最初は、目を疑った。
我ら
父の如き存在だった、難波重工の会長・
冗談のような状況だった。
誰一人として、
たとえ今ある全てを注ぎ込んでも、あの悍ましきナニカに勝てる者はいないのだ。
世界が滅びるかもしれない、とかつて自分は言った。間近に見せられればその恐ろしさが実感として理解できる。
ああ、アレは確かに世界を滅ぼすモノだ。
こんなものを見せられて尚、どこか冷静でいられる自分は、最早狂ってしまっていたのか。
全てを壊された。文字通りに全てだ。
私の全ては、一瞬にして壊されたのだ。
当然だろう。
私に何が出来た? 人の力によって生み出された
最早我々に勝ち目は無い。人類は滅亡に向かうのだ。
……
生を諦め、何も残らぬ死を受け入れろとでも?
ふざけるな。私にとって難波こそ全てだったのだ。それをあいつは、散々に利用した挙句片手間に滅ぼした。
我ら難波の尊厳の悉くを、あの地球外生命体は踏み躙ったのだ。
全身を憎悪と怒りが満たす。許さない。許すわけにはいかない。
その為には、死ぬ訳にはいかない。
たとえ全人類に対する裏切りと謗られようとも、私が忠誠を誓うのは、この世においてただ一人。
難波重工会長・難波重三郎だけだ。
人の道を外れようとも、この復讐だけは果たしてみせる。人智を超えた力……エボルドライバーが全てを制すのであれば、私はそれに手を伸ばし、お前の寝首を掻き切ってやろう。
それが私に果たせる最後の忠義だ。
怒りと悔恨の全てを、心の奥底にしまい込み、狂笑と共に立ち上がる。
「ならば……答えは一つ!」
私の答えは一つだけだ。
主がいなくなったところで、私の在り方は変わらない。
難波重三郎に育てられたコドモタチ。難波の歯車たる難波チルドレン。それが私だ。
故に……私が難波チルドレンである限りは——
「
難波重三郎、我が父よ。
この魂は、貴方に忠誠を誓い続けよう。
心の中で確固たる決意を固めながら、私は難波会長の形見たる杖に、全力で膝を叩きつける。杖は乾いた音を立てて真っ二つとなった。
最早痛みも感じない。機械の肉体になってから、私はその辺りがどうも鈍くなったらしい。かつて私を撃った上司、
エボルトは私の姿を見て哄笑を上げている。ひとしきり笑ってから、あいつは私にエボルドライバーを投げ渡した。
せいぜい嗤っているがいい。お前の失策は、私にエボルドライバーを渡したことだ。
懐からフルボトルを二本取り出す。バットフルボトルとエンジンフルボトル、どちらも私には縁深い。
だが、成る程。コウモリとはまた随分と皮肉が効いている。確かに、地球人でありながら、地球を滅ぼすエボルトに鞍替えする様は、他者にはそう映るだろう。それでいい、手加減などしてくれるな。私はお前たちの敵でなくてはならない。
『コウモリ! 発動機! エボルマッチ!』
エボルドライバーのレバーをひたすら回す。常軌を逸したエネルギーが全身を迸る。破壊の力に満ちた悪魔のドライバー。とても人間に使える代物ではない。だが、
『
覚悟はとうに出来ている。どの道この身はヒトではない。ならば人道を踏み外すのは、私の役割だ。
見せてやろう、私の変身を。
「変身!」
『バットエンジン! フッハハハハハ!!』
全身が白い狂気に包まれた。そうだ、これこそが私の求める力。世界を滅びに導く白い悪魔の仮面。
「さあ、存分に戦え……仮面ライダー、マッドロォォーグ!!」
そうだ。私は狂った悪党の仮面を被る。
あまりの状況に笑いが出てきた。ああ、楽しみだよエボルト。お前が私の裏切りを知ったその時を思えばこそ……。
このマッドな世界を嗤うのがお前であるのなら、私がそれを守り、救済する。私がお前を倒すのだ。
確かな得物の感覚を手に、私はもう一人の