「ま、待って待って! わ、私無理矢理引っ張り出されてやらされてただけって訳よ! だからなんにも知らないし! 外国からやって来たらこれが日本のもてなし方だぁって! ほら、私知ってるから、結局日本人は親切で優しいって! こんな幼気な少女をまさか拷問なんてしないよね?」
「そりゃ奇遇だな俺はスイス人だ。だから日本のもてなし方など知らんな。スイス式にもてなしてやろうか? 取り敢えず雪山の上から転がそう。山を下り終える頃には大きな雪だるまの完成だ」
「それ絶対雪だるまの形してない訳よ⁉︎」
「あのー……なんや言いたい事が色々多過ぎなんやけど? 孫っちこの状況でそういう事言わん方がええと思うんやボク」
なにが? フレンダ=セイヴェルンが居るため仮面を外せないせいで青髮ピアスの表情は分からない。そんな怪訝な声を出されても、顔に張り付いているのは呆れ顔でなく傷の入った鉄仮面。鉄仮面の表情など知らん。
研究所から幾分か離れた屋上。鞄から武器を取り出していた少女。その少女の両手を、ベルトと共に腰に巻きつけていた
そんな検証までできて一石二鳥だと言うのに、青髮ピアスはなにを呆れているのか。相手は暗部だ、遠慮はいらない。なにより、
折角手の中にある情報源。使わない方が馬鹿だ。
「分かってると思うが、お嬢さんにはいくつか聞きたいことがある。教えてくれるならよし、教えてくれないなら……、藍花悦さんが君の指先から少しずつ肉と骨を潰していく」
「ひッ⁉︎」
少女の目の前に手を伸ばし、人差し指と親指を強く擦り合わせる。第六位なら可能であると戦いを見ていたからこそ少女も分かっているはず。肉と骨の擦り潰れる音を自分の体で聞くことになると。だが、それに野太い声で待ったがかけられた。
「ボクゥがやるんか⁉︎ ボクそんなん嫌や‼︎ 孫っちコワッ‼︎ 傭兵えげつ過ぎやないッ⁉︎」
「おいおい……」
思ってても今それを言うんじゃない! 脅すにしたって意味がなくなるだろうが! 青髮ピアスはこういうことに全く向いていないらしい。なら仕方ない。それはそれで煽り役として役立って貰おう。青髮ピアスのオーバーなリアクションからして、演技でないからこそ効果がある。
腰からゲルニカM-004を取り出し、そのナイフの刃を指で撫ぜた。
「藍花悦さんは能力低い奴の相手はしたくないとさ。仕方がないな、残念ながらお嬢さんの相手は俺だ。骨を残し肉を削ぐ。そんなナイフ使いの達人が時の鐘には居てね。俺も少しだけ習ったんだ。取り敢えず、肉を残して皮を剥ごう。右手? 左手? どっちがいい? マニキュア要らずになるな羨ましい」
「イヤぁぁぁぁ⁉︎ チェンジ‼︎ チェンジぃぃ‼︎ そっちの青い人の方が絶対いいっ訳よッ!!!!」
「ボクの方がええって!」
俺の肩にポンと手を置く青髮ピアス。なにを嬉しそうな声出してんの? しかも今俺に触れるな。体バキバキで辛いんだから。ってか青髮ピアスも休んでてくれ。お前は体力の回復と精神の安定が第一だろうに。
あっち行ってて下さいねと青髮ピアスの体を押せばフラつく。俺に押されて抵抗できないほど気怠げなのに無理するな。
「藍花悦さんに任せるようなことでもないんで、もうそっちで大人しくしててください」
「いやいや孫っち、女の子の相手なら任せとき! いつもカミやんや孫っちばかりズルいわ! たまにはボクにもこんなドキドキイベントがあってもええやろ‼︎」
こいつはなにを言っているんだ? ドキドキイベントって、今開催しようとしてるのは死ぬの? 死なないの? 命の灯火が消えないかドキドキ大会だ。甘酸っぱいイベントを望むなら、ビルから飛び降りて学生たちの中に混ざればいい。
「わ、私を助けてくれたら、あーんなことやこーんなこともしてあげちゃったりするんだけどなー! って……」
こいつはマジでなにを言ってるんだ? そんななんの得にもならなそうな報酬をぶら下げて、助けます! なんて言うような阿呆がいるわけない。いるわけないのになんで青髮ピアスは少女の手に手を伸ばしているのかな? いるわけないのになにしようとしてんの? 青髮ピアスがふらふらなのをいいことに蹴り転ばして遠くに追いやる。これで阿呆は居なくなったな。
「そんな無意味な提案に乗るわけないだろう。馬鹿か。お前に求めているのは情報だけだ。その価値もないならサヨナラだ」
「うぅ、これもダメなんて……結局そっちの趣味って訳ね」
「ま、孫っち……、ボクやつっちーやカミやんのことまさかいつもそんな目で見てたん?」
うるっせえなぁッ‼︎ 漫才してる時間なんてねえんだよ‼︎ 少女の横にナイフを思い切り突き立てる。あははおほほ笑っていられるなら俺だってその方がいいが、そんなことをしていても少女が口を割るとも思えない。これは仕事。仕事なら全力を出さねば、できることもできないくらいに俺は凡人なのだ。
体を跳ねさせた少女の顔を覗き込む。おちゃらけた話はもう終わり。話を戻す。
「お嬢さんがその気なら服を破り捨ててぐちゃぐちゃにした後動画をアップして社会的にさようならでも俺は構わないんだよ、棒が欲しいなら丁度いいのがあるんだしな。そうでないならそんな口は開くな。体は大事にしろ」
「孫っちそれ多分脅しになってないよ?」
「……なんで?」
「……結局なんで最後体を気遣ってくれた訳?」
う、うるっせえなぁッ‼︎ そういうことは好き合ってる奴同士でやればいいわけで、手当たり次第手を出すようなものじゃないんだよ‼︎ そういうことするから俺みたいなのが生まれるんだからな! だから体は大事にしろ! 女なら尚更だ! くっそー、フレンダ=セイヴェルンと青髮ピアスが揃ってると話がまるで進まん! もういい話を進める!
「……『スクール』と『アイテム』が追ってるらしいワゴン車で運び出した物はなんだ? それと『アイテム』の第四位以外の能力を教えろ。お前たちはなにをする気だ?」
「あ、孫っち諦めたな」
「なんか急に親近感湧いて来たんだけど」
青髮ピアスお前名前貸しとかしてんのならもう少し情報戦に力を貸してくれませんかね? すっかりフレンダ=セイヴェルンが落ち着いちゃってんじゃねえか! 青髮ピアスの奴わざと茶化してるな!
もうこれなに言っても冗談としか思われない奴だ。これを破るにはマジで拷問を始めるしかないが、手も足も出せない相手を
こちらの仕事の内容がバレたところで、ぶっちゃけ俺や青髮ピアスが困ることは少ない。せいぜい殺されないならいいじゃんと第二位や第四位が嬉々としてこちらを殺しにくるぐらいのものだ。ってか、絹旗さんには言っちゃったから第四位とかもう知ってる可能性高いし。
「俺たちの仕事は
「れ、
「それは言うな!」
ほらやっぱり言われた! 誰かに話すだけ今の仕事の無謀さを誰もが教えてくれる。絹旗さんと同じ、呆れられるだけで感心されることがない。うわぁっと顔を歪めるフレンダの隣に座り煙草を咥え火を点ける。フレンダ=セイヴェルンは青髮ピアスと似たようなタイプだ。脅さなくても口を割ると見た。
「ちょッ⁉︎ 髪に煙草の匂いが付いちゃうって⁉︎」
「ならさっさと話を終わらせるとしよう。で? お嬢さんたちが追ってる物はなんだ?」
「そ、それは……」
「あ、そう。ならはい、こちょこちょこちょこちょ」
「あははは! ちょ待っ、あははははは! わ、私そこ弱、あはっ! あはははははははっ!」
ただ笑うのとは違い、笑い続けるというのはある意味拷問に近い。笑ってる間は息ができなくなるからだ。だからフレンダの脇腹を
「あはははっ! ゴホッ! ゴホッ! わ! 分かったから! 話すから待って!」
「そうか、じゃあ話せ」
「……なんのことだっけ? …………あはははっ! 分かった! 私が悪かったって! 話すからー!」
「孫っち……ボクなんかすごくいけないものを見てる気分や」
あっそう、よかったね。どうでもいいわ。咳き込み目尻に雫を浮かべたまま、少しフレンダはそっぽを向くが、俺が軽く手を伸ばすと、びくんと跳ね逃げられないのに後退りしながら渋々口を開く。無駄に時間を浪費した。
「べ、別に私たちの目的はワゴン車に乗ってた物じゃなくて『スクール』って訳よ。何かをしようとしてる『スクール』をぶっ殺して止めるのが仕事ってわけ。まあ結局第二位は逃しちゃったけど」
「つまり『スクール』を潰すのが目的で物は二の次か。不味ったな、いや、運が良かったと思っておくか」
俺がワゴン車狙いまくったのほとんど意味がなかったわけだ。例えあの場でワゴン車をブチ抜いていたとして、『スクール』の思惑は潰せても『アイテム』は止まらなかったわけか。結果として、ワゴン車を守る『スクール』と、『スクール』を狙う『アイテム』だったおかげで、『アイテム』とは軽い共同戦線を張れたと。
と、いうことは、『スクール』の手中にあるなにかしらを破壊又は奪取したところで『アイテム』は止まらない。能力より何より欲しい情報が知れたな。だが、それが厄介でもある。『アイテム』の目的が『スクール』なら、第四位と第二位の潰し合いということだ。お互いぶつかるつもりであるなら止めるのは容易ではない。仕事がより大変になった。
「藍花さん、方針だ。今後の方針を固めよう。てっきり俺は第二位が手に入れた物を破壊すればこの事態は終息すると思っていた。だが、そうでないとなると話が変わる」
「みたいやなぁ、にしても止めるのに殺す必要あるんか? 止めるのが目的なら別に殺さんでもええやろ。それこそ孫っちの言う通り、『スクール』の持ってるなにかを壊せばええんやから」
「いやぁ、まあ結局そこは趣味って訳よ」
「嫌な趣味やなー」
「いや、だが逆に納得だ。そういうのはたまにいる」
戦場でも、戦闘の早期終局を望まずに、ただ誰かを殺したいから、銃を撃ちたいからとかいう訳分からん理由で戦場にいる奴がいる。傭兵としては最底辺だ。そういうのはだいたいすぐ死ぬが、たまに強い癖にそういう奴がいたりする。一番戦場では出会いたくないタイプ。異様にしぶとい。
そういう奴らに共通していたりするのは、自分の力を誇示したいとか、スリルが欲しいとかいうもので、今でこそ違うのだろうが、
煙草を屋上の床に擦り付けて火を消し、フレンダを見下ろす。一つ聞いておかねばならないことができた。
「フレンダ=セイヴェルン、君は何故戦う? なんのために暗部にいる? 何故こんなことに命を懸ける?」
「……じ、実は友達が人質に取られて」
「嘘はいい。嬉々として爆弾投げてきたくせに通じるかよ」
『アイテム』の他の面々と楽しそうにしながら爆弾ぽいぽいしてたくせに何でそんな出まかせが言えるのか逆に大物だぞこいつ。目元を潤わせて儚げな顔を浮かべていたが、すぐにフレンダは舌を打ち唇を尖らせてつまらなそうな顔になる。「女の子怖い」と口遊んでる青髮ピアスに今回は同意だ。
「……はぁ、なにそれ? ひょっとして私になにかやらなきゃいけない理由があると思ってるわけ? 誰かのためーとか? そんな訳ないでしょ、結局私が楽しむためって訳よ」
「そんな事のためにあの場にいるか?
「……なんだっていいでしょうが、そう言うアンタは? 表で最高峰らしい傭兵がなんで暗部にいるのよ」
「俺か?」
言わないなら言わないで別にいい。言い淀んだということは、なにかしらはフレンダの中にあるという事。人を撃ちたいから戦う、誰かを殺したいから戦うなどというのは言ってしまえば異常だ。そんなことに普通は命を懸けない。それは人道から外れた外道のもの。自分以外を人だとも思ってないからそんなことがまかり通る。それは人ではなく獣。獣は狩人に狩られるだけだ。
「俺は自分の人生で最高の一瞬が欲しいんだよ、それは別に戦いでなくても構わない。が、俺は傭兵だ。それを辞めようとも思わない。それが俺を作ってくれた場所だからだ。そんな俺を俺でいさせてくれる者が、戦場に行かなくていいように、その者の
世界は狭いのだ。自分にとっての世界など、結局自分に関わってくれた者だけがその狭い世界の住人だ。救世主のように全世界の人々の幸せなど叶えるような力は俺にはない。だからせめて俺に関わってくれた者ぐらいには、目が届くところにいてくれるなら、守れるだけの俺でいたい。
「アンタ……」
「孫っち……」
なんかすっごいドン引かれた。青髮ピアスにまで引かれるとか嘘だろ。お前もそんな変わらないじゃん。誰かがたかが名前で一歩を踏み出すことができるならとかいう理由で名前貸しなんかしてる癖に引かれたくない。
わざわざ言うことでもなかったが、だが言わねばならない。それがこの戦いを止める答えだ。別に俺の戦う理由で第二位と第四位が戦いを止めるわけではない。俺の言いたいことはそう言うことではない。
「誰の人生にだって目的がある。違う目的がな。俺には俺の、お嬢さんにはお嬢さんの、藍花さんには藍花さんの目的がだ。だから第二位にも第四位にも必ずそれがある」
第二位が何故素粒子工学研究所からなにかしらを奪ったのか、第四位が何故戦うのか、その道の終わりには、どちらにも自分だけの目的があるはずだ。どうしても戦いが起きてしまうのであれば、それを止めるためには、仕事よりも大きな割合を占めるであろう人生の目的を多少なりとも満たしてやるしかない。
学園都市に攻めて来たシェリー=クロムウェルとロイ姐さん。魔術師を撤退させるはずだった仕事の中で、ロイ姐さんとの殴り合いを優先してしまった時の俺のように。風紀委員でありながら、ただ一人サラシ女に戦いを挑んだ黒子さんのように。学園都市の研究者でありながら、教師として学園都市を敵に回してでも教え子を救おうとした木山先生のように。
だからここに限っては、第二位と第四位の行動に何故を繰り返す。
「ただ相手の力の表面だけ見て勝てる勝てないの話ではない。もっと根本的に戦いを止めるのであれば、第二位と第四位の人間としての部分に深く突っ込むしかない。ってかそれ以外に多分止めようがない」
「いぃ⁉︎ 絶対麦野自分のそんなこと話さないって!」
「ボクも第二位がそんなこと話すとは思えんけどなぁ。だってそういうのって普通自分の奥底に閉まっておくもんやろ? そんなの
「だろうな、やり合いながらは無理だ。だから先に予想する。藍花さん、自分の奥底にそういうのは閉まっておくものだって言ったよな? 確かにそうだ。だが、能力者に限って言えば触りだけでも分かるだろう?」
俺の最初の学園都市での協力者である木山先生の専攻はAIM拡散力場。小難しいことからそうでもないことまで、夜に顔を合わせれば時に真面目に、たわいない会話としても二ヶ月近く話を聞いてきた。
非常識な現象を現実として思い込み、自分ならできると不可能を自分の中に落とし込む。その意志の力が超能力を生む。だから強力な能力者であればあるだけ、能力にはその者の意志、考え方やこれまでの経験、性格を含めて詰まっているはずだ。事実、『
「能力を見ればその者の人生が垣間見える。例えば俺の知り合いの
「ボクその子とすっごい仲良くなれそうや」
「なんかどっかで聞いたことあるんだけど……」
例えが悪かったのかもしれないが、
「『
肉体を穿つ事が出来ぬなら心を穿つ。どれだけ体が元気百パーセントでも、心さえへし折る事が出来れば、結果戦いは止められる。
「でも孫っち、要はそれ特大の地雷を自分から踏みに行くってことやろ? 怒れる
「結局
「だが他に方法がない」
力で対抗し押さえつける事ができたとして、学園都市の中で誰より力に対して自信があるだろう
殺してはならないという制約がある以上、力以外でどうにかするしかないのだ。
「他の方法があるとするなら、フレンダ=セイヴェルン、君を人質として使えば第四位が止まるとかに賭けるしかないが」
「絶対無理ね。結局麦野も自分が最強だって思ってる訳よ。自分が人質如きで止まる事を許容できるタイプじゃないし、私ごと穴開けられておしまいね」
「ならやはり方法は一つだ。フレンダさん、麦野沈利の秘密とかないのか? 教えてくれ」
「いや、そんなの教えたら殺されるの確定だから! 絶対言うわけないでしょ!」
「いや、君は言う」
そう言えば、呆けた顔をフレンダさんは俺に向けてきた。馬鹿を見る目だが、これにはある種の確信がある。
「さっきからやたらと会話に参加してくるな? 言っとくが俺たちは敵だぞ。それでも話に参加してくるということは、フレンダさんも今回の戦いはさっさと終わらせたいんだろう? それも被害少なくな。その理由は聞かなくても分かるさ」
「まあさっきの戦闘の中にいればしゃあないわ」
この事態の中で、力という点で言えば一番上にいるのは第二位、垣根帝督。それも一人だけ言ってしまえば壁を挟んだかのように上にいる。青髮ピアスでも、麦野沈利でも、一対一でやり合えば勝てないだろう。だが第四位は見るからに戦闘狂。勝てないからと言って止まるとも思えない。
「麦野沈利に死んで欲しくないんだろ?」
「…………誰だって友達に死んで欲しくはないでしょ。暗部なんかに居ても、友達は友達だし」
「なら協力してくれ。今回だけでいい。俺も藍花さんも第四位を殺すために動くわけではない。第四位の命を守るために君の情報が必要だ。他の『アイテム』の情報はいらないから、それだけでいいから教えてくれ。そうしたら、必ず俺がこの不毛な物語に
信じてくれとか、そんな言葉を言ったところで意味はない。やるからにはやる。それだけを口にする。狙撃銃のスコープを覗くようにフレンダさんの顔を見つめる。俺には超能力などないが、それでも俺には俺を形作るものがある。目標を狙い穿つ、せいぜい派手な音を奏でて。俺にできることはそれだけだ。
「……第二位や第四位がいるってのに、アンタって
「なに言ってるんだ。俺の知っている限り寧ろ
「あっはっは! そうかもしれへんね!」
上条とか上条とか上条とか。そうでなくても、広い世界でイかれた無能力者など数え切れぬほどいる。例えば時の鐘に二十七人。魔術師だって超能力は使わないんだから
フレンダさんはしばらく口をムニムニと具合悪そうに動かしていたが、少しして大きく息を吐き出すと真面目な顔付きになって俺を見る。腕を縛られながら真面目な顔になったフレンダさんは、ギリシア神話のアンドロメダーのようだった。
「なら取引よ、麦野のちょっとした秘密を教える代わりに、他の『アイテム』のメンバーも守って。それが条件って訳。第二位に突っ込むような頭おかしいアンタならできるでしょ?」
「それは麦野沈利以外に絹旗最愛と滝壺理后を守れということでいいのか?」
「ちょっと⁉︎ 私が入ってないんだけど⁉︎」
あー、フレンダさんもなのね。めんどくさ。
「分かった飲もう。その四人でいいんだな?」
「あー……は、別にいいか。その四人でいいわ」
「なら早急に動くとしよう。ワゴン車は
「ならこの手のを外して欲しいんだけど?」
「なら先に情報を寄越せ」
「うー……実は麦野はめっちゃシャケ弁が好きって訳よ」
だから? なにそのめっちゃいらない情報。シャケ弁と『
「他のだ他の。シャケ弁奢れば第四位が止まるってんなら別だがな」
「えー他に麦野の秘密なんてないって」
「そうか……行くぞ藍花さん、『アイテム』を追うぞ。お前の鼻なら追えるだろう」
「わぁ⁉︎ ちょ! ちょっとしたお茶目だって⁉︎ このまま置いてくとかあんまりじゃない⁉︎」
「いや、だってまだ協力者でもないし」
「シビアッ⁉︎」
なに言ってるんだこの子は。敵同士で取引不成立なら当たり前だろうに。その強かさは褒めるべきところではあるが、使いどころを間違えたらただ死ぬだけだ。これと協力関係とかどっちかと言うとしたくないが、なんかすぐ手のひら返しそうだし、だが今手元にある『アイテム』への鍵がこの子だけなのだから仕方ない。どうせ手を組むなら、一番『アイテム』で話の分かりそうな絹旗さんあたりと手を結びたかった。
「くぅぅ、分かった! 実は麦野はボロボロのぬいぐるみを抱いてないと寝れない可愛い秘密がある訳よ!」
それは……。フレンダさんから目を外し青髮ピアスと目配せする。シャケ弁とかどうでもいいわ。超有益な情報を持ってやがった。
「……ブランケット症候群か?」
「第四位ちゃんは寂しがりやさんなんかな?」
「結局麦野も乙女って訳よ」
乙女かどうかはどうだっていいが、日常生活に根付いた癖であるなら、第四位の精神を反映したものであるはず。やたらめったら穴を空けるくせにボロいぬいぐるみがないと眠れないか。麦野沈利の人としての輪郭が漠然とだが見えてきたな。
「よし、取引成立だ。手のを外そう。そしたら第四位のとこまで案内してくれ。こういうのは早い方がいい。フレンダさんがいれば第四位も多少は話を聞いてくれるかもしれないしな」
「結局注文多いわね……、あー手に跡が。後でこの責任は取ってもらわないと」
「なんの責任だよ」
「そりゃ私の玉のような肌に紐の跡付けた責任でしょ! ニヒヒ、アンタらがお人好しだって結局もうバレちゃってるし、こりゃもうサバ缶を大量に奢ってもらったり!」
なんでサバ缶? 少し前に確か佐天さんも言ってたな。なに、今女学生の間でサバ缶流行ってんの? どんな流行だよ。しかもお人好しとか別にそんなんじゃないし。「痛ぁ」と言いながらポケットから携帯を取り出しているフレンダさんを尻目に青髮ピアスに近寄り肘で小突く。
「青ピ、お前わざと最初おちゃらけただろ、情報だけ貰えればよかったのに仕事が増えたぞ」
「女の子が泣くとことかできれば見たくないからなぁ、敵でもできることならやりたくないことはやりたくないわ」
「お前もブレないな、男だったらどうする気だったんだ?」
「男はどうでもええ」
こいつ言い切りやがった。フレンダさんが女の子でよかったね。俺にとってはよくないが、男だったら青髮ピアスと二人でボコボコにして情報を聞き出せていたっぽい。そっちの方がよかったな。
だが今は今だ。実際捕まえられたのはフレンダさんだったのだから仕方ない。大きくため息を吐いているとインカムが震える。
「どうした?」
「『スクール』が手に入れたものが分かったよ。正式名称は『超微粒物体干渉吸着式マニピュレーター』、通称『ピンセット』。なんでそんなものが欲しいのかは分からないが、これは素粒子を掴むための装置であるらしい」
なに素粒子を掴むって。素粒子って掴めるものなの? 難しい話をされても訳分からないので止めて欲しい。俺の頭は勉強用にできてないのだ。兎に角目に見えないような細かなものを掴むための装置を垣根帝督は手に入れたってことでいいか。つまり細かななにかを第二位は掴みたいと。
「それとこっちは緊急だ。第四学区の冷凍倉庫の一つにワゴン車が入ったと思ったら少ししてその冷凍倉庫が吹っ飛んだ。垣根帝督は空へと消え現在位置不明。とミサカは焦燥」
「はいはい、お話終わった? 場所なら分かったけど……」
「おうそりゃ助かった。手間が省けたな」
聞き覚えのある声がした。俺でも青髮ピアスでもない男の声。急に舞い降りたなにかがフレンダさんの手から携帯を奪い、手の中で軽くお手玉している。屋上に落とされた人影の背から伸びる六つの影。右手の人差し指と中指の影がやたらと長くなっている。
フレンダさんの息を飲む音が消えないうちに、フレンダさんに飛び掛かりそのままビルの屋上から空へと飛び出した。
「ちょっとぉぉぉぉッ⁉︎」
「喋るな舌を噛むぞッ‼︎」
命綱もなくビルから何度俺は飛び出さないとならないのか! フレンダさんの絶叫を耳元で聞きながら、横目に青髮ピアスも落ちていることを確認し、ビルの屋上へと顔を向ける。現在位置不明? 不明じゃなくなってよかったよクソがッ‼︎ 余裕ぶって屋上の柵に立っている第二位の影が首を傾げた。
「挨拶もなしかよつれねえな。不安要素は先に排除だ。時の鐘、第六位、『アイテム』、オマエら邪魔だぜ」
「藍花さん! 俺たち抱えて壁を蹴って落下衝突時の勢い殺せ!」
「体力戻りきってへんから一回が限度やよ!」
「それでいい! フレンダさん煙幕! 武器お取り寄せできんだろ!」
「あーもう! 分かったって!」
叫びながらフレンダさんが俺の学生服のポケットへと手を突っ込む。引き抜いた手に握られた黒い丸っこい物体がいくつか。それを屋上に向けフレンダさんが投げた途端爆発し、黒玉は大量の煙を吐き出した。やはり空間から物を引き出す能力っぽいな。俺あんな煙玉とか持ってないし。
煙の中、壁を蹴った青髮ピアスに抱えられ人混みの中へ。店頭にぶら下げられている服を適当に奪いフレンダさんと自分に羽織り、一枚は青髮ピアスに投げる。青髮ピアスさまさまだ。多少でも撒けるのは第六位の脚力あってこそ。
全くこれは賭けだ。第二位が一般人とか関係なしに無差別に攻撃するような奴なのか、俺たちだけを追うのか、それとも目的を優先するか。無差別に攻撃するようなら仕方ない。ここで第二位の相手をするしかない。
だが、幸いにも攻撃は来なかった。
「アレはアレでポリシーがあるか……」
「それより私の携帯取られちゃったんだけど⁉︎」
「先に場所の分かってる『アイテム』の方に向かったんやない?」
「ならこのまま俺たちも『アイテム』のアジトに向かう。フレンダさん案内を頼むぞ。休む暇もないな全く、使えそうな車を探す」
「……孫っち、歩いて行かん? な! 歩いて行こうや‼︎ なぁッて‼︎」
「……何でそんな必死な訳よ」
うるさい車だ! 車を探せ! 徒歩で行く時間なんてあるか! 車で行くぞ車ァッ!