「それでまずはどこへ向かいます?」
「それよりもう帰らない? 疲れてきたんだけど?」
「もう⁉︎」
ミシュラン探偵事務所の執務室から屋上に出てすぐに、常備しているステッキに身を預けながらネロ=ミシュランは弱音を吐く。厳しい状況というより、自分にとって不味い状況に僅かでもなると察すると、途端に逃げ腰になる。
地上は大熱波の影響で、溶けたアスファルトで満たされた黒い海と化し、何よりエレメントの多くが地上を動き回っているため地上を行くのはまずない。だから水を求めて動く多くの学生が取る基本の移動方法は、雑居ビルの屋上同士に長い脚立を渡してその上を渡るというもの。落ちればどうなるかは言うに及ばず。軽い頭痛に見舞われ、ネロは目頭を抑える。
「移動方法が馬鹿過ぎるッ。数日部屋に
「『綱渡り』なんて呼ばれていて、ワイヤーがビルからビルに張られてて、小さな滑車にぶら下がって滑り降りるみたいな」
「……まあ素敵なアスレチックですことっ。学園都市がアミューズメントパークに早変わりってわけ? やっぱやめよぅ? ネロちゃんのやる気が今死んだわ。もう帰りたいと身体中が訴えてる」
「そう言わず頑張りましょうよ所長、折角部屋から出たんですから」
ぐいぐいと腕を引っ張ってくる佐天涙子の顔を見つめて、ネロは僅かに目を細める。ネロにとって涙子はなかなか重要な基準だ。所謂、一般人としての基準。ネロ自身自分が多少なりとも偏屈なことは自覚している。他の助手達も変わり者であることは間違いない。
だからこそ、現状を測る基準として、感性が平凡の域から出ない佐天涙子の存在こそがネロにとって平凡の塩梅を知る基準。
(あぁ、いつもの涙子ならビルの上を脚立で行こうなどと言わないでしょうに、
自殺志願という訳ではないが、自ら死に近づくような行為。普通は取らないそれが、不安や恐怖の色こそあれ、涙子自身おかしいと思っていないらしい事実にこそネロは頭を抱える。
人間が生きるためには水が必要。子供でもそれくらい知っている。故にそれを手に入れるためなら多少の危険な行為に身を沈めても必要経費と。その行為の最中エレメントに襲われるのだとしても。の割に人的被害は軽微。屋上の縁に足を寄せ、ビルの足元で蠢くエレメントを見つめてネロは天を仰いだ。
「……それが狙いかしら?」
「所長?」
多数の一般人を不可解な非日常へと放り込み、一定の行動パターンに強制的に押し込む。おそらくそのパターンに含まれる存在は狙いとは別。人的被害が薄いのも、その一定の行動パターンに即した動きをする者へは大してエレメントが興味を向けることはないからとネロは考える。比較的に安全な動きを、無数の学園都市の住人に強制的に取らせているのだ。だから分かる。
「エレメントを使ってるのか作ったのか知らないけど、動かしているのは相当頭のいい奴のようね」
「それはそうでしょうけど」
「ああ、いえ、
どうエレメントを作ったのかなどは関係ない。裏に動かしている者がいた場合、本当に作りたいのはこの状況ではないかとネロは推理する。だからこの状況さえ作れれば、極論エレメントである必要もないのだ。必要なのは、一定の行動パターンに含まれない存在の炙り出し。そうネロは結論づける。全体の流れを作り出すのが達者だ。
形ない謎の味を口の中で転がして、取るべき行動をネロは咀嚼する。
「『綱渡り』なんてよく考えたものだわ。そうしろってわけ」
「まあ、それしかないですし」
「そうね、よくもまあ
『綱渡り』をするために道具が満遍なく揃っていることもそう。更に言うなら、誰がそもそも最初にそれを考えたのか? こんな状況で最初に誰かがそれをやれば、それが基準にもなってしまうだろう。エレメントが鬱陶しくても、『四枚羽』だの『六枚羽』だので航空支援すればいいのだ。気温が五十五度を超えているからといって、それで学園都市が作り上げた全ての機械や兵器が駄目になるとはネロには思えないからこそ。
そこまで考え、危険をなるべく減らすなら、寧ろ多くの者が取る一定パターンに沿うしかない。そこから外れた場合、何が出てくるのかの方が未知数だから。
ネロは涙子へと振り返り、手を広げた右手を伸ばす。
「どうしました? あっ、じゃんけんでどっちが先に渡るか決めます?」
「違うっ、これからの行き先に関してよ。取り敢えずの候補は五つ」
五本指。即ち目下の行くべき目標は、学園都市が誇る超エリート校五校。
「どうして五本指なんですか?」
「どうしても、こうしても、今のところおそらく比較的安全と言える場所だから。まず第一に、緊急事態の際には学生の避難場所として学校が指定されている以上、多くの学生は己が学校に集まるでしょう。涙子だってそうだったんじゃない? 第二に、そうであるならこの五校には高位能力者が集まるから。能力が使用不能なわけじゃない以上、一定の戦力があるということ。第三に、頭のいい者が多ければ多いほど得られる情報の質が上がるから。適当な場所に足を寄せてショボい情報しか得られなかったがネロは一番我慢ならない」
超エリート五校である五本指をネロが選んだのには、口にはしないが当然他にも理由がある。
スーパーなどを目指さないのは、ネロがそもそも食料品等を必要していないということもあるが、そういった場所にいるのは逃げて籠城している者か、物資に困窮している者がほとんどであろうため、そもそも現状の謎にまで目を回せる者がいないだろうため。
水は豊富であろうプライベートプールや高級ホテル等がある第三学区、食品関連の施設が多い第四学区、学園都市唯一の墓地が存在し備蓄も多いだろう第一〇学区、貯水用のダムが多い第二一学区。生活以外に目を向けられる者も多いだろうが、現在位置から距離があるため辿り着くまでに必要以上に時間が掛かるだろうと予想できるため。
研究所の類などは、核心に近づける可能性は高いが、現在の状況に学園都市上層部が関わっている可能性があるので想像以上の危険に飛び込んでしまう可能性がなにより高い。他の助手がいればネロも選んでいたが、ネロと涙子二人では無謀もいいとこ。
安全と危険、得られる情報の噛み合わせの結果の消去法で五本指。
「それなら向かうのは」
涙子はネロを見つめて行き先に当たりをつける。ネロは長点上機学園の二年生。長点上機学園は正に挙げられた五本指に入っている。能力開発においてナンバーワンを誇る学園都市屈指の超エリート校。であるにも関わらず、一芸に富んでいるならば、
ネロは
「あそこはありえない。長点上機学園はそこまで排他的ではないけれど、徹底した能力至上主義よ。こんな状況なら高位能力者が好き勝手幅を利かせてるでしょうよ。ネロとしてもあそこは最新鋭の情報が集まるから身を寄せているだけだし、情報の質が高かろうとも、
それに距離の問題もある。長点上機学園があるのは第十八学区、現在いるのは第七学区で少々遠い。
「それじゃあ」
「ええ、常盤台中学を目指すとしましょうか」
ネロの答えに、涙子は顔を和らげる。涙子からしても、友達の安否こそ気になるところ。ただ、少しの時間を置いて、涙子は難しく顔を歪めた。
「でも入れてくれますかね? 別の学校の生徒は立ち入り禁止とか」
「だとしたならネロは常盤台を見誤っていたことになるわね。世界に通じる人材を育成するなんて基本方針なのに、緊急事態でも助けを求める外部の人間はお断りなんて、悪役令嬢でも育てているの? という話になるわ。それに、常盤台には涙子の友人もいるのでしょ? なら普通に入れてくれそうじゃない」
「ネロ所長それが狙いじゃ……」
佐天涙子を餌に常盤台中学に踏み入る。五本指は基本的に外部に厳しいのは当然のこと。ならばできるだけ使える手札を使って踏み入りやすい場所を選ぶのが至極当然。
「それに、常盤台なら美味しい食事が出るかもしれないからよ」
「なんか方針変わってません⁉︎」
「変わってませんがなにか? は? 文句あんの?」
「逆ギレしないでくださいよ!」
そう常盤台。
「ふ、ふふ。ホットドッグ、オムレツ。最初はなにを食べてみようかしら。ジャムを塗った食パンでもいいわ。いやでも、やっぱり最初は」
「所長! 目的変わってますって所長! 正気に戻ってください!」
「ええい! ネロは正気よ‼︎ いいじゃないのどうせ九割九分九厘美味しくないだろうなって経験で分かってるけど夢見るくらいいいじゃないのよ! 頭の中でくらい美味しい食事をしていいじゃないの! ぷん‼︎」
「膨れないでください! ほらまた私が今度なにか料理しますから!」
「今度は食べられるんでしょうね?」
その問いに、佐天涙子は苦笑いで答え、ネロの目が死んだ。
「うわぁぁぁん‼︎ 常盤台でやけ食いしてやるぅ‼︎ 一つぐらい当たりがあるかもしれないしぃ?
「ああ⁉︎ 所長待って⁉︎」
目下の目的を放り捨て、己が欲望のためにネロはビルの間に横たわる脚立に向けて爆進する。走り抜けるなど無謀だと涙子が手を伸ばすが時既に遅し。脚立へと跳び乗ったネロは軽やかに二つ三つと足を伸ばし、ビルの屋上に吹く風に身を乗せて反対のビルの屋上にふわりと着地した。
「なにをしているの助手六号。早く渡って来なさい。そんな事では常盤台に辿り着く頃には日が暮れてしまうわ」
「えぇ⁉︎ いやっ、えぇぇ⁉︎ なんですか今の⁉︎」
「あら涙子、ネロの体重が気になるの? 教えないわよ?」
「いや聞いてません!」
「そう、じゃあさっさと来なさい。でないとあばばばばッ」
「ああ所長⁉︎ もぉぉぉぉぉ無茶するから‼︎」
着地してすぐにぶっ倒れたネロに頭を抱え、点滴の詰まったバッグを背負い直すと脚立の上を四つん這いに恐る恐る渡る。風に押されてヨタつく体に冷や汗を垂らしながらなんとか渡り切ると、バッグの中から点滴で満たされた円柱状の機器を取り出しネロの腕にぶっ刺した。
ネロは身長一七〇を超えているにも関わらず、体重が三〇キロ台前半。常に飢餓状態であり、おかげで情緒不安定、死の淵にいつも立っている超紙装甲。一般人と喧嘩しても、一発喰らえばそのままノックアウトしかねない。
ただ、常に極限状態であるおかげで五感が鋭く研ぎ澄まされており、常時軽度の火事場のクソ力状態でもある。
ネロは燃料タンクが極小の燃費の悪い車と同じ。近場のコンビニに行って帰ってくるだけでも給油が必要なレベル。
だが、コレでもマシになった方なのだ。学園都市製の大変吸収効率の良い点滴のおかげでここまで動けるようになった。学園都市に来る前は、下手に動けば餓死寸前になるため、脳を動かすことだけに最低限のエネルギーを割き、移動には電動車椅子が手放せなかったほどだ。
点滴をぶっ刺されて少しすると、ゆっくりとネロは立ち上がる。
「よくやった助手六号、褒めて遣わす。この調子で常盤台を目指し進むとしよう」
「いやっ、この調子で進んでたら常盤台に辿り着く前に点滴がなくなっちゃいますよ。もう少し静かに行きましょ?」
「えー」
「なんで不満げ⁉︎」
渋々と涙子の提案を受け入れ、シュンとしながら脚立を回収し次のビルへと架けるため動く
よく見れば、自分達と同じようにビル間に脚立や板を渡し動いている者がポツポツと。それに加えて、所々上がっている黒煙。耳を澄ませば、破壊音がちょこちょこと、悲鳴もちょこちょこと。ステッキでコツコツ屋上の床を小突き、ネロは天を仰いだ。
「ネロ所長、準備できました」
「うむ。では行くとしよう、水を求める探索者達に鉢合わせると厄介そうだわ。水を寄越せと点滴をぶん取られたら道中で死ねる。見える涙子?」
「えーっと、どれですか?」
「ほら向こうの、看板の横っちょにある人影とか」
「んん???」
「違うそっちじゃないっ、いや、もういい行くとしよう」
どうせ出会わぬように動けばいいだけ。そうネロが内心で決めた通り、鋭利な五感を用い動いて数時間。想定以上の時間を掛けてヘトヘトになりながらなんとか学舎の園の見える位置まで二人は移動した。
学舎の園は元々高い壁に囲まれていることもあり、ある程度近づけばすぐに見て分かる。
「ぶふっ、よ、よし、ようやく見えてきた。ふざけた旅路だ二度とやらんッ」
「エレメントに遭遇しなくてラッキーでしたね」
「諸々と遭遇しないように動いたのだから当たり前よっ。この枯れた肉体もそのぐらいは役に立って貰わないと。さて、後の問題はどうやって中に入るかだが」
パッと見ただけで、他との違いにネロは眉を
「壁の上に出てる物見
「まあそれしかないでしょうけど、しかし、驚いたわ」
「なにがです?」
「見ての通りよ」
首を傾げる涙子の横でネロは一人頷く。渡るための物がなに一つとして見えないということは、それ即ち外に出る必要がないということ。エレメントに対する対抗策は講じていても、ただそれだけ。
ガスマスクをずらし、ちろっとネロは舌を出す。舌先に触れた空気から感じる水気。その味を含みネロは強く顔を
「残念ね涙子、どうやら担いで貰った点滴は交渉の材料にはならないみたい。お嬢様と呼ばれる者達の人の良さだけを当てにするしかないかもね。どうやら向こうさんは全く水にお困りでないようだし、掘削でもしたらしいわ」
「掘削⁉︎」
「高位能力者が揃えばできることは多いでしょうよ。ただ、うーん」
「どうしたんですか?」
「ちょっとね」
この状況下で要塞と化している学舎の園。見事な手腕とネロをして思いはするも、周囲の破壊痕が気に掛かる。なぜならば、舌を伸ばした際に水気だけでなく火薬の味を感じたから。
ネロとて高温化で全ての機械が駄目になるほど学園都市はしょぼくないだろうと思っている。が、探偵事務所から常盤台までの道のりで兵器の類を見ていないのは事実。にも関わらず、学舎の園周辺では、能力での爆破ではなく、間違いなく爆薬の類を使用した跡がある。
(常盤台を含めた学舎の園の学生の頭のデキを考えるに、爆薬の調合はできたとして、わざわざ使用する意図が分からない。爆弾だのなんだの投げるよりも、能力を使った方が安上がりだし簡単だ。常盤台に至っては
実験なのか、別の意図があるのか。ほとんどの者が文明を
(……コレは来る場所ミスったか?)
取り敢えず探偵事務所よりも情報の得られる安全な場所で、涙子のこともあり常盤台をネロも選んだが、この状況がパターンから外れた者を探すためのものであるならば、学舎の園はそこから多少なりともズレて見える。
ネロが考え込んでしばらく、結局どうするのかとそわそわしだす涙子は物見
「なにやってるのよ涙子。友達の子でも見えたの?」
「いや、白い棒がチラッと見えた気がしたので、シェリーさんやロイさんが見てないかなって」
「…………シェリーさんにロイさん?」
「はい、常盤台で今教師をやってる人がいるんですけど、私の師匠の上司でもあると言いますか。オーバード=シェリーさんにロイ=G =マクリシアンさんて言うんですけど」
「………………ん?」
ん? ん? ん? 涙子の返答にネロの頭が一瞬停止する。頭の中の危険人物リストと照合し、聞き覚えのある名前に、ネロはその場に崩れ落ちた。
「しょ、所長⁉︎」
「はぁぁぁぁんッッッ⁉︎ 聞いてないんだけど⁉︎ そういや助手五号が時の鐘の幾人かが教師になったとかほざいてたわ‼︎ 言っとけ勤務してる学校をよぅッッッ‼︎ ここまで来たの全部無駄ッ。気にするべきは
「えぇぇぇ⁉︎ ここまで来て急になに言っちゃってるんですか⁉︎ どうするんですかもうすぐ日が暮れちゃいますよ‼︎ 野宿は嫌ですよ私‼︎」
「やだやだやだやだやだ! 涙子は日本人だから知らないのよ欧州でどんだけあいつらが面倒くさいか! キロ単位で狙撃してんじゃねえぞ捜査がどれだけダルいと思ってやがる! ネロあいつら嫌い!」
「所長好き嫌い多すぎませんか?」
「ほっとけ!!!!」
じたんばたんとネロはのたうち回る。面倒くさい状況をどうにかしようかと重い腰を上げた結果、より面倒くさい場所に突っ込まねばならない今が美味しくない。自分が思う以上に顔が広いらしい助手の顔を恨めしそうに見つめれば、探偵の顔の横に落とされる足。
佐天涙子の足ではなく、音もなく現れた三人目。ツインテールを風に泳がせ、鋭い目を吊り上げる
「こんな状況下でわちゃわちゃ誰が学舎の園の外で騒いでるかと思えばっ。なにをやっているんですの佐天ッ。騒音被害は孫市さんだけで間に合ってますの。弟子を名乗るのは結構ですけれど、そんなところまで真似て欲しくないですわね」
「白井さん!」
「まったく、なぜこんなところに? 初春はなにをやってるんですの? それに、この方はそもそも誰なんだか」
キョロキョロ周囲を白井黒子は見渡すが、佐天涙子がいるにも関わらず初春飾利の姿は見えない。初春も
矢継ぎ早な質問に、「あー……」と零して遠い目をしながら涙子は頭の中から記憶を引っ張りだす。
「初春はその、うちの中学の近くに隠されてた地下の核シェルターを
「……は?」
「いやーすごいよね
「待ちなさいちょっとッ。
「それはちょっと所長と」
歯切れ悪く涙子が目を落とすのは、未だ床に転がりガスマスク少女。黒子も再び少女に目を向ければ、ネロは寝転んだまま名乗りを上げる。
「……どうも。ネロはネロ=ミシュラン。ミシュラン探偵事務所で所長をやっている。色々と噂は聞いているわ白井黒子。今ふて寝中なのでできれば放っておいて欲しいのだけれど」
「なに言ってるんですのこの方は……」
夕方でも高いとんでも気温の中でふて寝だろうがなんだろうが、寝転がっていては熱中症になるのは必須。探偵だのなんだのと並べられた今必要でもなさそうな文言に黒子の頭が痛む。ポンコツ化している所長に代わり、説明するのは助手の役目。
「今その、所長と現状を打破するために色々と歩き回ってるみたいな」
「はい? それはご立派だとは思いますけれど、佐天のやるべきことでもないでしょうに。まあこんな時だからこそ、どうにかしたいと思うのは誰もが同じではありますか。はぁ、ここまで来たということは、学舎の園に用事が? 送って差し上げても構いはしませんけれど」
「お願いします! よかったですね所長! 白井さんに見つけてもらえて!」
「いや待て助手六号、ネロは行くとは言っていない。やっぱやめよってさっき言ったよね? 学舎の園の中はネロが思う以上にめんどくさそうなんだもん。聞いてる? ねぇ聞いてんの? こら
一般市民を炎天下で放ってはおけないと伸ばされる優しい手が、涙子とネロを無慈悲に
ネロが横を向けば、こんな時にも関わらず自分と同じく寝転がってる者がいる。なんてふざけた野郎だと見つめた先。
それは、背が小さく、柔らかで長く白い髪を体にぐるぐる巻きつけた毛玉だった。
「ダッリィ〜っ、地球はわたちに厳し過ぎるよぉ〜……、
「────お?」
「あぁ⁉︎」
「ぉお⁉︎」
「「うわあああああああああああああああああああッ⁉︎ 出たァァァァァァァァァァァァッッッ!!!???」」
『怠惰』と『暴食』の絶叫が夕空の下に響き渡る。