設定した空間の中にあるものを、別の空間、例えば鞄やポケットから引っ張り出すことのできる能力。言ってしまえばドラえもんの四次元ポケット、とりよせバッグ。ただし引っ張り出せるものはその者の筋力に依存し、鞄やポケットより大きなものは当然だが取り寄せることはできない。戦車や戦闘機を引っ張りだしたくても不可能ということ。人間などの生物も無理。
「それが私の能力って訳よ! どうせもうバレちゃってるっぽいし、助けてくれたからサービスね!」
さっさと奪った路駐してあった車の中、フレンダさんが得意げな顔で胸を張った。共闘関係だし自分の能力ならと教えてくれたが、予想通りだったとはいえ、本当に目から鱗だ。
「はっ! 『
「『
ぴったりかどうかは分からないが、人形やロケット花火取り出してたし即してはいるだろう。フレンダさんはその身一つで物騒なオモチャ箱持って歩いていると言うわけだ。いいなその能力なら俺もマジで欲しい。
しかし空間移動系能力者は本当に俺と相性よくて笑えてくる。学園都市でも五八人しか存在しない空間移動系能力者。敵となった時は逆に天敵であるが、味方の時はこれほど心強い存在もいない。
黒子さんとのタッグなら、一瞬で距離を取れ、格闘戦においても互いをシャッフルして戦える近接型移動砲台として。サラシ女ともし組めば、サラシ女を基点に移動砲台になれて狙撃がクソ楽に。フレンダさんと組めば、弾切れの心配がなくなるときた。
チーム組むなら空間移動系能力者と組めれば、俺は自分の能力の百パーセント以上を出せるということだ。青髮ピアスや上条のような盾役と組むのも悪くないが、空間移動系能力者と組んだ方が取れる手が増える。いや、誰が組んでもそうだろうが、個人的には
こうなると今回だけというのが勿体無いな。今回こそ突発的に組んだお陰で俺にとっての武器庫としての役割は期待できないが、事前に準備した場合はこれほど頼りになる相手も少ない。銃を使う者にとって、弾切れこそが最大の敵だ。
木山先生といい、飾利さんといいフレンダさんといい、学園都市には俺が欲しくなってしまうような人材が多過ぎる。人が一人でできることなど限界がある。自分一人でできないことがあるからこそ、人は人と協力しこれほど数を増やしてきた。
フレンダさん手放すのもったいねえ! 絹旗さんより断然フレンダさんと組んだ方がいいじゃないか! 軽い性格がちょっと傷だが、能力だけならマジで頼りになる。フレンダさんは暗部だから荒く扱ってもいいだろうし。
「おいフレンダさんバイトする気ないかバイト。バイト代は期待していいぞ。ってかその能力なら銃とか取り出した方がいいだろ」
「銃はねぇ、派手さがちょっと足りないって言うか、それにアンタと組むと命幾つあっても足りなそうだから今回限りで十分ね」
武器も趣味かよ。現実的じゃないがまあいい。魔術や超能力があろうとそれより技術に重きを置く俺も技術畑の人間だからな。個人の趣味に悪態は吐いても否定はしない。否定するぐらいならあの世へさようならだ。
「……それよりアレどうしたの?」
そう言ってふいっと小さくフレンダさんが後ろを見た先、車の後部座席で青髮ピアスが項垂れている。「こわい」とか呟いてるが知ったことではない。折角座りながら移動できるのだから、少しでもゆっくり休んでいて貰おう。
「さあ? 車に乗ってて事故にでもあったことがあるんじゃないか? それより
フレンダさんには外の景色を楽しんでいて貰い、俺はインカムを小突く。そうすればすぐに偉ぶった御坂さんに似た声が返された。
「いや、まだないけど、それより法水君はいいのかいそのままで。法水君の強さは武器を持ってこそのものだろう?
余計なお世話と言いたいが、図星であるため口を噤む。ゲルニカM-002、ゲルニカM-004、ゲルニカM-006はあっても、
「そんな君に朗報だ。あと少ししたら
「おいそれインドラシリーズじゃないだろうな」
ギターのような三角形をした狙撃銃を思い出し、状況が状況だけにあればあれで心強くはあると首を傾げたが、「いやいや」と即座に
「お前がもったいぶるとろくなことがない。何運んでるんだよ」
「気になる? 気になる? これは君のボスの頼みでもあるんだが」
「は? ボスの? なんでお前に?」
「ふっふっふ、それは────それより電話が来たよ、土御門君みたいだね、出るといい。とミサカは提言」
タイミング悪いな‼︎
「孫っち、そっちはどうだ?」
「どうもなにも、向かった場所に『スクール』が居て第二位がいるわ、『アイテム』たち第四位は突っ込んで来るわで今素敵な鬼ごっこ中だよふざけやがって。
「第二位だと⁉︎ おいおいとんでもないにゃー」
にゃーじゃないわ。なにそれは、驚くってことは知らなかったの? じゃあ二人目の
「こっちも『ブロック』だの『メンバー』だのの相手で大変だったんだよ。『窓のないビル』を狙っていたらしい。つまり狙いはアレイスター。外部から五〇〇〇人の傭兵を侵入させようとするわ、『案内人』は狙われるわでな。まあ傭兵なんて言ったって孫っちと比べるのもアレだけどにゃー」
そりゃ傭兵なんて要は金で戦力になる人員のことだ。ピンからキリまでという言葉が最も似合う。言ってしまえばそこらの一般人に金払って銃を握らせれば傭兵の完成だ。五〇〇〇人も搔き集めるとなると、それこそそんな者も居たかもしれない。ただ相手は悪かったと言ったところか。青髮ピアスと違い土御門が暗部に手心を加えるとも思えない。
「学園都市統括理事長は大人気だな。土御門さんだけで対処したのか?」
「いいや、ほら前に言っただろ? もう一つの暗部の組織を作るって。それで対処した。オレと海原光貴、結標淡希──」
「ちょ、ちょっと⁉︎」
車体が揺れフレンダさんが叫ぶ。後部座席からも「ひぇぇ」という野太い声が聞こえてきた。土御門の奴なんて奴と組んでやがる。サラシ女と組んでるの? あのぽこぽこやたらめったら
「それと
「お前二人目って
「ちょ、ちょっとぉぉぉぉッ⁉︎」
「孫っち前! 前見て運転してくれへん⁉︎」
クラクションが鳴らされ、真正面からぶつかりそうになった車を慌てて避けて左車線に戻る。土御門の野郎、
「いや待て、今連絡して来たって事は……まさかこっちに来るのか?」
「いや、オレたちの案件は終わった。だから取り敢えず孫っちたちの様子が知りたかったんだが……第二位と第四位か。参ったな」
本当だよ、参ったなどころじゃねえよ、これからその二人に突っ込まなきゃならないんですけど。あぁ全く楽しくて仕方ないよほんと。
「アンタなに笑ってんの、キモいんだけど」
「孫っちはピンチになると笑うんや」
「えぇぇ、なによそれ。やっぱり結局頭おかしいって訳ね」
外野がうるさい。230万人の中で七人しかいない
必死。それを追い求める事だけは止める事が出来ない。
何故?
子供が親に注目されたいような衝動なのか?
それともただ俺もスリルが欲しいのか?
自分の
どれも合っているのかもしれないし、間違っている気もする。俺の狭い世界の中心に居座る核はなんだ? 自分の事さえ分からないのに他人の事が分かるのか?
何故欲しい? 人生と感情の頂点が。
時折考えてしまっても答えは出ない。黒子さんにも青髮ピアスにも初対面のフレンダさんにも呆れられるような事なのに何故止められない?
きっと、きっと俺は俺で居たいから。これが俺なんだと証明したい。世界の中で俺個人を確立したい。誰が見ても、名前がなくてもそれがお前であると誰と向かい合っても分かって欲しいから。自分で自分を自分だと自信を持って言うために。
そして、そしてきっと。
きっとそれは────。
「孫っち、孫っち聞いてるか? ん? あぁ法水孫市だよ、おいちょっと待て、これはオレの携帯ぃぃぃぃッ⁉︎」
「土御門さん?」
なんか携帯の奥が喧しい。土御門も誰かと一緒なのか、罵声が聞こえる。すごいバキバキ何かが壊れる破壊音が聞こえる。なにやってんの?
音は止み、土御門の声が聞こえなくなって数瞬。落ちたらしい携帯を拾う音が聞こえた後、電話からは土御門の声ではない少し嗄れた男の声が聞こえてきた。
「オイ法水、 オマエ何してやがる。また変な仕事してやがンのか? ご苦労なこったなスイス傭兵」
「
「ンなのはいい。土御門と知り合いなのかとか色々聞きてェ事はあるが、あっちはどうした?」
「あー……」
あっちって多分
「……
「オマエ……」
「待て! だいたい送られて来たメール『病院、
「
学園都市最高の頭脳にさえ呆れられるお仕事ですかそうですか。守る対象にさえ呆れられる仕事だぞ。ってか
「なあ孫っち、今
「アンタ第六位以外に第一位とも知り合いな訳? そう言えば『シグナル』って『
「な、ボクゥもびっくりや」
「アンタが言わないでよ」
科学側と魔術側に潜む多重スパイ。学園都市に何人もいる『藍花悦』の大元第六位。学園都市と魔術側の問題に誰より突っ込んでる禁書目録の護り手『
そりゃ顔の広さなら馬鹿にならない。知り合いは知り合いでやばい面々が多いため、顔が広いのに人材をほとんど活用できないという超勿体無い組織でもある。学園都市に魔術師はほとんど引っ張ってこれないし、仕事は暗部のお仕事だし、ってか今思ったけど人材引っ張って来てんの俺だけじゃね? これ訴えれば給料上がらないかな。
「なあ
「知るかオマエで言えやァ! ……ってかオマエ第二位と第四位が相手らしいが大丈夫なのか?」
「なんだ心配してくれるのか? なに、やれるだけやるさ。学園都市を守るためには
「…………かもな」
一方通行は学園都市最強の能力者。どんな問題でも一人でほとんど解決する事ができるだろう。それでも必ず限界はある。最強一人居て全ての問題が解決するのなら、そもそも世界にはそんなに問題で溢れているはずもない。キリストが地上に生まれ出た時でさえ争いはなくならなかったのだ。なにかを守る為には多量の力が必要だ。それが大きければ大きいほど一人では絶対に無理だ。
後部座席に座る青髮ピアスをバックミラーで見る。
「少なくとも、今は……まぁ親友と言えなくもない奴が側に一人居てくれる。なんとかなるさ」
「……どうせオマエはほっといても好きにやンだろ、せいぜい勝手にやってろ」
「へいへい、仕事が終わったら
「……チッ」
舌打ちと共に電話を切られた。酷くね?
結局土御門からの電話の内容はなんだったのか。ただ俺たちの現状を聞きたかっただけ? それ以外に何かあったとしたら全然なにも聞けなかったんだけど。ため息を吐き煙草を咥える。どうあがいても人でいる限り人との繋がりを断ち切る事は出来ない。その繋がりを鬱陶しく思うか、大事にするか、どうせ切り離せぬものであるのなら、大事にした方がまだマシだ。
「なあ孫っち、あれ……」
青髮ピアスに肩を突っつかれ前を向く。それを見て咥えた煙草を握り潰し窓の外へと放り捨てる。まだ遠いビルから伸びる眩い閃光。音もなく空を走る光の筋は夢を見ているみたいだが、幾度となく見たその光の色は現実のもの。
第四位が暴れている。分かりやすい。なぜ暴れているのか。癇癪、でなければ……。
「ぶっ飛ばすぞ。第二位がおそらく既に『アイテム』を襲撃している。第四位ならしばらく保つだろうが、楽観もできない」
「孫っち! 安全運転! 安全運転やよ‼︎」
「ちょっと大丈夫なのよね⁉︎ 運転得意なのよね⁉︎」
「大丈夫だ! スイスでは事故った事がない! 安心しろ!」
「日本では別やろ!」とか余計なことを言わなくていいんだよ! だいたい急がないと、着いた時第四位か第二位の骸がお出迎えとかだと非常に困る。至る所で事件が頻発しているせいか、道がすいてる事だけが唯一の救いだ。スピード違反とか
近づくごとに僅かに能力が物をぶっ壊す音が聞こえ、その音が徐々に増していく。ビルから飛び出た何かが空に煙の線を引き、隣のビルが吹っ飛んだ。車に取り付いているデジタル時計だけが時を刻み、心を焦らせてくる。車が小石で跳ねようが、青髮ピアスとフレンダさんが叫ぼうが気にしている時間はない。
時間だ。時間が足りない。
どれだけ急いだところで既にある距離が変わるわけではない。黒子さんが居たとしても一瞬では埋まらない長い距離。
五分、十分と時間が増えていく。
「ねえ、麦野たち大丈夫だよね?」
車の速度から逃れようと座席に張り付いたフレンダさんから零される声。暗部に居ようが関係なく、か細い声はただの幼い少女のもの。
「友達が心配か?」
「……そりゃね、だって、結局人間友達居ないとさ、色々ダメな訳よ。暗部に居ても、麦野たちが居てくれたからやってこれたところあるし……悪い?」
悪い? それを俺に聞くのか? 今後部座席にいるのは誰だと思ってる。無差別殺人するような殺し屋集団が仲間だったら、そもそも俺は暗部にいない。暗部に落ちたとかよく言う奴がいるが、そうでなければ守れないものがあるからここにいるのだ。それを落ちたなどと軽々しく口にして欲しくない。馬鹿にするのは簡単だ。だが、その裏も知らずに言葉にすることこそ馬鹿だ。
「悪くないさ、フレンダさん、友達が人質に取られたとか言ってたな。口から出まかせじゃなかったのか?」
「いや、まあ嘘だったけど、友達にちょっかい出してきた奴ボコったら暗部でね。まあそこからずるずると……。結局ツイてなかったって訳よ」
「フレンダちゃん優しいんやなぁ、ボク好きになってしまいそうや!」
「……ねえ、第六位っていつもこんななの?」
「いつもこんなです。ごめんねこんなんで」
女の子さえ絡まなければ非常に有能なんです。普段裏でコソコソしてるけどマジで頼りにはなるんです。ってか『シグナル』の構成メンバー上十全に動けるの俺と青髮ピアスだけなんで、青髮ピアスがいないと俺だけになっちゃうんで居てもらわないと困るんです。呆れて萎れた笑い声を出す俺の肩を青髮ピアスは強く叩き、前へと人差し指を突き付ける。
「孫っち、前! ちゃんと前見てな!」
「見てる見てる心配するな」
「いやなんか橋の前にスポーツカーが止まっとんのやけど⁉︎ 孫っち! ブレーキブレーキ!」
「はぁ? なんでわざわざ橋の手前で……ってマジだ⁉︎ お前目ぇいいな! ってそれどころじゃねえ⁉︎ 掴まれ!」
「もう孫っちの運転いややボクゥ‼︎」
ぽつんと豆粒より小さかったスポーツカーが、百キロをゆうに超えたスピードで走る車のせいでどんどん近付き大きくなって行く。
なんで何もない橋の手前でわざわざ停車してんだよ⁉︎
そんな願いは聞き届けられなかったようで、ブレーキを踏み込むがそれだけでは足りない。このままではスポーツカーに衝突する。交通事故で道半ばでリタイアなど目も当てられん! ブレーキを力の限り踏み込み、ハンドルを目一杯回し車体を転がす事で勢いを殺す。一日で二回も車で転がることになるとか嘘だろ!
視界が回り、少女の甲高い声と野太い声が掻き混ぜられる。
それでも近づいてくるスポーツカーに肝を冷やしたが、車は傾いたままスポーツカー手前でなんとか停止し、ガタリと音を立てて腰を落ち着けた。
「……孫っち、何か言うことあるんやない?」
「俺もう学園都市で車乗らない」
「私一瞬お花畑が見えたんだけど……」
学園都市はいつからこんなに道路状況が悪くなった。ボコボコに凹んだ車のドアが歪んで開かないので無理矢理蹴り開けようとするが、体勢がよくなく威力が出ない。それを見た青髮ピアスが車の屋根を蹴り飛ばしてくれた。
「不幸だ。絶対あいつの不幸が俺たちに感染っている」
「あぁ……ほんとにそうかもしれんわ……」
車を降りると、何故か青髮ピアスは明後日の方を向き彫像のように固まった。鉄仮面の所為で余計にそう見える。青髮ピアスの顔の先を見ても何もない。ただ、背後から視線を感じ振り向けば三つの人影。なんか見たことある金髪が見たことある少女を背負っている。もう一人はなんかもっと見たことある。青髮ピアスの奴匂いで逸早く察しやがったな。一人ガン無視決め込んでやがる。
なにこれは……。どんな状況?
「月詠先生んトコの悪ガキ! 全く地下街の時もそうだけどなにやってるじゃんよ!」
影の一人、黄泉川先生が眉を吊り上げる。
うっそだぁ、また巡り巡って小萌先生に怒られそうな予感⁉︎ いやそんなことを気にしている場合じゃない! なんでこんなところにうちの学校の先生がいるのとか言ってられない! 車が潰れたと言っても目的のビルはもう近い!
黄泉川先生が何か言う前にさっさと先を目指そうと青髮ピアスの肩を引っ張っていると、フレンダさんの方がもう二つの影の方に走って行った。
「滝壺⁉︎ ちょっと大丈夫なの⁉︎ 浜面! いったいなにがあったって訳よ! 麦野と絹旗は‼︎ さっさと話す!」
「痛って蹴るな! それよりフレンダ無事だったんだな! 第二位の奴がお前の携帯持ってたからさ……第二位の襲撃を受けたんだよ! 絹旗は無事だ! 麦野も、まあ無事だけど、それより丁度よかった! 滝壺を連れて黄泉川と一緒に離れてくれ! 滝壺がもう限界なんだ! これ以上『体晶』とかいうのを使うとヤベエって! だから!」
眩い光が一瞬辺りを染め、引っ張っていた青髮ピアスの感触が消えると、青髮ピアスはフレンダさんの横に現れ勢いよく抱き寄せた。一瞬遅れて青髮ピアスとフレンダさんの目の前を走る閃光。橋の手摺を焼き切り鉄柱が倒れる。
「……はーまづらぁ、それにフレンダァ……しかもそいつらまで一緒、ね。あーそう、ふくくっ、どいつもこいつも裏切り者ってかぁ?」
第四位の怪しい笑い声がビルの森の中に木霊する。体を朱に染めたまま手を広げて口を横に引き裂いた姿からは正気が消えている。第二位との戦闘でも死なない辺り流石は
「麦野! ち、違う私!」
「なにが違ぇんだ? 言ってみろフレンダァ‼︎ 第六位とスイス傭兵引き連れて、私の寝首でも掻く気だったか? 第二位にまで携帯渡して、なあ? 蝙蝠野郎が!」
「そ、そんなことないって訳よ! だって麦野は! 友達だから!」
フレンダさんの叫びに、第四位はぽかんと一瞬呆けたが、すぐに腹を抑えて笑い出す。
「友達ぃ? ぎゃっはっは! 私にすぐブチ消されるような奴がおともだちぃ? ふくくっ、笑かすなよ。はーまづらぁ、フレンダァ、テメェら揃って地獄に送ってやる」
「フレンダ! 滝壺連れて行ってくれ!」
「は、浜面?」
一歩下がったフレンダさんに、いつぞや出会った茶髪の男、浜面は滝壺と呼んだ少女を押し付け拳を握った。額に脂汗を浮かべてなにかを覚悟している顔。
「頼む……、俺、そいつを死なせたくねえんだ。グダグダ迷ってばっかだったけど、やっとそれがやりたい事なんだって分かったんだ。滝壺は俺を守ってくれた。だから、だから次は俺の番だろ! 助けてくれた奴を見殺しなんかにできねえだろ! 俺が守るんだ! でも、俺一人じゃ、どんだけ力振り絞っても無理だから! だからフレンダ! 黄泉川! 何も言わずに滝壺連れて行ってくれ! 頼む‼︎」
ホッと息を吐き青髮ピアスと目配せする。今がどんな状況か、フレンダさんたちの関係がどんなものであるのかは分からない。ただ分かる事もある。一人の男が一人の少女を守るために拳を握っている。暗部だから? 能力者だから? 知っていようが知らなかろうが関係ない。
男が必死の顔で誰かの為に拳を握っている。
ただ守るために。
それだけで十分。
フレンダさんは協力者だが、もういい。目の前に立つ男の意志を蹴飛ばすか汲み取るか。要は
「黄泉川先生、所詮学生同士の喧嘩ですよ。行ってください。俺たちで見てますから」
「そやなぁ、
「アンタら……」
「……お前たち、後で揃って説教じゃん。この子を安全な所まで運んだら、すぐに完全装備の
スポーツカーの扉が開き閉まる音が背後で聞こえ、エンジン音が遠ざかって行く。それを吹き消すような口笛の音。歪んだ口端を吊り上げて第四位が一歩を踏む。
それに合わせて、青髮ピアスの手が俺の肩を掴んだ。
「孫っち、ここはボクに任せて先に行きぃ」
「なに?」
「第二位の姿が見えん。第二位はなにかやる気なんやろ? 銃のない孫っちなんて魅力半減やよ、もうすぐ銃が届くんなら、それ持って第二位を追えばええ。二人もこんなとこで足止めはダメやろ」
「いや、でもお前」
体力も万全でないだろう。そんな状態でいったい何分能力が使える。第二位の動向は確かに気にはなる。俺たちや『アイテム』を不安要素と言っていた。だが、襲撃したくせに、第四位は健在なのに姿がない。目的を優先したということか、なにかでかい事態を起こし、第二位が手の届かないところに行ってしまえばそもそもアウト。だとして、怒れる第四位を相手に疲労している青髮ピアスと、能力者なのかも分からない浜面だけでは……。
「ボクは学園都市第六位やよ? 孫っちは知らんかもしれんけどこれで結構強いんや。孫っちよりずっとな! それに心強い
おちゃらけた笑い声を上げて、俺の肩を叩く青髮ピアス。鉄仮面の所為で相変わらず表情は分からない。笑っているのか、そうではないのか。きっと笑っているんだろう、いつもと変わらぬ陽気な笑顔で。
欲しい言葉なんて、そんなの一つしかないだろう。だが、それを言ってしまったら。
青髮ピアスを見る。続いて浜面を。
二人とも俺を見ていない。顔の先は第四位。だから────。
「任せた」
「任された」
橋に二人を残し走る。青髮ピアスはやると言った。ならばやる。必ずやる。だから俺は、俺のやれることをやる。
「痺れるねー、え? 浜面、第六位、男の意地って奴? 馬鹿みたい」
「第四位ちゃんなぁ……友達馬鹿にするのはだめやろ。ボク、久し振りに頭きたわ」
「来いよ
次回の主役は青髮ピアスと浜面君です。