「『
しつこい。病院の屋上で
「狙いはミサカネットワークみたいでねえ。全く家荒らしとは腹立たしいよね。とミサカは憤怒」
「知らん。それにどうでもいい。お前ほど信用ならない奴はいない」
木原幻生。
木山先生の『
「なんだ。ついに殺す気になったのか?」
そう言ってやると、
「ただ殺してお終いじゃあねえ。呆気ない幕切れは私としても望むところではないからね。アレの悔しそうな顔を見たい私としては、アレの計画を潰したいんだよ。とミサカは決意」
「計画ね」
どうせロクでもない計画だ。枝先さんを昏睡させ、『
「で、仕事は木原幻生の計画を潰せと」
「それも木原幻生は殺さずにだよ。アレには是非とも生き地獄を送って欲しいからね。とミサカは期待」
「絶対殺した方が早いだろ」
とは言えそれが仕事ならしょうがない。依頼人が殺すなと言うのにこっちが好き勝手やって殺しましたじゃそれは仕事ではなくなってしまう。木原幻生はこれまでを聞く限り俺が最も嫌いなタイプの相手だ。常に裏で動き、自分は矢面に立たず人を殴るのも人任せにするような相手。それが表に出て来たとなれば、それほど重要な計画なのか。何より木原幻生ほどの重要人物ともなれば、こちらから接触するのも難しい。それを殺す数少ない機会。だが殺せば確実に学園都市の上層部に目をつけられる。それを思えば殺さない方がいいとは思うが、手を出す以上は同じに思える。少し頭を回してから口を開く。
「受けるにしろ受けないにしろ気になる事がある。光子さんを病院送りにしてくれたあのクソッタレ。アレは雇われてとか言ってたな。もしかしなくても雇ったのは木原幻生か」
「そうだよ。盗聴でバッチシ。アレらの抹殺も含めようか? 仕事なら君も気兼ねなく殺せるだろう? とミサカは追加」
「…………いや、いい。やれって言うならやるがな」
「いやあ私としてはアレらは興味ないから。とミサカは断言」
仕事なら確かに躊躇など考えずただ引き金を引けばいい。アレには気を使う事もない。だがさっきの今で殺したとなれば、
「それよりなぜ俺に頼む。実体が無かろうとお前だったらやりようなんていくらでもあるだろうし、俺より強い奴なんて学園都市には探せば多いだろう。それこそお前の姉さんとかな。御坂さんの妹さんを御坂さんが追っているのなら、俺なんかよりもよっぽど御坂さんの方が木原幻生と衝突する可能性が高い。お前が御坂さんと組んだ方が絶対強いぞ」
「まあそうだねえ」と言いながら
「私には私の考えがある。それに学園都市で私が一番仲がいいのは君だしね」
「仲良くない」
即座に否定するが、
「とにかく、私が仕事を依頼して頼るなら君だ。受けてくれるならもっと深い話をしよう。どうかな? とミサカは提案」
どうもこうも、こいつの事だから受けると言うまでどこまでも引っ付いてくるに決まっている。それでも受けないと突っぱね続ければいい話ではあるが、相手が相手だ。木原幻生には、多かれ少なかれ俺の友人が被害に遭い過ぎている。人を不幸にする発案を思い付き、また今日も誰かが泣くのだろう。それも昨日の魔術師ではなく、勝手知っている学園都市の住人。能力者が倒すのはマズイとかそんな縛りもない。それは相手も同じ。制限がないなら、学園都市の住人、引いては外部の者達がどれだけ危険な目に合うか。
土御門から連絡がない事を考えると、それほど切羽詰まった状況でもないのか。だがもしも学園都市にとって木原幻生の動きが有益だと判断されれば、シェリー=クロムウェルの時と同様に上から押し止められて土御門が動けないだけの可能性もある。それとも、もう連絡はしたが、持っている携帯二つを俺が破壊してしまったために連絡がついていないだけなのかもしれないが。
いずれにしても、光子さんが入院し、若狭さんも学園都市のどこかにいる状況。降りかかってしまった火の粉と降りかかるかもしれない火の粉。ただ火事になるまで傍観しているわけにもいかない。
「……俺が言うのも何だがな、信用していいのか? できそうにないが」
「今回に限って言えば百パーセント信用してくれていいよ、木原幻生は甘くはないからねえ。とミサカは太鼓判」
「って事は前回のは百パーセントじゃないって認めるんだなこの野郎」
「まあいい、受けよう。見過ごすのも何だ。最後の仕事としてはキリがいい」
「最後? スイスに帰る気かい? とミサカは残念」
「んなわけあるか、国連の仕事もあるんだぞ。……これまでの俺とさよならするのさ」
ただの時の鐘の傭兵その一から、時の鐘の法水孫市に。その為に必要なのは、俺だけの技、そして学園都市での立ち位置を確固たるものにしなければならない。今のままではダメだ。
スイスから学園都市に来て俺は変わった。それはもう認めるしかない。ただの学生と傭兵の狭間を行ったり来たりしていたのでは迷いが多過ぎる。その先駆者は土御門だ。俺よりよっぽど強く道を進んでいる。俺も足踏みをしていられない。ララ=ペスタロッチと戦ったように、
機械的に仕事をこなして来たこれまでを、今日俺は感情で踏み越えようとした。止めてくれた御坂さんにはある意味感謝だ。感情で人を殺し始めたら、行き着く先はシリアルキラー。感情も、友も、傭兵も、全てを飲み込んで俺は新たな俺になる。これは契機だ。
小萌先生が言っていた。学校を卒業する頃には新たな自分になるのだと。なら俺はここで殻を破る。今まで眺めていたボスや、ロイ姐さんや、ガラ爺ちゃん達に並ぶ為に。
「ふーん、男子三日会わざればって奴かねえ。とミサカは驚愕」
ニヤニヤとした
「やっぱり君がいい。こう見えて人を見る目はあるんだよ。人間って面白いね。とミサカは歓喜」
「引き篭もりの目なんて節穴だろうに。……強くなった暁にはサボって学園都市に来ようともしない才能ガールにいやという程自慢してやる」
「……やっぱりあんまり成長してないかもね」
うるせえ。吹き散らすように
「何から聞くか、……木原幻生の狙いはミサカネットワークでいいんだよな。なのになぜ学園都市に残された『
「ここに木原幻生が来ないのは、ここにいる先生の一人に木原幻生よりもある意味力を持っている人がいるからだよ。だからここにいさえすれば狙われる事はなかったんだけど」
「御坂さんの妹さんが誘拐されて、そういうわけにもいかなくなったというわけか」
つまり木原幻生の狙いは、この病院の管理下から今現在外れている御坂さんの妹さん。その個体なら手を出してもいいという事か。おそらく『
「御坂さんの妹さんを誘拐したのは木原幻生なのか? どこにいるんだ」
「あー、それはねえ。木原幻生じゃなくて常盤台のもう一人の
「はあ?」
常盤台のもう一人の
「なぜその女王様が保護するんだ? 理由は?」
「さてね。私にも分からない事もある。実はお姉様と仲良くしたいとか」
「え? そんな理由? ならなぜ黒子さんの記憶を弄った。お前御坂さんの妹さんをジャックして逃げられないのか?」
「それが今10032号はミサカネットワークに繋がっていないみたいなんだよね。件の女王様のせいだね。でもある意味助かってはいるよ。10032号は婚后光子に打ち込まれたウィルスと同じものを撃ち込まれているみたいでね。オフラインのおかげでネットワークも感染せずに済む。とミサカは安心」
あの男御坂さんの妹さんにまで同じ事していたのか。やっぱり撃ち殺していた方が良かったんじゃないか。まあいい。もうこれは仕事。次に向こうから邪魔して来るようなら躊躇なく撃ち殺せばいい。咥えていた煙草を屋上の地面に叩きつけ踏み消す。食峰操祈は何がしたいのか分からない。黒子さんの記憶を弄りながら、御坂さんの妹さんを保護する。敵なのか味方なのか。今は考えるだけ無駄か。
「で? 木原幻生の居場所は?」
「十四時から第九学区で開かれる国際能力研究者会議に出る予定が入ってるみたいだけど、姿が学園都市のどの防犯カメラにも写っていない。間違いなくブラフ。ちょっとちょっかい出し過ぎたかも。とミサカは反省」
「は?なにそれ」
「いやあ、いち早く木原幻生の企みを察知した素晴らしい私は、早速その計画をおじゃんにしてやると思って動いたんだけどねえ。全部片手間に払われちゃって、今私めっちゃ警戒されてるんだよね。どうも私のAIM拡散力場のパターンを解析されて近づいたら反応する測定器みたいなのを作られちゃったみたいだ。おかげで私からは手出ししづらいと」
何やってんのこいつ。事態を自分でややこしくしておいて後は任せたとか調子良すぎる。だからこいつは嫌いなのだ。信じられそうなのは金払いくらい。それよりも
「でも分かった事はあるよ。木原幻生は
「おいおい、待ってくれよ。
「そのまさかさ。元々木原幻生は木山春生の上司だよ? なら」
『
「どうしたんだい? 何か嬉しそうだね。とミサカは疑問」
「いや、木原幻生も所詮その程度かとね。結局『
「あ、今悪い顔してたよ。でもどういうことだい? とミサカは興味」
「木山先生と今共同開発中の共感覚を用いた音の技さ。木山先生が理論を、俺が実践だ。理論上AIMジャマーの技としても使え、他にも効果がありそうだ。正にこの技は地に眠った財宝なのさ」
「え、え、そんな事考えてたのかい? 私が木原幻生と遊んでた間に? 酷いなあ凄い面白そうじゃないか。私も混ぜてくれよ。とミサカは表明」
今までニヤついていた口元が下がり、目をキラキラさせて電波塔がくっついて来る。『
「それに手をつけるのはこの仕事が終わってからだ。だからこれまでの俺の最後の仕事なのさ」
「なるほどねえ、私も楽しみが増えたよ。ただそれなら今は木原幻生に打てる手はないはず。そのための手はこちらで実は用意してるんだ。だからちょっとデートと行こうか?」
笑って俺の手を引いて行く
***
「結局ここかよ」
何が嬉しくてこんなところに来なければいけないのか。前を歩くのは常盤台の学生服に着替え上に白衣を纏った
第十七学区。学園都市の中でも自動化された施設の多い工業地帯。学園都市の中でも極端に人口が少ない地帯と言う通り、大覇星祭中だと言うのに人影の少なさは普段と変わらない。ここまで来るのに無駄に時間が掛かった。十七学区に人が少なかろうと、それ以外の場所には人が多い。むしろ人が来ないだろうと、交通機関の量が減り来るのに苦労した。
人影のないビルの間を二人で歩き、目指すのは焼け焦げ崩れ落ちた研究所。あの夏の一件から取り壊される事もなくそのままにされていたらしい。周りを高層建築物で囲まれているからか解体するのも苦労するのか知らないが、科学の街の名折れだろう。砕けたコンクリートの壁に残るジグザグの焦げ跡。一度吹っ飛んだ体が痛むようだ。
「まさかまだここ動いてんのか?」
「それこそまさか。前みたいには動いてないさ。ここは今や残骸の城、肝試しがてら踏み込んだ学生がお化けを見たなんて噂が立っていてね。好んで近付く者もいない。いいだろう? とミサカは自慢」
何が自慢なのか。こんな場所に篭っていては、引き篭もりというよりもホームレスっぽい。崩れて地面に転がっている黒い岩を踏みつければ、簡単に崩れ去って風に乗り飛んでいってしまう。「こっちだよ」と言って
ため息を吐きそのため息の落ちる先に足を伸ばして降りて行く。凸凹とせり出したコンクリートの肌を掴んで降りて行くと、一度上った時よりも、随分と早く最下層に着いた。敷き詰められたコンクリートの塊を押し退けるように外へと這い出れば、初めて
暗い。崩れた空間に目を細めていると、後ろから出て来た
残骸の城とはよく言ったものだ。流石に驚き目を見開く。地面に転がった円錐型の容器。それと共に転がった小さなサイズの『
この先にまだ何かあるのか。向かう先は最後ドライヴィーと共に戦う羽目になった『
「ああ、あまり気にしない。この子達も今や私と同じ。ミサカネットワークの中を漂う幽霊さ。とミサカは証明」
そう言って電波塔が指を鳴らすと、「
それを見て俺は目をより大きく見開く。似ている。だが違う。
「いやあ、苦労したよ。アバランチM-002と言ったかな? 似せようと思ったんだけどねえ。電子情報がほとんどなくて、こうにしかならなかった。とミサカは残念」
スイスにあるはずの決戦用狙撃銃。見た事はある。整備をするのは使用する俺の仕事だからだ。銃身も含めて約四メートル。銃身だけで三メートルはありそうだ。アバランチM-002に似せたと言う割には、そこまで似てはいない。長い銃身に長い二等辺三角形のような身体。電子上に残されたデータなどほとんどないはずだからこそのこの形状だろう。ご丁寧に真っ白な色の中に稲妻模様の黄色い線が走っている。
「折角だからどうかな、名称はインドラM-001なんて」
「おい、俺にコレ使えってのか?」
「君のポリシーに反したモノは作っていないよ。装弾数は三発、ボルトアクション方式。しかも弾丸は特別製、放つは特殊
そう言われて台座に浮かぶように置かれた巨大な狙撃銃を見る。スイスにあるアバランチM-002もそうだが、ここまで大きいと狙撃銃とは言えそうもない。相棒が一番手に馴染むと言うだけで、別に武器にこだわりはない。だが、ゲルニカシリーズとアバランチシリーズ程俺の手に馴染む武器もないので、渋々手を伸ばして手に取ってみる。二等辺三角形の間に腕を潜らせるようにグリップを握ると、思ったよりも手に馴染む。相棒を握っているのに近い。
少し振り回してみるが、随分軽い。この大きさで十五キロあるかないか。正に科学の結晶だ。
「ハハ、その大きさの銃を能力もなしに容易く振り回せる者は少ないだろう。上手く使えるのはゲルニカM-003で慣れている時の鐘ぐらいだろうね。それにそれは君の為に君に合わせて作ったんだ。フフ、いいね、いいよ。……やはり私は君で
「なんだって?」
「いやいやこっちの話だよ。とミサカは自己完結。……っツ! コレは⁉︎」
どうしたと聞く暇はなかった。
「や、られ、た。狙いは、お姉様、だったとは。僅か、にミサカネットワークから、サーバーを、ズラしていてもこの、有様だよ。とミサカは、消耗」
「おい大丈夫か?」
「大丈夫じゃ、ないかな。『
「御坂さんには借りがある。仕事は受けた。木原幻生の計画は俺が潰す」
「そう、かい。なら、あの子達、が、連れて行ってくれるよ。私は」
そこまで言って
振り向いた先、暗闇に光る六つの目。だがコレまでとより姿が異なる。人と鳥を掛け合わせたような異様な彫像。
「
機械的でありながら、幾重にも重なったこれまでよりも女の子らしい声の黒鉄の雷鳥。彼女達も成長しているのだろう。こんな姿でも俺と同じ人間だ。弱々しい声を出し、歯車の音を立てながら俺に向かって頭を垂れる。ミサカバッテリーは自分達の共鳴を用いて独自のネットワークを構築している。ミサカネットワークとは似ているようで別のサーバー。
「お嬢さん達はまだ子供だろう。好きに生きてもいいと思うが、それとももう生き方を決めたのか?」
「……
「そうか。なら行こうか戦友。お互いそれしか知らんしな。俺はお嬢さん達嫌いじゃないんだ。
「
黒鉄の雷鳥が羽を広げる。背に乗れと言うように、