<例えば引きこもりだった学生が提督になるまでの話>   作:木炭鉢

5 / 11
<3ー2>「例えば意思を貫く槍のように

*****

 

 戦闘は熾烈を極めた。

 長門の砲撃は9割以上の確率で龍の分厚い装甲に命中し、要所で攻撃を寸断する。

 鹿島の支援砲撃が敵の放つ艦載機をことごとく打ち落とし、漣も微力ながらそれに貢献していた。

 俺は未だ意識の混濁した曙を抱えながら、海中を駆け巡る魚雷に奮戦を見せる。

 

 しかし、しかし。

 龍は背に携えた10を下らない砲門で攻撃を繰り返し。

 小さな悪魔は無尽蔵とも思える数の艦載機を飛ばし続け、それら全てを手足のように操る。

 狙い済まされた魚雷は1発1発が即死級の威力を誇り、命綱無しの綱渡りをしている気分になった。

 そして何よりも艦隊を恐怖させている物が、ひとつ。

 

龍「ゴ、ガガ――――――!!!」

 

 龍は巨大な口を広げ、内部に赤い光を溜めていく。

 やがて光量が一定を超えると、龍は1度口を閉じるのだ。

 

長門『!!また来るぞ!!』

 

 長門の裂帛した指示に合わせて、各員がそれぞれに回避姿勢を取る。

 龍はこちらの動きなどお構いなしに首を振り、空間その物を切り裂くような鋭い音を鳴らしながら、光線の束を吐き出した。

 海に1本の線が引かれる。

 それは数秒後に赤みを帯び、次の瞬間、爆発した。

 そうしてまた、海が割れるのだ。

 

 今回狙われたのは鹿島だった。

 

寧人「鹿島、無事か!!」

 

鹿島『――――ガガ―――――――ぇ―――――大丈夫よ♪』

 

 安定しない通信の中、態度の変わらない鹿島を不気味に思いながら、しかし心底安堵する。

 

漣『うぅ~~~~~!そろそろこの艦載機の雨、止んでくれないかなぁ!?』

 

長門『もう少しの辛抱だ!向こうが航空戦力を使い切るまで、私が主砲を誘導する!魚雷はこのまま任せたぞ、寧人!!』

 

寧人「ああ、勿論だ!」

 

 水上移動装置の出力を上げる。

 グン、と体が前にズレるような感覚を味わいながら、レ級の周りをぐるりと回った。

 

曙「―――――うっ……寧人くん、ごめん」

 

寧人「!!」

 

 どうやら意識が戻ってきたらしい。

 曙は幾度か咳き込むと、スルリと俺の腕の中から出た。

 そのまま空中で姿勢を制御し、着水する。

 

寧人「曙、悪いがお前を労わってる暇がない」

 

曙「ふぅ……大丈夫、私も戦えるわ」

 

 互いに視線を交差させ、こくりと頷き合う。

 直後、周囲に散らされた魚雷を探知した俺たちは、どちらともなく砲撃を開始した。

 俺が左、曙が右。

 それぞれまるで示し合わせたかのような砲撃に、魚雷はすぐさま爆発を上げ、黒い靄となって水中に霧散した。

 

寧人「しばらく耐えるぞ」

 

曙「ええ。今まで寝てた分、返させて貰うわ!!」

 

 よし。

 この調子ならば、向こうが息切れを起こすまで凌ぎ切れるはずだ。

 そう確信するほどに、俺たちは、俺たちの艦隊は、見事に息が合っていた。

 いける。

 

 そう考えた瞬間を、奴は狙っていたのだ。

 

レ級「甘インダヨネェ!!」

 

 それは予想外の行動だった。

 龍に繋がれていた筈の敵艦の体は、どういう訳か俺の目の前に迫っていて。

 彼女は赤い放電を散らす黒槍となった右腕を、俺に向かって突き出していて。

 

曙「寧人くん!!!」

 

 その予想外の一撃に反応したのは、曙だけで。

 彼女が俺の名を呼びながら体を突き飛ばし。

 目の前で、赤い爆発に巻き込まれて。

 空を舞い。

 海に落ちる。

 そのプロセスを、俺は移動装置から落ちていく間、間抜け面で見ている事しかできなかった。

 

寧人「――――――――――――――――曙ォォォォオオオオオオオ!!!!」

 

 ようやく反応した喉から、今まで出したことも無い程の絶叫が飛び出した。

 海面へ叩きつけられる。

 白い泡が周囲に飛び散り、耳の周りで音を立てた。

 俺は艤装髑髏にしがみつき、どうにか海面へ浮上する。

 

 そこで見たのは、肥大化した左腕で曙の頭を鷲掴み、右腕の槍の先端をペロリと舐める、悪魔の姿だった。

 

レ級「ネェ、ドウシテ当タリニ来タノカナァ?」

 

曙「う……うぅ」

 

 体中の衣服が裂け、艤装もほとんどが粉砕されている。

 まず間違いなく危険な状態ではあった物の、曙はまだ意識があった。

 

 そんな彼女の反応を楽しむように、黒槍が、白い足を貫く。

 

曙「ァッ、がぁぁぁあぁああ!!!」

 

レ級「キシシシシシ!!ネェ、ナンデ!?ナンデェ!!?コォンナニ痛イノニィ!?ナンデ当タリニキタノカナァ!!?」

 

 ドス、ドス、ドス。

 腕、腹部、つま先。

 風穴が、増えていく。

 

曙「ギィ!!が、い、いやあぁぁぁあああああ!!!」

 

レ級「キシ!!キシシシシシシィィィイイ!!!」

 

 ―――――止めろ。

 それ以上すれば。

 ”曙”の器が、壊れてしまう。

 

 ドス。

 

 壊れる?

 

 ドス。

 

 壊れれば―――――

 

 ドス。

 

 ―――――また、俺の前から。

 

 ドス。

 

 …………大切な人が、消えるのか?

 

 ドス!!!

 

曙「あ……が……ぁ」

 

 ぶらりと垂れ下がった四肢に、もはや力は無い。

 無線越しに、みんなが叫んでいる。

 長門の支援砲撃が近くに着弾しようとした。

 それを、レ級の前に回り込んだ龍が難なく受け止める。

 巨大な壁となった龍を前に、鹿島の砲撃も意味を成さない。

 

 やがてレ級は、がっかりしたようにため息を吐いた。

 

レ級「ンー、飽キチャッタナァ……モウウイイヤ」

 

 ゆらりと、右腕の黒槍を構える。

 先端は、曙の頭を向いていた。

 

レ級「バイバイ、オバカサン♪」

 

 赤い放電。

 曙を壊すに足る一撃。

 戦地から逃げてきた曙を。

 その苦しみを抱え続けた曙を。

 誰よりも臆病で、誰よりも仲間の命を大切にしたかった曙を。

 その存在の全てを、生きてきた時間の全てを。

 否定するに、足る一撃。

 

 

 

 ―――――させるものか。

 

 

 

 頭の中で、黄色い何かが弾け飛んだ。

 

 

 

寧人「 俺の曙に!!!手を出すなァアアァァァアァアアア!!!! 」

 

 いつの間にか、見覚えのある黒槍が俺の目の間にあった。

 これは何だ?

 曙を砕かんとする武器だ。

 ではどうする?

 砕けばいい。

 

 全て、もろとも。

 

 

*****

 

 

レ級「!?」

 

 悪魔は、驚愕の表情を浮かべる。

 赤い放電爆発を上げる右腕の先に、まるで手応えが無い。

 これは違う、と悪魔は思った。

 頭を貫いた時、それは少しだけ固い物が健気に踏ん張るような感触があって、それが過ぎると、何の抵抗も無く先端が沈み込む。

 その瞬間、悪魔は何とも言えぬ恍惚とした感情に溺れることができるのだ。

 

 しかし、違う。

 まるで、何枚にも重ねた合金版を上から叩いたような感触だ。

 ハッキリと悟った。

 異質な”モノ”が、目の前にいると。

 

??「 ゴ ア ア ア ! ! ! 」

 

 爆炎の中から、突然黒色の塊が飛び出した。

 いち早く気配を察知した悪魔は、硬度に絶対の自信を持つ右腕を盾へと変形させ、体を覆った。

 

レ級「グガッ!!」

 

 体感したことの無い衝撃が、全身を貫いた。

 海面に叩きつけられ、ようやくその時、悪魔は自分の体が宙を舞っていたのだと気付く。

 そして腕を見て、愕然とした。

 

レ級「―――――ナイ……!?」

 

 盾へと変形させた自身の腕が、その肘から先が、木っ端微塵に砕け散っていたのだ。

 今まで自らの腕を砕くに足る攻撃を受けた事が、果てしてあっただろうか?

 否、この腕は万物を貫き、叩き壊し、屠り続けて来た絶対の武器。

 今まで命の危機をこれほどまでに感じたことはあっただろうか?

 否、自分とは、即ち恐怖。即ち力。あらゆるものを屈服させる絶対的存在。

 では、なぜ?

 

 なぜに目の前の怪物に、これほどまでの”恐怖”を抱く?

 

??「 ガ ガ ガ ガ ア ァ ァ ア ! ! ! 」

 

 体全体が黒い甲殻で覆われた、奇妙な風貌。

 ふたつある眼球の片方はコネクターのような物が繋がれ、もう片方は、怒り狂った金色の炎が燃えている。

 露出した白い腹部は骨が見えるほどに瘦せ細り、しかしその背後からは、直接背骨が飛び出したような見た目の突起物がいくつも生えていた。

 四肢は鎧の如き甲殻が満遍なく張り付き、関節にはそれぞれ鉛色の鋭い刃物が飛び出している。

 息をする度に、耳元まで裂けた巨大な口の隙間から、金色の炎が漏れ出ていた。

 

 なんだ。

 なんなんだ、こいつは。

 

 しかし、この炎は知っている。

 静かなる憎しみを青とするならば。

 苛烈なる怒りを赤とするならば。

 この金色は、紛れも無く。

 

レ級(”長”ノ―――――”flagship”ノ、絶対的支配欲!!)

 

 悪魔は焦った。

 少なからず、自信を傷付けられる同族など考えたことも無かった。

 上位種であるflagshipも、彼女の中では取るに足らない存在だった筈なのだ。

 それほどまでに、レ級という名の絶望であることに、絶対の自信を持っていた。

 

 しかしそんな悪魔の思考とは裏腹に、レ級の反応速度では避けられない高速の拳が、その顔面にめり込んだ。

 

レ級「ガァッ!!!」

 

 数メートル吹き飛ばされる。

 それを、またしても”ソレ”が追って来る。

 

レ級「クソ、コイ!!!」

 

 悪魔の呼びかけに答えた龍が、”ソレ”に対して砲撃を開始した。

 3連装砲10文による一斉射撃。

 もはやその空間に、砲弾の雨が降らない空間は無い。

 

 しかし”ソレ”が一度大きく腕を広げたかと思うと、その背後に、禍々しい三面六臂のミュータントの髑髏を象った砲のオブジェがいくつも出現し、砲弾の雨に突っ込んだかと思うと、その口から金色の光芒を飛ばして、それら全てを微塵へと還してしまったのだ。

 

 だが、龍も止まらない。

 すぐさま無数の魚雷を放ち、レ級はそのタイミングに合わせて空を舞う艦載機全てを”ソレ”に向かわせた。

 1度深く潜航してから加速を付け、弾丸の如き速度で迫る魚雷の数々。

 空から降り注ぐ爆撃機の爆雷、航空機の徹甲弾。

 さらに龍は口を開き、自身が持つ最大火力の兵器を構えた。

 

 瞬間、レ級は絶望を見た。

 周囲を包む金色のオーラが強まったかと思うと、それが凝縮し、次々と三面艤装髑髏へと変貌していく。

 次々、次々と。

 その勢いは。

 止まらない。

 まだ続く。 

 永遠に続く。

 

レ級(ッ…………!!!!)

 

 やがて空は、数千にも及ぶ髑髏の群れで埋め尽くされた。

 それら全てから万物一切を灰と化す金色の光線が射出され、気が付くと―――――

 

 ――――周囲一帯は、”海水ごと何もかもが消えていた”。

 

 今まで連れ添ってきた龍型随伴艦の姿も無い。

 百に届かんばかりの艦載機の塵すら残っていない。

 爆撃による火薬の臭いすらも。

 何も無い。

 

レ級「……デ……デタラメ、ダ……」

 

 水の消えた海山の上で、悪魔はひとり膝を付いた。

 そしてその周囲には。

 怒りの矛先を失った髑髏の群れが、標的を見つけた嬉しさに、ニヤリと笑っていた。

 

 

*****

 

 

 俺は何をしているのだろう。

 目の前には、目の光を失った色の白い少女が、金色の光線に幾度となく撃たれ続け、その身を焦がしながらのたうち回っている姿があった。

 彼女は何だ?

 

??(タダノ”エモノ”ダ)

 

 頭の中で、誰かが返事をした。

 そうか。

 ならば。

 ―――――壊してしまっても、問題無いよなぁ?

 

??「グ、グヒ―――――ゲハッヒャァアアァァアアア!!!」

 

 砲撃を止めさせ、俺は前に飛び出した。

 その細い腕を持ち上げ、残った右腕で、その肉体に拳を突き刺す。

 素肌が見えているというのに、まるで強化装甲でも殴っているような感触だ。

 1発、2発。

 

レ級「ガ、ァアガ、ァアア!!」

 

 手の骨がその固い肉に食い込む度に、獲物はビクンと痙攣した。

 あぁ。

 堪らない。

 なんだ、この恍惚とした甘い衝動は。

 

 3発、4発。

 

レ級「アッ、ガグ!イギィイイイ!!」

 

 もっと、もっとだ。

 もっと、味わわせろ。

 ―――――お前が曙に、そうしたように。

 

??「―――――アケ、ボノ?」

 

 そこで、俺の手が止まった。

 いや、止められたのか。

 首を回すと、そこには。

 全身から夥しい量の血を流しながら、それでも尚立ち上がり。

 俺の腕を後ろから押さえつける、曙の姿があった。

 

曙「―――――もう、勝負は、付いてん、でしょ……ガフッ!!」

 

 口から大量の血を吐き出す。

 ああ。

 いけない、なぜ。

 俺の曙が、大切な友人が、傷付いて居なければならないんだ。

 

??「ア……アァ……?」

 

 分からない。

 甘い感覚が遠退いて、体が、冷たくなっていく。

 俺は何をしていた。

 曙はなぜ傷付いて居る。

 早く治療しなければ。

 手遅れになる前に。

 ―――――時雨の、ように。

 

??「!!!!」

 

 そこで、完全に意識を取り戻したのだろう。

 体全体を包んでいた熱が一瞬にして霧散し、俺はそのまま崩れ落ちた。

 

 体の下から、何かが這い出した感覚がする。

 

 きっとレ級だろう。

 あれだけ傷付きながらまだ動けるとは、丈夫な奴だ。

 

 体の上に、温度がある。

 

 きっと曙だろう。

 あれだけ傷付きながら、俺の体を労わるようにさすっている。

 おかしな奴だ。

 そして。

 それが、曙なのだ。

 

??「起きて下さい」

 

 意識が途切れようとしていた瞬間、丁寧な言葉とは裏腹に、乱暴な手際で何かが頭からぶっかけられた。

 体中に激痛が走る。

 まるで今まで眠っていた痛覚が目を覚ましたように、全身の細胞が無理やり活性化させられる。

 動機が激しくなり、身悶える。

 痛い、苦しい、酸素が足りない。

 

 ―――――しかし数秒後、それら全ての苦しみは、嘘のように消え去っていた。

 目を数度瞬かせ、俺は体を起こす。

 背に張り付いて離れない曙も、動きに合わせて起き上がった。

 

曙・寧人「……?」

 

 ぬるま湯の中で漂うような、ぼんやりとした意識の中に、俺たちはふたり揃って彼女を見つけた。

 出来の良さが現れているような銀の眼鏡。

 両手に何やら見覚えの無い緑色のバケツを抱え、見覚えのある、呆れ顔を浮かべていた。

 

寧人「……香取、なんで、ここに」

 

香取「ええ、本当に、なんででしょうね」

 

 はぐらかすように答えた彼女は、その手に持っていた荷物をポイっと投げ捨てると。

 

香取「では、移動しますよ。宜しいですね」

 

 と一言挟み、パチンと指を鳴らした。

 瞬間、俺と曙の体がふわりと持ち上がり。

 気付くとそこは、海の上だった。

 

香取「この辺りで良いでしょう」

 

 言って、香取は再び指を鳴らす。

 

寧人「え―――――えぇ!!?」

 

 そこは、海上からおよそ7m上方だった。

 突然重力を思い出した俺の体は、真っ逆さまに海面を目指し、叩き付けられる。

 

寧人「ヘブ!!!」

 

 その後、泡立つ海面へなんとか浮上すると、目の前で軽やかな着水を決める香取と曙が見えた。

 

寧人「こ、この野郎……ほんといい加減にしろよ……」

 

香取「もう少し高い方がお好みでしたか?」

 

寧人「そうじゃねぇよ!!」

 

曙「えと、あの……誰?」

 

 そうだ。

 このカオスな状況に1番困惑しているのは、他でもない曙だろう。

 

寧人「あー……こいつが、前鹿島が話してた香取って艦娘だ」

 

曙「え、あ、そうなんだ……へぇ」

 

 まぁ、うん。

 そういう反応になるよな。

 だから何だって話。

 

香取「あら、皆さんいらっしゃいましたね」

 

寧人「え?」

 

 香取の言葉に釣られて視線を動かすと、その先には、大手を振っている艦娘を先頭に、艦隊のみんながこちらに向かって来ていた。

 

寧人「……良かった、無事、だったんだな」

 

 記憶が定かではない。

 どのような戦闘をし、どのように敵を退けたのか。

 しかしながら、少なくともレ級は敗走し、こうしてみんなが無事な姿を見せている。

 それだけで、十分だろう。

 

寧人「―――――なぁ、香取。お前、なんでこんな所に」

 

 そう言って、視線を彼女に戻そうとすると。

 そこにはもう、あの意地の悪い艦娘の姿は無かった。

 代わりに、小さな浮き輪と、それに紐で括り付けられた貨物箱が波に弄ばれているのが見える。

 

曙「これって……」

 

寧人「開けてみるか」

 

 近付き、口を閉じている箱を無理やり開放する。

 その中には。

 

妖精さんs「「 デレターーーー!! 」」

 

 これでもかと言う数の妖精さんが詰め込まれていた。

 これが情報にあった、強奪された艤装妖精さんたちなのだろう。

 ……相変わらず、良く分からない女だ。

 俺はいつも、彼女に翻弄されっぱなしだった。

 それで悪い目にあった試しが無いのが余計腹立たしい。

 

曙「うわ、ちょ、妖精さん!!待って、飛びかからないで、わあぁ!どこ入ってんのよ!!」

 

妖精さんs「アリガト、アリガトー!」

妖精さんs「タスカッター!」

妖精さんs「クライノセマイノイヤダッター!」

妖精さんs「カンシャカンゲキアリガタヤー!」

 

寧人「ははは……」

 

 数十匹の妖精さんに群がれ、もみくちゃにされる曙と俺。

 抵抗する力が沸いて来ない以上、もはや苦笑いしか出てこない。

 

 やがて艦隊は再集結し、俺たちは帰路に就くのだった。

 

 

*****

 

 

 イチナナマルマル。

 僕は大淀さんに車椅子を押されながら、廊下を進んでいた。

 手入れの行き届いた窓ガラスを叩く雨は激しさを増していて、恐らく最後の瞬間まで止むことは無いのだろうと、そう確信せざるを得ない。

 

 いつもと変わらない凛々しい佇まいの大淀さんは、しかしどこか表情が暗かった。

 

大淀「……まだ2時間ありますが、本当に宜しいのですか」

 

 彼女の静かな問いかけに、僕は思わず口ごもった。

 胸の中で日記を握りしめ、そしてハッキリと答える。

 

時雨「はい。残すべきは、全てここにあります」

 

 心残りは無いのだと、確かにそう伝える。

 僕は最後の瞬間、誰にも会わないとそう決めていた。

 鹿島先生も、寧人くんにも、夕立にだって。

 猫は死に際を見せない、なんて言葉がある。

 簡単な話だ。

 最後の最後に、狼狽える私を見せたくない。

 消え行く者の残り香を、今を生きる者に染み付ける必要はない。

 たった、それだけの事だった。

 

 だってきっと、泣いてしまうから。

 そんな僕を前にして、彼女たちは平然としていられないだろう。

 それはどれだけ残酷か。

 断頭台の目の前まで、友を同伴させる馬鹿は居ない。

 

時雨「もう……大丈夫、です」

 

 ああ。

 なのに、なぜだろう。

 それでも、最後の瞬間まで居て欲しい、なんて。

 心のどこかで願ってしまっている僕が居る。

 意地汚い、僕が居る。

 

大淀「そう、ですか」

 

時雨「はい―――――大淀さん、これを、受け取ってください」

 

 そう言って、僕は最後の役割を果たす為に、彼女に日記を渡した。

 

大淀「確かに」

 

 短いやり取り。

 それ以上、ふたりの間に会話は無く。

 やがて目の前に、工廠の重い鉄扉が現れた。

 

明石「おや、いらっしゃいませ!お待ちしておりました!」

 

 中に入ると、奇妙な程に元気な送り人が僕を出迎えてくれた。

 照明も満足に無い密室であるそこは、しかしなぜか妙に明るかった。

 見れば、何やら周囲にはネオン電飾が張り巡らされており、花を象った物や、傘をイメージしたものなど、無駄に凝ったそれらの光が折り重なって、ぼんやりと室内を照らしているのだ。

 僕は大淀さんに連れられて、電飾のロードを進んでいた。

 

大淀「……明石、これは何の悪ふざけですか」

 

明石「えぇ!?綺麗でしょう!私お手製のヴァージンロードですよ!」

 

大淀「意味が分かりません……」

 

 凝る所を間違えている工作艦の言葉に、大淀さんはやれやれと頭を抱えた。

 

時雨「はは……でも、確かに綺麗ですね」

 

 ヴァージンロード。

 散らすのは、命の初めて、か。

 

 センチメンタルな思いになる。

 しかしこの初めての最後は、きっと、次に繋がる正しい行いだ。

 そう自分に言い聞かせることだけが、目と鼻の先に迫った解体装置への道の上で、泣き出してしまわないようにする唯一の抵抗だった。

 

 やがて、車椅子が止められる。

 大淀と明石に両脇を抱えられ、持ち上げられた。

 

時雨「最後まで、ご迷惑をお掛けします」

 

大淀「構いません」

 

明石「バッチコイですよぅ♪」

 

 そうして僕は、明石による調整が終わった解体装置の椅子の上に座った。

 

時雨(……固い、なぁ)

 

 いつも尻に敷いていた車椅子のクッションは、意外と良いモノだったのだと思い知る。

 そう、アレも、今まで僕を支えてくれた大切な友だったのだ。

 大淀が部屋の隅へ持っていくのを、ぼんやりと眺める。

 

 ああ。

 電気椅子に座る囚人は、こんな気分なのかな、なんて。

 自嘲気味に笑う僕が居る。

 最後の最後まで可愛くない、しかし誇り高い僕が。

 ”時雨”が、確かにここに居る。

 

 それでもう、満足だった。

 楽になろう。

 これまで、良く生きた。

 決して恵まれた人生では無かったけれど、それでも、沢山の幸せを知る事が出来た。

 

 猫は死に際を見せない。

 気高く、最後の最後まで。

 ”時雨”であれ。

 

明石「それでは現世にさようなら♪」

 

 ピンク色の髪をした工作艦は、意気揚々と解体装置のスイッチを押した。

 こうなれば、もう誰にも止められない。

 装置全体が音を立てて震えだし、巨大な扉が上から降りて来る。

 その速度は残酷なまでに早くって、この世にお別れを残す間も無く。

 やがて、世界は固い鉄扉によって―――――

 

 

「時雨ぇぇぇぇええええええええええ!!!!」

 

 

 閉じようとしていた世界の中で、誰かが僕の名を呼んでいた。

 それはあろうことか、僕の為だけに用意された死の空間に割り込んできたのだ。

 勢いのまま椅子ごと横倒しになり、水浸しの人影は僕と一緒に固い装置の中で転がった。

 

時雨「え、ええ!?」

 

 誰だろう。

 夕立かも知れないと思ったが、しかし絶対に声が違う。

 この声は……。

 

 腹部に埋められた顔を覗こうとした所で、世界は完全に閉じられた。

 やがて、閃光が駆け巡り。

 

 解体が、始まった。

 

時雨「……寧人、くん?」

 

 起動中の解体装置に飛び込むと言う暴挙を行ってしまった愚か者に、僕は声を掛けた。

 

寧人「クソ、早いんだよ」

 

 視界が、白い光に染められていく。

 体の節々が光芒となって分解されていくのが分かる。

 痛みは無い。

 

時雨「なんで……君も、消えちゃうよ?」

 

寧人「そうかもな」

 

 両腕の感覚が無くなった。

 もう、何も見えない。

 声だけが、狭い空間に落ちて行く。

 

寧人「時雨、これが最後のチャンスだ」

 

 耳鳴りのようなホワイトノイズに支配されながら、彼の声はどこまでもクリアに僕の耳を刺激した。

 

寧人「……お前の、”本心”を見せてくれ」

 

時雨「!!!」

 

 瞬間、今まで白1色だった世界が弾け飛び、黒に暗転した。

 暗闇の中、目の前に誰かの気配を感じる。

 それは耳元まで近付いて、こう呟いた。

 

??「あーあ。僕の悲劇のお姫様、見透かされちゃってたねぇ♪」

 

 それは紛れも無い。

 僕の、声だった。

 

<第3話終了>




 ※今回の思い付きボツ展開※

 ~やられたらやり返す~

??「―――――アケ、ボノ?」

 そこで、俺の手が止まった。
 いや、止められたのか。
 首を回すと、そこには。
 全身から夥しい量の血を流しながら、それでも尚立ち上がり。
 俺の腕を後ろから押さえつける、曙の姿があった。

曙「一度に殺すな、じっくり行け」ニヤリ

??「産まれて来たことを後悔するほどに」ニヤリ

レ級「Oh!コイツラゼッタイ悪党ネー!!」(涙)

 ~つい、うっかり~

 出来の良さが現れているような銀の眼鏡。
 両手に何やら見覚えの無い緑色のバケツを抱え、見覚えのある、呆れ顔を浮かべていた。

寧人「……香取、なんで、ここに」

香取「ええ、本当に、なんででしょうね」

妖精さんs「「 ”デレ”ターーーー!! 」」

曙「ちょ、早い早い」

香取「デレてなんか、無いんだからねー」

寧人「香取!?」

 ~時雨チャンの本音~

寧人「時雨、これが最後のチャンスだ」

 耳鳴りのようなホワイトノイズに支配されながら、彼の声はどこまでもクリアに僕の耳を刺激した。

寧人「……お前の、”本心”を見せてくれ」


時雨「メインヒロインはもろたで工藤」

曙「調子に乗るなド三流」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。