人の声も引き潰され聞こえない爆音の中、一人運転席で頭の後ろで手を組みトラックの狭い天井で微睡む紫煙を見つめる。不規則に襲ってくる強い振動にトラックが突っ込んだ駅は身を震わせ、崩れた天井の欠片がトラックの屋根をパラパラ小突いた。
カレンも上条も神裂さんも
とは言え、誰が敵でどんな状況かが分からない混沌とした中に蹴り落とされた訳でもないのだ。戦力の結集も終え、目標はバッキンガム宮殿の舞台上。舞い落ちてくる扇状の裁断機。それと激突し弾ける眩い魔術砲撃。一国のクーデターで巻き起こっているとは思えない規模だ。国同士の戦争だと言われた方が納得できる。
時を積み上げ、技術を磨き、ようやく作り上げただろう歴史ある建物の多くが削れ倒壊している。どれだけ素晴らしいものを作り上げようとも、諦めたように振るわれた破壊槌の一撃に、脆くも崩れ去っていく。
それは人も物も変わらない。
磨いた技術を持っていても、ここでただ見ているだけでは錆びていずれ腐り落ちるだけ。使ってこその道具であり、使ってこその技である。どれだけ果てし無く無謀な道に見えたとしても、目標が視線の先におり自分が健在なのであれば、引き金を引く事と技術を振るう事に躊躇する理由もない。ただ目標目掛けてカッ飛ぶだけだ。
終わりの見えない道を進むより、目標が定まった方が迷わず進める。それもただ一人、上がってしまう口端を一々覆う必要もない。
国という多くの者が根を張る土地を守る為、その上に築かれたなんでもない日常が跡形もなく消えてしまう事がないように。キャーリサさんの国を憂う気持ちも分からなくはないが、全ては国の歴史、ひいては国民の為であったとして、それで結局どちらも脅かしていてはキリがない。スクラップアンドビルド、破壊の後に創造があったとしても、壊すものとその度合い、新たに建てるものとを秤に乗せて、どちらが大事かは言うまでもない。
イギリスは確かに窮地に立たされているのだろう。
英仏海峡トンネルは潰れ、旅客機すらもテロの危機、それと戦うために弱いところを切り捨て出したら、それこそキリがない。弱いと知っているから強くなれる。そう俺は信じている。初めから自分は強い周りは弱者と考えているのなら、誰もここには立っていない。
『弱さ』とは足枷になり得るのかもしれないが、『弱さ』があるから『強さ』が生まれる。『弱さ』がなければ『強さ』もなく、向かう先は周りを見下し四面楚歌の中での不毛な奈落だ。そんな死出の旅に一般民衆を付き合わせるわけにはいかない。他人の描く物語達を、勝手に巻き込むのは駄目だ。
地獄のような未来を穿つため、一発の弾丸として懸けられるものがあるのなら、そのために人生を描けるのなら、喜んで白紙に筆を走らせる。輝かしい何かの中に必死はあると信じるが故に。暴力に掻き混ぜられる世界に足を落とした。
アスファルトは捲れ、木々はへし折れ、建物が積み木の城のように絶えず崩壊している破壊の道。一度トラックで駅に突っ込んで正解だった。投げ出された先が道の上であった場合、破壊の嵐に巻き込まれて上下左右も分からず潰されていた可能性が高い。それにこの中を集団で移動するのも無理だ。いくら空からの爆撃がランダムであろうとも、規則性がないからこそ、全ての動きを読むことは不可能に近い。そこを穿たれた場合、最悪キャーリサさんの元に辿り着ける人材がいなくなる。
遠巻きに
「……後は運だな」
遠回りしても、直線で動いても同じなのなら、最短で道を進むべきだ。ここが危険地帯であるだろうことなんて、来る前から分かっていた。にも関わらず、ここまで来て一度安全圏まで離脱は有り得ない。超遠距離からの狙撃を試みたとしても、爆撃が邪魔で弾道はどうしてもブレるだろうし、なら究極当たるとこまで近寄ればよろしい。
だからこそ、周りの者が安全そうな道を迂回する中、一直線にバッキンガム宮殿に続く道を駆け抜ける。降り注いで来る全次元切断の残骸物質を睨み上げ、その軌道をかなりの範囲で予測し一足先に足を向ける先を決める。落ちる先がランダムであるとは言え、ある程度の距離まで落ちれば、落ちる先は決まってくる。衝撃によって吹き飛ばされようと、鍛えた地を転がる技のお陰で、体勢を立て直すのにそこまで時間は掛からない。
誰もが前に進んでいるからこそ、誰かを守っていられるような余裕は俺にはないが、それならそれで誰より早く目的の場所に辿り着けばいいだけのこと。
誰もが同じ目的で動いているからこそ、やるべきことは変わらない。
即ちクーデターを終わらせるため、キャーリサさんを誰かが止める。跳ねた瓦礫が頬を裂き、生まれた地割れにバランスを崩しそうになりながらも、這いずり転がるように前へと進む。
遠くバッキンガム宮殿の庭園の前に垣間見える人影。
赤いドレスと緑のドレス。
振られる王の刃と次元の切断される空に溝を掘るような独特の音が響く中で、黒いツンツン頭が揺れている。ヴィリアンさんも上条も、巻き込まれてわたわた最初はする癖に、誰より早く辿り着いているとか笑えない。いや、笑える。
「くくっ……だからお前達みたいのには敵わないんだ」
港に立つ灯台のように、行き着くべき場所を照らすように、正しさで道を照らす者。薄暗い世界の住人であっても、ついその光の先に歩を進めたくなってしまうような暖かな輝きに目が惹かれ、笑みが生まれ、踏み出す一歩に力が増す。
そんな力の入った一歩を、ゴッ! と吹き荒れた暴風に攫われそうになった。
頭上を通過する黒い翼。爆撃の最中悠々と空を泳ぐ、エイのような黒い機影。バッキンガム宮殿の上で旋回している、旅客機程の大きさはある鋼鉄の怪鳥がなんであるのか、少なくとも味方には見えない。こちらに要塞があるように、向こうにも奥の手があっただけの話。
伏兵や騎士の姿がない中で、キャーリサさんが一人立っているのはこれが理由か。鋼鉄製の側仕えを控えさせていたからだとか分かるわけないだろう。
キャーリサさんに誰より近い上条が、右拳を叩き込もうと地を踏むが、全く間合いでなさそうなのに、剣を振るった余波で生まれる謎物質や、純粋な格闘で上条をお手玉しているキャーリサさんの方が上手だ。それを可能にしているのも、カーテナより与えられる『
キャーリサさんの蹴りで数メートル吹っ飛び転がった上条の横、空に浮かぶ怪鳥の影から馬上槍のような赤い物質が浮き上がる。空を舞う怪鳥の動きに沿って、高速で動いた馬上槍のような赤い杭は、そのまま遠慮もなく地を削り上条の身に直撃する。
「ごォォああああああああああッ⁉︎」
一瞬ひやりとしたものの、爆音の最中それを破り響いた上条の絶叫と、のたうつ動きに安堵した。少なくとも体が切り離されているわけでもなく、五体満足である様子。もう遠かろうが見える位置にはいるものの、近寄る程にキャーリサさんと怪鳥の一撃に揺れる大地の所為で足が取られ距離が思った程縮まってくれない。歯噛みしたところで、距離が
ただ、そんな中で少年の叫びが鼓膜を叩いた。
「テメエと違って……俺の仲間は仲間を見捨てたりなんてしねえッ! 空のデカブツには俺じゃあ手が届かないかもしれねえけど、手が届く奴が居てくれるッ! ……の、りみずぅッ! お前のことだし一直線にもう来てんだろッ! キャーリサは任せろ、だから空のデカブツは任せたッ!」
「ここに姿もない奴の名を叫んで何がしたいし! どうせ瓦礫の下に埋まっている!」
二人の薄っすら届いた声は風に流されすぐに消え去ってしまう。まったく……、俺をそこまで信用する根拠がどこにあるのか。禁書目録の時も、
だが……しかし……。
そんな風に名前を呼ばれちまって頼まれたら、応えなければ傭兵としても友人としても、何より俺の
懐から取り出した
弾丸を込めボルトハンドルを引く。
俺が声を張り上げても上条達まで届かないかもしれないが、届く鐘の音がこの手にある。新しく旋回して来た怪鳥に向けて白い山を構える。防御術式があろうが、装甲が硬かろうが、
「よし」
上条への返事に
その音こそが時の鐘の証。
ここに居ると知らせる鐘の音と、天を射抜かんばかりに突き立てられた目立つ白銀の槍こそが、敵にも味方にも来たことを教える御旗となる。
呆けた二つの顔が遠くから俺を見つめ、
「法水ッ!」「
喜びと怒りの顔を同時に受け取ることはままあるが、これだけ分かりやすく受け取ったのは初めてだ。二人の叫びを飲み込んで、空から落ちて来る魔術砲撃をキャーリサさんは舌を打ちながらカーテナをバトンのように一度回し、全次元切断によって生まれる飛沫の盾で呆気なく防いだ。押し寄せて来る土煙に目を細める中、そのまま盾を剣に引っ掛け、キャーリサさんが剣を横薙ぎに振るった衝撃に、大地は捲れて上条を巻き込みながら吹き飛ばす。
大きく飛ばされた上条と、前へと進む俺の距離がお陰で一気に近付く中、土砂に埋もれていた足を引き抜いた上条の太腿を貫き朱に染めている小枝。それを掴み引っこ抜いて叫ぶ上条と、どう手当てしたものかとオロオロしているヴィリアンさんにようやっと追い付き、俺は上条の襟を掴んで引き立たせた。
「痛みで叫んでいる時間はない、筋肉に力を込めて締め付けで止血しろ」
「無茶言うなッ⁉︎ くっそ……ッ、でも、やっぱり来てたな。インデックスの時も
「褒めるなキモい。仕事だ仕事。それに仕事はまだ終わってない」
痛む足を押さえる上条と俺の前にゆらりと赤いドレスが揺れる。第二王女の立ち姿に、背筋が冷たくなるものの、どうにも口の端が歪む。
「……
静かに、ただ事実を告げるように、表情を消したキャーリサさんが立っている。手にした剣を揺らすだけであらゆる物を切断せしめ、人の枠を軽く飛び越えた肉体稼働能力。
「戦って勝てると思ってるのが間違いなのではないの、たとえ楯を突いても本気で逃げよーと思えば生存できる。……そんなレベルですら、すでに認識を誤ってるの。天使長とは、国家元首とは、そーいうものを意味してるんだし」
「んくくっ、ふふ、あっはっは」
思わず沸き上がって来た笑い声を堪える事が出来ずに口の端から笑いが漏れる。何がおかしい? と言いたげな顔で首を傾げたキャーリサさんの前に手のひらを向けて、悪いと返そうと思ったが笑えて仕方ない。その力は絶対でも、無理矢理暴走させられた御坂さんや、誰かの為に立った一方通行とは絶対的に異なる点がキャーリサさんにはある。
「いや……すまない。随分見目麗しいガキ大将だと思って。くくくっ、結局腕力が強い奴が偉いって? キャーリサさんは英国を石器時代に戻したいのか? 楯突いても逃げようなんて、そんな事なら俺も上条もそもそもここにはいないんだよ。天使長? キャーリサさんは大事な事を忘れてるんじゃないのか? 偉そうな称号掲げても、結局同じ人間だってな」
どれだけ偉かろうが、どれだけ強かろうが、魔術を使っても、超能力者であったとしても、人は人の枠組みからは外れない。例え外れそうになったとしても、それを引き止めてくれる誰かがいるからこその人なのだ。だがキャーリサさんはただ一人。強さで率いる。それもいいだろう。だが、その率いている者がいったいどこにいると言うのか。見回したところで、キャーリサさんを守ろうなんて人影はない。
「誰かがいるから人なんだ。尊敬できる目標や、愛する隣人、勇敢な戦友、誰かがいるから自分で居られる。周り全員敵に回して、敵がいるから自分は自分だと言う気なら、随分寂しい王様だな」
「そうだ、お前を慕って力を貸してくれた奴も居たんじゃねえのか? なのにそんな奴らにも剣を向けて、その手の剣はそんな事のためにあんのかよ? 違うんだろうが! 誰よりイギリスの事を考えてるって言うんなら! それこそお前が本当は一番分かってるんじゃねえのかよッ!」
痛む足を軽く振り、右の拳を握った上条が隣に立つ。平坦だったキャーリサさんの表情の中で、眉が傾き、目が細められた。第二王女が手に握る首を断つ断頭台の刃が揺れる中、俺も
「英国の民でもない異国の者風情が何を吐くかと思えば……命乞いならまだしも私を前に喧嘩を売るか、自らの寿命を縮めたな……イギリスの民でもないお前らが……」
歯噛みしてカーテナの柄を握り締めるキャーリサさんは、いつその手に持つ刃を振るってもおかしくはない。上条が身構えようとする中で、
「……時間は稼いだ。馬鹿は俺達だけじゃないのさ」
キャーリサさんの体が僅かにブレたように見えた。それが何の動きかは分からなかったが、答えはすぐ目の前に並べられた。
ギャキィィィィンッ‼︎
鉄同士のぶつかり合う重い音が弾け逃げきれなかった衝撃が火花となって目前で散った。俺と上条の間から伸びる日本刀の刃文が月明かりを反射する。振り上げられそうになったカーテナの刃を上から押さえ付けている太刀を握る者が誰なのか、そんなの見なくても分かる。振り返った上条が、天草式の女教皇を目にしその名を呼んだ。
「神、裂……それにッ」
「私だけではありません。皆もすぐに追い着くでしょう。……インデックス。魔術の解析を申請します。『王室派』からの圧力で一〇万三〇〇〇冊に偏りが生まれ、カーテナ関連の術式は記憶されていない可能性もありますが、既存の魔術知識のみで再分析は可能でしょうか?」
「制御を奪うか、封じるかだね。分かったんだよ」
「インデックスッ!」
聖人と魔道書図書館。カーテナを前に当然のように了承するあたり、
「主戦場に到着する事すらままならなかった雑兵が、今さら戦の主役にでもなれると思ってるの?」
「どこかの物知らずなお姫様が市街地で派手にやってくれたおかげで、少々手間取りまして。いくつかの構造物が一般人ごと劇場を押し潰そうとするのを、迎撃する必要があったんですよ」
あの爆心地の中で周りを気にする余裕があるとは羨ましい。神裂さんとキャーリサさんの瞳がかち合い、地面に凹みを二つ残してその姿が消える。視界の端々で点滅するように蠢く影を見送り、そのまま煙草に火を点けた。
「いや法水⁉︎ 呑気に煙草吸ってる場合じゃねえ⁉︎」
目を瞬き、自分は自分で何か出来ることはないかと走ろうとする上条の肩を掴み引き止める。そもそもカーテナを手に持つキャーリサさんを、俺だけで倒せるとは思っていない。『軍事』、戦闘に特化したキャーリサさんを、上条一人でも倒すのは無理だろう。それを抑えられる戦力がようやく到着してくれた。神裂さんの負担を減らすため、キャーリサさんの気を逸らしたいのは分かる。なら俺の役目も決まっている。
「上条、俺達の狙いはあっち」
「あっちって……グリフォン=スカイ⁉︎ いや、法水は届いても俺は──」
「あぁそんな名前なのかあの怪鳥は。いや、上条お前が必要だ。その訳はだな」
「くたばれ」
「法水ッ⁉︎」
上条の視線の先で土煙が舞い上がり、その叫びに反射するように
「狙撃に集中すると周りに気を配れない。周囲の警戒を頼んだ」
「それはいいけどキャーリサは」
「他の者に取り敢えず任せようか」
地面を
建宮さんや五和さんの所属する新生天草式、アニェーゼさんやルチアさん、アンジェレネさんが所属するアニェーゼ部隊、ゴーレムを繰るシェリー=クロムウェル、オルソラさんと
続々と姿を現わす者達を横目に、
「っし」
震えた空間を引っ張るように振動の槍がグリフォン=スカイの一機にぶち当たり、捻れた翼に引っ張られるように、また一機が地に堕ちた。打ち鳴らされる舌打ちが背後から聞こえるが、直後に弾けた剣戟の音に飲まれ消える。それを追うように神裂さんの叫びが聞こえた。
「対キャーリサ班と対グリフォン班に分かれましょう! 移動要塞の高度は二〇~五〇メートル前後……ペテロ系の撃墜術式が通用する高度です。牛深、香焼、野母崎! あなた達で、時の鐘を援護しながらあれを落とすための術式を構築できますか!?」
「やってはみますが、向こうもデカいシールドで保護しているでしょう。我々で削り取れる保証はありませんよ!! だってのに時の鐘のアレは何なんですか⁉︎」
「……スイスの歴史は傭兵の歴史だ。古くからあった魔術に対抗するため、魔術を磨いた者もいたが、それを魔術と知らずに立ち向かわねばならない者達もいた。そんな者達が長い年月を掛けて生み出したのが特殊振動弾なんだよ。銃弾に刻まれた独特な形状の溝が空気に螺旋回転で噛み付き独特の振動を生む。古くは銃弾じゃなくて矢だったそうだがな。霊装でもなく。魔と戦うために削り出したスイスの歴史と技術の結晶だ。ただ振動をぶつけるだけではない。揺れ動いた空間と動かなかった空間との摩擦、それを捻り突き進む弾丸を阻むのは容易ではない。弾丸を阻んでも振動が残り、振動を無効としても弾丸が残る、弾丸自体も微振動しているからな。電磁力で止めるのも火で焼け落とすのも容易とはいかない。極小の世界を飛ばしてるのと変わらないのさ。……はい三機目」
説明しながら弾丸を放ち、鉄の巨体がまた一つ大地に突っ込んでいく。そうは言ってもこの弾丸、作るのが結構大変だし、そもそも撃てる銃自体がほとんどない。元々アバランチシリーズの二丁だけであって、それも振動を逃がす機構を兼ね備えなければならなかったために巨大であった。それを
「傭兵! それ幾らか寄越してくださいッ!」
「了解」
空を指差す神裂さんに返事をし、回遊している一機の先端部分をカチ上げるように銃弾をぶち当てれば、バランスを崩したグリフォン=スカイが後ろを飛んでいた四機を巻き込み足を緩める。翼を狙った訳ではないため墜落させる事は敵わなかったがそれでいいらしい。グリフォン=スカイの影から生まれる馬上槍のような杭は、その動きがグリフォン=スカイと連動しているためか、折り重なった馬上槍を掴み引っ張る神裂さんに動きに、上空の怪鳥達も連動する。
航空機能を失い、聖人の膂力に振り回される機体はただの鉄の塊と変わらない。振り下ろされる鉄塊はキャーリサさん目掛けて急降下し、ズッ! と空気のズレるような音と共に振り上げられたカーテナ=オリジナルに容易く両断される。
「くそっ!! 移動要塞五機分の鉄槌だぞ!?」
「……目で見えるものを馬鹿正直に真正面から放ったところで効果はなさそうだな。意識外からの一撃か、純粋に実力で上回るか、後はお前頼みになるかな」
天草式の諫早さんの驚愕の声にそう答えを返して隣の上条を肘で小突く。切れないものはありませんというような剣に加えて、人外じみた運動能力。唯一この場でキャーリサさんと対等に動ける者が神裂さんしかいないため、他の者にできるのは今は援護がいいところだ。とは言え他の者が容易に近づけばカーテナに巻き込まれる事を思えば、『唯閃』とかいうのを使い対抗できる神裂さんの心労が増すだけ。どうせ力を貸すのなら、絵破り斧のような上条の右手で一発で終わらせるしかない。
「一応やってはみるけど、確証は持てねえぞ。どうも法則が摑めない。お前が到着する前にも何回かぶつかったけど、打ち消せる時と打ち消せない時があったんだ」
「ほぅ、あの斬撃は魔術だろうが、その結果生まれる残骸物質とやらはこの世界に足を下ろした物質であって幻想の類ではないという解釈になるからか? 難しい話はさっぱりだ。どうなんだ専門家さん」
仲間に打ち合いを任せて俺と上条の背後に跳んで来た神裂さんに問い掛ければ、断続的に飛んでくる残骸物質を弾きながら答えをくれる。
「そのようですね。魔術現象は次元切断能力のみ。残骸物質はあくまでも魔術後に生じる物理現象にすぎません。いわば、魔術の炎と燃え尽きた灰の関係でしょうか。あなたの右手は『斬撃』そのものを打ち消す事はできますが、そこから生じる残骸物質までは対応できないのでしょう。……あの鋭すぎる斬撃は、物体を切断してから現象が表出するまでにラグが生じるようですし、具体的には全次元切断後一・二五秒後に切断面としての残骸物質が三次元空間に出現します。攻撃後一・二五秒以内に通過地点を攻撃すれば、斬撃を打ち消し残骸物質の出現を止められるでしょう」
「シビアだな」
餅搗きの合いの手のように、杵が振り上げられ振り下ろされる間に手を滑り込ませるようなものだろう。それを練習もなしに戦闘の最中やってみせろとは、神裂さんも鬼教官だな。
「……失敗すりゃ即座に窮地に立たされるクロスカウンター、か」
「一撃必殺同士の打ち合いなんてそんなものだろうさ、ガンマンの決闘に似てるよな」
「必ず決めろとは言いません。仮にカーテナ=オリジナルが大規模、長距離の次元を切断して巨大構造物を生み出そうとした際、手が届けば伸ばしてもらう……程度に考えてください」
「了解。焦らず機を待てってトコか」
神裂さんは一度上条の肩を叩き戦線に戻ろうと足を踏み込んだが、数瞬でも神裂さんが抜けた穴は小さくない。地を揺らす轟音と共に、キャーリサさんを中心に残骸物質である白い構造群が花開き、群がる新生天草式の面々を大きく弾き飛ばす。
「五和!! 建宮!?」
「おいおい、大事な護衛対象を残して作戦会議か。狙い撃ちにしてほしーみたいだし」
上条が叫び、キャーリサさんが詰まらなそうにその叫びを掻き消す。大地を蹴り十メートル以上垂直に跳んだキャーリサさんに向けて、天に向けていた
「跳んでくれてどうも、狙い撃ちして欲しいのはどっちかな」
グリフォン=スカイを他の者も迎撃してくれているおかげで俺が動く分の隙ができた。僅かに眉を顰めるキャーリサさんに向かって引き金を引く。群衆が押し寄せている場で横に撃っては味方を巻き込んでしまうからな。歪んだ空間が押し寄せて来るのを睨み、剣を振るうカーテナに両断された空間が、キャーリサさんの背後にいたグリフォンを巻き込み大地に堕ちた。
銃の反動を足を踏み込まずに流れに乗って背後に大きく跳んだ瞬間、キャーリサさんが生まれた残骸物質を蹴り空を飛んだ。護衛対象、上条の近くには神裂さんが居るから残している訳でもない。なら狙いは一人。そもそもこれはクーデター、つまり狙いは王室だ。
俺を飛び越えヴァリアンさんを掴もうと手を伸ばすキャーリサさんに向けて
どんな身軽さだッ!
右手で
バランスを崩した俺に蹴り一発。吹き飛び地を転がる体を
「……惜しいなぁ時の鐘。『軍事』を司る私としては、お前のような兵士こそ欲しいのだけれど。イギリスの為に雇われたお前が、そっちに味方するなんて、そいつの味方をするのがイギリスの為になると判断したか? 甘いな」
「……本当に正しい事と信じるなら、例え一人しか戦力がいなかったとしても俺はキャーリサさんの味方をするよ。でも、周りを見てみろ、ここにいる誰も、戦争したいから集まっている訳じゃない。キャーリサさんだってそうだろう? ならやるべき事が違うんじゃないのか?」
「お前達はいつもそうだな時の鐘。傭兵なんてやってる癖に……戦争が始まる前なら他にも手はあったかもしれないけど、もう戦争は始まっている。のほほんとしている女王や姉妹より、お前は私に近いから分かってるはずだし。今から鞍替えでもするか?」
「鞍替えも何も、俺は最初から立場を変えてなどいない。このクーデターの核はその剣だ。ほっぽり捨てて諦めろよ。別に俺はキャーリサさんを是が非でも殺す気などない」
クーデターは国の為、ヴィリアンさんが動くのもまた同じ。同じ事を考えていながら、何故こうも手段が異なるのか。イギリスの為が仕事であるなら、どちらがよりイギリスに寄り添っているかが俺の動く原理となる。民の意志がクーデターなら俺も寄り添うが、そうでないなら残念ながら撃つべき相手だ。
「このクーデター、少なくとも騎士派がキャーリサさんに付いた時点で、全てが全て間違いという訳でもないんだろう。武力で制圧するなんて、押さえつけたところで絶対反発されると分かっていたはずだ。他でもない『軍事』の貴女なら。……それとも、自分が巨悪となり立つ事で意志を統一するのが目的か? だからわざわざ宮殿の前で一人で立っていたのか? 騎士派さえ追いやって──それなら」
「知った口を聞くなよ傭兵。
細められ、突き出される剣の切っ先が、僅かにヴィリアンさんの首元に触れ赤い筋が首元に流れる。カーテナ=オリジナルを手に持つキャーリサさんにとっては、目に見える障害などほとんど一刀両断できるペラッペラな紙と差し支えない。何より俺が動くよりも尚キャーリサさんの方が速く、人質まで手の内だ。震えた吐息をヴィリアンさんは一度吐き、強張る肩から力を抜いた。
「……これが、そうなのですね。私を逃がしてくれるために、何の罪もない使用人や料理人、そしてウィリアムが突きつけられたものは、こんなにも恐ろしいものだったのですね。……そして、その恐怖を抱えながらも、誰もが立ち向かっているもの。ならば、いい加減に私も立ち上がりましょう。一国の姫として、このような多大な恐怖から、皆を守るための屋根となれるような人物になるために!!」
紡いだ言葉の勢いを増し、顔を上げたヴィリアンさんの肩に力が戻る。首に添わされたカーテナも気にせず腕を上げ、向けたボウガンの引き金を引く。その矢はただの矢ではない。先端に霊装としての効果を付与された特殊な鏃。
「ッ⁉︎」
「ヴィリアンさんナイスだ!」
首元から離れたカーテナを目に、ヴィリアンさんと入れ替わるように前に出る。距離が近いからこそ、距離が開いているよりもある程度なら動きは読める。無理矢理肉薄して動きを抑制できれば、膂力差で吹き飛ばされようが、多少なら狙いをズラせるはず。
「夢想家共ッ」
眉間にしわを寄せるキャーリサさんの剣の間合いより更に内、抱えるように組み付いた先で、バガンッ! とキャーリサさんが避け夜空に飛んだ矢に向けて、カヴン=コンパスの大規模閃光術式が直撃する。鏃の霊装の効果なのか、眩い輝きが大質量の水へと変質し、夜空の中でゆらりとしなった。蛸の腕のように蠢く水の鞭は、空を舞うグリフォンを巻き込みながら落ちて来る。
そう、俺とキャーリサさん目掛けて。
「くそ、小細工を‼︎」
「ちょ待ッ⁉︎ 聞いてないんだけどッ⁉︎」
キャーリサさんの動きに引っ張られ、地を転がるように二人避ける。地を叩く水塊が大地を抉り、土に塗れる中で、矢がつがえられるボウガンの音と、ヴィリアンさんの声が降り注いだ。
「ご存じありませんでした? 姉君が『軍事』に優れているように、私は『人徳』に優れていると言われている事を」
「他力本願の正当化か。同じ姉妹と思うのも忌々しいし!!」
「一人より二人の方がより凄い事が出来るってものだろう。いや、お陰で助かった」
「お前はいつまでくっ付いてるしッ‼︎」
身を捻るキャーリサさんの動きに合わせるように、踊るようにその流れに乗って、振られる剣の射程のより内に身を沿わせた。抱きつくように背後から動きを固められれば、一瞬でも隙はできる。新たに頭上へとヴィリアンさんから放たれた矢が、魔術砲撃と衝突し、ゴルフボール程の大粒の雨となって降り注ぐ。
「これが他力本願の限界だ‼︎」
「馬鹿待てッ、ちょっとッ⁉︎」
人の領域を超えた膂力でキャーリサさんに引っ張られ、力任せに盾にされた。降り注ぐ豪雨の盾に。バシッ! バシッ! と雨が人の身を叩く音ではない痛い音を上げる中で、悠々と足を運ぶキャーリサさんの目尻が歪んだ。降り注ぐ雨は別に俺の身を貫く事もなく、ただ大地を潤しているだけ。
「ええ、これが他力本願の
ヴィリアンさんの声が雨に紛れて聞こえた瞬間、数多の刃がキャーリサさんに集中し、俺を掴んでいた腕を弾いた。復帰した天草式の面々が、握った武器を取り回し、人の枠から外れたキャーリサさんの動きに遅れることなく刃を振るった。恵みの雨はそのまま恵みの雨であって、攻撃用の術式ではないらしい。
「だからこう言ったでしょう。私は『人徳』に優れたお姫様だと」
「ほざけ、こんな浅知恵で勝ったつもりか!!」
群と個。
孤軍奮闘するキャーリサさんと、数多の力を借りて自らもその力に合わせて力を振るうヴィリアンさんのどちらが王らしいかと問われれば、答えは明白であろう。猛将であろうキャーリサさんも、どれだけ力が強くても一人ではできることも限られる。迫る群を斬り払うように横薙ぎに大きくカーテナを振るったキャーリサさんの剣は空を凪ぐだけで終わり、飛散する筈だった残骸物質は、伸ばされた幻想を握り潰す右手に掻き消された。一・二五秒の隙間に上条が右手を捻り込む。
その生み出された間をヴィリアンさんの矢が埋めた。
「
一度、二度とキャーリサさんを揺さぶったボウガンの矢に意識が向けられた瞬間、響いた
カヴン=コンパスと繫がる通信用の霊装を握った
「な───」
驚きの表情を浮かべたキャーリサさんが光に飲み込まれ、その輝きを歪んだ空間が真横に吹き飛ばす。地を大きく抉り引き摺ったような削れた大地の先で、もくもくと立ち上る土煙。叩き付けられ震えた衝撃に、キャーリサさんの周りにいた魔術師達を一切合切弾き飛ばされ、多くの者が地を転がる中で、隣り合う神裂さんが刀を握り直す音を聞き、ボルトハンドルを引き薬莢を抜いた。
「……流石に、今のは効いたし」
場を満たす低い第二王女の声。
土煙を払い飛ばし、変わらず剣を握ったキャーリサさんが、薄っすら己が血で肌を濡らしながら立っている。迫る閃光術式と特殊振動弾を一薙ぎで斬るように振るったか。カーテナも脅威ではあるが、何よりそれを手に持つキャーリサさんの格闘能力の高さが馬鹿にならない。
正に道具は使いようだ。愚者が手に持ったならまだしも、戦闘の天才で秀才にそれを握られては、限りなく隙を潰される。
「……やはり、カーテナ=オリジナルを破壊しない限り、どうにもならないようですね」
「そのようだ。キャーリサさん一人を狙うよりも、あの武器こそ壊せばそれで終わる。つまり──」
上条の右手が頼り。力で力を捩伏せられればいいが、カーテナに限って言えばそれは不可能に近い。『清教派』の数多の一撃も、スイスの特殊振動弾でも効果が薄い。無論その身に当たりさえすれば効果はあるが、王剣の盾を抜くのがそもそも至難だ。ならその盾で刃を壊すのがまだ手早く済む。
それがキャーリサさんにも分かっているんだろう。一息吐いて周りを見回し、空を旋回していたグリフォン=スカイの最後の一機が落ちるのを見つめて肩を竦める。
「やはり、無人機ではこの辺が限界だし。いや、攻城用に設計されたものを真逆の迎撃に使ったのだから、単にスペックの問題という訳でもないかもしれないが」
「いずれにしても、後はお前だけだ。このまま押していけば……」
「おやおや。雑魚を倒してレベルアップでもしたつもりになってるの? カーテナ=オリジナルを手にした国家元首も、随分と低く評価されたものだな。それに、そもそも雑魚はこれだけだと言った覚えもないぞ?」
上条の言葉にキャーリサさんは呆れたように笑って返し、開いた胸元から小型の無線機を取り出すと口元へと近づけた。通信用でもない機械式の無線機。俺もよく見る軍で使われるその無線機に目を細めた途端、キャーリサさんは気にせず軽く言葉を紡いでいった。
「ドーバー海峡で哨戒行動中の駆逐艦ウィンブルドンに告ぐ。バンカークラスター弾頭を搭載した巡航ミサイルを準備するの。弾頭の起爆深度をマイナス五メートルに設定、ミサイルの照準をバッキンガム宮殿に合わせ───即時発射せよ」
「「バンカークラスターッ⁉︎」」
訝しんだ顔の魔術師達の中で、俺と上条の声が合わさり響く。科学に疎い魔術師達が分からなかろうと、学園都市で暮らす上条と、何よりそれが何かは俺の方がよく知っている。軍用シェルター施設を破壊するために開発された特殊弾頭。子弾を二百発ほどばら撒くことができる。別名『集束爆弾』。受け入れがたい民間人被害をもたらすとして、開発、使用、製造、保持、多くの事柄が禁止されている兵器である。
それを即時発射? 馬鹿かッ⁉︎
「本来はもーちょっと危機感を煽って、母上のエリザードを招き寄せてから撃ち込む予定だったが、スケジュールよりも早くグリフォン=スカイがやられたものでな。繰り上げざるを得なくなったという訳だ」
「くそ!! 半径三キロ四方が吹き飛ぶ弾頭だぞ!! このバッキンガム宮殿だけじゃない。一発落ちるだけで、ロンドンだってただじゃ済まないはずなのに!!」
「喚くのは結構だが、巡航ミサイルは速いぞ? 収納式の翼の形状にこだわった巡航ミサイルは、確か低空でもマッハ5に届くかどーかといった所だったはずだ。一〇〇キロ程度の距離など一分保たないはずだし」
「……分離は上空四〇〇〇メートル付近か? 飛び込んで来た巡航ミサイルをオペレートもなしに合わせて撃ち抜くなんてボスでもなきゃ無理か……、分離は仕方ないとして、散布される範囲が広がらないうちに撃ち抜けたなら──」
「空中に防護結界を張って迎撃します。効果範囲は半径三キロ、放出される子弾の数は二百発……その程度なら、決して不可能なスケールではないはず!!」
ヤバイ! と理性と本能が危険信号に染まらないうちに逃走本能を打ち崩すように考えを並べ纏める横で、神裂さんの叫びが聞こえる。防護結界を張ってくれるならありがたい。此方はその労力を出来るだけ減らすのみ。
「確かに、魔術の力を使えばバンカークラスターもどーにかできるかもしれないけど───ただ、のんびり準備してる時間はないぞ?」
天を指差すキャーリサさんに笑顔を向けられ、神裂さんが迅速に動いた。夜空を駆け巡るワイヤーが煌めき、幾何学模様を形成していく。まるで早送りされる映像を見ているかのように構築されていく結界を見つめる中、舌舐めずりをするキャーリサさんの嘲笑が視界の端に映り込んだ。
「無防備だな。思惑通りだし」
カーテナ=オリジナルを持つ事で、尋常ではない肉体強度を有しているキャーリサさんにとっては、バンカークラスターの子弾が降り注ごうが関係ない。全次元を切断する刃の一撃が、容易く結界を引き千切る。
その中で静かに
俺より神裂さんにキャーリサさんが意識を向けているからこそ、夜空に瞬く破壊の流れ星に手を伸ばせるのは俺だけだ。弾丸の到達予想時間と、バンカークラスターの動きを計算し、強く一度舌を打つ。
目で追っていては追い付かない。
下手に細かな計算をしていても同じこと。
スコープを覗いていた顔を小さく外し大きく息を吐き出す。
勘で撃てば当たる。
ボスはそんな事を言っているが、なるほど。
計算も追い付かず、目でも追えない。なら何を芯として引き金を引けばいいのか。
そんなもの、これまで撃ってきた経験に縋るしかない。
距離にしておよそ四キロ。これまで死ぬほど撃ってきた。外した事も数知れず、当たった数も数知れない。
どう撃った時に当たったか、骨身に染みているその感覚だけを思い起こし、狭い世界から外側へ、二つの瞳で世界を漠然と眺めて引き金を引く。
一つ一つの情報を追っていたのでは追い付かないのなら、全てを一度受け止めて経験で答えを導くだけ。
夜空に輝くミサイルが、空の彼方で四つに分かれる。外殻が取り払われ、自由に泳ぎ回ろうと開き始めた二百発の爆弾の一部が、大きく削れ誘爆するように空に紅蓮が広がった。
脅威が消える。
だが、全てではない。
「……やっぱ、初めては厳しいな」
俺の呟きを塗り潰すように、空に瞬く幾数十の光点。恵みの光を一身に受けるように両手を広げている第二王女と目が合い、咥えていた煙草を指で弾き地に捨てる。歓喜の笑顔でもない、なんとも言えない笑顔を顔に貼り付けたキャーリサさんは小さく口を動かすが、なんと言ったのやら、声は聞こえず、多少なりとも読唇術を覚えてなかったら分からなかったぞ。
ありがとう。
何に対する感謝なのか知らないが、それを受け取る気はない。
直後、バンカークラスターがバッキンガム宮殿に降り注ぐ。真っ白い光が視界を塗り潰し、音を拾うのを耳は止め、浮遊感が体を包んだ。