時の鐘   作:生崎

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超能力者の円舞曲 ③

 やばいやばいやばいやばい。

 

 いや、落ち着け。

 

 だがやばい。マジやばい。

 

 超能力者(レベル5)が一人二人三人、学園都市230万人の中で七人しかいない超能力者(レベル5)のおよそ半分が、一八学区の研究所の一室で顔を突き合わせている。なんなのこれは。仕事は仕事だしょうがない。しょうがないが、こんなことある? 上条が入院して一人全く関係ない安全エリアにいる代わりに、『シグナル』に上条の不幸パワーが流れ込んででもいるんじゃないだろうかと考えてしまうほどにツイテナイ。

 

 第四位は、まあいい。元々様子を見る予定だったからな。だが、完全に予想外だったのは第二位だ。データだけなら多少は掻き集めたから知っている。本人も名乗っていた能力名『未元物質(ダークマター)』。何度か資料で見はした。だが、能力名を見て聞いてもよく分からなかった。ダークマター、なんかよく分からない仮説状の物質。そんな感じにしか知らない。それを能力名に使うってどういうことなの? 

 

「国連とかいうクソウゼエ後ろ盾がいたおかげでテメエには手ェ出すなとか言われてたがよぉ、今はもう関係ねぇんだよなぁ? つまりここでテメェをブチ殺しても誰も困らねえわけだ! なあ! クソスナイパー!」

「……なぜか麦野が超フルスロットルなんですけど」

 

 思考が第四位の悪態に遮られる。額に青筋浮かべた第四位は、顔が整っているだけに怒りの表情を綺麗に顔に写しており怖い。そう思うなら宇宙戦艦の茹だってるエンジンを冷やしてあげてくれませんかね、とニットを着た中学生くらいの少女に目を向けるが、全スルーして全く相手してくれない。

 

「『アイテム』、第四位『原子崩し(メルトダウナー)麦野沈利(むぎのしずり)絹旗最愛(きぬはたさいあい)、フレンダ=セイヴェルン、滝壺理后(たきつぼりこう)。の四人みたいだね。とミサカは報告」

「……能力は?」

「第四位以外不明、調べるからもう少し時間が欲しいね。とミサカは回答」

 

『アイテム』に枝を付けてたとか言っていたが、電波塔(タワー)も四六時中彼女たちに張り付いていたわけではないらしい。それに暗部であればこそ、名前より能力の方が生命線だ。超能力者(レベル5)程有名ならしょうがないだろうが、名前よりも能力の方が保護されているのだろう。それに加えて電波塔(タワー)雷神(インドラ)とか武器の製作とかいろいろしてるみたいで忙しいみたいだし。

 

 それより宇宙戦艦の名前初めて知ったわ。長い茶髪が重力に逆らってうねっている第四位から、仲間であるらしい他の三人は既に距離を取っており、第四位が仲間内でも爆弾扱いされているのがよく分かる。「あれはあれで」と第四位を見ながら隣で口にしている第六位は知らん。もうマジで一度趣味を改めた方がいいんじゃないかな。

 

「……うん、久し振りだな第四位、まあ前回会った時はお互い仕事だったわけであるし、今回もそうなんだが、お互い思うところはあるだろうけど今日は全員一旦解散して家に帰ってゆっくり休もう。それがいいって、わざわざこんな場所で命を懸ける必要もないだろう? どうかな?」

「よし、死ね」

 

 よしじゃねえよ⁉︎

 第四位の目前に光の粒が散り球体になったのを目にして慌てて横に飛べば、肌を焼く熱気が元いた場所を通り過ぎた。軽く目を動かし背後を見れば綺麗な穴の空いた壁。全く命に対して遠慮がない。鉄仮面で表情は分からないが、青髮ピアスは肩を落としたまま固まっており、慌てて立ち上がる俺に向けて第二位は拍手をくれる。

 

「なるほど、第四位も来たわけだ。おいおいどうしたんだよ今日は。第六位に時の鐘に第四位。誰か来るとは思ってたが、学園都市も大盤振る舞いじゃねえか」

「なんだテメェ、あー、『スクール』ね。忘れてたわ、眼中になかったから。なに余裕ぶってるのか知らないけど、その後ろの置いてさっさとこの世から消えてくれる?」

「気の短い女だな、遠路はるばる来てくれたんだし、少しくらい会話を楽しもうとは思わねえのか? それとも順位が低いと頭の出来も低いっつうわけか? なあ藍花悦」

「いやぁ、ボクゥは女の子とイチャコラ話せるならオールオッケーやからねぇ。気の強い子もそれはそれでぐっと来るものがあるわけや、なあ孫っち?」

「……オマエら女の趣味悪くねえか?」

 

 知るか、俺を見るんじゃねえ第六位。ってか俺を巻き込むんじゃない第二位。

 

「藍花悦? 第六位? 学園都市でかくれんぼ決め込んでるヘタレがそいつってわけ? あぁ、そういえばテメェら暗部に落ちたんだっけ? 『シグナル』とか言う」

「別にボクら落ちたわけやないんやけどね……」

 

 驚くべきことに世間話が成立している。超能力者(レベル5)同士どこか似通った感性でも持っているのか分からないが、分かるのはこの場において余裕と自信を持っているということ。青髮ピアスは若干違うのかもしれないが、能力者として誰にも負けない自負があるんだろう。

 

 第二位も第四位も笑っている。が、一発触発の空気を隠せていない。いや、隠す気がない。殺気が駄々漏れでその強さばかり増していく。みんな一緒に帰って寝よう作戦は早々に失敗し成功する見込みはゼロ。こうなっては誰かが一度火を放れば後は燃え尽きるまで終わらないだろう。

 

 超能力者(レベル5)超能力者(レベル5)超能力者(レベル5)。そんな戦いに巻き込まれて無事なわけもないだろうが、尻尾を巻いて逃げるわけにもいかない。だいたい逃げられる状況でもない。背を向けた瞬間どうぞ撃ってくださいだ。そうなると、相手の目的を潰して終わらせるのが吉。

 

『スクール』の目的も、『アイテム』の目的もワゴン車に積み込んだらしい物であるなら、それを破壊するのが一番手っ取り早いと見える。目的さえなくなれば、戦闘を続ける意味がほぼなくなるからだ。

 

 だが、それを狙うには第二位の壁が。近付こうにも俺を睨んでいる第四位がそれを許してくれるとも思えない。未だ嵐の前の静けさなのをいいことに、青髮ピアスに近寄り肘で小突いて小声で告げる。

 

「藍花さん、これがここでの最後の作戦会議になるだろうからよく聞いてくれ、突っ込むとしよう後は流れだ」

 

 誰にも聞き取れないんじゃないかという程の小さな声。だが、それでいい。それで第六位には通じる。

 

「……それはええんやけど、なんで藍花さん?」

「あだ名で呼ぶわけにもいかないだろ」

 

 学園都市でほぼ会うこともないであろう魔術師と違い、相手は暗部で超能力者(レベル5)。青髮ピアスなんて言う超特徴的なあだ名で呼んだ場合、遠からず見つかってしまう可能性が高い。俺や青髮ピアス、土御門が狙われる分には構わない。元々裏を知っているし手広くやっているんだ仕方ない。だがその結果関係ない者が狙われるのは絶対にノーだ。故にこの場では『藍花悦』の名を使う。名前の分かっているのっぺら坊。これを使わない手はない。

 

 そして、この状況を利用しない手もない。

 

 距離を取れば第四位に狙い撃ちであるし、第二位の能力も同じように遠距離攻撃が可能なのであれば、離れた瞬間即アウトだ。片方の攻撃ならなんとか避けられても、同時に二方向から超能力者(レベル5)の一撃が飛んで来ては避けられるか怪しい。

 

 で、あるなら狙うべきは、こちらから突っ込み距離を潰しての乱戦。『スクール』と『アイテム』は協力関係にあるわけではない。唯一なんか俺を目の敵にしているのは第四位のみ。そうであったとして、『アイテム』の狙いは元々『スクール』だ。こっちから仕掛け無理矢理戦闘が始まって仕舞えば、『アイテム』は第一目標である『スクール』を優先して狙うはずだ。そうなれば表面的には三竦みでも、水面下では二対一の状況を作れるはず。

 

 優勢の中に居られれば、守る仕事も多少は楽になる。

 

 狙撃手なのに自ら敵に突っ込まねばならないとは、マジで打ち止め(ラストオーダー)さんに言われた弾丸みたいという言葉を否定できない。

 

 薄っすら口端を持ち上げ細く息を吐いた。

 

 相手の殺気が煮詰まり爆発寸前になってからでは遅過ぎる。殺気の糸が引き切れる手前、第二位が多少なりとも勝手に第四位の気を引いてくれた内に一歩。壁側にいる第四位たち『アイテム』と、搬入口手前に停められたワゴン車の前に居座っている第二位たち『スクール』の間に滑り込んだ。肩に相棒を掛け天に白い槍の先端を突き立てる。

 

「最終通告だ。双方引いて帰って寝ろ。『シグナル』は超能力者(レベル5)同士の衝突を望まない。一人じゃ眠れないというなら子守唄を奏でて寝物語を描いてやるぞ?」

「テメエは初めて会った時から変わらねえなぁ、え? 好き勝手ぶっ放しておいて平和主義気取りか? 無能力者(レベル0)が誰にモノ言ってんだ? 穴開けて欲しいならもっと丁寧に頼みなさいよ」

「今更だろうが傭兵。お話一つではい止めましたなんて言うくらいなら、そもそもここに俺たちも第四位もオマエらだっていねえだろうが。世界最高の狙撃手集団のくせにそんなことも見えてねえのか?」

 

 見えているし誰に何を言っているのかくらい分かっている。好き勝手撃って平和主義を気取っているという自覚もある。が、

 

「言ってみなきゃ当たるかどうかも分からないだろう? 外れたら外れたで────」

 

 当たるまで繰り返せばいいだけだ。そうやって俺はここにいる。いつもと変わらず、だからまた今回も引き金を引く。

 

 ────ゴゥンッ! 

 

 研究所の鉄製の壁に反響する鐘の音。肩に掛けたまま相棒の銃口を第二位に向け一発。その反動を利用してボルトハンドルを引きながら反転し第四位に銃口を向けた。

 

 第二位と同じく狙うは足。機動力を奪えれば色々有利だ。ロイ姐さんの膝を撃ち抜いても元通りにしてくれた学園都市。超能力者(レベル5)が死ななきゃいい。足に穴の一つや二つは必要経費。引き金を指に掛け、

 

 ペキンッ。

 

 軽い音を背後で聞き指を止めた。銃弾が人に当たった音ではない。続いて硬質な床の上を跳ねる銃弾の軽い音。目の前の第四位も銃口を向けられていながら俺を見ていない。他の『アイテム』の三人も同じ。見ているのは俺の背後。

 

 何を見ている?

 

 僅かに背後へ目を向けた先、第二位がいるはずの場所で。

 

「よお、また外れたな傭兵」

 

 空間を抉るようにふわりと広げられた白い羽。それが六枚。見惚れるような美しさ、ではない。この世に存在しないはずの、御伽噺の中に書き留められた幻想を背に背負った天使が一人、そこにはいた。

 

「お返しだ。なあ時の鐘、俺の射撃の点数は何点だ?」

 

 その背の羽から一枚の羽毛が第二位の前に柔らかく舞った。その羽毛に伸ばされる第二位の右手。中指を丸め親指で抑えられた形はただのデコピン。その弾かれた指が羽に触れたその瞬間、視界の中で白い光が点を穿つ。

 

「孫っち‼︎」

「…………デコピンの溜めがよくないな。五十点」

「厳しいなおい! 射撃を避けるのもお手の物か? よく避けたな褒めてやる」

 

 頬から垂れる血を拭う時間もない。射線が分かっていればこそ、それに加えて直線の動きだったから辛うじて避けられたまで。溜めもなく放たれていれば眉間に穴が空いていただろう。これが第二位、『未元物質(ダークマター)』。

 

「お前の能力なんだそれは? 御伽噺を現実にする能力か?」

「はっ! テメェロマンチストだな! だがあながち間違っちゃいねえ、俺の『未元物質(ダークマター)』に常識は通用しねえ」

 

 そう笑った第二位の姿が途端に光に飲み込まれた。

 

 俺の服の裾を焼き切り背後から飛んで来た眩い光。呼吸をする事も忘れ振り返れば、服の肩口がパックリ裂けた第四位が手を緩やかに前に伸ばしている。

 

「一発は一発だからさぁ。綺麗に蒸発しちゃった? 次はテメエの番だ早漏野郎」

 

 第四位の口が大きな弧を描く。

 

「勝手に終わらせるなよ、気の短い女は嫌われるぜ? テメェの常識に俺を当て嵌めんな第四位」

 

 第四位の閃光が、第二位が白い羽を広げた衝撃で四散した。光の粒子が舞い散る中、無傷で突っ立つ第二位の姿に、第四位の口元の三日月が逆さを向く。俺を挟んで忙しい事だ。くそ!

 

「っち! 『未元物質(ダークマター)』、第二位か! 通りでウザいわけよねー。ウザい男とウザい男が並んでくれちゃってまあ。テメェら揃って串刺しにしてやんよ!」

「男と一緒は御免だな」

「背中は任せたぞ藍花悦‼︎」

 

 第二位は一度頭から追い出す。あの白い羽、何でできてるのか分からないが、背から伸びているあたり、遠近どちらかと言えば近接用だと思う。

 

 ならば近接戦闘最強格の第六位に第二位は一先ず任せ、俺が向かうは第四位。第二位より第四位の方が距離は取りやすい。超能力者(レベル5)が相手だからと言って、青髮ピアスに全ては任せられない。『スクール』は一先ず青髮ピアスに任せて俺は『アイテム』に照準を合わせる。

 

「テメェから向かってくるかよ! うっざ、前出なさい絹旗」

「麦野、優先は『スクール』ですからね。私が超相手してる間先に目標潰しちゃってください」

「はいはい分かってるわよ。ただ、ソイツ殺すの私だから。気ぃ抜くんじゃないわよ」

 

 銃口を向けた先に割り込んでくる絹旗と呼ばれたニットの少女。第四位とは一度やっている。あの時は御坂さんという最高の盾役が居てくれたが、いない場合俺は距離を潰し第四位の相手をするしかない。相手もそれが分かっているはず。そんな中でニットの少女が前に出て来たということは。

 

 引き金を引く。飛んだ銃弾は少女に当たり体を後退させた。そう、後退させただけ。少女の体に穴は開かず体の表面に薄煙を上げただけで弾かれた。第四位以外も面倒だな! 思い通りにはならないか! 

 

「痛たた。大きいだけあってその銃威力が超馬鹿になりませんね」

「バリアーか!」

「種明かしなんてするわけないでしょう」

 

 そりゃそうだ! 

 後退した体を落とし突っ込んで来る少女。その小さな体で頭二、三個分もでかい俺に向けて? 黒子さんのような合気の使い手か? それともバリアーっぽい能力に任せて殴り合う気か? 相当肉弾戦に自信があるのか、ただ動きに武の空気は感じない。振りかぶりもせず、動き小さく当てることのみを目的に伸ばされる少女の拳。避けるのは難しいが、合気の使い手なら手を取るのも不味そうだ。ならば。

 

 中国武術コロの原理で攻撃を受け流す。

 

 そう思い突き出された少女の手に手を沿わせた瞬間、大きく手が弾かれ体勢が崩された。

 

「貰いました」

 

 そのまま俺に覆い被さるように突っ込んで来るニットの少女。

 

 やばい! どういう原理か分からないが、こいつ力がロイ姐さん並みだ。掴まれたら終わり。最初に手を掴まなくて正解だった。が、体勢が崩れた状態で避けるのは不可能。で、あるなら崩れたら崩れた。掴まれたら掴まれただ。

 

 少女の手が俺の襟元を掴み、力任せに引き寄せられる。力に逆らわず、寧ろ自分から少女に向かって倒れこみ体を密着、その勢いのまま崩れた体勢を利用し掬い上げるように体を捻り少女を床に叩きつけた。

 

 服の襟元が破け少女の手が離れる。

 

 俺の力で引き剥がせないなら、少女の力で引き離して貰うだけだ。掴まれたら倒されるなど、黒子さんとの組手で死ぬほど経験している。全く黒子さんには頭が上がらない。黒子さんに感謝だ。

 

「お嬢さんも戦い慣れてるみたいだが、悪いが経験が足りんな」

「……なるほど超面倒ですね、スイス傭兵時の鐘。でも決定打がないのなら私には関係ないです」

「決定打ってこれか?」

「げッ⁉︎」

 

 相棒を大きく背後に振ってなにかを払い飛ばす。天井の照明に照らし出され、ニットの少女を見下ろしていた視界の中に影が入り込んで来たのは分かっていた。銃身(リコーダー)含め三メートルほどもある相棒(ゲルニカM-003)の長さがここでは役に立つ。感触は柔らかく、目を向ければ気味悪い人形。それがひしゃげた瞬間爆風と閃光が俺の身を包んだ。

 

「よっしゃあ! 結局目と耳は潰せたって訳よ! 絹旗!」

「ナイス援護ですフレンダ!」

 

 あー耳がキンキンする。フレンダとか言う少女は爆弾使いか? あんな人形手に持ってなかったはずだがいつ出した? 空間移動(テレポート)? だが、なら俺に直接ぶちこみゃいいはずだし違うか?

 

 まあなんにせよ、手に持った相棒を手繰り寄せ軍楽器(リコーダー)を取り外す。流石は『不在金属(シャドウメタル)』製。感触からしてかすり傷一つないらしい。うん。相手の足が地に着いてるなら問題ない。軽く軍楽器(リコーダー)で床を叩く。

 

 くそ、第四位は『スクール』の方へ、悪いな青髮ピアス。絹旗とフレンダは俺を挟んで近くに、残り一人はなんか離れたところにいるな。援護要員か? まあいい。コツコツ床を叩きながら、骨で感じる振動で手近の者の動きは探れる。

 

 立ち上がるニットの少女。その足先に目掛けて軍楽器(リコーダー)を突き出し一撃。

 

「つッ⁉︎」

 

 バリアーで身を覆ってようが、空気を遮断してはいないはずだ。それじゃあ息ができないからな。ならば軍楽器(リコーダー)の一撃を防げても、その振動までは防げない。

 

 少女が転がったのを振動で感じ、立ち上がろうと、前に出ようと出される少女の手足を軍楽器(リコーダー)の一撃をもって出だしで潰す。目と耳が戻るまでおよそ数十秒。いくら力が強く差があろうが、それに対抗でき得る武器さえあれば出だしを潰すのは容易だ。掴まれることにだけ気をつければいい。いくら戦い慣れていても俺の間合いの中で好きにはさせない。少女の動きは自分の動きをものにする武の動きではないのだし。

 

「ちょ、なんなのそれ! カンフーマスター⁉︎」

 

 こんなのでカンフーマスター名乗ったらスゥに鼻で笑われる。叫んだフレンダが手に持つ鞄の中から大きなロケット花火みたいなものを取り出すのを感じながら、軍楽器(リコーダー)相棒(ゲルニカM-003)を再度連結。そのロケット花火鞄の中にあんの? 人形もその中にあったのだとするなら、絶対鞄で隠せる量じゃない。

 

 やっぱり空間移動(テレポート)? サラシ女に近い力か? 似たのが確かあったな。『物体移動(アポート)』だっけ? 少女がロケット花火の紐を引くのに合わせて引き金を引く。

 

「うげッ⁉︎」

 

 目前で爆発したロケット花火の爆風に巻き込まれ、鞄を放り出しゴロゴロ後ろに転がるフレンダは放っておき、ようやく戻って来た目を開けたところで何かが胸元に当たった。

 

 その衝撃に思わず息を吐く。

 

 ニットの少女はまだこんな近くにはいなかったはず。目を落とせば赤く染まった学生服。

 

 俺の血ではない。なら誰の血だ? その血を辿った先、足元に転がる人の腕。顔を上げた先に居たのは。

 

「青ッ、くそ! 藍花さん‼︎」

「ぐ……うおおお!!!!」

 

 片腕の千切れた青髮ピアスが吠えた。

 肉の断面が盛り上がり、ずるりと新たな腕が千切れた断面から伸びるのに合わせて、青髮ピアスの頭から角が伸びる。身体能力なら、意図して能力を使おうとしなくてもトップアスリートもびっくりな身体能力を誇る青髮ピアスが、戦闘が始まってから三分も経たずに本気を出した。

 

 穴の空いた壁に切り刻まれた床。超能力者(レベル5)同士の戦闘の爪痕は、俺が立つ場とはまるで違う。戦略兵器みたいだった『幻想猛獣(AIMバースト)』さえ一人で圧倒した超電磁砲(レールガン)。それと同じ超能力者(レベル5)。おそらくまだ誰も本気でないだろうにこれだ。

 

 床や壁にぶちまけられている赤い肉片は、最初十数人居た『スクール』の護衛たちだろう。残っているのは、頭に輪っかがある男とドレスの女、第二位、第四位、第六位のみ。

 

 だが、なるほど。遠くから見ればよく分かる。研究所を抉り、裂き、凹ませている暴力の跡が、第二位の背後にだけは一切ない。その背後にいたからこそ、輪っか男もドレス女もワゴン車も無事だったというわけか。つまり。

 

 あの中で第二位は第四位第六位と比べても頭一つ抜けている。

 

「はっは! 第六位! それがテメェの本気か? 俺の見た目も相当だって自覚あるが、テメェも相当だなおい!」

「ウゼェ、テメェら纏めて吹っ飛べゴミ共!」

「少し痛いかもしれんけど許してな。ボクゥも余裕ないわ。だからちょっとはしゃあないなあ‼︎」

 

 第六位の体が収縮し、第四位が宙にカードのようなものを放り投げる。俺の相手の二人より、圧倒的に青髮ピアスがやばい。ニットの少女が未だ俺の近くにいるが、少女に一撃貰う事を覚悟して、青髮ピアスの援護を優先する。

 

 青髮ピアスが何をするかは知らないが、何かをしようという第四位が最も邪魔だ。閃光を放つでもなく、投げられたカードの速度なら容易に目で追える。クレー射撃より楽勝だ。第四位より先にカードを弾丸で穿つ。

 

 カードに当たるはずだった宇宙戦艦の砲撃は、そのまま空だけを射抜き青髮ピアスと第二位の間を横断するのみ。

 

「テンメェ! クソスナイパー‼︎ 毎度私の邪魔をッ‼︎」

「藍花悦! かませ!」

「生命の流れを抑えてみいや‼︎」

 

 第六位、生命の悪魔が芽吹き爆ぜた。

 

 小さな体を突き破り伸びる無数の手足と鋭い骨。不定形の生命の奔流が、第四位の閃光も第二位の翼も飲み込んで研究所の一画を埋める。その腕一本一本は人の膂力を容易に超え、骨は肉食獣の牙より鋭く硬い。人ならざる人の暴力が床と壁を削る中、光の筋と白い翼が肌色と白色の混ざった河を割る。

 

「痛ってえなタコ助! ベタベタ気安く私に触りやがってよぉッ‼︎」

「それで肉体操作の最高峰か? 拍子抜けだぜ藍花悦」

「なら、これならどうや?」

「くはは! マジで悪魔かテメェはよ!」

 

 河が引き、纏まり、膨らんでいく。数多の角を頭から伸ばした迷宮の悪魔。三メートル近い巨体をしなやかに丸めた体から伸びる骨の装甲に覆われた長い尻尾。正しく人を越えた怪物。その重量だけで床が軽く軋んでいる。

 

 悪魔と化した青髮ピアス。何度見ても凄まじい。一瞬呆けてしまった頭を振れば、呆然と隣で目を瞬いているニットの少女が目に入った。

 

 そうか……。強力な能力者の少女でさえ観客と化してしまう景色が今まさに目の前にあるらしい。超能力者(レベル5)の本気の戦いは、少なくとも同じ土俵に立つ者だけのものであるとでも言うのか。ただ、俺は観客でいる気はない。ホッと息を吐き一歩。

 

「……行く気ですか? 超死にますよ?」

「なんだ心配してくれるのか?」

「呆れてるだけです」

 

 少女の目は自殺志願者を見るようなもの。別世界のような地獄に足を伸ばす俺が気にでもなったのか。ただ俺は自ら死ぬ気はさらさらない。

 

「俺の仕事はそういうお仕事。それに、仲間が戦場に立ってるのに観客は御免だ。お嬢さんは違うのか?」

「貴方敵焚き付けて何がしたいんですか? 馬鹿ですか? ……でも、私も観客でいるのは映画を見ている時だけで十分ではありますね」

 

 服を叩き立ち上がる少女を見てつい笑みが浮かぶ。暗部に居ようと、その組織に所属する者にも種類がいる事は知っている。猟犬部隊(ハウンドドック)一歩通行(アクセラレータ)、土御門。

 

『アイテム』、絹旗最愛。第四位から盾になれと言われて即答し銃を持つ相手の前に能力があろうとも立つ胆力。最優先目標を『スクール』であると間違わず、第四位にそれを促すことのできるリアリスト。悪くない。

 

「なあ、俺の仕事は超能力者(レベル5)を守る事でな。あの戦闘はさっさと終わらせたい。『アイテム』の目的はあのワゴン車だろう? 『スクール』もそう。アレの破壊まで一先ず手を組まないか?」

「この状況でそんな提案しますか……ってかなんですかその超怠そうな仕事」

「……やっぱそう思うよね」

 

 ニットの少女のジト目が心痛い。誰に言ってもそんな顔されるような仕事だ。考えれば考えるだけおのれ土御門と思ってしまうので深くは考えない。だいたい依頼主は土御門の上だろうし、それがアレイスター=クロウリーなのか、親船最中なのか、別の誰かなのかは分からないが。

 

 お互い時間はない。超能力者(レベル5)の戦いは今も続いている。体を震わせる破壊音が轟く中、俺の提案を飲むか飲まないか、絹旗さんは数瞬考えるように目を伏せたが、すぐに顔を上げて第四位を見る。

 

「麦野! 『シグナル』が組まないかとか言ってますがどうします?」

「はぁ⁉︎ 誰が組むか! んな早漏スナイパーとタコ仮面なんかとよぉ‼︎ 寝言なら寝て言えブチ殺すぞ絹旗ァ!」

「だそうです」

「……まじかぁ」

 

 なんで自ら茨の道を邁進するのあの宇宙戦艦は。絶対組んだ方がいいじゃん。

 

 諦めたような絹旗さんの笑みに俺も諦めた笑みを返す。そのまま絹旗さんは腕を振りかぶり、俺も避けずに相棒の軍楽器(リコーダー)部分でその一撃を受けた。

 

 交渉不成立と共に一撃。全く仕事が早くて涙が出るが、その一撃を貰いそのまま超能力者(レベル5)の戦闘に突っ込む。絹旗さんのあの感じ、超能力者(レベル5)の渦の中に入れば無理には突っ込んで来ないはず。焚き付けたから来るかも分からんが、失敗した。

 

 そのまま第六位の背にぶつかり地に足をつけ、絹旗さんの一撃に軋む体を歯を噛み締める事で押さえ付けながらボルトハンドルを再び引く。

 

「ナンパ失敗したな孫っち。慰めてあげよか?」

「その風体で喋るな藍花さん。超能力者(レベル5)が暴れてれば、緊急でもない限り超能力者(レベル5)をよく知ってるからこそ『アイテム』の他のはそうそう突っ込んでこないらしい。残り時間は?」

 

 青髮ピアスの背からちょこんと伸びた手が二本の指を伸ばす。残り青髮ピアスが全力で動けて二分。その間に目標を破壊して第二位と第四位を生存させ撤退? 馬鹿げている。ほぼほぼ無理だ。ならば撤退を主軸にできるとこまでやるしかないか。

 

「おい『シグナル』、『アイテム』に振られたなら俺たちと組まねえか? きっといいチームになれると思うんだが?」

「嘘つけ思ってもない事言うなよ第二位。その余裕、最悪自分一人いればどうとでもなると思ってるんだろう? 仲間を仲間とも思わない奴と組みたくはないな」

 

 十数人居た護衛の者たち。それらを守ったような形跡がない。初め俺が六人撃った時もそうだった。第二位ならば守ろうと思えば守れたはずだ。それなのに守らなかったという事は、いてもいなくてもどっちでもいいという事だろう。同盟組んだところで、元々敵。第二位はおそらく容易に俺たちを切り離す。まず間違いなくすぐに壁にされる。そんなのと組むかよ。

 

「あらら、今度はこっちが振られたか。残念だなおい」

「言ってろ」

「いつまでくっちゃっべってんだテメェら! おいフレンダァ! いつまで寝てんだ援護しろッ!」

「ひゃい⁉︎ あーもう全部お見舞いって訳よ‼︎」

 

 立ち上がったフレンダがスカートから大量の大きなロケット花火を手に一斉に紐を引く。不規則に飛んでくるロケット花火。食らっては不味いがこれはチャンスだ。

 

「藍花さん! この隙に目標を穿つぞ!」

「了解や!」

「邪魔だなあ」

 

 青髮ピアスの背から飛び出したと同時、輪っか男が軽く手を振る動きに合わせて、地を這っていたロケット花火の影の動きが変わった。念動使い(テレキネシス)は輪っか男だったか!

 

 相棒(ゲルニカM-003)を手近の床に放り、振り向きざまにゲルニカM-002を引き抜き撃鉄を弾く。目標は四つ。無理矢理動きが変わり降ってこようとしていたロケット花火の弾頭を穿つ。視界を埋める爆風。それを引き裂き閃光が伸び肩の端が焼かれる。痛いよりただただ熱い! 

 

「やっぱりテメェが一番邪魔だよなぁ、豆鉄砲! 無能力者(レベル0)の分際でいつまでも私の前に立ってんじゃねえ‼︎」

 

 爆煙が煙幕となって僅かに狙いがそれたか‼︎ 向こうから突っ込んで来てくれるならやりようはある! 俺も何度か超能力者(レベル5)とやったおかげで超能力者(レベル5)のある意味弱点を知っている。

 

 一つ、超能力者(レベル5)は能力が強いが故に、ただの格闘戦はそこまで強くない。第六位と第七位という身体能力規格外の例外はいるものの、だからこそ突っ込んでくる相手にそこまで慣れていない。能力を目にした相手は驚きからだいたい足を止めるだろうからな。だから第三位にも打撃なら一撃与えられたし、第四位にも当てられた。

 

 二つ、超能力者(レベル5)は能力が強いからこそ、己の能力以外のものを下に見る傾向がある。一度やったとしても、未だ俺を下に見ている第四位の発言からもそれがよく分かる。

 

 と、言っても相手は天才だ。一度やった俺に対して多少の警戒はあるだろう。だからこそ前回の軌跡をなぞりながら、その違いをもってこの場を制す。

 

「そんな玩具私に向けて凌げると思ってんのか!」

 

 相棒(ゲルニカM-003)。前回はその銃身を容易に焼き切られた。だから第四位が浮かべる光球に向けて相棒(ゲルニカM-003)を拾い突き出す俺を馬鹿だと思うだろう。が、相棒(ゲルニカM-003)に付いている新たな銃身は、これまでの銃身じゃあない。

 

 軍楽器(リコーダー)が光球を突き破る。

 

不在金属(シャドウメタル)』、絶対能力者(レベル6)につま先付けた御坂さんとの激突によって生まれた対能力最強の金属の名は伊達ではなかった。ちょっと怖かったけどマジでよかった。歪む第四位の顔に突き出した相棒(ゲルニカM-003)の引き金は引かず、そのまま伸ばされた腕を絡め取るように第二位に向けて差し向けた。

 

 宇宙戦艦の照準が第二位に向く。

 

「この野郎! 私を道具みてえにッ‼︎」

「今だ藍花さん第二位に畳み掛けろ!」

「ああもう遠慮は要らんな! 吹き飛びや!」

「テメェもな無能力者(レベル0)!」

 

 くるりと宙を回り振られた第四位の蹴り。能力なしでなんつう動きしやがるこいつ⁉︎ 体の間になんとか相棒(ゲルニカM-003)を滑り込ませるが、相棒(ゲルニカM-003)は凹み砕け、俺の体が後ろに飛んだ。また第四位にゲルニカM-003壊された⁉︎ くそ! でも第二位に隙ができた!

 

 悪魔の膂力が躍動し、一発でビルさえ倒壊させるだろう拳が第二位に向けて射出される。白い翼で受けようが、これで間違いなく第二位は遥か彼方に吹っ飛ぶ。

 

 

 

 だが、そんな未来は来なかった。

 

 ぴたり、と青髮ピアスの動きが時が止まったかのように停止した。

 攻撃を受けたわけでもない。

 第二位も動いているわけではない。

 青髮ピアスの前にドレスの女が出てきただけ。

 それだけで青髮ピアスの動きが止まる。

 

 青髮ピアスは女を殴れない? そんな理由ではないはずだ。本人あまりやりたくないだろうが、事実青髮ピアスはララ=ペスタロッチを殴っている。ならなぜ止めた? それとも止められた?

 

 答えは分からず、止まった青髮ピアスを見てドレスの女は微笑む。

 

「あら、殴らないでくれるなんて優しいのね第六位、護衛の子たちも殺さないように動いていたからあなたはそうすると思った」

「藍花さん‼︎」

「だ、ダメや孫っち。ボ、ボクはこの子のこと殴れへん。なんでかこの子」

「最愛の人のように感じるでしょう? あなたも、そろそろ落ち着いてくれない?」

 

 ドレスの女が俺を見る。それだけで不思議とまるでボスに言われているような、ツインテールの風紀委員に嗜められているような、そんな気になってくる。

 

 なぜだ? ドレスの女とは初対面だ。なのに……。

 

「あら、あなたやたら距離の近い子がいるじゃない。裏でさえ名前を知られる傭兵でも恋をするんだね」

「お前……」

 

 俺の心を弄っている?

 

 俺の精神を?

 

 ララさんの時と同じ、たかがそんな事で何もできなくなってしまうのか?

 

 そんな事で?

 

 俺の……俺の……。

 

「そろそろ鬱陶しいな。そこそこ楽しかったが残念ながら時間切れだぜ」

「孫っち‼︎」

「麦野‼︎」

 

 六枚の羽が広げられ、舞い散った羽が光の雨となって降り注ぐ。青髮ピアスが俺の前で盾となり、絹旗さんが第四位を突き飛ばし、光の雨に弾かれ背後に吹っ飛び轟音を響かせた。

 

「ぐッ! ……痛ッ⁉︎」

 

 青髮ピアスの体がぼろぼろと崩れていく。限界。五分のタイムリミットが迫っている。自己再生能力が追い付いていない。

 

 なのに俺の盾になっている。そんな中でただ心を弄られ俺は守られるだけなのか? 俺の人生(物語)は俺だけのものだ。それを無理矢理上書きされる? それを嫌だと思いながら実際やられれば指を咥えていることしかできないのか?

 

 ララ=ペスタロッチの時にもう懲りた。二度と御免だ。俺には母が居て、母は若狭さんだ。上条は上条、土御門は土御門、青髮ピアスは青髮ピアス、黒子さんは黒子さん。

 

 黒子さんだから黒子さんなのだ。黒子さんはこの世でただの一人だけ。ドレスの女はドレスの女だろう。それを親しく感じるから? 何もできない? 俺の人生(物語)の中で誰でもないくせに。

 

 それは……。

 

 そんなものは……。

 

 俺の人生(物語)にまるで必要ないものだ。

 

「やば、地雷だ」

 

 ドレスの女が何か言っている。どうでもいい。

 

 勝手に俺の中に筆を走らせるその腕を全力で捥ぐ。捥がねば気が済まない。横から伸びた極大の閃光が光の雨を飲み込んだ。ふわりと幽鬼のように地に降り立った第四位。青髮ピアスの肩を軽く叩き、軍楽器(リコーダー)を手に手から血を垂らした第四位と並ぶ。

 

「麦野沈利、一撃だけ付き合え。第二位の壁ぶち抜いてあの女殺る」

「……せいぜい上手くブチ抜け、あのくそったれメルヘン野郎は私が殺る」

「いや、それは」

「あ゛ぁ?」

「……腕一本くらいにしといてね?」

 

 二本でもいいけど殺さないでねマジで。

 

 息を吸い息を吐く。

 

 余裕ぶって立つ第二位。一発。一発だけでいいからぶち込む。あの翼が体に触れればおそらくアウト。だが、俺の手には『軍楽器(リコーダー)』。その材質は誰にもバレていないはず。突くならそこだ。軍楽器(リコーダー)を盾に壁をブチ抜く。

 

「藍花さん俺を投げろッ!」

「でぇ⁉︎ あぁもう分かった! でもこれで最後やよ!」

 

 驚きながらも否定しない友人に感謝し、崩れかけている巨体に身を寄せ青髮ピアスは俺を掴むと軽く投げた。完全に崩れた青髮ピアスの肉片が僅かな目眩しとなり飛散し、その中に紛れて軍楽器(リコーダー)を前面に第二位に肉薄。

 

「飛んで火に入る夏の虫か?」

「夏の虫ね、蚊ってえのは鬱陶しいもんだろう? そうそう潰されんよ」

 

 翼の動き。振られれば速過ぎて目で追うのは難しいが、その根元、翼の根元の捻りを見て攻撃の振られる先を予測し、こちらから先に軍楽器(リコーダー)を置くように受ける。それでも受けた衝撃は馬鹿にならず地面に叩きつけられるがそれが隙だ。頭上を光の河が通過した。

 

「テメェも飽きねえな第四位」

「ウッゼェ、だが、そいつもウゼェからウゼェ同士やれんだろ」

「もちろんだ」

 

 第四位の破壊力は馬鹿にならない。第四位の閃光だけは、第二位も翼で守っていた。動けば避けられるのだろうが、ワゴン車があるからこそ第二位は動かない。だから地に足着いた今が唯一の勝機。

 

 閃光と地面の間の僅かな隙間。その間に体を滑り込ませる。触れた髪がチリチリと消失し、肌がひりつくがそれを気にしている場合ではない! 這いずり回転し軍楽器(リコーダー)を一発第二位の足に向け振り出した。

 

「はい、ご苦労様」

 

 落とされる男の軽い声。俺の動きが何かに押し付けられたように止まり、閃光が横に逸れる。

 

 輪っかの男か! 念動使い(テレキネシス)。ほとんどを第二位に任せられるが故にここぞで能力使いやがった! 緩やかに翼を広げる第二位の微笑が俺を見下ろす。

 

「残念だったな傭兵。テメェの命運もここまでだな」

「この……程度で、止まるか!」

 

 全身の筋力を振り絞る。

 

 第四位と俺を同時? いや、第四位の方に輪っかの男は多く意識を割いてるはずだ。なら片手間に押し込まれてたまるか! 打ち下ろされた第二位の白い翼の一撃が俺の脇腹を裂く。避け切るには足りないがそれでいい。立つ。近付け! 背から伸びる六枚羽、第二位垣根帝督の真正面こそが死角! 

 

「とでも思ってんだろ? 俺の翼の可動領域を常識で計るんじゃねえ、その棒の丈夫さに対する自信、そりゃあ無駄だぜ」

「自信? いいや、信頼だよ」

 

 しなやかに、流れる風のように滑り込む翼に軍楽器(リコーダー)を沿わせる。

 

 受けられるか否か。

 

 受けられなければ終わり。

 

 第二位の力は確かに強い。俺では勝てない。俺だけでは。

 

 手にした軍楽器(リコーダー)。制作に俺はまるで関与していない。多少の注文をしたぐらいだ。俺と木山先生と電波塔(タワー)。そこに友情はないかもしれない。利害関係から始まった二人だ。

 

 だが、木山先生の教師としての想い、電波塔(タワー)の狂気、その二つは知っている。それだけ知っていればいい。そんな二人が作ったのなら。

 

 キャリリと耳障りな音が響き翼が俺の背中を裂く。

 

 木山先生と電波塔(タワー)にただ感謝だ! 僅かに削れた軍楽器(リコーダー)を取り回し、第二位の脇を掬い上げるように一撃。体勢を崩せればいい。ドレスの女をぶっ飛ばしたいが、いつのまにかいねえし!

 

 兎に角目標だ。目標を穿つ。ワゴン車のタイヤぐらいならゲルニカM-002でもやれる! そうすりゃ後は第四位がどうにかすんだろ! 

 

「テメェ……死んだぞ」

「いやまだだ!」

 

 仕事は二番目。一番は命! ゲルニカM-002の銃口をワゴン車から輪っかの男に変える! 輪っかの男のどこかに当たればいいと思い撃ち出した弾丸は、輪っかの男の手前でピタリと止まる。

 

「こっちの能力忘れたんスか?」

「いいや」

 

 弾丸止められるほど力があるとは誤算だったが、ただ輪っかの男の意識は反らせた。ならば。

 

「ぶっ飛べボケ」

 

 先程とは比べ物にならない光が背後から射し、俺は慌てて思い切り横合いに飛ぶ。

 

 第四位の閃光。威力が強ければ、それだけ第二位も守りに力を向けるしかない。ワゴン車があるからこそ。破壊すべき目標が命綱とは笑えないが、どちらにしろ俺も死にたくないし、超能力者(レベル5)が死ぬのはダメだ。

 

 第四位が力をどれだけ吐き出そうが、第二位ならこれまでを見るに死にゃしないだろうからこそ取れる強引な手。事実第二位は翼を守りに向け、閃光に押されて後退する。

 

 体の節々が悲鳴を上げているが、今動かなければ、完全に動きを抑えられたと見える第二位が再起動すれば終わり。呼吸をする。手は動く。足も動く。なら行ける。

 

「行かせないよ、ここまでされて一人くらいリタイアして貰わないと割に合わないからな」

「それは」

「こっちの台詞って訳よ!」

 

 空から人形が落ちてくる。俺や輪っかの男を飛び越えその背後へ。ただワゴン車には届かず、「あれえ?」とふざけた少女の声を背後に聞きながら、爆風に押されて輪っかの男が俺の方へと飛んでくる。キャッチ。アンド。

 

「待っ⁉︎」

「リリースだ!」

 

 そのまま第四位に向けて放り投げる。光の柱が男を飲み込み、溶かし吹き飛んだ男の肉片が光に流され第二位の翼を軽く叩き、忌々しげに第二位が翼を広げた風に俺も第四位も青髮ピアスも残らず纏めて吹き飛ばされた。

 

「ッち、遊びが過ぎたか。いけねえな浮かれ過ぎた。本気出しゃあ別だがこれが壊れちゃ困る。……今は仕方ねえか、出せ」

 

 ワゴン車に飛び乗った第二位の翼が研究所の壁を裂き、走り出したワゴン車が外へと飛び出す。その音を背に聞きながら、青髮ピアスを引き摺って戦線離脱。あんなとこに残っていては第四位に消されそうだ。お互い吹き飛ばされて良かった。

 

 が、俺はぼろぼろ、ゲルニカM-003は壊れるし、青髮ピアスも満身創痍。第二位が強過ぎる。遊ばれてあれとか割りに合わないなんてものじゃない。こっちは本気出して、与えられたのは傷にもならない一撃。どうすりゃいいのか分からん。背後からは第四位が能力を使用している音が聞こえる。荒れてるなぁ、やっぱり離れて正解だ。

 

電波塔(タワー)、ワゴン車を追え、『アイテム』の事は一先ずいい。第二位が一等やばいから居場所を知っておきたい。どうせ『アイテム』も奴らを追うんだろうしな」

「それはいいけど、これからどうするんだい? 諦める? とミサカは質問」

「それは……」

「孫っち、前や」

 

 電波塔(タワー)に答えようとして足を止める。施設の曲がり角を曲がったところで、青髮ピアスに突っつかれ顔を前に向けた先、ベレー帽を頭に乗せた金髪が揺れていた。

 

「あー……結局私の命もここまでって訳?」

「……お嬢さんちょっとお話ししようか」

 

 第六位と俺を交互に見て涙目になっている少女、フレンダ=セイヴェルン。情報源が丁度いい具合に転がっていた。

 

 

 

 

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