一日のうちに
これはそこそこあることだ。学生たちの行動範囲はほとんど第七学区であるし、御坂さんや青髮ピアスのように普通の学生と同じように日常を謳歌している
一日のうちに
これは稀にあることだ。上記の御坂さん青髮ピアスに加えて食蜂さんも普通に常盤台中学に通う女子中学生。第七学区で三人も
一日のうちに
ほぼほぼない。そんな奴はきっと一生のうちの運の数パーセントくらいを消費してるに違いない。第一に俺の場合学校で青髮ピアスに、たまに御坂さんに会い、学舎の園周辺で黒子さんと待ち合わせをしていた時に限りほんとごく稀に食蜂さんに遭遇するため、一日のうちに
一日のうちに
まずない。
一日のうちに
絶対ない。
一日のうちに
死んでもないはずだったんだけどなぁ。なんだろう。なんなんだろうかこれは。いつどこで何を間違えるとこんな事故に遭う羽目になるのだろうか。
「普段の行いじゃないかしらぁ? それか運命力が悪いのねぇ」
食蜂さんは入って来ないでください。その能力マジで嫌い。思えば黒子さんに
これはもう呪いか? 呪いなのか? カレンあたりが学園都市と戦争になったからとかで俺に呪いをかけてるんじゃないか? 寧ろそうであってくれればこの怒りの矛先が決まるのに。このまま待っていたら第七位まで空から降って来そうな勢いだ。一日のうちに
いや、逆に考えよう。もうこうなったら、悪い面だけ見ていても仕方がない。来てしまったものは来てしまっているのだから、俺は黒子さんのように空間移動系能力者というわけでもないので、既にいる者を瞬時に遠くへ飛ばす事は出来ない。
第四位よりも第二位との戦いの方がヤバイだろうと思っていたが、蓋を開けてみれば
食蜂さんはなんでいるのかは知らん。なんでいるのこの人。暇なの? 暇なのか? それとも実は御坂さんと超仲よかったりするのか? マジでなんでいるんだ。
「余計なお世話だわぁ、私にもちょっと思うところがあるの、女の秘密は探る物じゃないわねぇ。紳士力が足りないんじゃない?」
じゃあ俺の頭覗いてんじゃねえよッ! マジでやだその能力! なんなの? 人の頭に掛かってる鍵を抉じ開けるマスターキーを振りかざさないで貰いたい。いや、だが、食蜂さんが居てくれるとすごい楽だ。能力で動きを止めて貰えばいい。それでもう仕事は終わり。楽な仕事だったな。
「あら無理よ、御坂さんと同じく第一位と第二位には能力効かないもの。第一位はそもそもこっちの干渉力をシャットアウトしてるしぃ、第二位は『
マジかよ……。じゃあマジでなんでいるのこの人。俺の仕事の難易度上げに来ただけじゃないか。いやダメだ、良い方に考えよう。一度でも第二位の意識を飛ばし食蜂さんの能力が刺さればそれで終わる。俺一人という頼りない手札と違い、今や過剰な戦力が集まっている。これも悪くない。この札をチラつかせるだけで垣根帝督を試す事ができる。
「……あぁ、そういう事。貴方も大変ねぇ。でも見てる分には面白いわぁ。貴方喋る時はそこそこ落ち着いた口調なのに頭の中は愉快力高いしぃ」
うるせえな! もういいよ! なんでこんな状況で食蜂さんとまったり話してなければならないのか。愉快? そりゃ愉快にもなる。目の前で急に喜劇が開幕してるんだから嫌でもそうなる。第二位と戦う覚悟を固めていたのに、逆に第二位が可哀想だ。俺だってこんな事態になると思っていなかったのだから、第二位はもっとだろう。その証拠に、口も開かず目を細めて突っ立っているだけ。
大きく息を吐き、そして息を吸う。乱れた頭を落ち着ける。
面食らったが、いつまでも驚愕に身を浸しているわけにもいかない。
ので、食蜂さんみたいな喋り方で俺に語りかけてくる飾利さんの視線を手を振って散らし、いい加減飾利さんを操り経由して話すのをやめろと食蜂さんを睨み付けた。
第五位、『
砕けたテーブルを踏み締めて一歩。第二位と飾利さんと打ち止めさんの間に身を滑らせる。
ベラベラ喋っていた食蜂さんを除き、まだ誰も口を開かない。それもそうだ。俺から見れば味方ばかりだが、
どうしようもない確執が横たわっている。
だからそれを崩す第一声を放る。ついでに垣根帝督を試すために。
「……諦めた方が賢明だぞ学園都市第二位、垣根帝督。
「……第二位? へー、アンタが。どういう状況かいまいちまだよく分かんないけど、そこのアホ傭兵の言葉を鵜呑みにするならアンタが敵でいいわけね?」
流石
垣根は御坂さん、食蜂さん、
「……全く、なんなんだよテメェ、この状況を描いたのはテメェか? 第一位に第三位に第五位。確かに勝てねえ。第一位と俺はサシで殺り合うつもりだったしなあ、流石に
「ツッ⁉︎」
俺の手元で火花が散る。
……諦めなかったか。
絶望的な戦力差。俺が垣根でも同じことをする。垣根は俺を狙ったわけではない。狙いは俺の背後。妹達の司令塔。
分かっていた。分かってはいたが、
数秒だ。数秒でいい。
御坂さんか
だがその数秒は決死の数秒。
この事態を掌握するため、垣根は死ぬ気で
だが、垣根は突っ込むどころか、足を踏み切り後ろに飛んだ。
「一八学区で一度それは受けたから分かるぜ、突っ込むかよ。あんまり
「その言葉そっくり返そう、経験の差だ。
「戦場? バーカ、
すとりと地に足着ける垣根の
「テメェは
「オマエがなァ」
翼を大きく広げた垣根に向けて、白い閃光が空を裂いた。目にも留まらぬとは正にこのことか。杖付いて歩いていたくせにどこからこんな速度を叩き出せる。目の前にいた垣根の姿が消え去り、後に残るのは拳を振り切った
学園都市第一位。何度か能力を使うところは見はしたが、全く馬鹿げている。これで同じ人間だと言うのだから、全く人間はくそ面白い。
持ち上がってしまう口端を抑え、細く息を吐き出していると、振り向くこともなく
「……法水、
「なに? ……あぁ、なるほど、飾利さん、
「へ?」
間の抜けた飾利さんの声を背に聞きながら、俺も目をビルの根元から逸らさない。学園都市第一位の一撃。ただ近寄り殴った一撃の結果に飾利さんは終わったと思ったのかもしれない、俺も一瞬そう思ったが違う。肌を撫でる殺気が消えていない。つまりまだ終わっていない。
土煙が内側の何かに押し出されるように大きく膨らみ、六つの翼が広げられる。
首の骨を鳴らしながら、ゆらりと立ち上がる垣根帝督の体には傷一つ付いていない。学園都市第二位『
そんな意識を軽く金属が跳ねる音が貫いた。舞い上がった土煙を再び掻き混ぜ穿つ稲妻の弾丸。学園都市第三位の代名詞。指で弾いた直後特大の穴を開ける雷神の槍が第二位の足元に突き立てられ、振るわれた白翼に弾かれ軽い音を上げて地面に転がった。
「んなッ⁉︎」
稲妻の余波が宙を走り、それを垣根は前に一歩を踏む事で踏み潰す。
「第一位に第三位、第五位揃えれば楽勝だって? そう思い込んだ瞬間そもそも嵌ってんだよ。俺の『
「
広げていた白翼が萎み、はためかされたと同時に風が逆巻く。白い山をアスファルトに突き立て踏ん張るが、まるで至近距離で竜巻が吹き荒れたのと変わらない。俺の学ランを掴む飾利さんと
「法水さん!」
俺の胸元でそんな泣きそうな声出すな! 巻き上げられた瓦礫に破片が肌を磨り上げ裂いていく中、少女たちがそうならないようにだけ意識を向けて、暴風が過ぎ去るのをただ待った。
風が止み、顔を上げる。
空に太陽が二つ上っている。
そう間違うような極光が煌めいたと同時、何かがカッ飛び街路樹をへし折りながら地面を削った。
それがなんなのかは見なくても分かる。
空で翼を広げた垣根帝督がただ一人。吹っ飛んだ男の名を
「なるほど学園都市第二位の本気か、歩く災害のような男だな。
「で、でも法水さんは?」
「俺も一人じゃないから大丈夫だ。そうだろう? 僅かでいいアレの動きを止めてくれ。話で翻弄しても能力でもいい。それか俺の五百メートル以内に放り込め。したら俺が叩き落す」
第二位を見上げて言った言葉に、少女たちからの返事はない。
少女たちには言っていない。街路樹に突っ込んだ第一位に。
第二位であれほど異常なのなら、第一位がそれ以下はあり得ないだろう。何よりここには
「……面と向かって俺を顎で使おォなんてオマエぐれェのもンだ。吐いたンだからやンだろオマエは」
「そりゃ周りに気を使ってる
「ケッ、オマエが気付いてんのが気にくわねェが、アレよかマシだな」
全くよく言う。第二位の突風で俺が死ななかったのも、アレほどの暴力同士が激突していながら戦場がこの一区画から出ていないのも見ればどういうことか分かるぐらいの目は持っている。戦場を限定するというのは、並大抵のことではない。それも力が強ければ強いほど難しい。膨れ上がる戦域に線を引いているのは垣根帝督ではなく
少なくとも俺のやる事が決まった。
狙うは空。
風が繭を形成しているかのように、瓦礫や塵、看板さえ巻き込み球状に渦を巻く中心点。
言葉にすれば簡単だが容易ではない。邪魔な物が多過ぎる。風の膜は破れても、看板や瓦礫に当たってしまえば軌道は外れ、
距離にして数十メートル。遠くはないが難易度は激高。
息を吸い、
息を吐く。
息を吸い、
息を吐く。
銃身の先が僅かにブレる。
不規則に空飛ぶ遮蔽物の軌道を思い描き、舌を打って大きく息を吸う。
息を止めると同時。肩にコツンと何かが当たり、口から空気が抜けた。背後からリモコンが伸びてくる。
「そんな演算力じゃダメなんじゃなぁい? 貴方が何をしようとしてるか覗いちゃったし、私がちょっとだけ手伝ってあげちゃうゾ☆」
「食蜂さん……」
「私の演算力ぶち込んでアゲルわぁ。全く貴方はカウンセラーにでもなったつもりぃ? 相変わらず変なお仕事よねぇ。でも、嫌いじゃないわよそういうの。これでもまだ私はいらないかしらぁ?」
「ったく根に持つなよ。それにカウンセラーったって今回限りだ二度とやらん。ただこれで飾利さんの件はチャラにはしないぞ」
「別にいいわよぉ? その代わり王子様のところへ運んでくれるカボチャの馬車になってくれればねぇ♪」
シンデレラかよ。俺に上条との間を取り持てってこと? 何そのいろんな人を敵に回しそうな依頼は。絶対受けないぞ。女子中学生連合の相談役みたいになってる木山先生と、友達になった
なんだか気が抜けたが、肩の力も抜けた。
息を吸い、息を吐く。
頭の中にノイズが走る。
と、同時に世界が止まったかのように垣根帝督の動きが緩んだ。動体視力の異常な上昇、広がり鮮明になる視界。食蜂操祈の見る世界。精神系能力者頂点の狭い世界。ゆるやかで、ゆったりと、鮮明で、窮屈だ。
「……食蜂さん、実はその能力あんまり好きじゃないだろ」
「見え過ぎるっていうのも考えものよねぇ、あるから使っちゃうけどぉ、私にそのカウンセリング力は必要ないわぁ。怒るわよ?」
マジで怒んないでください。この子マジで苦手。
「怒っちゃうゾ☆」
常に頭を回すのは狙撃手の癖なので許してください。
食蜂さんの怒気から逃げるように、静かに人差し指を押し込んだ。
莫大な反動に浮き上がる銃身。足を落とし込んでも体が後ろに下がり二本の線がアスファルトの上に引かれる。
飛び出した弾丸は数多の隙間を綺麗に通り抜け、迫る弾丸に白翼を捻り垣根が笑う。
「たかが銃弾で俺を殺れるか!」
「骨で時の鐘の音を聞け」
白翼に突き刺さった弾丸が、鐘の音のような音を響かせ第二位の白翼を震わせ崩した。空間が歪んだと錯覚する程の振動に、風の繭が吹き飛び、哀れイーカロス、第二位の翼が溶けたように崩れて地に堕ちる。
「ぐッ……なん、だ、テメェ、分子振動弾、か? ふざけた、弾丸、放りやがってッ」
「立つな、脳震盪だ。傷もほとんどなく五体満足で体が残ってるあたり流石だよ第二位、『
アスファルトを削る勢いで手を握り締める垣根帝督の胆力に目を見張る。脳震盪どころか三半規管、骨さえ揺すられ、荒れた大海原の真っ只中に身一つで突っ立ているような状態であるはずなのに、それでも立とうとする気概は異常だ。
数秒。数秒あれば、
ようやく会話の土台ができた。相手が満身創痍でなければ話もできないとは、全く面倒なことだ。
「垣根帝督。お前は何がしたいんだ? 『
「はっ! そこまで分かってんのかよ、よく調べたなスイス傭兵。別に単純だ。学園都市を手に入れる。これほど使える街はねえからな。もっと大層な理由でもあると思ってたのか? おめでたい頭だ」
「思ってるよ」
短く告げれば、垣根帝督の顔から笑みが消えた。学園都市が欲しい? なるほど。つまりトップに立つのが目的か。確かに単純だった。一番上に立てれば、学園都市を好きなように弄れるだろう。慣れない話にどうも気が乗らず、煙草を取り出し口に咥える。
「学園都市が欲しいか。なるほどなるほど。ならおかしいだろう」
「……何がだ?」
「初め
煙草に火を点け紫煙を吐き出す。学園都市は蠱毒のような街だ。至る所で陰謀が渦巻き問題事が消えやしない。戦争になるより前からこれなのだ。寧ろ戦争の方が目に見えるだけ分かりやすい。目に映らない陰謀ほど、相手するのが面倒な事もない。裏でほくそ笑み見下ろす何者か、俺だってそんな奴は嫌いだ。そして学園都市にはそんな奴が多い。
「学園都市には輝かしい者も数多く居るが、重油みたいにドロついた気に入らない奴もいる。学園都市を弄るということは、なにより人を弄るということだ。大多数を玩具にしたいのか、それとも何某かを救いたいのか。さて、どっちかな?」
「ぐだぐだうるせぇ、殺すならさっさと殺せ。別に大多数なんてどうだっていい。どいつもこいつもムカつくぜ。のほほんとした奴が死んだところで事故みてえなもんだろ。そいつの心が痛んだところで俺は痛まねえ。誰かを救う? 誰を救うって? 他人なんてどうでもいいだろうが」
息を吸い、息を吐く。
口の中に残る苦味に舌を這わせて、立ち上る紫煙に目を細める。誰を救う? 他人なんてどうでもいいのなら。
「自分を救うためだろう」
それしかない。誰も自分を救ってくれないのなら、自分勝手に自分を救うしかないのだから。だがその方法は? 必要なものは? 自分はそこにあるはずなのに、自分だからこそ分からない。分からないなら、一度全部を掴むしかない。
「よく言ってるな、『
それは一種の現実逃避だ。そうだ。黒子さんに仕事に逃げてると言われた時の事を思い出す。そうでなければならないと、自分が自分であるために思わずにはいられない。そう思うと、ピタリとピースが嵌まった気がした。
常識とは善性だ。
あれはしてはいけない。これはしていい。道徳によって導き出される正しい道。垣根帝督は、その道を意図的に脱している。仲間でも別に守りゃしないし、『スクール』の組織の構成員であろう輪っかの男が死んでも眉ひとつ動かさなかった。
常識から外れている。なぜ外れる?
「背から伸ばす白翼。垣根さんの風貌に合ってないな。垣根さんの趣味だとも思えない。垣根さんなら好きな形に作れるんじゃないか? なのにそれを使い続ける理由はなんだ? それが一番出し易い形だから? それにしてはやたら精巧に作っているな。ならどこかから取ったが正解じゃないのか? ならそれはどこから取った?」
「……やめろ」
ぽつりと、雨垂れのように垣根帝督の口から言葉が落ちる。それを見逃さず口を閉じ、一度強く息を吸い、垣根帝督の心の底を覗き込む。ボルトハンドルを引いた時の重い音が聞こえた気がした。
「常識から外れ、似合わない翼を背負い、誰のためでもないのに命を懸ける。その答えは────」
「やめろって言ってんだろ」
「もう常識がないからだ。自分を一線の手前に引き止めてくれるものがなにもないから。あったはずなのに消えてしまったから。垣根帝督。お前の正体は太陽を失くしたイーカロスだ」
「やめろッ!!!!」
垣根帝督の背から六枚の翼が伸びた。形定まらぬ歪な翼。拙く、淡く、俺の肩を裂き羽先に血を滴らせながら。その在り方に似つかわしくない純白の翼が空を彩る。
失くしたものは太陽。空を飛ぶイーカロスが目指すものも、地に落としてくれるものもない。だから飛び続けるしかない。上へ上へ、宇宙さえも飛び越しどこまでも。
初めて酷く垣根帝督の顔が歪む。その殺気立った目は俺だけに向けられ、周りのものをなにも気にしてはいない。
「…………取られたものを取り返す。だったらいいがな、そもそもそれがもうなかったらなにを掴むってんだ? なにを掴んでも実感がねえ、なら全部を掴めば掴めるかもしれねえ! 学園都市第二位? くはッ! そんな偉そうな称号手にしたところで、なんの意味もねえ! 当たり前のように朝起きて、当たり前のように夜眠る。当たり前の中で当たり前に生きてただけなのに、学園都市の闇に当たり前のように飲まれちまった。なにがいけなかった? なにが悪い? 当たり前がだろうが! そんな常識が罷り通るような構造がそもそも間違ってんだ! だったらはみ出す! だったら外れる! 常識なんて踏み砕いて前に進む以外になにがあんだ!」
振るわれた翼が頬に貼ったガーゼを弾き飛ばし新たに赤い線を引く。泣き崩れそうな第二位を、支えてくれる者は今はいない。揺れる脳さえ関係なく、普通なら立てないという常識を拒絶し立ち上がる。ゆらりとゆれた第二位の翼が刃のように鋭くなり、俺の腹部に向けてその先端が突き刺さった。息を飲む音が幾つか聞こえた。誰かの足音が強く響く。
そんな中で咥えた煙草を落とし息を吸って息を吐く。痛みはない。そもそもほとんど感じない。全く腹に空いた穴の感触が気持ち悪い。無駄に翼が鋭いおかげで、後ろに吹っ飛ばずに済んだ。走ってくる影に向かって手を振るい、落ちてしまったなら仕方ない、新たな煙草を取り出し口に咥える。
「…………だからって当たり前に生きてる奴の当たり前を壊していいものは常識にも非常識にもない。人でいる限り。非常識が非常識に壊されるのは仕方がないけどな。道を外れてれば最強? 非常識なら敵なしか? ……全く、こんなのキャラじゃないんだが、仕事だし、こういう役目はどこぞのツンツン頭だろうに。仕方ないから俺が契機ってやつをお前にやる。俺の仕事と、お前の非常識。お前の最強撃ち砕いたら飛び続けてんのもしんどいだろ? そろそろ地に足着けろ。ラストバトルだ」
「吐かせ!
「夢って言ったな? ならこれで勝ったら常識破った俺の勝ちだ。お前には絶対にできない勝ち方してやるから見てろ」
相手が動けないなんて事は考えない。垣根帝督に常識は通用しない。だから一歩、さらに一歩、自分から足を出し、翼をより体に深く食い込ませ、垣根帝督が空へと飛び立ってしまわぬようにその肩に手を伸ばし強く掴む。
「馬鹿かテメェ! この状態でどうやって勝つってんだ!」
「決まってる。御坂さん煙草に火くれない? ドカンと一発」
「ハァ⁉︎ て、テメェここで他人を頼るとかどういう神経してんだ! それが俺にはできねえ勝ち方だァッ⁉︎」
「一人のお前には無理だろう? だから次からは誰かを頼ればいい。生憎俺は傭兵でな。困ったことがあったら聞いてやる。ただし料金高いがな。でもお前なら平気だろう? あぁ、手の力抜けてきた。御坂さーん、まだ頭が電気にやられてるわけじゃないだろう?」
「馬鹿が! 第三位なら知ってるぜ、表のお優しい第三位が死に掛けの男に電撃落とすわけが」
辺りが光に包まれる、産毛が逆立つ。散った紫電に弾かれて咥えた煙草が燃え尽きた。やっぱり御坂さん火付けるの下手だわぁ。小さく口端を持ち上げて、雷撃の雨の中笑う。
「日頃の鬱憤含めて、せいぜい痺れなさいよゴラァァァァッ!!!!」
「あー…………これは死ぬ。絶対に死んだ。こりゃダメだ。もう動けん。指先一つ動きゃしない」
「はぁ……全くアンタ馬鹿じゃないの」
「生命力が馬鹿みたいに高いわぁ」
「ただのアホだ。馬鹿だなオマエは」
「…………なんだか、一人で随分遠くまで来ちまった。空なんて久々に見上げたぜ。はっ、こりゃ掴めそうもねえ」
「……まだやるか?」
「降参だ降参、マジでな。テメェみたいなイカれた奴の相手は御免だ。第三位の野郎躊躇なく雷落としやがるとは、テメェ嫌われてんな」
「余計なお世話だ。……これからどうする?」
「さてな、…………ま、たまには常識に塗れてみるのも悪くねえ」
そりゃよかった。ならこれで仕事も終わりだ。だから
「チッ、……オイ、法水がヤベェぞ。さっさと救急車でも呼べ」
「あらぁ、救急車じゃ間に合わないんじゃなぁい?」
「ちょ、ア、アンタなにそんな軽く言ってるのよ⁉︎」
「大丈夫よぉ、こんな事もあろうかとお人好しに連絡送っておいたからぁ。大覇星祭で会ってるしぃ、近くに居て良かったわぁ、悪運力が高いわねぇ」
薄れゆく意識の中、はためく白い学ランと、真っ赤な旭日旗が落ちてくる。やたら喧しい声が耳元で響き、意識をなかなか手放せない。
「うお! デカイ銃が更にデカくなってやがるッ! 相変わらず根性あるな! いい根性だ!」
あぁ……そう。あの、もう寝かせてください。
超能力者の円舞曲編、終わり。ここまで読んでいただきありがとうございます。