もうちょっとだけ冥王星で戦うんじゃ
「通信網に電波障害が発生!通信妨害です!本部との通信が途絶!」
モニターに映し出されていたレーダー画面が一部を除いてホワイトノイズが掛かった状態になる。レーダーサイトとの通信も遮られ、情報が入ってこなくなったのだ。
「レーダーに障害も発生!ジャミングです!」
「光学探知機に切り替え!敵が来るぞ!重力振受動探知機も作動させろ!各レーダーサイトからの情報は有線に切り替えろ!」
レーダー画面が一瞬ブラックアウトし、再び光が灯る。レーダー、光学探知機、重力振受動探知機の3種の情報が総合され、可視化されて表示されている。
「重力振を探知!数は200を超えて尚も増加中!3,500を超えました!」
重力振を表す白い波紋が大量にモニターに現れ、密集して真っ白になる。一部が敵味方不明を表す黄色い点に覆い隠され、直ぐにその黄色が雪面の様に白い部分を
「第二戦隊・第三戦隊はすぐさま抜錨!全力迎撃!第一戦隊も出る!」
基地内の全域に退避命令が伝わる。基地要員を収容して離脱するのは巡洋艦隊の役目だ。離脱し、持てるだけのありったけの情報を司令部へ届ける事も立派な作戦行動だ。特に通信が途絶した現状では重要な役目で、地球の命運が掛かっているといっても過言ではない。先遣艦として1隻だけワープで離脱するよう命令は出している。あとは巡洋艦隊が基地要員を収容し、離脱するまで戦線を押さえ続けるのが我々の役目だ。
「思ったよりも早かったな……」
ケビンは、脳内で情報を整理しつつそう呟いたという。
◆◇◆◇◆◇◆
「状況は!?」
地球連邦防衛軍の中央司令部、司令部区画1番地に建つ情報処理センターの地下にある中央作戦室では、突如として連絡が途絶えた冥王星基地に、混乱していた。西本が叫ぶが、恐慌状態に陥った基地要員のざわめきによって掻き消され、伝わったのはほんの一部だけだった。しかし、何とか聞き取ったオペレータが叫ぶ。
「冥王星基地との通信途絶!一番近い受動探知センターからの情報によると、重力振が冥王星沖にて同時多発的に発生!冥王星基地はアラートを発したまま沈黙している模様!」
『戦闘情報収集中』の文字が画面に点滅し、緊迫感が漂う。思わずざわめきは静まり返り、場には沈黙のみが残っている。
「第三遊撃艦隊に命令!打撃第317、318、319戦隊を急行させろ!情報収集を優先し、冥王星艦隊と合流した場合は、即座に後退の援護!離脱が不可能と判断した場合は迎撃戦に徹するよう発令!」
「はい!」
西本の指示で、オペレータがキーボードを叩く。再び活気を取り戻した司令部だったが、直後に伝わってきた1つの通信の内容によって、司令部にガトランティス兵が入ってきたかのような沈黙と混乱に襲われた。
離脱に成功した1隻の巡洋艦からの、『ワレ冥王星ヨリ撤退中。敵数ハ約4千。冥王星艦隊本隊ハ現在防戦中ナリ』の暗号通信である。戦時用標準暗号コードで送られてきた内容に、全員の思考が停止したように思われた。
《こちら第三遊撃艦隊、打撃第317戦隊。命令の変更を要請する。我々はこれより、撤退中の冥王星先遣艦の元へ向かい、援護しつつ帰投する。要請の受諾は可能か?》
打撃第317戦隊の司令からより現実的な案が示される。西本が応答した。
「こちら地球連邦防衛軍、中央司令部。貴官の要請を受諾する。冥王星先遣艦を援護し、地球圏への撤退を護衛せよ」
作戦計画が変更され、護衛隊となった強行偵察隊が移動を始める。即座に小ワープで帰投中の先遣艦へ向かう。想定よりも遥かに早い襲来に、パターンごとの完全な対応計画が策定されていない。即座に対応できなかったのがその証拠だ。
「機動艦隊より偵察機隊を送り込む。ワープブースターを利用しての強行偵察だ」
《こちら第一機動艦隊。命令を受け取った。これよりコスモパルサー偵察機隊を12機送り込む。それで構わないな》
「戦術計画は全て貴官の選択へ任せる。幸運を」
《了解した。これより実行に移す》
◆◇◆◇◆◇◆
ワープブースターを備えたコスモパルサーが、橙色の炎を引きながら一直線に飛んでゆき、特徴的なワープ時の波紋を残しながら消えてゆく。それをアークツルス級改装戦闘空母のアルナイル艦橋から、ブリッジ要員が見つめていた。主翼の上側には自衛用にミサイル。下部の兵装搭載部分には偵察用のTARP(戦術偵察ポッド)システムが吊り下げられ、その機体の後ろには機体の3倍も大きなワープブースターが接続されている。
◆◇◆◇◆◇◆
《こちら3番機。隊長、冥王星の右上!》
「あぁ、分かってる!TARPS作動!」
コスモパルサー隊から見て冥王星の右上で、激しく緑や青の光が飛び交い、時折遥かに太い、青い帯が濃緑の有象無象へ突き刺さり、拡散して死の彼岸花を咲かせている。その周りでは絶えず爆発が繰り返されて、弾幕の光が揺らぐ。
「艦隊損耗率22%を突破しました!D級3隻が後退を要請し《右舷第二デッキに被弾!応急処置に入ります!》…う防壁、被弾経始厚72%まで低下!」
被弾が艦を揺すり、幾度もの衝撃が艦橋を襲う。艦橋に橙の光が窓から飛び込み、直後に足元から大きな振動が身体の芯を崩そうと言わんばかりに突き上げながら左右に揺さぶる。波動防壁に直撃した何発もの砲弾が被弾経始厚を削ってゆく。
それでも尚主砲は敵を睨み、有象無象を焼き払わんと青い筋を吐き出す。カラクルム級に直撃した砲弾が正面装甲を叩き割り、一撃にして轟沈せしめる。さらに過貫通して後方の敵艦にもダメージを与える。しかしその出血を上回る早さで、ワープアウトしてきた艦が隊列を詰めて一瞬にしてその穴は塞がる。
「チィ!ラチが空かない!次から次へとまるでイタチごっこだ!しかもジリジリ増えてる!」
「総数は4,000を突破!平均で毎分42のペースで更に増加中!」
叫ぶケビンに、観測担当のクルーが返す。
「後列部隊、波動砲隊形に入ります!エネルギー充填開始!」
後列のスーパーアンドロメダ級がエネルギー充填を始め、乱れ撃ちしていた主砲が黙り込み、艦首の二連の砲口には微かに青白い粒が発生する。
薄くなった弾幕に、カラクルム級が果敢に切り込んでくるが、艦橋に直撃弾を受け数隻が一度に爆沈する。後続を庇う様に主砲は更に連射速度を上げて動きまわる。
格納式対空兵装が唸りを上げ、赤い筋をありとあらゆる方向へ撒き散らす。
見渡す限りの
刹那、後方のスーパーアンドロメダ級の波動砲口から、耐えきれないとばかりに青い帯が弾け飛び、迫り来るカラクルム級に向けて一直線に突き進んでゆく。カラクルム級の群れの中で、死の彼岸花が幾つも花弁を開き、デスゾーンを広げて、爆発という赤い血で染め上げてゆく。
「しっかし、まだゴミみたいにうようよしていやがる!」
ケビンの叫びとタイミングを合わせる様に、主砲から再び砲弾が吐き出され始める。
ここまでの戦いで、冥王星艦隊は数を減らしながらギリギリで防衛線を保っている。当初策定されていた防衛線からは、幾度となく後退を繰り返し、第7防衛ラインまで後退している。基地要員の退避完了は20分後と予想。収容中で身動きの取れない巡洋艦隊を護らねばならない。
しかし、現在までおよそ3〜4分で1本ずつ防衛線を後退している。あとおおよそ5〜6本後退せねばならないが、残りは第8、第9と、絶対防衛ライン、最終防衛ラインの4本。そこから先は基地に直接砲撃が届く。
スーパーアンドロメダ級の拡散波動砲で3,200まで数は減らしたが、こちらの損耗も激しく戦線を押し返すだけの余力は無い。1〜2本分の不足を補うには至らない。
冥王星沖での
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