アニェーゼは『女王艦隊』の旗艦の一室に居た。一辺が十メートルはある四角錐の部屋。三角形の形に削り出された青く淡い白色に光を放つ氷の結晶で『のみ』作られた部屋。アニェーゼがふと天井に目をやれば、四角錐のゆるい頂点が目に映った。高さは目算で百メートルはあるように見える。他の帆船達と違い旗艦はひと回りもふた回りも巨大ではあるが、構造的にどれもありえない。存在するはずもないのに存在しているという理性に訴えかけてくるアンバランスな空間が、気持ち悪いとアニェーゼは目を落とした。
装飾品の一切がない四角錐の空間に、唯一部屋の中央に置いてある透明な氷の球体。直径七メートルはある透明な球体の中身はくり抜かれており、そここそアニェーゼが本来いるべき『牢獄』。それを見つめるアニェーゼの視界が小さく揺れる。遠くで響く砲撃音に、アニェーゼは眉を顰めた。
「『聖バルバラの神砲』……? 一体、何に向けて撃っているんですか」
「分からないのか、シスター・アニェーゼ」
零されたアニェーゼの疑問を拾うのは低い男の声。アニェーゼの視線の先、声の主は氷の球体の前に立ち、その曲面に背中を預けている。重厚な法衣を着込み、首から垂れ下がった四本のネックレス。その一つ一つに幾つもの十字架が取り付けられている。学園都市にいる青髮ピアスが見れば、「お仲間さんやん」とでもつまらなそうに言っただろう。そのネックレスが表すのはメノーラー。セフィロトの樹の別表現、七本の蝋燭によって例えられる四界の象徴、エルサレム国の国章にも描かれている。アニェーゼの目がそちらへと向き、男の言葉が続けられる前に、「ビショップ・ビアージオ」と新たな声が部屋に響いた。
部屋にはアニェーゼとビアージオの二人しかいないが、二人とも声の主を探す事はない。声が響いて来たのは、ビアージオと呼ばれた男の首から垂れ下がった数十あるうちの一つの十字架から。
「三七番艦は沈みました。もう砲撃は止めた方が良いのでは……。これ以上は陸からの干渉も懸念されます。ただでさえ艦隊の展開にはヴェネト州の──」
「人目の処理はよその部署に回しておけ。わたしの管轄ではない」
十字架から響く声は、ビアージオが十字架をなぞると一方的に消えた。苛立たしげに男は小さく一つ息を吐いてから、アニェーゼの方へ顔を向け笑う。
「わたしも色々な部署を回ったが、能のある部下というのはなかなかいないものだな」
「能がない部下がいるようなら、それを引き出すように面倒を見るのが上官の務めだと思いますけど」
「理想論だな。そして、それが君の人生の敗因だ。シスター・アニェーゼ。部下の選定に手間をかけないから、君はそうしてそこにいる」
でしょうね。と適当にアニェーゼは返し、したくもない『上に立つ者とは』についての話を打ち切ろうと試みるが、一人で盛り上がっているらしいビアージオには聞き届けられず、忌々しげに舌を打った後に男の話は続く。
「……本来、ネズミが見つかるまで三七番艦は本隊に近づけるなと言ったのに。挙げ句、『接続橋』まで繫いでしまうとはな。ネズミがよその艦に移っていたらどうするつもりだったのか。君の身に何かあったら取り返しがつかないだろう」
ビアージオの言葉にアニェーゼは自分の体を抱くように両腕を回す。
「全くだょ」
そのアニェーゼの上に緩やかな風が覆いかぶさった。生温い空気がアニェーゼの背中を撫で、目だけを左に動かした視界に僅かに映る黄色い二つの光。頬と頬が軽く触れ合う距離に突如現れた気配にアニェーゼは流石に飛び退いた。いつ部屋に入って来たのか。気配は突如として現れ、視界の端に映った扉はいつの間にか開いていた。
アニェーゼが飛び退いた事でその全体像が露わになる。アニェーゼは見慣れている『
『女王艦隊』が薄っすら放つ白い輝きを黄色い光に変えて輝く二つの瞳。目には一本の縦線が走り、猫の目ような印象を受ける。騎士にしては細い体躯。くせ毛と言うには、渦を巻くほどにぐるぐるし過ぎている金髪を長い指で弄りながら、鎧騎士はアニェーゼに寄ろうとし、「ラルコ=シェック」と呟いたビアージオの言葉に足が止まった。
「なんだょ、今良いとこなのに」
「君は何をしている。君の仕事は旗艦の防衛だったはずだが?」
欠伸でもするかのように、瞼を下ろすラルコに向かって、苛立たしげなビアージオの声が返された。アニェーゼは動けない。ビアージオだけならまだしも、『
彼女が息を飲んだその先で、ビアージオの質問にも答えずにアニェーゼへと目を向けて笑う狂信者。アニェーゼも身構えていたが、スルリと人の警戒をすり抜けるように少女の背後に回り、ラルコは再び少女に布切れのように柔らかく覆い被さった。アニェーゼの背に伝わる生温い空気が悪寒へと変わり、冷たい汗が彼女の背中に伝った。
「かぁいいね。お嬢ちゃんが鍵なんだ。お嬢ちゃんが『接続橋』を渡ったお陰で綺麗な花火が見れたょ」
ラルコの様子にビアージオはもう相手を辞めたようで口をつぐみ、新たに震えた十字架の方へ言葉を飛ばす。残されたのはアニェーゼとラルコ。アニェーゼはゆっくりと口内を満たしている生唾を飲み込み、何が導火線になるのか分からない言葉を選びながら口を開いた。
「……綺麗な花火とは、沈んだと言う三十七番艦でやがりますか?」
「そうとも、素敵だったょ。形あるものが崩れる様は」
「ローマ正教の者も居たはずですが」
アニェーゼの言葉に一瞬ラルコは固まり、大きく笑いながらただ覆い被さっていた態勢から少女を包み込むようにゆっくりと腕を閉じた。ゆっくり、だが力強く。
「アッハッハ! それが何か問題? いいかね、神には供物が必要なんだょ。それが異教徒ならば良し、ローマ正教の者ならそれもまた良し。いいじゃないか、誰より早く神に会いに行ける、光栄な事だょ。そしてお嬢ちゃんがより多くの者を供物とする鍵なんだ。かぁいいねぇ」
ゆっくり、ゆっくり、確実に少女の首が絞まっていく。アニェーゼも抵抗しようと狂信者の腕を掴むが、手に持った細い腕とは裏腹にビクともしない。アニェーゼの顔が上気し赤く染まり、苦しそうに呻く様をラルコは愛おしそうに眺める。もっと、もっと。ゆっくりゆっくりラルコの手が狭まっていき、アニェーゼの声すら出ない絶叫が響くすんでのところで、「ラルコ=シェック‼︎」と言うビアージオの怒号がそれを止めた。
「お遊びはそこまでだ! 配置に戻れ!」
「えー、今良いところなんだょ?」
「クドイ‼︎」
ビアージオの声にゆっくり剥がれる狂信者。だが、完全にはアニェーゼから離れず、両手は少女の肩に添えられたまま。生温い空気はどこか消え去り、両肩に置かれた手から、氷のような冷たさがアニェーゼの芯に触れた。静かな空間にカチカチ鳴るのはアニェーゼの噛み合わぬ歯の音。
「誰にモノ言ってんだょ、
ラルコの言葉を少女の耳が理解した瞬間、アニェーゼの頭を頭痛が襲う。頭の中に直接爪を立てられたような痛み。少女の膝からがくりと力が抜け、青い床に両手をつく。膝に力が入らない。恐怖ではない。膝の関節が痺れたように言う事を聞かない。見上げたアニェーゼの目に映る光る黄色い瞳が輝きを増し、ギョロッとアニェーゼに落とされた。
「毒を吐くなラルコ‼︎ もう言わんぞ‼︎」
ビアージオの言葉は制止の言葉にはならず、ラルコは大きく口を開けて笑みを作りゆっくりと腰に刺された剣へと手を伸ばす。
殺られる。
アニェーゼの目に映る実体を得た死の化身に、薄い瞼を閉じようと少女が奥歯を噛み締めた瞬間、『ビショップ・ビアージオ! 緊急です!!』と司教の首についた十字架が震える。ビアージオはラルコから視線を外し、首元の十字架へ目を移した。
「何だ?」
『三七番艦撃沈跡の下部に巨大構造物の反応あり! 船の残骸を回収しているようですが……』
司教は舌を打ち、ラルコは笑う。何にせよ張り詰めていた空気が緩んだ。荒かったアニェーゼの呼吸も僅かに落ち着く。
「潜水術式……以前のシスター・ルチア達と同じ、また海の底からか。『女王艦隊』の制海機能を組み直す必要があるな。大体、巨大構造物だと。そんなものを個人が用意できるとは思えないが……となると、やはりキオッジアには『集団』がいたか。だから早めに潰しておけと言ったのだ。指示は出したのに、これも部下の失敗だったな。まったく、『集団』を仕留め損なうわ、船の侵入者達にも逃げられるわ……ラルコ、君も持ち場に戻れ」
気が変わったのか、ラルコは今度は何も言わずに踵を返す。アニェーゼの隣を通り過ぎるのに合わせ、呟いた言葉は聞こえるか聞こえないかの小さな声。
「カレンも来てるんだった。『
そう言い切り黄色い瞳がチラリとアニェーゼを見て扉の奥へと消えた。
***
海の匂いがした。海のないスイスでは滅多に嗅ぐことのない潮の香り。生臭く塩辛い母なる源の匂いに小さく鼻をすする。体に上手く力が入らない。最後に見た『
「カレン平気?」
呼吸はできても未だ海底にいるような気分の中、高い少女の心配そうな声が出て横から聞こえてきた。薄っすら目を開ければ、目に眩しい純白の修道服。禁書目録。異教徒の私に心配そうな顔を向けるとは困った少女だ。むしろゴミを見るような目で見られた方が今は幾分か気が紛れる。
禁書目録から目を外せば、禁書目録の隣に『
天に上っている大きな月。『女王艦隊』よりも強く優しい白い光に目を細める。海に落ちたはずなのにどうして私は今こうしているのか。
「大丈夫ですか? カレン」
「……オルソラ、ここは?」
「天草式の皆さんの上下艦だそうです。海に落ちた私達を助けてくれたのですよ」
次から次へと、彼らにとって異教徒の私を助けて利益があるのか。シスター二人と違い、私は『女王艦隊』についての事などまるで知らない。何やら話しだしたオルソラ達の会話がまるで耳に入って来ない。私はもうダメだ。神の命が下ったのなら、私はもう動けない。膝を折り畳んで、ただ時が過ぎ去るのを待っていると、肩に手を置かれた。顔を上げればオルソラの顔。何とも言えない弱い笑みを浮かべている。何か言われるかとも思ったが、私の手を引き立たせるだけで何も言わない。なぜ? 答えはすぐに分かった。どうやらここを移動するらしい。
いつに間にか『上下艦』と呼ばれた木製の大きな潜水艦は陸地に近づいていたようで、建宮と呼ばれていた天草式の男が紙束を海に投げると、二十隻程の小舟に変わる。一々驚く気力も湧かない。オルソラに手を引かれながらボートに乗り、あっという間に陸地に着く。キオッジァの一角、ソット・マリーナ。小舟を紙に戻した天草式は、また違う紙をばら撒くと、それがテーブルや椅子へと変わる。どこから持って来たのか、天草式の連中は食器類を持ち出し、テーブルの上に並べていく。
食事をとる気分ではない。今はただ遠くに行きたい。友の死に姿など見たくはない。神命、故に決定。オルソラの手から逃れ、ヨタヨタと夜の町に足を差し出そうとしたのだが、白い修道服が私の前を塞いだ。
「……なんだ。私は必要ないだろう」
「そ、そんな事ないんだよ! カレンがローマ正教なのは知ってるけど、とうまを守ってくれたんでしょ?」
「守っていない、守る理由もない。……アニェーゼも。だから私はもう行く」
「ダメなんだよ! だって、あの、その、料理! 料理教えてくれる約束だよ!」
そう言いながら禁書目録は私の手を引いて料理をしている天草式の方へと引こうとしてくる。だが、悲しきかな筋力の差だ。全く動かない私の手を、それでも強く禁書目録は引く。イギリス清教に気を遣われるとは。情けない。それほど今の私は弱って見えるのか。私を引き止めてどうする? 私がここにいても、剣も振れないというのに。
行く場所もあるわけでもなく、禁書目録の力に合わせてゆっくり料理をしている天草式達の方へと寄って行く。こんな私でも苦手なのか、私の入るスペースを作るためか、ザッと人垣が割れた。
「ねえねえ何作る?」
笑顔を見せて包丁を手に取る禁書目録。危なっかしい持ち方だ。持ち方は教えたはずなのだが、実践となると別なのか。「……猫の手」と言うと、慌てて禁書目録は持ち方を戻す。置いてある素材は自然素材がほとんどを占めている。天草式達を見るとサラダ中心の食事の様子。
「……ミューズリーでも作ろうか」
「ミューズリー! 知ってる! まごいちが前に作ってくれたんだよ!」
あの男か。あの男ならこんな時悩んだりしないんだろう。悩みがなさそうな男だ。あの男が葛藤している姿など見たこともない。自分のために動く男だからこそ、悩まず前に進めるのか。それが少し羨ましい。ふとそう思ってしまい、口から力の入っていない笑い声が漏れた。
私の目の前で果物を切っていく禁書目録は、「どうしたの?」と手元から目を離さずに聞いてきた。この一日で大した上達だ。
「何、私は弱いなと思っただけさ。あの男を羨むくらいに」
「そうなの?」
「ああ、私は弱いんだよ。どうしようもなくな」
禁書目録が切った果物をナッツとオーツ麦と牛乳を混ぜ合わせる。アクセントには生ハムでも添えればいいだろう。
「カレンは強いと思うけど、料理もとうまより上手だし」
「それは貴様が私の事をよく知らないだけさ」
そう知らないだけだ。料理が上手い? それは私のいた孤児院で私は他の子達から疎まれていたから料理を自分で作るしかなかっただけだ。私が強い? それは子供の私が強くなるためには剣を振るしかなかったからだ。環境のせい、言ってしまえばそれで終わるかもしれない話。楽しいから、面白いから、そう思って剣を振った事などただの一度もない。魔術もそうだ。『
ミューズリーを掻き混ぜていた手が止まる。
「救われぬ者に救いの手を‼︎」
私と禁書目録が食事を作っていたその間に、何やら話しが纏まったらしい。救われぬ者に救いの手を。耳障りの良い言葉だ。言うは易し行うは難し。だが、目に映る天草式を見る限り冗談で言っているわけではないらしい。それが天草式の教義。オルソラを救った意志。間に合わなかった私と違い、オルソラに届いた教え。神の剣としての私は、強くはあるが中身がない。『
神とはなんだ? 見た事もないものをどこまで信じればいい? 神の意志は確固としていても、私の意志は形もない。
やるせなく、ミューズリーを掻き混ぜているスプーンを強く動かそうとすると、横から伸びてきた二本の手が輪切りされたバナナを摘み、勢い良く視界の端へ消えた。
「「珍しいわね、神の剣が錆び付いてるわ」」
重なって聞こえる二つの声、片方は高く、片方は低い。聞き覚えのある声に振り向くと、私の視線の先に同じように集中している天草式やオルソラ、上条当麻達の視線。
月明かりを受けて輝く森のように緑の軍服。V字を描く白銀のボタン。見慣れすぎた『
「な⁉︎ その服って⁉︎」
「アラン&アルドか、何故ここにいる?」
その軍服は『
「時の鐘⁉︎ なんでいるんだよ! まさか法水まで?」
上条当麻の疑問に、つまらなそうに時の鐘の二人は鼻を鳴らす。「「ああ、孫市の言ってた子ね」」と言って興味深そうに上条当麻に擦り寄ると、面白そうに右手を握る。
「ま! 凄いわアルド! 貴方の声が聞こえないわ‼︎」
「ええホント‼︎ 兄様次は私の番よ!」
「何なんだよこの人達⁉︎ ドライヴィーやロイって奴と同じで時の鐘っていうのは話を聞かないんですか⁉︎」
フィジカルの違いか、わちゃわちゃと二人で上条当麻を揉みくちゃにし、『
「「お仕事よ、バチカンとヴェネツィアが仲が悪かったのは知っているでしょう? イタリアが重い腰を上げて時の鐘に依頼して来たの。あんなのが海に展開されちゃあイタリアも困るわけね。で、私達はとりあえず様子見に来たんだけど、アレはやばいわね」」
遠く海で輝いている淡い白い明かりを見て二人揃って首を振る。国としては確かにあんな巨大な戦艦群が海に展開していては困るだろう。周りの国から何をやっていると付け込まれる隙になる。とは言え国軍を動かしても問題だ。こんな時のための傭兵、イタリアに近いスイスならすぐに動けるが故に時の鐘が動いたのだろう。航海士としてスカウトされたアラン&アルドだからこそ一早く水の都ヴェネツィアに来たといったところか。
「時の鐘まで動いたか……余計に私は必要ないな」
「「あらあら本当に珍しいわね? 必要ない? 何故かしら」」
「向こうにはラルコ=シェックがいた。つまりそういう事だ。……私は友の元へは行けない」
ラルコの名を聞き、アラン&アルドの口が引き攣る。私達が時の鐘の事をある程度知っているように、時の鐘も『
「「貴女が相手しなさいよ」」
「……何?」
この航海士達は何を言っているのか。『
「「貴女が握るのはスプーンじゃないでしょ。友達? がよく分からないけど向こうにいるなら貴女が行けばいいじゃない。それとも口先で友達って言ってるだけなのかしら?」」
拳に力が入った。メキメキと痛い音がして、手に巻かれていたオルソラのスカートの端が千切れた。そんな事はない。そんな事は‼︎
「分かっているくせに! 私は『
「ふざけた事言ってんじゃねえ‼︎」
アラン&アルドの間を割って、忌々しい右手が私の胸ぐらを掴んだ。『
「行きてえなら行けばいいだろうが! 神だの何だの、言い訳つけて足踏みして何がしてえんだテメエは! もっと大事なものが見えてんだろうが!」
「あの男のような事を! 好き勝手自分のためだけに生きてどうする! もし、私が行ったことでアニェーゼが死んだら? そんな結果背負えるものか‼︎ 何故思わない? 全て上手くいくことなんてありえない!」
常に上手く行き続ける事などありえない。道端に転がっている石ころを何度上手く避けようと、いつか必ず避けようのない巨岩が道を塞ぐ。どれだけ技を鍛えようと、どれだけ身体を鍛えようと、乗り越えられない大きな壁。その時どこに向かえばいい? 必要なのは行き先だ。それを教えてくれる者がいるのなら。そんな私の想いを握りつぶすように、『
「やってもいねえのに失敗した時の事なんか考えてんじゃねえよ! テメエは自分に嘘ついてまで神とかいう奴の言う事を聞くのか? 大事なのは今行きたいか行きたくないかだろ‼︎」
「行きたいに決まっているだろう‼︎ 何も知らないくせに! 何も知らない貴様が‼︎」
「知らなくて何が悪い‼︎ テメエがいもしねえ幻想に縛られて進めねえって言うなら、その幻想を殺してやる‼︎」
私の服を引き千切り振りかぶられる拳。服を掴まれていたせいで態勢が崩れた。
当たる。
そう思い歯を食い縛ったが、上条当麻の背後で様子を見ていたアラン&アルドに上条当麻は蹴っ飛ばされて、振られた拳は虚空を殴り、『
「な、何すんだ⁉︎」
「「青春はそこまでよ。それに女の子は男の子よりも戦う理由が必要なのよ」」
「え、いやあんたら男なんだろ? 男なんだよな?」
いかにも女性代表の意見というように言い放ったアラン&アルドのせいで空気が急に緩む。「「若いわね」」と二人左右対称に頬に手を当てる航海士達は何がしたいのか。今は私も機嫌が悪い。二人に食ってかかろうと足を前に出そうとする私の顔を、ぼすりと何かが覆った。
「「女の子が胸元はだけさせてはしたないわ。それでも着なさい」」
そう言われて顔を覆っている服を手に取って、私は目を見開いた。黄と紫のストライプ、『
「……なぜ」
「「闘う理由がいるんでしょ? これも仕事よ」」
続けて差し出されるのは一枚の手紙。その手紙に押されている封蝋を見て、急いでそれをひったくった。封蝋に描かれているのは『
「「あらまあ」」
「ちょ、うぇえ⁉︎」
男共の声がうるさい。こんな服は今はもう必要ない。これが闘いの合図だ。『
「剣は‼︎」
「「急におっかないわね。勿論あるわ」」
投げ渡されたロングソードを手に持つ。ツーハンデッドソードとも呼ばれる両手で扱う事を前提として作られた大剣。両手で強く握り鞘から抜き放てば、月の光と共にその刀身に私の顔を写す。
「……神の敵は姿を現した。これより『
行かない理由はなくなった。ラルコ=シェック、あの狂人といるアニェーゼが心配だ。『
「何かよく分からないんだが、お二人さんもそっちのローマ正教も一緒に行くって事でいいのよな?」
「問題ない。天草式、今回は手を組んでやる」
「「本当、めんどくさいわよね」」
うるさい。今はもう迷わない。例え何があろうとも、アニェーゼの呪縛は私が斬る。
青髮ピアスのパン屋日誌 ①
九月二十七日
やっほーい‼︎ 何か知らんのやけど、最近第三位と第五位がうちのパン屋によく来るようになったんや! 最っ高‼︎ Fuuu‼︎ これもきっとボクゥの普段の行いがええからやな! パン屋の店員やってて良かった‼︎ 神様ありがとう‼︎ ただ、ただなぁ、何か最近第一位まで来るんやけど、たまーに第七位まで来るし、しかも何で全員黒パン買ってくん? 流行ってるん? まさか第四位や第二位まで来るようにならんよね? ……ならんよな?