出さないといった唯一さんのロマンの一縷の欠片でも預けてくれるとでもいうなら喜ばしいが、現実的に俺一人で足りるか?
ランチェスターの法則やクープマンモデル、どんな
が、要である唯一さんが制圧対象の極近辺に潜入、奇襲作戦を決行しようとしている以上、上里の右手を切断すると同時に監視している勢力の面々が殺到するのが濃厚であればこそ唯一さんの安全を考慮しなければ可能だが、それはありえないため実質不可能。それをクリアにする為には、常識的な戦術の範疇では無理だ。まともでは勝てん。
時の鐘学園都市支部の面々の力を借りないのは、一網打尽や人質にされるのが怖いからという事もあるが……。
「……唯一さん、信用ついでに聞きますが、唯一さんが『向こう』サイドのこともある程度理解している事は分かりましたけど、『時の鐘』ではなく、『
「それは遠回しに人体実験をしてもいいというお誘いですか?」
「最悪それもいいかもしれませんね、カウンセラーでも紹介してくれます?」
「なんとも時間を無駄にしそうな話ですね。個体により差のある一時的な感情の揺らぎに対して異様な共感と反感を同時に抱くあなた達にカウンセラーをつけたところで、カウンセラーごとに異なった結果を出して終わりでしょうに。なんですか急に?」
「いやぁ? 少し自分のことが知りたいだけですよ」
自分の内側に巣食っているはずなのに、俺はそれについて詳しくない。名前と漠然とした衝動の名前だけ。ガラ爺ちゃんやベルシ先生、またはオティヌスなんかに聞けば詳しく教えてくれるのかもしれないが、いや実際怪しいが、唯一さんに聞くのは唯一さんの理解度を知るためでもある。底が見えず不気味な唯一さんを、共闘する以上俺も信用したいから。
少しばかりの沈黙を挟み、見合っていた唯一さんは止めていた手を再び動かしキーボードを叩く。携帯に送られてくるデータが一つ。
「……どのくらい前かは定かではないですが、学園都市でとある脳学者が一つの感情に対して異常なまでの執着を見せた患者を調査対象にレポートを出しました。抗うつ剤などの感情に対する薬物さえ効果なく、度重なる研究の結果、脳神経外科の世界的権威であるエベン=アレグザンダーが立てた脳自体は意識を生み出さないのではないか? という仮説と同じような結論に至ったとか。感情と脳に密接な関わりがあるにも関わらず、物理的に脳に干渉する物でさえ感情の揺らぎに作用しない。ならその感情の湧き出る元はどこにあるのか? それが分からない割に無意識的な感情と意識的な感情が噛み合った際は現実的でない異常な数値を叩きだすなどと。調査が進めば進むほどデタラメな数値しか出ずに病んだ脳科学者は、重症者専用の精神病棟に入院してすぐに自殺しました。それも患者の影響だとか」
「…………その患者は、
「
空間に浮かぶディスプレイの中で眉を顰めている赤毛の少女。なにが気に入らないのか、遺影地味た画像でも笑顔の見えぬ少女の顔に背筋に冷たいモノが伝う。会ったこともなければ、名前も知らないのに知っているような感覚。見続けていたくはなく、目を逸らしてディスプレイを消す。
「その資料、表向きは抹消されている事になっていますので口外は禁止ですよ。もし外部に情報が漏れた際は一番にあなたを疑いますのでそのおつもりで」
「…………唯一さんは俺をいじめて楽しいですか?」
極秘資料なんかを見せびらかして俺の動きを制限するんじゃねえ。にっこり笑う唯一さんを見る限り大変楽しそうだ。
が、なるほど。元々『
異様な共感と反感か。まともでない作戦に挑む以上、己のまともでない部分を使う以外にない。これまで衝動の首輪を意図的に緩めた事は数度あるが、完全に外す事は可能なのか? おそらく一番強く緩めたのはトールと闘った時。あの時でさえ衝動に呑まれかけた、確実に呑まれぬ保証はどこにもなく、呑まれれば戻れるかも分からない。
多分大事なのは外し方とタイミング。が、感情という不定形のモノを扱うのは難しいが過ぎる。古今東西感情を完璧に制御できる人間の話など聞いたこともない。ある程度は扱えても、意図的に十全に扱う事は無理だろう。
で、ありながら逃れられぬ大戦力を前にほぼ一人という無理を通さなければならない。
「……精神学者でもない俺にゃ無理だな」
難しく考えるのはやめよう。今こそ感情を研究していたらしい亡くなったハムのご両親とお話しをしてみたいところだが、生憎と死者と話せるびっくり技能など持ち合わせていない。
餅は餅屋。専門的な話は専門家に投げるのが一番。結局俺にできることは戦場を前に戦うため頭を回し続けるぐらいだ。感情を思い通りに扱おうなんて無理だわ。
「手の中どころか手のひらにめり込んでるのに今必要なさそうなことがはっきり分かりました。結局あれですね、こういう時には最も感情が揺らぐ必殺技に身を任せるとしましょう」
「必殺技?」
「行き当たりばったりです」
もうそれしかない。なにを思い何を考えるかなど、究極的にはその時にならなければ分からない。心底呆れたと言いたげに表情の死ぬ唯一さんに笑みを向け、安心しろとばかりに指を弾く。
「問題ありませんよ、方針さえ決まったのであれば、後はもうやるしかない。上里勢力は俺が抑えましょう。それが唯一さんの
「その自信がどこから来るのか本気で理解に苦しみます」
「こういう時はできるを口にすると決めたもので、具体的な方法や結果は後から付いてくるものでしょう? 入念に準備し筒の製作を終えたなら、吐き出す時を待つだけです」
やれる時にやらなければ狙撃は成功しない。狙撃が成功するかどうか水物である以上、引き金を引ける時に引かなければ一生後悔する。それと同じこと。
「それで作戦の決行はいつの予定で?」
「時間を掛ける程に潜入バレの確率が上がり、かつ長期間上里翔流の近辺にいたところで深い部分まで知る事が難しい事を思えば、明日か明後日、なるべく早い方が好ましい。少なくとも一週間までが限界かと」
「一つ考えたんですけど、身バレ含めて潜れるところまで潜ってあっちから近づいて来たところを狩るってのは?」
「殺しますよ? あのクソ野郎に媚を売ってまで近づくのは虫唾が走る。クソみたいなハニートラップなど死んでもごめんです。好意を向けられた瞬間にうっかりぶすりとナイフの一つでも刺してしまいそうです。それでもよければ試みましょうか? まずはあなたを殺してから」
「唯一さんのラインが分からねえ……」
狡猾そうなのにそういうのは駄目なのか……。化粧院明日香の話し方的に元から媚を売っているような気がしないでもないが、まあ冗談めいた提案なので却下されても構わない。俺の趣味にも合わないし。
「まあいいです、兎に角、明日明後日、限界ギリギリまで情報収集に俺は徹しましょう。
「そうです。一度補足されれば相手も監視している以上振り切るのは難しいでしょうし、一度ぶつかったことがある以上、相手があなただと分かれば警戒度合いが跳ね上がるでしょうからね。伏せ札であるあなたは裏返した瞬間に最も効力を発揮する。使うと決めた以上は私も効率よく使い潰します」
「潰されるのはごめんですがね……失礼」
胸ポケットのライトちゃんが振動する。掛かってきた電話、誰かしらからマナナン=マクリルの追加情報でも来たのかと浮かべた画面に目を向け首を傾げる。唯一さんに断りを入れて建物の外へと出、思いがけない通話相手と電話を繋いだ。
「……珍しいな黒子、何かあったか?」
なるべく普通を装い声を出す。日常の中では大変喜ばしいのだが、今は別。なぜ今黒子から電話? メールならまだしも、普段そこまで電話が掛かって来ることは多くないのに、真っ二つになったらしい銀行に浜面が居合わせたから事情聴取か、俺が今日学校に行っていないことを誰かから聞いて気にでもしたか。仕事が仕事であるために、今回は黒子に話すこともできない。が、返ってくるのは予想に反して普段とは違う冷たい声音。
『……孫市さん、わたくしに隠してることはありませんの?』
「……なにが?」
馬鹿なッ、なぜ第一声でそんな突っ込んだ質問をされる? 冷や汗が垂れる。口端が引き攣る。まさか円周達が今回の件を漏らすとも思えない。学園都市上層部が関わってるんだぞ今回はッ。
『あぁそうですの、おとぼけになりますのね? それとも心に誓って隠し事はないと?』
「いやちょっと話の意図が読めないと言うか、隠し事がないのかと言われれば俺も人間である以上黒子にまだ話してないあれやこれやは勿論ありはするんだけども……あれか? 前に垣根達と食事に行った時のこととか? あれは
『は?』
違うらしい、圧が凄い。
今絶賛隠し事の真っ最中ではあるのだが、それを言うわけにもいかない。関わっているモノが半ば厄ネタである以上、黒子が関わった途端になにが湧き出るか分からない。
『はぁ……そうですかそうですか。しらを切りますのね? それが通用するとでも?』
「そんなこと言われましても……」
『……ではなぜですの?』
潤んだ黒子の声に息が詰まる。繰り返される『なぜ?』の言葉。なにがあった? 自然と手に力が入る。口を開こうとした瞬間、黒子の声が鼓膜を震わせる。
『ではなぜお姉様が急に貴方に狙撃教われないか的なこと言っちゃてんですのッ⁉︎ おかしいでしょうがッ‼︎ 言っちゃあれですけどお姉様からの評価微妙でしょうが貴方ッ‼︎ 白状なさいッ‼︎』
「ハァァァァァッ⁉︎」
知らねえわそんなのッ‼︎ 新手の精神攻撃か何かか⁉︎ 初耳だよ俺も⁉︎ 御坂さん遂に頭でもやっちゃったの? 意味が分からないッ! いやッ、意味が分からないッッッ‼︎
『わたくしを差し置いてお姉様と狙撃デートとかッッッ‼︎ 断固ッ、断固反対ですのよッ‼︎ 普通誘うならわたくしからでしょうがッ‼︎ わたくしの存ぜぬところでお姉様に手を出そうなど片腹痛しッ! わたくしはお姉様の露払い以前に貴方のカノジョはわたくしでしょうがッ! 浮気は死刑ですのよ! お覚悟は?』
「
『フランス語で煙に巻こうとしても無駄ですの‼︎』
「違うッ! そもそも俺が黒子以外に手を出すはずがなかろうが! そりゃ罠だ‼︎ 誰かが俺をハメようとしているに違いないッ‼︎ 陰謀だこれは‼︎ だって御坂さんが俺に狙撃教わりたいとか急に意味分かんないもん‼︎ 分かった! あれだ! その御坂さんはトールの奴が変装してたりするに違いない‼︎ 間違いない‼︎ 試しに御坂さんにダイブしてみろ‼︎ 電撃で迎撃されれば本物! そうでないなら偽物だからとっちめろ! 今から俺が行ってぶっ飛ばしてやってもいい! チキショーッ‼︎」
『それはわたくしの台詞ですの‼︎ 後でじっくりお話を聞かせていただきますわよ‼︎』
少しの沈黙のあと、電撃の音が響き通話が切れる。
つまり御坂さんは本物で、狙撃を教わりたいだのも本当なのだとしたら急になんなんだ怖い。ケルトの魔術師といい御坂さんといい、俺が仕事で忙しい間にいったい学園都市でなにが巻き起こってるんだ? 明日もっと酷くなったりしないよね?
明日に備えて今日は流石に少しばかり睡眠を取ろうそうしよう。