仮面ライダービルド 第38話終盤の展開の自己解釈です。

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悪党の仮面、その名は

最初は、目を疑った。

我ら難波重工(なんばじゅうこう)の最終兵器……鷲尾(わしお)兄弟のヘルブロスが、微塵も歯が立たずに敗れるなどと。

父の如き存在だった、難波重工の会長・難波重三郎(なんばじゅうざぶろう)が、一瞬にして殺害されるなどと。

冗談のような状況だった。

誰一人として、()()に敵う者はいない。

たとえ今ある全てを注ぎ込んでも、あの悍ましきナニカに勝てる者はいないのだ。

世界が滅びるかもしれない、とかつて自分は言った。間近に見せられればその恐ろしさが実感として理解できる。

ああ、アレは確かに世界を滅ぼすモノだ。

こんなものを見せられて尚、どこか冷静でいられる自分は、最早狂ってしまっていたのか。

全てを壊された。文字通りに全てだ。

私の全ては、一瞬にして壊されたのだ。

当然だろう。

私に何が出来た? 人の力によって生み出された機械の人形(サイボーグ)に何が出来た? 答えはノーだ。何も出来なかった。だからこうして、泣きそうになりながら、難波会長を殺害した張本人たる地球外生命体——エボルトから渡された、難波会長の杖を握り締めている。

最早我々に勝ち目は無い。人類は滅亡に向かうのだ。

 

……()()()()()()()()()()

生を諦め、何も残らぬ死を受け入れろとでも?

ふざけるな。私にとって難波こそ全てだったのだ。それをあいつは、散々に利用した挙句片手間に滅ぼした。

我ら難波の尊厳の悉くを、あの地球外生命体は踏み躙ったのだ。

全身を憎悪と怒りが満たす。許さない。許すわけにはいかない。

その為には、死ぬ訳にはいかない。

たとえ全人類に対する裏切りと謗られようとも、私が忠誠を誓うのは、この世においてただ一人。

難波重工会長・難波重三郎だけだ。

 

人の道を外れようとも、この復讐だけは果たしてみせる。人智を超えた力……エボルドライバーが全てを制すのであれば、私はそれに手を伸ばし、お前の寝首を掻き切ってやろう。

それが私に果たせる最後の忠義だ。

怒りと悔恨の全てを、心の奥底にしまい込み、狂笑と共に立ち上がる。

 

「ならば……答えは一つ!」

 

私の答えは一つだけだ。

主がいなくなったところで、私の在り方は変わらない。

難波重三郎に育てられたコドモタチ。難波の歯車たる難波チルドレン。それが私だ。

 

故に……私が難波チルドレンである限りは——

 

()()に、忠誠を、誓おう!!!」

 

難波重三郎、我が父よ。

この魂は、貴方に忠誠を誓い続けよう。

 

心の中で確固たる決意を固めながら、私は難波会長の形見たる杖に、全力で膝を叩きつける。杖は乾いた音を立てて真っ二つとなった。

最早痛みも感じない。機械の肉体になってから、私はその辺りがどうも鈍くなったらしい。かつて私を撃った上司、氷室幻徳(ひむろげんとく)には恨みしか無かったが、この点は感謝しよう。

 

エボルトは私の姿を見て哄笑を上げている。ひとしきり笑ってから、あいつは私にエボルドライバーを投げ渡した。

せいぜい嗤っているがいい。お前の失策は、私にエボルドライバーを渡したことだ。

懐からフルボトルを二本取り出す。バットフルボトルとエンジンフルボトル、どちらも私には縁深い。

だが、成る程。コウモリとはまた随分と皮肉が効いている。確かに、地球人でありながら、地球を滅ぼすエボルトに鞍替えする様は、他者にはそう映るだろう。それでいい、手加減などしてくれるな。私はお前たちの敵でなくてはならない。

 

『コウモリ! 発動機! エボルマッチ!』

 

エボルドライバーのレバーをひたすら回す。常軌を逸したエネルギーが全身を迸る。破壊の力に満ちた悪魔のドライバー。とても人間に使える代物ではない。だが、()()()()()()()

 

Are you ready?(覚悟は出来たか?)

 

覚悟はとうに出来ている。どの道この身はヒトではない。ならば人道を踏み外すのは、私の役割だ。

見せてやろう、私の変身を。

 

「変身!」

『バットエンジン! フッハハハハハ!!』

 

全身が白い狂気に包まれた。そうだ、これこそが私の求める力。世界を滅びに導く白い悪魔の仮面。

 

「さあ、存分に戦え……仮面ライダー、マッドロォォーグ!!」

 

狂った悪党(マッドローグ)。私には似合いの名前だろう。仮初めであろうと地球を裏切る地球人とでも言うのだろう。まさに狂った悪党。

そうだ。私は狂った悪党の仮面を被る。()がそうしたように、私もまた、仮面のローグの系譜となる。

 

あまりの状況に笑いが出てきた。ああ、楽しみだよエボルト。お前が私の裏切りを知ったその時を思えばこそ……。

 

このマッドな世界を嗤うのがお前であるのなら、私がそれを守り、救済する。私がお前を倒すのだ。

確かな得物の感覚を手に、私はもう一人の悪党(ローグ)に襲い掛かった。

 



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