時の鐘   作:生崎

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兄弟は両の手 ⑧

「嘘だろ……」

 

 足元に落ちた銃弾を前に、現実逃避の言葉を零す上条に舌を打ちながら去鳴(サロメ)は内心で冷や汗を垂らす。が、動き出した足は止まらない。木原唯一は動かず。『理想送り(ワールドリジェクター)』を摘みぶら下げている唯一に向けて一気に距離を詰めようと去鳴が足を踏み締めると同時、額に向けてゴム製の弾丸が飛来した。

 

 差し込んだ腕が軽く弾かれ足を止められて、動きを止めた去鳴に降り掛かる遅れて聞こえて来る銃声。口端を歪める殺人鬼を前に、唯一は口端を釣り上げる。

 

「時の鐘を雇ったのッ⁉︎」

「雇った? まさかまさか、負債の返済が寧ろ正しい、先生の選ばなかった可能性を少しばかり試しているだけ。使えるから使っているに過ぎませんよ。まあ人力で狙撃を連射できるような輩は奴らくらいのものでしょうけれど、さあどうします?」

「どうするってそんな……ッ」

「馬鹿! 下がって! ちっ、上条勢力をつつくにしても私だって相手は選ぶ! 法水孫市、アレは殺しに遊びがなさ過ぎるッ。だから私から手を出すのは控えてたのにッ」

 

 一度でも殺意を向けて手を出せば、間違いなく追って来る。密猟者を追って来るハンター。ある意味では一方通行(アクセラレータ)よりも冗談では済まない。殺しを生業とする集団であればこそ。『殺人鬼』などという称号も、今回ばかりは足枷だ。

 

(くそ……ッ)

 

 事態に思考が追い付かず、固まった上条を去鳴は選択肢から切り離す。と、同時に僅かに安堵した。飛来して来た弾丸が殺傷用のものではなかったから。

 

(お兄ちゃんもクソ馬鹿ハーレムも一般人だから迷ってる? だとしたら御の字ッ。でも私は違う。まずいッ、ここから一手でも間違えれば途端に殺しを目的とした弾丸の雨が降る可能性だってあるッ。私は別にいい、逃げ切る自信もある。だけど……ッ)

 

 去鳴だけではないからこそ動けない。学校内でもなく開けた場所。後方には上里も控えている。去鳴が離れた途端、上里が狙い撃ちにされる可能性が高い。なによりも、現状姿の見えない狙撃手が何人周囲に潜んでいるのかも分からない。

 

 これまでは、去鳴の行動方針が故にぶつかる事がなかった傭兵部隊。同じ殺人者であったとしても、違いがあるとすれば仕事と趣味。気分で殺しはしないからこそ、一度『殺し』の手札を切られてしまえば、殺し切るまで追って来る。

 

 その膠着に去鳴は歯噛みした。下手には動けない。が、今は動けないこともある意味プラス。

 

「『上里の手当てが優先だ。足止めするからお前達は手首を縛ってやってくれ』……辺りですか。くすくす、なんちゃって!!」

 

 去鳴の思惑を看破したかのように、動けぬ去鳴へと距離を詰めた唯一の蹴りが突き刺さる。空気が破裂するような音を奏でで捩じ込まれた打撃。

 

 相手の体内で伝播する衝撃同士をかち合わせ、血管内を移動する血液に気泡を与えて死を招く小手調べ。背後へ転がるもすぐに身を起こし体勢を立て直す去鳴を目に、特別驚く事もなく唯一は首を傾げる。

 

「ああ、やっぱりこの程度でくたばるほど安くはありませんか。報告通り。生身の人間なら今のでコロッと倒れていたはずですが、なんでしたっけ? あーそう、ウィッカーマン? 粗悪なサイボーグですか。他にもゴミ掃除しなければならない輩が控えているようで」

「いつから……ッ」

「上条当麻の側にアレの姿がない時点で察するべきでしたね、なんの準備もなく姿を現すはずがないでしょうが馬鹿が」

 

 ずっと監視していたと唯一は敢えてバラす。上里の周囲にいる勢力の面子は、絵恋(エレン)獲冴(エルザ)だけではない。街路樹の影に、ビルの上に、学校を囲むように潜んでいる勢力の者達も総じてバレている。

 

 だからこそ、去鳴はより顔を顰めた。

 

 去鳴はまだいい。『絶滅犯』という称号も相まって、殺人鬼が故にと言うべきか時の鐘の事はよく知っている。問題は他の者達。上条当麻に近しい者という事で、ある程度の知識は彼女らにもある。超遠距離狙撃を可能とする狙撃傭兵でありながら、近接戦闘も熟す戦争のプロ。

 

 が、問題は内面をよく知らない可能性が高い事だ。やり過ぎない範疇でならゴム弾による制圧だけであろうが、一線を超えた途端に確実に殺りに来る。去鳴にとって問題はそれによって上里勢力の者達が死ぬこと…………ではなく、上里勢力が殺戮対象へと足を突っ込んだと同時に、その中心である上里翔流もそれに含まれてしまうこと。

 

(……ここから取れる選択は大きく二つっしょ)

 

 一つは、武装解除し投降すること。時の鐘が武器を手放した一般人を一方的に射殺するような輩でない事くらい去鳴も知っている。これで上里勢力の多くはまず無事で済む。が、殺人鬼である去鳴は見逃される望みは薄く、なにより怒れる復讐者が上里を見逃すとも思えず、であるならば結果として勢力の面々が武装解除をすることはありえないため、まったくもって現実的ではない。

 

 ので、二つと去鳴は思い浮かべながらも、選択肢は実質一つ。

 

 戦う道以外残されていない。時の鐘と敵対し倒せたとしても、最悪今ここにいない時の鐘の部隊員全てを敵に回す事になると理解しながらも、その選択肢以外を取る事はありえない。故に────。

 

「上条ちゃん! 法水孫市の射程距離は‼︎」

「は? なに言って……っ!」

「寝ぼけてないで! アレは時の鐘、傭兵っしょ! それが雇われて敵になっただけ! クソ馬鹿お兄ちゃんのハーレムの位置が全部割れているとして、ならそこまで距離が開いているとは思えない! 法水孫市が絶対外さないと言える距離は‼︎」

 

 多数の敵が潜んでいると分かっていて、雇い主らしい者が姿を晒し一人。それを守る為に、混沌とした状況に陥った際に十全に雇い主を援護する為に近くにいる必要がある。距離を離せば離すほど、狙撃手自身が攻撃を受けるリスクは減るが、弾丸の着弾時間もまた開く。数秒の遅れが命取り。だからこそ去鳴は少なくとも一キロ以上は離れていないと当たりをつける。

 

 加えて、狙撃手が一人ないし二人、その数が少ないだろうとも。狙撃手の数が足りているのであれば、潜んでいる勢力の者達含めて弾丸を吐き出し続け制圧してしまえばいい、それをしないのは、手が足りないからだと予想する。下手に誰かを狙っている間に、雇い主を狙われるのが最も困る。

 

 つまり、雇い主の護衛と、勢力の殲滅。その二つを同時に済ませる程の手数を用意できていない事に他ならない。

 

 上条は去鳴の危機迫る声に喉を鳴らした。未だ状況を飲み込めきれていない。上里が黒幕かと思えば、突如見知らぬ女が敵として現れ、加えて友人の一人も敵らしいときた。法水孫市が手放しに敵対したとは、上条も考えない。だが、目の前に転がる『誰かの死』の可能性を許容する事はできない。かつ、それに友人が関わる事になるかもしれないのであれば。

 

 だから迷いながらも上条は口を開く。取り敢えず場を繋ぐように。

 

「500メートル以内なら絶対外さないとは何度か言ってた。だけど……ッ」

「十分‼︎ 織雛(オリビア)診華(ミルカ)愛燐(アイリーン)姪龍(メロン)! アンタら囮‼︎ 死地へゴー‼︎」

 

 上条の答えを耳に間髪入れずに去鳴は命令を飛ばす。本来ならば彼女達が去鳴の言う事を聞く事はない。が、人格面が不安定だろうとも、上里勢力の中で実戦能力が最も秀でているのは去鳴であり、彼女の行動原理の根本にも上里がいる事は上里勢力の少女達の間でも口にはせずとも周知の事実。

 

 上里の窮地であればこそ、的になれという去鳴の命令に、二つ返事も必要とせずに木々の間やビルの上から四つの影が飛び出した。

 

 織雛(オリビア)と呼ばれた超機動少女カナミン風の少女が。

 診華(ミルカ)と呼ばれたイカのような触腕を生やした少女が。

 愛燐(アイリーン)と呼ばれた現代兵器マニアの異名を持つ少女が。

 姪龍(メロン)と呼ばれた暗器使いの少女が。

 

 いずれも、飛んで来るのがゴム弾であれば幾らかは耐え肉薄できるだろうと去鳴が弾き出した人選。即ち、『殺し』の札を切られる前に逆に制圧できればいい。狙撃手を気にしなくていいのであれば、残る者達が気にするべきは木原唯一ただ一人。

 

 『死ね』と言うような去鳴の命令に即座に従う少女達を上条が呆然と見つめる中、狙撃手の相手を四人に任せ足を踏み込んだ去鳴であったが、視界を掠める弾丸を捉え、前ではなく横に跳ぶ。

 

(身を守るより護衛を優先するわけッ)

 

 鐘を打つような銃声が響く。身を隠す狙撃手でありながら、自分の居場所を知らせるような射撃音。その発生源を見据え、四つの影が同じ方向へと駆け出した。壁を駆けながら織雛(オリビア)が飛翔するのを目に、再度突っ込もうと去鳴は動くも、休む事なくゴム製の弾丸が飛来する。

 

「自分のことは二の次ってわけね! そんな大事そうに守られるような奴ならなんで一人で突っ立ってんだか!」

「別に、私から細かな注文をアレに付けている訳ではありませんよ。円周ちゃんの代わりなどと抜かすので使ってやっているだけ。期待している訳でもない。そもそもするはずもない。所謂可能性の塗り潰しですよ。まああなた達に言っても理解できないと思えますがね」

「そんなの当たり前っしょ!」

 

 リロードの僅かな時間を縫って、唯一へと去鳴は足を踏み込んだ。自らの肉体を放棄し、余った血肉を神に捧げる事で身体能力を急激に上昇させる『内的御供』にとって、日本刀を素手でへし折るまでに底上げされた身体能力による去鳴の打撃。それを唯一は顔色も変えずに、自前の技術のみでそれを捌き、回し蹴りを去鳴の胴体へと捩じ込む。

 

「伸縮性に重きを置いている訳ですか、穴を空けるつもりが想定より頑丈ですねえらいえらい。私も考えたのですよ。アレの横槍のおかげで大幅な予定の変更を余儀なくされましたからね。考える時間など一日もあれば十分だった」

「なにが!」

「一々私が答えるとでも? 流石殺人鬼、頭の出来が可哀想ですね」

 

 会話により思考を割かせる為かと去鳴は話を聞き流すが、そうではない。そこから先を唯一がわざわざ口にする事はない。

 

 円周が言った、木原脳幹なら時の鐘を頼るという言葉。で、ありながら、実際は木原脳幹一人で戦場へと赴いたその矛盾。弱毒性とはいえ、サンジェルマンウィルスを打ち込む事がなかったが為か、復讐の為に動きながらも、与えられた要素をどこまでも唯一の優秀な頭脳はその可能性を冷静に考えた。考えられてしまった。

 

 それが矛盾していないのであれば、つまり木原脳幹は、負けると分かっていて戦場へと赴いた事になる。使える手を使わずに。

 

(なぜですか先生……っ)

 

 木原脳幹が自ら無意味に命を投げ出すなどと唯一だって考えない。必ずその行動には、ロマンを追い求めた木原脳幹の信念から来る何かがある。時の鐘に頼れば勝てたのだとして、使わなかった以上はその場で『勝利』は必要ではなかったという事だ。それこそそれが、アレイスター=クロウリーの『計画(プラン)』には必要であるからか。

 

 だが、その敗北を踏まえた上で、木原脳幹はコールドスリープされる間際に告げた。

 

『私を超える『木原』になりなさい。私に遠慮する事なく、その先へと進むんだ。君にはそれができる』と。

 

 善悪であれば悪であり、好悪で言えば好ましい。それはどこまで? どこまでなのか?

 

 その道を行くのか、外れるのか。これはその分かれ道。

 

 馬鹿正直にオカルトを前に真正面からぶつかるのか、それとも、外道を進み上里翔流やその義妹が執着を見せる上条当麻を含めて、一切合切が無に帰すまで無秩序な『暴』を吐き出し続けるか。

 

 どっちもは選べない。どれか一つしか。時と場合によって使い分ける事はできるかもしれないが、二つの相反する事を同時にやるのは不可能だ。

 

 少なくとも今選ばなければならない。どっち付かずで進んでは、欲しい結果が手に入る訳もない。

 

 ビルの上から、隙間から、木々の影から、去鳴だけでは足りずとも、上里に救われた少女達が、上里の右手を奪った不届き者を叩きのめそうと這いずり出す。

 

 戦力=質と数。それを合わせた総合力で結果として勝れば勝利に近付ける。唯一がどれだけ優れていようとも、バラエティに富んだ数十人に上る上里勢力の少女達を一度に同時に相手をして勝てるほど甘くはない。

 

 孫市が上里勢力の情報を収集せずとも、そのどこまでも現実的な結果を導き出すことくらい、唯一にはできる。だからこそ、戦力差を覆す一手として、ジョーカーの一枚である『理想送り(ワールドリジェクター)』の奪取と、その再接続による即座の利用が必要だった。

 

 問題があったとして、その手札をわざわざ捨ててまで、木原脳幹が切れるはずが切らなかった手札を選ぶことでなにが変わるというのか。使われなかった手札をわざわざ使う必要はない。が、引いてもいないのに勝手に手札の中に混ざったから切っただけ。

 

 その結果、何かが変わるなら変わればいい。変わらないのならば、歩む道を切り替えればいい。

 

「はぁ……面倒ですね、もういいですか……」

 

 いつしかゴム製の弾丸の雨は止み、上里の姿を遮るように周囲を取り巻く少女達の影へと目を流し木原唯一は独り言ちる。

 

 

 

 

 

 

 

「………………ちっ」

 

 口の中に滲んだ血を床に吐き捨てる。ビルの屋上の塔屋(ペントハウス)の壁に軽く背をめり込ませ、仰向けに背を預けながら空を見上げる。

 

「さっさとトドメを」

「わらわがやろう。お主は下がっとれ」

「不用意に近付くな、まだ武器を隠し持っているぞ」

 

 夜空の星々の輝きを吸い込んでいた瞳を落とした先に待つ、並ぶ四つの影。確かオリビア、ミルカ、 アイリーン、メロンだかと呼ばれていた四人。暗器だの触腕だのが防弾着の代わりになると見てわざわざ選んだ人選という訳だ。

 

 手にする狙撃銃を持ち上げようとし、首を傾げる。頭の元あった位置に突き刺さる苦無。メロンとやらは釣鐘同様に忍者界隈の奴なのかは知らないが、そんな事はどうだっていい。

 

「……そうかい、お嬢さん方も上里何某の為なら誰を殺そうが気にしない口か」

「上里何某ではなく上里翔流よ覗き魔。だったらなに? 先に撃って来たのはそっちでしょ」

「そりゃ失礼、が、どっちが先かなんて究極的にはどうだっていい。問題の本質は別にある。お嬢さん方が俺を殺す気でいようがいまいが、それもあまり関係ない」

「覚悟できているなら遠慮はいらんな?」

 

 殺気の滲むオリビアとミルカの視線を受けながら、歪む口端を拭うこともなく、夜闇に包まれている学校へと目を向ける。弾き飛ばされる直前まで見つめていた唯一さんや上条の姿を想起しながら。

 

「復讐、復讐。どちら側に身を置こうが、絡んだ時点でなんらかの破滅には関わる事になる。俺自身が貧乏くじを引く分には、ある程度慣れているからそれでもいいんだがなぁ」

 

 そうでない者もいる。俺が敵にいると分かった途端に足を止めた友人などは正にそれだ。どんな死も許容せず、できるならと不幸を口遊みながら誰かの幸福を追う奴だ。いつもどんな時も変わらない。それはきっと今もだろう。

 

 なぜ『絶滅犯』と共闘しているのかは知らん。知らないが、その道から上条当麻という男が外れる事はない。そして、木原唯一さんの目指す道もある意味ではそれに近い。が、違いがあるとすれば、その道と『復讐』という行為が限りなく相性が悪い事だ。

 

 なるべく被害が出ぬように努めたとして、上里勢力という上里の為ならどこまでも突っ走る少女達の中で上里翔流を殺せば、その少女達は全て敵となるだろう。上里勢力を全員殺したところで、彼女達と繋がりのある多くの者を敵に回すことになるだろう。

 

 それを半ば確信できるのは、上里翔流が極悪という訳でもないから。パトリシア博士を救う事に手を貸したように、無償の善意によって集まっている集団だからに他ならない。

 

 だがしかし、悪いことだけでなく良いこともしているらしいから見逃そうなどとは言えない。唯一さんに話したところで、鼻で笑われるか、『じゃあまずあなたが死んでください』なんて言われるのがオチだろう。その『復讐』という行為に決着をつけることは唯一さんだけにしかできず、ただ、唯一さんの目指す道とその行為は決して交わらないのだ。

 

「なぁお嬢さん達はどう思う? 一度悪人として生まれた奴は悪人のままでしかいられないのか? 良い奴のフリをしていても、結局悪人は悪人か?」

「はぁ? なに? それがおまえの今際の際の言葉的なやつ?」

「かもな。唯一さんが善人かと問われれば、俺はそうだとは言えないかもしれない」

「なんぞ? 寝返る気か?」

 

 眉を顰める少女達を前に小さな呆れ笑いが零れる。少なくとも一度手を貸すと決めたのに、特別な理由もなく傭兵が土壇場であろうが寝返るわけないだろ。知っとけそこは。的外れだ。そうではない。

 

「本質が悪の存在が良い奴のフリをしていたとして、もし、もしもそれを崩さずに最後まで続けられたなら、果たしてそいつは悪人か? 俺はそうは思わない」

 

 他でもなく、俺もそうありたいから。世間一般で褒められる職業ではないと分かっている。俺達のような奴のおかげで『助かった』と言ってくれる者もいる。が、時と場所さえ違えば疎まれる事の方が多い。それでも構わず、力を欲する者に力を貸すのが俺達だ。

 

 唯一さんの俺の扱いは、ある意味でかなり正しい。

 

 存在するから使うだけ。いないならいないで構わない。

 

 ただ、そんな中でも、何かの実験か、別の可能性を期待してか、何かを諦める為か、気紛れか、色々な想いがあるのだろうが、それでも『理想送り(ワールドリジェクター)』を使わずに、俺を使うと決めてはくれた。

 

 行き当たりばったりの成功率の薄そうな作戦を強行するという無茶振り具合ではあるが、それは多分、さっさと迷いを断ち切るため。

 

 木原脳幹さんの道を突き進むのか、他人を気にせず目的の為なら誰が犠牲になっても気にしない道を進むのか。中途半端では、どこに辿り着くのも不可能だ。どちらにも傾き切れないのは、選んでいないも同じ。ただ、俺が先に折れて仕舞えば、どちらの道になるのかだけは決まっている。

 

 結局俺が頑張ったところで、先延ばしの保留になるだけなのかもしれない。この先、結局唯一さんは口にしたロマンとは別の道を歩む事を選ぶのかもしれない。それでも今は違うなら。

 

「……並ぶ相手を間違えるな、か」

 

 カレンの言葉を思い返す。俺は俺の必死を追う。見たい瞬間があったとして、それに対して並ぶ誰かが今必死でなかったとして、その相手が必死になるまで待つなど馬鹿げた話。俺は、その輝かしい瞬間を見たいのであって、必死を追う誰かを追いたい訳ではない。先にいるのならば並んで見せる。だが、誰もまだ先にいないなら、偶には俺が先に行ってもそれを誰が咎めると言うのか。

 

 誰もその瞬間に対して必死でないと言うのであれば、誰よりも俺が先に必死になろう。

 

「俺は……できるなら、俺は、俺の信じる円周が信じた唯一さんには良い奴のままでいて欲しいよ……」

 

 だから、諦めるにはまだ早い。選ぶ選択肢の一欠片でも俺に預けてくれると言うのであれば、正しい事を選ぶだけの力でありたい。足りない力に力を貸すことこそが『時の鐘(おれたち)』の存在理由。世界中で無類の強さと謳われた瑞西傭兵の力を貸すことが。

 

 例え唯一さんの本質が悪であっても気にしない。本当なら悪魔地味た頭脳を存分に使いなんでもできるだろうが、それを押し殺し善人のように振る舞うのであれば、最後までそれを続けらたならそれは善人でなくなんだと言うのか。偽善だって間違えずに貫けたならそれは善だ。

 

「だから俺は唯一さんを勝たせたいのさ」

 

 追うロマンを形にするために。

 

 常識の範疇では、どうしようもない戦力差は覆らない。だからどこかで常識という枠組みから外れるしかない。俺には超能力もなければ魔術も使えない。が、積み上げてきた技術と、果てのない衝動だけはある。

 

 目指す目的地が決まっているのであれば、構えた銃の引き金を引くが如く、後は感情を吐き出せるだけ吐き出すのみ。それで早々に崩れてしまうような柔な体の鍛え方はしていない。動ける限り動けたならそれでいい。

 

 床に置いた狙撃銃から手を放し、軍服の襟に爪を外して首元を緩める。誰が相手でも変わらない。どんなオカルトが相手でも、幻想もへったくれもない磨いた技術で挑む以外に俺はない。その為の自信となる土台は、俺の血肉となっていつもそこにある。

 

 

「────── GYAAAAAAAッ!!!!」

 

 

 体の底から、感情が言いようもない声となって外に溢れる。理性の首輪が外し手綱を握る。膨れ上がる衝動を、技術という名の理性で統制する。俺が誰より必死であると教えてやる。感情を乗りこなせるとは思わない。だが、向き先を決める事はできる。

 

 狙撃銃を手に立ち上がる。四人の少女の顔が歪む。俺へと伸びる四つの影を前に身を揺らす。

 

「さぁ……一般人のお嬢さん方……本物の俺の世界(戦場)を教えてやる。並ばせる気は微塵もねえがな」

 

 善悪であれば悪であり、好悪で言えば好ましい。俺は疎まれる悪人で構わない。ただそれでも、望むのは輝かしい最高の瞬間だ。自分達を善であると謳うのであれば、俺はそれを阻む悪でいい。

 

 

 

 

 

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