時の鐘   作:生崎

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a hot day ③

 

 

「ぐすん、ぐすん、なにもぶたなくたっていいじゃん! 悪いの絶対わたちじゃな〜い!」

 

 頭に大きなたんこぶをこさえ、コーラ=マープルは校庭の隅で食蜂操祈(しょくほうみさき)の豊かな双丘に顔を埋める。

 

 「出た‼︎」と大声で(わめ)いた所為で、エレメントが学舎の園の壁を越えて乗り込んで来たのかと一時騒然となり、要らぬ騒ぎを起こしたと教師からの鉄拳制裁。ぬいぐるみが潰れるかのように頭に拳を落とされ、コーラは三途の川を垣間見た。これだから体育会系は嫌なのだとコーラは思わずにはいられない。

 

 それを好い気味だと嘲笑うくそったれ探偵へとコーラは振り向き、中指を突き立てる。

 

「なんでこんなところに偏食の変態がいるのかな〜って。叩き出した方が良いと思うのら! それがみんなのためって感じぃ〜?」

「みんななんて抽象的な表現で多数派の賛同を得ようとは汚いわね流石情報屋。だいたい誰が変態じゃこんボケェ! そもそもなんで貴様が常盤台(ここ)でそんな水着着てんのじゃ‼︎」

「はぁ〜ん? え? 知らないの? 知らないんだぁ〜? わたち常盤台生だもぉ〜ん!」

「ハァァァァァァァァッッッ⁉︎」

 

 常盤台中学指定のスクール水着を見せつけるように胸を張るコーラの真っ平らな胸を睨み付け、ガスマスクの裏で歯軋りを奏でる。これほど頭に来たのはいつ振りか。ネロは無能力者(レベル0)と年齢が故に常盤台及び学舎の園を見送ったのに、無能力者(レベル0)のコーラが常盤台にいる理不尽。

 

 赤の他人が常盤台に入学したところで、そこまでネロも気にしない。ただ、赤の他人だろうが知っている誰かだろうが、『思考の魔王(ベルフェゴル)』が入学できていることが気に入らない。

 

「貴様は無能力者(レベル0)だろうが万年ナマケモノお化けが!」

「はぃ〜? 言い掛かりはやめて欲しいよねぇ〜? わたちは強能力者(レベル3)の予知能力者だから」

「この嘘つき大魔神がよお!」

「アレも知らない、コレも知らない。あ〜ヤダヤダ。探偵名乗ってるくせに壊滅的な情報収集能力だよねぇ〜。寧ろなんなら知ってるのかなぁ〜?」

「うっさいんだよアホバカボケ! 必要があれば自分の足で情報を集めることはあっても、探偵に必要なのは情報収集能力じゃなくて問いを噛み砕き答えを出すことの方にこそあるとネロは答えよう! 貴様らみたいに必要もないのにアレもコレも口に放り込んでる方がゾッとするっつうの!」

「アレもコレも放り込めないネロに言われてもねぇ〜? 答えを出そうにも元がないともぐもぐもできないじゃん。なぁに(かすみ)でも食べてる仙人ちゃんなのかな? おもしろ〜いの‼︎」

「噛み殺すッ!」

「うわ〜ん(ばっち)ぃ⁉︎ 暴力はんた〜い‼︎」

「私を盾にしないでくれるかしらあ?」

 

 背後に回るコーラに操祈はため息を吐きながら、どうしたものかと手にしたリモコンをくるくると回し(もてあそ)ぶ。ガスマスクを首にズラし下げガチガチと歯を噛み鳴らす少女がそもそも誰なのか。

 

「所長落ち着いてください!」と手綱を引くように佐天涙子がネロを引っ張って離れるのを見送り、操祈は背中に張り付く綿菓子を引っ()がす。

 

「彼女が誰なのか私は知らないけれどお、あなたは知ってるみたいね? メイヴィスさん然り、仲良くはないようだけれど。どこの誰なのかしらあ?」

「操祈ちゃんは知らなくてもいい子だよぉ〜、気にするだけ損損」

「あらぁ? 常盤台に編入できたのは誰のおかげかお忘れかしらあ?」

「わたち!」

「ぶつわよお?」

 

 リモコンで。

 

 こんな状況下で不確定要素が欲しくないのは誰もが同じ。なにより今常盤台では、頼りにはなるが不可解な動きをし続けている第三位(エース)が不審だ。

 

 全体に顔が効く者の中で、ある意味いつも通りなのは食蜂操祈だけ。今は主が外に出ていて不在の整備場(ハンガー)へと一度目を向け、再度操祈は問う。

 

 少なくとも冷静に場を見るために不安要素は塗り潰しておきたい。喋らないなら喋らないで操祈には手がある。

 

 ネロへとリモコンを向け微笑む第五位を見上げ、コーラは大きなため息を零しその場に大の字に倒れた。

 

「分かったってぇ〜、それをしても意味ないだろうけど、アレに無駄に栄養あげる操祈ちゃん見るのも嫌だしねぇ〜。アレはネロ=ミシュラン。悪名高いミシュラン探偵事務所なんかやってる迷探偵なのら」

「探偵事務所? 学生でえ?」

「世界中の自称探偵達が情報交換してる秘密倶楽部、『Q』の幹部の一人。捜査力や情報収集能力じゃ警察や情報屋には敵わないからって作られた探偵達の独自組織だよ。情報交換って言っても、問題に対しての答えを出し合ってる変人達の巣窟だけどねぇ〜。確かアレはその伝で学園都市に来たはずだよ」

「優秀なのかしらあ?」

「一応ね。とは言え、ろくに物を口にできないから代わりに脳の食事とばかりに都市伝説とか未解決事件とか、ゲテモノを主に扱う変態だよ。普段なら自分の巣から出るような奴じゃないけど」

 

 どういう理由で出て来たのか。好き嫌いが激しく、情緒不安定で気分屋のネロの動きを読み切るのはコーラをして難しい。一度口にしたことが次の瞬間には変わってるような奴なのだ。結局は気紛れだろうという予想しかできず、真面目に相手をする方が馬鹿を見る。美味しい食事(エサ)で釣れば多少は動きを操れても、それもほんの僅かな時間。

 

「なぁに操祈ちゃんその顔は?」

「別にい?」

 

 苦い顔をするコーラに操祈は笑みを向ける。親切を押し売りする小人が、物理的に体を動かす以外の嫌いを口にする事は少ない。嫌いなものなど少ないに越したことはないが、嫌いなものがある方が人間的ではある。

 

 頭の中のデキが色々と違うらしい変わり者の友人にもしっかりとある人間らしい一面にこそ操祈は微笑む。

 

 が、それはそれとして、面倒そうな相手だとも思うが。

 

「あなたが嫌うとなると、運動好きの健康力溢れる子か、でなければよっぽど違った価値観を持つ子でしょうしい? 見た感じ彼女は後者みたいね」

「アレは美味しい食事さえ食べられるなら、他のことは万事小事ってタイプだよ。でもねぇ〜美味しい食事を永遠に食べられないの」

 

 最早呪い。そうは思っていなくとも、『原罪』を抱える者は誰もが呪われている。

 

 追い並んだとしても追う者は決していなくならず、追い続けなければならない。

 

 力を極めその頂点を目指しながら、いつも闘争の相手を求めて憂いているから精神的に頂には立てない挑戦者。

 

 一途な愛を夢見ながら無数の愛を手放せず、快適であるために快適でないことに頭を回し続けなければならない。

 

 腹を満たしたくても口にできるモノはなく、平穏を望みながら冷めぬ怒りを捨てられない。

 

 消えてはくれぬ永劫の欲望。それこそが罪。だから満たされることがない。命が消えるその時まで。

 

「矛盾してるようだけど、矛盾してないの。だってそれを求め続けなければ、自分ではいられず、満たされることもないから」

「誰だって同じじゃないかしらあ?」

「うん、でも何事にも限度ってあるよねぇ〜? 際限なく求め続ければ待ってるのは」

 

 破滅だけ。その時こそが『原罪』の終わり。生まれて破滅を繰り返す悠久の咎人。

 

 全く手の施しようもない馬鹿だと自虐しながらコーラは手足を放り出すが、ようやく落ち着いたらしいネロが戻り壁を背に座り込んだことですぐに手足を引っ込める。

 

「貴様のことはもういいわ、話すだけ損だからね。用があるのは第五位によ。お前達はどの程度今の状況を理解してる?」

「話さなくていいよぉ〜操祈ちゃん、探偵らしく自分の推理で頑張ってって言っておいてぇ〜」

「貴様に聞いてはないんじゃドアホ! さっさと永眠でもしろ! と返しておいてくれる?」

「私を緩衝材にしないで欲しいんだゾ☆」

 

 怒るわよお? とリモコンを掲げれば、二人揃って魔王達は目を逸らす。頭の中を(いじ)られるよりも、物理的にリモコンを投げつけられた方が危険。なんとも脆弱な二人のおかげで、ここでは操祈がまさかのフィジカル強者だ。

 

「……ネロは正直現状を測りかねていてな。ネロとしては放っておいてもいいのだけど、学園都市最高峰の能力者の意見は聞いておきたい。どうせそこの情報屋はろくな情報を持っていないでしょうし」

「あら? それはなぜかしらあ?」

「その小人の主な情報網は、人を介したアナログな手法よ。多くの者が拠点に引き篭もってる現状、大して人を動かせないから情報も集まらないだろう」

 

 そう言ってネロはほくそ笑む。正確には、動かせる駒があったとしても、無理に動かせば裏で糸を引いている者が作り上げた行動パターンから外れる。水のある場所の情報のやり取りならばまだしも、問題の核に近寄るような情報の交換はリスクが高い。

 

 現状常盤台は他と比べて快適であろうから、それをわざわざ崩すような動きを率先しては取らない。口をひん曲げるコーラがなにも言わないのをいいことに、ネロは話を続ける。

 

「ネロとしてはこの件に学園都市上層部が絡んでいると睨んでいてね。常盤台はどの程度探ってる?」

「……なかなか危ない予想を口にするわねえ」

 

 リモコンを口元に当てながら、操祈は周囲に視線を散らし、目の合った帆風潤子(ほかぜじゅんこ)に小さく頷けば、人払いのために派閥の面々が自然に周囲の人々を遠くへ追いやる。

 

「あまりそういった危険力の高い話をして欲しくはないわね。学舎の園が今のところ他よりマシなのだとして、結局は学園都市の偉い人がどうにかするでしょうと信じてる子も多いのだから。証拠はあるのかしらあ?」

「未だ学園都市が動いていないのが証拠のようなものよ。大きな問題の際には即座にその問題を破壊するように動く未来都市が未だなんの対抗策も出さないのがおかしい」

「だとして、学園都市が関わっているのだとしても、学園都市が一枚岩でないのも分かっている者には周知の事実のはずじゃない? 動かないと言うのであれば、互いに牽制でもしているか、本当にまだ動けないという可能性もあるんじゃないかしらあ?」

「かもね。ただそれには大事な予測が抜け落ちてるわ。同じような立場の者達なら探り合っていて牽制し合ってる可能性はあるけれど、立場がもっと上の者なら?」

 

 極端な話、統括理事長の命であったなら、果たしてそれを否定できる学園都市の組織はいるのか。突拍子もない推測に操祈は目を白黒させる。

 

「うーん、かなり突飛な推理ねそれは。そうだとしても意味が分からないんだゾ。学園都市トップやそれに類する者が動いていたとして、わざわざ自分の家のインフラを崩壊させるような手を打つ理由が分からないわあ。それとも、そこまでしなければならない相手がいるとでもお? 現実的ではないわねえ」

「まあそれはそうよ。現在噛み砕ける範囲での情報からの推測に過ぎないもの。ネロの推理を補強する情報を提示してくれるなら、また別の答えを出すことができるけれど」

「そうは言われてもねえ?」

 

 常盤台とてなにもやっていないわけでもないが、問題の解決には動いていても、問題の裏側を探るような動きはほとんどしていないのが現状だ。

 

 言ってしまえば常盤台にいるのは中学生。能力者が多いだけに取れる手が多くはあるが、冷静に問題の全てを見つめられるかと問われればまた違う。他の籠城者達と同じく、結局は常盤台とて籠城を選んではいるのだ。全部が全部問題なしと日常を謳歌しているわけでもない。

 

「こっちがやっているのは、エレメントに対して取り敢えずの理解を深めようといったことぐらいで、裏の裏まで手を回せていないのが正直なところよ。倒したエレメントを解剖、というか分解してみたりはしてるけど」

「なに?」

 

 そんな話をしていれば、今まさに関節単位で分解されたエレメントが台車に乗っけられ少し遠くで運ばれていた。すぐにネロは涙子に呼び掛けると、台車まで向かわせほんの小さなエレメントの欠片を持って来てもらう。

 

 そうして手元に運ばれたそれを、ガスマスクを外すとすぐにネロは口へと放り込む。

 

「ちょ、ちょっと! お腹壊しても知らないわよお?」

 

 ゴキバキガリガリ丈夫な歯で噛み砕き、強く顔を(しか)めるとベッと足下にすぐに吐き出す。「(ばっち)ぃ〜」と騒ぐコーラを華麗にスルーし、一度天を仰ぐと深く大きなため息を吹いた。

 

不味(まっず)ッッッ。なるほど、短期間で大量に準備するには御誂(おあつら)え向きね……。『向こう』の技術まで取り込むとはまあ……。大衆の目に晒された中で直近で分かりやすく披露されたダイヤノイドの一件あたりが知識の出所か。『魔神』クラスのモノは流石に真似できないでしょうし」

「ちょっと?」

「悪いね第五位、これをネロの口からは説明しづらい。専門家というわけでもないのでね。ただ言えるのは、そう、エレメントがどうやってでできていたとしても、あまりそこは関係ないのよ。ただ」

 

 魔術の色さえも取り入れるのであれば、学園都市でそれ相応の地位にいる者だろう証明にはなる。それを言ったところで理解できる者が少ないだろうため、ネロもわざわざ言葉にはしない。だから代わりに言うのは。

 

「常盤台の戦力ならエレメントに対抗できるとは思っていたけれど、よくもまあ解剖にまで手をつけたものね。倒すのに爆薬を主に用いてるみたいなのが理解できないけど」

「あー……それは御坂さんがちょっとねえ?」

 

 急に歯切れ悪く苦笑いを浮かべる操祈にこそ、ネロは首を傾げる。

 

「第三位がどうしたと言うの? そう言えば姿を見ないけれど」

「それは……」

 

 言いながら操祈が空を見上げれば、軽いジェット音を響かせて空をナニカが横切った。歪な戦闘機のようなシルエットでありながら、中央には人影のようなものが見えた。一瞬でネロが誰かまで分からずとも、周囲が人影の答えを教えてくれる。

 

 が、それどころではない。誰か、以上に、現状で好き勝手空を飛び回っている者がいるのが何より問題だ。一定のパターンの正しく外側にいるような存在が。その事実にこそ、ネロは噴き出す。

 

「は? はぁッ⁉︎ なんじゃありゃ⁉︎ どういうこったい⁉︎ おいおいおい‼︎」

「御坂さんはまだ帰って来る気ないみたいねえ」

「そういうことじゃあない! なにをビュンビュン空飛んどんのじゃッッッ! 意気揚々と空の旅って今することじゃねえッ‼︎」

 

 目立つ。そこはかとなく。他に空を飛んでいるものがなにもないからこそ。完全に来る場所を間違えたとネロが膝から崩れ落ちる。例え学舎の園が今安全であったとして、この先も安全である補償が消え失せた。

 

「大丈夫ですか所長⁉︎」

「いいや全く大丈夫じゃない! いいか助手六号、事件ていうのはな、継続的に続く状況下において、そこから外れた事象を事件と呼ぶのだ。今のが正にそれだ! 学舎の園だけならばまだ範疇だったが、アレは完全に今の状況から逸脱している! 事件現場はここなのだ! 急いで逃げよう!」

「探偵が現場から逃げていいのぉ〜?」

「うっさいわ! 探偵の仕事は謎を解くことであって事件を解決することじゃねえんだよ! 犯人逮捕は警察の仕事じゃろうが!被害者にも加害者にもネロはなりとうないわ! 今の不味そうな状況の方がネロは嫌だ! 常盤台のご飯は楽しみだったが、もうそんな場合じゃなあい!」

「常盤台のご飯なら確かパンが余っていたけれどお? ほら」

「やっほう! いただきます‼︎」

 

 差し出されたパン(それ)に喚き散らしながらも揚々と噛みつき、ネロは撃沈した。パニックになった頭と、差し出された美味しそうな餌の不味さが合わさり意識を手放す。その場に崩れ落ち悶え苦しみながら気絶したネロに向けられる数多の馬鹿を見る視線。もう勝手にしろとコーラは諦めの吐息を吐く。

 

 

 

 

 

 それからどれほどの時間が経ったか。ネロが目を覚ましたのは、周りが少々騒がしくなったから。

 

 熱中症にならないように、移動させられた保健室ではないらしいどこぞの大部屋の小影の中で、贅沢に水枕の上でぼやけた視界を擦っていると、一番に目に入って来たのは心配そうな顔で傍に座る佐天涙子の顔。

 

「おはようございます所長、気分はどうですか?」

「……悪くはない。今何時?」

「えーっと、所長が寝てから翌日の昼前くらいですよ」

「昼前⁉︎」

 

 ぶっ倒れてからまさか翌日の昼までぐっすり眠りこけていた事実にネロは顔を手で覆う。探偵事務所から移動して来た疲れと、美味しくない食事の相乗効果で思っていた以上に体が疲れていたらしい。倒れた場所が常盤台でなければ、そのまま熱中症で死んでいただろう。

 

 自己嫌悪もそこそこに、寝ていてもしょうがないとネロは上半身を起こす。

 

「それで……なにを騒いでるのお嬢様方は? ついによくない事件でも起こったの?」

「いやーどうなんでしょう、御坂さんが連れて来たのが男の人で、学舎の園に男の子が来た珍しさで色めきだってるだけみたいですけど」

「第三位が連れて来た?」

「師匠の友達で確か上条って人だったかと」

 

 その名前に、うわあと露骨にネロは嫌な顔をする。トラブルメイカーと呼ばれる人種がこの世には存在する。当人が悪人か善人かは関係なく。当人が問題を起こさずとも、持ち運んで来る者が。

 

 不味い状況が更に不味くなりそうだとネロは辟易するが、これ以上を見ないために勢いよく立ち上がる。

 

「ッ、上条当麻だけなんでしょうね? 他には誰もいない? これ以上増えてもらっちゃ困る‼︎ これじゃあ飛んで火に入る夏の虫だわよ‼︎ たまにはいっかぁと外に出たら槍が降ってるとでも言えそうな異常気象の中に身を浸していられるもんですかってんだ! 土御門元春は? 藍花悦は? 法水孫市はいないんでしょうね⁉︎」

「呼んだか?」

「くぁwせdrftgyふじこぉpッッッ⁉︎」

 

 背後から飛んで来た声にネロは硬直する。ギギギッ、と音が聞こえるかというほどにぎこちなく振り向いた先で、徐々に(あらわ)になる赤い癖毛。不味い状況が限界を越えた証。

 

 軍服の下、全身に包帯を巻いた軍人が、木原円周を横に(ともな)って立っていた。

 

 ネロの言葉にならない悲鳴を聞きつけ、また一人増えた男の登場に、別の意味でお嬢様達は騒ぎだす。学舎の園に侵入し暴れた変質者。それが訓練だったと聞いていても、その時の光景は正に悪夢。近寄らず遠去かるお嬢様達を意に介さず、『嫉妬』と『暴食』が向かい合う。が────。

 

「ご………ッ、お………ッ」

 

 ネロは変わらず動かず、見ず知らずともネロの内側に(うごめ)く衝動を察して孫市は顔を(しか)めた。異常な状況の最中、今必要でもないイレギュラーが湧いて出たらしいと。

 

「師匠‼︎ なんでここに⁉︎」

「俺としてはなんで佐天さんがここにいるのかの方が不思議なのだがな。まあいい、俺も用があって来た」

「用って……あ! 白井さんなら」

「いや…………黒子に用はない。用があるのは御坂さんだ。仕事でな。彼女がどこにいるか分かるか? 常盤台は広くて敵わん。マイクロ波が鬱陶しくて波も拾いづらいしな」

「御坂さんなら多分部室棟の方にいると思いますけど。そんなこと言ってましたし、でもなんで……? それにマイクロ波って」

「悪いな答えている時間がない。行くぞ円周」

「はーい!」

 

 円周の元気な返事に頷き、足早に孫市は部屋を出て行ってしまう。それでも尚、未だ固まったままのネロに涙子は気付かず、「どうしたんだろ?」と首を傾げるばかり。

 

 取り敢えず孫市が常盤台に来たということで、白井黒子には伝えておこうかと涙子が動こうとしたところで動きだしたネロに肩を掴まれた。

 

「……待ちなさいな助手」

「え? 待てってなんでですか?」

「彼らを見れば分かるでしょうよ」

 

 そう言われて思い返すが、涙子は特にピンと来ない。確かに孫市の軍服姿は珍しくはあるが、全く見たことがないというわけでもない。孫市も円周もゲルニカを担いだ()()()()ではあったが、こんな状況下ではそれも仕方ないと言える。

 

 が、問題はそこではない。

 

「アレがハイキングや散歩気分でここに来たと思うの? アレが話してる最中に周囲を警戒していた護衛まで連れて来ているのに? 知り合いだとは聞いているけれど、今回は近寄らないのが吉よ」

「でも」

「でもも糸瓜(へちま)もないわ。アレは()()と言っていたでしょうが。ならば、時の鐘学園都市支部(インダイヤル)がなにをしに来たのかは自明の理」

 

 そう、彼らはやって来たのだ。常盤台に戦いに。

 

 

 

 

 

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