超能力者の円舞曲 ①
十月九日。
この日は世界郵便デーである。全世界を一つの郵便地域にすることを目的とする
ただ世界郵便デーだからなのかは知らないが、普段来ないところから来る知らせほど困る事もない。いい知らせならばいいのだが、知らせには残念ながら悪いものもある。虫の知らせとでも言うか、アドレスや番号を教えていないはずの相手からやって来たメールを見た時、汗が一滴額を伝った。
やって来た知らせに対してどうするか。無視してもいいし、気の向くまま鵜呑みにしてもいい。別段やる事があるわけでもなく、十月九日は学園都市の独立記念日ということもあり祝日。暇なところへの知り合いからのメール。一応は俺も関わっている事であるし、多少様子を見るつもりでほいほいメールの送り主の思惑に乗っかったのは失敗だったらしい。病院の前で俺は天を仰ぐ。
「まさかこの子の退院に君が迎えに来るとはね? もしかしなくても仕事かい?」
「……ね? なんででしょうね? しかもびっくりなことに仕事でもないんですよこれが」
胸元のライトちゃんを小突き来たメールを空間に写す。アドレスを教えてもいないのに来た第一位からのメール。『病院、
なんなんだろうかこの感じ。上条といい白い男といい、自分が側にいない時はペットを預けるかのように
「別にマゴイチが居なくたってミサカは一人でもタクシーに乗れるもん、ってミサカはミサカは胸を張って宣言してみる」
「なんだ、じゃあ俺はお役御免じゃないか。折角宣言までしてくれてることだし、ちっちゃな御坂さんに任せるとしよう」
「また君はそんなことを言って、後でどうなっても知らないよ? 一度引き受けたものをほっぽり出すのは傭兵としていいのかい?」
「先生そういうこと言わないでくださいよ、医者が人の心抉って楽しいですか?」
ただでさえ先生には頭が上がらないのに、マスコットみたいな顔して言うことがいつもなかなかイヤラシイ。だいたい御坂さんの顔をしている者と関わるとろくなことがないのだ。小さくても御坂さんは御坂さん。俺にとっての疫病神だ。ミサカはミサカはと手を振り上げる
カエル顔の先生が手を上げてタクシーを止めてしまい、俺はため息を吐き
「お客さん、どちらまで?」
「第六学区の遊園地! ってミサカはミサカは────」
「こらこらこら、勝手に今日の予定にテーマパーク行きを書き加えるな。行き先はですね、えーと第七学区のマンション『ファミリーサイド』の二号棟? ってとこです」
折角の休みを遊園地でエンジョイして潰す予定など俺にはない。カエル顔の医者に教えられていた行き先を運転手に告げれば、扉が閉まりタクシーは前に進み出す。頬を膨らませながらも、
「それにしてもあの人はなんでミサカにはメールをくれないのにあなたにはメールを送ってるの? ってミサカはミサカは嫉妬心を露わにして聞いてみる」
ポスっと座席に腰を下ろし直した
「それを俺に聞かれてもな……、上条さんといいこういうことほいほい頼むんだから困る。俺だって暇じゃないんだが」
本当は今日暇ではあるが、いつ仕事を頼まれるか分からない身でもある。それに俺は小さな子の教育に宜しい存在というわけでもないだろう。嘘は言っていないと腕を組んでいると、
「それはきっとあなたに頼めば最後までやり切ってくれるって信じてるからだよ。一度あなたが足を出せば、終わるまで足を止めないでしょ? ってミサカはミサカはまるで弾丸みたいって形容してみたり!」
「それ鉄砲玉ってこと? 全然嬉しくないんだけど」
「でもそうお姉さまも言ってたよ? ってミサカはミサカは情報源をバラしてみる!」
お姉様? お姉様って誰のこと?
「ちなみにどっち?」
そう聞くとヘッドホンを抑えるかのように耳に手を当てる
「きっとあなたはあの人に近いからあの人もあなたには頼るんじゃない? ってミサカはミサカは確信してみる」
「俺が? いやぁ俺はただの傭兵で、
学園都市第一位。戦わずとも、僅かながらその能力を見ただけで敵わないだろうと分かる。俺が相棒のスコープを覗いて見る世界のように、きっと第一位が見ている世界は俺とは違う。その違いこそ面白いところであり、俺の見れない世界がどんな世界なのか見てはみたい。第一位の見る世界を想像しながら唸っていると、
「でもそれでいいってあなたは断言するでしょ? そういうとこだよ! ってミサカはミサカはあなたの胆力に感心してみる」
「それって無鉄砲って言いたいのか? 人間自分のできることに全力を出すしかないだろう? 俺は超能力に超能力をぶつけることはできない。だが、だからぶつからないのか? と聞かれればそれは違う話というだけ。別に普通だろ」
「そうだけど、それを普通にできるってところがあなただもんね。あの人もそうなの、無理だと思ってたことにぶつかりたいんだよ。ってミサカはミサカはあの人を心から応援してみる」
そんなこと言われても、どう返せばいいのやら。俺も歩くスピーカーとか皮肉を言われたことはあるが、俺なんかよりよっぽど
「まあ、
俺になにか言わずとも、きっと純粋を絵に描いたような
一万。馬鹿げた数だ。殺した数なら俺よりもずっと多い。一万も能力者がいれば、
それはきっと仲間や友人、思い出だ。
「
「そうなの! うーんと、あっ、あなたしかいないかもってミサカはミサカはあの人の友達の少なさに愕然としてみる」
「えー……、これまでどんな生活してたんだよ。俺でさえ学園都市に来る前でも居たぞ。だいたい」
なにより、小さな少女のために拳を握った男を嫌いになる理由がない。「まあそうだな」と肯定すれば
「あの人ももっと色んな人と関わった方がいいとミサカは思うの! 目指せ友達百人! 誰かあの人に紹介できる人いない? ってミサカはミサカは期待の眼差しで聞いてみる!」
えぇぇ……。第一位に友達紹介? なにそれ。そんなこと言われても……。黒子さん、はないな。
アレ? 俺ろくな知り合いいなくね? 人に勧められない者しか友達がいないことに気付いてしまった……。
「なあ
「それは……可哀想ってミサカはミサカは哀れんでみたり」
「その可哀想の中には
「ミサカ傭兵だったの⁉︎ ってミサカはミサカは自分の正体に驚愕してみる‼︎」
「こ、この野郎一番マシそうなの選びやがった……。
「ミサカのどこにろくでなしや変態や変人の要素があるの! ってミサカはミサカは眉間にしわを寄せて怒ってみる!」
「後半だ後半、自分の語尾になにか違和感を感じないか?」
「感じないってミサカはミサカは可愛く断言してみる」
ああそう、そこまで言い切られたらもうなにも言えないわ。
「いやここからってまだ全然距離あるぞ。折角お金払ってタクシー乗ってるのに降りるの?」
「折角丈夫な足があるのに使わないのはもったいないかも? ってミサカはミサカは提案してみる!」
「折角タクシー乗ってるのに使わない方がもったいないだろう。そうだ、ミサカネットワーク内で多数決を取ってみるといい、こういう時こそ活用しないとな」
「むぅ、反対多数だけど認めない! ってミサカはミサカは人の意見は求めてないって言ってみる」
この小さい独裁者誰かどうにかしてくれ。「ヘイタクシー!」とか言ってるけどそれはタクシーに乗るため、止める時に言う奴だ。苦笑いして固まっている運転手さんが一番の被害者だろう。少女の文句を聞き流しながら目的地まで着けばバンバンザイだったのだが、赤信号でタクシーが停車した途端
「この隙にミサカは逃亡を図ってみる!! さあ追い駆けっこだよ! ってミサカはミサカは高速で車を降りて路地裏に駆け込んでみたり!!」
小さな体を活用し、人混みの中へと入って行ってしまう
平日ならまだしも今日は祝日。人通りがやけに多い。
「どうしたんですか? 小さな子と言い合いしてたみたいですけど」
「あぁ、
「困ったって退院したばかりなのに⁉︎ 法水さんなにしてるんですか⁉︎
「…………はい」
超怒られた。そんなこと言われても。タクシーのドアハッキングして走っていくような子だぞ。よく狙われるからこそ逃げ慣れてると言うか、ほら、やっぱり
「なら白井さんや御坂さん、佐天さんにも連絡して一緒に探しましょう! まだそんな遠くに行ってないでしょうし、法水さんは────」
「ちょっと待て」
飾利さんの話を手で制し、ペン型の携帯の先端を外し耳につける。アビニョンでの経験から、ある種の者たちからの電話はバイブレーションの仕方で分かるようにした。普通とは違うバイブレーションの種類は三種類。
『時の鐘』、『シグナル』、『黒子さん』。
今回は点滅するように短くバイブレーションを繰り返す携帯。二番目だ。シグナルの誰か。上条、土御門、青髮ピアス。上条か青髮ピアスなら世間話がほとんどだが、朝からの嫌な知らせの連続がまだ続いているかのように嫌な気配を感じる。耳につけたインカムを小突けば、『孫っち』と真面目な土御門の声が聞こえ、やっぱり悪い予感だけはよく当たる。
「切羽詰まった声を出さないでくれ、土御門さんのその声を聞くと嫌でも気分が仕事になる。仕事だろう?」
『話が早くて助かるな。そうだ』
茶化すこともなく続けられる真面目な声に、状況はよっぽど悪いらしいと分かる。休暇は終わり。小さくため息を吐く俺を、『仕事』という単語から察したらしい飾利さんから目尻の下がった目を送られ、俺は少しだけ身を捻り背中を向けた。
「それは個人的にか? それとも」
『『シグナル』のだ。青ピには後で孫っちから伝えてくれ、悪いがオレには時間がなくてな』
本当に時間はないのか、土御門の口調は少し早い。なにをしているのか知らないが、インカムの奥から咀嚼音が聞こえてくる。なんか食ってね? 本当に時間ないんだよね? 戦争が世界で始まったため国連から頼まれていた学園都市での仕事も終わり、俺が優先するべき仕事は、今尚雇われている『シグナル』だけ。わざわざ俺が断るような仕事を土御門が持って来ないことを思えば、引き受けない理由はない。ただ……。
「上条さんはまだ病院だぞ? 今日まで入院だろ。それでもシグナルで動かないといけないのか?」
『いや、今回はカミやんはいない方がいい。そういう内容だ』
「どういうことだ?」
『『
「へぇ、『スクール』ねぇ」
『知ってるのか?』
「名前だけな」
暗部と一度交戦してから、電波塔のひとり言や、ガラ爺ちゃんに聞いて多少暗部を漁ったことはある。その際に知った組織が二つ。
「それにしてもスナイパーね、誰を雇ったんだ?」
『砂皿緻密という奴だ。知ってるか?』
「まるで知らん。誰だそれ、凄腕なのか?」
『腕はいいみたいだが、まあ孫っちと比べるとな。親船最中を狙撃にやって来た砂皿緻密、それはなんとか阻止できたんだが……、『スクール』を追う内に他の暗部の組織の名前が浮上して来てな。今動いてるのは『スクール』だけじゃないらしい。『グループ』、『スクール』、『アイテム』、『メンバー』、『ブロック』、分かるだろ?』
ああそう、『アイテム』も動いてるかもしれないってこと? まじかよ……。あの宇宙戦艦の擬人化女が稼働してるの? おいおいおい。超めんどくさそうな仕事じゃないか。仕事内容はまだ分からないが、もうこの時点で大分疲れそうな仕事ということが分かる。
『『アイテム』なら、前に孫っちとのオレたちの暗部組織どうするかの話し合いの時に聞いてる。仕事でかち合った第四位がいるんだろう? 詳しくは話せないが、そうなると現状
「二人?」
なにそれは、その口ぶりからすると、『アイテム』以外のどっかの組織に
「で? 肝心の仕事はなんだ? もうそれを話してくれ。もったいぶるな」
『……分かった。孫っちなら今学園都市の外がどれだけやばいか分かってるはずだ。そんな中で
「戦力バランス的にって意味か? そりゃあそうだろうが」
学園都市内での最高戦力。七人しかいない
「つまり
『そうだ。戦争が始まった段階で、いくら不穏分子を切り捨てなければならないとは言え、
全ては学園都市を守るため。大切な者がいるこの箱庭が壊れてしまうようなことがないように。自分の家が燃えて仕舞えば、いくら超能力者でも揃って表に出なければならない。
「つまりなんだ? どんな結果になってもどの
『そんなとこだ。できるか?』
煙草に手を伸ばそうとして、街中だという事を思い出し手を止める。できるかって?
『……オレも無理言ってるのは分かってる。一緒には行動できそうもないしな。だが────』
「別にやるよ。仕事だしな。ただ、俺や青ピに向かって来たらどうする?
『できるならそれでも構わない』
できるかって?
「できるさ」
そう言うと決めたから。俺は強いと、無理なんてことはないと、そう言うと前に決めた。
「ただ、それならやり方はこちらに任せて貰う。土御門さんは来れないんだろう? なら青ピと二人、上条さんと土御門さんの分も守ってみるとしようか」
『悪い、頼むぞ、細かいことは後でまた連絡する』
通話は切れ、深呼吸を一回。学園都市内で久々に大仕事だ。飾利さんに目を向ければ、なにやらすっごい引かれている。思わず口に手を伸ばせば、大きく弧を描いている口があったので慌てて口を擦り笑みを消そうと試みるもどうやら駄目だ。
「飾利さん悪いが仕事が入った。わたくしも誘えとか後で黒子さんから怒られるだろうが、今回はそうもいかない。俺は行く。
「それは、いいですけど……一体なにが?」
「今回は話せそうもない。すまないがもう行く。どうやら俺の時間もないらしい」
もう事態が動いているならのんびりはできない。飾利さんに手を振って別れ人混みに紛れる。これは暗部の仕事。相手も暗部。だが、
***
「そう、分かった。すぐ行くから。ありがと初春さん」
電話を常盤台中学のテラスにある机の上に置き、御坂美琴は小さく息を吐き出した。どこぞの傭兵がやばそうな仕事を引き受けた中、
「あらぁ? 出会い頭にそんな顔を向けるだなんて、社交力が足りないんじゃない? 知らない仲でもないんだし、もう少し友好力を働かせて欲しいわぁ」
「アンタと仲良くする気とか別にないし、私は忙しいのよ」
「そうみたいねぇ、難しい顔して電話していたみたいだし、どうしたのかしらぁ?」
「別にアンタには関係ないでしょ、……ちょっと末の妹を迎えに行かなきゃならなくなっただけよ」
一応何故かは美琴の知ったことではないが、
「……私も付き合おうかしらぁ、御坂さんの末の妹さんには会ってみたいしぃ」
「なんでよ⁉︎」