整備通路の暗闇に光る白い刃。撃ち放つ弾丸は
「孫っちアレどうにかならへんの? ブンブン振ってるように見えて隙があらへん」
青髮ピアスが能力を全開で使えるのは五分だけ。その場に合わせた適応力だけでララ=ペスタロッチの周囲を周り牽制している青髮ピアスだが、一定の距離から近づけていない。だが牽制にはなっている。ララ=ペスタロッチが遠くにいるおかげで、俺には観察できる時間がある。それに、どうにかならないかと来たか。いくら俺が『
「『
「どっちか見抜いてもあんまり意味なさそうやなあ、それにしても目瞑っててようあそこまで動けるもんやね」
「見えるモノにはマヤカシが多いのですよ。必要なのは中身。心の鼓動、吐息の音、骨の軋む動き、それがあれば目が見えなくても大事なモノは見えるのです。穢れなきモノを見ると心が喜びますが、穢れているモノを見るのは我慢なりません。少年少女は純潔であるべきなのです」
ララが刃を振るう音に合わせて、静かに口ずさんだ。無知な相手に優しく教えてくれる聖母のように。闘いながらも薄く微笑みながら、この笑みに絆されて改宗した子供の多い事よ。
「何や普通に答えてくれるん?」
「無知とは罪などという言葉がありますが、私はそうは思いません。そう言って子供の未来を狭める事は悲しい。子供の疑問には答える事こそ大人の役目。貴方も、孫市も、先程の二人もまだローマ正教の事をよく知らないからこそこうして立ちはだかるのでしょう。お話ししませんか? 私が導いてあげましょう」
「……なんやろう、なあ孫っち話くらい聞いてもええんやないの?」
この野郎。ララがなまじ美人だから絆されやがった。綺麗な顔で微笑まれてコロッと転がされている場合ではない。ララが言った通り大事なのは中身だ。中身が危険な事にも気付かずに近付いて食われてからでは遅過ぎる。ゲルニカM-002に装填されている弾丸を一発だけゴム弾と入れ替え、ララに向けていた銃口を青髮ピアスに向ける。撃つのに躊躇はない。青髮ピアスの頭に弾丸は当たり、青い髪が地面に突っ込んだ。
「何するん⁉︎ あっぶなー! っておわわ⁉︎」
倒れた先に振り下ろされるララの肉断ち包丁を転がりながら青髮ピアスは避けて行く。下に意識が向いたララに向けて、ゲルニカM-002からゲルニカM-003へと武器を持ち替え引き金を引いた。鐘を打ち鳴らしたような独特な発砲音がビルの間を反響し、その弾丸を切り落とそうと振り下ろした刃が衝撃に負けて上に弾かれた。その隙に地面を転がっていた青髮ピアスが飛び起きて下から突き上げるような蹴りを放つ。
ララは冷や汗を垂らしたが、上に弾かれた勢いを利用して上に跳ぶ。それを撃ち墜とそうと引き金を引くと、刃の壁で銃弾を反らすが、幾つもの衝撃よってララの体がビルの壁へと押し付けられた。壁を背にして刃を握るララは前だけを気にしているだけでいい。相棒に新たな弾丸を入れ、青髮ピアスが頭を振って立ち上がる。
「はあ、ララさん。お話ししましょうって具体的に何を?」
「そうですね。ですがその前に禊が先です。孫市、貴方は子供なのに銃などと、切り落とすのはやはり目と腕。そちらの子はまず話を聞きましょう。ですがその髪はいただけません。そんな色に染めるなどと……根元から刈り取りましょうか」
「こっわ⁉︎ それにコレは地毛や、能力に目覚めてからこうなってしもうて、もうどうにもならへん」
「え、そうなの?」
「では頭皮ごといきましょう。大丈夫、痛いのは最初だけです」
青髮ピアスがまた「こっわ……」と呟き拳を構える。身体能力が高いというのは厄介だ。能力だけに頼るのではなく、身一つあれば闘える。一般的な能力者や魔術師との違いはそれ。ララが刃を擦り合わせる。ギャリギャリ耳障りな音を止めるために引き金を引くが、当然阻まれた。それでいい。
金属と金属が打つかる音が響き、それを合図にするように炎と爆音が響く。炸裂弾。俺には魔術も能力もないが、代わりに弾丸にバリエーションがある。俺が唯一魔術師や学園都市の者達に優っている点は、多くの武器を扱える事。狙撃銃を地面に放り、ゲルニカM-002を抜き放つ。爆炎に紛れて突き進む六つの弾丸。撃ち鳴った六つの斬撃音を最後に静かになった。
煙の晴れた先には、まだ煙が上がっていた。白く冷ややかな冷気。白い結晶を白いドレスの至る所に貼り付けて、壁とララを貼り付ける。凍結弾。そこまで飛距離は望めないし、瞬間的に冷却するだけですぐに溶けてしまうが、隙を作るには十分だ。
その隙に青髮ピアスが腕を振りかぶる。身体中に浮き上がった筋肉の筋。本気の俺の拳など笑ってしまうような豪腕が振るわれる。戦車さえ地面を転がす青髮ピアスの一撃が、壁を砕き白い婦人を打ち破る。砕けたビルの破片と氷の礫。
パラパラと残響が響く中、赤い目が二つ暗闇に揺れた。二枚の白い刃が宙を蠢き、その片方の刃には赤い血が滴っていた。ララはそれを自分の口元へと運ぶと綺麗に舐めとる。ララ自身の血でない。青髮ピアスを見れば殴った右腕に小さな切り傷がある。青髮ピアスが左手でそれを拭うと傷はあっという間に消え去ったが、どうも良い感じではない。
青髮ピアスの血を舐めたララは顔を顰めるとより大量の血を吐いた。能力者の血液はお気に召さなかったらしい。悲しみの中に怒りを含み、真っ赤な目を青髮ピアスに向けた。
「穢れた血だ。このような、非道い。はあ、貴方は学園都市に毒されている。許せませんね。来世に期待しましょう」
「人の血なんか舐めて好き勝手言わんでくれへん?」
「はあ、私は目で見ただけでは見た者の位置が分かるだけで誰かまでは分からないのです。でも血まで貰えれば別。血とは歴史。貴方がどんな方かは血を舐めればある程度知る事ができます。大量にあればそれだけ鮮明に。ですが、コレは、もう結構。日本では賽の河原と言いましたでしょうか? そこで罪を積み上げなさい」
「罪だけにって? 面白くもない。つまりコレで青髮ピアスは完全に捕捉されたわけだ。良かったな、追っかけができたぞ」
「いやあモテる男は辛いわ、だから孫っち、心の底からお願いするわ、助けてください!」
頭を下げてくる青髮ピアスの向こうで口元から血を垂らしながらこちらを睨むララ。ドレスを擦り切れさせ、ヴァイセ・フラウとは野生女という意味があったが、正にそんな感じ。姿勢を低くし、手を地面に着いて四足歩行へと移行する。柔らかな動きから鋭角に動く獣の動き。青髮ピアスの足元に飛び込んで来たララは刃を青髮ピアスの足に振るうが、青髮ピアスは跳ぶ事によってそれを避けた。だが、その遠心力を使って体を捻ったララのブレイクダンスのような蹴りが青髮ピアスの脇腹にめり込み、ガラス窓を突き破って青髮ピアスの姿が消える。残る標的は俺だ。
その場から跳び、俺に飛びかかるララに銃を撃っても間に合わない。地面に置いてある相棒の銃身を回して外し、起き上がる動きに合わせて銃身を突き出す。体を反らしてララが避け、それをバネに俺の肩口に包丁を突き立てられる。その痛みに体を落とすが、体重を落とし更に沈み込み、手を組み回転も加えて、コルク抜きの要領で肘を突き出す。
──ポキンッ。
小枝の折れるような音がして、ララの顔が歪む。肩口の傷と肋骨一本。お釣りとしては十分。ララは口から血を地面に吹き出し、新たに刃に付いた血を舐めとる。今度は吐き出す事はなく、酒を嗜むように口の中で転がして喉を鳴らす。
「本当に開発は受けていないようですね。ただ、貴方がそうなってしまったのは過去の虐待が理由なのでしょうか? あぁ、大丈夫。私が慰めてあげましょう」
「俺を哀れむなよ神の
「口も悪い。きっと親が悪かったんでしょう。貴方を見ても親の顔さえ出て来ない」
「はあ、どうだっていい。悪い子が嫌い? そうかい」
そう言って懐から取り出した煙草を咥えて火を点ける。信じられないと呆れたララの顔。それを吹き飛ばすように紫煙を吐く。
「見えるモノはマヤカシじゃなかったのかな? その歪んだ顔、最初の闘い方じゃなく後半の獣のような動きが本来のものだろう? 動物は捕獲しないとなあ、煮るも焼くもその後だ」
「野蛮で劣悪。喉も切り裂かねばならないようです。孫市、大丈夫、貴方も導きましょう。子供の安らかな未来にために」
銃身を相棒に嵌め直して壁に立てかける。ついでにゲルニカM-002も置く。狩りのような闘い方は俺には難しい。そういう闘い方はボスが得意だが、俺が相手して来たのはいつも戦場でいつも人。ボスの狩りに何度か付き合ったが、俺が獲物を捕れた事はない。動物が相手だとどうも勘が鈍る。眺めているだけというのがダメなのか。ならば使うのは自分の身体。軍服のベルトと同じように巻きつけられていた六ミリ程の太さのロープを引き抜く。
ゲルニカM-006。対刃にも優れた超耐久のロープ。片側にはフックが取り付いており、その先にゲルニカM-004を取り付ける。手元でロープを回してみるが、感触は良好。ロープの扱いはガラ爺ちゃんに習おうとしたんだがガラ爺ちゃんがサッパリで、お陰で習えたのはラペルさんからの捕縛術と、スゥから布槍術。後はもやい結びにアンカー結び。アラン&アルドのおかげだ。
突っ込んで来るララにナイフを投げる。姿勢を低くして避けるララに、ロープを回して足を軸に、距離を潰して再びナイフがララに迫った。跳んで避けるララに再び取り回したナイフを振るう。三度振るわれたナイフはララの頬を擦ろうとしたが、振り上げられた包丁がそれを弾いた。煙草を地面に吹き、宙を舞ったナイフの柄の背を蹴りだせば、刃に阻まれてしまうが更に蹴り抜く。空気の抜けた音が響き、飛来した刃がララの肩口に赤い染みを作った。
一瞬動きが止まったララに距離を詰めれば、迎撃装置が動き出し、振るわれる刃。それに腕を差し出してワザと突き刺される事によって動きを止めた。振るう拳。狙うのは一度へし折った肋骨だ。だがその腕は空を切る。腕に刺されたナイフを起点に、ララが宙に身を躍らせたから。もう一つの刃を振るうのは魔術ではなくララの剣技。首に迫った白い刃は、間に滑り込んで来た赤い力が遮った。
距離の離れたララが整備通路の奥に目をやると、歩いて来るのは赤い髪の神父。心強い味方の登場に、息を小さく吐いて地面に落ちていた煙草を咥える。
「アレが『
「『
「……おい傭兵君。彼女はなんだ? 子供を攫うハーメルンの笛吹かい?」
「ストーカーで人攫いの狂女さ。アレでもローマ正教では人気がある」
本当に。カレンがいつも羨ましそうな顔でララを見ていた。ローマ正教以外では逆に指名手配犯になる程人気がない。罪状は勿論児童誘拐。
ビルの壁を打ち壊して青髮ピアスも姿を現わす。頭には生卵の殻を貼り付けて、パスタソースで制服を汚している。レストランにでも突っ込んだらしい。それを見てララは体を揺らし舌を打つと、大通りに向けて大きく跳んだ。今は勝てないと判断したんだろう。
青髮ピアスも追おうとするが、人混みにすぐに紛れたララはあっという間に見えなくなった。誰にも見られずに獲物に迫るのが彼女の得意技。身を隠す事においては相当厄介な相手だ。
「どうする孫っち? 追うなら一応できるけど、匂いは覚えたからなぁ。犬並みにボクは鼻が効くんや」
「お前もアレと同類かよ……。上条さん達と連絡を取ろう、あっちに行ったかもしれないし、これから単独行動は控えた方がいい。彼女に各個撃破される恐れがある」
「どういう意味だい?」
「ああ、ステイルさんは今来たんだったな、バッチリ見られたか。アレは『
溜め息を吐く俺に合わせて、ステイルさんも大きく息を吐いた。煙草を取り出そうとしたので一本投げてやる。ステイルさんは指先に灯った火で煙草に火を点けた。ライターいらずとは羨ましい。
「『
「アレでマトモな部類だ。他にもっとヤバいのがいる。例えばラルコ=シェック、奴は異教徒が蔓延る周りから隔絶された村を壊滅させた。それにボンドール=ザミル、異教徒の司教を分かってるだけで十数人は暗殺してる。後はアイツだカレン=ハラー。アイツはもうマジでなんというか気にくわない。会ったら火刑に処せ」
「なるほど会いたくないね。ただ最後のは凄い私怨を感じたんだが……」
「気のせいだ」
携帯を取り出して土御門に連絡を取るとすぐに出た。インカムを使えれば早いのだが、なんでも電話回線を用いた魔術だかで盗聴を避ける術式を組んでいるから今回は携帯の方がいいのだそうだ。誰が来ているかも分からない大覇星祭を警戒しての事らしい。土御門が言うにはオリアナ=トムソンの霊装から逆探知する術式を組んだからステイルさんを連れて来てくれとのこと。便利なものだ。
そうは言われても俺は俺で取れる手は取る。盗聴なんてこっちには守護神がいるから気にする必要もない。耳に取り付けたインカムを小突くと、お返しのノックが来る。学園都市の中で機械の目からどれだけ逃げられるのか見せて貰おう。
***
廃ビルの屋上で青髮ピアスと二人辺りを警戒する。オリアナ=トムソンもララ=ペスタロッチも、青髮ピアスは匂いを覚えたそうで近くに来れば分かるそうだ。ビルの中では土御門達三人が追跡用の魔術を行使中。能力者である青髮ピアスに魔術の深いところまで知られるわけにもいかないので席を外され、一人ではいざという時危険という事で同じく魔術の事をそこまで知らなくてもいいやと思っている俺が同伴している。ただ携帯は土御門のものと繋ぎっぱなし。おかげで細々会話が聞こえて来るが、聞かなくてもいいので聞き流している。
「それにしても孫っち。随分アレな知り合いおるんやな。見た感じ仲悪そうやし、四月の頃の孫っち考えるともっと前に撃ち殺してそうな気もするんやけど」
暇になって来たからか青髮ピアスがそんな事を聞いてくる。確かに俺は奴らが嫌いだ。側から見て狂人なのに奴らはそれでマトモだと思っている。ただそれは俺もあまり変わらないのかもしれないが。
「『
「なるほどなー、そんなややこしいのに殺し合ってええんか?」
「元々それぐらい仲が悪い。過去に『
「おっかなー、だからあんなに荒れてたん?」
荒れてた荒れてたうるさい。学園都市に来た最初の方は傭兵気分が抜けなくて気が張ってただけだ。周りが能力者とかいう見た事もない者達ばかりなのと、日本に帰って来たのが嫌だった。どこでいつあの家の者達と鉢合わせるか分からなかったからだ。まあ俺の見た目も大分変わっているおかげでバレないだろうし少し気を張りすぎていた。光子さんにバレたのはまあいい。どうせあの家に話す事はない。少しイラついたので煙草を咥える。ついでに話も反らそう。
「それよりだ。青髮ピアス、お前なんであの時力を抜いた?」
「……何の事?」
「バレないと思ったのか? ララ=ペスタロッチを殴った時だよ。お前が本気で殴ればアレで終わっていた。なのに力を抜いて一瞬躊躇したせいでその隙にララ=ペスタロッチが壁を蹴り抜き威力を殺された。ついでに血も取られてな。まあそのおかげで俺は渡り合えたが」
「よく見とるなあ。どうも女の子を殴るのは気が引けるんよ、それにつっちーや孫っちと違ってボクはまだそっちは
「別に殺らないなら殺らないでいいさ。上条さんにはそこは期待してないし、それが一人増えたくらいどうって事ない。俺か土御門さんがやればいい。……それと、殺した数は今までで四百二十八人だ。全部覚えてる」
青髮ピアスの笑顔が固まった。四百二十八人。文字にすると呆気ない。世界人口で割れば一体何分の一か。だが十分多い。死刑囚であった火野神作が二十八人殺して死刑囚になった。なら俺は何度死ねばお釣りが来るのか。そんなモノは死んだ後に考えればいい。俺ができるのは殺った相手の顔を忘れない事と、閻魔大王様との長話の準備だけ。それだけできていればいい。
「そんな生活楽しいん?」
「そうだなあ、多分青髮ピアスが思うよりは楽しい事もある。別に人殺しだけが仕事じゃないし、ただお前が思うよりも辛い事もある。だがそんなのはお互い様だろ。人生なんて十人十色だ。人には人の
「そやね、それはボクもや」
学園都市に七人しかいない
少し静かな間ができて、携帯からステイルさんの叫び声が聞こえて来た。続くのは
「頑張るなあ」
「あっちも仕事で来てるからな。魔術を使えるのはステイルさんと土御門さんだけ。土御門さんは満足に魔術を使えないから実質ステイルさんだけだ」
「探すのはあっちの役目いうわけか。なら居場所が分かったらボク達の出番やね。これは失敗できんなあ」
青髮ピアスの言葉に合わせて絶叫が止む。しばらくして聞こえて来るのは上条の怒鳴り声。青髮ピアスは微妙な顔でそれを聞いていた。きっと俺も似たような顔をしているのだろう。上条の青臭さは、仕事の上では鬱陶しいが、人間的には正しい。それが分かるから否定はできない。否定したら自分の人間性を捨てるようなものだ。
上条の声が鳴りを顰めると、地面に置いていたであろう携帯を拾う音がする。
「出たぞ、地図だ。北四〇八メートルの位置に何があるかを知りたい。きっとそこに、オリアナが仕掛けた迎撃術式の『
「『
「そやなー、ちょっと待ってな」
青髮ピアスがその方角へと細い目を開き、青髮ピアスの「あー……」と言う声と、土御門の言葉が詰まったのは同時だった。青髮ピアスの見ているところへ目をやれば、学校の校庭が見える。手元に置いていた大覇星祭のパンフレットをパラパラ捲れば、後一〇分もせずにその校庭で競技が始まるらしい。競技名は『玉入れ』。俺は紫煙を燻らせる。
「……、くそったれが」
「土御門、どうする⁉︎」
切羽詰まった上条の声が携帯から響いて来た。今にも飛び出そうとしている青髮ピアスの肩に手を置き引き止める。たっぷり時間を掛けて煙草を一口吸って煙を吐いた。
「どうするもこうするもないな。まるで問題ない」
「は? 法水お前なに言って」
「土御門さん。見えるのは仮設テント、学校、点数板、玉入れの籠、あれだろう? 『
俺のする事に思い至ったのか、土御門の笑い声が聞こえて来る。次いで上条の戸惑いの声。
「そうだにゃー、世界で最も簡単な魔術儀式ってのは「触れる」事だ。特に「手で触れる」事に加わる意味は強いにゃー、多くの宗教で右と左の価値が異なるのも、元は右手と左手の役割分担によるものだ。新約聖書でご活躍の「神の子」だって、右手で触れる事で病や死から人々を救ったと言われてるぜい。もしも、オリアナの『
自問自答するように土御門は答えへと迫って行く。それが紐解けた時が合図。俺はそれまで準備をしていれば良い。手に持っていた相棒を構えてスコープを覗く。
「仮設テントや点数板なんかは何人が触るかも分からない。オリアナ=トムソンだって騒ぎを大きくする気はないだろう。目立つからな。そうなると学校もなしだぜい、デカすぎだ。防犯カメラもわんさかある。玉入れの玉はまだ外に出てないんだろう? 『
答えは出た。呼吸を整え息を止める。俺は能力者でもなければ魔術師でもない。オリアナ=トムソンとの魔術戦では俺は役に立たないだろう。だが俺は狙撃手だ。スコープの中の狭い世界の中でなら、誰より遠くに手が届く。四〇八メートル? 一〇分? それだけ貰えれば外す方が難しい。
──ゴゥンッ!
鐘を打ち鳴らしたような音が響くが、至る所から湧き上がっている歓声に食い尽くされてすぐに聞こえなくなってしまう。音の消えたスコープの中で、ポールの一部分が消失したように籠がポトリと落ちた。
「一応前に見た厚紙のようなモノも貼られてなく、新しい傷なんかもないのを狙った。魔術ってのは何が
そう言いながらインカムを小突くと、溜め息まじりにノックが返ってくる。完璧だ。
「法水ぅ! お前がいてホント良かった‼︎」
「玉入れは得意なんだ。俺と青髮ピアスでステイルさんは見てるから、二人で早くその『
「分かったぜい、孫っち様々だにゃー」
そう言うと携帯の通話が切れたので、相棒を背負って屋上から出る。笑いながら青髮ピアスも付いて来た。何が可笑しいのか。
「孫っち今のカックイーな。ボクにも狙撃教えてくれへん?」
「お前はトラウマを克服する努力をしてくれ、俺のアイデンティティーを奪うな」
そう言っても青髮は肩を組んで来て狙撃狙撃うるさい。俺は人に狙撃を教えられる程の者じゃない。結局青髮ピアスが「女子中学生には百発百中、夜の
*さり気なく助かる吹寄さん。ただし信号機カルテットが大覇星祭をサボっている事がバレる。