「おかしくね?」
顔に紅葉を貼り付けた上条が何かを言っている。何がおかしいのか分からないが、一々俺に聞かれても分からない。病院の談話室。自販機と喫煙所が一体となったスペースで、壁にもたれて上条さんか刺々しい目をして俺を睨んで来る。ただでさえ頭がツンツンしているのに、目までツンツンさせたいとは面白い趣味だ。
「なあ、おかしくね?」
うるさい。さっきから上条は同じ事しか言わない。煙草ぐらいゆっくり吸わせて欲しい。俺もこの病院の常連になってしまったので、もう俺が煙草を吸っても目くじらを立てる看護師はいない。良い事なのか悪い事なのか。俺にとってはいい事だ。別に法を犯しているわけでもなし。
「なあ、おかしくないですか⁉︎」
「……何が? うるさいんですけど」
「コレだよコレ! 見えてんだろうが! ……なんでそんな冷めた目で見てんだコラ! お前だって同罪のはずだろ‼︎」
自分の頰に出来た綺麗な紅葉を指差して上条が吠える。知るかよそんなの。
俺と上条が病院にいる理由。白井さんのお見舞いだ。あれから一夜明け、学校には遅れる連絡を入れて白井さんのお見舞いに来た。白井さんの怪我が怪我だ。俺がよくする骨折や、上条が良くする突発的大怪我と違い白井さんのした怪我は
そんな白井さんの病室を訪ねると、白井さんは着替え中だった。つまりそういう事だ。
「なんで俺だけ叩かれて法水は無罪放免⁉︎」
「それは上条さんが先頭切って意気揚々と入ってったからだろ。ノックしたのに返事待たずに入るってどうよ」
「ぐっ、せ、正論が痛え」
上条が吹っ飛ばされた後、白井さんに背中を向けられさっさと出てけと手で払われたので、無様に転がる上条を掴み秒で退室。そうして談話スペースまで逃げて来た。ここで帰っては白井さんの下着姿をただ拝んで帰る変態になってしまうので、白井さんが着替え終わるまでこうして時間を潰しているわけだ。
「はあ、まあいいや。時間もありそうだし、俺とインデックスは御坂妹のお見舞いにも行こうと思うんだけど法水は」
「絶対行かないわ。俺御坂さんの妹嫌い。御坂さんの妹アレルギーなんだ。あの顔を見ると一発どうしても殴りたくなる」
「お、おう。
白井さんを病院に連れて行ってすぐ、駆け付けて来た御坂さんと上条に俺はいともあっさり電波塔を売った。『
結果、俺に雷が落ちた。物理的に。黙ってた罰だとさ。マジでやってられん。
「でもまさか御坂の妹に
「実験の再開とかについては心配要らないよ、あいつの頭にはいかに『
「お、おう。風斬の仲間みたいなもんか」
それは少し違う。風斬さんはAIM拡散力場そのものであるが、
「それより結標淡希だけどさ」
「ああ、誰にやられたのか知らないけどいいとこ取られたな。上条さんが見つけたんだろう? 聞いた話だと鼻が完全に逝ってたとか」
俺が白井さんを病院に送っている間に、サラシ女を追った上条さん達はすぐに発見されたらしい。街の一角の窓ガラスが吹き飛び、ビルの屋上に転がっていたらしいサラシ女。バチでも当たったんだろう。御坂さんに喧嘩を売って、『
「じゃあ俺はそろそろ行くから、法水は?」
「もう着替え終わっただろうし、白井さんのところにもう一度顔を出すよ。御坂さんもいるから気まずいけど」
「って超適当に言ってみたワードになんてウブな反応してますのお姉様は! やっぱり、やっぱり先ほどわたくしの着替え中に病室に入ってきた、あの野郎がお相手でしたのね!! あの若造がァああああ!!」
怖い。病室の扉を開けたら般若がいた。白井さんは不死身か? ベッドの上でバッタンバッタン跳ねる白井さんは怪我が痛くないのだろうか。まさか俺と同じく痛覚が鈍いわけでもあるまい。入って来た俺を見て、御坂さんは眉間に皺を寄せ、白井さんの頭からはツノが取れた。
「白井さんが元気そうでよかったよ。じゃあ俺はこれでさようなら」
「いやアンタ何帰ろうとしてんのよ。お見舞いに来たんでしょ? 入ればいいじゃない。ねえ黒子」
「そんな、お姉様との時間が……はあ、まあいいですわ。特別ですわよ」
特別とかいらないから帰りたいんですけど。白井さんが許可を出したのが意外だったのか、御坂さんも少し目を丸くして白井さんを見る。ベッドの脇に座るような立ち位置にはいたくないので、そのまま白井さんと椅子に座る御坂さんを通り過ぎて窓際に立った。
「ちょっとそんなところでいいわけ? お見舞いに来たんだからもっとこっちに来なさいよ」
「俺は狙撃手で目がいいから遠くても良いんだよ。それに、白井さんの怪我の具合なら見た医者の次に詳しい」
病院に着くまでの繋ぎでまた応急処置をしたのは俺だ。白井さんが動けなかったから、全部俺がやる羽目になった。衛生兵になった気分だ。白井さんが御坂さんにしな垂れかかろうと手を伸ばす。
「あぁお姉様。わたくし汚されてしまいましたわ。こんな男に身体中を舐め回されて」
「ブッ、嘘を言うな嘘を! 応急処置だろしたのは! 白井さんがそういうこと言うと、また良からぬ噂が」
「良からぬも何も元から良くないでしょう。一体何度貴方を補導した事か」
さて何度か。白井さんに初めて会ったのはほんの五ヶ月前だが、十回を超えてから数えていない。少なくともその数の三倍は超えてる。不確かな記憶に潜っていた意識を浮上させ肩を竦めてみせると白井さんにため息を返され目が病室の出入り口を見た。
それを察して一度病室から出る。どうもタイミングが悪かった。御坂さんと話しておきたい事があるらしい。盗み聞くのもアレなので再び談話スペースまで向かう。なんていう二度手間。手持ち無沙汰になるのが分かっているので煙草を咥えて談話スペースまで着くと、自販の前に見慣れた男が立っていた。
「おやこれはいつぞやの。奇遇ですね」
「あァ? 誰だオマエ……って、クソ、なンでいやがる」
白い髪に杖をついた白兎のような男。コンビニで偶然会っただけだが、病院でまた会う事になるとは。三度偶然が続けば運命という話を聞いた事があるが、少なくとも男と運命は感じたくない。
「友人のお見舞いですよ。そちらは……ここに入院されてるんですか?」
「……ッチ、まアな」
相変わらずの拒絶体質だ。一度学園都市をドライブした仲。もう少しくらい表面だけでも人当たり良くしようと思わないのか。というかあの時は結局適当なところで下ろしたが、病院なら病院と言ってくれればいいのに。男はそれ以上言う事はないというように白い頭を掻いてその場から離れようとする。
「あれ? 買わないんですか?」
「……気に入ったのがねェ。自販じゃダメだな」
なるほど。だからわざわざコンビニまで来たのか。入院していながら缶コーヒー買うためだけにコンビニに行くとは。着ている服装を見るからにこだわりがあるようには見えないのだが、コーヒーマニアだったりするのだろうか。ヨタヨタ離れていく男を尻目に自販に金を投入してボタンを押す。出て来た缶コーヒーを手に取って男に声を掛け軽く放った。
「……なンだ」
「この前のお返しですよ」
「オマエこれ微糖じゃねェか。こんな甘ェの飲めるか」
「たまには違うのもいいものですよ。意外と気にいるかも」
男はしばらくその缶を見つめた後、投げ返してはこずに舌を打つと離れていった。小さくなった背中が入った病室は白井さんの隣。マジかよ。やっぱり世界は狭いと思う。
そんな男と入れ替わって、白井さんの病室から御坂さんが出てくる。話が終わったらしい。御坂さんは少し辺りを見回した後、俺に気がつくとため息を吐いてこっちに歩いて来た。ため息と舌打ち。俺を見つけた誰かはその二つのどちらかをしないと気が済まないのか。立場の厳しさに笑えない。
御坂さんは俺の横まで来ると、その鋭い目を怪しく曲げて顔を見て来る。なんだ。口も開かずしばらく俺を眺めていると、「アンタがねぇ」と呟いた。なんだよ。
「何か顔にでもついてるのか?」
「別に、黒子が呼んでるわよ。私はちょっと……妹と話があるから」
「
「バラしたのはアンタでしょうが。全く、会ってみたいだのなんだの黒子に言われたわ。私だって会った事ないのに。誤魔化すのすっごい苦労したんだから」
「埋め合わせはいつかするさ。それにあんなのとは会わない方がいいぞ」
そう言うと御坂さんの顔が顰め面になった。いやでも本当に。御坂さんの妹さんが病院にいるので入院していた時に数回話したが、同じ妹でもタイプが違う。御坂さんの妹さんのような素直さがアレにはない。しかも何を考えているのか分からない奴だ。相手をしないに限る。「黒子をよろしくね」と言って、御坂さんは俺の肩を叩くと離れていった。白い男といい御坂さんといい忙しい事だ。
白井さんの病室の前まで歩き、少し足を止める。白井さんと二人きりというのは珍しい事ではない。いつも
俺は白井さんの底に少し近づいてしまった。あっちから寄って来た時はこちらから離れればいいし別に気にしないのだが、逆だと少し困る。気に入らない相手だと分かればそいつの人生に終止符を撃っておしまいだ。だが気に入った相手だと、離れるのがもったいなくて二の足を踏んでしまう。この病室に入り出る頃にはこれまで通り。そう思って扉を開けた。
包帯塗れの白井さんが折り畳んだ膝に顎を乗せて待っていた。開いた窓からそよそよ白井さんのツインテールを靡かせるぬるい空気。その横顔に一瞬見惚れてしまうが、気にせず病室に入り扉を閉める。
大丈夫そうで良かった。完治まで結構かかるな。残骸は気にするな。サラシ女も入院だとさ。話題には事欠かないはずなのに、頭に浮かんでも口から出ない。どれも正しい気がするし、どれも間違っている気がする。
これなら御坂さんがいた方が楽だった。
「……わたくしは弱いですの」
ポツリと。風に吹かれてすぐに消えてしまうように。だがそれはハッキリ耳に届いた。私は弱い。その言葉に返そうと開いた口をそのまま閉じる。
白井さんは弱くない。むしろ強いと言っていい。何も分からず、何も知らず、それでも自分の信じる道を歩いてみせた。あの場で誰より強かったのは、俺でも上条でも
白井さんが言っているのは、在り方や心の事ではない。それは単純な力。俺が最もよく知る暴力。そういう意味でも白井さんは弱くはないと思うが、今回の件で白井さん自身何かを掴み、そして辿り着いた結論に俺から言える事はない。故に沈黙。
まるで何もなかったかのように何も変わらない。だが、そう見えるだけでそんな事はなく、白井さんの目が俺へと向く。だから代わりに俺が窓の外に目をやった。雲一つない青空。その潔癖さが逆に鬱陶しい。
「ねえ貴方、わたくしと初めて会った時のこと覚えているかしら?」
そう言われて深く記憶に潜らなくても、
「覚えてるさ」
すぐにその時の事は思い出せる。俺が学園都市に来て初めて印象に残った出来事だ。無人のバスでも、モノレールでも、多くの学生でもなく、俺を驚かせたのは彼女。超能力というものを教えてくれた。上条と親しくなるより、土御門が仕事を持ってくるよりももっと前。
入学式を終えていつも通り俺はイヤホンをつけて歩いていた。聞いていたのは競馬の実況。競走馬の刹那の勝負に思いを馳せて、燻る必死を和らげるために。そんな俺にドロップキックが飛んで来た。まだ学校生活に慣れず、戦場の気質を残して警戒していた俺が全く気付かず蹴り飛ばされた。どんな特殊部隊が襲って来たのかと思ったが、見上げた先に居たのは一人の少女。「
「この歳になって自分よりも小さな子に倒されたのは初めてだったから良く覚えてる」
「そうですか。わたくしはあまり覚えてないですの」
「おい」
なんかしんみりするような空気を出して言う事がそれかよ。
「わたくしからすれば良くある事でしたから。馬鹿が馬鹿やっている。そのくらいの感想でしたわね」
「そうかい」
どうせ俺は仕事がなければなんの取り柄もない男に過ぎない。鍛えた暴力を取り上げられてしまえば、そこらを歩いている人と何の違いもありはしない。俺が最も恐れている事だ。つまらない、面白みもない人生。誰かに代用されても何の問題もない物語。そんな人生歩みたくない。
「でも」
いつも抱えている嫌悪感に蝕まれ始める中で、白井さんの一言が俺の意識を引っ張る。
「もう五ヶ月ですか」
「そうだな」
「こんな長い付き合いになるとは思いませんでしたのよ?」
それは俺もそうだ。変な奴に出会ってしまったが一度会った感想。なのに次の日同じ場所で同じ箇所をまた蹴られた。そして三度目。ここまで来ると嫌でも分かった。こいつは天敵だ。その通り今でも急に蹴っ飛ばされたり、現れては俺を唯一連行していく少女。
「それは俺もだな。なんだかんだ学園都市で一番付き合いが長い」
「ええ、でも、貴方が強いと知ったのは本当につい最近」
「俺が強いって? どこが」
ハッキリ言って俺は強くはない。弱くはないが、強くはない。そんな立ち位置。この世には俺一人ではどうしようもない事が多過ぎる。初めに持っていたものが違がければ、俺の生き方も違ったろう。そんな俺を白井さんは強いと言う。おかしな顔でもしてしまったか、白井さんが小さく笑った。
「そうですわね。お姉様と比べたりすればそれこそ象と蟻、大人と子供。ゴミと金塊」
そこまで言うかよ。ただ否定もできないので肩だけが下がっていく。
「でも貴方の強さは誰が見ても良く分かる。なぜなら目で追え、そして自分でも同じ事ができるのだと分かるからこそ。でも分かっても自分ではできないとも分かるから。貴方が拳を振るう。引き金を引く。その一つ一つに見える才能ではなく努力の跡。それを見てしまうと、辿って来た努力の差に何も言えなくなってしまう。それが貴方の強さですわ」
「そうかな。というか俺の場合努力以外にできる事がなかったからな」
「努力は才能なんて言葉がありますけれど、それは言い訳ですの。努力は努力。それは全ての元になるもの。才能なんて言い訳で馬鹿にするのは努力した者に失礼ですの」
そう言って白井さんは足を伸ばした。その目を強く引き絞って俺を見る。今度は目を反らせなかった。その目の強さに惹きつけられる。
「わたくしは強くなりたい」
白井さんの輝きがより一層強くなる。強くなりたい。強くなりたい。誰より強くならなくてもいい。ただ自分が望む強さが欲しい。それはどれくらいか。一人を守れる強さ。欲しいものを欲しいと言える強さ。誰にも負けない強さ。人を寄せ付けない強さ。どれであろうとそこへ辿り着きたいという想いは良く知っている。だが何故それを俺に言う。
「わたくしは強くなりたいんですのよ」
「誓いか?」
「ええ、でもそれは他の誰でもない、貴方に言っているんですの」
「は?」
何を言っているのかよく分からない。俺に強くなりたいと訴えて一体どうする。俺は魔法使いではない。かぼちゃを馬車にするような手品は使えない。俺にできる事は生者を死者にするくらい。間抜けに口を開ける俺を見て、白井さんが笑った。
「ふふ、いえ別に鍛えて欲しいなんて言うつもりはないですの。人殺しの術なんて学んだところでわたくしは使わないですし。ただこれは宣言ですわ」
「……なんの?」
「ただ貴方の近くにいると。お姉様の側にいつもいて、金魚の糞のように張り付いて、これまで通り過ごす事はできますわ。でもそれをわたくしは絶対に望みません。わたくしはお姉様の隣に立ちたい。だからあえて、きっとどこよりも厳しい道を歩む貴方の道に少しお邪魔しますのよ。貴方の道は戦場なのでしょう? それほどうってつけな道は他にありませんもの」
白井さんが満面の笑みを向けてくる。つまりこれは何だ? 正面きってのストーカー宣言か? この先年がら年中
「ふふふ、そんな顔しないでくださいまし。悪いとは少し思いましたけど、初春をけしかけて貴方について分かっている事は全て聞きましたわ。貴方の雇い主の一つが国際連合だということはもう知ってますの。全く、世界中からの監視者がまさか貴方のような男だとは思いませんでしたわ」
「そりゃどうも」
「だから交渉といきましょう。国際連合が後ろにいる貴方に強く何かを強いるのは、不可能だという事が分かりましたから。だから、貴方の近くにいる時はある程度目を瞑りましょう。その代わりわたくしが側にいる事を認めてくださいまし。
非道い口説き文句だ。交渉とか言いながら断ったところでどうせ着いてくる。というかこの少女に本気で追いかけられて逃れられるわけがない。実質手錠で繋がれたようなものだ。それも鍵のない強固な手錠。
「はあ、はぁぁ……。どうせ無駄だと思うが、言っておくと一度踏み込んだら引き返せないぞ」
「上等ですの」
「死ぬような目に合うだろうし、人の死もしょっちゅう見るだろう。それに俺や上条みたいにこの病院の常連になるかも」
「あら、これでも
「強くなるったってどうするんだ? 俺には教えられる事なんてほとんどないぞ」
「貴方この前何か新しく始めようかなんて言ってましたわよね? ライバルは必要ではありません? どちらがより望む強さに近づけるか。一緒に始めれば辞めたいなんてまさか言いませんよね?」
白井さん舌戦強え‼︎ ダメだこれはもう断れる雰囲気ではない。白井さん本当に中学生? やり手の軍人並みのやり込め方だよ。白井さんが俺の歳になる頃には相当のやり手になってそう。というか多分今の俺よりエライ強くなっている。確信が持てる。……そしてそれを見てみたい。この先彼女がどれほど強くなっていくのか。ただ俺が頷くだけで彼女の
「……アルバイト代はおいくらで?」
断れるわけがない。例えいずれ道が分かれる事が分かっていても。そこに至るまでの間、この小さな英雄の
「あら、ここまで言ってなんですけどいいんですの?」
「まあ、白井さんがいつも手を貸してくれるとなると俺の仕事超楽だからな。利益を考えれば受ける以外にない。ただ白井さん
「まああまり良くないですけれど。そっちはわたくしがどうにかしますの。これも自分のため。ではこれから頼みますわよ」
いいのかなあ? 個人的には嬉しいが。まあ白井さんの顔を見ているとどうだって良くなってくる。ため息を零す俺の目の前にふわりと一枚の紙が落ちて来た。手に取ってみると、……電話番号?
「わたくしの電話番号ですの。プライベート用ですからそんなにかけて来られても困りますけれど」
「いや、多分仕事以外でかける事ないぞ」
「それならそれで構わないですわ」
「まあ貰っとくけど白井さん」
そう言うとビッと白井さんが指を突き付けて来る。一体なんだと言う前に、眉間に皺を寄せた白井さんの顔が目の前に現れた。
「それ、気に入らないですわね。わたくしもこれで仲間なのでしょう? 貴方仲間に他人行儀過ぎやしませんこと?」
何を土御門みたいな事を。目的が達成できるなら他人行儀だろうとなんだろうと関係ないだろうに。それに俺にとって仲間とは時の鐘の者達の事を指す。仲間って一応仲間だが。本質的なものが異なる。俺は正義の味方の仲間にはなれない。目でそう訴えかけてやるが、こいつ全然引く気がねえ。っていうか目力が凄い。怖いよ。
「別に白井さんでいいじゃないか」
「気分の問題ですの。あの類人猿でさえ、白井白井と気安く呼んでくれて……ぐぅぅ何という。アレより遠いのは癪ですわね。特別に名前で呼ぶ事を許して差し上げますわ。お姉様だけの特権でしたけど、類人猿と同じは認めません」
なんだよそれ。上条。おい上条。お前のせいで超面倒な事になってるんだけど。こういうのは上条の役目であって俺の役目ではない。そのはずだ。だがそう呼ばないと絶対ずっとこの話題を引きずる。その労力を考えれば、たかが名前一つ。どうせ白井さんに引き金を引く事なんてほぼゼロだ。その線引きを多少緩めるぐらいはいいだろうか。白井さん一人ぐらいなら困らないかも……昔みたいに親しくなった者を次の日には撃つ環境でもない。
「分かった分かった、黒子さん。これでいいだろう?」
「……ん、まあまあですわね」
何が?
疑問符を浮かべる俺の耳に届く轟音。病院で何があったというのか。音のする方へ目を向ければ、それは黒子さんの病室の扉が力強く開かれた音だった。どれだけ早く走って来たのか、御坂さんと上条が肩で息をしながら険しい目で黒子さんを支える俺を見てくる。その後ろからはトテトテ向かってくるまだ小さく見える
「私の後輩に何してくれとんじゃコラァあああ!!!!」
電撃で身体能力でも上がっているのか。側頭部に走った衝撃に、病室の壁に押し込められる。完全に体が半分埋まった。痛みを感じ辛い体じゃなかったら意識が刈り取られているところだ。壁を崩して身を起こす俺の目の前で、黒子さんを守るように体で抱きしめ、御坂さんが睨んでくる。それを隠すように飛んで来る拳。俺の顔がかち上げられた。
「法水! お前がそんな奴だとは思わなかったぞ! ありえねえって信じてたのに、病室に入ればこれだとはな。テメエ! 白井に何するつもりだったのか知らねえが、そんな幻想、俺がぶち殺してやる!」
上条に殴られた。その事実に頭が追いつかない。ちょっと待て。今? 今なの? こんな必死いらんぞなんだマジでわけ分からん。
「おい急に何しやがる。御坂さんも上条さんも意味が分からんぞ。俺が黒子さんに何かするわけがないだろう」
「く、黒子さんですってェええ⁉︎ ちょ、ちょっと黒子大丈夫だった? 私が悪かったわ。まさかあんな奴と二人っきりにしちゃうなんて、ゴメン黒子」
御坂さんが黒子さんを抱きしめる。黒子さんが何か言う前に黒子さんの表情が溶けた。ダメだアレは。絶対頼りにできない。その証拠に黒子さんは御坂さんの背中に手を回し、強く抱きしめ返した。「黒子は、黒子は怖かったですの」ってなんだよ。何が怖かったの? 俺が怖いよ。
「クソ! まさか友達だと思ってたお前がこんな事するなんて……頼む法水。悪いと思うなら出頭してくれ、これ以上俺はお前を殴りたくねえ! インデックスの時も、
「おい待て、マジでちょっと待て。思考が追いつかない。お前はいったい何を言ってるんだ?」
「何言ってるかって? おい法水、ふざけてるならマジで許さねえ。このレイプ魔が!」
「れ、れれ、レイプ魔⁉︎ おいふざけんなよマジで! 許さないのは俺の方だくそったれ! いつどこで俺がレイプ魔になったんだ‼︎」
「御坂妹に聞いたんだ、いつもおとなしい御坂妹が、あんなに感情を露わにして教えてくれたぜ。怪我をした白井にいやらしい手つきで」
あいつだ。あいつだァあああ!!!! クッソマジであの腐れ電波女が!!!! どれだけ俺を陥れれば気が済むんだあの野郎マジで。やばい、この握り締めた拳をどうすればいいというのか。おやよく見れば殴るのにちょうど良さそうなツンツン頭のサンドバッグがあるじゃないか!
「法水! お前がそんな怪我人に手を出してもいいなんて幻想を抱いてるなら、その幻想をぶち殺す‼︎」
「なあ上条、一発は一発だよなあ? 久し振りに怒髪天なんだ。虫の居所が悪いなんてもんじゃない。いいだろう、この物語に
俺と上条の拳が交差する時、何も始まらず終わらない。御坂さんを離さない黒子さんのせいで御坂さんは戦線離脱。
『これからよろしくお願いしますわね孫市さん』
そんな黒子さんのメールを最後に、俺の無駄な一日は終わった。
PS. 学校で俺は女子中学生と包帯プレイを楽しむ変態という噂が広がっており、あだ名が女子中学生マスターから、ドクターJCに進化した。このあだ名をつけた上条、土御門、青髮ピアスの三人。俺は絶対お前達を許さない。アドレス帳の名前をドクにした事知ってるから。いつか殺す。