モニターのエリス基地からの中継映像が輝き、一瞬赤色が司令部を照らしたのち、そのまま輝度が上がるにつれ彩度が薄らぎ、最後には真っ白な、所詮『白トビ』の画面になる。
「着弾まで5秒!」
「ヤマトは!?」
「白色彗星内部のIFF信号途絶!……今ワープした模様。重力干渉波を検出」
「だんちゃーく、今ッ!」
「観測カメラ、遮光シールド作動」
地球軌道上から捉えた映像を映すモニターが、一瞬白トビしたのち、真っ黒な影となった白色彗星を貫く赤い筋を映す。
「白色彗星に直撃した模様!」
「地球防護フィールドに衝撃波、来ます」
「電磁干渉。通信回復まで120秒」
カメラからの中継映像が途切れ、映像の右上隅に『LIVE』を重ねて表示していたモニターは、一瞬ブラックアウトしてから録画映像の再生に戻り、LIVE表示が消える。
AIが映像をデータに変換していく様子が、再生映像に更に重ねられる。
戦果算出中のコンピュータは沈黙を貫き、外部情報の入ってこない司令部は、ある意味この宇宙の中にありながら、最も遠い場所となった。
「地上定点観測地点より、有線での映像が入りました。主モニターに回します」
ケーブルの接続状況が悪いのか、電磁干渉か、はたまた永く使われていなかった為に有線設備が劣化していたのか、カメラが映した映像は酷く粗いもので、蒼白い空が紅く輝く様子しか見られなかった。
「カメラ、露光設定切り替えます」
「システム障害、回復まで20秒」
じれったい20秒間の間にも、モニターの四角い
「システム回復!」
「レーダー、IFF信号再受信!」
「作戦図再表示します」
「滅びの方舟、熱源反応無し、再起動の兆候観測されず」
「大気圏上層防護フィールド、出力低下は最大で97.43%でした」
「突入部隊、有人艦隊の消耗率は1.2%、基地・母艦合わせた有人機隊の未帰還は全体の13.5%、無人艦隊損耗率は72%、無人機隊は61.9%です」
「司令部宛の通信を受信、ヤマトからです!」
《こちらヤマト、これより帰還する》
「デブリ回収計画の立案は本田君にすべて引き継ぐ」
『本田』と呼ばれた技術士官が「はっ!」と答えている此処は、平時用の地上司令部施設直下のブリーフィングルーム。
そこでは現状の太陽系の状況が説明され、完全に寸断されたインフラの復旧計画が説明されていた。
更には、ヤマトに新たな特務任務を下すために、防衛軍長官の西村や、古代、その他第1艦橋の主要クルーが出席していた。
押しても引いても容易く砕けない超合金の鉄屑が地球近傍に浮き、非装甲の民間船は地球から離れることすら危険。
大きな塊は輻射シールドを転用した力場で地球への落下を防げるものの、小さなスペースデブリに働く力は小さすぎて大気圏突入阻止には至らず、毎日のように夜空には多くの火球が見られるようになっている。
回収は主としてパトロール艦とその搭載艇により行われ、本体の残骸は今も不休の解体作業が進められている。その光は夜になれば地上からも見えるほど活発に行われ、火球と共に地球の夜空を彩っている。
土星は液体金属状の水素から成る核が周囲へぶちまけられ、今も尚毎秒数千tのペースで昇華を続けており、土星近傍には水素分子が高密度で存在するために宇宙船が近寄れない危険地帯が出来上がっていた。
「本田君は外してもらって構わない。古代、ここからが本題だ」
外へ出るよう促してから、語り出す真田さん。
部外者を排して、ヤマト関係者のみで行われる会議の内容に、古代は身構える。
「滅びの方舟……いや、第一次のガトランティスの侵攻は、2203年にゴレムを起動したことで退けられた。ゴレムの効果範囲は全宇宙だから、この時点でガトランティスは消えていたはずだった。これは分かるな?」
「はい。2202年時と技術レベルの差も見られませんし、それは疑問に思ってましたが、何か理由が?」
「これは仮説段階で、観測データとの照合が必要だが、1つだけ説明できるシナリオがある」
「……何が起きてるんですか?」
「ワープの際、タイミングを逃すとどうなるか知ってるか?」
20年前のイスカンダル航海でのワープテストで聞いたはず、そう意識を記憶へ向けるが、古代は思い出すことができずに黙り込む。その沈黙に取って代わり質問に答えたのは小林だった。
「……時空連続体の空間連続性が破綻することで変調をきたし、宇宙そのものが総転移する。でしたっけ」
「そう。今我々がその状態にあると仮定する」
「!?……それで、何が起こるんですか?」
荒唐無稽な仮定に、思わず一瞬反応が遅れる古代。
「今この宇宙と、2202年の並行宇宙が重ね合わせになっている可能性がある」
「は?」
「もちろん、常に干渉しあっているわけではない。高次元から見た際に、重ね合わせになっているとすると、平常での影響はない」
「じゃあなぜそんな仮定を……」
「ワープを行う際は、次元結節点、つまり、この三次元空間からより高次元に通ずる穴を開け、そこを通る。これにより、
「だとすると……」
「あぁ、白色彗星は向こうの宇宙でのワープの際に、何かの条件を満たし、こちらの宇宙へやってきた」
「なら、向こうの宇宙にはもう……」
「残党の一部は残っているだろうが、ガトランティスは消えている筈。その理屈になる」
「じゃあ、我々への長距離航海の特務任務というのは……」
その古代の言葉に、全員の視線が西本の唯一身へ注がれる。
「無論、仮定で動くわけにはいかない。真田君に話を聞いた昨年末から、波動実験艦ムサシと実験艦銀河のの再就役をもって高次元レベルでの観測を進めていた。ガトランティス侵攻で計画に大きな遅延が発生したが、現在最終シーケンスを実施している。そろそろそのデータが到着するはずだ」
「もし、仮説が正しかった場合は?」
「ヤマトには、
「分かりました」
「失礼します」
扉が叩かれ、先程席を外した本田がタブレット端末を持って、再び入ってくる。
「計測データが届きました」
「結果は?」
「仮説の現実性は99.87%でした。念のため真田本部長にも確認してもらおうかと」
そう言いながら、本田が真田さんにタブレットを手渡す。液晶画面を指ではじいてスクロールして一頻り確認した真田さんは、一言『うむ』と発して、続きを話す。
「問題ない。この数値ならば計測の誤差範囲内で、ほぼ理論値通りだ」
「ってことは……」
「ヤマトは、現時刻をもって第3001艦隊旗艦の任を解き、特務探査艦として、並行宇宙探査へ向かえ」
『了解!』
艦橋上構の頂上、3本のミニマストの直下の艦長室。地下ドックで整備を進めるヤマトから空は見えないが、窓のシャッターは開いている。背もたれに体重を全て預けながら、物思いに耽る古代。
「古代、入っていいか?」
扉越しに真田さんの声が響く。そういえばさっきの解散時に「話すことがある」と言われていたんだった。
「はい、どうぞ。……それで、話というのは?」
「森君……古代雪のことだ」
「雪が……」
「宇宙の総転移の原因のミスワープ、これがそもそもどこで起きたのかが問題だったのだが、ちょうど、第2次移民船団が襲撃を受けた頃に起きたらしい」
「……それで?」
「強行ワープで切り抜けた護衛艦が15隻、アマールにあったのは見たか?」
「えぇ、雪のスーパーアンドロメダ級も」
「基本的に、被弾していても艦内にいさえすれば、次元共鳴を回避し、乗員の死体が残ったままワープアウトするはずだ。しかし、彼女の艦は、大部分の乗員が行方不明のまま現れた」
「ということは、その時にワープシステムに機能不全が発生していたと?」
「そうだとすれば、それにより宇宙の総転移が発生していたと考えて矛盾はない」
「そのワープ中に宇宙の重ね合わせが発生したとなると……」
「特異的な相互干渉により、質量保存則が破れ、対称的に
「こんな話を自分にするってことは……」
「あぁ、今作戦は私が主導で進めさせてもらった。もちろん、古代雪以下の
「……感謝します」
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