「ふ、ふん! 時の鐘ってのは大層な傭兵だって聞いてたけど、友人を侮辱? そんな事で怒るなんて、周りにいる女共と変わらないとはね」
相棒を手に取りボルトハンドルを引く。男が何か言っているがどうだっていい。不思議と心は軽い。仕事という縛りを自ら解いたからか、今なら何でもできる気がする。男の周りには数十に登る犬型の機械。動きは精巧だが、強度はどれほどのものか。男を守るように練り歩くロボットが邪魔だ。ゲルニカM-002だと貫通するか怪しいだろう。弾丸を相棒に入れてボルトハンドルを押し込んだ。ガシャリとした音が響く。だがその音を聞いても何も感じない。底なし沼の奥底に沈む小石のように、ただ時が過ぎる毎に気分が沈んでいく。
「所詮は君も凡俗か。下等な者達は下等な者同士つるんでるといいさ」
光子さんを抱えて離れようとする佐天さんの元に犬のロボットが殺到する。幾数体の犬が宙を舞い、六つの弾丸がロボットを鉄クズへと変える。火花を散らして横たわるロボットを尻目に、泡浮さんが光子さんに触れると、今まで持ち上げられなかった光子さんを佐天さんは軽々持ち上げる。去って行く佐天さんを追おうと迫るロボットは、平坦な水面が槍のように持ち上がり、佐天さんへと続く桟橋の道を弾いて止める。泡浮さんと湾内さんの能力。流石在学条件が
「その程度の距離、
砕けた桟橋の上を飛ぶロボット。撃ち落そうと相棒を構えるが、引き金を引くよりも早く泡浮さんの手の動きに合わせて重さが消えたようにロボットは池へと落ちる。遠くに去って行く佐天さんの背中を眺めて男の方へと目を移した。佐天さんならきっと光子さんを病院に連れて行ってくれる。これで最後の憂いもなくなった。
「チッ、手掛かりが、とりあえず先にこの三人を」
男の言葉を掻き消して銃弾が突き進む。男の頬を擦り銃弾は男の背後の大木に穴を開ける。その手前では頭が吹き飛んだ
「は? え?」
続けて引き金を引くが、防衛プログラムでも組まれているのか、男の周りにいたロボット達が壁になるように群がった。男の手前で弾ける機械の欠片とズレる弾丸。舌を打って弾丸を込めて引き金を引く。機械の内臓が引きちぎれる音と共に男の体をするように空に赤い線を引くが、動かなくなった機械が鉄の壁となって立ちはだかる。最初僅かに逸れるだけだった弾丸は、鉄の壁が厚くなる毎に次第に大きく弾道をズラし男にはもう当たっていない。だがそれでも良かった。今はただ引き金を引きたい。鐘を打つ残響だけを耳にして引き金を引き続ける。
ポケットに手を突っ込むと何もない。舌を打って別のポケットへ。そうしていると、バシャリと上から水が降ってくる。上を見上げても快晴そのもの。気にせずポケットから弾丸を装填していると、またバシャリと先程より強く水が頭上から落ちて来る。
「法水様! 落ち着いてください!」
視界の端から目の前に飛び込んで来る湾内さん。何を言っているのか。俺は十分落ち着いている。十分落ち着いて弾丸を相棒に込めている。ボルトハンドルを押し込んで鉄の壁へと照準を合わせていると、相棒の前に泡浮さんが立った。邪魔だ。
「法水様! 射撃が得意だとは聞いていましたがやり過ぎです! 殺す気なのですか⁉︎」
「殺す気?」
何を当たり前の事を言っているのか。泡浮さんに退けというように銃身を横にズラすが、全く退こうとしない。眼に映るのは少女の険しい顔と少々の恐怖の色。それを見て小さく舌を打ち相棒の銃身を上へと向ける。
「これは仕事じゃない。仕事じゃないんだ。光子さんは俺の友人だ。強く綺麗な友人だよ。それを足蹴にした男をなぜ殺してはいけないのか。どんな理由があろうとも、人の輝きも理解せずに一方的に踏み潰すような奴なんてこの世に必要ないだろう。俺の人生に関わってくれた光子さんに俺はこのくらいしかしてやれない。奴の人生に終止符を打つ。そのための終止符はこの手にある」
俺はどこぞの宗教家のように無償の愛なんてあげられない。俺が手に握るのは相棒だけ。吐き出せるのは弾丸だけ。どんな状況、理由があっても、最終的に俺が行き着く先はそれだけだ。これまで積み上げてきたのは、人を殺す術と死体の山。結局俺にはそれしかない。だから俺は引き金を引こう。俺は引き金を引けるから。
顔を引攣らせた湾内さんと泡浮さんが数歩後ろへと退がる。その間を割るように前に足を出して男の方へと相棒を向ければ、誰かに連絡でも取っているのか、携帯に向かって叫んでいる。
「おい! 早く援軍に来い! 〈シグナル〉だ! 対暗部が動いてるなんて聞いてないぞ! アイツ、アイツ僕を殺す気だ! ……は? 手掛かりなんて今はどうでも、クソクソクソ‼︎」
うるさい。相棒の引き金を引いて男の携帯を吹き飛ばす。ただ殺すなど生温い。これは仕事ではないのだから、ただ頭を弾いてそれで終わりでは光子さんに申し訳ない。まず足を、次に手を、芋虫のように地面を這いずり、こと切れるまでそれを眺めてやろう。その間に泣き叫ぶ男の呪詛でも書き留めてそれを光子さんの土産にでもしようか。まずどこを撃とうか選んでいると、男はポケットから見慣れぬ筒を取り出して俺に突き出すように掲げてきた。
「ま、待て!僕を殺せばあの女は助からないぞ! このカプセルの中身はナノデバイス、食らった相手を行動不能にするこれを婚后光子に撃ち込んだ!コレが欲しいなら」
「ならくれ」
男の肩を撃ち抜けば、聞きたくもない叫び声と共に男が持っていた筒が宙を舞ってポスリと地面に落ちる。それを拾って俺を怯えた目で見る湾内さんへと放り投げた。弧を描く筒を、どうしようか迷っていたようだが、恐る恐る手を出して飛んで来た筒をその手に掴んだ。
「行け、光子さんの元に。俺はやる事がある」
「そ、そんな、ダメです! 今の法水様を置いていくのは流石に……。でしたらもう行きましょう! もう十分ですわ!」
「そうです! 法水様がどんな方かはわたくし達はよく知らないですけれど、きっと婚后さんは法水様がそんな事をするのは望んでいません!」
それはそうだろう。だいたい光子さんがそんなのを望むような女の子なら友人になんてなっていない。身勝手な話なのは重々承知だ。だがどうせもう身勝手に引き金を引いた。ならこのまま引き金を引く事を躊躇う必要はあるのだろうか。足を止めこちらに寄って来ない二人から目を外し男の方を見てみると、真っ青な顔で手元で何かを操作している。まだ悪足掻きでもする気なのか。肩から血を流し必死に動く様は生への執着。人の命を脅かしておいて自分だけ助かりたいなどムシが良すぎる。
いつでも引き金を引く準備をして男だけを見る。ただ殺すのは簡単だ。だが、どうせなら四方八方尽くした手を、悉く叩き潰してからでも遅くはない。相棒を構えたその先で、男は手を止めるとゆっくり顔を上げて俺を見る。玉のような汗が浮かんだその顔を弱々しく笑みに変えて、その顔を隠すように俺と男の間に大きな虫が落ちて来た。
両手にあるのは大きく鋭い死神の鎌。その鎌を寸分の違いなく相手に振るうためにドッシリ構えられた四つの足。蟷螂と、人がそう呼ぶ生物と酷似した姿の戦闘機械。大きな二つのガラスの目玉が俺を見下ろし、蟷螂の背後から男の笑い声が聞こえる。
「
命令を受け取ったガラスの目が光り、キチキチと音をたて振り上げた大鎌を振るう。大きく飛び退くように避けるが、そのスピードでは完全には引き離せずに頬を切り裂かれ鎌が宙に赤い線を引いた。俺が地に足つけるよりも早く、その巨体の足先が回転し、滑るように身を詰めて来た蟷螂が体の反動を利用するように体を捻り二撃目を振る。相棒を盾に受けるが、受け切れるわけがない。だいたい相棒が壊れる。舌を撃ちながら、相棒の体に鎌を滑らせるように斜めに受けて、その衝撃を利用して自らの体を下へと弾いた。
転がる俺を目で追って、蟷螂は鎌を振り続ける。土の大地に穴を開けながら、鎌に張り付いた土が辺りに散り俺の学生服を汚していく。体力なんて関係なく、葛藤も関係ない。命令をただ実行する機械からなど必死を感じる事もない。上から落ちてきた鎌が顔の横の地面に突き刺さる。その音を聞きながら、混じった銃声の後に響く破壊音に耳をすませる。上からパラパラと落ちてくるガラス片。俺を見下ろす蟷螂の目玉が一つ減り、蟷螂の動きの精度が一段落ちる。
なまじ生物らしく作っているせいだ。犬のロボットもそうだったが、おかげである程度動きは予想がつく。更に潰した目の死角に動けば、戦闘機械は的と然程変わらない。それでも機械のパワーは脅威だが、生憎機械相手ならもっとヤバイのを知っている。硬く、弾丸すら弾き、止める雷の怪物。それと比べてしまうとえらいお粗末な出来だ。
蟷螂が腕を振る動きに合わせて前へと転がり距離を潰して避けながら、背中から聞こえる鉄の爪が地面を擦る音に合わせて相棒を突き上げる。狙うのは下から見える装甲の隙間。上半身と下半身を繋いでいる細い体の連結部分。鎌を振るのに体を捻るおかげで、どこが重点となっているかは見て分かる。発砲音に続くのは散らばる鉄と、頭を大地に向けて崩れる蟷螂の姿。
煙草を咥えて火を点けていると、その間に蟷螂の体を盾のようにして走り去ろうとする男の姿。引き金を引き、飛んでいった弾丸は男の足を擦るように着弾する。地面に転がる男に近寄り、その情けない男の顔を上に向ける。
「待て! 待ってくれ! 僕は雇われただけだ! 何でこんな事をやらされているのかも知らない! まさか対暗部が動く程のものだったなんて! だから」
男の顔の横に銃弾を落とし、見開かれた目玉に煙を吹き込む。
「だから見逃す? 許す? そんな話なら残念ながらもう終わっている。一度引き金を引いたなら弾丸は当たるまで止まらない。お前はもう引き金を引いた。それに雇われた? お前一般人に手を出しておいてふざけるなよこの三流」
男の頬に相棒の銃口を押し付けて、そう言うと男の顔が歪み涙を零した。ここまで心を揺さぶられない心の結晶も珍しい。同じ必死な顔でも黒子さんや光子さんとは雲泥の差だ。この男は俺に近い。誰のためというよりは自分のため。だからこそ、それを押し付けるには必要な線引きがあるのだ。線引きもせずに暴れる者など獣以下の畜生だ。
「走れ」
銃口を押し付けていた男の頬から離し、先にある道を指す。「は?」と間の抜けた声を出す男を吹き飛ばすように紫煙を吐き出した。
「走れ、ひょっとすると弾丸が外れて助かるかもしれないぞ。だから走れ。走ってみせろ」
歯の噛み合っていない男が俺を見る。分かるんだろう。俺は外さない。走れば死ぬ。だが、走らなくても同じ事だ。
「ほら走れよ。それともその足は要らないのか?」
男の近くの地面に弾丸を落とせば、男は一瞬体を跳ねさせて、すぐに背を向け走っていく。ただ怪我のせいでうまく走れないのか、地面に転がりながらそれでもすぐ立ち足を動かす。ヨタヨタ這いずるように走る男に一発当てるくらいわけはない。まずは足か。それとも腕か。一発で頭を弾いてもいい。スコープはズラしアイアンサイトを覗いて照準を合わせる。息も絶え絶えに動く丸い背中。それを突き破るように目を細めて見つめ引き金を引いた。
──ゴゥンッ!
と鐘を打ったような発砲音は聞こえなかった。引き金にかけていた指が動かない。いや、指は動く。だが引き金が動かない。この体を包むピリピリとした感覚。筋肉が勝手に細かく痙攣している。咥えていた煙草が落ちた。視界の先、相棒のボディに這っている稲妻の尺取り虫。
「アンタ何やってんのよ」
体に走る電磁波を振り払うように後ろへと振り向けば、茶髪に稲妻をくねらせた
「……御坂さんなぜ止める。行っちまう」
「怒り心頭なのは私も同じだけど、アンタやり過ぎよ。アンタ見てたら逆に冷静になったわ。仕事か何か知らないけどさ、私はまだしも湾内さんと泡浮さんの前で人を殺す気?」
「これは仕事じゃない」
「アンタ……」
御坂さんがいたのでは、それも俺の邪魔をしに動くのでは当たるものも当たらない。相棒を下げる。小さく背後に目をやると、男は草木に隠れて見えなくなってしまう。クソが。舌を打って御坂さんの方へと顔を戻す。
「仕事でなければ俺にできる事はコレくらいだ。何よりあんなの生かしておけるかよ、そう俺が決めた」
「……アンタ審判者にでもなったつもり? やめなさいよ。仕事でもないんでしょ」
「だからだ。俺にとって学園都市の友人とは俺が思うよりも大事らしい。俺は医者のように怪我を治すことはできないし何もしてやれない。俺ができるのは引き金を引く事」
「……黒子がよく言ってたけど、アンタ面倒くさいわね。視野が狭いのよ、仕事だの何だのそればっかだし。湾内さんと泡浮さんの前で銃まで撃って。婚后さんもアンタにそこまでして欲しくないでしょ、自分のせいでアンタが人を殺したなんて婚后さんに言うつもり?」
「それは……」
駄目だ。婚后さんにそんな事を言えばどんな顔をするかは分かっている。きっと俺が見たくない顔だ。そんな顔を見せられたら、きっと俺は俺が嫌いになる。手に持った相棒に力が入る。
「ならどうする! アレは見逃してそれで終わりか? クソ! ならこのイライラはどうすればいいんだ。俺は一かゼロしか知らない。一度本気で引き金を引いたらそのどちらかしか残らない!
「ったく、アンタ今アイツがいたらきっと殴られてるわよ。黒子がいてもね。達観してるようで妙に子供っぽいって黒子の言った通り。極端なのよ。でも、そのイライラも分かるわ。で? どうする? まだ追うわけ?」
目を細めて御坂さんを見る。俺がいなければ御坂さんがあの男をボコボコにでもして終わりだったろう。だが、殺しはしない。それは極太の一線だ。俺はとっくにその線を超えている。その俺がその線を越える弾丸はを放つ気ならば、御坂さんは止めるために動くだろう。きっと正しいのは御坂さんだ。俺でもそう思う。だが、俺にはやはりコレしかないのだ。友人を脅かした相手を放っておき、病室で無事を祈り待っているようなのは駄目だ。その歯痒さに身を焦がす。例え倒れる事になろうとも、放たれた弾丸のように走っている方がずっといい。
この先どうなるだろうかと考えると、どうしても口端が歪む。笑っているか、怒っているか、どっちでもいい。俺を見る三人の少女の顔色からいって良くはないだろう。だがクズのような者と違って、前に立つのが第三位だと気分も変わる。彼女は正義だ。黒子さんが憧れる雷神。この内に渦巻く言いようもないこの新たな感情を、早く吐き出してしまいたい。
「追わない、と言えばいいんだろうが、それは許せないという声が止まない。なあどうすればいいと思う?」
「答え出てるくせに聞くんじゃないわよ。分かるわ、イラついた時は発散しないとね。アンタは追いたい。でも婚后さんと黒子のためにも今のアンタには誰も殺させないわ。ならやる事は一つだけど、先に言っとくけどアンタ負けるわよ」
御坂さんの髪から紫電が走る。負けるか。だろうな。だが、付き合ってくれるなら丁度いい。頭では殺す事が最善手でない事は分かっているが、胸の内ではそれを否定してくる。理性と本能が繋がらない現状を叩き潰してくれるというのなら、それに越した事はない。相手は
相棒を地面に置く。磁力で止められ撃てないのなら、あってもないのと同じだ。
「学園都市での戦い方を教えてくれよ
「貸しよ。……湾内さん、泡浮さん。先に病院に行っててくれる? 私もあんまり手加減できる相手じゃないから」
「え、あ、でも」
「の、法水様、どうして」
「湾内さんと泡浮さんは光子さんの側にいてやってくれ。その方が光子さんは喜ぶだろう。俺なんかがいるよりも。俺の居場所はこういう場所だ。俺は乱暴者でしかない」
俺の
「全く、この学園都市で能力でもなく体術だの技だの全面的に押し出してるのアンタぐらいよ。でもその力は守るために使った方がいいんじゃないの」
「説教は不要だ。俺はもう生き方を決めている。あまり変えようとも思わない。……でも黒子さんにも言われたようにそれではダメだと言うのなら、俺に見せてくれ」
黒子さんが憧れたその生き様を。俺とは違う道を歩くその姿を。きっとそれは素晴らしいから。俺に必死をくれ。そんな必死が俺は欲しい。
大地を踏み締める。重心を落とす。開始の合図など要らない。倒した自分の体に引っ張られるように加速する。目の前にはノーモーションで放たれ地面を跳ねる稲妻の鞭。『
転がるように稲妻を避けて肉迫する。ゴロゴロと情けなく地面を転がっているように見えるかもしれないが、それは違う。走り方というものがあるように、当然転がり方というものがある。正しい転がり方は受け身を取るかのように、いざという瞬間すぐに立ち上がったり攻勢に出れる状態を指す。それに加えて、より多く体を地面につけている事から、実は操作性も悪くない。だが、それを身に付けるまでは苦労する。俺も何度崖から落とされるように山の斜面を転がったか。
背中を起点に横へと転がり、足が地面についた瞬間踏み込み御坂さんへ目掛けて跳ぶ。手の届く距離まで近づければやりようはある。俺がほとんどの能力者に勝っている点はやはり体術と射撃術。そこで勝負しなければ勝ち目はない。後数歩も足を出せば拳が届く、そんな位置で背後から影に覆われた。
ギチギチと虫の歯軋りのような音に足を踏み込み急停止すると、目の前を横薙ぎに通り過ぎる黒い壁。その付け根は地面から伸びており、大地から掘り出されたように砂を払い黒い砂鉄の大群が黒い鞭を形成する。磁力。俺の相棒の銃弾をピタリと宙で止めてみせた出力。
周りを蠢く黒い鞭に足を止めていると、御坂さんの髪が持ち上がり、雷が俺に落ちる。遊びやおふざけではない倒すための電撃。昨日の怪我と何よりも折れた骨に響く。だが、
「ちょ⁉︎ アンタ!」
殺す気でないなら、動く事はできる。『
地面にヒビが入る音と肉同士が衝突する鈍い音。体に走っていた稲妻が消え、宙にうねっていた黒い鞭が大地に帰る。少し遠くの方へと転がった
「火をくれないか
「……アンタ何で電撃食らって動けんのよ。しかも、ゴホッ、手加減しなさいよ。骨折れたらどうしてくれんの」
「手加減は苦手だ。それと、電撃なら今のより強いのを受けた事がある。それより火をくれ」
「火をくれですって? あぁそう、はい、どうぞ‼︎」
顔を上げた
宙を踊る幾つもの黒い線。一つ一つが
俺を目掛けて黒い線の合間を縫って煌めく稲妻の光。地面の上を跳ねる稲妻の蛇が迫る。紙一重で体を捻るが、溢れた雷撃が肌を焼く。前に進む俺の体を横薙ぎに振られた黒い線が弾き飛ばした。軋む肋を抱えて立ち上がり、目に映る
「強いな
「アンタだって強いでしょ」
「皮肉はいい。これが俺の限界だ。相棒も使えなければこの程度。俺のいる世界は強さが正義だ。見せてくれよ、強さって奴を」
腰から抜いたゲルニカM-002の撃鉄を弾く。一瞬顔を引き攣らせて、
「あ、アンタねえ⁉︎」
隙だ。弾丸を止める一瞬の隙。その間に距離を詰めて首の骨でも折れれば勝機はある。が、迫る俺を見て、
指先に収束する稲妻の波。来る。第三位の代名詞。何度も目で見はしたが、向けられたのは初めてだ。
極光が弾けた。そう感じた瞬間に足元の大地が弾ける。地面から足が離れ、地面と空が周りを回る。コレが第三位。学園都市頂点の力。『
「はぁ、満足したわけ?」
「……どうかな。負けはしたから追いはしないさ。今は少し頭を冷やす」
「その方がいいんでしょうね。しばらくそうしてなさい。終わったら、婚后さんのお見舞いに行きなさいよ」
去って行く御坂さんから目を離し、青い空を眺める。仕事以外の事はてんで駄目だ。それ以外は学ぼうとしてこなかった。何が駄目で何ならいいのか。いちいち聞こうとは思わないが、いい加減この学園都市での立ち位置をしっかり持たなければいけない。これまでの自分から新たな自分に。そのための鍵はもう持っている。〈シグナル〉、それと木山先生と開発している共感覚を用いた音の技。新たなピースは揃っている。時の鐘である事は変わらない。だが、そろそろ俺も新たなページを描かなければならない。そうでなければ先には進めない。
呆けている俺のポケットが振動する。上条達ではない。短く三回、長く一回。どうせまだイライラは収まっていない。これからのために一区切りつけるのに丁度いい。これまでの俺の最期の仕事として。
御坂さんの電撃でも、まだ何とか使えるらしい仕事用であるもう一つの特注の携帯。通話ボタンを押して耳に当てる。
「はい」
ノイズの走った声は聞き取りづらいが、何と言っているかは分かった。
「ぷぷ、お姉様に負けるなんて、とミサカは挨拶」
池から這い上がり携帯を握り締める。どうやってハッキングしたのか。ふざけろ。池に向かって携帯を放り投げた。ぽちゃりとした音が響き、その音に応えるように声がする。
「酷い。まあいいけどねえ。さ、仕事の話をしようか。とミサカは依頼」
崩れた犬の機械達から聞きたくもない声が聞こえる。よし、仕事はやめだ。聞こえないフリをして相棒を拾い病院へと足を向ける。光子さんのお見舞いに行こう。
「逃しはしないよ。とミサカは追跡」