宇宙戦艦ヤマト 2221 ~悪魔との再戦~   作:柱島低督

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ヤシマ作戦 -7-

「古代、どうする?」

 

残り8分45秒、1秒のロスが命取りになる。

回廊の外壁は衝撃で吹き飛んでいるので障害物はないが、通常航行では9分弱の内に加害範囲を振り切るのは不可能。最大戦速でも運良く辿り着けて1,980宇宙キロ。

 

「小林、暫定的に最大戦速で離脱、Y砲の軸線から直角に離脱」

 

「了解!」

 

思考の海に取り込まれそうになった瞬間、意識を現実に戻して小林に指示を出す。問題はこの後だ。

 

「真田さん、亜空間潜航は」

 

「次元結節点生成システムは非常にデリケートな代物だ。重力干渉、電磁干渉が残ってる状況下で使用すれば、亜空間回廊への転換にラグが生じ、最悪パラドクス、つまり因果律の崩壊を招く。そうなった場合、宇宙そのものが総転移するか、消滅するぞ」

 

そう言い切ると、何かに気付いたように木下のコンソールの後ろへ移動し、横から身を乗り出してキーボードで計算をし始める。

 

「ただ、一定の可能性はある。あくまで最終手段だ」

 

そう言い切りながらも、キーボードを叩くのを止めない。

 

「無差別ワープは」

 

「重力干渉が強すぎて、ワープ中に回廊壁に接触、虚数空間に粉微塵になって放り出される。亜空間潜航よりも危険だ」

 

「発射まであと8分!」

 

桜井が声を上げる。

同時に艦内の警告灯が点灯し、視界が暗転して赤く照らされる。

 

「重力干渉か……」

 

「前にも重力に囚われて、白色彗星に落下したんですよね……」

 

古代のつぶやきに、振り返った中西が重ねる。

 

「全ては重力のせいか……」

 

スロットルを維持したまま、流されないように舵を微調整しながら、小林が呻く。

その言葉に思うことがあったのか、小林の方を向くや否や一旦硬直する古代。

 

そして、そのままの顔で口を開く。

 

「真田さん、波動防壁なら、……重力波の遮断は可能ですか?」

 

「重力を媒介する重力子の繋がりをシャットアウトか……宇宙空間を切り離す波動防壁なら、あるいは可能かもしれない。どれだけの出力が必要かは不明だが、一考の価値はある」

 

「少し待ってください……ダメです。21式乙では最大出力でも不安が残ります」

 

キーボードを叩いていた木下が被せる。

 

「21式甲ならば理論上は可能です。ですが…」

 

「波動砲口のみの装備では全周囲を切り離すような展開は不可能」

 

続きを真田さんが引き取る。

『ここまで来たのに』という想いが、全員の沈黙を誘い、痛いほどの静寂が艦橋を支配する。

 

暫くしてそれを破ったのは、真田さん自身だった。

 

「いや……波動防壁を2重展開した上で、高次元微細レーダーから真空ゆらぎを発振して2枚の防壁の間で反響、共鳴させれば、疑似的に超低エネルギーの空間が生成され、外部重力のエネルギーを吸収することで、周辺重力の影響は無視できるレベルまで下げられる」

 

「その方法なら21式乙でも可能なんですか?」

 

「可能だ……メインフレームの操作系にオプションとして2重生成を追加するのに時間が欲しい」

 

「残り6分!」

 

「それで充分だ」

 

その言葉を残して、副長席へ舞い戻って、椅子に座る時間も惜しいと言わんばかりに、屈みこみながらキーボードを叩き始める。

 

「木下君、メインフレームの演算でシミュレーションを実行、最適な2重の間の距離と高次元微細レーダーの発振周波数を解析してくれ」

 

「は、はい」

 

カタカタと、タイプの音だけが第一艦橋に降る。

 

先の静寂に限りなく近かったが、正気を保つタイプ音が、まるでクルーの意志を繋ぎ留めているかのようだった。

 

「残り5分!」

 

「真田さん」

 

「大丈夫だ、2分残せる」

 

その言葉が返されるや否や、タイピングのスピードが上がり、より甲高く打鍵音が響く。

 

「木下君」

 

「現在量子ビット演算で解析中です……あと30秒」

 

「終了し次第送ってくれ。生データで構わない」

 

無限にも思える30秒の静寂。どれだけ経ったとカウントダウンを見上げた桜井の目は、視界が暗転する瞬間に10秒も経っていなかった時計を捉えた。

 

『!?』

 

全員の視界がブラックアウトし、慣性制御が切れたのか、無重力特有の浮遊感を感じる。

席に座らず突っ立っていた古代は思わず姿勢を崩したが、『まるで何が起きたのか分からない』という表情を浮かべる。

 

よく見れば、中央の自動航法装置の光も消えている。

 

「メインフレーム、反応ロスト」

 

「やられたか……」

 

「予備電源、スイッチオン」

 

赤色灯が再び点灯し、壁面のディスプレイが光る。左を見やると、郷田の睨む火器管制のディスプレイは全てホワイトノイズがかかっており、唯一まともな表示がされているのは右の木下のディスプレイのみだった。

 

「再起動シーケンス、リストのA01から開始」

 

「真田さん、何が起きたんですか?」

 

「メインフレームに対する電子攻撃だ」

 

「正確にはパルス解析でタイミングパルスに合わせて偽情報を大量に送り込まれました。DoS攻撃に近いものです。……シーケンスリストB1855でダウン。再試行、……B0130でダウン。依然として干渉を受けている模様」

 

キーボードを忙しなく叩きながら真田さんの言葉を補足する木下。

しかし、その声の冷静さとは裏腹に、メインフレームはダウンしたまま再起動を受け付けない。

 

「I/Oシステムをカットの後、サブコントローラにマニュアル入力。古代、強行するぞ」

 

強い視線を古代へ送る真田さん。頷いた古代を見ると、木下へ指示する。

 

「カウント2,1,0」

 

ゼロを数えると同時に、木下の手と真田さんの手が左へ90°回る。鍵を差し込んでメインフレームのI/Oシステムをカットする手順だった。

 

「I/Oシステムのダウンを確認、続いて、サブコントローラ起動します」

 

「中西、ECM起動、妨害電波発振用意。手動制御にて敵電波の妨害開始」

 

「りょ、了解!」

 

「サブコントローラ、マニュアルで起動を確認。マニュアルオペレーションで入力作業開始」

 

「先の解析で絞り込んだ範囲でいい。データを頼む」

 

「了解、精度は±4.4%」

 

「最終的な微調整は、間隔数値と周波数を変化させながら、重力干渉の実測値で探って確定する」

 

「小林、徳川!いつでもワープに入れるように備えろ!」

 

「了解!」

 

「全艦に達する。これより、強行ワープでの脱出を行う。総員、衝撃に備え!」

 

「残り2分15秒!」

 

表示が復活したカウンターを見上げる桜井が声を上げる。

 

「副長!」

 

木下が真田さんに声をかける。

 

「落ち着け、試行時間は5秒残せる」

 

「5秒って……」

 

「0やマイナスじゃないんだ」

 

「残り120秒!」

 


 

「何をやっているんだ……」

 

赤色の非常灯が天井から、青白いモニターが正面から照らす、艦隊司令部。

白色彗星内部の、滅びの方舟の中から飛び出したIFF信号が、依然としてそこに留まっている様子を見て、西本はつぶやきを零す。

 

「ヤマトより入電!『ワレ、重力干渉ニヨリワープ離脱困難。実施中作業ガ終了シ次第離脱スル。射撃ハ予定通リ実施サレタシ』です!」

「作業の情報が添付されてます。モニターCに表示」

 

「発射まで50秒!」

「陽動、最終次作戦へ移行。月面基地、精密誘導弾撃ち方始め」

 

ディスプレイが月面を映し、白煙を吐きながら飛び上がる誘導弾を捉える。密集したサイロから次々と打ち上げられる弾頭は鈍い輝きを放ちながら、白色彗星の逆光により黒い点の群れとなって昇っていく。

 

カメラから見て奥側から始まった発射は、次々と撃たれるうちに手前側に寄り、最後にはカメラの視界が発射の白煙に完全に覆われる。

 

「ECC、充電値は予定値へ」

「最終安全装置解除」

「第1900番までの最終バルブを開放、最終次超高圧タキオン収束解放システムへ」

「撃鉄起こせ」

「撃鉄作動、射撃待機点へ」

「最終次超高圧タキオン収束解放システム、13基全ての最終弁に起動電力注入開始」

 

ディスプレイのY砲態勢表示が白地に黒文字だった『待機』から、赤地に白文字の『火器実装』に切り替わる。

スケルトンで構造が表示されているディスプレイの、撃鉄に当たる部分が動作して固定される。

 

「射撃態勢、待機から火器実装へ」

「銃身冷却、0.005K(ケルビン)から0.001Kへ」

「重力ゆらぎ、収束率は予定範囲内」

「射角最終修正、弾道全要素の入力、弾道演算の結果を反映」

 

モニターに表示された太陽系の縮小モデルで、太陽風、地球磁場、宇宙放射線、エリス公転の転向力、太陽公転の転向力、真空ゆらぎ、重力、全ての要素がまとめて演算され、色違いの矢印になって可視化表示される。

 

「発射まで、残り10秒!」

 

「撃鉄、安全ピン解除!」

「照準固定!」

「銃身冷却終了」

「電磁シールド作動、輻射防御」

「誘導弾弾着、重力傾斜は0を維持」

 

「残り5秒!4、……3、……2、……1、……0!」

 

その時、エリス基地からの中継映像が白い光に包まれる。




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