その状況で白色彗星倒すにはこんな感じに大真面目にバカげた規模の作戦しかないのです。
すいません。適当言いました。
はい、ということで決着へ加速していきます。
「発進準備!」
正面の窓から、地表すれすれの太陽からの光が差し込む。力強い太陽光は、黄道面から遠く離れたこの準惑星の地表を洗う。希薄な大気を飛びぬけた光の矢は、艦橋の中に光のコントラストを生み出す。
「了解!各部、点呼!」
「メインフレーム、動作状況オールグリーン」
「航空隊、メンテナンス完了」
「主砲、副砲ともに問題なく動作中」
「超空間通信、稼働状況は良好」
「操艦系、全システム問題なし」
「コスモレーダー、出力安定」
「重力バラスト、問題なし。発進に障害は無し」
「エリス基地からの電力受電系統をカット、艦内発電からの電力供給に切り替え。
宇宙戦艦ヤマト艦橋。
重力源を破壊し、その際の衝撃波によりプラネットキャプチャーを更に2本失い、重力源の近くにあった惑星が一つ消えた白色彗星だったが、依然として圧倒的な圧力で地球へ迫り続けて、現在火星軌道まで到達していた。
エリス基地からの、超大出力タキオン収束砲狙撃による、白色彗星破壊作戦。
那須与一が弓で扇を射抜いたとされる「屋島の戦い」から「ヤシマ作戦」と名付けられたそれは、いくつもの下準備が必要だった。
第一に、
できるだけ白色彗星を内惑星軌道周辺まで引き付けること。
なぜならば、狙撃の際に用いるエネルギー流は、僅かな太陽風にすら軌道を逸らされ、少し斜めになっただけでも太陽系外へ押し出されてしまうから。
それを避けるために、できる限り太陽風に対して平行に狙撃するために、なるべく内側の軌道にいることが望ましかった。
第二に、
白色彗星に感づかれないほど大遠距離から狙撃すること。
第三に、
白色彗星の防御をできる限り削り、そのうえで、重力源にダメージを与えておくこと。
重力場の影響を大きく受ける狙撃において、小ブラックホール規模の重力源ですら、大きな障害となりうる。そのうえその重力が可変的に変化するなら尚更、止めておく必要があるのだ。
以上の三項目の内、三つめは概ね達成された。第一条件はじきに整うし、第二条件は元から達成されている。
いよいよ作戦発動が確実となった段階で、ヤマトの左舷側の空きドックに一隻のエルナト級が滑り込んで、地球から戻ってきた古代と真田、エリスで降ろした波動コアの交換用の品が届いた。
「機関再始動!」
「主機、波動コア交換作業完了を確認、補機始動!」
古代の号令の下、徳川が機関始動シークエンスに取り掛かる。
「補機、始動を確認。続けて、第二波動エンジンフライホイール接続、点火!」
《第二波動エンジン接続!》
《第二波動エンジン点火!》
機関室から作業の報告が来る。
そしていよいよ、緊張の瞬間が迫る。単炉心の波動エンジン点火時のリスクはほぼ0まで下がってはいるが、六連炉心の波動エンジン点火には細心の注意が必要となる。それこそが六連炉心搭載艦の少なさの原因だった。特に波動コイル入れ替え後の点火作業では、大きなリスクが伴う。
「第一フライホイール、第二フライホイール、接続!」
いよいよ主機の点火に入るが、第二波動エンジンの動力を受けて回り出す第一、第二フライホイールは前半戦でしかない。エリスでの改装時に追加された三本目のフライホイール、それこそが起動の本命であり、大幅な出力強化の要だった。
《第一フライホイール接続!》
《第二フライホイール接続!》
「メインホイール、接続!主機、点火!」
「了解!メインホイール接続!」
《主機、点火!》
少しずつ床下から伝わってくる振動が強まり、いよいよ発進目前であることを伝えてくる。
「重力バラスト放出、ガントリーロック解除、補機最大運転、浮上!」
「了解、浮上開始!」
と、ここで補機の出力で上昇に転ずる。左舷側を見やれば、既にドックから発進したエルナト級の姿が見える。
艦底のスラスターが輝き、青白い噴炎を吐き出して艦体を持ち上げる。更に補機が上昇を補助し、高度120mまで浮上する。
メインホイールに動力が接続され、主機の六連炉心波動エンジンが火を吹く。
命を吹き返したように、ヤマトの巨大な艦体が押し出され、急速に上昇しながら加速していく。
左舷側のエルナト級は回頭して、エリス直掩の部隊に合流すべくヤマトから離れていく。
「地球司令部より入電、《宇宙戦艦ヤマトは、8月15日0100発動予定のヤシマ作戦補足事項・追加装備艤装の為、速やかに地球へ帰投せよ》です」
「次元潜航用意、亜空間バイパス経由で地球へ帰還する」
「了解、亜空間航行用意」
「艦内、各部点検。隔壁閉鎖、窓部分保護シャッターを閉鎖」
小林の復唱に合わせて、操艦系の切り替えが行われる。
真田さんの指示でシャッターが降り、メインスクリーンに外部の映像が映し出される。
「有視界航法から計器航法へ移行」
「次元遷移弁開放、亜空間結節点生成システム、起動」
「主機よりエネルギー注入開始」
ヤマトが進む方向と水平に、ヤマトの下方に赤い輪が発生して、黒い輪と共に同心円状に広がる。その直径はヤマトをすっぽりと覆うほど大きくなり、やがてヤマトの船体はその面から円の中へと沈み始める。
「亜空間航行に移行する、下げ舵10、減速赤5」
「主機、動力停止。補機、出力上げ」
「主機停止、補機出力80%へ」
小林の操舵に合わせ、古代の指示で徳川が機関を調整する。
自分から時間断層に潜っているような亜空間航行においては、波動エンジンは無限にエネルギーを吸い出されてしまう。それを避けるために主機、第二波動エンジンを停止して補機のケルビンインパルスエンジンをメインでの使用へと切り替える。
その瞬間、メインノズルの輝きが消えて、サブノズルから噴き出す輝きが細長く伸びる。
「艦橋、間もなく亜空間へ沈降します」
「計測システムの誤作動に注意」
「了解、亜空間ソナーに切り替え、コスモレーダー停止」
「メインスクリーンに光学映像を表示」
「了解、艦外部監視カメラ起動、信号受信します」
そこに表示されるのは、見渡す限りの虚無な緑色の空間と、そこにポッカリと浮かぶ黒い人工物の細長い塊。
「
「アレが、ヤシマ作戦の要、仮設エリス第二要塞の試製Y砲のエネルギーを蓄積するんですね」
「一個単位ですら、通常のエネルギー貯蓄設備とは桁違いのエネルギーを内部に保持できる。その上それが1,000,000個設置されれば、白色彗星破壊に必要な概算量を超える」
「ひ、百万個……」
「地球への帰還を急ぐ。作戦開始まで残り170時間を切っている」
「了解、増速黒20!」
サブノズルから炎が伸び、ヤマトの船体を押し出す。
ヤマトは地球へ急ぐが、地球にはあと一刻の猶予も残されていなかった。
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