半人半鳥の黒鉄の巨人が重そうな翼を軽やかに動かす。いったいどういう仕組みでこの『
コンクリートの壁をぶち破り、広がった空は昼間の青いものではない。ゴロゴロと叫び声をあげる一寸前のように喉を鳴らす雷雲が、学園都市の上空を覆っていた。今にも落ちて来そうな重々しい灰色の雲に這っているのは目も眩むような閃光ではない。むしろその真逆。光を吸い込むような黒い稲妻が灰色のキャンバスを切り裂いている。
ただ己が内に潜むエネルギーを発散するのではない。雨が細川となり大河となるように同じ方向を目指して空を駆ける。間違いない。ミサカネットワークが目に見えた形として現れている。
「
不思議だ。魔術と科学、両極端に見えるのに、行き着く先は同じ。天使。その在り方が絶対能力者だとでも言うのか。土御門は言っていた、天使とは『
「ふふふ」
薄い笑いが口から溢れた。笑わずにはいられない。コレが俺が目指し行き着くかもしれない姿なのか。時の鐘として力を求め、仕事のためにその力を高めていく。人ではなく機械。ボスも俺が学園都市に行き変わったと笑うわけだ。俺は今までこう見えていたのだろうか。ボス達の隣で仕事だと割り切り引き金を引く。滑稽だ。『
「ふくく、ふっはっは!」
そりゃ憧れていたボスやガラ爺ちゃんに近づけないわけだ。彼らは人として確固とした自分を持っていた。俺が歪な俺を目指し進んでいる先にその姿は絶対ない。魔術も科学も関係なく人の身で天使と同じような存在になるなど御免だ。だからこそ良かった。感情で線を踏み越え、
必死だ。必死がある。俺が欲しい必死の形。ただ漠然と強い感情の刺激が欲しかった。それはきっと俺の中にあるはずの感情を探して。でも今はもうそれは違う。そうとも、俺が欲しい必死は、俺として何かを成すこと。数いる英雄達が思い悩んだ末にその手に栄光を掴んだように。俺も証を掴む。
「はっはっは! 行こう!
「
勝てる? 勝てない? そんな事をいちいち考えるのももう終わりだ。俺は勝ちしか考えない。戦いしか知らない俺は、ならばそこで頂点を目指そう。ボスにもハムにも他の仲間にも俺はいずれ勝ってみせる。もう勝てないとは言いはしない。一級の魔術師だとか、
黒鉄の軋む音に合わせて、重い
しばらく『窓のないビル』を見つめていた御坂さんだが、その姿が忽然と消える。
「ふは! 来たかよ
インドラM-001を構えて引き金を引く。だが、何の音もせずに弾丸すら発射されない。なにそれ。振っても叩いても何の反応もない。壊れた? まさか、まだ一度たりとも撃ってすらいないのに壊れたはないだろう。ないよね? まさか
「初めてのインドラ? 説明書かよ! 最初に渡せ!」
インドラM-001を肩に担ぎ直し急いで文字の羅列に目を通す。
「なるほど分かった、だが
「
「ちゃん⁉︎ 変なところ気にするな……
「
それが聞ければ十分だ。少し身を乗り出して御坂さんと上条のところを指差す。木原幻生の計画を叩き潰す。やる事は決まっている。だがどうすれば叩き潰せた事になるのか。今の御坂さんの状態は、電波塔の最後を含めて、木原幻生が何かしたのは明らかだ。どうせ木原幻生は殺せない、そういう条件だ。ならば御坂さんを止める事が木原幻生の計画を潰す事に繋がるはず。
再びインドラM-001を構えてスコープを覗く。動きもせずに手足のように蠢く稲妻が近付こうとしている上条を迎撃している。空を回遊する瓦礫が固まり、上条に向かって振り落とされた。セイフティーを外し引き金に手をかける。だが、引き金を引くよりも早く飛び込んで来た人影が瓦礫の塊を打ち砕いた。誰だ? 見た事がない……いやある。大覇星祭の選手宣誓、その壇上で好き勝手やっていた旭日旗柄のシャツを着た男。
「
ライトちゃんの言葉が答えだ。稲妻の輝きに当てられて変な虫が寄って来たらしい。次から次へとクソ面白い。彼もまた少し前の俺が憧れる英雄であるのだろう。上条と並び立った第七位と、上条は御坂さんそっちのけで何か話している。何をそんな余裕ぶっているのか。突っ立っている二人に向かって伸びる二つの電撃。その合間に向かって引き金を引く。バチュンっと稲妻を引き千切った音を立てて、想像以上の反動の少なさと反比例して目で追えない速度で弾丸が大地に突き刺さる。そこを起点に上条と第七位に向かっていた雷撃が捻じ曲がり弾けた。
インドラM-001専用の特殊弾頭。超電磁砲と磁力砲の中間性能というように、放った弾丸は強い電磁力を帯びている。単純な電気エネルギーなら御坂さんには及ばないが、反らすだけなら問題ない。相性は最悪でもあり最高でもある。そしてそれはライトちゃんも同じ。御坂さんを中心に空を走る雷撃がライトちゃんを巻き込もうと向かって来るが、当たる前に方向を無理矢理変えさせられ背後に飛んでいく。
ライトちゃんの肩を軽く叩き、地面に降下するライトちゃんに合わせて手を離し上条と第七位の間に降り立った。俺と隣に音を立てて足をつけるライトちゃんを見て目をパチクリと瞬かせる上条と第七位。
「の、法水⁉︎ お前なんでいるんだ⁉︎ さっきのお前か? いやそれより急に法水が消えたから吹寄めっちゃ怒ってたぞ! っていうかこのロボット前の!」
「おー! なんだコイツ! めっちゃ根性ありそうな形してんな! それにオマエなんだそのでっけえ銃は! よく持てんな! いい根性だ!」
第七位がライトちゃんの鋼鉄の体をべしべし叩く。気に入らないのかライトちゃんは身を捩って逃げようとするが逃げれていない。二人の気楽な顔を見比べて、なんとも楽しくなってきた。
「吹寄さんには後で一緒に謝りに行こう上条さん。とにかく御坂さんだ。あの暴走を止めにゃあならん。ふふふ、燃えるな、俺はやるぜ」
「……法水なんか変わったか? って言うか俺も一緒に謝んの⁉︎ なぜに⁉︎」
上条の叫びをBGMにインドラM-001を取り回す。やはり異様に手に馴染む。
「俺は削板軍覇、オマエ達は?」
「……上条当麻」
「
「法水孫市だ。さあ派手に行こう」
***
ふざけている。そう言える。
ついさっきも第七位が意味不明な力で強引に道を作り、第七位にぶん投げられた上条が御坂さんに触れたが、『
上条を抜いて俺に迫る雷球に舌を打つ。その雷球の隙間に銃を向け、引き金を引くと電磁力に引っ張られて雷球はお互いを弾き目の前で破裂した。迸る紫電。体をピリピリと打つ。インドラM-001は特殊な金属でも使われているのか電気の影響をあまり受けないが、こう近くの空間を電気が支配していては連続で弾丸を飛ばせない。何より俺は御坂さんに近づけば終わりだ。さっきも第七位が
地面を這って来た稲妻を転がる事で避けていると、空を飛び瓦礫と稲妻を払っているライトちゃんが俺の横に降りてくる。「
「……黒子さん?」
そう俺が呟くと会話が止み、まくし立てるように驚いた黒子さんの声が返ってくる。
「孫市さん! あなたどこにいるんですの! 電話しても出ずに! だいたいどうやって通信に割り込んで」
「悪い携帯は壊れたんだ! っていうかなんで今黒子さんと繋いだんだ? ……まさか周りに誰かいるのか? 木原幻生⁉︎」
「木原? いえ誰も。ついさっき食峰操祈には会いましたけど」
食峰操祈。またコイツか。黒子さんとなぜ会った? わざわざ記憶を弄った相手だ。御坂さんの記憶を消して、御坂さんの妹さんを匿っていた相手。行動原理が読めない。
「細かい事は聞いてられん! 黒子さん! 食峰操祈は敵なのか? それだけ教えてくれ!」
「またあなた何かやってますの? そういう時はわたくしに話してくださいと言ったでしょう! ……まあいいですの。食峰操祈は敵ではありませんわ。わたくしは今御坂美琴を操っている者を追っています。食峰操祈は木原幻生の相手をすると」
「何?」
急に情報が多過ぎる。御坂さんを操っているのは木原幻生ではないのか。そうすると一体誰が操っているのか見当もつかない。だが黒子さんが追っているのならそれは任せてしまって大丈夫だろう。御坂さんの記憶がなくても御坂さんを助ける為に動いていたとは。記憶を失っても変わらない黒子さんに笑みが零れる。これだから黒子さんからは目が離せない。だが果たして黒子さんが操り主を倒して御坂さんが止まるのか。そうとは思えない。なぜならこの件の鍵となっているのは木原幻生だ。木原幻生をどうにかしなければおそらく終わらない。
黒子さんは信頼できる。だが、食峰操祈はどうだ? 俺は彼女の事をまるで知らない。黒子さんが敵ではないと言うからにはそうなのだろうが、一人で木原幻生に勝てるのか。
「黒子さん! 食峰操祈はどこだ! 場所を教えてくれ! そこに木原幻生もいるんだろう!」
「孫市さん何を……いえ、こうなったら聞きませんけど後で説明して貰いますわよ、場所は」
ため息を吐きながら教えられた場所に目を向ける。初め御坂さんが立っていた、雷の落ちたビル。今俺がいる場所からも視認できるほど近い距離だ。こんな近くに木原幻生がいたとは。足を向けようかとも思ったが、飛んで来た稲妻が俺に目の前を通り過ぎて進行方向を塞いだ。この場所から移動するのも難しい。
「ライトちゃん! ハッキングでもなんでもいい、食峰操祈の携帯と繋いでくれ! 今はとにかく情報交換がしたい、こんな状況でも⁉︎」
突っ込んで来た瓦礫の破片が肩を弾き、折れていた鎖骨の傷が開く。腕が動くかどうか確認し、うねり狂う稲妻が上条と第七位に迫るその間に弾丸をみまった。捻り散る稲妻に目を離してインカムを小突く、このインカムも半人半鳥の『
「食峰操祈! 聞こえていたら携帯に出てくれ! 至急聞きたい事がある!」
雷鳴轟く音に紛れて聞こえていないなんて事がない事を祈りつつ、黒子さんと話していた時よりも大きな声で呼び掛けると、インカムの先で聞こえていた物同士がぶつかる音が消える。ポケットかバックかを漁る音。そしてインカムの先の音が明瞭になる。
「食峰操祈だな。俺は法水孫市、時の鐘の傭兵で木原幻生を潰すために動いている。白井黒子から味方だと聞いた。至急聞きたい事がある」
そう言ってみるが、返事があるかは五分五分だ。俺と常盤台の女王様には面識があるわけでもない。急に携帯をジャックしてきた怪しい相手。それもおそらくお互い切迫している。信用に足るかは分からないが、黒子さんの名前が後押ししてくれれば御の字。そう思い御坂さんを視界に入れながらまた一つ雷撃を避けていると、時間を使って「……対暗部の〈シグナル〉ねぇ」と呟かれる。
「そうだ! ったく昼間の男といい貴女といいなんで一昨日発足されたばかりの俺達の事を知っているのか知らないが、その在り方は対暗部、ある程度信用してくれ!」
「……そうねぇ、アナタの事は知ってるわよぉ、私の能力で白井さんの記憶を覗いた時に出てきたし、それにアナタ達の事を知っているのはアナタ達の宣伝力のせいでしょぉ? 裏に大々的に『
初耳なんですけど。僅かに動きの止まった俺に大きな瓦礫が降り注ぐ。電気の塊ならインドラM-001でどうにかなるが、物理は物理でどうにかするしかない。避けても幾らかくらうかと覚悟していると、飛んで来たライトちゃんが瓦礫を吹き飛ばしてくれる。
俺は〈シグナル〉の宣伝なんてしてないし、自分が〈シグナル〉のメンバーに入っていると知らない上条だって宣伝できるはずがない。青髮ピアスがわざわざそんな事するか? となれば残されたのはちゃっかり名前が入っていない金髪サングラス。あいつまた知らぬところで好き勝手やりやがった。ため息を吐きたいがそんな暇はなく、今度土御門に飯でも奢らせようと自己完結して話を進める。
「時間がない! だがそれはお互いだろうから用件だけ話す!」
「あらぁ? 私が協力すると思っているのかしらぁ? その信用力はどこから来ているのか気になるわねぇ」
「俺だって貴女は信用してない! はっきり言って黒子さんや初春さんの記憶を弄ったらしい貴女は嫌いだ! だが黒子さんは貴女に協力して動いている。黒子さんを信じて貴女を信用する!」
少し間が空き、返って来たのは「私が白井さんを操ってるかもしれないわよぉ?」との言葉。それは確かに考えた。精神系の
「操ってたらわざわざ言わないだろう? メリットがない。だいたい、ッツ⁉︎」
そこまで言って口を結ぶ。大地がひっくり返ったのかと思うほど地面が流動し、黒い大蛇が掘り起こされる。俺を弾き飛ばした砂鉄の鞭の何倍はあろうかという巨体。それに僅かに足を削られたが、地面に手をかざした第七位が大蛇を地面に叩き潰す。第七位は確か世界最大の原石。どんな能力かは知らないが、第三位や
「御坂さんと交戦中なんだよ! だから時間がない! 『
できるできないとは言っていられない。やるしかない。木原幻生を殺さずに無力化する。いったいどうやってミサカネットワークを掌握しているかは分からないが、手足の一、二本奪って動きを止めれば、時間を掛けても近寄り吐かせる。それしかない。だがそんな俺の考えは、「無理ねぇ」という食峰操祈の短い言葉にばっさり切り捨てられた。
「なぜだ! 理由を言え!」
「そうねぇ、私も時間がないから単刀直入に言うわぁ。ミサカネットワークを掌握しているのは『
「……ならその『
木原幻生を殺すなという理不尽な依頼もそれなら達成できる。だがそんな思惑もまたすぐに「無理ねぇ」と否定されてしまう。
「『
クソ、難しい話になってきた。だが分かった事もある。つまり何が何でも『
「分かった。『
俺を信じるか信じないか。もう後は食峰操祈次第だ。長い沈黙が流れる。だがそれはインカムの先だけの話で、稲妻が宙を切り裂いてまた一つ俺に迫った。それに向けて引き金を引き、空になったインドラM-001に弾丸を詰めてボルトハンドルを押し込む。もう残弾数も半分を切った。やるならば今しかない。上条が稲妻を消し、第七位が稲妻を殴り飛ばすその中で、インカムから吐息が漏れる。
「……そこにいる王子様に免じて今回だけ信用するわぁ。『
「何? それは能力を捨てるって事か? 戻るのか?」
「私には無理だけどぉ、能力を打ち消してくれる人が隣にいるでしょぉ? ただそれは『
「それでいい、こちらもそれまでに下準備を終わらす」
会話から意識を外し、御坂さんからも目を外す。御坂さんに意識を割いていたのでは、『
「上条さん! 第七位! しばらく俺は無防備になる! だが決着をつける! 守ってくれるか!」
「法水! 何か思いついたんだな! 任せろ!」
「ハ! やってやんぜ! いい根性見せろよ!」
二人に完全に背を任せる。思えば時の鐘の仲間達以外に背を任せるのは初めてだ。背後に轟く目に映らぬ破壊音に、少し寒気がするが怖くはない。これは武者震いだ。小さく息を吐いてインドラM-001を構えた。癪だが今は
インカムの先でも先程から破壊音が響いている。お互い時間はない。十発以上弾丸を吐き出し、残った弾丸は後一発。後はある場所に行ければそれで全てが整う。その位置を振り返り確認すると、丁度御坂さんと上条、第七位の間。そこに突っ込むかよ。笑えて来る。だが俺を守り稲妻で焦げた上条と第七位の背を見ると、何の恐怖も湧いてこない。一歩足を踏み出す先で、時間を経てより禍々しくなっている御坂さん。そしてインカムの先から「リミッター解除コードゲット」という聞きなれない嗄れた男の声。食峰操祈の近くとすると一人しかいない。
「木原幻生か?」
と自然と声が漏れた。その声に反応したのか、嗄れた声が後に続く。
「誰だい?」
「ようやく声が聞けたな。名前ばかりよく聞いた。俺は法水孫市だ。覚えて貰わなくて結構」
「法水? ああ、〈シグナル〉とかいう対暗部を謳う組織だねえ。見てたよ。全く『
「帰るか、こっちはお仕事なんだよ。それに個人的にお前は嫌いだしな」
喋りながら足に力を込める。勝負は一瞬だ。木原幻生が食峰操祈から何を手に入れたのかは知らないが、もうここで決めるしかない。食峰操祈の安否も気になるが、リミッター解除コードと言った。食峰操祈が木原幻生が狙っていると言った、今重要なものである『
「そうかい、どうでもいいけどね。それにそれはあの出来損ないの玩具か。どこで仲良くなったのか知らないけど、アレも思ったより俗物的になったね」
「アレってのは
「全くどうだっていいね。で?
心底呆れたといった声。本当に興味がないんだろう。それならそれで結構。俺だって木原幻生には興味はない。最後の勝負。しんと静かに佇む御坂さんはおよそ人の形からかけ離れている。最初あった御坂さんの面影がもうない。早送りされた成長過程を見ているようだ。白い体に宇宙のように暗い影が差した顔。その目でいったい何を見ているのか。黒い影が光を吸い込み雷へと変換するように、圧縮されてなお人一人簡単に飲み込む雷の
笑える。笑えてしょうがない。こんなものを前にしてなお恐怖よりも先に気が高ぶるとは。俺の本質が前に行けと足を動かす。欲しいものを掴むには前に進まなければ始まらない。掴めなかった時のことなど考えない。一歩足を出す。さらに一歩。もう一歩。足音が重なる音は三つ。左右に並ぶ男達を見て笑い声が出た。
「はっはっは! 行くぞ上条! 軍覇! ここで行かなきゃ、行くしかないぜ! キメは任せろ。だからアレは任せた!」
「信じてるぞ法水! どんな幻想も必ず俺がぶち殺してやるから! 御坂は俺達で止める! 軍覇ァ‼︎」
「ハっ、オマエ達気に入ったぜ! アレはこれまでの電気の塊じゃねえ。ありゃあどっか別の世界から来た文字通り『理解』できねえもんだ。だから一番手は任せろ‼︎」
第七位が腕をかざし空間を飲み込んでいる稲妻を超えた稲妻をその両腕で押さえつける。その小さな人の手を超えた大きな力の手で、エネルギーに負け血の噴き出す腕も気にせずに、御坂さんに続く道が開ける。それを見届け、上条と二人飛び出した。
「何で君も行くかなあ」
インカムから聞こえる木原幻生の声。どこにいるのか分からないが、確かに見ているのだろう。心の深底から呆れていると分かる木原幻生の中身のない声。場違い。今までの俺ならその通りだと自虐しながら足を緩めていたかもしれない。だが今は違う。木原幻生の声を感情のままに笑い飛ばす。
「ハハ! お前には分からないさ木原幻生! どんな人間にだって可能性があるのさ! 宝石と同じ、磨くまで分からない。例え今は違くても、きっと誰にも可能性がある! 俺は自分を磨くよ、これからでも、そのために!」
上条と共に走っていた足をその場で踏み込み反転する。向くのは『
「行くぞ! 食峰さん! ライトちゃん!」
俺の叫びに呼応して、空から俺の近くに舞い降りたライトちゃんの体が稲妻を吐き出す。インドラM-001も半人半鳥の『
「この物語に
引き金を引く、ただそれだけ。目の前で光が弾けた。音速の三倍を遥かに超える稲妻の槍が、光の線を空に残しビルに綺麗な穴を開ける。その穴の中には何も残らない。ぽっかりと空いた穴から発せられるような、嗄れた叫び声がインカムから響く。
「き、貴様『
「ハハ……」
薄く笑い声が漏れた。木原幻生の絶叫にではない。空に竜が舞っている。大の字に大地に倒れた俺の目に映るのは、雷の
「ん? おわあ⁉︎ 法水⁉︎ おい⁉︎ 大丈夫なのか⁉︎」
夢から覚めたように元に戻った御坂さんと上条は何やら話していたようだが、俺に目を向けると青い顔をしてこっちに飛んでくる。ライトちゃんの能力で共鳴増幅されたインドラM-001は、弾丸を吐き出したと同時に弾け飛んだ。おかげで両腕がぼろぼろで上がりもしない。肩も体も肉が飛び散り血塗れだ。何でもないと手を振りたいが、上がらないので諦める。
「平気だ平気。元々痛みは感じないし、おかげで痛みで気絶もできない。だが、今は良い気分だ。最高だよ。俺のこれまでの人生で一番。……だから今度はこれからの一番を探すよ」
雷雲に開いたまあるい穴はまるで狙撃銃のスコープのようだ。その先にはいったい何が見えるのか。きっと何だって見えるから。俺はそれを見に行きたい。
大覇星祭編、終わり。ここまで読んでいただきありがとうございます。