幼女サイボーグ ①
暑い。
とにかく暑い。
夏というのは嫌いではない。暑いからこそ夏というような気もするし、夏に飲む冷たい飲み物もアイスを食べるのも最高だ。汗を掻くのも悪くない。だからわざわざ夏にクーラーの効いているところに赴くというのは、俺からすれば勿体無いことである。しかし、人は快適というものには逆らえないのだ。それが正しいのかどうかも分からないが、快適という悪魔の
だがそれでいいのか?
折角の夏だぞ。
コレを過ぎるとまた夏が来るまで一年も掛かる。
一体どうすればいいというのか。
「なあどう思う?」
「知りません‼︎」
そう言って初春さんはそっぽを向いた。
ファミレスのドリンクバーから取ってきたアイスティーを美味しそうに飲みながらの拒絶の言葉。言うか飲むかどっちかにして欲しい。落ちかけた太陽に照らされてオレンジ色に染まる初春さんの顔と琥珀色をしたアイスティーの取り合いは素晴らしいが、そんなことをわざわざ口にするほどキザでもないので俺も目の前に置かれたコーヒーを飲む事にする。何故かファミレスにあったスイスコーヒー、学園都市の手の広さには感心してしまう。
禁書目録の件も片付き、ようやっと初春さんと木山先生の話ができるようになったのが七月の終わり。それからもう今日で一週間。相変わらず初春さんは木山先生の居所を教えろとせっついて来るのだが言えるわけはない。今俺の家に居るんですよーなんて言ったら最悪俺もお縄だ。どんな疑惑をかけられるのかも分かったものではない。逃亡の手助けとかならいいが、女教授を監禁とかだと俺は社会的に終わりだ。この一週間で初春さんに呼び出されたのはもう四回目になるのだが初春さんは変わらず。初春さんとのデートは俺としても楽しいからいいのだが、いい加減この尋問の無意味さに諦めてもいいのではないだろうか? 後なぜいつも会計の支払いが俺持ちなのだろうか?
「いいから早く木山先生の居場所を教えてください! 私だって暇じゃ無いんですから」
「そう言いながら初春さん一人で来ているあたりあんまり捕まえる気ないんだろう? 大丈夫だって、木山先生ももう悪巧みなんてしてないし」
俺の頼みでAIMジャマー作ってるところだからね。
「それは……」
「白井さんや御坂さんなんかを連れて来てないあたり本気じゃ無いのは分かるよ」
初春さん優しいしね、木山先生が純粋悪ではないということは一緒に行動して分かっている事だろうし、何より木山先生の言った通り
「……はあ、それよりも気になることがあるんですけど法水さん、御坂さんに何をしたんですか? あれからすっごい御坂さんに法水さんが何者なのか問い詰められるんですけど。国連なんかが関わってるから話すわけにもいかないし、法水さんが
日頃から風紀委員の仕事でストレスが溜まっているのかポツポツと、次第に激流となって初春さんの口から愚痴が飛んで来る。聞いた話では先日も衛星誘導車なるものがジャックされて初春さんが招集されたというし、扱き使われているようだ。だがご愁傷様なのは初春さんではなくジャックした輩だろうが。小刻みに体を揺らしながら愚痴を言い続ける初春さんは呪いの人形のようで少し怖い。
「しかも佐天さんが
「なに?」
おっと、今すごい気になるところがあった。
「え、ですから能力者殺しの」
「佐天さん能力者になったの⁉︎」
「そっちですか……」
そっちって、それしかないだろ気にするところなんて! ついつい手に力が入るくらい驚いてしまった。後半のは聞かなかった事にする。わざわざ自分から明らかに危険そうなものに手を出すのは、この学園都市では洒落にならない事が前回よく分かった。触らぬ神に祟りなし。タダ働きは御免だ。
それにしたって佐天さん! やったな! おめでとう!
祝電の一つでも披露したいが本人も居ないのに騒いだって仕方ない。が、どうしても口は笑みの形になってしまう。
「いやいや、佐天さんにおめでとうと言っておいてくれ。なんなら
「それは佐天さんに聞いてみますけど、それより能力者殺しの通り魔の件なんですけど」
「おいおい」
両手を上げて降参のポーズ。どうしても初春さんはその話を俺にしたいようだ。まあ話を聞くだけならいいかもしれない。だからそう困った表情を向けないで貰いたい。
「はあああ、それで?」
「はい、実はこの能力者無差別通り魔殺人と言える事件は何ヶ月も前からあったそうなんです。路地裏で度々能力者の遺体が見つかっていて。これまでその残虐性と犯行の手口から全て同じ犯人だと
「なんと言うか、ゆっくりした話だな」
「犯人の背格好もなにもかも不明だったので、悪戯に不安を煽るだけだと隠されていたみたいです」
よくある話だ。そう言える。
別に殺人鬼なんて珍しいわけではない。ただ場所が場所だ。この学園都市では犯罪者が能力者なんていうことはザラで、それも能力者を殺して廻っている危ない奴。普通じゃない。自分の力を試したいのか示したいのか。この街には能力に対してコンプレックスを抱く者が多過ぎる。それは
「で? 犯人の目星は?」
「それが……目撃者の話だと落ち武者みたいだったと」
「は?」
急に話が胡散臭くなったな、なんだよ落ち武者って。魔術師? 魔術師なの? いきなりオカルトワールドに突っ込まないでくれ。夏だからってわざわざそんなものを引っ張って来なくてもいいだろう。それとも怪談でしたというドッキリだろうか。
「あの……」
「だって目撃者がそうとしか言わないんですよ! 私だっておかしいとは思いますけど……、法水さんはどう思いますか?」
いやどうなんて言われても、知らんとしか言えないぞ。俺は別に犯罪捜査課の刑事ではない。あえて言うなら追われる側だ。それに犯人は落ち武者なんですと言われてもね。霊媒師でもないから除霊もできない。
「なんで俺に聞くんだ?」
これに尽きる。すると初春さんは言いづらそうに目を泳がせて、誤魔化すようにアイスティーに口を伸ばした。ああ、なるほど。おそらく餅は餅屋という理由か。というかわざわざ風紀委員でもない俺に聞くのならそれ以外に理由が見当たらない。初春さんの知り合いで多分唯一人を殺した事がある人間。しかし俺と落ち武者では状況や場所が異なるためなんとも言えない。俺の場合はそこに居る者等しく死がゴロゴロ転がっていた場所だ。誰が死んでも死亡報告はされるが犯人がどうのこうのと煮詰めるのは稀。畑が違うんだから取れるものだって違う。
「遺体の写真は?」
「一応ありますけど、本当に見るんですか?」
小さく頷くと初春さんは持って来ていたノートパソコンを少し操作して画面を俺に向けてくる。初春さんは自分の体で画面を隠すように向けて来たことから周りの他の客に見られては困るようなものなんだろう。俺は初春さんの肩に肩を引っ付けるような形で画面を覗き込んだ。
酷い。
画像を見て俺は眉を
それは死んだ瞬間を固めた遺体の顔で分かる、顔には傷もなく足も綺麗なものだ。ただそれが数メートル近く離れておらず、間に血の池を作ってなければの話。それには胴体が無かった。強引に引き千切られたと見られる肉の断面からは背骨が剥き出し、内臓が僅かに繋がっていたという証を残している。しかも生きたままやられた。白目を剥いて舌を突き出した絶望の顔。それがそう物語っていた。
初春さんも少しの間画面を見ていたが目を背けてすぐに画像を閉じた。俺は見慣れているからいいとして、まだ中学生の初春さんにはキツイだろう。俺もまだ初春さんくらいの歳の頃は慣れなかったからな。
「……被害者は
「だろうね、それに分かったこともある」
「何ですか?」
殺し方だ、暗殺ならこれはない、見るからに悪意がある。
仕事で殺しを請け負う場合、プロになればなるほど静かに洗練されていく。生か死か。その結果だけにしか興味がなくなっていくからだ。だから遺体の破損具合からその線は消す。
「それに周りの状況だな。壁は焼け
「同じように、周りもボロボロで」
「なら犯人はバトルマニアなんじゃないか? そうとも言い切れないけど。現場の防犯カメラの映像は?」
「それが現場の殺害推定時刻の映像には何も映っていなくて、少し経つと惨状の映像に切り替わるんです。つまりダミー。法水さん、この事件なにか裏があると思いませんか?」
思うよ、めっちゃ思う。思うからこそなんで俺にその話をしたのか。これじゃあふとした時に気になっちゃうじゃないか。初春さんの真面目な顔を見ると少しも考えていないと信じたいが、俺を巻き込むつもりじゃないだろうな。
「悪いが初春さんここまでだよ。これ以上首を突っ込むならそれは仕事だ。それともまた俺を雇うかい?」
「うっ、そう何度もお支払いできる金額じゃ……いいじゃないですか、協力してくださいよ。一般市民が警察組織に協力するのは義務じゃなかったんですか?」
「あの時の初春さんたちの中では俺は一般市民だった。でも今は初春さん俺が傭兵だって知ってるだろう? それで、どうなんだ?」
「うぐぐ、意地悪なんですから」
交渉しているだけありがたいと思って欲しい。一週間でまた何か問題を起こしたなんてボスに知られたら大変だ。一応俺の仕事の優先順位としては大元に学園都市の監視がある。やたら緩い国連ではあるが、その理由を一週間で自分なりに考えてみた。
おそらく国連はもっと俺に学園都市の奥深くに入って欲しいのだ。それがやたら緩い理由。わざわざアレを調べてこいコレを調べてこいと言わないのは、各国の欲しい情報が違うのと、国同士の牽制によるものだろう。
科学側と魔術側の両方からある程度知られている時の鐘。俺たちに監視を頼んだのは、金さえ払えばある程度どんな仕事もする最高峰の傭兵を雇えるとなれば仕事を頼む者が学園都市の中からも現れると見越してのことだろう。事実土御門は何度か仕事を持って来ているし、俺が我慢できずにちょっと手を伸ばしただけで大きな獲物が釣れた。
そうして得られる情報を国連はおそらく欲している。しかし、だからといって俺が調子に乗れば学園都市に目を付けられるのは他でもない俺だ。もしそうなれば俺一人などコールタールのようにドロリとした学園都市の闇に飲まれてすぐに潰されてしまう。そうなった時のために国連も明確な指示を出さないのだろう。
俺は蜥蜴の尻尾なのだ。
だからこそこうも短期間に立て続けに目立つのはマズイ。学園都市は逃げ場の無い鳥籠で、中には猛獣がおり俺は蜥蜴の尻尾で跳ねるだけ。学園都市が本気になれば俺はすぐに食われる。所詮予想ではあるが、そこまで的外れでもないと思う。しかしそんな予測を元に依頼を蹴ることは立場上できないため、報酬金を盾に初春さんから折れてくれるとありがたいのだが。
「でもそうするときっと白井さんがまた一人で突っ走って、きっと大怪我しちゃいます。こんな事件絶対白井さんは見逃しませんから。法水さんはそれでもいいんですか?」
クソ、初春さんめ、情に訴えかけてきやがった。
少し涙目になって上目遣いをするその攻撃は俺に効く。初春さんが本気ならそれはそれでダメージが大きく、演技だとしたら大したものだ。見ず知らずの他人ならいくら死んでも「あっそう」で終わらせるのだが、気に入っている者が殺られるのは俺でも嫌だ。それに初春さんみたいな優しくて強い子にお願いされると、ついついいいかなと思ってしまう。悲しき男のサガよ。
「いやあ……それは……困るなあ」
「ですよね‼︎ 法水さんだって白井さんと仲いいんですから、最初は法水さんの方から力を貸してくれたわけですしもう一度くらい!」
急に元気になりやがって……演技だったか! 初春さん大人しそうな顔してるくせに見た目より
「じゃあ代わりと言ってはなんだけど木山先生の件は見逃してくれよ。初春さんが敵に回らないだけで俺は随分と気楽だ」
「うう、また痛いところを。まあ私一人が追わなくても追っている人はいっぱいいますからいいですよ。
「じゃあ交渉成立だ。それで? その白井さんは?」
「白井さんは今この事件とは別の件で動いています。渋々という感じで乗り気ではないみたいですからすぐにこの通り魔事件に移るかと」
ただでさえ面倒そうなこの事件以外にも多くの事件が起こっているあたり学園都市の治安て世紀末並みなんじゃないだろうか。最先端科学を売りにして輝かしい街を演出してはいるが、その実情を知ると頭痛しかしてこない。学園都市の外にいる一般人はそんなこととは露とも知らず親が子をここに通わせているのだろうが、俺だったら自分の子供はスイスに居て欲しいな。科学より自然だ。
「別の件て?」
「はい、最近学園都市の人通りの少ない路地にマネーカードが落ちているという報告が多く上がっていまして。カードの金額は下は千円から上は五万円を超えるものまで、それを巡っていざこざが多く起きてるんです。風紀委員としてはそれを見逃すわけにはいきませんからね」
「だからパトロールか、大変だね風紀委員も。誰がばら撒いてるのか知らないけど暇な奴もいたもんだ」
成金みたいな散財の仕方だ。そうやって一般人が地べたを這いずり回る姿でも見て楽しんでいたりするのだろうか。それもわざわざ人通りの少ない路地なんて……路地なんて……あれ?
「なあ初春さん、それってヤバくないのか? 能力者の無差別通り魔殺人事件て路地裏で起きてるんだろ?」
「あ」
その大きく口を開けた初春さんの姿を見て、俺は言いようのない不安に駆られた。通り魔事件とマネーカード騒ぎに繋がりがあるのかは分からないが、絶対によくないことがこれから起こると。初春さんが白井さんに電話を掛ける。そしてそれが繋がることはなかった。
***
なぜこんなことをしているんでしょう。と、白井黒子はウンザリしながら薄暗くなってきた路地を歩いている。とはいえ学生たちは別に犯罪を犯しているわけではなく、落し物を拾っているだけのため強く注意もできず、細い路地ですれ違う学生たちに早く寮に帰るように促す以外に方法がない。どちらかと言えば荒事の方が自分には合っていると黒子がため息を吐きながら歩いていると、また一人下を向きながら学生が歩いてくる。
「面倒ですの」
一人呟き納得して、前から来る学生を路地の外へと
路地裏でマネーカードを拾ったという報告が初めて上がって来たのは数日前。その時こそ初春と黒子はだから? という感じだったのだが、数日のうちに十件、五十件と増え、
黒子の相棒である初春はというと、見廻りには付き合わずに最近度々外に出て行っている。初春曰く重要参考人への聞き込みとのことなのだが、黒子からすれば何故わざわざ支部まで連れて来ずに初春の方から聞き込みに行っているのか分からない。怪しいと思い佐天涙子に黒子は探りを入れてみたりしたのだが、涙子も知らないというのでお手上げだ。その時に涙子の言った「男でもできたんじゃないですかー?」という発言が意外と当たっているのかもしれないと黒子は思ったが、どうも初春が男と楽し気にしている光景が黒子には思い浮かばないのと、自分を差し置いて先に恋人を作るなど黒子には許せないのでその線は考えない事にした。
それよりも最近黒子を苦しめているのは、タレ目の冴えない男。ただの騒音被害を頻繁に巻き起こしているスピーカー男だと黒子は思っていたのに、能力者を一撃で殴り倒すは、御坂美琴曰く
(あんのタレ目! お姉様に気にされるなんて〜〜ッ‼︎)
これだ。どんな理由であれ黒子にとって最愛の相手に気にされていることが許せない。美琴が気にするほどの徳も持ち合わせておらず、学生の分際で賭け事するような男を黒子からすれば美琴に近付けたくないのだ。近い内に初春を問い詰めてタレ目の事を洗いざらい吐き出させなければならないと、黒子は心に決めながら路地裏を歩いていると、急に怒鳴り声が路地裏の狭い壁に反響して聞こえて来た。
明らかに育ちの悪そうなガラガラ声。続いて響く何かの破壊音。糞だの死ねだのと耳障りがよろしくない単語を次々と吐き出している。間違いなく
「
風紀委員の腕章を掴み見せつけるように掲げれば、マズイというような間抜けな顔を相手は向けて来る。今回もそうなるだろうと黒子は高を括っていたのだが、そうではなかった。黒子に向けられるはずだった
「台風でも通ったんですの?」
正にそんな感じだ。倒れている者達は直接何かをされたというよりは、衝撃波で吹っ飛ばされたというように、誰もが体に裂傷を作っている。黒子が近くの一人に近付き状態を確認すると生きてはいるらしいという事が分かった。が、理解不能。とりあえず救急車を呼ばなければと黒子は携帯電話を取り出して電話を掛ける。
「はいこちら119番です。火事ですか? 救急ですか?」
「救急ですの。
「場所はどこですか?」
「場所は第七学区の」
つい黒子の口が止まってしまった。倒れた者の意識が戻ったからでも、抗争相手を見つけたからでもない。黒子の意識を引き寄せたのは、なんでもない地面に落ちている小さな石。だがそれは確かに黒子の上から降って来た。続いてまた一つ。また一つ。パラパラという小さな音が破片に打ち付けられている黒子とその頭上から聞こえてくる。
上に何かいる?
黒子が見上げようとした瞬間、大きな影が黒子を覆った。
「ぐッ⁉︎」
咄嗟に後ろへ跳んで回避する。続いて路地に反響する鈍い音。間一髪上から落ちて来たナニかに黒子は潰されずには済んだものの、手から離れた携帯が落ちて来たナニかの犠牲になった。砂埃が巻き上がり、落ちて来たモノの姿を包む。落ちて来たモノが何であれ相当の重量だ。揺れた壁が細かな破片を路地に降らし、砂埃が晴れた先から抉れた地面が姿を現わす。路地が静寂に包まれて暗闇に支配されなおされた頃、黒子の目の前に現れたのは黒い塊。
「……ちょっと」
黒子の少し笑いの混じった呟きに、目を覚ましたように黒い塊はその身を開いた。それには足があった。それには手があった。一見人の形をしてはいるが、路地の天から降り注ぐ真っ赤な夕日に照らし出された姿は人とは呼べそうにない。叩けば金属音を返すだろう重厚な肢体。暗闇を凝縮したような、黒鉄の体を持ち、頭は鎧兜を被っているように見える。何よりもおかしいのは、人の目があるだろう位置に空いている四つの穴。薄く白い光を浮かび上がらせ、呼吸するかのように一定の間隔で明暗している。
その正体が、なんとなく黒子の脳裏を過ぎった。
「ロボット?」
全身盾のように体を覆う金属と関節部分に見えるコード。キチキチと路地を叩く歯車の音。黒鉄の体は、少し身を動かすとバチリと火花を宙に散らす。人であるわけがない。人であるわけがないのに、落ちて来たソレが辺りを見回す姿があまりに人間臭く、ロボットという黒子の考えを否定した。
「貴方、何者なんですか?」
黒子の言葉に今気付いたというように黒子の二倍はある体を少し丸めて、四つの目が黒子の顔を覗き込んだ。黄泉に続いているような冷たい穴。地獄の冷気を吐き出すようにボウッとその目が光る。しばらく動かずにソレは黒子を観察するように眺めていたが、やがて小首を傾げて、キリキリとした機械音と火花を散らしながらゆっくりと黒子に人差し指を突き出す。
『
投げ掛けられたのはそんな言葉。男のような女のような、老人のような子供のようなそんな声。歯車の音と火花の音が混じったその声に生気を感じることはできない。そして、その言葉にはいいえも知れぬナニかが眠っているように黒子には感じられた。YESかNOかの簡単な二択。しかしそれこそが全てを決める運命の秤。ただ不思議と、NOと言えば助かるのではないかという直感が黒子を包む。この見た目からして屈強な鉄人は、律儀に相手の言うことを信用し、NOと言えばここから去ると。
黒子は息を大きく吐いて、ほんの僅か息を止めると、しっかり四つの穴を見返した。
「わたくしは常盤台の
『YES‼︎』
四つの穴が光を噴いた。黒鉄の扉は開かれて、特大のナニかが強く弾ける。薄く笑う黒子の小さな顔に、黒子の顔と同じ大きさはあろう黒鉄の拳が振り下ろされる。地面に転がっている破損した黒子の携帯に映った初春飾利の文字に黒子は気付かぬまま、黒い隕石は大地を割って、その文字を永遠に消してしまった。