さーてーと、どうするべきか。
こんな事態になってから数日で今や十二月八日。十二月八日は釈迦が悟りを開いた日なのだそうだが、冬であるはずなのに脳が茹だるほどの熱気の中で悟りなど開けるはずもない。
ほんの数日前、
変わったというよりも、
サンジェルマンや他の魔術を解析し、還元生命とかいうあらゆる動植物の死骸が長い時間をかけて石油となる現象の真逆をいくとかいう小難しくて俺にはよく分からん理論の元に作り出されたエレメントの製作と放出。
どこに標的がいるのか分からないのであれば、地図を塗り潰すが如く場を整えれば、なんらかのアクションが得られるだろうという考えの結果、宇宙からマイクロ波を放出されるとかいう大変ふざけた反応が返って来たおかげで今がある。
その反応も唯一さんが前に書いたらしい論文、『オペレーション・ブラックアウト』だかを元に状況を構築し流れを掌握してしまったので未だ此方が一応の有利であるが、大変頭が痛い。熱気にやられたというわけでもなく。
「孫市お兄ちゃん大丈夫?」
「大丈夫と言いたいが全然大丈夫じゃない。主にアレイスターさんの所為だ。唯一さんは寧ろよくやってるよ」
円周に心配される有様だ。
エレメントの使用自体そもそも乗り気じゃなかったが、唯一さんが動かなかった場合、結局はアレイスターさんが似たようなことをやるだけだろう。そんなことはないと信じたくはあるが、統括理事長が動きだした以上、早急な解決が必要とされるが故の暴挙。
ならばまだ、唯一さんがコントロールできる範疇の事態に押し込めている今はまだマシと言える。
上里翔流とその勢力。更に御坂美琴。目下の問題二つ。
その解決の為にこれほどのことをやらなければならないのかと思わずにはいられない。
「上里側の動きが読めないから、読めるように先に全体の状況を作り変えてしまおうという手は悪くはない。上里が右手を取り返そうと動く場合、俺にとって一番困るのは俺や唯一さんの友人知人が人質に取られたりすることだからな。そんなことをしてる場合じゃないという状況を構築するのはいいが」
「やり過ぎ?」
「だろうよ。それほどアレイスターさんが切羽詰まっているのかは知らないがな。こんな状況でも俺がまだ落ち着いていられるのは唯一さんのおかげだ」
事態は異常ではあるが、人的被害が出ていないから。
善悪で言えば悪だけど、好悪で言えば好ましい。
唯一さんがよく口にしている言葉の通り、最低限のラインだけは守っている。それをこれほどの大規模で統制しやってしまうのだから凄まじいという言葉に尽きる。ただ、やり方に問題がないとは言わないが。
「でもいいの孫市お兄ちゃん? 勝手に出て来ちゃって?
「そこまで使いたくない。というより、戦闘はこの場では最終手段だ。唯一さんは流れを掌握するのがべらぼうに上手いが、それ以上に相手を狙い通りの流れに乗せるのが上手いのさ。俺がいなくなればここに居るだろうことも勝手に察してくれるだろうよ」
そうここに。常盤台に。
土御門に上条共々送り込まれた時は冷や汗を掻いたが、今はそれ以上に薄ら寒い。誰が好き好んで御坂さんや食蜂さん達
死にに来たとでも言う方が正しい気さえする。
しかも今はなぜか佐天さんや『
長居はしたくないが、用事があるのも事実。
故にさっさと用事を済ませるため、佐天さんに教えて貰った部活棟を目指し足を進めれば目的のモノはすぐに見つかった。
空港の倉庫のような大きな四角い建築物。そこから溢れる波を手繰り、巨大な搬入出口の横にある人が出入りするための扉からノックもせずに中へと踏み入る。
そこにあるのは、戦車砲、レーザー砲、火炎放射器といった投射兵器の類から、大型チェーンソー、対壕ドリルといった近接兵器。ミサイルコンテナといったものまで。まるであらゆる対地対空近代兵器の見本市。中には外ではお目にかかれないような次世代兵器まで。
唯一さんに円周と連れられた倉庫で見た兵器達。歪んでしまう表情を止められない。
「うわあ」と上がった円周の声を聞き流しながら、さっさと扉を閉める。そんな円周の声を聞き、兵器群の中心にいた少女が振り返った。
「……アンタっ」
「いやいや見事。だが、不釣り合いだな。常盤台の洗練された空気の中で、こうもゴテゴテとした兵器があるというのは。まあ俺は常盤台に詳しいわけでもないがな御坂さん」
「……なにしに来たの?」
膨れ上がる波を前に手を上げて制す。そんな即座に臨戦体制を取らなくてもいいじゃないかおっかない。手近にあったガトリング砲を椅子代わりに腰掛ける。円周は座らず物珍しそうにレーザー砲を突っついているが止めるのもめんどくさい。
「そう邪険にしてくれるなよ。こちとら昨日の敵は今日の友のような世界の住人だ。数日前に敵だったとしても、今も敵というわけでもない」
「……だからって、アンタには昨日の友が今日の敵にもなるでしょうが。こんな気温の中でそんな格好してる奴の言葉を信じろって言うの?」
「ああだからあんまり動きたくなくてね。それに分かるだろう? 俺が敵なら」
常盤台などには来ず、超遠距離からの狙撃で終わらせている。この場に足を向けて目の前にいることが敵ではない証拠。手を広げて見せるが御坂さんの鋭い目つきは変わらず、肩を落とすしかない。
「こんな時に、学舎の園にまで侵入してるアンタを信じる理由を探す方が難しいと思うけど? あいつは知ってるわけ?」
「あいつ? あぁ上条か、いや、知らないだろ。俺の動きは誰にも言っていないのだし」
「でしょうね? アンタの学校大分まずいみたいだけど、こんなところで油売ってていいわけ?」
「しょうもない探りはやめろよ、青ピのみならず時の鐘が二人あっちにはいる。最悪にはなっていないだろう確信はある。俺は仕事でここにいる」
「……こんな時に仕事ね」
御坂さんが一度目を伏せ、俺は舌を打った。会いに来て穏やかな会話にはならないだろうとは思っていたが。
「やめろよ。先に言うが御坂さんがここで暴れた場合俺は勝てん。が、その場合でも
「だから先に用件を話すとしよう。御坂さん、御坂さんが保持してるそれらの兵器を手放してはくれないか? 当然全部だ」
「ッ、アンタ自分がなに言ってるか分かってるの?」
当然分かっているから言っている。
「御坂さんにそれが必要だとは思えないな。十分もう強いのだし。こんな時にいそいそとそんなものを作る必要がどこにある?」
「アンタこそなにを見てるのよ。外の状況分かってるでしょ? エレメントに対抗できる手段があるに越したことはないじゃないの!」
「そんなものがなくたって御坂さんは対抗できるさ。俺からの要求は簡単だ。それらを放棄し、新しく作るのもやめてくれ。それに、俺の目が節穴だと思うか? 最初に持ち出したやつはどこにやった? それも出してもらいたい」
「ッッッ⁉︎」
分かりやすく御坂さんは目の色を変える。唯一さんに最初円周と連れられて見たものとこの場にあるものでは、内部の作りが少し異なることぐらい気づく。この短期間で見よう見まねでも似たものを作れるということこそ驚きだが。
「なんでそんなっ、誰からの依頼なのよ!」
「それは教えられない。傭兵として最低限のルールだし、教えたところで御坂さんは首を傾げるだけだろう。ただ御坂さんも依頼主を知ってはいる」
というか学園都市にいる以上、名前は知らずとも統括理事長がいることは知ってるだろう。
「なんで今なの⁉︎」
「それは色々と巡り合わせが悪かったということもあるだろうが、今だからさ。それで答えは?」
少しの間を開けて、当然とばかりに横に御坂さんは首を振る。
「……ダメよ。手放す理由が分からないし、手放す必要性を感じない。このタイミングで来たアンタが怪し過ぎる」
「……駄目か。手放す理由なんてそれこそ御坂さんには必要ないだろうってことしかないがな。御坂さんはそれで戦争でもしたいのか? ただの学生に火炎放射器だのミサイルコンテナだの要らないだろ。俺の座ってるこれだってそうだ。武器商人になりたいわけでもあるまい。今ではなくても、御坂美琴にそれが必要か?」
「…………もしまた僧正みたいな奴がやって来たら」
「その時はまた俺みたいな奴が出張るだけさ、極論御坂さんがどうにかしなければならないわけでもないだろう? それでも」
「そしたら……っ、いつまで経っても追いつけないじゃない。やっと掴んだ手掛かりなのに」
なんの? とは聞かない。ぐっと手を握り締める御坂さんには、とても大事なことなのだろう。その中身を詳しく知らない俺には、御坂さんの核を揺さぶれるだけの言葉を持てない。
追いつきたい並びたい。その気持ちは痛いほど分かるからこそ。
「だいたいアンタに言われたくない。アンタだって学園都市でそんな銃を振り回してるじゃないのッ」
「俺は傭兵だからな。俺は学園都市でもどこでも時の鐘だ。それとも御坂さんも傭兵になるか?」
「そんな答えズルいッ」
「ズルくてもそれが答えだ。御坂さんがそう人生を決めたと言うなら、俺に否定できることでもないし、止めることも難しいが、さて」
ガトリング砲から降りて立ち上がれば、御坂さんは身構える。それを冷めた目で見つめてため息を零す。
「やらないと言ってるだろうが。俺に今ここで戦おうという意志はない。
「ないわ!」
「他の誰に狙われるとしてもか? 命が掛かっているかもしれなくても? 俺はな御坂さん、できれば御坂さんと戦いたくはないんだよ。勝つ負けるという話ではなく、御坂さんが悪ではないからこそ。そんなものがなくたって君の素晴らしさは変わらないだろうに」
「そうなら、そうだとしたなら、寧ろ協力して欲しいわね」
「それができたら……難しいんだなぁこれがよ」
答えを聞き、円周に手招きして渋々と出口に向けて歩きだす。どうしようもなく困ったことになった。簡単に話してそれで終わりだとは思っていなかったが、ここまで頑なだとは。
アレイスターさんの名前を出して通じればいいのだが、よくも知らない御坂さんからすれば、そもそも誰という話だろう。説明したところで、納得するかも怪しい。
アレイスターさんもこうなると分かっていたのか、無理だろうがやってみろとは意地が悪い。向こう任せにしてはどうなるかも分からないというのに。
だが、人生は自分だけのもの。御坂さんが自分で決めた以上は、責任を背負うのも御坂さんの役目ではある。良い結果が来ると分かっているならまだしも、そうならないだろうと分かっていてそれを見過ごすのも気分悪いが。
倉庫から出ようと扉を開ければ、丁度誰か入ってくるところだったらしく思わず足が止まる。しかもその誰かは、学舎の園らしく女生徒というわけでもなく、ツンツン頭の────。
「法水⁉︎」
「……お前なんでこんなところにいんの? またかお前は」
「いやこっちの
追っかけてたいよ俺だって‼︎ この野郎! 上条のやつはなんでこういう時に限ってほいほいすぐそばにいるのかッ。学舎の園だよ一応ここは! エンカウントしないはずの場所でエンカウントしに来んじゃねえ‼︎
「お前が居てくれればバリケード作りとか、色々助かるしこういう時こそいて欲しいのになにやってんだよ! 青ピや小萌先生、吹寄まで心配してたぞ! インデックスだって! それに一応オティヌスもっ」
「……そうかい、悪いな」
「悪いなって…………その格好まさかお前」
「俺は仕事中だ」
「ッ」
俺の答えに、気温のためかそもそも悪い顔色を上条はより悪くする。先日最後に出会ったのがアレだったからか、上条も思うところはあるらしい。
「…………上里か? やっぱりこの状況もあいつがっ」
「それもあるが、まあ色々だ。こんなところで出会ってなんだが、体に気をつけろよ。小萌先生には悪いと言っておいてくれ」
「いや自分で言えよそれは! 法水、お前がまだ上里を殺そうってならそれは」
「それを決めるのは俺ではない。俺が今並んでいるのはお前ではないのだからな。ただ一つ言っておく、
「御坂? おい法水!」
言うことだけ言ってその場から離れる。最低限の保険だけは投げたが、それ以上は俺には無理だ。俺と上条を見比べて、後ろから走って来た円周が横に並ぶ。
「よかったの孫市お兄ちゃん? なにもしなくって」
「それしかない。強引に取り上げようにも、御坂さんには弾丸を止めれるから狙撃があまり有効打になりえないということもあるし、既に似た物を御坂さんが作れてしまっている以上取り上げても意味はない。知識を奪うことこそ難しい。考えを変える気がないのならどうしようもない。これで終わりが此方としては一番助かったんだが、時間もないからなぁ」
二つの意味で。今はまだ人的被害は出ていないが、この状況が長引けばどうなるか分からない以上、この状況のままにはしておけず、あまり時間を掛け過ぎると、俺が動く前に痺れを切らしたアレイスターさんが動きかねない。
状況は此方が有利でも、時間がないのも事実。
全く嫌な板挟みだ。ため息を吐きながら手を上げれば、常盤台の屋上で白銀の槍が持ち上がる。控えさせていた釣鐘も無駄になってしまった。あれだけ倉庫に兵器があった以上、力押しも難しい。
「こんな場所で火蓋を切ればよく知る強者達にタコ殴りにされるだろうしなあ。こっちにとって状況は悪くなくても、切れる手札も多くはないんだ。こうなってしまった以上、御坂さんたちにとっての悪役に俺がなるしかないだろう。
「
間に合ったというか、急遽間に合わせてもらったというか。
勝てないのなら、勝てるように準備するのが俺達のお仕事。とは言え、木山先生に唯一さんまで協力してもらって新たな決戦用の狙撃銃を御坂さん相手に間に合わせてもらう羽目になるとは思わなかった。
俺としてもできれば使いたくはないのだが、狙撃銃とは言え、全く銃には見えないアレを。
「円周も
「いいの⁉︎ やったー! アレはね、私の自信作なんだよ!」
「知ってるよ、お前たちのために設えて貰った物なのだしな。
全くこの天才ちゃんめ。初めて会った時は危なっかしかったが、今や釣鐘と円周が時の鐘学園都市支部の中核なのだから、なかなかどうして面白いものだ。
なんにせよ、こうなってしまっては準備を怠るわけにもいかない。御坂さんとぶつかるのは避けては通れぬ道。だが、どうやって御坂さんが取ってしまったアレを捨てさせるかが難し過ぎる。
対抗するための手は揃えたが、ただそれだけ。
武力をもって武力を制し、御坂さんが諦めてくれるものか。それは正直なところ難しいだろう。御坂さんはどういう訳か追うために力を求めている。それに辿り着くまで、歩みを止めるとも思えない。他でもない俺がそうだから。
そうなってしまうと、結局はアレイスターさんが動くまで終わらない可能性が高いのだが。
無理なものは無理なのか。力や技術ではどうしようもないことに関しては俺は無力だ。実践で試せると喜ぶ円周の横で肩を落としていると、背後で足音が一つ。釣鐘ではない波を拾い背筋が凍る。
「孫市さん?」
分かってはいたことだが、常盤台に来た以上。できることなら会いたくはなかった。特に今は。
「……よう、黒子。元気そうで安心したよ。佐天さんにでも聞いたかな?」
「ええ、まあ。それよりもその格好は」
「まあそういうことだ」
足音が俺の背に近寄る。だからこそ、止めていた足を動かし遠ざかる。
「ちょ、ちょっと⁉︎ お待ちなさい‼︎」
「いや、ちょっと俺忙しいんだよね今。この後諸々準備しなきゃいけないことがあって」
「だとして、話す時間もないと言う気ですの! こんな時になんの仕事なのかしらとか、なんで常盤台にいるんですのとか、色々と聞きたいことがありますの!」
「悪い黒子、今度話すから。今は」
「だいたいなんでこっちを見もしないんですの!」
「それは────」
「
「円周ッ」
そういうこと言うのやめなさい! 俺の人生史上間違いなく一番我慢してるというのに‼︎ 背後で呆れたため息が聞こえるッ。本当は見たいけどッ、見たら間違いなく俺のやる気がへし折れるッ。
「それならこれでどうかしら?」
「ッ」
目の前で空間移動の揺らぎを感じ、タイミングを合わせて勢いよく背後を向く。また目の前で空間移動の揺らぎを感じるので、勢いよく背後を向く。また目の前で空間移動の揺らぎを────etc。
「こんのっ、いい加減観念なさい! どんな仕事か知りませんけれど、恋人と顔も合わせられない
「そうだけどもッ、時と場合というものがある! 黒子、今の俺は御坂さんにとっての敵なんだ。だから合わせる顔がない」
「それ、はッ」
黒子が動きを止め、ようやく俺も動きを止める。
「…………なぜなんですの? どんな依頼で……」
「それは言えん。言ったところでどうにもならないということもあるし、知るだけで危険があるかもしれないということもある。ただ言えるのは俺が御坂さんの敵で、今の御坂さんは危険な状況にあるということだけだ」
「それは…………お姉様が急に始めた部活となにか関係が?」
「答えられん」
「貴方はまったく、それは答えているようなものでしょうに」
言葉に詰まり肩が落ちる。だから会いたくなかったのに。黒子が御坂さんを大事に思っていることを知っているからこそ、全てを黙っておくことなどできない。初めて彼女の涙の跡を見たのが、その人を想っての時だったからこそ。
「わたくしだって急におかしいとは思っていましたけれど、そんなにアレはよくないんですの?」
「……さてな、俺もそこはよく分からない。分からないが、それが仕事だ。御坂さんの考えが変わらない以上、俺は御坂さんの敵になるしかない。それが黒子の敵になるということであったとしても、俺が俺であるためにそこは変えられない。ごめん黒子、俺にもどうしようもないことがある。例え黒子に嫌われるとしても」
統括理事長が御坂さんの排除を命じたなどとどうして言える。それをさせないためになんとかしようとしているとしても、実際打てる手がない。せめて御坂さんが作った物をぶっ壊すくらいしか。ただ、それで根本的に解決するようなことでもないのだ。
もしもここで、御坂さんや黒子に俺の知り得ることを全て洗いざらい話したとして、ではなぜアレイスターさんが御坂さんを危険視しているのかという話になるだろう。それはアレイスターさんにしか分からず、それを追うことでなにが出て来るか、なにが起こるのか、アレイスターさんにしか分からない。
なにより、『シグナル』の上にアレイスターさんがいる以上、依頼主の大元も大元。依頼主を裏切ることこそ、傭兵にとっては御法度だ。
「正直俺にもなにが正しいのか分からんよ。相手が外道であるなら迷う必要もないのだろうが、俺が動かなければ他が動くだけ。大元をもし止めようと動いたりすれば、俺のみならず周囲に危険が及ぶだろう。ただの傍観者になれればよかったのかもしれないが、それを選ぶのには遅過ぎる。傍観者で満足できる性分でもないしな。俺が御坂さんともっと親しければ違ったのかもしれないが、そんな意味のない後悔をしても仕方がない。俺にできるのは結局これさ」
悪目立ちし、脅威に対する敵になること。
「俺も状況に流される凡夫でしかないということだ。思い通りに全てを解決できる神様ではないのだし、ただ、最悪が嫌ならば自分で動くしかない。それがどれだけ嫌われることだとしてもな」
「孫市さん……」
「黒子、御坂さんから目を離すなよ。彼女に必要なのは俺ではない。彼女を変えられるとしたら、それも、俺ではない。俺は御坂さんの敵で、きっと上条の敵で、そして黒子の敵なのさ。
そのまま足を出し、もう止まらない。黒子が俺の名を呼ぶ声が聞こえたが、足を止めることはない。
悪役が必要ならば俺が担おう。俺は万人を救えるヒーローなどでは決してないのだから。ただ、最悪を穿つために足掻かせては貰う。
俺に必要なのは悟りではない。必要な時に引き金を引く覚悟だけだ。それが仕事だ。