アビニョンから学園都市に帰って来た次の日。世界中で巻き起こっていたデモもすっかり落ち着いたようで何よりだ。未だ世界が騒がしいとニュースでやってはいるものの、デモによってこんな被害があったというものばかりの被害報告が主である。それを聞き流しながらツインテールと花かんむりの見慣れた横並びを見て俺は一人腕を組んで黙っていたのだが、黒子さんに突っつかれ無視することもできなくなった。
「ちょっと孫市さん聞いてますの?」
「そうですよ、折角久し振りにゆっくりできるのにそんな物騒な顔をして」
そう言って二人揃って肩を竦める少女たちから目を落とし、やって来ているお馴染みのファミレスの机に広げられているカードを見る。ゆっくり? どこが? 久々に飾利さんからメールが来たから、食事ならと黒子さんも誘った結果がこれだ。結局仕事の話じゃねえか!
ただ、並べられたカードを見ても何か分からない。神の右席たちとのゴタゴタの中、いつのまにか学園都市で流行っていたらしいが全然知らない。テレホンカードでなければポイントカードでもない。そもそもなにに使うカードなんだ? 可愛い絵柄の描かれた手のひら大のカードを睨んでいると、ここぞとばかりに飾利さんが話しだす。俺の意思は無視ですかそうですか。
「これは『インディアンポーカー』と呼ばれるものです。自分の見た夢を他人に見せられるモノなんですが、本来秘匿されるべき情報がこれで流出してるみたいでして」
「へえ、それで?」
「この『インディアンポーカー』に夢を書き込むための
ないよ。なにそれ、インディアンポーカー? それって頭にトランプ貼り付けて勝負するアレじゃないのか。カード一枚で他人の夢を見られること自体信じられない。魔術よりよっぽどこっちの方がオカルトじみている。難しい話は俺にはさっぱり分からないが、そのインディアンポーカーと呼ばれるカードに夢を書き込む機械とやらは複数の玩具を組み合わせて作るものらしく、飾利さんが持って来ていたノートパソコンで図面を見せてくれるが初見である。
俺が暗部にいるからこそ、裏の情報を期待しているのかもしれないが、今は世界情勢のことで手一杯で、わけわからんカードを追っている時間などありはしない。俺を逮捕できる口実が数多くあるせいか、飾利さんも黒子さんもこういう時全く遠慮がない。本当に十三歳?
「全部初耳でさっぱりだ。だいたい他人の夢なんて見たいか? 少なくとも俺は見たくない。 そんなに人気なのか?」
「はい、今でこそ機密漏洩が表沙汰になってバタバタしてますけど、楽しい夢が見られる、睡眠学習もできると流行りましたから。楽しい夢を安定供給することができる人は
だいたい、楽しい夢を安定供給するってどういうことだ。見たい夢を見てそれを書き込むという事か? そんなこと普通できるとも思えない。精神を好き勝手弄れる第五位や、肉体操作ならお手の物である第六位あたりならできるかもしれないが、わざわざ
「だいたい、そんなに素敵なアイテムなら裏でこっそり出回るのはおかしいだろう。表立って流行らないってことは何か裏があると見るべきだ。そのくらい考えれば分かりそうなものだが」
「言い分は分かりますけれど、もう流行ってるものはどうしようもありませんもの。孫市さんなら誰かから情報をいただけたりしませんの?」
そう言われて一番に思い浮かぶのは土御門、続いて顔の広い第六位である青髮ピアス、一応は貸しのある第五位食蜂操祈、
「夢ねぇ」
俺の夢は俺だけのもの。他人の夢に乗っかって最高の一瞬を垣間見えたとして、それは映画を見ているのと同じだ。手に汗握ることはあっても、それは俺の物語ではない。鼻で笑いインディアンポーカーを突っついていると、注文していたコーヒーが来たので一口運び口を濡らす。そんなことをしていると、「師匠!」と明るい声が店内に響いた。思わず口に含んだコーヒーを吹き出しそうになるが、なんとかコーヒーを飲み込み、俺の隣に腰を下ろした少女を横目に見た。
俺を師匠などという不名誉極まりない名前で呼ぶのは一人だけ。銃の撃ち方も軍隊格闘技だって教えているわけではない。なのに師匠とは呼ばないで欲しいと横目で目を細めるも、佐天さんにはまるで効かず、「おぉインディアンポーカー!」と手を机の上に伸ばそうとして飾利さんに手を叩かれていた。
「別にいいじゃん初春、減るもんでもなし。師匠もやってるんですか?」
「俺はやらないよ、佐天さんはよく使うのか?」
「はい! だって面白いですし! ペン回し名人の夢のお陰でこんなことできちゃったり!」
スプーンを一つ手に取って、手の中でぐるぐると止めることなく、指の間を跨がせたりと嫌に器用に動かしている。睡眠学習の効果は本物であるらしい。感心してそれを眺めていると、佐天さんはスプーンを置いてぺしりと手を叩き合せて俺を見た。
「師匠の夢とかないんですか? ちょっと見たいかも!」
「
そう言うと佐天さんの口端は引き攣り合わせていた手をゆっくり解いた。人の見る夢とは記憶の集まり。これまで俺を作ってくれた記憶は、スイスと戦場。スイスの夢に当たれば手軽なスイス旅行と血反吐を吐くような訓練が待っており、戦場での夢はただの女子中学生が見たいものではないだろう。楽しい夢を見たいのであれば、手を出す相手を間違えている。だが、佐天さんはそれでも力なく、「でもやっぱりちょっと見たいなあ」と呟き、俺は目を瞬いた。
「なんで? 俺の見た夢があったとして、きっと楽しくないぞ」
「でも強くなれそうですし!」
「なんだ、佐天さんは強くなりたいのか?」
あははと恥ずかしそうに笑いながら佐天さんは頷き、急にどうしたんだと思う俺の疑問を、飾利さんが机を手で叩くことによって押し潰した。
「佐天さんダメですよそんなの! この前誘拐されたからって、法水さんに頼るのは絶対やめた方がいいと思います! 佐天さんまで野蛮になっちゃいますよ!」
「おいちょっと待て、今の発言の中に気になることがいくつもあったぞ」
佐天さんまで野蛮って、なんだ? 俺は野蛮だと言うのか。俺なんて可愛いもんだ。俺より野蛮な奴なんてごまんと居る。
「誘拐って大丈夫だったのか?」
「はい、新しくできた友達に助けてもらって、でも、私なにもできなかったから……」
なにがあったのかは知らないが、他人との中で無力さを知る。それこそ歯痒いことはない。それも友人なのなら尚更。助けてもらったのなら特にだ。自分だって本当なら並びたい。無理だと言わず、頼んだと言って欲しい。そうなりたいから努力をするのだ。これまでの自分への反抗として。
佐天さんは佐天さんでスタートラインの手前にいると思っているのだろう。学園都市では能力こそステータス。
黒子さんを見る。俺と高みに上がるライバルだと言ってくれた少女を。誰かが並んでくれたから俺はスタートラインを掴めた。だからこそ、次があるなら俺の番だ。
「まあ、そういうことなら少しは教えられることもあるかな? 佐天さんには
「やった! 本当ですか! お願いします!」
「ちょ、ちょっと佐天さん⁉︎」
「……どうなっても知りませんの」
頭を抱える飾利さんと、呆れてため息を吐く黒子さん、両手を上げて喜ぶ佐天さんと三者三様の少女を眺めて、たまにはこういうのもいいだろうと席を立った。
「おーし、準備運動はこれぐらいでいいだろうさ」
「あの……ちょっと……師匠、タイム……」
「あぁー…………」
「だから言いましたのに」
軽い準備運動を終えただけなのに、佐天さんと飾利さんはゾンビのように場所を移した公園の上で蠢くだけで立ち上がってこない。どうせならと付き合ってくれると言った飾利さんと黒子さん。運動するならと一度寮に戻りジャージ姿となっている少女三人の中で、唯一黒子さんだけが元気だ。別に腕立てやスクワットはせずまだそこらを走っていただけなのだが……。
「おい、まだ準備運動だぞ」
「いや……師匠……、なんであんな全力疾走で五キロも……しかも街中を……」
「障害物があれば乗り越えるのに体使うだろう? 効率いいんだ。それに距離もいつもの十分の一くらいなんだが」
「じゅ……十分の一?」
「コヒュー……コヒュー……」
え? なに飾利さん死ぬの? 呼吸の仕方が今にも死にそうなアレなんだけど。ハッカーとしての腕は凄まじいが、代わりに体力が絶望的に飾利さんにはないらしい。飾利さんを引き摺りベンチへ連れて行く黒子さんを見送って、生まれたままの子鹿のようになんとか立ち上がる佐天さんと向かい合う。
「悪いが俺はこういう強さの鍛え方しか知らないからな。無理ならやめるが」
「い、いえ……日々の積み重ねですもんね。それにしても白井さん、流石風紀委員。あんな平然と」
「いや、その理屈は飾利さんがまさに否定してるぞ。それに黒子さんは元々たまに付き合ってくれるからな」
同じ風紀委員であっても、体力などの差は大きいらしい。仕事と言うより、ボランティアに近い風紀委員はそこまで能力の均一化に力を入れてないのだろう。超能力の有無もあるし、そもそも均一化は難しいか。
「白井さんと? 普段どんなことしてるんですか?」
「フリーランニングと組手」
それに
「肉体的には俺の方が強いんだが、組手でも
「能力者相手にそんなこと言えるの師匠ぐらいですって、……私もそうなれますかね?」
「なれるさ」
不安そうに零す佐天さんに向かって即座に断言する。その証明は俺自身だ。俺だって佐天さんと変わらなかった。どこにでもいる普通の子供。それでも積み重ねればできるようになることはある。足が速い、力が強い、限界はあるだろうが、ギリギリまで近づく事はできる。額に浮かんだ汗を拭い、笑顔の戻った佐天さんを見据えて俺も笑った。
「よし! やりますよ私! まずは何をするんですか!」
「組手」
「いきなり⁉︎」
「いきなり」
強さ。そんな無限にある要素の中で、佐天さんが欲しいのが身を守れる強さ、荒事になった時に戦える強さなら、筋トレなどするよりも実戦経験を積み重ねた方がいい。経験こそが一番の財産だ。知っているのと初めてでは感じ方がまるで異なる。それに数多く実戦を繰り返せば、筋トレなどせずとも必要な筋肉は身につく。
「俺からは手を出さないから好きに向かってくるといい。一発当てられたら取り敢えず今日は終わりにしよう」
「一発でいいんですか? それに手は出さないって組手なのに?」
「別に殴ってもいいが俺が本気で殴ったら佐天さん」
「わあ! それでいいです! さあやりましょう!」
本気で佐天さんを腹パンしたとして、悶えるどころか完全に再起不能になりそうな佐天さんは見たくない。と言うか俺が嫌だ。「よーし!」と頬を叩いて佐天さんは気合を入れ、それっぽくステップを踏む。ふぅっと息を吐き出して左に。ゆらゆら揺れて右に。……うん。
「来ないの?」
「うっ……、行きます!」
力強く一歩を踏み出し大きく振りかぶられた佐天さんの拳。思い切りはいい。俺の方が背が高い男で、傭兵ということもあり遠慮しなくていいと思ってのことだろう。思い切りはいいが、ただ、最初の一歩としてはお粗末だ。特に技術を用いているわけでもなく、無警戒でもない相手に向けて大振りの全力を当てることは難しい。もし当てることができたとしたら、それこそ天才だ。
振り切られた拳の動きに合わせて体を回し、踵で佐天さんの足を払う。拳を振った勢いのまま背中から地面に落ちた佐天さんは「ぐえ」ともの悲しい声を上げて公園の芝生の上に転がった。
「ううっ……師匠手は出さないって言ったのに」
「足を出さないとは言ってないな。受け身の練習だ」
「そんな屁理屈ぅ……」
「ほら、怒ったのなら向かって来い、強い一撃を最初に狙わない方がいいぞ慣れてないなら。ボクシングのジャブとかを意識して打ってくるといい。まずは当てることを覚えろ」
「ううっ、はい師匠」
背中をさすりながら立ち上がった佐天さんが、ボクシングと言った通り腕を畳んで構えを見せる。別にジャブっぽく打ってみるといいと言っただけで、ジャブを打てと言っているわけではないのだが、それをわざわざ言う必要はない。まずは自信だ。自分の攻撃は当たるのだと知ることができれば、多少は自信がつく。まあそこまでが大変なのだが。
佐天さんが向かってくる。シュッシュッと軽く出される拳を軽く避け地に転がす。佐天さんが立ち上がり再び向かってくる。地に転がす。向かってくる。地に転がす。
「……全然当たらないんですけど」
「寧ろ当てられたら俺のこれまでの沽券に関わるからな。さあもう一度」
スイスでは俺もボスに死ぬほど転がされた。ボスに一撃当てるまで俺は三年かかった。しかも一撃当てた途端じゃあ次は本気でとボコボコにされた。アレはマジでトラウマだ。流石に佐天さん相手に寝込むほどボコボコ殴る気はないが。
「師匠、コツとか」
「実戦で知れ、習うより慣れろ。と、言いたいところだが別に佐天さんは時の鐘でもないからな。うーん」
コツと言われても、積み重ねた経験から動きを予測しろとか、覚えた技を使えと言いたいが、それでは佐天さんには伝わらないだろう。
「佐天さんは能力使う時どんなことを考えて使ってる?」
「私ですか? えーと、これまでやってきたスカート捲りの感覚を思い出して、それを手で触れずに感覚だけでスカート捲る感じですかね? そんなだから私の能力スカート捲りしかできないんですけど」
恥ずかしそうに頬を指で掻く佐天さん。能力の説明がひどい。佐天さんの能力ってスカート捲りしかできなかったのか……。日常の動きに落とし込めば能力使えるんじゃね? とは確かに佐天さんに言った気はするが、マジでそれしかできないとは聞いてない。だが、それならそれで手はある。
「なら、元の動きに合わせて能力使うのはどうだ? スカート捲りの動きに合わせて能力も使えばおそらく威力は相当上がるんじゃないか?」
「えぇ……でも、それ結局スカート捲りですよね? スカート捲るどころかスカート吹き飛ばせるようになったところで」
「それは考えようだ。別に捲るのはスカートでなくてもいい、ようはその動きで威力出せればいいわけだからな。例えばスカート捲りの動きで相手の攻撃を捲り、その隙に一撃を叩き込めばいい。それなら丁度いいのがあるぞ」
得意げに俺は微笑み、佐天さんの口角が下がった。なんで? 別に怖いこと言っているわけじゃないんだが、何故そんな微妙な顔をするのか。咳払いを一度して場を整え、佐天さんの手を取ってやるべき動きに導く。
「そう、イメージはスカートを捲り、捲ったスカートを叩き落とす感じだ」
「……本気で言ってます?」
「本気で言ってる」
「冗談とかじゃ」
「マジのマジだ」
両手で掬い上げるように攻撃を上方に捲り、そのまま上に向けていた手のひらを内に捻るように押し出し叩きつける。その時同時に体を落とし足を踏みしめれば、体重も乗せられると。素人同士の戦いなら、技を知っている方が半歩分は前に出れる。後は。
「やると決めたら遠慮はしないことだ。戦うと決めた時、躊躇した方がやられる。空手の有段者とかでも路上で不良相手に喧嘩で負けることがあるっていうのはそこが大きい。なまじ自分の一撃は強いと知ってるから躊躇してしまう。人を殴るというのは心重いものがあるだろうが、本気で戦いを選ぶなら、その一線は越えなきゃダメだ」
戦場で、引き金を引かねばならない相手に対して引き金を引くか引かないか迷った結果仲間が撃たれる。そんなこともよくある話。できれば、そんな状況にならないことが一番であるが、なってから後悔しても遅い。佐天さんがそんな状況に陥らないように俺が側に居られればいいが、常に側に居られるわけもない。だから言うべきことは言う。
「まあそうは言ってもそれができれば苦労はないんだがなぁ。銃があったとして、本当なら撃たないに越したことはない。ただそうもいかないから覚えるわけだ。俺はいつも側に居られないが、学園都市には黒子さんや飾利さんが居てくれる。だからそこまで頑張らなくてもいいと思うが」
佐天さんは一般人だ。風紀委員というわけでもない。本当なら、佐天さんのような子が拳を握ることがない世界が一番なのだが、世界とはそこまで優しくない。佐天さんは自分の両手を見下ろして強く握り締め、小さく顔を横に振った。
「ううん、師匠、私やる。御坂さんや白井さんがいつも体を張ってくれて、初春も私を守ってくれる。危険に自分から突っ込むようなことはなかったとしても、いざという時、友達を置いて逃げて隠れるような私でいたくない。私にできることはやりたいの、それで、できることを増やしたい。一般人だって、やるときはやらなきゃ、私……、御坂さんや白井さん、初春に置いてかれたくないの。……師匠、分かってくれる?」
先日も御坂さんに妹達の事を聞いただろう。自分の知らないところで自分を削り戦っている友人がいる。そんな時、自分はのほほんと日常を謳歌していただけ。親しい者が先に行ってしまう。ずっと前にスタートラインから飛び出しているそんな者たちとの距離がどれほど離れているか。背中はまだ見えるのか? 見えなかったとして、それで見えないと知って立ち止まるのか? まさか、走っていけばいつかその背は見れるかもしれない。それだけ分かっていれば踏み出さずにはいられない。
「分かるよ」
いつまで走るのか決められるのは自分だけ。その足を止めた時がゴールだ。あぁ届かなかったで終わりにするのか。それとも並ぶまで走り続けるか。走り続けると叫ぶ者の足を俺は止めることはできない。俺だってまだ走っている。だから今は、その足並みを少しばかり合わせるだけ。
「さて、続けようか佐天さん。技の形を整えよう。それができたら一撃当てて見せてくれ」
「はい! あ、じゃあその時は白井さんや初春みたいに私も名前で呼んでくれます?」
「いや、なんで?」
自分は白井さんに初春とか呼んでるくせに俺には呼び方を強制するってなに? 「私だけ佐天さんていうのも」って、別に佐天さんは佐天さんでいいじゃん。よく一緒に居る佐天さんたち四人の中で、黒子さんと飾利さんは仕事仲間だしそう呼べと黒子さんに言われたからあれだし、御坂さんとか俺は絶対御坂さんを御坂さん以外の呼び方で呼ぶつもりはない。
なんなの? 俺に呼び方強制するの流行ってるの?
なんかもうベンチの方から薄暗い視線を背に感じる。振り向きたくない。黒子さん怖い。いや、逆に考えるんだ。一撃貰わなければ佐天さんを名前で呼ぶことはない。
「分かった分かったそれでいい。ただ簡単に一撃当てられると思うなよ? これから本気で避けると今決めた」
「えーなんでですか。……そう言えば師匠、この特訓の授業料とかってどうすればいいんですかね?」
「授業料? 別にそんなのいらないよ、
「いやいや、これから何度も特訓して貰うのに流石に何もなしはちょっと」
え……何度もやるの? 俺てっきりこういうのは今回限りだと思っていたんだが。まあ一回だけはアレとしても、多くても二、三回だろうと思っていた俺の予想は見事に外れてしまったらしい。「よーしやるぞ!」と気合を入れている佐天さん的に、まさかこれから俺の自主訓練に度々顔を出すつもりなのか。別に俺は佐天さんを傭兵として鍛えたいわけではない。どうしようかと考えている内に、佐天さんの中ではなにかが決まったらしくぺしりと手を叩き合わせた。
「そうだ! 今度さっき言った新しい友達に料理振る舞うんですけど、師匠も来てくださいよ! サバ缶いっぱい買っちゃって有り余ってるから消費しないと」
「まあ……お金貰うのもアレだしそれでいいならいいけどさ、なんでサバ缶?」
別に傭兵の仕事というわけでもない。時の鐘の射撃術を教えるわけでもなく、ただちょこちょこ戦闘術を教えるのにただの女子中学生相手に大金を要求するのも格好が悪い。乗りかかった船、俺から教えると了承しておいて、はいもう辞めとやる気ある少女を遇らうのもアレだ。授業料がサバ缶なら釣り合いも取れるかと一人で納得していると、不意に肩に衝撃を感じた。
足元。俺の影が伸びる横で、ツインテールの影がうねっている。振り向いたわけでもないのに、太陽様が頼んでもない俺の肩に手を置く者の正体を教えてくれる。ありがた迷惑だ。別に俺は天照大神とか信仰していないぞ。
「孫市さん? 貴方はまたそうやって女性にちょっかいを出して、類人猿の悪いところでも感染ったんですの? それとも貴方の父親でしょうか? これはお義母様に報告しないといけないみたいですわね」
「いやいやちょっと、ちょっと待とうよ。俺なにもしてないじゃん、若狭さんに報告とかちょっと勘弁してっていうか黒子さん母さんと仲良過ぎじゃね? だいたいなんで怒ってんの?」
「別に怒ってないですの。なんでわたくしが孫市さんの女性関係に目くじら立てなきゃならないんですの? 初春に? 妹様に? 婚后さんに? 佐天さんに? ハムさんだったかしら? いいですわね女性のお知り合いが多くて」
怒ってんじゃん! 超肩が軋んでるんですけど! あぁ、佐天さんなんで離れて行くんだ置いて行くな!
「別に黒子さんには関係ないだろう、それにその中で一番仲良い黒子さんに言われてもな。全く説得力がない!」
「わ、わたくしが一番って、またそうやって適当言って誤魔化す気ですわね!」
「別に誤魔化してなんていねえ! なにが言いたいのかさっぱり分からん!」
「わたくしだって分からないですの! もう、なんで!」
「俺が知りたいよ⁉︎」
頬を膨らませる黒子さんとの組手に移行し、残念ながら今日の佐天さんとの訓練は終わりであるらしい。やたらやる気ある黒子さんの
「ねえ初春、あれってあれだよね?」
「いいんじゃないんですか? 御坂さんに法水さんが居て白井さん幸せそうで」
「あれが幸せかー、なむなむ」
おいそこ、二人揃って手を合わせて拝んでんなッ⁉︎ 助けて……。