「突然だが、他校との合同演習がある」
「「「「学校っぽくてヒーロー科っぽいの、来たァァァァァ!」」」
担任である相澤の発言により、雄英高校1-Aの面々は多くが喝采の声をあげた。
人類の8割以上が”個性”と呼ばれる超常能力を持つ現代。
この時代には、”ヒーロー”が職業として成立していた。そのため、ヒーローを育成するヒーロー科と呼ばれるものが一部の学校に存在している。
ここ、雄英高校はそんなヒーロー科のある高校の中でも極めて評価が高い学校の一つであった。
「けど、どうして急にそんな話が出てきたのかしら?」
「この前の仮免試験で相澤先生、傑物学園の先生と話していたからそれでじゃねーか?」
先日行われたヒーロー仮免許試験。
その際に、かつて相澤と事務所が近くだったというMs.ジョークが相澤と合同演習について提案していた。彼女は現在傑物学園ヒーロー科の教師であり、彼女のクラスの生徒たちとは仮免許試験の際に戦ったばかりだ。
「確かに内容は合同演習だ……だが、傑物学園相手じゃない」
その言葉に、1-Aの面々は(じゃあどこ?)と首をかしげる。
誰だろうとぶっ殺す! とか考えていそうな爆豪はともかく、他の面々からしてみれば、どこと合同演習があるのか気になるところではあった。
「可愛い女子がいるか、それが問題だ」
「ブレないな、お前……」
1-Aの中でも性欲が人一倍大きい峰田の言葉に、瀬呂が呆れたような顔をする。
だが、いつもは叱る相澤が、峰田の言葉を聞いて大きなため息をついた。
いつもと違う担任の反応を見てあれ? と思う生徒たちに対し、相澤はすごく、それはもうすごく嫌そうに合同演習の相手先の学校名を口にした。
「ハァ、こいつがいるから嫌だったんだけどな……。合同演習の相手は
「「「女子高!!」」」
峰田だけでなく、上鳴など女子に飢える一部男子から喝采があがる。
当然、そんな彼らを見る女子の視線はお察しである。たいてい、態度があからさますぎるから女子に好かれないのだろうが、彼らは気づいていない。
しかし、そんな一部男子が反応した「女子高」という部分ではなく、学校の名前自体に反応したものもいた。
「ケロ。真帆幾って……」
「俺も中学時代のクラスメートが受験したから聞いたことがあるぞ」
「女子高の中では屈指のヒーロー科……。雄英か真帆幾かで迷う女子は多いって聞いたことある」
そう、真帆幾女子高等学校は雄英に並ぶヒーロー科名門校の一つ。その中でも、実力重視ということで知られている学校だ。
入学試験において学力も高い偏差値が求められる雄英に対し、真帆幾は実技試験の配点が特に高い。学力試験は高校に入れるだけの学力があるかのいわば足切りに近いものであり、実技だけでほぼ合否が決まる。
「そうだ。それに、真帆幾は実践を重視したカリキュラムを組んでいるからな。何度も襲撃を受けたお前たちが今後訪れるであろう危機に対応するために、学べることはあるはずだ。当然向こうとしても、お前たちから学ぶためにここへ来る」
情けない姿は見せんなよ? と相澤は笑う。
そこにあるのは信頼だ。数々の危機を乗り越えた彼らなら、決して他校の生徒に劣りはしないという彼なりの信頼。いかに真帆幾の生徒が実践重視の課題を乗り越えてきたとしても、学校内でのものはあくまで授業。実際に
だからこそ、彼らは決して真帆幾の生徒には劣らない。経験に勝るものはないのだから。
「とにかく、だ。詳細な演習内容は当日に発表するが、向こうからは1クラス分、15人が来るそうだ」
「15人……?」
「思ったより少ねーな」
現在1-Aは20人。もちろん学校ごとに1クラスの人数は違って当たり前なのだが、それでも1クラスが15人というのは少ないように感じた。
だが、これは……ただ少ないというだけではない。
真帆幾の授業の厳しさ故に、ヒーロー科から普通科に移った者、学校を変える者……。あるいは、見込みがないとして除籍になった者。
真帆幾はその厳しさでも有名であり、1年生からは毎年脱落者が出るため進級率が100%ではないことでも有名である。
もっとも、そのほとんどは自主的な脱落。いかに厳しくとも、たとえ這いつくばってでも追いすがろうとする者を切り捨てるほどではない。
裏を返せば、今残っている15人は……実技試験を乗り越える個性や実力、そして日々の課題を受けてなお耐え抜く精神を持っているということだ。
「少ないからって侮るな。ましてや、その担任は……俺の元・クラスメートであり俺が全然勝てなかった奴だ」
「「「相澤先生のクラスメート!?」」」
しかも相澤先生より強いのか……とまだ見ぬ真帆幾の教師にも期待が高まる。
様々な期待はあるものの、これ以上の情報は相澤から伝えられることはなく、当日を待つのみとなった。
同日・雄英高校校長室。
仕事をしている根津は、ピロン! という音に気付いて顔をあげる。
音がしたのは机の上においていたノートパソコンからであり、パソコンを引き寄せてメールを開く。
本文が一切書かれていないメールに入っていたのは音声ファイルでもなければ、動画ファイルでもない。
しいていうのならば……入っていたのは、”電子精霊”だった。
「待っていたのさ! 今回の合同演習、改めてよろしくお願いするのさ!」
『こちらこそ、雄英は今大変なのに受け入れてくれて感謝するぽん。うちの生徒たちにとって、雄英の1-Aと共に学ぶことは大きな意義があると思っているぽん』
画面に表示されたのは半分は白、半分は黒に分けられたまんじゅうのような体をしたもの。
その後部には4本の羽のようなものがあり、体が左右に揺れるたびに緑色の鱗粉のようなものが舞う。
「意義があるのはこちらもだよ、
『ファヴと呼んでほしいぽん?』
「ハハハ! 親しい間柄とはいえ、会議も兼ねているからね、メリハリは大事なのさ!」
彼らは旧知の間柄であるが故に、身分にかかわらず親しげな様子を見せる。
根津も不安部も校長になる前からの知り合いであり、また、根津は不安部の本当の顔を知る数少ない人物の一人である。
世間において、不安部は現在のマスコットキャラクターのような姿ばかりが知られているがそれは彼の個性も関連している。
不安部の個性は【アルターエゴ】。
電子機器に入ることでその電子機器を操ったり、マスコットキャラクターのようなその姿を投影できる個性。
パソコンに入れば電子世界の住人となる。そのため、本体の顔はあまり知られていないのだ。
今回のように、業務すら電子機器の中で行うのだから。
「それにしても、君はまだその喋り方を続けているのかい?」
『これはファヴのアイデンティティーだぽん。そう簡単に変えるつもりはないんだぽん』
「まぁ、それならいいのさ。さて、今回の合同演習の話に移るのさ!」
最初の雑談はここまで。
まじめな顔になった根津は、表情を変えることなく浮かんでいるマスコットキャラクターをまっすぐ見て話す。
「まず、演習の内容についてはうちの相澤と、そちらの先生が話し合って決めているね」
『報告は聞いているぽん。現場に出ることにもなった際、初めて顔を合わせるヒーローと協力して事に当たることはたくさんあるから、そのことを見据えた演習になっていると思うぽん』
「それに、うちの生徒たちが巻き込まれてきた事件のことも取り入れての内容だね」
どちらかというと、以前の期末試験も似たような内容だ。
だが、今回の合同演習は相手にするのは教師相手ではなくあくまで生徒同士の対決となる。
なお、会場は雄英の施設を使う。真帆幾の施設も決して悪くはないのだが、雄英の敷地は大きく、それに伴って演習場も広大かつ多岐にわたる。合同演習を行うにあたっては、雄英の方がやりやすかった。
そして、話は雄英高校のセキュリティに移る。
「……そちらの大事な生徒さんをお預かりするわけだからね、うちとしてはセキュリティも充実させる予定さ」
『そこは信頼してるぽん』
「しかし、他の学校とはまだそのあたりで話が難航しているというのに……なぜ、君は
『簡単なことだぽん。こちらとしては、今回の合同演習をぜひ進めておきたいんだぽん』
そして、不安部の声色が急に変わる。
それまで高いのほほんとした声から、低くなった声に。
また、今までの語尾に「ぽん」がついた喋り方とは違う、キャラを作っていない本来の喋り方へと変わる。
『……うちが実戦を重視してるのは知ってるだろ? 急なことがあっても、それに対処できるようには鍛えてるんだぜ? それ以上に、数々の修羅場をくぐってる雄英1-Aとはぜひ一度合同演習をしておきたいんだよ。うちの生徒たちに足りないのは経験だ。いろんな個性、いろんな考え方、いろんな戦闘スタイル。多くの経験は多様な現場に対応する上での重要な糧なんだよ』
「……なるほどね。ぜひ、実りの多い合同演習にしてほしいものさ」
そして、その日を迎えた。
雄英の前には、1人の引率教師と15人の生徒たち。
「フフ……懐かしいですね、雄英高校」
「うおー! おっきいね雄英!」
「おっきいねユナ!」
「そこ! うるっさい! 恥ずかしい真似しないでちょうだい!」
「ど、どきどきするね……」
「ははっ、心配すんな! オレ達はオレ達のベストを尽くせばいいだけなんだって!」
「そうだよ~。頑張ろうねぇ~」
彼女たちが、来る。