ちょっと腑に落ちないというか……もうちょっと素直に殺すなら殺す、生かすなら生かすってシンプルに終わらせても良かったんじゃないかぁ、と。
おや、誰か来たようだ。
「主砲1番2番、撃ち方始め!」
「艦首魚雷一斉射!」
敵艦がワープアウトし、エルナト級の艦首が食い込む直前に、主砲・魚雷を次々発射する。被弾箇所が崩れ、接触時の衝撃を和らげるが、質量差で大きく揺さぶられる。
「艦底部発射管開け!」
「一斉射!」
艦底の隙間が開き、目の前の鉄板にミサイルを直撃させる。
「甲板、対艦グレネード一斉射!叩き込め!」
「撃ち方始め!」
「右舷に高エネルギー反応!距離200!目標識別、カラクルム級です!」
「インフェルノ・カノーネ、来ます!」
「旗艦のアポカリスク級を巻き込んでッ!」
冷酷な敵の戦術に、思わず戦術長が声を絞り出す。
「これがガトランティスの戦法だ!骨身に刻め!」
「応戦用意!右舷速射魚雷!」
「バリアミサイル一斉射!何段にも防御スクリーンを重ねた上で、波動防壁の出力を最大にすれば耐えられる筈だ!」
「右舷、バリアミサイル撃ち方始め!」
「波動防壁、右舷に集中展開!」
「機関出力、120%!全エネルギーを波動防壁に回せ!」
「波動防壁出力、320MPaを超え、尚も上昇中!」
モニターに表示された波動防壁出力のゲージが青から赤に変化し、表示の桁が変わった事を告げる。それでも足りず、ゲージの上限が更に開放され、そうして漸く満タンになって止まる。
「総員、耐ショック姿勢!」
「着弾まで3…2…1…今ッ!」
バリアミサイルが広げた壁に突き刺さったエネルギーの濁流は、辛うじて貫くものの、威力を大きく削がれる。何枚ものスクリーンを超えて波動防壁に直撃した時にはすでに、圧倒的な堅牢性の波動防壁に弾かれてしまう。
「波動防壁低下率、16,500!」
「対消滅ミサイルの倍、か……」
しかし、波動防壁が耐えたインフェルノ・カノーネをアポカリスク級は耐えることが出来ず、味方の攻撃で撃沈される羽目になる。そこに残ったのはエルナト級だけだった。
「補機、出力最大!波動防壁出力を70%まで戻して砲戦再開!移動開始!」
「ケルビンインパルスエンジン、出力最大!」
「移動開始、増速黒45!ヨーソロー!」
「主砲、右砲戦用意!照準距離微調整、目標カラクルム級!」
「撃ち方始め!」
号令の下、右を向いた主砲が火を噴き、彼方のカラクルム級を串刺しにしてへし折る。更に威力を保って貫通し、奥のもう1隻にも直撃し、爆沈させる。
「現在、波動防壁出力200MPa付近で安定!被弾経始圧、維持してます!」
「もうそろそろか……各艦反転用意!60秒後に、陣形の外周方向へ向けて反転し、ワープで海王星まで後退する!」
「しかし、ここで退けば敵は一気に海王星基地に」
「戦術長、あれが見えて、その言葉を吐いているのか?」
司令の語る言葉に、艦橋内の全員の視線が窓の向こうへと向けられる。海王星を真後ろに、深宇宙を真っ直ぐ睨むように艦首を向けるエルナト級の前には、(そして艦橋クルーそれぞれの視線が一点に集まる焦点の位置には、)
「じきに先行部隊が来る。地球司令部から直送のBBB戦隊が」
『トリプルビー戦隊!?』
艦橋内にどよめきが奔る。それも当然。BBBーBlack Berserk Battalion(黒狂戦士大隊)ー戦隊といえば、嘗てのガトランティス戦役で、無人AI艦隊として白色彗星内部への奇襲作戦に使われた部隊の略称である。
「了解!離脱準備!面舵反転、ヨーソロー!」
「艦隊司令部より入電!『BBB戦隊突入に際し、敵艦隊の陽動を所定通り実行せよ』です」
「我々で敵を海王星付近まで引きずり出せ、という事ですか」
「全艦の反転を確認!」
「全艦、ショートワープ!海王星まで退避!」
「白色彗星内にワープアウト反応!
その声が響いたのは、ワープインの直前だった。
「接敵中の海王星艦隊への通達完了!BBB戦隊のワープアウト30秒前!」
「白色彗星、依然として進路を維持!AI予測、Bの1に符合!」
「なぜワープしない。ガミラスの壁も無いのに」
「不明です!受動的観測手段で分かる事は、白色彗星が保有する総エネルギー量が以前の3割ほどであることしか……」
オペレーターと西本が会話する。今回のガトランティスの、嘗てと違う点だ。艦艇はワープで出現するのに、白色彗星はワープを行わず、ゆっくりと前進するのみだったのだ。
「BBB戦隊!ワープアウトしました!」
「彗星中心付近で重力傾斜高まる!」
「全方位攻撃に晒されている模様!波動防壁出力、1.2MPaを突破し上昇中!波動防壁は間に合っています!」
「退避中の海王星守備隊より入電!『我、敵艦隊殲滅に移行する』です!」
艦隊戦そのものはやや有利に傾きつつあり、いきなり内部への奇襲を許した白色彗星は歩みを止める。敵艦隊も混乱に陥り、統制を失ったようにバラバラに突撃を始める。
「彗星内に高次元エネルギー反応!対消滅ミサイルと思われます!」
「BBB戦隊、回避運動を開始。砲撃中の前衛が被害拡大!」
詳細な戦況は分からないが、各艦から送られてくる被害情報からおおよその見立てはできる。
「彗星中心核の重力傾斜、BBB戦隊の移動限界に到達!尚も高まる!」
白く、濃い霧に閉ざされた虚無の空間。光に満たされているが、あらゆる
そしてその静寂を打ち破るように、緑色をした大きな、葉巻型をした、そしてトゲトゲした禍々しい鉄の塊が、数えきれないほど多数で、陣形を組んで霧を割いて進む。
その進む先の白が、僅かに歪む。その歪みは周囲に波紋を広げていき、直後、青白い光を放ちながら、また別の鉄の塊が姿を表す。こちらは、灰色を基調に、側面を赤い帯で染め、黄色い細い線が筋となって入っている。
現れるや否や、青い光の筋を周囲に撒き散らし、次々と緑を吹き飛ばしていく。
その戦闘は紛れもなく、ワープアウトした、無人改装されたスーパーアンドロメダ級からなるBBB戦隊と、ガトランティスのカラクルム級との戦闘だった。
銀河由来の、ワープから連続しての波動防壁展開で、急遽応戦しようと砲塔を向けたカラクルム級の砲撃を弾き、スーパーアンドロメダ級の砲撃はカラクルム級を串刺しにし始める。
ミサイルポッドから白煙を吐き出し、ミサイルが次々飛び出す。その前側と、直後の艦橋の更に後ろに有る合計3基の主砲も火を噴き、血祭りにあげる。
艦底部ポッドから、小型無人機が大量に飛び出し、砲撃に気を取られていたカラクルム級に肉薄する。
密集陣形をとっていたカラクルム級は、小口径対空砲で濃密な弾幕を虚空へ打ち上げる。熟成されたAIの判断で機敏に動く機体でも、完全に躱し切ることはできず、1機、また1機と火を吹いて、黒い尾を引きながら墜落していく。
肉薄するのは艦載機隊だけではない。一部のスーパーアンドロメダ級も、波動防壁のパワーにものを言わせて正面から突っ込み、敵陣内部に被害を蓄積させていく。無人機がその脇を固め、対艦ミサイルで着実に1隻ずつ仕留めていく。
そして、戦闘がBBB戦隊に有利に傾き始めた時、重力傾斜がどんどん高まり始める。
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