<例えば引きこもりだった学生が提督になるまでの話> 作:木炭鉢
ヒトハチマルマル。
昼頃から続く雨は依然として降り止む気配は無く、私はただ、手のひらを固く握り合わせて祈っていた。
目前に置かれた通信機から、ほんの少しでも良い。
あの人の声が、聞こえますようにと。
窓をけたたましく叩く雨音に混じり、扉の開く音がする。
時雨「曙……まだ、そこに居たんだね」
曙「……」
返事をする余裕が無くって、自然と無視をしてしまった。
それだと言うのに、声の主は何事もなく、私の横へ歩み寄っていく。
時雨「あと数時間で嵐が過ぎるよ。そうなったら、また探しに行こう」
当然だ。
言われるまでも無く、いつだって飛び出す準備は出来ている。
大淀さんが”この大嵐が過ぎる”事を出撃の絶対条件にしていなければ、今すぐにだって探しに行きたいのだ。
こうしている間にも、彼の体温が、体から離れて行く気がする。
初めて私に温もりを教えてくれた、大切な存在が、積み上げた思い出が。
剥がれて、崩れて、薄れていくような気がする。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
曙「……そんなの……絶対……いやぁ………」
時雨「……」
肩に感触。
ああ、彼の物では無い。
けれど、優しい感触。
時雨「大丈夫、彼がそんなに簡単にくたばるタマかい?違うだろう?施設で1番狂暴だったキミを溶きほぐし、施設で1番どうしようもなかった僕を引っ張り上げ、どうしようもない状況を全部丸ごとぶっ壊しちゃった彼が?答えは分かるね、NOさ。彼はどんな状況だって、必ず帰って来るよ……いつもみたいな、何考えてるのか分からない、でも、とっても優しいあの顔でね」
ふわり、と。
彼の残り火が、体に灯った気がした。
曙「……ふん、本性ちょっと零れてるわよ、”裏”時雨」
裏時雨「くくっ……こりゃ残念!いっつも生意気なキミを、ちょっとは尻に敷いてやろうと思ったんだけどねぇ!」
曙「ぷ……ふふ、残念だったわね」
私は眼鏡を外した憎たらしい小悪魔の手を肩から降ろさせて、立ち上がる。
曙「私は誰の尻にも敷かれるつもりは無いわ!例え寧人くんでも……ううん、寧人くんだからこそね!そうよ、見つけたら、もう二度とこんな心配掛けないように、尻に敷きまくってやるんだから!」
裏時雨「おやおや、これは恐ろしいねぇ。愛も行き過ぎれば凶刃かな?」
曙「アンタにだけは言われたく無いわ」
裏時雨「はいはい、じゃあそろそろ、艤装の準備を―――――」
その時だった。
壊れた防犯ブザーのような、ノイズ交じりの不快音が2度。
私と時雨は全く同じタイミングで、通信機の応答ボタンを押していた。
曙・裏時雨「「こちら、司令官候補捜索隊本部!!応答せよ!!」」
数秒間ノイズだけが部屋に響き続け、ようやく断片的な肉声が最低限の形を成す。
≪ガガ―――――ちら―――ち―――――にて――――――を――――っけん―――――≫
曙「上手く聞こえない!!」
裏時雨「ノイズが激しい!!同じ内容を繰り返せ!!」
「――――えす、これが最後。こちら、夕立」
曙・裏時雨「「!!?」」
夕立≪――――施設からおよそ24キロ、フタゴ島から西南西8キロの孤島にて、司令官候補”寧人”を発見。この通信を聞いていたら、誰か来てあげて≫
曙「嘘……!?」
裏時雨「待って!!夕立―――――」
夕立≪通信を終了する……後は、よろしく、ぽい≫
≪ブツッ―――――ツ――――――――――――≫
表時雨「夕立……夕立!?待って、お願い!!もっと声を……夕立ーーーーーー!!!」
無線機を持ちながら叫び続ける時雨を他所に、私の頭は急速に冷え始めていた。
冷静な思考回路は、突如として浮かび上がった謎を解明すべく、情報の整理を始めた。
きっと、そのせいだろう。
曙「……どうして、寧人くんに魚雷を打ち込んだ本人が、寧人くんの救助を要請するの……?」
ポロリと、今一番の疑問符が口から零れ落ちた。
*****
既に日は沈み切り、春先の冷たい夜風が狭い洞窟に吹き込んで来た。
入口付近でパチパチと火の粉を散らす焚火の熱にあやかりながら、俺たちは朝と同じように魚を頬張っていた。
……否、決定的に朝とは違う点を孕みつつ。
レ級「ガフ、ガツ、ガブ、バウ!!」
寧人「……すんげぇ喰いっぷり」
夕立「戦艦の燃費の悪さをそのまま形にした見たいな子ね……」
レ級「バクバクン!!ケフゥ~…………オイ、ナンダトオマエ、シッケイナ!!」
寧人「綺麗に10匹目完食してから言うセリフじゃねぇよな……俺のもやるから、夕立に噛みつくな」
レ級「ホントカ!!オマエ、ヤッパリイイヤツ!!」
そう言いながら、あっという間に俺の食べかけも平らげてしまう戦艦レ級。
もはや何も言うまい。
夕立「……ほんと、寧人ってどうかしてるね。敵の、しかもレ級を助けちゃうなんて」
溜息を吐きながらこちらに送られる呆れ返った視線に、俺は何の言い訳もできない。
寧人「……すまん、俺はやっぱり身勝手な馬鹿だ」
夕立「全くね」
寧人「ああ、そうだ。全くだ」
レ級「…………」
寧人「こうやって一緒に飯食いながら目一杯笑ってるこいつ見てると、やっぱり間違ってなかったんだなぁって、心の底から嬉しくなっちまう俺は、本物の大馬鹿野郎だよ」
レ級「……!!!」
言いながらちょっと恥ずかしくなって頭を掻いていると、突然横から黒くて白い塊が、戦艦クラスの突進力でこちらに迫って来た。
不意打ちの一撃に無論回避など間に合わず、そのまま正面衝突して二転三転。
強固な洞窟の壁に背をぶつけ、肺から空気が飛び出した。
寧人「げフォ!!!」
レ級「~~~~~~~~ッッ!!!!」
完全にグロッキーな俺に対して、レ級は続けざま、脇をすっぽり覆うような強力なホールド体制のまま、高速で額を擦り付けると言う特殊な連続ヘッドバットを繰り出した。
これが速いのなんの、追加分の魚を取ってきたせいで濡れている筈の上着が余りの摩擦に耐えかねて、あろうことか発火するほどである。
寧人「アァァチチチチチチチチ!!!!」
夕立「ちょ、ば、やり過ぎやり過ぎ!!」
夕立が空になったバケツの海水をぶっかけることでどうにか納まった火の手。
しかし、レ級はホールドを依然解こうとはしなかった。
寧人「お、おい……突然どうした?」
レ級「ナンカ……ヨクワカラン……」
寧人「はぁ?」
レ級「デモ……ナンカスッゴイ、引ッ付キタクナッタ!!」
さらに腕に力がこもる。
寧人「アバガベバゴアアアアア!!!!」
アッ、これ背骨イったわ。
大破クラスの大ダメージを負った轟沈寸前の指揮艦と、それを不意打ちからの連続攻撃で沈めた満面の笑みを浮かべる戦艦、それらを見てやれやれと頭を抱える駆逐艦。
小さな基地の小さな艦隊、ちっちゃな理由の大騒ぎは、焚火の炎に煽られて、しばらく消えることは無かった。
やがて、音の主が騒ぎ疲れて寝静まる頃。
夕立「……ねぇ、起きてる?」
それまで極力傍観を貫いていた少女が、声を掛けて来た。
ぽっかり穴の開いた空から覗く、満月の月光。
彼女はその髪と目を、宝石のように光らせて。
青白い世界の中へ、迷い人を誘うのだった。
*****
フタフタマルマル。
先程まで我が物顔で海を支配していた嵐はどこへやら、満月を飲み込む墨汁の海は、不気味なほど静かに水面を揺らしていた。
魚も寝静まる深い夜。
海を割る白い軌跡が、5本。
先頭を行く2本に追従するように、不格好な線が走る。
曙「鹿島!!目標の島まで後どれくらいなの!?」
鹿島「もぅ、さっき聞いたばかりでしょ~?焦っちゃ、や」
曙「良いから!!」
鹿島「む~……約8キロね、この調子だと10分掛かるかどうかって所かしら」
曙「分かった!!ペース上げるわよ!!!」
鹿島「ちょ、もう限界~!」
悲鳴を上げる鹿島の代わりに、私は先行し過ぎている旗艦の肩を掴んだ。
時雨「ちょっと!ダメだよ、曙!気持ちはわかるけど、ここで艦同士が離れて敵の待ち伏せにでもあったら、それこそもうどうしようも無いんだ!冷静になってよ!」
曙「ッッ!!!」
どれだけ歯を食いしばっているのだろうか。
歯ぎしりの音が、金属同士の衝突音のように周囲にこだました。
曙「……ごめんなさい、少し頭を冷やすわ」
時雨「うん、しっかりね。この戦力だ、それこそレ級見たいなバケモノが現れない限りは、きっと安全なはずだから」
長門「フン。レ級など、私が退けてやるさ―――――奴以外ならば、な」
漣「確かに、”アレ”とはもう2度と戦いたくないっすねぇ~……マジ勘弁!」
鹿島「あらそう?私は―――――レ級etherが出てきてくれた方が、まだマシな気がするけれど」
時雨「ッ……」
この事件の一番デリケートな部分を、鹿島は的確に突いた。
無論、それは私たちに、”もしそうなってしまったとき”、動じない為に、なのだろう。
彼女はそう言う人物なのだ。
またそれが、教育者、なのだろう。
長門「輸送任務に就いていた夕立の”艤装の妖精さん”が、”確かに魚雷を一発撃った”と証言しているんだ。今更、疑う余地も無いだろう」
曙「……そうね、魚雷を使うような戦闘は、往復の航海中に1度も無かったのは確認済みだし……」
漣「いやでも、まさかあのぽ犬がね~……一体どんな事情があって――――――」
時雨「僕は」
漣の呟きに、否、皆の口振りに。
思わず、口調が厳しくなってしまった。
時雨「……結論を、急ぐべきじゃないと思うんだ」
漣「あー……いやぁ~、もちろん漣も信じたいですよ?そりゃ、明らかに任務中不機嫌でしたし、ここ最近の様子が可笑しかったのも感じてましたけど、それでもあの天真爛漫な夕立ちゃんが、まさかってねぇ?」
曙「……」
時雨「身内だから、ってわけじゃないよ。勿論、そんなの口先だけだって思われても仕方無いんだけど。でもね、もし夕立が今回の事件の犯人だったとして、それがなんで、わざわざ自分の居場所を教えるような真似をするのさ?」
長門「だから我々が、今回の通信が罠だった場合の可能性も考慮して出動したんだろう?」
時雨「だとしても、だ。そもそも、そんな危険を冒してまで、燃料にも弾薬にも限りのある彼女が、好んで僕たちと接触したがっている理由が分からない。海には施設の追手だけじゃなくて、深海棲艦だって居るんだよ?身の安全を考えるなら、いの一番に海を逃れて、陸に戻った方が賢明じゃないかい?」
鹿島「確かに、艤装さえ隠せば一般人には艦娘と人間の見分けなんて付かないですものねぇ」
時雨「そう。それに、彼女が海に逃れた時、何と言っていたか覚えているかい?」
曙「確か、”私じゃない”だったっけ?」
時雨「そうだ。一見すればただの言い逃れに聞こえるかも知れない。でも、こうは捉えられないかい?”私じゃなくて、他の誰かがそれをやった”」
漣「は、犯人は、この中にいるぅ!?」テレテ~テ~(名探偵のアレ)
長門「おい、デタラメを言うな!」
時雨「うん、漣の説は流石に無いと思うけど、例えば寧人くんを執拗に狙う深海棲艦が居たとするよね?」
曙「執拗に……?」
時雨「そう、それは過去に一度、寧人くんに敗れている。しかし運よく隙を見て離脱し、力を蓄えていたんだ。そして燃料を抱え、嵐になって動きの鈍くなった彼を狙いすまし、一発で、ズドンだ」
長門「……あのレ級etherが、そうだと?」
時雨「突飛な話だが、有り得なくはない。何せ、突然近海に現れては艦娘の所持する妖精さんを強奪する、奇行が目立つ奴だったんだろう?目的の為にイレギュラーな行動が個で出来る判断力を持ち、尚かつ強力な力を持っている。それが、ある日突然ワケの分からない力に敗北したとすれば、ソレが考えることはひとつだろう」
曙「寧人くんへの……復讐……」
長門「待て待て待て待て。もし仮にそうだったとして、夕立の魚雷発射は何だ?確かに放たれた筈のアレは、どう説明する?」
時雨「彼女はあの日、確か旗艦としてレーダーを装備していた筈だ。漣や寧人くんが気付けない敵の信号を探知し、反撃に出ていたのかも知れない」
長門「ならば、そう言えば良かっただろう?なぜ夕立は特にこれと言った反論もせず、魚雷の発射を隠し、あまつさえ逃亡を図ったのだ?」
時雨「それは……寧人くんの無事を、優先した、とも捉えられる」
長門「苦しいな、隠し事が発覚、糾弾され、その時点で行った決断がどこに居るかも分からない人物の所への急行だと?浅い、あまりにも可能性が浅すぎる!」
時雨「ああ、こればっかりは、僕も夕立に直接話を聞かないと分からない。なぜ逃げる必要があったのか、なぜ詳しい話を何もしなかった……否、出来なかったのか」
長門「簡単な話だ、奴が何かの理由で寧人を雷撃、それが発覚したから逃亡、無線で我々をおびき寄せ、何かしらの罠に嵌めて口封じをしようとしている。全て理に叶っているじゃあないか?」
時雨「安直だ、あまりに安直だよ、その発想は!!」
長門「貴様の思考が面倒なだけだろうが!!!」
時雨「この―――――」
鹿島「――――ちょーーーーーっと、口を挟ませてね~♪」
時雨「……なんですか?」
鹿島「時雨ちゃんの話、確かに面白いわね。不思議な事に、全てがかみ合っているようにも見える。確かに穴はあるけれど、それもあのレ級が絡んでいるとすれば、何かしらのイレギュラーが起きていると考えることもできます」
長門「鹿島貴様ッ!!お前までそのような戯言を!!!」
鹿島「ただし!!!!」
全員「「「!!」」」
鹿島「…………もし、その”何らかのイレギュラー”で、夕立ちゃんを沈めなければならなくなったとき。時雨ちゃん、今のあなたにそれができるかしら?」
時雨「…………!!」
鹿島「夕立ちゃんは強いわぁ、戦場の空気を知り、これからの期待を込めてこの施設に送られたエリートだもの。なまじ実践じゃあ、この施設で一、二を争う実力者よ?そんな相手を前に―――――同情なんて甘えた感情を抱えて、無傷で済むと思っているの?」
時雨「……いいえ」
鹿島「……時雨ちゃん、あなたのお友達を思う心、思考を止めない精神、とても素晴らしい事よ。けれどそれは、過酷な決断を行わなければならなくなったときには、ただの足枷でしか無いの」
静かになった空間で、鹿島は私の目を見て言った。
鹿島「たったひとつの真実なんて、この世に無いの。けれど、浮かび上がってしまった事実に対して、それぞれに対応できる確かな”覚悟”を持っていなければ、思考なんて只のお飾りよ。そのことを、忘れないようにね?」
時雨「…………」
返事が、出来なかった。
覚悟。
即ち、友を撃つ覚悟だ。
私が闇の中をもがき苦しんでいた頃、ただひとつの希望だった親友を。
笑顔がとっても素敵で、実は深く、優しくて、ちょっと気分屋で。
そんな素敵な夕立を、沈める覚悟だ。
そんなの。
……無理に、決まっているじゃないか。
曙「大丈夫よ」
ふと、そんな声が響いた。
曙「もしそうなったときは、私が彼女を沈めるわ」
その声は、強く、太く、厳しく。
曙「私だって、前線経験者よ?ちょっとすばしっこい程度のおてんば娘なんか、屁でもないわ」
だから、と言葉は続く。
曙「時雨、アンタは愚直に、親友を救う方法を考えなさい。後の事は、何も気にしないで良いから」
ああ。
……ああ。
なんて、頼もしい言葉だろう。
握りしめていた拳の力が、自然に解けていく気がした。
長門「曙貴様ッ!!状況が分かっているのか!?証拠は揃っているだろうが!!一般常識で―――」
曙「はぁ?一般常識ぃ?」
くるり。
私たちの目の前で優雅に振り返った彼女は、風に巻かれるテールを弾く。
曙「知ったこっちゃないわ、そんな事。大切なのは、信じた先に幸せがあるかどうかよ」
時雨「…………ぷっ!!」
ああ、なんて不謹慎なんだろう。
思わず笑ってしまったじゃないか。
曙「ちょ、なんでここで笑うのよ!?」
長門「く……ふふ、それは仕方が無いな、曙よ」
鹿島「ふふふ、そうねぇ♪」
曙「ちょっとぉ!?皆して、何なのよ、もう!!」
時雨(だって……)
長門(今のセリフ、今の表情)
鹿島(どこからどう見ても……)
漣「ボノボノ、完全に寧人さんに染められちゃってますなぁ……」
曙「はぁ!?」
漣「あ、やべ、口にでちった♪」テヘペローイ
曙「も、もォ~~~~!!寧人くんは関係ないったら~~~~~!!!」
*****
夕立「―――――と、まぁ、状況はこんな感じね」
寧人「……」
事のあらましとして、今夕立がなぜ、どんな疑いを掛けられているか。
その状態で救援を呼び、それがおよそどれくらいで到着するか。
簡単な話を、俺は彼女から聞いていた。
夕立「ねぇ、もう一度聞くわ」
静かな――――だからこそ耳を弄ぶ波の音に、消え入りそうな声。
彼女は月光を浴びて、俺の目を真っすぐに見て、言った。
夕立「寧人は、あの爆発の原因、なんだと思う?」
波の音が、1往復。
答えを探しているようで、しかし、俺の返答は最初から決まっていて。
だからきっと、この”間”は。
俺の言葉が本物だと、彼女に伝える為の、誠意だった。
寧人「―――――たぶん、弾薬を詰め込んだドラム缶が、何かの拍子に爆発したんじゃないか」
驚くような眼をした彼女は、しかし、分かっていたように言葉を飲み込み。
夕立「……そう」
とだけ、返す。
寧人「ああ、全てはきっと、俺のミスなんだ」
夕立「…………そ、う」
震えている。
普段はあんなにも活発な、太陽のような彼女は、表情に影を孕みながら、尚も輝く。
空から降り注ぐ月光と、静かに騒ぎ立てるさざ波を背景に。
純粋な、雫を落とす。
寧人「……大丈夫だ。きっとどんな真実がそこにあっても、俺はそんなの全部無視して、夕立が幸せになれる”答え”を選ぶよ」
夕立「……うん、う、ん……」
手の平に触れる感触。
濡れたように冷たい、絹の髪。
震えながらも尚も冷たく。
けれど、確かに生きている。
不安定な心と、世界を救済せしめる力。
そのふたつを内包した、小さな背中。
抱き締めれば、ほら。
こんなにも、儚い。
夕焼けに染まる夕立のように。
地面に落ちては弾けるように。
きっと、器が無ければ砕けてしまう。
だからこそ、尊い。
純粋無垢な、雫―――――
夕立「寧人」
ふと、名前を呼ばれる。
寧人「ん」
夕立「ありがとう」
寧人「ん」
夕立「それと」
寧人「ん?」
夕立「ごめん―――――行かなきゃ」
トン、と。
体を押される。
その静かな仕草に、思わず反応が遅れて。
寧人「あっ――――」
夕立「じゃあね。信じてくれて、ありがとう、っぽい♪」
最後に、とびっきり彼女らしい笑顔を浮かべて。
儚い太陽は、海の闇に溶けた。
寧人「え……?」
何が起きたのか。
寧人「夕……立……?」
何が起きるのか。
寧人「夕立……夕立!?」
寒気。
嫌な予感が、収まらなかった。
寧人「―――――夕立ィ―――――――――!!!?」
*****
フタフタマルマルと、ちょっと。
ほんのすこーし、予定時間とズレちゃいましたか。
今頃皆さん、夕立さんの話を信じてあの孤島を探している頃のはず。
でもこれはフェイクメッセージ、私には分かります。
なぜって?
それは……。
??「やや、どーもどーも!夕立さん、お元気ですか~!」
夕立「……やっぱり、あなただったのね……」
??「ほほー、やっぱり、と来ましたか~?参考までに、どの辺りで気付いたか、お聞かせ願えます~?」
夕立「最初に疑問に思ったのは、レーダーに魚雷が映った時。私の装備は元の艦隊から貰った特別製でね?ソナー信号だけじゃなくって、磁器で周囲800メートルの金属反応を6000分の1ミリ秒単位のリアルタイムで観測できるの。範囲は狭いけど、その分、背中に目があるみたいに動けるのよ」
??「あらぁ、そーなんですかー。こりゃ失態失態、大失態!メンバーの装備くらい、ちゃんと頭に入れとけってスンポーですよねぇ」
夕立「始めの金属反応は、後方2メートル。その後、なぜかそれは後退して行ったわ……いいえ、私たちが前進していたから、後ろに置いて行かれた、と言った方が正しいかしら」
??「うーむむむ、スクリューの始動タイミングをズラして敵からの攻撃に仕立て上げる、お得意のニンポーだったんですけどねぇ……ムネン!ショッギョムッジョ!」
夕立「へぇ、てことは、案外常習犯なの?」
??「ええまぁ。新人建造艦のフリをして、ちょっとしたお偉いさんの為に密約をこなす黒の組織、伝説のヒットマン、幻のシックスマン!」
夕立「……いい加減、そのキャラ作りやめてくれない?イライラするよ―――――”漣”さん」
漣「……それは、お互い様では?”ソロモンの悪夢”さん♪」
<第6話終了>
※今回の思い付きボツ展開※
~ズルい女~
完全にグロッキーな俺に対して、レ級は続けざま、脇をすっぽり覆うような強力なホールド体制のまま、高速で額を擦り付けると言う特殊な連続ヘッドバットを繰り出した。
これが速いのなんの、追加分の魚を取ってきたせいで濡れている筈の上着が余りの摩擦に耐えかねて、あろうことか発火するほどである。
寧人「アァァチチチチチチチチ!!!!」
夕立「ちょ、ば、やり過ぎやり過ぎ!!」
夕立が空になったバケツの海水をぶっかけることでどうにか納まった火の手。
しかし、レ級はホールドを依然解こうとはしなかった。
寧人「お、おい……突然どうした?」
レ級「琴浦サンOP的ナ可愛サデ読者ノ好感度ヲ稼ゴウカト」コシコシコシ
寧人「良いぞもっとやれ」
あの擬音に邪な感情を抱いたのは俺だけではないはず。
~夕立は尋ねる~
夕立「―――――と、まぁ、状況はこんな感じね」
寧人「……」
事のあらましとして、今夕立がなぜ、どんな疑いを掛けられているか。
その状態で救援を呼び、それがおよそどれくらいで到着するか。
簡単な話を、俺は彼女から聞いていた。
夕立「ねぇ、もう一度聞くわ」
夕立「なんか今回私の登場回数少なくない?」
寧人「質問変わってるぞぉ」
おかしいなー、夕立主軸の話にする予定だったんだけどなー。
それもこれも、全部レ級が強過ぎたのが悪い。