エースハイ ①
「昔仕事で自傷癖のある野郎を追ってたことがあったんだが、どういう訳か一発ドキドキてめえの手首の動脈をぶった切りやがってなあ、どうなったと思うよ孫市」
「大事な物全部吐き出して木乃伊にでもなったって?」
「まあそういうこったな。つまり今回も似たようなもんだぜ、慌てて傷を塞ごうと喚いたとこで、一度切れちまったもんはどうしようもねえってな」
タハハッ、と小さく笑うゴッソ=パールマンに合わせて数度インカムを小突き手元の新聞に目を落とす。
「まあ単純に見れば、ローマ正教側が動いたってとこだろうがよお、ローマ正教がロシア成教と組めたのも、禁書目録を理由はどうあれ囲ってた学園都市とイギリス清教に繋がりあっての事だしな。遠く極東に座す科学の意味不明な機関より、手近の多少は勝手知ったる国を相手取った方が楽ではあるだろうよ。オメエでももう分かるだろう孫市、未だ水面下だが着実に浮上してきてやがんぜ。我慢して我慢してずっと潜ってやがった鯨が息継ぎする為に海上に鼻先伸ばすみてえになあ」
「第三次世界大戦ってか? 誰が得するんだそんなの。戦争は悲惨な事だやめましょうと学校で教えるくせに、結局やってちゃ世話ないよな」
「花火の詰め合わせパックとかよお、あんじゃねえか。それを袋から出さずに一度に火を点けるみてえなもんだぜ。元となる最初の火なんてよお、火が点いちまった後は大部分にとっちゃ関係ねえのさ。恋人同士の逢瀬と同じよ、理由はどうあれ顔合わしゃ、後は燃え上がるだけってやつぅ?」
「一緒にするな、一緒に。今お前は全世界のカップルを敵に回したぞ」
「そこで反対するってこたあ恋人居るって言ってるようなもんだぜ孫市?」とガラガラ笑うゴッソの声にウンザリと肩を落とすが、薄暗い話に一度細く息を吐き出し背をすぐに伸ばす。
魔術師同士の戦い、魔術と科学の戦い、これまでは少なくとも最低限その程は守っていた。火付け役であったヴェントも、大部分の一般人は昏倒させ戦場から追い出し、狙いは学園都市上層部のお偉い方。テッラに至っては市民を煽動したとしても、行ったことは大規模デモだ。アックアは単身この戦争を早期終結させる為に動いたのだから、やり方はどうあれ理解はできる。
が、アックアがやられたからこそなのか、英仏海峡トンネルの爆破はやり過ぎだ。日本国内の領土同士を結ぶ青函トンネルを吹っ飛ばすのとは訳が違う。名前の通り英と仏。イギリスとフランスという別個の国同士を結ぶ重要なラインを吹っ飛ばせば、世界で大きく報道される。『爆発事故』などとなっているが、三本のライン全てが吹っ飛ぶ事故など前代未聞過ぎて全く信憑性がない。
ただでさえ英仏海峡トンネルに何かあれば英仏両国の外交問題になり得るのだ。通常の整備や警備よりも厳しいはずであるし、どれだけ上手く言い繕ったところで大きな責任問題にもなる。C4爆薬でも列車に詰めて吹っ飛ばしたのか、ミサイルでも撃ち込んだのかそんなレベルだ。何より魔術師よりも、ただの一般市民にとって大きな打撃。政治家の方が大きな声を上げるだろう。
「もういい。問題は別だ。ローマ正教が動いたかどうかは置いておき、フランスとイギリスのラインが断たれたという事が何より問題のはずだ。戦争は金が掛かる。物資も尚更に。なのにイギリス側からもしこれを潰したのだとしたら、自殺願望甚だしい。では逆にフランスが許容したのだとしたら、明確な宣戦布告だな。第三者が吹っ飛ばしたのだとすればそれも同様。フランスの首脳はどういう判断を下したのか」
「今の対立構造を簡単に表すならよお、ローマ正教&ロシア成教、対、学園都市&イギリス清教ってな感じか? 誰だって乗るなら勝ち馬に乗りてえよなあ、片や世界最大の宗派に世界最大の領土を持つ国、人員も物資も潤沢よお、時間さえ掛けられりゃ島国同士仲良くやってるイギリスも学園都市も干物にできんぜ。物資の保証さえ得られんなら、英仏海峡トンネルがぶっ飛ぼうがフランスにとっちゃ少しの痛手だ。気にするべきは英国との関係悪化ぐれえだが、戦争で叩き潰しゃ気にしなくてよくなる」
「えげつないなあ。逆に第三者がぶっ飛ばした場合、人員、物資に劣ろうと、技術面、海上運用能力においては島国だっただけにイギリスと日本は屈指だし、戦局がより悪化するなら、英葡永久同盟*1のおかげでポルトガルはイギリス側につくだろうな。葡国の世界初の外洋海軍由来の海軍と、英国の三軍中唯一核兵器を保有までしていた
「まあ一番は? 蝙蝠野郎になって両方の陣営から美味しいとこを吸い取ることだが、童話の通り、どこぞで立場を明確にしなけりゃ両陣営から袋叩きにあっておしめえだぜ」
つまり時間の問題という事。アビニョンでのローマ正教への貸しがフランスにはあるだろうから、それを盾に「いやこれはまたローマ正教がやったんですふざけやがってあのクソボケ」と罪をぶん投げる事もできようが、「えぇぇ、お前それ警備ザル過ぎじゃね? 何やってたの?」 と結局怒られることになる。許容した場合は「しめしめ上手くやりましたぜローマ正教の旦那」と擦り寄ればいいだろうし、なんにせよフランスが立場を明確にするのに長い時間は掛からないだろう。自国を思えばこそ、大事なのは国が滅びないこと、市民が困らないことだ。傾国の女とデュポンなら、それを一番に考えるはず。
「しかしだぞゴッソ、今この段階で英仏海峡トンネルをぶっ飛ばした理由はなんだと思う? 喧嘩を売るにしたって一気に本気でぶん殴り過ぎだろ。国際人道法に違反してね? 事故ったって何人がマジで事故だと思っているか。国連はお怒りだろうなあ、国際連合憲章*2のおかげで法的には『戦争』は存在しないってのに、後世で現代のナチスとか呼ばれるんじゃないのかローマ正教」
「ならローマ正教のトップは現代のちょび髭って? 異端審問官にぶっ殺されそうな話だな! タハハッ! まあ負けりゃあそうなるかもしんねえが、よく考えてみろや孫市、表向き相手は学園都市、学園都市は完全独立教育研究機関だぜ? 国連が学園都市になんで初めオメエを送ったと思ってんだ? 日本は別にして、学園都市は国連に加盟してねえからなあ、来るもの拒まずのヤベエ巨大な実験室。国際法ぶん投げて、非人道的大歓迎だぜ? マルタ騎士団みてえなもんだよなあ、別の国の中にありながら、別個の国として機能してるってよお。学園都市なんか抱えてる日本はご愁傷様だ」
「ローマ正教側の騎士団持ってくるなよ。日本と学園都市の関係と違ってあっちは完全に味方同士だ。いくら自国民が居るとはいえだぞ? 最悪日本は学園都市を売ることだってできるんだからな」
特大の金になる木であり、パンドラの箱であり、暗黒大陸であり、腫瘍である。学園都市は日本にとって、誇るべき隣人でありながら、同時に捨て去りたい怨敵でもあるわけだ。核兵器を持たない日本の核兵器、何が起きるか分からない不思議な呪文。日本にとってもう取り外せない病気持ちの人工心臓が学園都市だ。
「ああもう! 話が逸れた! やめだやめ! 俺がこれまでどれだけヤバいとこに居たのかの再確認はいらない! 問題は理由だ理由! 英仏海峡トンネルぶっ飛ばした理由!」
イラついた心情を落ち付けようと懐から煙草を取り出し咥えるが、すぐに警備ロボットが飛んで来て警鐘を鳴らす。普段より速いロボットの動きに辟易しながら、吸いませーんと煙草を懐に戻せば、警備ロボットは離れて行く。
「今まで魔術戦をしてたくせに、いきなり裏から表への学園都市関係以外への攻撃は考えづらいだろう。根本は変わらないと見るべきだ。いろんなところが弾けても、元になった火種は変わらない。となるとローマ正教の狙いは、学園都市と協力関係にあるイギリス清教だろうが、イギリス清教の何が狙いで英仏海峡トンネルぶっ飛ばした?」
「おいおい孫市、オメエはたまに過程を気にし過ぎて大事なこと見落としてんぜ、もっと頭使え、そんなんだからいつまで経っても調査だの捜索だのの仕事の腕が上がらねえんだ。昔俺の
「分かった分かった悪かったな俺の頭がぱあで、さっさと話せ」
ゴッソの昔話になど一々付き合っている時間などない。インカムを小突きながらライトちゃんに時計を表示して貰い時刻を確認する。時間は有限だ。上手く使わなければすぐに底をつく。話を急かす俺にゴッソは「仕方ねえなあ」と吐き出して、渋々続きを話し始めた。
「イギリス清教どころか国さえ巻き込んだ攻撃ならだ。降伏を促すためでねえなら、今は戦争中、追い詰めて敵の切り札を切らせるためだろうが。切り札さえ切らせりゃもう札はねえんだからなあ。イギリス清教の誰もが知ってる切り札はなんだ? それの安全を考えて今まで科学の檻にぶち込んでた切り札は。切り札がいくつあるのか知らねえが、一番に切るならバレてるそれだろ」
そこまで言われればすぐに分かる。俺の寮の隣室に住む、小さく勇敢なお嬢さん。
「
「さてな、そこから先は俺も分からねえが、この予想はあながち間違っちゃいねえと思うぜ。アビニョンの時と同じだぜ。大量破壊兵器があるかもしんねえって、あの時のC文書が禁書目録に変わっただけだ。で、それをさっさと使わせて、イギリスには大量破壊兵器があるってことで吊るし上げる気なのかねえ? まあどっちにしろ気にはしとけ。でだ孫市、俺がわざわざ連絡したのはそんな政治的話をするためじゃねえ。二つオメエに話ときてえことがあるから連絡したんだかんなぁ」
「ああ、わざわざスイスからでもなく俺の携帯に直接な。お前はいっつもそうだ全く。金のために時の鐘に来たくせに、時の鐘の意向さえ無視して」
今でこそライトちゃんが居てくれるため、盗聴の危険性は大きく減ったが、街中で普通に俺に危ない話をふっかけてくるところは変わらずで何よりだ。大破星祭の時といい、内容が内容だけに無視するわけにもいかない。恐らくボスすら通していない個人的な話。それがどうにもゴッソの不真面目さを表している。
「俺は俺の思うようにしか動かねえ。働いた分の正当な報酬が欲しいだけよ。好き勝手やって大金貰える、タハハッ! 全くいい仕事だぜ。でだ孫市、今回英仏海峡トンネルが吹っ飛んだ影響で、いよいよ大きく事態が動きそうってな。欧州が死地になりそうってんで時の鐘一番隊、二番隊、三番隊に召集命令が出た」
「なに?」
一番隊に二番隊に三番隊って……時の鐘全部隊じゃないか。いよいよ時の鐘も戦争に対しての最後の準備に入るというわけだ。各国に散っていた者たちを集め、各国の情勢を纏めた後にスイスとしての動きに出るはず。永世中立国として、世界情勢の外側で崩れた平和を再建するために動くはずだ。危険地域の安全確保などのために、時の鐘の動きも決めるはず。結果として学園都市側とローマ正教側のどちらに手を貸したとしても、目指す先は早い段階での平和の構築。
ただ俺にはそんな召集命令来てないんですけどちょっと。
「変な声出すな孫市、オメエには俺から伝えるってな、ボスにもガラにも了解取ってる。ってなわけで今伝えた訳だがよ、オメエはスイスに来んな」
「はい⁉︎ いやお前何言ってんの⁉︎」
「オメエが何言ってんだ。ボスから後方のアックアの件は聞いたぜ。
「それボスからの指令か?」
「いや俺が決めた」
何言ってんのコイツ。時の鐘も組織である以上召集命令かかったのならそれが第一だろうに。それを無視して動いてしまっては、時の鐘である意味がなくなるのではないか? 俺の唸り声にゴッソは大きなため息を返し、舌打ち混じりに話を続けた。
「……俺が時の鐘に入ったのは金のためだが、そりゃあ
「……カッコつけた言い方するなよ。まるでアメコミヒーローだな」
「まあ実際はそんな可愛いもんじゃねえ。今のはガキが喜びそうな言い方してやっただけだ。もっと血生臭えしな。結局自分の好みで動いた結果、おまけで平和が付いてくるぐれえの雑さだしよ。ただ漠然とスイスで全体のために動くよか、目標明確な方がオメエはいい働きすんだろ。一番隊に這い上がって来たオメエを俺だって多少は評価してるぜ」
「全く這い上がろうとしない奴に褒められてもなぁ」
「悪いな俺天才だから。オメエの心境とか一ミリも分かんねえわ」
そういうこと断言するから評判悪いと分かって言っているのか。多分分かって言っている。だから余計に評判悪いのだ。ゴッソに護衛された者から、もうあれだけは護衛に寄越すなとクレーム来たこと幾数回。腕はいいのに口が悪い。相手を煽る言葉まで的中させなくていいと思う。
「それにだ。問題はもう一つの方にこそある。
「は、ハァ⁉︎ あの神様大好き野郎何やってんの⁉︎ 頭の中の声に従ってみたいについに頭がイかれたか……アホだ。なにやったんだあいつ」
「バッキンガム宮殿の真ん前で剣地面に突き立てて突っ立ってたってよ。何もせずに。んで、何も話さねえんだと。
仕事でイギリス。
そう言われてインカムを小突いていた手を止め横を見る。ぐうすか寝ている上条と
英仏海峡トンネルが吹っ飛び、魔術的なトラブルであるための禁書目録のイギリスへの招集命令。その守護者たる上条も一緒に。その護衛として土御門に夜だというのに空港まで二人を運ばされた。そしてこの先もだ。ゴッソの予想通り禁書目録を呼び寄せる作戦が的中したのか知らないが、ともすれば道中狙われる可能性があるとしての措置だ。
此度の依頼主はイギリスの上層部だそうで、クリスさんがイギリスと話し合った際、イギリスへの輸送の際は時の鐘が護衛につくと決めていたらしい。
この事態を予測していたのかは分からないが、先に仕事を取っていたとかクリスさんもやり手だ。時の鐘の召集命令に従わないなら、当然事前に決めていた仕事が優先。ゴッソの思惑がどうであれ、なんにせよ俺のイギリス行きも決まっていたことであろう。
キナ臭さならこれまでで一番の状況の中、禁書目録と
「カレンのことはまあ多少は気に留めてはおくけど……そこまで言うならスイスの事は任せたぞゴッソ。俺がいない分の穴ぐらい埋められるだろお前なら。搭乗時刻が迫ってるし切るからな」
「は! オメエなんて居なくても余裕だアホ! ……孫市、カレンだけじゃねえ、
「……分かった。ありがとよ」
通話を切り、耳からインカムを外した。
答えの出ない問題にいつまでも頭を回していても仕方ない。目の前に集中しなくては、できることもできなくなる。だから一度頭を叩き、上条たちとは反対側の席に座る者へと顔を向けた。ムスッとした顔をして座る
「そんな訳で俺はイギリスだ。悪いな黒子急に連絡して、上条たちを運ぶのも手伝って貰って。どうにも俺の仕事というのは緊急性が高いか突発的でな。それに今回に至っては見送ってくれとしか言えないんだが」
「……ただの一学生が急遽イギリスに飛び立つ事になるなどと、滅多にあることでもないのですから仕方ないですの。それも仕事なら尚更でしょう? わたくしも付いて行きますとは、流石に言えそうにないですからね」
「そうか、悪いな。……黒子のことだから飛行機の座席に座ったらいつのまにか隣にとかあるんじゃないかと」
「あら、それはいい手ですわね」
悪戯っぽく笑う黒子に、やめてくれと引き攣った顔を返す。黒子が居てくれれば心強いし、嬉しくないと言えば嘘になるが、時の鐘の、それもやばそうな案件に学園都市の風紀委員が関わるような事はない方がいい。黒子なら大丈夫と思いはするも、心配なのも確かだ。信頼と心配は表裏一体。前と違い今は……心配の方がちょっぴり強い。
「怪我しようと引くことなく、自分の心に従い突っ込む黒子は好きだがな、怪我するのは見てて怖いし、できればこういう案件には突っ込んで欲しくないなあって。戦争の渦中にいるのは俺だけで十分と言うかなんと言うか……いや余計な心配なんだろうけど」
「本当に余計ですわね。……わたくしもそんな孫市さんがす、好きではありますけど、過保護になってくれと頼んだ覚えはありませんわよ。やるべきことをやる。それだけでしょう。貴方はそのお二人を、わたくしは学園都市を守りますから。だからちゃんと帰って来てください、わたくしは待っていますから」
そう言ってウィンクする黒子に、俺も小さな笑みを返した。この仕事が終わったらおそらく俺はスイスに戻らなければならない。一度発せられた召集命令、今回はまだしも、仕事が終わった後でそれを無視することもできない。帰りに一度は寄ることになる。分かったと言うべきか、難しいと言うべきか迷っていると、黒子の人差し指が鼻先に突き付けられる。
「……早く帰って来てくださらないと、わたくし貴方よりずっとずっと強くなってしまいますわよ? わたくしは貴方のライバルでもあるのですから……それに……」
「どうした?」
「……いえ、この先はわたくしとシェリーさんの秘密ですので……貴方には教えませんの!」
「え? なにそれ、ボスと? ボスとの秘密ってなにそれは! 俺なんも聞いてないぞ! 俺が入院してる間なんかあったな! なんだいった────」
手元の新聞が床に落ちる音がした。
艶やかな茶色い髪が目の前に散り、黒子の唇が俺の口を塞ぐ。
疑問も何もかも全て頭の中から四散して、ただ顔を赤くしてゆっくり離れていく黒子の顔しか目に入らない。
内緒と言うように人差し指を口に付け、「行ってらっしゃい」と優しい言葉を残して黒子の姿が幻のように消えてしまった。
どうにも頭が上手く働いてくれない。隣でゴソゴソ動き出した二つの音も耳には入ってくるが頭には入って来ず、ぼーっとしていると、隣から伸びて来た手が俺の肩を掴んだ。
「おい法水? 法水ー? お前も催眠ガスで強制連行か? おーい、おーいって! ……ダメだ、寝ぼけてるみたいで全然動かねえ。って、飛行機の時間がやばいじゃねえか⁉︎ インデックスもほら立て立て! 行くぞほら法水も!」
上条に手を引かれてヨタヨタと立ち上がる。なんで俺ここにいるんだっけ?
とってもいいことがあったのになんで空港なんかにいるのだろうか。黒子は? 黒子はどこ行った? なんかもう凄い黒子をわちゃわちゃしたい。戦いより何より、俺の思考をたったあれだけで簡単にぶっ飛ばすとかもう、黒子こそ俺の必死だ。俺の望む瞬間は、きっと黒子と一緒であればこそ見れる気がする。と言うかもう見るだけでなく触れられる。
これもう本当にどうしたらいいのでしょうか?
「おい法水? 法水さん! そろそろしっかりしろ! もうすぐ荷物検査なんだから! ってかお前手ぶらっぽいけど大丈夫なのか?」
「え? なに? 黒子はどこ行った?」
「くろこ? くろこも一緒なの? どこにもいるようには見えないけど」
「いやそれより法水お前手ぶらっぽいけど大丈夫なのかってパスポートとか! 土御門の奴どんだけ強力なガス法水に使ってんだよ!」
「荷物、荷物ね、大丈夫大丈夫、
「法水しっかりしろォッ‼︎ 白井はどこにもいねえから! 幻覚見てんじゃねえ! ってかお前空港でなに言ってんの⁉︎ 土御門の奴マジでどんなガス使ったんだ⁉︎ おいコラ法水目を覚ませ!」
ゴンッ! と上条に頭をぶっ叩かれ、ようやく焦点が定まった。金属探知機のゲートはもう目の前、
上条、
「よし、大丈夫だ。搭乗まで時間もないようだし急ぐとしよう」
「おぉそうかよかった、じゃあ早く行こうぜ法水」
上条と頷き合い、叩かれた頭を摩りながら一歩を踏む。気を引き締め直さなければ。この修道服を留めている安全ピンは宗教上の理由ですと
あんな、あんな口づけ一つで全く……。この先はこんな事ないようにしなければ。
ブー。
光るランプとブザーの音。荷物検査をしている職員の苦笑いが俺に向いた。
「あのーお客様? 何か金属の類をお持ちですか?」
「あー、笛です。金属製の。ほら懐に八本」
「は、はあ、それも宗教上の理由ですか? なにをしにイギリスまで?」
「
「は、はあ?」
「おぉい法水まだダメじゃねえか⁉︎ すいませんコイツミリタリーオタクなんです! ほら行くぞ! もう行くぞ! あっはっは!」
「ま、まごいちがポンコツになっちゃってるんだよ……」
誰がポンコツだ誰が。分かった、落ち着こう。息を吸い息を吐く。静かにゆっくりと。無理矢理緊張感を引き上げて今不必要な情報を外に追い出す。若干引いた顔をしている上条と禁書目録のお嬢さんに鋭い目を向けると、より一層引かれた。
いや、もう本当に大丈夫だって。
「はぁ、それにしてもイギリスかぁ」
土御門が用意していた旅行セットが詰まったスーツケース。そこから取り出した簡素なワンピースに着替え終え戻って来た
「そういや、イギリス清教の本拠地からお呼びがかかっているって事は、お前の生まれ故郷に行くって事なんだよな」
「うーん。あんまり実感はないんだよ。私は一年ぐらい前より昔の思い出はないからね」
首輪だかなんだかのせいで、上条に会うまで一年毎に記憶を消していた
「気になるなら時の鐘に丁度いいのが一人いるぞ。
「おぉい⁉︎ 急に変な売り込みすんじゃねえ!」
「うーん、気にはなるけど大丈夫かも。今はとうまとの思い出があるし。まごいちとか、はるみとか、くろこや、まいかや、こもえも居るし寂しくないんだよ!」
そう言われると俺からはなにも言えない。思い出の中に俺まで入れてもらえるとは光栄だが、どうも気恥ずかしい。「インデックス……」と隣で感極まってるツンツン頭のことはほうっておき、発着ロビーに差し掛かったところでピタリと上条は足を止めた。一面ガラス張りの発着ロビー、その先の薄暗い夜の滑走路には幾つかの旅客機が止まっており、上条の視線の先には、俺たちが乗る予定の0001便が待っている。
時速七千キロオーバーでカッ飛ぶイカした奴が。
それを見つめて動きを停止した上条と
「おいインデックス」
「なぁに、とうま」
「……あの便はわざと諦めて、キャンセル待ちでも良いから次の飛行機に乗ろう。もっと普通で、人体の害にならない飛行機に」
「私はとにかく、ご飯が後ろへ飛ばないひこーきなら何でも良いんだよ」
「そんな訳だから法水」
いや、どういう訳?
固い握手を交わしている上条たちの中では既になにかが決定したらしく、『もう次の飛行機までどう時間を潰そうか、ってか払い戻せんのこのチケット』モードに移行している。俺の仕事は護衛のみで輸送任務という訳ではないから別に構わないが、それでいいのか本当に。いや、よくない。だいたい武器はほとんどあっちだ。
「……よし、分かった。俺がここで軽くお前たちの意識を飛ばしてやるから、そうしたらどんな飛行機だろうが関係ないな!」
「ふざけんな⁉︎ 逃げるぞインデックス! あの飛行機が出ちまうまで逃げれば俺たちの勝ちだ!」
「いくら私でも機内食の楽しみは欲しいんだよ!」
「こら待て逃げ──ッごほ⁉︎」
「とうまの薄情者ーッ!」
上条に
飛行機? 当然乗り遅れた。