時の鐘   作:生崎

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超能力者の円舞曲 篇
超能力者の円舞曲 ①


 十月九日。

 

 この日は世界郵便デーである。全世界を一つの郵便地域にすることを目的とするUPU(万国郵便連合)、加盟国間の郵便業務を調整し、国際郵便制度をつかさどる機関である。最も古いと言われる国連の専門機関の一つ。その本部は我らがスイス、ベルンに置かれている。流石は我が故郷だ。

 

 ただ世界郵便デーだからなのかは知らないが、普段来ないところから来る知らせほど困る事もない。いい知らせならばいいのだが、知らせには残念ながら悪いものもある。虫の知らせとでも言うか、アドレスや番号を教えていないはずの相手からやって来たメールを見た時、汗が一滴額を伝った。

 

 やって来た知らせに対してどうするか。無視してもいいし、気の向くまま鵜呑みにしてもいい。別段やる事があるわけでもなく、十月九日は学園都市の独立記念日ということもあり祝日。暇なところへの知り合いからのメール。一応は俺も関わっている事であるし、多少様子を見るつもりでほいほいメールの送り主の思惑に乗っかったのは失敗だったらしい。病院の前で俺は天を仰ぐ。

 

「まさかこの子の退院に君が迎えに来るとはね? もしかしなくても仕事かい?」

「……ね? なんででしょうね? しかもびっくりなことに仕事でもないんですよこれが」

 

 胸元のライトちゃんを小突き来たメールを空間に写す。アドレスを教えてもいないのに来た第一位からのメール。『病院、打ち止め(ラストオーダー)』と短く日時だけが書き記されたお前メール舐めてんの? みたいな内容に釣られた俺も悪い。打ち止め(ラストオーダー)さんを救助したものの、その後が気にはなっていたせいだ。メールを見たカエル顔の先生には鼻で笑われ、「見えないー!」とミサカはミサカはと繰り返してちっちゃな御坂さんに服を引っ張られる。

 

 なんなんだろうかこの感じ。上条といい白い男といい、自分が側にいない時はペットを預けるかのように禁書目録(インデックス)のお嬢さんや打ち止め(ラストオーダー)さんを投げつけてくるこの感じ。ただでさえ今フランスの怪我でいつもの病室(スイートルーム)に引きこもっている上条の代わりに、俺の部屋で木山先生が禁書目録(インデックス)のお嬢さんの相手をしている。俺はいつから保父さんになった? 護衛や防衛はよくやるが、無償で俺に押し付けてくるこの感じ。上条も一方通行(アクセラレータ)も傭兵を便利屋かなにかと勘違いしているのではないだろうか。

 

「別にマゴイチが居なくたってミサカは一人でもタクシーに乗れるもん、ってミサカはミサカは胸を張って宣言してみる」

「なんだ、じゃあ俺はお役御免じゃないか。折角宣言までしてくれてることだし、ちっちゃな御坂さんに任せるとしよう」

「また君はそんなことを言って、後でどうなっても知らないよ? 一度引き受けたものをほっぽり出すのは傭兵としていいのかい?」

「先生そういうこと言わないでくださいよ、医者が人の心抉って楽しいですか?」

 

 ただでさえ先生には頭が上がらないのに、マスコットみたいな顔して言うことがいつもなかなかイヤラシイ。だいたい御坂さんの顔をしている者と関わるとろくなことがないのだ。小さくても御坂さんは御坂さん。俺にとっての疫病神だ。ミサカはミサカはと手を振り上げる打ち止め(ラストオーダー)さんを見るに、全快したようでなにより。ほらもう俺要らないんじゃね? と首を捻っているとタイミング悪く病院前のロータリーにタクシーが来た。時間ぴったりですね。

 

 カエル顔の先生が手を上げてタクシーを止めてしまい、俺はため息を吐き打ち止め(ラストオーダー)さんの荷物を手に、打ち止め(ラストオーダー)さんと一緒に後部座席に乗り込む。ここまでやって来てしまったのに、見て見ぬ振りも気分が悪い。まあ帰るまでが遠足ということで、電波塔から引き受けた仕事の延長として今度会ったら電波塔にふっかけよう。

 

「お客さん、どちらまで?」

「第六学区の遊園地! ってミサカはミサカは────」

「こらこらこら、勝手に今日の予定にテーマパーク行きを書き加えるな。行き先はですね、えーと第七学区のマンション『ファミリーサイド』の二号棟? ってとこです」

 

 折角の休みを遊園地でエンジョイして潰す予定など俺にはない。カエル顔の医者に教えられていた行き先を運転手に告げれば、扉が閉まりタクシーは前に進み出す。頬を膨らませながらも、打ち止め(ラストオーダー)さんは身を捻り小さくなっていくカエル顔の先生に向けて手を振り、俺も合わせて手を上げた。

 

「それにしてもあの人はなんでミサカにはメールをくれないのにあなたにはメールを送ってるの? ってミサカはミサカは嫉妬心を露わにして聞いてみる」

 

 ポスっと座席に腰を下ろし直した打ち止め(ラストオーダー)さんから睨まれ、知ったこっちゃないと頭を掻く。

 

「それを俺に聞かれてもな……、上条さんといいこういうことほいほい頼むんだから困る。俺だって暇じゃないんだが」

 

 本当は今日暇ではあるが、いつ仕事を頼まれるか分からない身でもある。それに俺は小さな子の教育に宜しい存在というわけでもないだろう。嘘は言っていないと腕を組んでいると、打ち止め(ラストオーダー)さんは得意げな表情を浮かべて笑った。その顔はなんだ。

 

「それはきっとあなたに頼めば最後までやり切ってくれるって信じてるからだよ。一度あなたが足を出せば、終わるまで足を止めないでしょ? ってミサカはミサカはまるで弾丸みたいって形容してみたり!」

「それ鉄砲玉ってこと? 全然嬉しくないんだけど」

「でもそうお姉さまも言ってたよ? ってミサカはミサカは情報源をバラしてみる!」

 

 お姉様? お姉様って誰のこと? 妹達(シスターズ)は表情乏しいが言うことは言うタイプ。電波塔(タワー)は言わずもがな。御坂さんもそうだろう。候補が一万人くらいいるのだが、打ち止め(ラストオーダー)さんがわざわざ『お姉様』と呼ぶのは二人だけだ。電波塔(タワー)と御坂さん。どっちもどっちで嫌だな。

 

「ちなみにどっち?」

 

 そう聞くとヘッドホンを抑えるかのように耳に手を当てる打ち止め(ラストオーダー)さん。分かった、言うな。その名を音として聞きたくない。ミサカネットワーク内でどんな会話をしているのか非常に気になるが、俺の悪口大会とか開催されていたら泣けるので知りたくない。

 

「きっとあなたはあの人に近いからあの人もあなたには頼るんじゃない? ってミサカはミサカは確信してみる」

「俺が? いやぁ俺はただの傭兵で、超能力者(レベル5)第一位みたいな能力はないよ」

 

 学園都市第一位。戦わずとも、僅かながらその能力を見ただけで敵わないだろうと分かる。俺が相棒のスコープを覗いて見る世界のように、きっと第一位が見ている世界は俺とは違う。その違いこそ面白いところであり、俺の見れない世界がどんな世界なのか見てはみたい。第一位の見る世界を想像しながら唸っていると、打ち止め(ラストオーダー)さんの顔が視界の端から伸びてくる。

 

「でもそれでいいってあなたは断言するでしょ? そういうとこだよ! ってミサカはミサカはあなたの胆力に感心してみる」

「それって無鉄砲って言いたいのか? 人間自分のできることに全力を出すしかないだろう? 俺は超能力に超能力をぶつけることはできない。だが、だからぶつからないのか? と聞かれればそれは違う話というだけ。別に普通だろ」

「そうだけど、それを普通にできるってところがあなただもんね。あの人もそうなの、無理だと思ってたことにぶつかりたいんだよ。ってミサカはミサカはあの人を心から応援してみる」

 

 そんなこと言われても、どう返せばいいのやら。俺も歩くスピーカーとか皮肉を言われたことはあるが、俺なんかよりよっぽど打ち止め(ラストオーダー)さんの方が歩く拡声器だ。一方通行(アクセラレータ)のことを俺にベラベラ話していいのか。できっこないをやりたいって打ち止め(ラストオーダー)さんから聞いたぜなんて言った日には、あの赤い瞳を刃のように鋭くして俺を両断するだろう。絶対そうする。一方通行(アクセラレータ)めっちゃ当たり強いもん。

 

「まあ、打ち止め(ラストオーダー)さんみたいなのがいれば一方通行(アクセラレータ)さんも安心だろうさ」

 

 俺になにか言わずとも、きっと純粋を絵に描いたような打ち止め(ラストオーダー)さんが一方通行(アクセラレータ)の楔になってくれる。一線を越える足を引き止めてくれる存在。鬱陶しいこともあるが、そんな存在が自分を人にしてくれる。妹達(シスターズ)を一万人殺した一方通行(アクセラレータ)がなぜ打ち止め(ラストオーダー)さんといるのか、きっとそこに答えがある気がする。

 

 一万。馬鹿げた数だ。殺した数なら俺よりもずっと多い。一万も能力者がいれば、幻想御手(レベルアッパー)で繋がった際に幻想猛獣(AIMバースト)が生まれたりする数。誰かを殺せば、その相手が悪人であったとしても多少は心が磨り減るのだ。引き金を引く度に自分の何かを削り出し吐き出す。力を人に向けるとはそういうこと。吐き出し続ければいずれ何かはなくなってしまう。だからそれを補うなにかがいるのだ。

 

 それはきっと仲間や友人、思い出だ。

 

一方通行(アクセラレータ)さん友達少なそうだもんなぁ」

「そうなの! うーんと、あっ、あなたしかいないかもってミサカはミサカはあの人の友達の少なさに愕然としてみる」

「えー……、これまでどんな生活してたんだよ。俺でさえ学園都市に来る前でも居たぞ。だいたい」

 

 一方通行(アクセラレータ)と俺は友人なのか? と口にしようと思ったが、俺が居ないと否定した場合一方通行(アクセラレータ)は友達ゼロ人らしい。打ち止め(ラストオーダー)さんが即答するぐらいにはマジでいないようだ。知り合いよりはお互い顔を合わせまくっていることもあり、友達リストに入れないわけにもいかない。

 

 なにより、小さな少女のために拳を握った男を嫌いになる理由がない。「まあそうだな」と肯定すれば打ち止め(ラストオーダー)さんは嬉しそうに頭の上に立っているアホ毛を揺らして微笑んだ。一方通行(アクセラレータ)よりも打ち止め(ラストオーダー)さんの方が喜んでいるように見える。一方通行(アクセラレータ)に友達がいるのがそんなに嬉しいのか? 打ち止め(ラストオーダー)さんは一方通行(アクセラレータ)の母ちゃんかなにか? 

 

「あの人ももっと色んな人と関わった方がいいとミサカは思うの! 目指せ友達百人! 誰かあの人に紹介できる人いない? ってミサカはミサカは期待の眼差しで聞いてみる!」

 

 えぇぇ……。第一位に友達紹介? なにそれ。そんなこと言われても……。黒子さん、はないな。一方通行(アクセラレータ)と会ったらもう飛び掛かることはないとして、絶対不機嫌な顔で舌を打ち下手すりゃ手錠をかけるだろう。黒子さん繋がりで飾利さん、もないな。妹達(シスターズ)の話を聞いて相当おかんむりだったらしい。ああ見えて飾利さんも風紀委員の鏡のような子だ。きっと檻に押し込まれる。上条は一方通行(アクセラレータ)と喧嘩した相手だし、御坂さんを紹介しようものなら俺は多くの者を敵に回すだろう。多分一方通行(アクセラレータ)さえも。つまりない。時の鐘もダメだろう、それはただの宣伝だ。土御門? 青髮ピアス? 光子さん? 佐天さん? どれも勧めると何かしら問題がありそうな者しかいない。

 

 アレ? 俺ろくな知り合いいなくね? 人に勧められない者しか友達がいないことに気付いてしまった……。

 

「なあ打ち止め(ラストオーダー)さん、寧ろ俺が紹介して欲しいわ。俺の知り合いろくでなしと変態と変人と傭兵しかいないんだけど」

「それは……可哀想ってミサカはミサカは哀れんでみたり」

「その可哀想の中には打ち止め(ラストオーダー)さんも含まれていることに気付いているか?」

「ミサカ傭兵だったの⁉︎ ってミサカはミサカは自分の正体に驚愕してみる‼︎」

「こ、この野郎一番マシそうなの選びやがった……。打ち止め(ラストオーダー)さんのどこに傭兵要素があるのか是非聞きたいんだが」

「ミサカのどこにろくでなしや変態や変人の要素があるの! ってミサカはミサカは眉間にしわを寄せて怒ってみる!」

「後半だ後半、自分の語尾になにか違和感を感じないか?」

「感じないってミサカはミサカは可愛く断言してみる」

 

 ああそう、そこまで言い切られたらもうなにも言えないわ。打ち止め(ラストオーダー)さんの語尾も電波塔(タワー)の語尾も聞き慣れ過ぎて気にしなければ違和感を感じないあたり俺もヤバイ。ある種の洗脳だ。俺も語尾になにか付ければ変わるのか? 孫市はとか? 超キモいわ。そんなこと学校で言ったら絶対小萌先生に泣かれて病院送りにされる。そんな話をしていると、多動症患者並みに落ち着きない打ち止め(ラストオーダー)さんの限界が来たようで、「もう退屈! ここからは歩いて行こ! ってミサカはミサカはすかさず健康アピールしてみたり!」と両手を振り上げた。

 

「いやここからってまだ全然距離あるぞ。折角お金払ってタクシー乗ってるのに降りるの?」

「折角丈夫な足があるのに使わないのはもったいないかも? ってミサカはミサカは提案してみる!」

「折角タクシー乗ってるのに使わない方がもったいないだろう。そうだ、ミサカネットワーク内で多数決を取ってみるといい、こういう時こそ活用しないとな」

「むぅ、反対多数だけど認めない! ってミサカはミサカは人の意見は求めてないって言ってみる」

 

 この小さい独裁者誰かどうにかしてくれ。「ヘイタクシー!」とか言ってるけどそれはタクシーに乗るため、止める時に言う奴だ。苦笑いして固まっている運転手さんが一番の被害者だろう。少女の文句を聞き流しながら目的地まで着けばバンバンザイだったのだが、赤信号でタクシーが停車した途端打ち止め(ラストオーダー)さんはドアを開け放ち降りてしまった。打ち止め(ラストオーダー)さんタクシーのドアハッキングしやがったな。これだから電撃使い(エレクトロマスター)ってえのは。

 

「この隙にミサカは逃亡を図ってみる!! さあ追い駆けっこだよ! ってミサカはミサカは高速で車を降りて路地裏に駆け込んでみたり!!」

 

 小さな体を活用し、人混みの中へと入って行ってしまう打ち止め(ラストオーダー)さん。え、これ俺が追わなきゃいけないの? 勝手にタクシー降りて走ってっちゃったのにこれで目的地まで着けなかったらもしかしなくても俺の所為? 嘘だあ。なにそれは。タクシーの運転手から、ここまでの代金を支払い降りる。

 

 平日ならまだしも今日は祝日。人通りがやけに多い。打ち止め(ラストオーダー)さんを探して頭を掻いていると、「法水さん?」と聞き覚えのある声が背後から響いた。振り向いた先に咲く花かんむり。首を傾げた飾利さんが立っていた。

 

「どうしたんですか? 小さな子と言い合いしてたみたいですけど」

「あぁ、打ち止め(ラストオーダー)さんだよ。今日退院だったみたいなんだけど家まで送るはずがタクシー降りて走ってちゃって。車の中は退屈だとさ。もう少し会話に力でも入れればよかったのか。いやはや困った」

「困ったって退院したばかりなのに⁉︎ 法水さんなにしてるんですか⁉︎ 打ち止め(ラストオーダー)さんて御坂さんの妹さんの中でも重要な子なんでしょ! なんでぼさっと立ってるんですか! もう!」

「…………はい」

 

 超怒られた。そんなこと言われても。タクシーのドアハッキングして走っていくような子だぞ。よく狙われるからこそ逃げ慣れてると言うか、ほら、やっぱり打ち止め(ラストオーダー)さんも変人世界の住人だ。

 

「なら白井さんや御坂さん、佐天さんにも連絡して一緒に探しましょう! まだそんな遠くに行ってないでしょうし、法水さんは────」

「ちょっと待て」

 

 飾利さんの話を手で制し、ペン型の携帯の先端を外し耳につける。アビニョンでの経験から、ある種の者たちからの電話はバイブレーションの仕方で分かるようにした。普通とは違うバイブレーションの種類は三種類。

 

『時の鐘』、『シグナル』、『黒子さん』。

 

 今回は点滅するように短くバイブレーションを繰り返す携帯。二番目だ。シグナルの誰か。上条、土御門、青髮ピアス。上条か青髮ピアスなら世間話がほとんどだが、朝からの嫌な知らせの連続がまだ続いているかのように嫌な気配を感じる。耳につけたインカムを小突けば、『孫っち』と真面目な土御門の声が聞こえ、やっぱり悪い予感だけはよく当たる。

 

「切羽詰まった声を出さないでくれ、土御門さんのその声を聞くと嫌でも気分が仕事になる。仕事だろう?」

『話が早くて助かるな。そうだ』

 

 茶化すこともなく続けられる真面目な声に、状況はよっぽど悪いらしいと分かる。休暇は終わり。小さくため息を吐く俺を、『仕事』という単語から察したらしい飾利さんから目尻の下がった目を送られ、俺は少しだけ身を捻り背中を向けた。

 

「それは個人的にか? それとも」

『『シグナル』のだ。青ピには後で孫っちから伝えてくれ、悪いがオレには時間がなくてな』

 

 本当に時間はないのか、土御門の口調は少し早い。なにをしているのか知らないが、インカムの奥から咀嚼音が聞こえてくる。なんか食ってね? 本当に時間ないんだよね? 戦争が世界で始まったため国連から頼まれていた学園都市での仕事も終わり、俺が優先するべき仕事は、今尚雇われている『シグナル』だけ。わざわざ俺が断るような仕事を土御門が持って来ないことを思えば、引き受けない理由はない。ただ……。

 

「上条さんはまだ病院だぞ? 今日まで入院だろ。それでもシグナルで動かないといけないのか?」

『いや、今回はカミやんはいない方がいい。そういう内容だ』

「どういうことだ?」

『『人材派遣(マネジメント)』という奴がいる。なにかをやるのに不足した人材を補充し、紹介料で稼いでいる奴だ。そいつは既に捕獲したんだが、不足した人員を補ったところが問題でな。『スクール』という部隊にスナイパーが一人補充されたらしい』

「へぇ、『スクール』ねぇ」

『知ってるのか?』

「名前だけな」

 

 暗部と一度交戦してから、電波塔のひとり言や、ガラ爺ちゃんに聞いて多少暗部を漁ったことはある。その際に知った組織が二つ。電波塔(タワー)が言っていた、第四位が在籍しているらしい『アイテム』と、ガラ爺ちゃんが自分のツテを使い調べてくれた当時、最も暗部の組織で厄介と言われていたらしい『スクール』の二つ。名前は知っているが中身は残念ながら知らない。

 

「それにしてもスナイパーね、誰を雇ったんだ?」

『砂皿緻密という奴だ。知ってるか?』

「まるで知らん。誰だそれ、凄腕なのか?」

『腕はいいみたいだが、まあ孫っちと比べるとな。親船最中を狙撃にやって来た砂皿緻密、それはなんとか阻止できたんだが……、『スクール』を追う内に他の暗部の組織の名前が浮上して来てな。今動いてるのは『スクール』だけじゃないらしい。『グループ』、『スクール』、『アイテム』、『メンバー』、『ブロック』、分かるだろ?』

 

 ああそう、『アイテム』も動いてるかもしれないってこと? まじかよ……。あの宇宙戦艦の擬人化女が稼働してるの? おいおいおい。超めんどくさそうな仕事じゃないか。仕事内容はまだ分からないが、もうこの時点で大分疲れそうな仕事ということが分かる。

 

『『アイテム』なら、前に孫っちとのオレたちの暗部組織どうするかの話し合いの時に聞いてる。仕事でかち合った第四位がいるんだろう? 詳しくは話せないが、そうなると現状超能力者(レベル5)が二人も動いていることになる』

「二人?」

 

 なにそれは、その口ぶりからすると、『アイテム』以外のどっかの組織に超能力者(レベル5)がいることが確定してるってこと? 一人でも化け物みたいなのに、それが二人? しかも青ピにも後で言えってことは三人も動くのか? いいのかそんなに超能力者(レベル5)が裏で動いて。

 

「で? 肝心の仕事はなんだ? もうそれを話してくれ。もったいぶるな」

『……分かった。孫っちなら今学園都市の外がどれだけやばいか分かってるはずだ。そんな中で超能力者(レベル5)たちが学園都市内でぶつかるかもしれない今の事態はマズイ。それも裏の案件でだ』

「戦力バランス的にって意味か? そりゃあそうだろうが」

 

 学園都市内での最高戦力。七人しかいない超能力者(レベル5)。ローマ正教という莫大な人数の組織を相手に、ピンからキリまで、それも圧倒的にキリの多い学園都市なのに、その上位陣が潰し合っては自ら首を絞めるようなもの。あぁ、なんとなく土御門の言いたいことが分かってきた。

 

「つまり超能力者(レベル5)が万が一減っては困るってそういうことか?」

『そうだ。戦争が始まった段階で、いくら不穏分子を切り捨てなければならないとは言え、超能力者(レベル5)まで減るようなことがあったらマズイ。もし学園都市が直接攻められるようなことがあったなら、超能力者(レベル5)こそが学園都市の壁だ。わざわざ自分たちでその壁を壊すほど馬鹿なことはない。オレにもやらなきゃならないことがある、だからこそ孫っちと青ピで最悪の事態だけは避けてくれ』

 

 全ては学園都市を守るため。大切な者がいるこの箱庭が壊れてしまうようなことがないように。自分の家が燃えて仕舞えば、いくら超能力者でも揃って表に出なければならない。超能力者(レベル5)は誰もが飛車角だ。それが落ちた状態でローマ正教とぶつかれば、嫌でも被害は増える。

 

「つまりなんだ? どんな結果になってもどの超能力者(レベル5)も死なないように守れってことか?」

『そんなとこだ。できるか?』

 

 煙草に手を伸ばそうとして、街中だという事を思い出し手を止める。できるかって? 超能力者(レベル5)となら何度かやってる。第三位と第四位。どっちも間違いなく強者。第一位に第五位、第六位、第七位とは共闘した事もある。誰もが俺を普通に倒せるだろう力を持った者たちだ。それを守れ?

 

『……オレも無理言ってるのは分かってる。一緒には行動できそうもないしな。だが────』

「別にやるよ。仕事だしな。ただ、俺や青ピに向かって来たらどうする? 子守唄(トゥタナナトゥ)でも聞かせて寝かしつければいいのか?」

『できるならそれでも構わない』

 

 できるかって? 超能力者(レベル5)相手にできると断言できるほどの自信はない。普通にやり合えば負けの方が濃厚だ。だが、だからこそ言う。

 

「できるさ」

 

 そう言うと決めたから。俺は強いと、無理なんてことはないと、そう言うと前に決めた。超能力者(レベル5)が相手だからなんだ。同じ人間だ。弱者は守らなければならないとよく誰かが言っているが、強者を守ってはダメだなんてこともない。時の鐘の仕事もあるが、黒子さんが居て、飾利さんが居て、佐天さんが居て、上条たちが居る。そんな学園都市だから、俺もまだここに居る。同じ暗部のよしみ、せいぜい超能力者(レベル5)にも、いざという時学園都市を守ってもらう手伝いをしてもらおう。そのためなら今守って貸しを押し付けるのも悪くない。

 

「ただ、それならやり方はこちらに任せて貰う。土御門さんは来れないんだろう? なら青ピと二人、上条さんと土御門さんの分も守ってみるとしようか」

『悪い、頼むぞ、細かいことは後でまた連絡する』

 

 通話は切れ、深呼吸を一回。学園都市内で久々に大仕事だ。飾利さんに目を向ければ、なにやらすっごい引かれている。思わず口に手を伸ばせば、大きく弧を描いている口があったので慌てて口を擦り笑みを消そうと試みるもどうやら駄目だ。

 

「飾利さん悪いが仕事が入った。わたくしも誘えとか後で黒子さんから怒られるだろうが、今回はそうもいかない。俺は行く。打ち止め(ラストオーダー)さんならさっきあっちの路地に入って行くのが見えた。任せてもいいか?」

「それは、いいですけど……一体なにが?」

「今回は話せそうもない。すまないがもう行く。どうやら俺の時間もないらしい」

 

 もう事態が動いているならのんびりはできない。飾利さんに手を振って別れ人混みに紛れる。これは暗部の仕事。相手も暗部。だが、猟犬部隊(ハウンドドッグ)も目じゃないような暗部同士の激突だ。飾利さんを今回は巻き込むのは止めた方がいい。だから巻き込んでいい奴を使う。青髮ピアスに連絡したら、アレにそろそろ報酬を払って貰おう。学園都市の中を飛び交ってる電波女に。

 

 

 ***

 

 

「そう、分かった。すぐ行くから。ありがと初春さん」

 

 電話を常盤台中学のテラスにある机の上に置き、御坂美琴は小さく息を吐き出した。どこぞの傭兵がやばそうな仕事を引き受けた中、打ち止め(ラストオーダー)が一人退院したばかりにもかかわらず街中を走り回っていると。どうしてそうなったのか、打ち止め(ラストオーダー)打ち止め(ラストオーダー)で、孫市と追いかけっこしながら孫市を使えば一方通行(アクセラレータ)見つけられるんじゃね? という思惑あってのこととは打ち止め(ラストオーダー)本人しか知り得ない。なんにしても降って湧いた可愛い、と思う美琴の妹の一人。ほっとくこともできないかと席を立とうとしたところで、美琴は強く顔を顰めた。

 

「あらぁ? 出会い頭にそんな顔を向けるだなんて、社交力が足りないんじゃない? 知らない仲でもないんだし、もう少し友好力を働かせて欲しいわぁ」

「アンタと仲良くする気とか別にないし、私は忙しいのよ」

「そうみたいねぇ、難しい顔して電話していたみたいだし、どうしたのかしらぁ?」

「別にアンタには関係ないでしょ、……ちょっと末の妹を迎えに行かなきゃならなくなっただけよ」

 

 一応何故かは美琴の知ったことではないが、妹達(シスターズ)の一人を匿って助けてくれていた相手である第五位に妹達(シスターズ)関連で強いことは言えずにそれっぽく美琴ははぐらかした。それでもう話は済むはずだったのだが、食蜂操祈はそれを聞くと手に持ったリモコンを口に当て、目を細めて小さく笑う。

 

「……私も付き合おうかしらぁ、御坂さんの末の妹さんには会ってみたいしぃ」

「なんでよ⁉︎」

 

 

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