時の鐘   作:生崎

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大覇星祭 ⑩

「『妹達(シスターズ)』がピンチだ。とミサカは説明」

 

  しつこい。病院の屋上で電波塔(タワー)の話を聞く。病院に着くまで聞きたくもない呼びかけを延々と繰り返して来て、結局諦めずにこうして俺は電波塔(タワー)の話を聞く羽目になった。光子さんのお見舞いにさえ行けていない。その理由は目の前にいる相手。俺を負かしてくれた第三位と同じ顔をした少女。『妹達(シスターズ)』。学園都市から大多数が離れたとは聞いていたが、残った内の一人を電波塔(タワー)はジャックしたらしい。名前は確かミサカ13577号と言ったか。電波塔(タワー)に体を貸したりしていいのだろうか。良くはないだろう。『妹達(シスターズ)』自身が『妹達(シスターズ)』をピンチだと言うおかしさに顔を歪めながら電波塔(タワー)を見る。

 

「狙いはミサカネットワークみたいでねえ。全く家荒らしとは腹立たしいよね。とミサカは憤怒」

「知らん。それにどうでもいい。お前ほど信用ならない奴はいない」

 

  残骸(レムナント)も破壊だの奪取だの言っておいて結局自分で持ち去ったくせに何が仕事の依頼か。あの後結局依頼料が振り込まれていたから見逃していたが、わざわざ新たな仕事を電波塔(タワー)から受ける理由がない。つまらなそうにしている俺に、「木原幻生」と電波塔は呟く。

 

  木原幻生。

 

  木山先生の『幻想御手(レベルアッパー)』事件にも関与していた科学者。通り魔事件も、『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画もそうだ。これまで俺が関わった仕事の悉くの裏で手をこまねいていた人物。その名を聞いて僅かに眉が上がる。

 

「なんだ。ついに殺す気になったのか?」

 

  そう言ってやると、電波塔(タワー)の顔が歪んだ。何かを悩むような顔。演技なのか本気なのか。電波塔(タワー)の表情は豊かだが、その内を読むのは難しい。電波塔(タワー)にとって木原幻生は生みの親に等しい。彼女には彼女だけの想いがあるのだろう。電波塔(タワー)は屋上の柵に座り学園都市の街に目を這わせると、「いや」と小さく呟いた。

 

「ただ殺してお終いじゃあねえ。呆気ない幕切れは私としても望むところではないからね。アレの悔しそうな顔を見たい私としては、アレの計画を潰したいんだよ。とミサカは決意」

「計画ね」

 

  どうせロクでもない計画だ。枝先さんを昏睡させ、『雷神(インドラ)』計画では電波塔(タワー)を作り『雷神(インドラ)』に何人もの能力者を殺させた。その目的はどれも絶対能力者(レベル6)を作るため。今回の計画ではいったい何人が死ぬ事になるのか。それも時期は大覇星祭中。外部の人間が学園都市に来ている今、どれだけの人が巻き込まれるか分かったものではない。

 

「で、仕事は木原幻生の計画を潰せと」

「それも木原幻生は殺さずにだよ。アレには是非とも生き地獄を送って欲しいからね。とミサカは期待」

「絶対殺した方が早いだろ」

 

  とは言えそれが仕事ならしょうがない。依頼人が殺すなと言うのにこっちが好き勝手やって殺しましたじゃそれは仕事ではなくなってしまう。木原幻生はこれまでを聞く限り俺が最も嫌いなタイプの相手だ。常に裏で動き、自分は矢面に立たず人を殴るのも人任せにするような相手。それが表に出て来たとなれば、それほど重要な計画なのか。何より木原幻生ほどの重要人物ともなれば、こちらから接触するのも難しい。それを殺す数少ない機会。だが殺せば確実に学園都市の上層部に目をつけられる。それを思えば殺さない方がいいとは思うが、手を出す以上は同じに思える。少し頭を回してから口を開く。

 

「受けるにしろ受けないにしろ気になる事がある。光子さんを病院送りにしてくれたあのクソッタレ。アレは雇われてとか言ってたな。もしかしなくても雇ったのは木原幻生か」

「そうだよ。盗聴でバッチシ。アレらの抹殺も含めようか? 仕事なら君も気兼ねなく殺せるだろう? とミサカは追加」

「…………いや、いい。やれって言うならやるがな」

「いやあ私としてはアレらは興味ないから。とミサカは断言」

 

  仕事なら確かに躊躇など考えずただ引き金を引けばいい。アレには気を使う事もない。だがさっきの今で殺したとなれば、超電磁砲(レールガン)に目をつけられるかもしれない。そのデメリットの方が大きい。御坂さんは俺にとって天敵だ。性格ではなく能力が。御坂さんが近くにいたのでは、御坂さんの気ひとつで満足に相棒も撃てやしない。だいたい仕事を受けるともまだ決めていない。あの男を狙いたくても木原幻生がオマケで付いてくる。オマケが大き過ぎてどっちがオマケか分かりゃしない。それにまだ気になる事はある。

 

「それよりなぜ俺に頼む。実体が無かろうとお前だったらやりようなんていくらでもあるだろうし、俺より強い奴なんて学園都市には探せば多いだろう。それこそお前の姉さんとかな。御坂さんの妹さんを御坂さんが追っているのなら、俺なんかよりもよっぽど御坂さんの方が木原幻生と衝突する可能性が高い。お前が御坂さんと組んだ方が絶対強いぞ」

 

「まあそうだねえ」と言いながら電波塔(タワー)はしなだれかかっていた柵から身を起こして俺を見る。向けられた顔はもう何かを決めていると言うようなにっこりした笑顔。胡散臭い。これほど中身のない笑顔があっていいものか。呆れた顔でせっついても返ってくる感触は不確かで、綺麗な顔で笑っても、その中身を感じられない。

 

「私には私の考えがある。それに学園都市で私が一番仲がいいのは君だしね」

「仲良くない」

 

  即座に否定するが、電波塔(タワー)の薄い笑い声にすぐに流されてしまう。本気でそう思っているのか。

 

「とにかく、私が仕事を依頼して頼るなら君だ。受けてくれるならもっと深い話をしよう。どうかな? とミサカは提案」

 

  どうもこうも、こいつの事だから受けると言うまでどこまでも引っ付いてくるに決まっている。それでも受けないと突っぱね続ければいい話ではあるが、相手が相手だ。木原幻生には、多かれ少なかれ俺の友人が被害に遭い過ぎている。人を不幸にする発案を思い付き、また今日も誰かが泣くのだろう。それも昨日の魔術師ではなく、勝手知っている学園都市の住人。能力者が倒すのはマズイとかそんな縛りもない。それは相手も同じ。制限がないなら、学園都市の住人、引いては外部の者達がどれだけ危険な目に合うか。

 

  土御門から連絡がない事を考えると、それほど切羽詰まった状況でもないのか。だがもしも学園都市にとって木原幻生の動きが有益だと判断されれば、シェリー=クロムウェルの時と同様に上から押し止められて土御門が動けないだけの可能性もある。それとも、もう連絡はしたが、持っている携帯二つを俺が破壊してしまったために連絡がついていないだけなのかもしれないが。

 

  いずれにしても、光子さんが入院し、若狭さんも学園都市のどこかにいる状況。降りかかってしまった火の粉と降りかかるかもしれない火の粉。ただ火事になるまで傍観しているわけにもいかない。電波塔(タワー)の事だ。仕事を受けると言えば、最大限力は貸す気だろう。残骸(レムナント)を追った時も、最後の最後以外は役に立っていた。

 

「……俺が言うのも何だがな、信用していいのか? できそうにないが」

「今回に限って言えば百パーセント信用してくれていいよ、木原幻生は甘くはないからねえ。とミサカは太鼓判」

「って事は前回のは百パーセントじゃないって認めるんだなこの野郎」

 

  電波塔(タワー)は俺の言葉にしばらく固まると、ぺろっと舌を出す。それで許されたと思っているのか。呆れた顔で取り出した煙草を咥えると、電波塔(タワー)の髪先から弾けた静電気が火を点けた。御坂さんよりもだいぶ上手い。大きく息を吸って紫煙を吐き出す。流れていく紫煙を目にしながら、大きく肩を落とす。

 

「まあいい、受けよう。見過ごすのも何だ。最後の仕事としてはキリがいい」

「最後? スイスに帰る気かい? とミサカは残念」

「んなわけあるか、国連の仕事もあるんだぞ。……これまでの俺とさよならするのさ」

 

  ただの時の鐘の傭兵その一から、時の鐘の法水孫市に。その為に必要なのは、俺だけの技、そして学園都市での立ち位置を確固たるものにしなければならない。今のままではダメだ。超能力者(レベル5)の前では、一級の魔術師の前では俺は一般人と大差ない。例え能力が使えなかろうと、例え魔術が使えなかろうと、それでも俺は勝つための術を手にしなければならない。

 

  スイスから学園都市に来て俺は変わった。それはもう認めるしかない。ただの学生と傭兵の狭間を行ったり来たりしていたのでは迷いが多過ぎる。その先駆者は土御門だ。俺よりよっぽど強く道を進んでいる。俺も足踏みをしていられない。ララ=ペスタロッチと戦ったように、超能力者(レベル5)と戦ったように、一人では勝てないなんて言っていられない。俺は勝たなければならない。自分の道を進むためには勝つしかない。超能力があれば、魔術があればなんて言う余地なく、俺は人の技で勝つ。仲間に憧れるのは終わりにしなければならない。

 

  機械的に仕事をこなして来たこれまでを、今日俺は感情で踏み越えようとした。止めてくれた御坂さんにはある意味感謝だ。感情で人を殺し始めたら、行き着く先はシリアルキラー。感情も、友も、傭兵も、全てを飲み込んで俺は新たな俺になる。これは契機だ。

 

  小萌先生が言っていた。学校を卒業する頃には新たな自分になるのだと。なら俺はここで殻を破る。今まで眺めていたボスや、ロイ姐さんや、ガラ爺ちゃん達に並ぶ為に。超能力者(レベル5)にも魔術師にも勝つ為に。努力が必要ならいくらでもやろう。俺はこれを機会に俺を目指す。魔術師に斬り刻まれ、第三位にぶっ飛ばされるのはもう終わりだ。才能という壁を諦めず、俺は技で乗り越えよう。

 

「ふーん、男子三日会わざればって奴かねえ。とミサカは驚愕」

 

  ニヤニヤとした電波塔(タワー)が何が楽しいのか俺の周りをクルクル回り、俺の肩を小突いてくる。なんなんだいったい。

 

「やっぱり君がいい。こう見えて人を見る目はあるんだよ。人間って面白いね。とミサカは歓喜」

「引き篭もりの目なんて節穴だろうに。……強くなった暁にはサボって学園都市に来ようともしない才能ガールにいやという程自慢してやる」

「……やっぱりあんまり成長してないかもね」

 

  うるせえ。吹き散らすように電波塔(タワー)に紫煙を吐くと、煙たそうに手で煙を払い電波塔(タワー)は離れて行く。再び柵の上に腰掛けて、電波塔(タワー)は「それで?」と仕事の顔になる。

 

「何から聞くか、……木原幻生の狙いはミサカネットワークでいいんだよな。なのになぜ学園都市に残された『妹達(シスターズ)』がいるこの病院に来ない。木原幻生は今どこにいる」

「ここに木原幻生が来ないのは、ここにいる先生の一人に木原幻生よりもある意味力を持っている人がいるからだよ。だからここにいさえすれば狙われる事はなかったんだけど」

「御坂さんの妹さんが誘拐されて、そういうわけにもいかなくなったというわけか」

 

  つまり木原幻生の狙いは、この病院の管理下から今現在外れている御坂さんの妹さん。その個体なら手を出してもいいという事か。おそらく『妹達(シスターズ)』を引き取る条件としてその先生がそういう条件を出されたのだ。俺が木山先生を匿ったのと同じように。だがそれだと気になる事がある。

 

「御坂さんの妹さんを誘拐したのは木原幻生なのか? どこにいるんだ」

「あー、それはねえ。木原幻生じゃなくて常盤台のもう一人の超能力者(レベル5)が匿ってるみたいなんだよねえ。とミサカは怪奇」

「はあ?」

 

  常盤台のもう一人の超能力者(レベル5)と言えば食峰操祈。確か黒子さんや初春さんの記憶を弄ったいけ好かない奴だ。姿はテレビのCMで見たことがある。黒子さんから常盤台で一番大きな派閥のトップであるとも聞いたか。気に入らない女王様だ。その黒子さんの記憶を弄った女王様が、なぜ御坂さんの妹さんを保護するのか。御坂さんとは仲は良くないとも聞いている。

 

「なぜその女王様が保護するんだ? 理由は?」

「さてね。私にも分からない事もある。実はお姉様と仲良くしたいとか」

「え? そんな理由? ならなぜ黒子さんの記憶を弄った。お前御坂さんの妹さんをジャックして逃げられないのか?」

「それが今10032号はミサカネットワークに繋がっていないみたいなんだよね。件の女王様のせいだね。でもある意味助かってはいるよ。10032号は婚后光子に打ち込まれたウィルスと同じものを撃ち込まれているみたいでね。オフラインのおかげでネットワークも感染せずに済む。とミサカは安心」

 

  あの男御坂さんの妹さんにまで同じ事していたのか。やっぱり撃ち殺していた方が良かったんじゃないか。まあいい。もうこれは仕事。次に向こうから邪魔して来るようなら躊躇なく撃ち殺せばいい。咥えていた煙草を屋上の地面に叩きつけ踏み消す。食峰操祈は何がしたいのか分からない。黒子さんの記憶を弄りながら、御坂さんの妹さんを保護する。敵なのか味方なのか。今は考えるだけ無駄か。

 

「で? 木原幻生の居場所は?」

「十四時から第九学区で開かれる国際能力研究者会議に出る予定が入ってるみたいだけど、姿が学園都市のどの防犯カメラにも写っていない。間違いなくブラフ。ちょっとちょっかい出し過ぎたかも。とミサカは反省」

「は?なにそれ」

「いやあ、いち早く木原幻生の企みを察知した素晴らしい私は、早速その計画をおじゃんにしてやると思って動いたんだけどねえ。全部片手間に払われちゃって、今私めっちゃ警戒されてるんだよね。どうも私のAIM拡散力場のパターンを解析されて近づいたら反応する測定器みたいなのを作られちゃったみたいだ。おかげで私からは手出ししづらいと」

 

  何やってんのこいつ。事態を自分でややこしくしておいて後は任せたとか調子良すぎる。だからこいつは嫌いなのだ。信じられそうなのは金払いくらい。それよりも電波塔(タワー)が近づいたら反応するという測定器、俺も欲しい。

 

「でも分かった事はあるよ。木原幻生は多才能力者(マルチスキル)だ。とミサカは確信」

「おいおい、待ってくれよ。多才能力者(マルチスキル)なんて木山先生以外に……まさか」

「そのまさかさ。元々木原幻生は木山春生の上司だよ? なら」

 

  『幻想御手(レベルアッパー)』。共感覚性を用いて脳波パターンを揃えることによって人と人の脳を繋げる技術。木山先生のように一万人と脳を繋いでいるわけではないのだろうが、それでも能力が使えるのか。木原幻生の頭脳が成せる技なのか、木山先生といいやはり随一の科学者が敵になると面倒臭い。木山先生が作った『幻想御手(レベルアッパー)』をそうホイホイと再現するとは。だが、

 

「どうしたんだい? 何か嬉しそうだね。とミサカは疑問」

「いや、木原幻生も所詮その程度かとね。結局『幻想御手(レベルアッパー)』をそのままにしか使わないとは。人の技としてもっと先に行ける可能性を秘めているのに。人の技よりも超能力にしか興味がないらしい。いずれそいつらの足元揃って全部ひっくり返してやる」

「あ、今悪い顔してたよ。でもどういうことだい? とミサカは興味」

「木山先生と今共同開発中の共感覚を用いた音の技さ。木山先生が理論を、俺が実践だ。理論上AIMジャマーの技としても使え、他にも効果がありそうだ。正にこの技は地に眠った財宝なのさ」

「え、え、そんな事考えてたのかい? 私が木原幻生と遊んでた間に? 酷いなあ凄い面白そうじゃないか。私も混ぜてくれよ。とミサカは表明」

 

  今までニヤついていた口元が下がり、目をキラキラさせて電波塔がくっついて来る。『妹達(シスターズ)』と違い科学者タイプなだけある。新しい玩具を見つけたように擦り寄って来る電波塔(タワー)が鬱陶しい。第一それをやるのは残念ながら今ではない。離れろと電波塔(タワー)にデコピンを見舞い、よろよろ後ろに下がる電波塔(タワー)を尻目に煙草を咥える。

 

「それに手をつけるのはこの仕事が終わってからだ。だからこれまでの俺の最後の仕事なのさ」

「なるほどねえ、私も楽しみが増えたよ。ただそれなら今は木原幻生に打てる手はないはず。そのための手はこちらで実は用意してるんだ。だからちょっとデートと行こうか?」

 

  笑って俺の手を引いて行く電波塔(タワー)。このまま行く気なのか、13577号さんが可哀想だ。だが、事実木原幻生が多才能力者(マルチスキル)だと言うのなら、今の俺にはどうしようもないのも事実。鬼が出るか蛇が出るか。俺の手を強く引っ張って行く電波塔(タワー)は顔に出さずに焦っているのか。俺はその手を振り払えずに病院を出た。

 

 

 ***

 

 

「結局ここかよ」

 

  何が嬉しくてこんなところに来なければいけないのか。前を歩くのは常盤台の学生服に着替え上に白衣を纏った電波塔(タワー)。場所が場所だけに、電波塔(タワー)が蘇ったように見える。

 

  第十七学区。学園都市の中でも自動化された施設の多い工業地帯。学園都市の中でも極端に人口が少ない地帯と言う通り、大覇星祭中だと言うのに人影の少なさは普段と変わらない。ここまで来るのに無駄に時間が掛かった。十七学区に人が少なかろうと、それ以外の場所には人が多い。むしろ人が来ないだろうと、交通機関の量が減り来るのに苦労した。

 

  人影のないビルの間を二人で歩き、目指すのは焼け焦げ崩れ落ちた研究所。あの夏の一件から取り壊される事もなくそのままにされていたらしい。周りを高層建築物で囲まれているからか解体するのも苦労するのか知らないが、科学の街の名折れだろう。砕けたコンクリートの壁に残るジグザグの焦げ跡。一度吹っ飛んだ体が痛むようだ。

 

「まさかまだここ動いてんのか?」

「それこそまさか。前みたいには動いてないさ。ここは今や残骸の城、肝試しがてら踏み込んだ学生がお化けを見たなんて噂が立っていてね。好んで近付く者もいない。いいだろう? とミサカは自慢」

 

  何が自慢なのか。こんな場所に篭っていては、引き篭もりというよりもホームレスっぽい。崩れて地面に転がっている黒い岩を踏みつければ、簡単に崩れ去って風に乗り飛んでいってしまう。「こっちだよ」と言って電波塔(タワー)が指差すのは崩れた建物の中にぽっかり空いた穴。場所は覚えている。俺とドライヴィーが死ぬ気で上った階段室だ。覗き込めば階段室の面影はなく、入り組んだ洞窟みたいになっている。ここを降りなければならないのか。電波塔(タワー)の顔を見ると、笑顔なだけで何も言わない。

 

  ため息を吐きそのため息の落ちる先に足を伸ばして降りて行く。凸凹とせり出したコンクリートの肌を掴んで降りて行くと、一度上った時よりも、随分と早く最下層に着いた。敷き詰められたコンクリートの塊を押し退けるように外へと這い出れば、初めて電波塔(タワー)と出会って広い空間に出た。

 

  暗い。崩れた空間に目を細めていると、後ろから出て来た電波塔(タワー)が俺の横に立ち指を鳴らす。それを合図に、死んでいるように見えた電気系統が弱々しく光を弾き、壁や地面に転がっていた照明が点いた。

 

  残骸の城とはよく言ったものだ。流石に驚き目を見開く。地面に転がった円錐型の容器。それと共に転がった小さなサイズの『雷神(インドラ)』の破片。初め見た規律正しい研究所の様相はまるでない。俺が立ち止まっていると、横にいた電波塔(タワー)は俺の肩を叩き「さあ行こう」と奥へと歩く。

 

  この先にまだ何かあるのか。向かう先は最後ドライヴィーと共に戦う羽目になった『雷神(インドラ)』が出てきた大きな穴。円錐型の容器を踏むのは流石に戸惑われたのでそれを避けるように前へと進む。そんな俺と違いガチャガチャと足で電波塔(タワー)は円錐型容器を蹴飛ばしながら前に進む。

 

「ああ、あまり気にしない。この子達も今や私と同じ。ミサカネットワークの中を漂う幽霊さ。とミサカは証明」

 

  そう言って電波塔が指を鳴らすと、「お兄ちゃん(Hey brother)!」と崩れた『雷神(インドラ)』のスピーカーから声が響く。怖い。新手のお化け屋敷みたいだ。その声から逃げるように穴の中へと入れば、電波塔(タワー)が俺に見せたかっただろうモノが部屋の中央にあった。

 

  それを見て俺は目をより大きく見開く。似ている。だが違う。

 

「いやあ、苦労したよ。アバランチM-002と言ったかな? 似せようと思ったんだけどねえ。電子情報がほとんどなくて、こうにしかならなかった。とミサカは残念」

 

  スイスにあるはずの決戦用狙撃銃。見た事はある。整備をするのは使用する俺の仕事だからだ。銃身も含めて約四メートル。銃身だけで三メートルはありそうだ。アバランチM-002に似せたと言う割には、そこまで似てはいない。長い銃身に長い二等辺三角形のような身体。電子上に残されたデータなどほとんどないはずだからこそのこの形状だろう。ご丁寧に真っ白な色の中に稲妻模様の黄色い線が走っている。

 

「折角だからどうかな、名称はインドラM-001なんて」

「おい、俺にコレ使えってのか?」

「君のポリシーに反したモノは作っていないよ。装弾数は三発、ボルトアクション方式。しかも弾丸は特別製、放つは特殊超電磁砲(レールガン)磁力砲(リニアガン)との中間みたいな性能かな。命中率を上げるためだよ。性能だけで言えばゲルニカM-003よりも高い。だが、頑丈さはそれ以下かな。持ってみたまえ。とミサカは推奨」

 

  そう言われて台座に浮かぶように置かれた巨大な狙撃銃を見る。スイスにあるアバランチM-002もそうだが、ここまで大きいと狙撃銃とは言えそうもない。相棒が一番手に馴染むと言うだけで、別に武器にこだわりはない。だが、ゲルニカシリーズとアバランチシリーズ程俺の手に馴染む武器もないので、渋々手を伸ばして手に取ってみる。二等辺三角形の間に腕を潜らせるようにグリップを握ると、思ったよりも手に馴染む。相棒を握っているのに近い。

 

  少し振り回してみるが、随分軽い。この大きさで十五キロあるかないか。正に科学の結晶だ。電波塔(タワー)たった一人でこれほどのものを作れると言うのは脅威だ。インドラM-001を握る俺を見て、電波塔(タワー)は笑いながら手を叩く。

 

「ハハ、その大きさの銃を能力もなしに容易く振り回せる者は少ないだろう。上手く使えるのはゲルニカM-003で慣れている時の鐘ぐらいだろうね。それにそれは君の為に君に合わせて作ったんだ。フフ、いいね、いいよ。……やはり私は君で絶対能力者(レベル6)の域を目指す

「なんだって?」

「いやいやこっちの話だよ。とミサカは自己完結。……っツ! コレは⁉︎」

 

  どうしたと聞く暇はなかった。電波塔(タワー)が痙攣したかと思えば、髪から黒い稲妻を薄く出しその場に倒れる。近寄り様子を見てみると、どこの調子が悪いのか分からない。油汗を身体中に浮かべ、呼吸もおかしい。電波塔(タワー)を仰向けに向ける。薄く開かれた目が俺を見る。

 

「や、られ、た。狙いは、お姉様、だったとは。僅か、にミサカネットワークから、サーバーを、ズラしていてもこの、有様だよ。とミサカは、消耗」

「おい大丈夫か?」

「大丈夫じゃ、ないかな。『妹達(シスターズ)』どころか、お姉様がピンチ、だ。行ってくれるかい。と」

「御坂さんには借りがある。仕事は受けた。木原幻生の計画は俺が潰す」

「そう、かい。なら、あの子達、が、連れて行ってくれるよ。私は」

 

  そこまで言って電波塔(タワー)は目を閉じた。限界か。急に電波塔(タワー)がこうなったという事は、ミサカネットワークに変調があったのだろう。13577号さんに戻ったようだが、意識も戻らず、脂汗も引かない。電波塔(タワー)の頭の下に脱いだ制服を丸めて寝かせていると、背後の壁が轟音を立てて崩れ落ちる音。

 

  振り向いた先、暗闇に光る六つの目。だがコレまでとより姿が異なる。人と鳥を掛け合わせたような異様な彫像。残骸(レムナント)を回収された時よりも、より鳥っぽい形を模しているようで、鉄兜は鳥の頭のような形状に変わっている。

 

お兄ちゃん(Brother)……」

 

  機械的でありながら、幾重にも重なったこれまでよりも女の子らしい声の黒鉄の雷鳥。彼女達も成長しているのだろう。こんな姿でも俺と同じ人間だ。弱々しい声を出し、歯車の音を立てながら俺に向かって頭を垂れる。ミサカバッテリーは自分達の共鳴を用いて独自のネットワークを構築している。ミサカネットワークとは似ているようで別のサーバー。電波塔(タワー)がサーバーをズラしたと言っていたのは、彼女達を使っての事だろう。差し出された頭にゆっくり手を置く。ピリピリと手のひらを打つ弱い電撃。

 

「お嬢さん達はまだ子供だろう。好きに生きてもいいと思うが、それとももう生き方を決めたのか?」

「……戦うよ、それしか知らないもん(We're Warrior)

「そうか。なら行こうか戦友。お互いそれしか知らんしな。俺はお嬢さん達嫌いじゃないんだ。電波塔(タワー)は別だが。さて、お嬢さん達は何て呼べばいいかな?」

電子妖精(Sprites)‼︎」

 

  黒鉄の雷鳥が羽を広げる。背に乗れと言うように、電子妖精(スプライト)は俺に向かって背を向けた。ここに掴まれと示すように背中に取り付けられたバー。元々俺を乗せる気だったのだろう。インドラM-001が乗っていた台座の上に同じく乗っている二十発近い弾丸を、ベルトに取り付けている弾丸ホルダーにねじ込み、ボルトハンドルを引いて三発を装填し押し込んだ。普段とは違う聞き慣れない音。最後の仕事の時間だ。雷鳥の背に掴まると、崩れた壁を押し破り稲妻の塊が宙を舞う。

 

 

 

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