ビルに囲まれた影の中、金髪にサングラス。なのに着ている服は体操服というアンバランス。第二競技である大玉転がしを終えて、時の鐘の軍服に着替えてからメールに書かれていた集合場所に着けば、既に土御門が待っていた。だが土御門だけではない。傍らに立った燃えるような赤い髪。口には煙草を咥え、頬にはバーコードのような刺青がある男。
イギリス清教『
それが分かったお陰で少しムッとした俺の顔を、土御門は薄く笑みを浮かべながら手を挙げてくる。背負った相棒の入っている弓袋を背負い直し、ステイル=マグヌス、土御門の顔を順番に眺めて、これ見よがしに肩を竦めて見せる。
「仕事だ。給料は出てるし魔術師が相手だろうと防衛なら問題なく引き受けるさ。だが一応まず聞いておく。『
「はっはっは!それはないぜい。『
そう土御門は言うが、本当かどうかはどうだっていい。どうせ誰が相手だろうと俺はやる。土御門から視線を切って、ステイル=マグヌスの近くに寄って煙草を咥える。赤信号みんなで渡れば怖くないの精神だ。
「世間話はいらない。ステイルさんと俺は上条さんと違って仲が良いわけでもない。仕事は?」
「おいちょっと待ってくれ、それだとまるで僕があの男と仲が良いようじゃないか」
「分かった俺が悪かった。そこはどうだっていい。仕事の内容は何だ?」
ステイルさんの細められた目が俺を睨んだので、手で払うように視線を散らす。土御門は可笑しそうに俺とステイルさんを眺め、睨んでやると急いで口を開いた。
「魔術師達が学園都市に入った」
「
「現在確認されているだけでも二人。ローマ正教のリドヴィア=ロレンツェッティ。そしてそいつが雇ったイギリス生まれの運び屋であるオリアナ=トムソン。両方女だ。さらに、彼女達の取り引き相手である人間が最低一人はいるはずなんだけど、こちらは判然としない」
俺の疑問に隣に立つステイルさんがすかさず答えてくれる。土御門と違い仕事という括りで言えばステイルさんとの方が相性が良い気がする。無駄話は必要ない。必要な事を必要なだけ知れればそれで良い。その方が余計な事は考えずに済む。
それにしたってまたローマ正教だ。アウレオルス=イザードもそうだが、病院で上条に聞いた『法の書』の問題といい、最近ローマの雲行きが怪しい。あらゆる雲行きを忘れないゴッソがスイスも忙しくなって来たと言った程だ。俺達時の鐘と最も繋がりが強いのはバチカン、ローマ正教。バチカンで何かがあれば、芋づる式に時の鐘にも影響がある。
「その二人だけなのか?」
「彼女達の取り引き相手に君は心当たりでもあるのかい?」
「時の鐘からの情報だ。『
俺の一言にステイルさんと土御門の顔が僅かに引き攣る。その気持ちはよく分かる。運び屋といった遠回りな存在ではなく、異教徒ぶっ殺し集団の殺し屋が来た。どこで血が流れるかも分からない。『
「取り引き相手ってわけじゃなさそうだにゃー。『
「さてな。ただ言っておくと『
『
学園都市の場所を考えればある程度マトモな者が来るはずだ。魔術師を能力者が倒すのはマズイという事をローマ正教だって分かっているはず。わざわざその可能性を強める事はないだろう。そう考えると、新たな疑問が湧いて来る。『
「土御門さん。なぜ青髮ピアスにも連絡した。あいつは能力者だろう」
いくら暗部に入ったとはいえだ。魔術師関連はまた別のはず。能力者の中でも学園都市の象徴である
「それはな孫っち。ボクがもう何度か魔術師を倒してるからや」
そう言う青髮ピアスに「本当かよ」と聞くと、手を上げておどけるだけで答えようとしない。その仕草に考えが至った。
「そうか、藍花悦だな」
「おかげで魔術師の間ではボクが実は魔術師なんじゃないかと思われとる。藍花悦は
名前貸し業が今回は良い方に働いているらしい。藍花悦の誰かがどこかで魔術師絡みの事件に関わった。無数の藍花悦がいるおかげで、青髮ピアスは些細なルールには縛られずに動けると。ひょっとすると
「問題は一つ片付いたな。で、次だ。その侵入者を追うのはここにいる俺達だけで良いのか? 神裂さんなんかは? 他の『
「んー、そこが今回問題のところではあるんだが」
「とりあえず『
「もう観光ツアーでもやれば良いんじゃないか? そのまま刑務所に直行しよう」
「そうしたいのは山々だがな。リドヴィアやオリアナ達の問題はデリケートなんだよ、面倒な連中・事態を抑えるためにも、あくまで事件で動けるのは「学園都市にやってきた知り合いの魔術師」だけと思わせておくんだ。学園都市の人間と接点のある魔術師なんて、ほんの一握りだ。どうしても少数精鋭の攻め方になっちまうのは仕方がないぜい」
「おかげで守る方も少数精鋭か」
百人も二百人も相手するよりかは良いが、それでも逆を言うなら相手は二人もいれば良いと思っているという事だ。大覇星祭の準備や学園都市の問題に追われていた俺達と違い、相手はしっかりと準備をして来ているはず。そうなるなら、
「やはり神裂さんがいた方が良いだろう。それだけで仕事の労力が段違いだ」
聖人。規格外の女性だ。
「神裂は、使えない。今回は特にね。何しろ、取り引きされる霊装が霊装だ」
「その霊装の名前は「
「何?」
なんたるデタラメ。まるでゲームのアイテムだ。魔術とはそんなゼロか百かのような代物まで作れるとは。過程も気にせず結果だけを連れて来るような代物は基本的に嫌いだが、それを作った人物は賞賛して然るべき。よくそんな代物を作れたものだ。科学を嫌う癖に魔術師というのは何だかんだいって科学的な物を作りたがる。ボタン一つで空調を調整してくれる空調機のように。
「はあ、まあここに聖人はいないしいい、その取り引きを阻止するのが仕事でいいんだな?」
「まあそういうわけだ。カミやんは禁書目録を近づけないために動いてもらってる。その間にできればケリをつけたい」
「おい待て。今上条さんと言ったか?」
俺の疑問に土御門は口を開かずにサングラスの位置を戻した。ステイルさんの方を見ると、小さく頷く。
「駄目なんだ。今回の件じゃ、禁書目録は使えない。事件の現場に近づけさせる事も、事件に関する情報を伝える事もやっちゃいけないぜい。そのためにカミやんには動いて貰うしかない。連中の多くは、『何か起きるなら禁書目録が中心となる』と踏んでるって訳ですたい。それなら、インデックスの周囲にサーチが集中するのは常識だろ? ところが、だ。実際問題、学園都市全域を常時カバーできるような大規模感知術式は存在しない。『グレゴリオの聖歌隊』みたいに組織的術式を採用したとしても、おそらく半径一キロあるなしが限界だろうにゃー。だからインデックスを事件の渦中から遠ざけておけば、外の連中はそっちに視線を注目させる事になる。となると、よそで多少の魔術戦が起きても見過ごされる可能性すら考えられるにゃー。逆に事件の核心近くに彼女を招くと、ほぼ確実にアウトだ」
あの食いしん坊お嬢さんにそこまでの知名度があったとは。『
「上条さんを関わらせていいのか?」
「それはボクも気になるなあ。カミやんも動く言う事は〈シグナル〉で動く言うわけやろ? でもカミやんは自分が暗部の組織に名前を入れられとるのは知らんはずや、何も言わずにカミやん巻き込んでええんか?」
「いやむしろ巻き込んだ方が良いのさ。今回の件で今まで禁書目録に向いていた目を外し、オレ達に目を向けさせる。いつ禁書目録の最も近くにいる
なるほど、これはチャンスというわけだ。〈シグナル〉と名が決まってからの初仕事としてこれ以上の仕事はない。世界に数えるくらいしかいない聖人という存在を守る事に成功すれば確かに名が売れる。それも相手は世界最大の宗派。だが、
「いいのか? 〈シグナル〉の区分は学園都市の暗部だろう。学園都市の暗部が魔術師を倒して問題にはならないのか?」
「前に言っただろう孫っち。〈シグナル〉の仕事は防衛に護衛。対暗部。そして、対魔術師だ。そのために学園都市にいる奴らの中で魔術師を倒したとしても問題ない奴らの中からトップクラスを集めた。それがいつもプライベートでつるんでる奴らってのが少し面白いトコだけどにゃー」
面白い、ね。確かにつまらなくはないが、傭兵としての心情的には少々不安だ。土御門はプロだ。ステイルさんも。俺だって。時の鐘の仲間達もだ。だからこそ、一回一回の仕事の中で、誰かが、又は自分が死ぬかもしれないといつも思っている。だが、上条と青髮ピアスは違う。力はあっても一般人。彼らがもし死ぬような事があれば目も当てられない。
「まあ……俺は仕事ならなんだっていい。リドヴィア=ロレンツェッティとオリアナ=トムソンを潰せばいいわけだ。で、場所は?」
俺の言葉に答えたのは土御門ではなく、土御門の持つ携帯の着信音。土御門は掛かって来た電話に出て少しの間会話をすると通話を切った。その顔は言葉にできない微妙なもの。嫌にたっぷり時間をかけて肩を竦めると、重々しく口を開く。
「場所はカミやんが知ってるぜい。カミやんがオリアナ=トムソンに接触した」
「……なるほど、これでちゃんと〈シグナル〉の話になったやん」
「頼むから誰も『不幸』とか言わないでくれ、言ったらぶっとばすぞ」
ビルの影から出て行く土御門を追って、咥えていた煙草を踏み潰しその場を離れる。行き先は四人目の男のところ。どう転んでも上条は勝手に転がり込んで来るらしい。
***
金髪の女がいた。作業服を作業服の意味ある? というほど着崩した女だ。上条の連絡を受けた場所に行ってみれば既におらず、追加で送られて来たGPS地図を追って、上条を見つければその先に金髪の女だ。魔術師である土御門とステイルさんが先行し、俺と青髮ピアスと上条がその後を追う。上条はオリアナ=トムソンを見ながらも、我慢できずに青髮ピアスの方を気にしている。
「おい、なんで青ピがいるんだ?」
「早速仲間外れは酷くあらへん? 分かってる癖にー」
「嘘だろ、まさかお前も土御門や法水みたいに……」
「実はボク
「ぐっ、何で俺の周りはこんなのばっかなの⁉︎ 能力者で魔術師の多重スパイに、
叫ぶ上条を放っておいて俺と青髮ピアスは加速する。一人置いていかれるのが嫌なのか上条も何とか追いついて来る。漫才に花を咲かせてもいいのだが、残念ながらその暇はなさそうだ。
オリアナ=トムソン。確かに運び屋として呼ばれただけはある。彼女はプロだ。俺だって追跡は嗜んでいる。探る事が得意な土御門やステイルさんは俺よりもっと得意だろう。それでも未だに捕まらない。三十メートル先を看板のような物を持ったオリアナ=トムソンは悠々と走り、その距離が縮まらない。だだっ広い荒野ならば追いつく事は容易だ。邪魔なのは大覇星祭を見に来た客の波。こういう時、普通なら人の居ない小道へ逃げたくなるものだが、あえて大きな表通りを通る事で、人を上手く壁に使っている。それができるのもオリアナ=トムソンの逃避術あってこそだ。
しばらく前を走っていたオリアナ=トムソンだが、少しすると一瞬立ち止まり、大きく横に走って行く。オリアナ=トムソンのいたところまで辿り着き、去って行った方を見れば多くのバスが並んだ詰めどころ。
規則正しく並んでいるバスは、学園都市の学生がいつも愛用している無人自立バス。ビル達に囲まれて薄暗がりの中、金属の柱に安っぽい屋根。その上に乗っかった多くのロボットアームが、ここはバスターミナルではなく整備場である証。どれもこれも四角い鉄の箱に貼り付けられた表示は『回送』。
新しく同じ表示を貼り付けた自立バスが音もなく俺達の横を抜けて行く。それを追ってゆっくり整備場に入って行くバスを壁にするように中へ踏み入る。そうして、先頭を行く土御門が一歩整備場に踏み入った瞬間、まるで何かのスイッチを押してしまったかのように、青白い爆煙が天井から降って来た。
魔術。考えなくとも分かる不自然な色をした火が、土御門に引っ張られるように落ちて行く。
「クソ、トラップでこっちの足を砕く方向に変更したのか! 伏せろカミやん!」
追っ手から逃げるには、追っ手を追えないような状態にしてしまえばいい。単純だが究極的な答えの一つだ。クレイモア地雷のように魔術を配置し、踏み入った俺達を潰そうと動いた。その場で詠唱を唱える訳でもなく、ある程度のルールを孕んだ魔術をどう組んだのか。一流の魔術師はコレだから面倒だ。俺達の中で最も居なくなっては困る上条を土御門が守ろうとするが、それより早くステイルさんに首根っこを掴まれた上条が爆煙に向かって放り投げられる。
「はい!? ってか、ふざっけんなァあああ!!」
地面に転がり炎に晒された上条が、ヤケクソ気味に迫る炎に右拳を突き出した。火に水をかけたかのように、跡形も無く消え去った。
「いや、我ながら、なかなかのチームプレイだね。役割分担ができているというのは、分かりやすくて動きやすい」
「お、おまっ、お前……ッ!!」
上条にエンジンがかかっていない状況では、ステイルさんの方が一枚上手らしい。掴みかかろうと迫る上条を蹴り出し、新たに迫った魔術へと差し向けた。この短時間でどれだけの魔術式を組んだのかは知らないが多彩過ぎる。青ピと共に止まっている自立バスに背を預ける。隣のバスには同じように土御門が、起き上がった上条がそれに続く。
「ステイル。お前はここでルーンのカードを貼り付けて待機してくれにゃー。こっちは奥に進んで運び屋を押さえる」
「了解した。人払いは使った方が良いかな?」
「頼むぜい。余計な魔力は撒きたくないが、ここで騒ぎが広がるのはさらにマズイ。禁書目録がこちらに向かっていない限りは問題ないだろ」
「なぁ。全員で向かった方が手っ取り早くねーか?」
「カミやん。こんだけ遮蔽物が多いと、行き違いになるのも考えられるんですたい。可能な限り、全ての出口を封鎖するのが追撃戦の基本だぜい」
土御門の説明に納得したらしい上条が頷く。これは一度進めば戻れないベルトスクロールゲームではない。ここに今オリアナ=トムソンがいないとしても、いずれまた来る可能性もあるのだ。
「で、カミやんはどうする? オレとしちゃここに残ってた方が安全だと思うが……」
「良いね。僕としても残ってもらった方が安全だと思う。君ではなく僕の安全だが」
ステイルさんの皮肉に、上条は地面に落ちてる空き缶を投げつける事で答えた。つまり付いて行く気らしい。
「それで? 傭兵君達はどうするんだ?」
「ここに二人もいらないだろう、行くさ」
「安心しい、ボクらは高校入ってから親睦会で仲良くなってからの付き合いや。あの日から殴り合ったり蹴り合ったり、殴り合ったり蹴り合ったり……」
「ロクな思い出ないにゃー」
「本当にな。思えば最悪の出会いだったよーな。一人は義妹の事しか話さねえし、一人は女子高生とはとかいう持論を展開するし、一人はやたら荒れてたし、何で今も付き合いが続いてるのか思えば謎だぞ」
「……大丈夫なんだろうね?」
俺達の昔話を聞いてステイルさんが口端を引攣らせる。
「何、大丈夫だ。普段から容赦なく殴り合ってるおかげでこいつらの考えは読める。ステイルさんと上条さん並みのチームプレイは期待して貰っていい」
「なるほど、それは安心だね」
大きく紫煙を吐き出すステイルさんを残し、バスの陰から整備用通路を進む。足を踏み入れれば、何もなく静かだった空間が途端に軋み、現れる炎の槍と風のギロチン。右拳を突き出そうとしていた上条の襟首を土御門がひっ掴み、避けながら前へと進む。青髮ピアスは地面を蹴って飛び越え、俺は普通に走り抜ける。
「カミやん、いちいち全部相手にしようと考えるな! これは時間稼ぎの囮だぜい。まともに対処してたら間違いなく逃げ切られちまう!!」
「上条さん、こういう仕事の時は第一目標だけを追うんだ。他のが気になってもだ」
「んな事言われても……ッ!!」
とめどなく迫り来る魔術。オリアナ=トムソンとは罠師なのか。どうやって短時間でこの数の魔術を仕込んだ? 事前にとは思えない。それなら土御門やステイルさんが気がつくだろう。こういった魔術が得意だから運び屋なんてやっているんだろうが。
足を踏み出す度に新たに襲い掛かって来る魔術を目には入れても全て無視して前へ進む。並んでいた自立バスの姿は消え、バス用の大型洗浄機が姿を現した。建物二階分はある巨大な機械。その陰へとカールした金髪が滑り込んだ。
「いた‼︎」
上条が叫び自立バスの陰から完全に飛び出したところで、視界を遮るように地面が盛り上がる。泥の波が通路を埋め尽くし、俺達を飲み込もうと手を伸ばして来る。だがそれを蜘蛛の巣を払うように上条の右手が簡単に引き千切る。泥の壁が砂の粒子となって霧散する。その中を土御門が飛び抜けて、大型洗浄機の向こうへと消えた。それを追っても、土御門以外の姿はない。オリアナ=トムソンを見失った。
洗浄機には単語帳サイズの長方形の小さな厚紙が貼り付けられており、洗浄機の陰には裏口の扉。少し離れた所のマンホールの蓋も開いており、左右の壁となっているビルのガラスは割れていた。無数に散らばっている逃走の跡。ここに来て遂に足が止まる。
「『
土御門が乱暴に貼られていた厚紙を乱暴に剥がす。
「あなた方に祝福を」
その音に紛れて、ふと綺麗なソプラノの声が混じる。音はしなかったはずなのだが、確かに何かが地面に落ちて来た音がする。俺達の背後。振り返れば、透き通るような薄く長い金髪をいくつも三つ編みにした女性。まつ毛も眉毛も同じように透明な金色をしている。目を瞑っているが、こちらが見えているかのように顔を向ける。
その瞬間に背中にぶわりと冷や汗が浮かんだ。上条、土御門、青髮ピアスは新たな敵と思われる者の出現に警戒するだけだが、俺は違う。現れたのは俺の知っている相手。
『
女はゆっくりと自分の背後に手を回すと、包丁のようなものを両手に持つ。スクラマサクス。紀元前には既に原型ができていたとされる肉切り包丁に似た外見をした片刃の直刀。それを擦り合わせて耳に痛い音を奏でながら、ゆっくりと女はその目を開く。赤く血に濡れたその瞳を向ける。あぁ、最悪だ。
「孫市、貴方ですか。あぁ、あぁ、わざわざこんなところで危ない事をして、悪い子ですね。やっぱり貴方は悪い子だわ」
「法水、知り合いか?」
「ああ知ってるよ。クソ、学園都市の性質を考えればあの人が来るのはよく考えれば当然だった。ララ=ペスタロッチ。『
俺の答えに上条は身構えた。前回、カレンが来た時は一時は仲間でも最終的に上条の父親を抹殺しようとした相手だ。その仲間。上条が身構えるのは当然で、そしてそれは正しい。
「孫市以外に三人も。
「あ、あれ? この人良い人?」
上条が間の抜けた事を言う。確かにララ=ペスタロッチは『
「孫市? 貴方も、開発? だったでしょうか。受けているのですか?」
「まさか、時の鐘がそんな怪しげなの受けるわけないでしょう」
「そう、なら銃を握るその腕と、獲物を狙うその目を抉るだけで許しましょう」
「はあ⁉︎ おい法水この人何言ってんの⁉︎」
「おっかない美人さんやなあ」
叫ぶ上条をララが睨む。その目には相手を哀れむ悲哀の色がありありと浮かんでいた。今
「貴方達は違うのでしょう? 開発などと汚らわしい。悪い子です。早く良い子になってください。その為に、腕を切り落とせば良いのかしら? 足を切り離せば良いのかしら? でも頭を弄られているなら脳を取り出さなければ」
「そんな事したら死んじゃいますよ」
「大丈夫。もしそうなってもその魂は神の膝元へきっと行けるでしょう。だからせめて私の手で、あなた方に祝福を」
そう言ってララは目を閉じた。それが合図。姿勢を落とそうとするララに向けて引き抜いたゲルニカM-002の撃鉄を弾く。六つの弾丸は宙を走る六つの剣閃に叩き切られ地面に転がった。溜め息を吐いて新たな弾丸を装填する。
「土御門さん先に行け、上条さんも青髮ピアスもだ。特に上条さんは相性悪いしな。それに、ララさんの登場で状況はより悪くなった。次は俺達が追われる番だ」
「どう言う事だ?」
「土御門さん。俺は魔術師に詳しくないが、『
土御門にそう言ってやれば、納得したように舌を打つ。気付いたんだろう。ドイツで『白い婦人』なんて言えば一つしかない。
「チッ、『
「そうだ。その内の魔術の効果の一つは簡単だ。その目で見た未成年の居場所が分かる。俺達四人はもうララ=ペスタロッチに見られた。つまり」
「なんなんですかそのピンポイントな魔術は⁉︎ つまり俺たちの場所があっちには筒抜けって事か?」
「そう言う事だ。だからこのまま逃げるわけにもいかないし、追うこっちの数を減らすわけにもいかない。なら相手をするのは勝手知ってる俺が良いだろう」
そう言えば、土御門が上条を引っ張って行ってくれる。それで良い。他の魔術師連中と違って、『
「おい」
「孫っち一人ばっかり女の子の相手してズルイやん。それに、昨日の借りもまだ返せてへんしな」
そう言って青髮ピアスは持って来ていたらしい仮面を被った。俺は弓袋から相棒を取り出し袋を放り捨てる。どうせこいつらに何を言っても聞かない。ならもうやるしかない。手に持つ包丁を擦り合わせ、『